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内部化とアウトソーシングに関する意思決定ならびにマネジメントの研究 : 航空会社の経営戦略と整備部門の事例から

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(1)内部化とアウトソーシングに関する意思決定ならびに マネジメントの研究 ──航空会社の経営戦略と整備部門の事例から── 黒 木 英 昭 . 1.はじめに. こうした問題に対し,Coase(1937)に端を 発し,Williamson(1975)が定式化した取引コ. 近年の競争戦略では, 「選択と集中」により,. ストによる企業の境界に関する研究以降,内. 特定の領域を中核的な能力として戦略的に選. 部化においては資源ベースの競争戦略の観点. 択・内部化 し 経営資源 を 集中 す る 一方 で,そ. (Barney, 2002)や,コアコンピタンス(Hamel. の他の領域のアウトソーシングが拡大してい. and Prahalad, 1994)の 観点 か ら,ま た ア ウ. る.アウトソーシングによる他者能力の活用. トソーシングにおいては,そのメリットとデ. は,家電 な ど の 製造業,ICT 産業 や 人事,経. メリットの考察,特にガバナンスの問題,具. 理など多様な産業で展開されている(島田・原. 体的 な 導入方法 を 中心 と し た 研究(例 え ば,. 田,1998)ほか,価値創造のための戦略的アウ. Domberger, 1998; Bragg, 1998)が存在する.. トソーシングへの展開も重要視されている(島. しかし,これら取引コスト,内部資源,ガバ. 田,1995;西口,2000;山倉,2001,2007) .. ナンスなどの概念をどのように適用・考慮し. 反面,アウトソーシングによって所有する競. て,境界設定をどのように考えるかという問題. 争優位の源泉が縮小したり,委託先への依存や. については,近年においても,なお理論研究や. 情報流出などのデメリットも挙げられている. 製造業を中心に事例研究が重ねられている(例. (島田・原田,1998;根来,2005) .更に,実際. えば,Argyres, 1996; Leiblein and Miller, 2003;. の企業活動では,内部化した液晶パネル製造技. Jacobides and Billinger, 2006)状況である.研. 術の価値が他者の追従によりコモディティー化. 究対象として非製造業を扱った研究は少ないこ. し,業績が低迷する薄型テレビ事業の事例や,. とを含めて,更に事例研究の展開と蓄積が必要. 製造を委託したアウトソーシー企業に開発・設. であると考えられる. . 計能力まで学ばれ,業界ポジションや交渉パ. Santos and Eisenhardt( 2005, p. 504)も,こ. ワーが 逆転 し た ノート PC 産業(川上,2012). うした境界設定のプロセスに関する研究が,境. の事例が挙げられる.これらの事例では,内部. 界設定の因果関係メカニズムを明らかにし,複. 化やアウトソーシングのマネジメントの問題に. 雑で革新的な組織の境界に関する理解を深め. 加え,そもそもの内部化とアウトソーシングの. ることに繋がると述べている.内部化とアウト. 選択に関する意思決定,すなわち企業の境界設. ソーシングに関する組織の形態が多様化した現. 定に関する問題が存在していると考えられる.. 在,なぜ,いかに境界を設定するかということ.

(2) 34. (34). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 1・2 号(2014 年 8 月) エンジン・部品. 航空会社 整備部門. 部品. エンジン メーカー. サプライヤ. 機体重整備 サプライヤ Heavy Maint. 機体 メーカー (組立て). 機 体. 装備品整備 Component  Maint.. 運航整備 Line Maint.. サプライヤ エンジン整備 Engine Maint.. 部品 MRO 市場 (OEM/航空会社/専門会社). 部品. 3rdパーティ 部品会社. 部品・MROサービス 部品・MROサービス. 部品・MROサービス 製造バリューチェーン. 機体重整備 サプライヤ Heavy Maint. 装備品整備 Component  Maint.. 運航整備 Line  Maint.. エンジン整備 Engine Maint.. 整備バリューチェーン. 注)‌図中の矢印は部品の流れ(破線),部品と MRO サービス(実線)の流れを示す 出所:筆者作成. 図 1 航空機整備のバリューチェーンとステークホルダー. は,伝統的な問題であると共に新しい問題でも. 式・非公式な制度環境が,整備部門の内部化と. あり,本稿の基本的な問題意識でもある.. アウトソーシングの意思決定にも相当の影響を. 更に本稿では,制度環境による影響を考慮す. 及ぼしていることが考えられる.. る.組織が環境に埋め込まれたオープンシステ. 本稿では,このような問題意識のもと,組織. ムである以上,競争環境に対応した経済合理性. の 境界設定 に 関 す る 理論的考察 を 行った う え. や競争優位に繋がる資源蓄積の観点に加え,制. で,競争環境と制度環境の影響が大きいと考え. 度環境からの影響や制約を受けることが考えら. られる航空会社の整備部門を対象に,複数の事. れる. こうした競争環境と制度環境をも勘案し,. 例に基づく比較事例研究を行う.. 境界設定問題についてより深い分析を試みる. ここまでに述べた問題意識から,本稿では,. 2.研究の目的と対象組織. 研究対象に,競争環境と制度環境が顕著な産業. 本稿の目的は,航空会社の整備部門が,厳し. として航空輸送産業,いわゆる航空業界を選択. い競争環境と安全安心の維持という制度環境に. する.航空会社は,近年厳しい競争環境に晒さ. 埋め込まれ影響を受けつつ,内部化とアウト. れているが,事故や不安全事象の及ぼす社会的. ソーシングそれぞれで,どのような価値創造を. 影響が大きく,安全安心の確保が事業基盤であ. 意図して組織の境界の意思決定を行い,マネジ. り社会的責任となっている.また,そのなかで. メントし,あるいはこれを動態的に変化させて. も航空機の安全性・信頼性を維持する整備部門. いるか,を明らかにすることにある.. については,その能力や活動に関し行政の規制. ここで本稿の研究対象である航空会社の整備. が比較的強い. 事故や不安全事象が発生すると,. 部門と,関係する各組織について述べる.. 社会的な非難やブランドの棄損など事業基盤や. 航空輸送産業における航空機整備のバリュー. 企業の存続にも影響を及ぼすため,こうした公. チェーン の 概念 を 図 1 に 示 す.こ こ で は,両.

(3) 内部化とアウトソーシングに関する意思決定ならびにマネジメントの研究(黒木). 者の密接な関係から,航空機製造に関するバ. (35). 35. 3.理論的考察. リューチェーンと整備に関するバリューチェー ンを統合して示している.まず,前者は,開発,. 3―1 はじめに. 設計,製造,ア フ ターマーケット の サ ポート. 内部化とアウトソーシングの問題は,「make. から構成されており,これを数社の航空機メー. or buy」の 問題 で あ り,企業 が そ の 境界 を ど. カーが焦点組織となり,同じく数社のエンジン. こに引くのかという境界設定の問題でもある. メーカー,数百もの構造部品やシステム構成部. (武石,1999,p. 12).ま た,境界設定 の 理論的. 品のサプライヤと分業している.次に,航空機. 視点に関しては Santos and Eisenhardt(2005). 整備のバリューチェーンについて述べる. まず,. が 4 つの概念を論じている.第 1 に取引コスト. 航 空 機 の 整 備 は MRO( Maintenance Repair. 理論に基づく効率性の境界,第 2 に他者への依. Overhaul)とも呼ばれ,機体重整備(定期点検. 存を減少しガバナンスを発揮するためのパワー. や 改修) ,装備品整備(油圧 や 電子機器 な ど の. の境界,第 3 に競争優位性の源泉となる資源を. 整備) ,エンジン整備,そして運航間の故障の. 蓄積するコンピタンスの境界,そして第 4 に組. 修復を中心とした運航整備の 4 つに区分されて. 織の自己認識に依拠したアイデンティティーの. いる.航空会社の整備部門は,これら 4 つの領. 境界である.. 域の整備の一部あるいは全てを内部化している. 本稿では,航空会社の整備部門がステークホ. 場合と,外部の MRO 市場にアウトソーシング. ル ダーと の 関係 の な か で,「make or buy」の. している場合がある.. 意思決定をいかに行うかという問題を明らかに. こ の 外部 の MRO 市場 に は 3 種類 の プ ロ バ. するため,この 4 つの概念のうち,取引コスト. イ ダーが 存在 す る.第一 に,OEM(Original. に基づく効率性,依存関係回避のためのパワー,. Equipment Manufacturer) ,つまりメーカーや. および競争優位の源泉となる資源蓄積の 3 つを. サプライヤである.軍需産業でもあるこれらの. 論理的視点として論じることとする.. 企業は,冷戦終結以降の収入源を求めて MRO. なお,アイデンティティーによる境界は,組. 市場に参入し世界的ネットワークを形成してい. 織の自己認識と行動との一貫性が得られるか否. る.第二に,航空会社の整備部門である.大手. かで決定される(Santos and Eisenhardt, 2005,. の航空会社では,整備施設設備や人員などを生. p. 500)が,本稿では,航空会社の整備部門が,. かして,ビジネスとして他の航空会社から整備. 「Make or Buy」の 意思決定 を,組織 の 自己認. を受託する場合がある.そして第三に,これ以. 識を最優先に行うとは考え難いことから,これ. 外の独立した整備受託専門の会社である.. を積極的に扱わないが,分析のなかでこれが見. 整備部門では,航空機や部品の設計・製造品. 受けられた場合には考察を行うこととする.. 質ならびに自らの整備能力に依存する安全性や. ここで,Santos and Eisenhardt(2005)が提. 信頼性,また部品や労働力の供給価格に依存す. 示した理論的視点のうち,本稿で取り扱う理論. る整備コストをマネジメントするために,どの. 的視点を纏めると表 1 に示す通りとなる.. 領域の整備を内部化するのか,あるいは外部の. 本章の理論的考察では,この 3 つの組織境界. MRO 市場にアウトソーシングするのかを意思. の概念について,先行研究を概観したのち,本. 決定し,委ねた相手との関係を形成していかね. 稿冒頭で述べた,制度に関する理論および組織. ばならない.従って,本稿では,航空会社の整. 間関係論における論点をまとめ,本研究の理論. 備部門と併せて,これらの外部 MRO 市場にお. 的枠組みを提示する.. けるメーカーや整備専門会社など各種企業組織 を対象組織として分析を行う..

(4) 36. 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 1・2 号(2014 年 8 月). (36). 表 1 組織の境界に関する理論的視点 取引の効率性に 基づく境界. パワーの範囲に 基づく境界. コンピタンスに 基づく境界. 組織の概念. 命令・監視・インセンティブに基 依存を減じ,パワーを行使するた 市場における競争優位のため形成 づくガバナンス機構 めに調整された制度 された資源の束. 境界の特徴. 組織内で行う取引に基づく境界. 組織が影響を発揮する領域に基づ 組織が保有する資源による境界 く境界. 中心的な目標. コストの極小化. 自律性. 成長. 分析単位. 取引. 戦略的関係. 資源. 境界設定への動因. 取引コストの極小化によるガバナ 重要な依存や市場パワーの制御を 組織が保有する資源の価値の最大 ンスコストの極小化 通じた,戦略的関係の制御の最大 化 化. 境界マネジメント のツール. 合併 に よ る 階層組織化,ま た は, 合併による所有,または,談合・ 合併による外部資源獲得,または, アウトソーシング契約などの市場 交渉・提携・同盟・友好関係など 開発による内部資源獲得 メカニズム. 独特の視点. 市場か,階層組織か. 所有か,制御か. 保有か,外部展開か. 出所:Santos and Eisenhardt(2005)Table 1 より抜粋し筆者作成. 3―2 組織の境界に関する 3 つの概念. ることをモデル化した.つまり,人間の限定. 3―2―1 取引の効率性に基づく境界設定. 合理性によって,取引の「不確実性や複雑性」. 企業組織の境界に関する古典的な研究とし. と「機会主義」が「情報の偏在」を生み,これ. て,Williamson(1975)によって定式化された. が取引コストに影響することと共に,取引相手. 「取引コスト」の概念に基づく市場と企業組織. の少数性に繋がり,機会主義的な行動を促すこ. の選択に関する理論がある. 市場と企業組織で,. とになるというものである.. 取引コストが低い方が選択され,そこに組織の. 更 に,Williamson は,後年 の 研究 で,取引. 境界ができるという理論である.. コストは取引の文脈上の特性で変化すると指摘. Williamson(1975)は,取引コストが発生す. している(1985, pp. 52─61).すなわち,「資産. る理由について,新古典派経済学の効用最大化. 特殊性」,「不確実性」,取引の「頻度」である.. 説と完全合理性の仮定のうち,完全合理性を非. まず,「資産特殊性」は,取引に対して特殊な. 現実的なものとして,機会主義と限定合理性の. 資産であり,一旦契約すると,機会主義的な行. 仮定を取り入れた(菊澤,2006) .そして実際. 動が,この資産を埋没コスト化するため,ホー. の取引を行う人間の,取引に関する情報の収. ルドアップ問題となる可能性がある.この回避. 集,処理,伝達 の 能力の限界からくる判断の. のために事前調査や契約に関する取引コストが. 限定合理性と,機会主義的な取引でだまされる. 増加すると取引が内部化される.次に, 「不確. リスクを回避する意思が相まって,取引に関わ. 実性」は,限定合理性とは別に,取引相手に関. る事前の調査や契約の吟味,履行の監視など. する情報の不確実性を指している(Williamson,. の取引コストが発生することを明らかにした. 1985, p. 57).つまり,取引相手に対する情報が. (Williamson, 1975,邦訳 p. 14) .. 十分に得られない場合,機会主義的な行動に出. そのうえで,取引コストは,4 つの諸要因,. ることが考えられ,取引コストを高くする要因. 即 ち「人間 の 諸要因」で ある「限定された合. となる.最後に,取引の「頻度」は,繰り返し. 理性」と「機会主義」 ,および「環境の諸要因」. 取引で機会主義的な行動が抑制されるというも. である「不確実性・複雑性」と「少数性」によ. のである..

(5) 内部化とアウトソーシングに関する意思決定ならびにマネジメントの研究(黒木). (37). 37. 表 2 他組織への依存回避の対処と自組織のパワー拡大の方策 他組織への依存回避の対処. ① 依存を吸収・回避する自律化戦略として合併・垂直的統合,部品の内製化など ② 依存を認めた上で協調戦略としての協定締結,包摂,合弁など ③ 上位レベルの第三者機関の働きかけによる政治戦略. 自組織のパワー拡大の方策. ① 他組織が依存する自らの資源の価値を高めること ② 依存する他組織以外の選択肢を増やす(依存の分散) ③ 依存する他組織との関係性を減らす(取引先の分散) ④ 結託の形成により自組織への依存を高める. 出所:山倉(1993, p. 38, pp. 70─71)より筆者作成. こうした市場か企業組織かという二分論に対. れた(山倉,1993).これは組織間関係論にお. し,今井(1982, p. 126)は,両者の間のグレーゾー. ける中核的なパースペクティブの一つとなって. ン,すなわち企業グループ間の取引のような緩. おり,その前提は以下のようなものである.組. やかな企業間関係,具体的には協調,連合,業. 織は,自組織が必要とする資源を保有する他組. 務提携,系列,企業集団などを挙げた.こうし. 織に依存しているため,依存する他者からパ. た中間的な領域が,企業組織と市場に代わる第 3. ワーを行使され自律性を失う懸念が生じる.こ. の選択肢として議論が重ねられている(Milgrom. のため依存しつつも自らの自律性を確保し,他. and Roberts, 1992; 高橋,2000,2006; 菊澤,. 組織への依存を回避しようとする.また逆に,. 2006;伊藤,2008) .. 他組織を自組織の保有する資源に依存させパ. 3―2―2 パワーの範囲に基づく境界設定. ワーを行使することも考えられる.. パワーとは,「他の抵抗を排しても,自らの. 従って,特 に,組織間 で パ ワーに 不均衡 が. 意思を貫き通す能力であり,自らの欲しないこ. 生じた場合に,どのようにこれを取り扱うか. とを他からは課せられない能力」 (山倉,1993). が,組織間関係を分析する上で重要な視点であ. である.つまり,組織がその自律性を維持して,. る.パワーの不均衡に対する対処の方法とし. 他者の抵抗に影響されずに意図したことを実行. て,Pfeffer and Salancik( 1978, pp. 113─182). することと, 他者を制御することを可能にする.. は 支配環境 の 操作 に よ る 組織的依存 の 変更,. 従って,不確実性を減じて自らの成果を高める. す な わ ち 合併 や 垂直統合,ジョイ ン ト・ベ ン. ために行使される.. チャー,役員の派遣などを挙げている.また,. このため,パワーの範囲に基づく組織の境界. Thompson( 1967,邦 訳 pp. 47─50)は,組 織. に関する議論では,組織にとって極めて重要な. は依存する相手に対してパワーを獲得しようと. 外部の力に対する戦略的な制御を最大化する. すること,また,その方策として協働戦略や契. よう,組織の境界を設定すると言われてきた. 約締結あるいは連合形成を挙げている.. (Santos and Eisenhardt, 2005, p. 495) .つまり,. 更に包括的には,山倉により 3 つの対処(1993,. 自組織のパワーが及ぶことが好ましい範囲であ. p. 38)と 4 つの方策(1993, pp. 70─71)が示され. り,外部の影響すなわち依存を極小化したい範. ている.これを纏めると,表 2 に示す通りとなる.. 囲に境界を設定することである.. また,Huxham and Beech(2008)は,パワー. パワーの源泉をどこに求めるかということに. について,表 3 に示す 3 つのパースペクティブ. 関しては,他者からの依存によるものとする. を提示している.他の組織との協調戦略あるい. 資源依存パースペクティブがあり,Thompson. は支援戦略にも,パワーが役割を果たすのであ. (1967,邦訳 pp. 432─47)に よって 言及 さ れ,. る.本稿でもパワーをどのように行使している. Pfeffer and Salancik(1978)によって集大成さ. かという視点で分析を行う..

(6) 38. (38). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 1・2 号(2014 年 8 月). 表 3 組織間パワーの 3 つのパースペクティブ Power over 他の組織を支配するために行使するパワー ・自組織の資源への他組織の依存など Power to. 他の組織との共同成果を得るために協働する パワー ・相互に実行能力を持っていることが必要. Power for. 他の組織との協調を実現するために移譲する パワー ・Power to より更に共同体としての支援. 組み替える必要があると考えられる. 本稿 で は,航空機 の 整備部門 に お け る コ ン ピタンスを分析する視点として Barney(2002) の VRIO フ レーム ワーク に あ る 経済価値,希 少性,模倣困難性,組織の視点と,これを環境 変化に応じていかに動態的に変化させている か,あるいは変化させていないものは何かとい. 出所:‌Huxham and Beech(2008, pp. 560─563)から筆者作成. う視点を考慮する.また,対象とするコンピタ. 3―2―3 コンピタンスに基づく境界設定. 独占的なものではなく,競合各社も同じ性能の. パワーに基づく境界設定の議論でも,保有資. 航空機を使っていることから,先端技術を駆使. 源の価値が,パワーの源泉として有益である. した航空機でも入手だけであれば模倣は容易で. こ と を 述 べ た.ま た,Santos and Eisenhardt. ある.むしろ,こうした先端の技術を使いこな. (2005, p. 497)は,組織は特有の資源の束であ. す能力や不測の事態に対応する能力,あるいは. り,環境にある機会に対し組織の資源が適合す. 効率的・効果的に運用する能力などに焦点を当. るように,動態的に組織の境界が決定されると. てて分析することが適切であると考えられる.. ンスについては,航空会社が使用する航空機は. 述べている. コンピタンスに関し,Barney(2002)の資源. 3―3 本研究の理論的枠組み. ベース理論では,企業がそれぞれ独自の資源を. ここまでの議論を通じて言えることは,取引. 所有していることを前提に,戦略に適合した独. の効率性に基づく境界設定では,中間組織の議. 自の資源を獲得することが競争優位に繋がる. 論に発展してきていること.ならびにパワーに. と し て い る.代表的 な フ レーム ワーク で あ る. よる境界設定は,そもそも組織間関係の問題で. Barney(2002)の VRIO フ レーム ワーク で は,. あり,他組織への資源依存とパワー均衡をどう. 経済価値,希少性,模倣困難性,組織 の 4 つ に. マネジメントするかが主要な課題であること.. 関する問いから,企業組織の持つ資源が強みに. また,コンピタンスによる境界設定は,コンピ. なっているかどうかを判断する要点を示してい. タンスが競争優位の源泉であると同時に,他者. る.. からの依存を受けて他者へのパワーの源泉にも. ま た,Collins and Montgomery(1998)は,. なり,組織間関係を見据えた議論に繋がること. 資源を有形資産,無形資産,組織のケイパビリ. である.こうした議論を踏まえ,更に中間組織. ティに分類し,それぞれ不動産や施設設備,評. に関して議論する.. 判やブランドあるいは技術的知識,そしてこれ. 高 橋( 2000, 2006)は,Thompson( 1967, 邦. らの資産をアウトプットに変換する組織ルーチ. 訳 2012, p. 23)の組織活動のパターンを,テク. ンであるとしている.更に,これら資源の価値. ニカルコアと呼ばれる,組織において開発,改. を決定する要因として,まず顧客デマンド,即. 良されたプログラムを技術的合理性に基づいて. ち顧客ニーズの充足に貢献するものか否か,次. 構成した複雑なシステムであり,これを安定的. いで資源の希少性,そして占有可能性を挙げて. な内部環境である組織内部に置こうとするとい. いる.. う 指摘 と,Barnard(1938),Simon(1947)の. また,冒頭で述べたように,環境にある機会. 組織均衡概念 に お け る 貢献者 contributor・参. が変化することで,求められるコアコンピタン. 加者 participant に企業の外部の投資家や供給. スが変わることもあり,動態的に内部の資源を. 業者,顧客も含めていたことを組み合わせ,企.

(7) 内部化とアウトソーシングに関する意思決定ならびにマネジメントの研究(黒木). (39). 39. 表 4 階層組織,市場,中間組織と境界設定概念 メリット(誘因) 階層組織 (内部化). 1)自律性・ガバナンス 2)資源蓄積(資源の境界) 3)パワーの源泉保持. デメリット(制約) 1)投資効率・収益性(競争圧力) 2)階層組織の弊害(硬直化・非効率性) 3)需要波動への柔軟性. 中間組織. 階層組織と市場のメリットを生かし,デメリットを減少. 市場 (O/S). 1)効率性・収益性 2)資源・能力獲得 3)生産の柔軟性. 1)制度的影響(規制当局 / 社会) 2)アウトソーシングのジレンマ 資源蓄積機会の損失,知識流出 3)ガバナンスの低下(パワーの範囲). 出所:筆者作成 . 業と組織の概念の違いを指摘した.つまり,企. 元論ではなく,第 3 の形態として,その中間組. 業は外部環境から内部環境を隔離する境界であ. 織に注目が集まっている.. り,組織はそれと異質の要素間の結合といった. 従って本稿では,組織の境界設定に関わる 3. システムの概念であるという主張である.そし. つの概念をベースに,取引コストの効率性と市. て,この境界としての企業とシステムとしての. 場か階層組織かの二元論を超えた中間組織とそ. 組織という概念が,前述した今井(1982)の中. の組織間関係,パワーに基づく自律性の確保と. 間組織の概念の定義としても容易であるとして. 他者からのパワーの回避および組織間関係と協. いる(高橋,2006, p. 297) .また,高橋(2006). 調戦略,そして資源の開発と獲得ならびに動態. は,Thompson( 1967, 邦 訳 2012, pp. 43─46). 的変化を理論的枠組みとする.. の主張である,組織が企業の境界を越えて市場. 4.分析の枠組み. の一部を組織化する際に協調戦略が取られるこ と,そして,この協調関係を維持するために相. 4―1 分析の視点. 互に自らの能力を示し,その行使について交換. 理論的考察を踏まえ,航空会社の整備部門が,. 条件を結ぶことを受けて,組織が企業という境. 境界設定の意思決定にあたって,それぞれのメ. 界をはみ出して企業間関係を出現させると指摘. リットとデメリット,中間組織の関係をまとめ. した.. たものを表 4 に示す.. 更 に,伊 藤( 2008)は,Williamson( 1975). ここに掲げたメリットを享受し,デメリット. が市場 と 企業組織 の二分論から転換して,中. を削減するためにどのように意思決定がなされ. 間組織 が 頻繁 に 見受 け ら れ か つ 重要 で あ る. ているか,合理的な意思決定にならない場合に,. (Williamson, 1985)と 考 え て い る こ と や,ハ. 中間組織をどのように形成して組織間関係をマ. イブリッドという中間カテゴリを設けている. ネジメントしているか,を分析視点として設定. (Williamson, 1991)ことから,今井(1982)の. する.. 市場と組織の相互浸透に関する理論の再検討を. また,航空会社は世界的な規制緩和以降,リー. 行い,垂直統合のような公式の制度的取り決め. ン組織の新規航空会社が出現し,この台頭を受. ではなく,非公式な長期的取引関係を継続する. けて,伝統的な航空会社の組織の境界に変化が. ことで,取引コストを低減させることがゲーム. みられる.. 理論によって理解できるとした.. Doganis(2001)は,図 2 のように,航空会社. このように近年では,経済合理性に基づき,. を 3 つのビジネスモデルとして提示している.. 取引コスト理論に沿った市場か企業組織かの二. ここで,伝統的な航空会社モデルとは,まず,.

(8) 40. 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 1・2 号(2014 年 8 月). (40). 図2. 伝統的な航空会社モデル. 航空会社の3つのビジネスモデル. バーチャル航空会社モデル. 航空ビジネスモデル. 各機能を殆ど内部化. 各機能の殆どを市場調達 子会社化し受託ビジネス化 出所:Doganis(2001) 図 8.1 を一部修正し筆者作成 出所:Doganis(2001)図 8.1 を一部修正し筆者作成. 図 2 航空会社の 3 つのビジネスモデル. 戦後の民間航空復興期に創業以来,機能別組織. ワーの源泉として依存を均衡させる.. として各機能の内部化を進めてきた形態.次. 仮説 4)‌航空会社の整備部門は,他組織との協. 調関係を形成し,中間組織のメリット に,バーチャル 航空会社 モ デ図3 ル と 低コスト航空会社整備部門の境界設定 は,内部 に は核となる運航に関する機能しか保有せず,各. を生かして,内部化とアウトソーシン. 機能の多くを外部に委ねているリーン組織の形. グのデメリットを極小化する.. 態.そして航空ビジネスモデルとは,各機能を 分社化して,本体からの業務を委託すると共に. 仮説 1)は,先行研究における境界設定の視. 外部からの受託をビジネスとする形態である.. 点以外にも,組織は,埋め込まれた環境からの. 本稿では,この 3 つのモデルにおける整備部. 期待や要求に対する正当性を考慮することを想. 門を対象に分析し,それぞれの形態によって何. 定して,いかにこれを確保しているかを分析す. が異なるのかということも, 分析の視点とする.. るための仮説である.本稿では,整備部門が安 全安心や,競争環境における効率性やコスト競. 4­―2 仮説の設定. 争力をいかに考慮して境界設定を行っているか. 本稿では,Santos and Eisenhardt(2005, pp.. が分析対象となる.. 503─505)が示した組織の境界に関する理論的. 仮説 2)および仮説 3)については,製造業. 考察や分析視点を踏まえ,以下の仮説を設定す. と比して境界設定に関する研究が少ない航空輸. る.. 送産業において,単に取引の効率のみを考慮し. 注)図中の矢印は部品(破線),部品と MRO サービス(実線)の流れを示す.. 出所:Southwest Annual Report 等から筆者作成. 仮説 1)‌航空会社の整備部門は組織の境界設定. た境界設定ではなく,競争優位やステークホル. に際し,制度環境と競争環境への適合. ダーへのパワーの源泉として独自の資源蓄積を. に関する正当性の確保を考慮する.. 意図した境界設定が行われていることを実証. 仮説 2)‌航空会社の整備部門は,航空機のユー. し,理論の射程を拡大することを意図した仮説. ザーである自組織でしか獲得・蓄積で. である.. きない運航や整備に基づく知識を蓄積. 仮説 4)では,更に,理論的考察で述べた境. し,これを資源として競争優位性の源. 界設定の 3 つの理論を越えた中間組織の概念に. 泉とする.. 関して,航空輸送産業におけるその存在を提示. 仮説 3)‌航空会社の整備部門は,運航や整備に. し,また,どのような形態の中間組織が,いか. 基づき蓄積した固有の情報や知識を,. に形成されているかを明らかにするための仮説. メーカーやサプライヤ,MRO へのパ. である..

(9) 内部化とアウトソーシングに関する意思決定ならびにマネジメントの研究(黒木). (41). 41. 4―3 分析の方法. の事例として,国内大手の A 社の整備部門を. 本稿では,3 つの異なるビジネスモデルの比. 取り上げる.. 較事例研究法を採る.まず,事例研究を採用す る 理由 と し て,Yin(1994, p. 1, p. 30)は,ど のように,なぜ,といった問題に対してケー. 5.‌低コスト航空会社 サウスウエスト航空整 備部門の戦略. ス・スタディが適していることを述べている.. 本節では,図 2 のバーチャル航空会社モデル. これは本稿の問題意識である,なぜ,いかに,. の航空会社として,サウスウエスト航空の整備. 組織はその境界を設定し,マネジメントしてい. 部門を取り上げ,その殆どの機能をアウトソー. るかを明らかにするにも適した方法である.次. シングする戦略の事例を分析する.. に,複数の事例研究を用いる理由として,Yin (1994, pp. 62─70)は,複数 の 比較事例研究 を. 5―1 航空の規制緩和と新規参入. 行うのは追試の論理であると述べている.つ. 今日の世界的な民間航空輸送基盤のはじまり. まり,因果関係を明らかにするための変数の. は,第二次世界大戦後からである.戦争で中断. 統制を考慮し,その他の要因の影響を取り除. した事業の再開と成長のため,各国とも国営あ. くために適切な方法である.また,Glaser and. るいは国の手厚い産業保護のもとで安定的に,. Strauss(1967)も,理論的サンプリング,即ち,. 航空会社は自前で整備や運航を行う能力を企業. 展開したい理論に沿って抽出した事例の比較分. 組織内部に蓄積していった.航空機の大型化に. 析によって経験的一般化や理論の産出が行われ. より庶民の足となった航空輸送は急速に成長を. ることを示している.従って,本稿で扱う 3 つ. 続け,その間,参入規制や運賃規制で守られ巨. のビジネスモデルに関して境界設定の意思決定. 大企業化していく.一方で,当時の航空機の安. に共通解があるのか,あるいは相違は何かを明. 全性や信頼性に関する技術レベルでは,航空事. らかにするのに適していると考えられる.. 故のリスクを回避することが重要な経営課題で. また,本研究の事例の記述に際しては,対象. あり整備部門の能力を高めるために機体重整備. となる組織や組織間の関係に関する文献および. やエンジン整備などの領域も後方統合して,組. 業界誌の記事やニュース,有価証券報告書や各. 織の内部に取り込んでいった.つまり,急速に. 種の統計データ等の資料を用いる.. 成長する航空需要に対応して整備能力を確保す. 次節以降に,3 つの異なるビジネスモデルに. るため,そして安全安心に関する社会的な正当. 関 す る 比較事例分析 を 行 う.ま ず 最初 に,図. 性を確保するために,整備能力を組織の内部に. 2 で示したバーチャル航空会社モデル,即ち,. 蓄積していったのである.. LCC(Low Cost Carrier)あるいは格安航空会. 1970 年代末 か ら,米国 で 航空規制 の 緩和 に. 社として,LCC の嚆矢であり現在でも高い業. 関する政策が始まり,参入規制や運賃規制が撤. 績を維持しているサウスウエスト航空の整備部. 廃され,その潮流は世界に伝播していった.こ. 門の事例を分析する.次いで,LCC の台頭に. の環境変化で,中小の近距離航空会社が数多く. より,図 2 の伝統的な航空会社から,図 2 の航. 市場に参入した.こうした新規参入のスタート. 空ビジネスモデルに変革した航空会社としてル. アップ企業は,大手の航空会社に対抗するため. フトハンザ航空を取り上げ,同社から整備部門. に徹底した低コストでコストリーダーシップ作. が分社化したルフトハンザ・テクニーク社の事. 戦を採った.その中でも今日まで成長を続け,. 例を分析する.最後に,同じく図 2 の伝統的な. 9.11 テロによる航空需要の低迷などの影響で,. 航空会社から,バーチャル航空会社と航空ビジ. 米国の伝統的な航空会社の多くが破たんするな. ネスモデルの中間的な形態に変革した航空会社. かで,高い収益を誇っているサウスウエスト航.

(10) 42. 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 1・2 号(2014 年 8 月). (42). 部品 部品. 低コスト航空会社 整備部門 サプライヤ 機体重整備. エンジン メーカー 機体 メーカー (組立て). サプライヤ. 機 体. 装備品整備. 運航整備 Line Maint.. エンジン整備 サプライヤ. MRO市場 部品. サプライヤ 機体重整備(専門会社) 装備品整備 (OEM). 部品・MROサービス. 運航整備 Line  Maint.. エンジン整備 (OEM) 注)図中の矢印は部品の流れ(破線),部品と MRO サービス(実線)の流れを示す 出所:Southwest Annual Report 等から筆者作成. 図 3 低コスト航空会社整備部門の境界設定. 空を事例にとり,その整備部門の内部化とアウ. 運航間の整備では,安全を維持しつつダイヤ. トソーシングの現状を分析する.. を維持するための判断や,故障原因を探求し速 やかに修復する能力が求められ,それが安全と. 5―2 リーン組織と内部化領域の意思決定. 収益性の確保に比較的重要な役割を果たすため. サウスウエスト航空は,1967 年にテキサス. コア能力として定義していると考えられる.創. 州内の近距離航空会社として,小型ジェット機. 業以来 737 型 1 機種のみを,2012 年度では 110. ボーイ ン グ 737 を 3 機使用 し て 事業 を 開始 し. 万回以上も運航しているため,故障の傾向や対. た.創業者の一人であるケレハー氏のカリスマ. 処など,整備士や技術スタッフの能力や知識レ. 性と,混雑せず,使用料も安い二番手空港間の. ベルも高く保持されていることが推察される.. 接続や手間のかかる乗り継ぎなしなどのユニー クな戦略,徹底した低運賃サービスで順調に成. 5―3 アウトソーシングのマネジメント. 長し,今日,600 機以上の 737 を運航し,業績. では,運航間整備以外のアウトソースしてい. もトップレベルの企業となっている.また,同. る領域はどのようにマネジメントしているので. 社はこれまでに大きな航空事故もなく,定時運. あろうか.まず,機体重整備では,機体メーカー. 航率も全米トップクラスで,整備に関しても安. が MRO ビジネスに進出している例は少なく,. 全安心のブランドを形成している.. またほぼ手作業になる労働集約型重整備では,. では,同社の整備部門は,どのように境界設. 委託先は人件費が比較的安価な途上国の整備専. 定を行っているのであろうか.図 3 にその状況. 門会社にオフォショア・アウトソーシングされ. を示す.運航整備と呼ばれる運航間の点検や故. ることが多い.サウスウェスト航空もエル・サ. 障修復など,その技量や知識蓄積が,定時運航. ルバドルの整備専門会社に委託している.こう. 率などに大きな影響を及ぼす領域のみを内部化. した途上国への委託は,安全安心上の懸念も生. し,その他は MRO 市場にアウトソーシングし. むが,737 型機は約半世紀にわたり 8,000 機以. ていることが分かる.. 上も製造され,低コスト航空会社で多用されて.

(11) 内部化とアウトソーシングに関する意思決定ならびにマネジメントの研究(黒木). (43). 43. いることから市場の整備能力も比較的高く,ま. 備能力の拡大を志向していないため,100%ア. た比較的シンプルな構造・システムであること. ウトソーシングし,その委託先は OEM という. からこうした意思決定がされていると考えられ. 能力面で心配のない相手にする戦略を採ってい. る.また,こうした整備専門会社は,米国連邦. ると推察される.. 航空局から整備事業者としての認定を取得する ことが義務付けられており,監査でも能力維持. 5―4 メーカーやサプライヤとの協調的関係. が担保されているため,安全安心の正当性も確. また,サウスウエスト航空は,創業以来,機. 保されている.. 体 は ボーイ ン グ の 737 型,エ ン ジ ン は GE 社. では,エンジンや装備品の整備に関してはど. 製,装備品も同じサプライヤから供給を受けて. うであろうか.定時運航率に影響を及ぼす航空. おり,一旦機種を選定すればロックインされる. 機全体の信頼性は,ほぼエンジンやシステムの. 可能性がある状況において,長期間にわたるコ. 装備品の信頼性で決まる.なぜなら,航空機は. ミットメントで協調関係を形成している. . システムの一部が故障しても安全に飛行を継続. またエンジンメーカーや装備品サプライヤへ. できるように,二重三重の冗長性を持たせて設. の整備委託契約についても,互恵性のある契約. 計されているが,二重三重のシステムであるが. を結んでいる.これは,MCPH(Maintenance. 故に,単一システムと個々の装備品の信頼性が. Cost Per Hour)契約と呼ばれ,個々のエンジ. 同じであれば,故障の発生率は増えてしまうた. ンや装備品毎に修理費用を清算するのではな. めである(黒木,2007) .. く,どれだけ故障し部品を交換しようとも,使. また,整備コストに関しても,一般に装備品. 用した時間に応じて整備費用を支払うものであ. とエンジンの整備コストが整備費の 6 割以上を. る.使用時間あたりの単価は,予想されるエン. 占めている(IATA, 2013) .つまり安全安心と. ジンの部品費や修理・交換に必要になる人件. コストの両面に重要な領域を,全てアウトソー. 費,施設設備の減価償却など多岐にわたるコス. シングしていることになる.では同社の整備. ト計算のもと決定されている.この契約により,. 部門は,いかにこれらエンジンや装備品をア. メーカー側は,設計・修理の品質を上げ故障が. ウトソーシングしているのかと言えば,OEM. 減るほど利益が出ることになり,こうした品質. ( Original Equipment Manufacturer)の MRO. 向上へのインセンティブが働く.一方,航空会. 部門に委託している.つまり,独立系の MRO. 社の整備部門にとっても,信頼性が上がること. よりも,設計を熟知し部品供給面でもメリット. で機材稼働や定時運航率の向上による増収が期. のある OEM にアウトソースすることで,アウ. 待でき,また事業計画に応じ年間の総飛行時間. トソーシングの品質面での正当性を保持してい. は決まるので,エンジンの整備に関するコスト. るわけである.. が不確実性無く決定され,予算や利益計画が立. サウスウエスト航空のように 600 機もの機体. てやすいメリットがある.. を運航していれば,こうした整備を内部化する. こうした合理的な契約や長期のコミットメン. ことで,取引の効率性でも市場を上回ることは. トにより,取引コスト理論を超えた,内部化と. 考えられる.それにも関わらず,内部化しない. 市場の中間形態ともいえる協調関係を形成して. のは,取引の効率性よりも,戦略上の理由であ. いるのである.. ろう.つまり,これらの整備を行うための施設. ここまで,サウスウエスト航空整備部門の戦. 設備や人員を保有するためには相当の投資が必. 略を分析したが,伝統的な航空会社も,その組. 要になるが,サウスウエスト航空の成長戦略で. 織の境界を変化させている.以降で,分社化し. は,事業規模の拡大に資源を集中しており,整. 整備受託ビジネスを行っている整備部門と,内.

(12) 44. (44). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 1・2 号(2014 年 8 月). 部化とアウトソースのハイブリッド型整備部門. ムにより,短期的コスト抑制や根本的な構造. の事例を挙げて分析する.. 改革などを含む 131 のプロジェクトが実行さ. 6.‌伝統的な航空会社から整備部門が分社化し たルフトハンザ・テクニークの戦略. れ,1994 年までに 8,400 名の人員削減,賃金凍 結,航空機の削減,不採算路線からの撤退など の施策によって,10 億ドルの支出削減を実現. 本節では,図 2 の伝統的な航空会社の整備部. し,僅か 3 年後の 1994 年には 3 億マルクの黒. 門が分社化するとともに,極端に内部化を進. 字を達成するまでに回復している(Bruch and. め,他航空会社からの整備受託ビジネスを行っ. Sattleberger, 2001a, 2001b).. ている事例について分析する.. 1993 年 7 月,CEO の Jurgen Weber 氏 は, ICT や 機内食,乗員訓練,整備 の 各部門 を 分. 6―1 ‌ルフトハンザ航空の生い立ちと整備部門 の分社化. 社化し,ルフトハンザ航空自体を持ち株会社化 する構造改革を提示した.これにより整備部門. 第二次世界大戦後,敗戦国ドイツの民間航空. は 100%出資子会社ルフトハンザ・テクニーク. 輸送は,連合国占領下の日本と同様,自国企業. として独立する.. による航空輸送が禁止された.1950 年代にな. なお,ルフトハンザ・グループは,次々と構. ると,西ドイツに自国の民間航空輸送再開のた. 造改革プログラムを実行する一方で,オースト. め国営航空会社を再建する動きが始まる.1953. リア航空やスイス航空などを傘下に収め,今日. 年 1 月には,半官半民の国策会社である Luftag. で は,約 600 機 を 使用 し,従業員数約 11 万 7. が設立され,4 機のコンベア 340 型機を使用し. 千名,売上高約 3 億ユーロを超える巨大な航空. て運航を開始した.1954 年には,社名を今日. グループに成長している.. のルフトハンザ・ドイツ航空に改称した. 1961 年には,ジェット旅客機を導入し,1964 年には創業来初めての黒字化を達成.1970 年代. 6―2 ‌ルフトハンザ・テクニークの MRO 市場 進出戦略. には大型機を導入し大量高速輸送時代の幕が開. ルフトハンザ・テクニーク社(以下 LHT)は,. け,順調な成長を続けた.また,1982 年時点の. 1994 年に整備部門がスピンオフした 100%出資. ルフトハンザ航空の株式の 80%は西ドイツ政. の子会社である.LHT グループとして,世界. 府が保有し,路線や運賃などに関する産業保護. 中に 53 社の子会社を持つ MRO グループを形. 政策と半官半民の安定的な経営が維持されてい. 成している.その顧客は,ルフトハンザ・ドイ. た.こうして高品質な航空会社として定評はあ. ツ 航空 と グ ループ 航空会社 は も ち ろ ん,世界. るが,官僚的縦割りの組織構造や意思決定プロ. 中の航空会社約 700 社に及ぶ.同社の Annual. セス,利益率の低い収益構造が慢性化していた.. Report 2013 によれば,2012 年のグループ全体. 1991 年,大きな経営危機がルフトハンザ航. の 従業員数 は 19,927 名,営業収入 は 約 42 億€. 空を襲う.湾岸戦争による急激な需要の低迷で. (約 6 千億円),営業利益は 4.6 億€(約 650 億円). ある.4.26 億マルクの赤字(当時の為替レート. に上る.営業収入と営業利益の推移を図 4 に示す.. 約 71 円/DEM で約 300 億円)を出し,翌年も. ルフトハンザ・ドイツ航空グループの利益変動. 3.91 億マルクの赤字を重ね創業以来の危機と. に対し,LHT は利益を確保していることが分. なった.同年,整備担当 COO であった Jurgen. かる.また,整備部門を分社化し整備ビジネス. Weber 氏が CEO に選ばれ,数々のコスト削減. に進出した LHT の境界設定を,図 5 に示す.. 施策の取り組みを開始した.. また,Annual Report 2013 から LHT の収入. 「Program 93」と呼ばれる構造改革プログラ. の内訳を見ると,ルフトハンザ・ドイツ航空グ.

(13) 図5. 社の境界設定. 整備ビジネスに進出した航空会社の境界設定. 出所:Lufthansa および Lufthansa Technik Annual Report 2012 より筆者作成. Annual Report 2012 より筆者作成. 内部化とアウトソーシングに関する意思決定ならびにマネジメントの研究(黒木). (45). 45. 図4 ルフトハンザ・ドイツ航空(LH)とLHTの業績対比. 出所:Lufthansa および Lufthansa Technik Annual Report 2012 より筆者作成. Annual Report 2012 より筆者作成. 図4 ルフトハンザ・ドイツ航空(LH)とLHTの業績対比. H)とLHTの業績対比 2012 より筆者作成. 図4 ルフトハンザ・ドイツ航空(LH)とLHTの業績対比. 図 4 ルフトハンザ・ドイツ航空(LH)と LHT の業績対比. H)とLHTの業績対比. 出所:Lufthansa および Lufthansa Technik Annual Report 2012Annual より筆者作成 出所:Lufthansa および Lufthansa Technik Report. ルフトハンザ・テクニーク エンジン メーカー 機体. 機 体. ルフトハンザ・ドイツ航空. 図5 整備ビジネスに進出した航空会社の境界設定 メーカー サプライヤ. ルフトハンザ・テクニーク(整備子会社). (組立て). 機体重整備受託. サプライヤ. 部品 装備品整備受託. 部品. 運航整備 Line Maint.. エンジン整備受託. MRO市場. 航空会社 700社. 注)図中の矢印は部品の流れ(破線)を示す 出所:Lufthanza Technik Annual Report 2013 を参照し筆者作成. 図 5 整備ビジネスに進出した航空会社の境界設定. 注)図中の矢印は部品(破線)の流れを示す. 成している.46 カ国の航空当局から整備事業 ループ以外の,他の航空会社からの整備受託に 出所:Lufthanza Technik Annual Report 2013 を参照し筆者作成. よる収入が 62%もの比率を占めている.これ. 認定を取得し安全安心への正当性も保持してい. に よって 施設設備 や 人件費等 の 固定費 を 回収. る.第二にコスト面では,独立系の整備専門会. し,親会社の収支に貢献している.. 社に比較して委託単価は安くないものの,予備. このように MRO 市場で多くの顧客を得てい. 部品貸借契約,即ち,故障した部品の修理期間. る LHT の整備の能力を示す指標として,QCD. 中にルフトハンザ航空の予備部品を貸借できる. ( quality, cost, delivery) : 品 質, コ ス ト, 配. 契約を結ぶことで自社保有在庫の削減によるコ. 送・納期の 3 つの視点から評価する.第一に品. スト低減を可能にし,技術管理など自社エンジ. 質面では,ルフトハンザ航空の長年にわたる安. ニアの保有を必要とする業務の受託を含めたソ. 全性の高さや,年間約 90 万便を,安全かつ高. リューション型サービスで,総合的なコスト削. い信頼性に維持し,定評ある品質ブランドを形. 減に貢献している.更に,第三に配送・納期面.

(14) 46. (46). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 1・2 号(2014 年 8 月). 表 5 ルフトハンザ・テクニークの部品調達戦略 Phase─Ⅰ:コスト削減プログラム(Cost Cutting Program) 1996 年に掲げたコストを年間 4% 以上削減する短期的コスト削減施策.航空機メーカーとサプライヤーに価格交渉を行い 1999 年に実現. Phase─Ⅱ:調達プロセスに対するコスト・ベネフィット・アプローチ(Cost Benefit Approach to Purchase Process) COO(cost of ownership)の視点を取り入れ,他航空会社との間で Parts Pool(相互貸借契約による在庫削減)や,メーカー と交渉 On-Site Support 体制(航空会社にメーカー倉庫を設置し必要時に購入する契約で在庫削減)を構築. Phase─Ⅲ:サプライ・チェーンの構築(Developing the Supply Chain) MRO とサプライヤーの協働関係を構築する戦略.LHT が受託した整備によって生れる部品需要と時期をサプライヤーに提供 し,JIT(Just in Time)の生産を可能とし,相互に不要な在庫や資材を保有せずにコストを削減する. 出所:Rissiek, J. & Kressel, J.(2004)から筆者作成. では,世界各地の整備施設とルフトハンザ航空. 大な開発費を要するエンジン部品ではその傾向. グループのロジスティックを活用し,世界中の. が大きい.そこで通常は廃棄していた部品の再. 航空会社からの受託を可能にしている.. 生修理を開発したり,リバース・エンジニアリ ングによって同等品を製造することで大幅な調. 6―3 ‌内部化 し た 能力・パ ワーに 基 づ く メー カー,サプライヤとの協調関係 . 達コスト削減が可能になる. LHT は,欧州/ドイツの航空当局から,整備. こうしてルフトハンザ航空グループの整備を. 事業認定以外 に 設計認証,製造認証 も 取得 し,. 内部化すると共に,積極的に MRO 市場で他の. ハンブルクにある整備施設で,上述したような. 航空会社から整備受託をすることで,どのよう. エンジン部品や装備品の構成部品の自社修理開. なメリットを得ているのかを分析する.. 発 や 自社製造開発 を 行って い る.こ れ に よ り. LHT は,ルフトハンザ・ドイツ航空グルー. メーカーから購入する場合の半分強のコストで. プのみならず,多くの航空会社からの受託を受. これらの部品を調達して,整備コスト削減を可. け,莫大な需要を手にし,メーカーにとって重. 能にしている.また,これらの部品の安全性や. 要な大口顧客となっている.このため,部品調. 信頼性についても,ルフトハンザ・ドイツ航空. 達において有利な交渉パワーを有している.戦. が採用して実績を積んでいることから,不安な. 略調達担当部長 の Jorg Rissiek 氏 ら に よ れ ば. く受け入れられ,航空会社グループの MRO で. (Rissiek, J. and Kressel, J., 2004) ,表 5 に 示 す. ある強みを生かした戦略となっている.更に,. 調達戦略が採られている.. この自社修理・製造体制により,部品製造メー. 更に,部品コスト削減に関するもう一つの戦. カーへの依存関係で決定される部品価格に関し. 略は,メーカーやサプライヤへの依存を低減さ. て,メーカーへの資源依存を低減させ交渉力を. せ,価格交渉力を向上させる「自社修理開発」戦. 高めている.. 略 で あ る.整備 は,メーカー・マ ニュア ル に. ここまでに述べた,LHT の整備受託ビジネ. 従って修理することで安全基準を満足すること. スへの進出戦略を纏める.まず,競争環境への. が原則である.しかし,メーカーにとっては,. 正当性は,受託事業による収益と親会社の整備. 補修部品の販売も重要な収入源であり(山崎,. コスト上の貢献により保持している.また,安. 2013) ,補修部品の売り上げを落とす再生性・. 全安心への正当性についても,内部化した高い. 網羅性の高い修理方法を積極的にマニュアルに. 整備能力で保持している.. 設定しない傾向がある.修理限界を越えて廃棄. 境界設定の意思決定に関しては,分社化して. されれば,新しい部品の需要が生れるからであ. 自らが市場に出つつ,100%子会社という中間. る.特に,特殊かつ高額な材料や製造方法,莫. 組織となっている.親会社の運航を担うことで.

(15) 内部化とアウトソーシングに関する意思決定ならびにマネジメントの研究(黒木). (47). 47. 80 68.4. 70. 59.5 11.9. 10億 USD. 60 50 40 30 20 10 0. 42.2 14.1. 37.8 36.1 37.1 38.3 38.9 12. 10.7 11.6 11.5. 10. 40.9 8.6. 17.1 11.5 10.4 10.5 10.1 10.7 13.5. 45.2 45.7 9.6. 9.9. 18.8 18.5. 42.3. 46.9 8.7. 8.7 18. 49.5 9.9 8.7. 21.6 22.4. 7.4. 6.9. 6.7. 6.9. 7.2. 7.4. 7.9. 8.7. 9. 7.8. 8.6. 9.2. 8.5. 8.2. 8.5. 8.9. 8. 7.3. 8.1. 8.3. 7.8. 8. 9.5. 27.7. 31.6. 11.3 13.4. 8.9 10.6 11.5. 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2017 2022 運航整備. 装備品整備. エンジン整備. 機体重整備. 注:棒グラフの下から運航,装備品,エンジンの各整備,機体重整備を示す 2012 年までは実績値,2017 年以降は予測値 出所:IATA 2013 Fig. 6 より引用. 図 6 MRO 市場の需要実績と予測. 蓄積した運航整備や部品整備能力などをコア能. 産業保護下 で 安定的 に 成長 し,1980 年代以降. 力として,MRO 市場の競争原理に晒されつつ. の規制緩和政策を受け国際線にも進出し,順調. 受託を行って,親会社に貢献している.また,. な成長を遂げてきた.国際的な航空の自由化や. これにより生まれた購買パワーでメーカーなど. LCC の台頭を受けて,更に競争力を高めるべ. との協調関係を形成している.. く,内部化とアウトソーシングのバランスに関. とはいえ,継続的に大規模な顧客を獲得する. する変革を進めている.. には,MRO 市場における競争力を高めるため の莫大な設備や人的投資を継続する必要があ. 7―1 アウトソーシングの拡大傾向. り, どの整備部門でも真似ができる訳ではない.. スタートアップの航空会社では,運航間の整. そこで次に内部化とアウトソーシングのハイブ. 備を内部化し他の機体重整備やエンジン・装備. リッド型整備部門の事例を述べる.. 品整備はアウトソーシングすることが多い.こ. 7.‌伝統的な航空会社 A 社整備部門のハイブリッ ド戦略. れは事業規模の大きさに対し,高額投資が必要 とされ,投資効率も低いため市場調達の方が取 引コスト面で合理的だからである.. 前節では,LCC の台頭を受けて伝統的な航. しかし,近年は,創業以来,各整備領域を内. 空会社が極端に内部化し,親会社と他社からの. 部化してきた伝統的な航空会社の整備部門も,. 受託ビジネスに変革した事例を取り扱った.本. アウトソーシングを拡大している.これは,新. 節では,同じ伝統的な航空会社の整備部門が,. 規参入会社の需要を求めてメーカーやサプライ. 内部化とアウトソーシングのハイブリッド戦略. ヤがアフターマーケットに進出したり,整備事. をとっている事例として,国内大手 A 社の事. 業者の整備能力認定などの安全安心を確保する. 例を取り上げる.A 社は,かつての国策航空. 国による制度が充実し,MRO 市場が拡大して. 会社 B 社 と 並 ぶ 民間航空会社 と し て,戦後 の. きたことと(図 6),厳しい競争環境と燃料費.

(16) 48. 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 1・2 号(2014 年 8 月). (48). 表 6 A社整備部門における境界設定とアウトソーシングのマネジメント 内部化領域. 運航 整備. 機体 重整備. ・ほぼ 100% ・一部海外空港をアウトソーシング. アウトソーシングの マネジメント ・‌運航間 で の 故障 に 応 じ た,運航可 ・委託先能力審査 否判断,故障探求,修理など非定例 ・‌自社ノウハウを反映したマニュア 的な整備への迅速な対応を可能に ルの貸与 する技量と技術的知識の蓄積 ・ベテラン整備士の駐在 ・整備管理組織との連携 ・監査 内部化の意義. ・‌腐食 や 疲労 な ど の 損傷 の 点検・修 ・委託先能力審査 ・新型式導入当初 100% ・‌経験と知識蓄積 に 応 じ 徐々に ア ウ 復に時間を要し,稼働率に影響. ・‌自社ノウハウを反映したマニュア ルの貸与 トソーシング ・‌早期 に 不具合傾向 を 掴 み,点検 プ ・平均で 1/3 生産量を内部化 ログラムの改善や補強改修などを ・‌ベ テ ラ ン 整備士 の スーパーバ イ ザーを派遣指導 行う経験と技術的知識の蓄積 ・領収検査体制 ・監査. ・‌導入当初 100% 内部化,その後技術 ・‌内部のタービン翼など劣化による損 蓄積に応じアウトソーシング 傷が安全性や整備費に多大な影響 ・大型機エンジンは契約で内部化 ・‌早期 に 不具合予兆 を 発見 す る 点検 エンジン ・小型機エンジンは MRO 市場を活用 プログラムの確立やコストマネジ 整備 メントに関する経験と技術知識の 蓄積. ・委託先能力審査 ・‌自社ノウハウを反映したマニュア ルの貸与 ・領収検査体制 ・‌修理内容 の 確認 に よ る 信頼性 や 整 備コストの適切性確保 ・監査. ・‌導入当初,品目毎 に 先端技術 の 把 ・‌運航阻害の 7 割を占める装備品の信 握,信頼性 や 整備 コ ス ト へ の 影響 頼性が,収入や顧客の信頼に直結 を勘案し内部化 ・‌最先端技術 の 導入 と 信頼性 リ ス ク ・‌品目毎の信頼性 や 整備 コ ス ト 実績 に関する経験と技術的知識の蓄積 が低い装備品を内部化に変更 ・‌整備コストへの影響が大きい品目 に つ い て,修理開発 や 設計変更 な どの改善. ・委託先能力審査 ・‌自社ノウハウを反映したマニュア ルの貸与 ・‌ベ テ ラ ン 整備士 の スーパーバ イ ザー派遣指導 ・‌修理内容 の 確認 に よ る 信頼性 や 整 備コストの適切性確保 ・監査. 装備品 整備. 出所:筆者作成. の高騰により,整備費削減の圧力が高まってい. 合の運航可否の判断や故障探求や修理など,重. るためと考えられる.. 要かつ非定例的な整備であり,経験に基づく現. A 社についても同様で,内部化する領域を. 場整備士の技量,統計的な故障の監視や原因把. 厳選しつつ, アウトソーシングを有効に活用し,. 握,ノウハウの蓄積が必要な領域と考えられて. また,適切にマネジメントして安全安心とコス. いるためである. ト競争力の両立を図ることが重要な戦略となっ. 次 に,機体重整備 で あ る が,新型式導入当. てきている.. 初は 100%内部化し,経験や技術知識の蓄積に 応 じ て,人件費 が 比較的低廉 な 中国 や ア ジ ア. 7―2 境界設定の背景とマネジメント. の MRO にアウトソーシングを拡大する方法を. ここで,これまでの事例でも述べた,整備の. とっている.内部化の理由は,腐食や疲労など. 各領域,即ち,運航整備,機体重整備,エンジ. の構造損傷が発生すると修理に時間がかかるた. ン整備,装備品整備それぞれの境界設定と,そ. め高額な機体の稼働率に影響すること.また,. の背景となる内部化の意義,アウトソーシング. 安全性に影響を及ぼす構造損傷の予兆が発見さ. のマネジメントについて,A社の状況をまとめ. れると,点検や補強改修が期限を決めて法制化. ると表 6 の通りとなる.. されることが多く,対応が遅れると同型機全体. まず,運航整備では,一部の海外空港を除き,. の運航が維持できなくなる可能性があるため,. ほぼ内部化している.理由は故障が発生した場. 自らこれらの兆候を把握し対応する能力の蓄積.

(17) 内部化とアウトソーシングに関する意思決定ならびにマネジメントの研究(黒木) 部品 部品. (49). 49. 航空会社 整備部門(ハイブリッド型) サプライヤ 機体重整備. エンジン メーカー 機体 メーカー (組立て). サプライヤ. 協調 関係 機体. 運航整備 Line Maint.. 装備品整備 エンジン整備. サプライヤ 協調関係. 部品. MRO市場. サプライヤ 機体重整備 装備品整備. 部品・MROサービス. 運航整備 Line  Maint.. エンジン整備. 注)‌図中の矢印は部品の流れ(破線),部品と MRO サービス(実線)の流れを示す 出所:筆者作成. 図 7 ハイブリッドな整備部門の境界設定. が重要であり,アウトソーシングのマネジメン. 生む.従って,当初 100%内部化して整備プロ. トにも必須の能力となっているためと考えられ. グラムの最適化に関する技術知識の蓄積の場と. る.特に,A 社では,より性能的にも進化した. し,そ の 後,経験 と 知識蓄積 の 状況 を 把握 し. 新型機を最初の顧客,即ち,ローンチ・カスタ. つつ海外 MRO などに委託していく.また,大. マーとして導入することが多い.例えば,ボー. 型機のエンジンでは部品コストが莫大になる. イング 787 型のように機体構造の殆どにカーボ. た め,購買 パ ワーと 価格交渉力 を 自社 に 維持. ン繊維を採用されている場合など,その運用・. す る 観点 か ら,MCBH(Material Cost By the. 整備のノウハウは市場に存在しておらず,最新. Hour)契約で,部品代をエンジン使用時間に応. の性能を享受する一方で,整備のパイオニアと. じ定額化するものの,整備は内部化している.. して自ら運用・整備の能力を蓄積していく必要. これは低コスト航空会社の事例で述べた MCPH. がある.また,787 以外のこれまで導入した大. から人件費を除いたもので,部品コストを管理. 型機においても,世界的にも高頻度運航してい. しつつ経験や技術蓄積を内部化するハイブリッ. る日本独特の環境から,こうした疲労・劣化な. ドな仕組みである.. どの損傷が世界で最初に発生する可能性が高. 最後に,装備品整備では,品目毎に先端技術. く,全体の整備のうち一定量を内部化して,自. の程度,運航の信頼性への影響度,設備投資の. ら損傷傾向を早期に把握し,運用・整備の能力. 大きさ,整備コストへの影響などを勘案し内部. を維持することが重要であった.. 化する領域を決定.その後の運航における信頼. また,エンジン整備では,タービン翼などが. 性や整備コストの状況などを勘案して,安定し. 過酷な温度環境で使用されるが,その劣化・損. た場合には,内部化からアウトソースへ切り替. 傷は安全性に影響するうえ,損傷による修理費. え,アウトソース品目が悪化してきた場合に. も数億円以上と高額である.このため,実際の. は,内部化に切り替えるなどの品目の入れ替え. オーバーホール経験に基づく使用時間制限や点. を行っている.こうしたハイブリッドな境界設. 検の設定など,自社で安全性と整備費をマネジ. 定の概念を図 7 に示す.. メントできるプログラムの設定が重要な価値を. ここまでをまとめると,全整備領域を通じて.

(18) 50. (50). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 1・2 号(2014 年 8 月). 内部化の意思決定は,安全性や運航の信頼性,. わってきた.その過程では,新しいアーキテク. 整備コストのマネジメント,そしてアウトソー. チャーを盛り込んだ航空機を世界で最初に運航. シーの品質把握や指導などアウトソーシングの. するための設計への深い理解と,自らの運航. マネジメントに際して,経験や技術知識の蓄積. 経験に基づく詳細設計への意見反映を行ってい. が重要な整備領域や品目については,最初から. る.運航開始後も,駐在したボーイング社やサ. 全てアウトソーシングして他者に任せきるので. プライヤ各社のエンジニアと同居して,数々の. はなく,自らが経験・蓄積をできる場を一定程. 初期故障に対応し,相互に学ぶ経験を得ている.. 度保持するという方針を持っていることが分か. 結果,導入以降 2 年余りを経て,目標とした世. る.. 界トップレベルの定時出発率まで引き上げるこ. その上で,品質やコストが安定し,自らも十. とに成功している.. 分な経験・技術蓄積を積んだものは内部化から. これも,ハイブリッドに内部化した整備領域. アウトソーシングに切り替え,逆の場合は,内. における経験と技術知識の蓄積に基づいて,機. 部化比率を高めたり,品目を内部に戻したりし. 体メーカーやサプライヤとの間に,相互に依存. ている.こうしたハイブリッドで動態的な内部. し共通の利益を追求できる資源やパワーを保持. 化の意思決定とマネジメントを行っている.. していることで可能になる協調的な組織間関係 を形成した事例である.. 7―3 ステークホルダーとの協調関係形成. 更 に,各整備領域 を 委託 す る MRO ア ウ ト. A社の整備部門の内部化の意思決定は,前節. ソーシーとの関係では,例えば,機体重整備や. で述べた通り,航空会社の整備部門として,自. 装備品整備のアウトソーシーに対し,運航経験. らしか獲得することのできない,①航空機運航. に裏打ちされた技術的なアドバイスや,自社整. 時の故障やその対処の経験,そして②整備を通. 備の品質に基づく修理品質への指導などを行っ. じて得られた故障原因,対策としての整備プロ. て,その能力を引き上げることで,提供される. グラム改善や設計改善などの技術情報が蓄積で. 品質を向上させるとともに,アウトソーシー. きる観点, すなわち, 資源蓄積の観点からであっ. 自体の競争力も高まるという互恵的な協調関係. た.. を形成していることが分かる.任せきりにする. これらの技術情報は,航空機を運搬していな. のではなく,自らも経験し学んで,協調関係を. いメーカーやサプライヤでは自ら獲得すること. 形成することでアウトソーシーにこれを移転し. ができず,航空会社の整備部門から経験や技術. て,互恵的関係を形成,単に取引の効率性だけ. 情報を得ることで,航空機の商品価値を高めて. ではない,パワーや資源に基づく中間組織を形. いくことが可能になる.特に,新型式の場合は,. 成しているといえる.. 機体メーカーは,高い信頼性を目標に設定し, 改善能力をもった航空会社整備部門との間で,. 8.比較事例分析を踏まえた考察. 互いの持つ技術情報や能力に相互依存しつつ,. 3 つの事例に関し仮説を踏まえ考察を行う.. 運航の安定や整備コストの適正化と,航空機と. まず,仮説 1 に関しては,表 7 に示す通り,い. いう商品価値の向上を同時に実現していくこと. ずれの組織も,埋め込まれた安全安心の制度環. が,決定的に重要になってきている.. 境と競争環境への適合の正当性確保を考慮した. 例えば,A社では,2012 年 10 月からボーイ. 境界設定の意思決定とマネジメントを行ってい. ング社の最新鋭機 787 の運航を開始したが,そ. た.しかし,組織の境界設定が異なるために,. れに遡ること 6 年前に購入契約を行って以来,. 正当性の確保の方法は異なっている.つまり,. ローン チ カ ス ト マーと し て,787 の 開発 に 関. 一般的に,内部化比率が高いほど安全安心への.

図 2 航空会社の 3 つのビジネスモデル
図 3 低コスト航空会社整備部門の境界設定(42)サプライヤエンジンメーカー機体メーカー(組立て)サプライヤサプライヤ 低コスト航空会社 整備部門 運航整備 Line Maint.機体重整備エンジン整備装備品整備機体部品部品・MROサービス部品サプライヤMRO市場運航整備Line Maint.機体重整備(専門会社)エンジン整備(OEM)装備品整備(OEM)部品
図 4 ルフトハンザ・ドイツ航空(LH)と LHT の業績対比

参照

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