外国文献紹介 Nikolai Harbort著 『詐欺罪における客観的帰属の意義』 (Die Bedeutung der objektiven Zurechnung beim Betrug)
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(2) 146 (588). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). 『詐欺罪における客観的帰属論の意義』 (2010. るように,被欺罔者側に実質的な財産損失が生. 年)7)と題する論稿(以下では「本書」と称する .). じているとはいえないような事案についても,. において,注目すべき考察を行っている.そこ. 実質説や法益関係的錯誤説の多くの論者が,詐. では,客観的帰属論における「被害者の自己答. 欺罪の成立を肯定している15).この点で,「財. 責性」や「許された危険」等の原則を適用して,. 産損失」に よ る 限定化の 意義・内実 が 問 わ れ. 詐欺罪における被害者の保護を体系的に整理す. る16).また,樋口亮介准教授からは,「財産損失」. ることが試みられている.. やこれに関連する「錯誤」の包括的な観点から. これに対して,日本でも,近年,高齢者等を. の限定化には限界のあることが指摘されてい. 標的にした 「振り込め詐欺」をはじめとする 「特. る17).この限りで,詐欺罪の法益論や錯誤論に. 殊詐欺」の事犯が多発しており,詐欺罪の刑事. 留まらず,その構成要件全体の体系的考察が求. 政策的な意義が高まっている.しかし,日独で. められているように思われる.. 8). は,その歴史,文化や社会が大きく異なる .. これに対して,Harbort は,客観的帰属論を. また,何よりも,日本の詐欺罪(246 条)は,ド. 適用して,まさに体系的に統一的な観点から,. イツ法の影響を受けながらも,基本的にはフラ. 詐欺罪の成立範囲を適正に画定することを目指. ンス法に由来する個別財産に対する罪として生. している.もっとも,Harbort は,取引の能力. 成されている.すなわち, ドイツ法とは異なり,. 等の乏しい者がとくに行為者から標的にされ. 個別財産(1 項では「財物」 ,2 項では「財産的. て「被害者」となるような場合には,むしろそ. 利益」)が客体として規定され,その喪失を超. の保護にとって詐欺罪が積極的な役割を果たす. えた全体財産の損害(損失)発生は明文の要件. べきものと考えている.日本の議論の主たる. とはされていない.このように,日独では詐欺. 関心 は,上記 の よ う に,詐欺罪 の 成立範囲 を. 9). 罪をめぐる解釈の基盤も異にする .それゆえ,. いかに限定化しうるかにあり,Harbort の見解. ドイツ刑法における本書の内容が,日本の議論. とは,一見すると対極的ですらある.しかし,. にとって直ちに参考になるわけではない.. Harbort は,被害者 を 一方的 に 保護 す る の で. 実際に,日本の判例及び伝統的な見解は,詐. はなく,同時に取引における安全や社会的相当. 欺罪の規定に忠実に, 「欺かれなかったならば交. 性・通常性(許された危険)等の観点を衡量し. 付しなかったはずの個別財産の移転」があれば,. て,詐欺罪の成立範囲が不当に拡がらないよう. その構成要件該当性(領得)が認められるもの. に配慮もしている.その方法論には,上記の日. 10) と解してきた(形式的個別財産説(形式説) ) .. 本の議論状況にとっても,なお参考に値するも. もっとも,近時では,形式説に対して,詐欺罪. のがあるのではないか.本稿は,このような観. の成立範囲が不当に拡がり,処分者側の財産で. 点から本書を紹介する18).. はなく意思決定の自由が保護されることになる と の 批判11)や,他 の 犯罪 の 防止 や 暴力団排除. Ⅱ.本書における問題意識及び客観的帰属論. 等の社会的法益の保護のために,詐欺罪による. 本書(全 206 頁)の「序文」では,著者の次. 代替処罰を容認するものであるとの批判. 12). が. 向 け ら れ て い る.そ こ で,実質的個別財産説 13). 14). のような問題意識が示されている.すなわち, 学説における詐欺罪構成要件に関する詳細な議. からは,個別. 論は,問題となる諸事例について,ほとんど詐. 財産の喪失を超えた実質的な財産損失の発生を. 欺罪の可罰性を限定化する方向で進められてい. 要求することによって,詐欺罪の成立範囲を適. る.しかし,そこでの限定化が,果して詐欺罪. 正に限定するための理論的努力が重ねられてい. 構成要件の文言と調和するのか.そのような詐. る.しかしながら,齋野彦弥教授が指摘してい. 欺罪の可罰性を限定すべきとの規範的評価は,. (実質説) や法益関係的錯誤説.
(3) 外国文献紹介 Nikolai Harbort 著『詐欺罪における客観的帰属の意義』 (渡辺). 詐欺罪の各構成要件の文言に反する限定解釈に. (589) 147. よるのではなく,客観的帰属論とくに「被害者. Ⅲ.A章「被害者学と客観的帰属」の要約. の共同的答責性」の観点を取り込むことでこそ. 1.被害者が『軽率』であった場合の客観的帰属. 実現すべきである(S. 21f.) .. ⑴ A章(S. 23─87.)では,いわゆる「被害者学」. この問題意識を踏まえて,次の各章で個別の. (Viktimologie)に基づいて,詐欺罪における「欺. 論点ごとに検討がなされる.すなわち,A.「被. 罔行為」や「錯誤」要件の限定化を試みる見解と,. 害者学と客観的帰属」 ,B. 「法または公序良俗. 「自己答責的な自己危殆化」の観点を重視して,. に反する被害者に関する客観的帰属」 ,C. 「被. 客観的帰属論を適用する著者の見解との方法論. 害者に追求された目的失敗に関する客観的帰. 上の異同が論じられる.また,本章では,総論. 属」 ,D. 「訴訟詐欺 に 関 す る 客観的帰属」 ,E.. 的考察も兼ねて,「客観的帰属論」を詐欺罪の. 「三角詐欺 に 関 す る 客観的帰属」 ,F. 「客観的 帰属と『社会的に相当な欺罔行為』の問題」 ,G. 「推断的欺罔に関する客観的帰属」である.. 解釈論に適用することの当否などが検討されて いる.Ⅰ節(S. 23─68.)では,その検討の素材 として,被害者が「軽率」(Leichtgläubigkeit). また,著者は,客観的帰属論につき,その歴. であった場合が取り上げられている.. 史的考察等も踏まえて,次の通説の理解が基礎. ⑵ 具体的には,次の諸事例につき,詐欺罪の. になるとしている.すなわち,具体的な結果に. 成否が検討される.すなわち,①「割賦販売ま. おいて実現している許されないリスクを行為者. たは信用取引」,②「投機的な投資」,③「訪問. が実現した場合にのみ,当該結果はその行為. 販売」,④「迷信 に と ら わ れ た 動機 で の 取引」. 者に帰責されうる.もっとも,許されないリ. である.①はデパートや通信販売業者が,顧客. スクの創出があっても,被害者の自己答責的な. の支払能力を充分に調査することなく,全額の. 自己危殆化があれば行為者への帰責が否定され. 支払能力を欠く顧客に,代金の一部の支払いを. うる.この被害者の自己危殆化や異なる答責領. 受けたのみで商品を交付した場合や,銀行が,. 域による限界づけは,当該犯罪の規範の保護目. 充分な担保と支払能力の調査もなしに,信用を. 的を考慮することで実現される.また,客観的. 付与した場合,②は商品先物取引におけるオプ. 帰属論 は 故意犯及 び 侵害犯 に も 適用可能 で あ. ション売買において,買主が,その後の取引の. ることは一般的に肯定されている.それゆえ,. 展開に応じて別途 100% 以上の手数料の掛かる. 詐欺罪(刑法 263 条)にも適用可能である(S.. 可能性のあることを売主から告げられることな. 37ff.) .. く,代金を支払った場合,③はセールスマンか. なお,客観的帰属論における判断の基準や構. ら,合成繊維のじゅうたんを純毛であると偽ら. 造については,日独においてさまざま見解が示. れて驚くほどの安値で購入した場合や,血圧障. されており,必ずしも一義的ではない.そもそ. 害に効能があるとの虚偽を述べられたのに,こ. も,日本法の解釈として客観的帰属論を一般的. れを鵜呑みにして単なるマッサージ器具を購入. に受け入れるべきか否かについても,議論があ. した場合,④は被害者がオカルト趣味から未来. る .本稿紹介者には,この点について検討を. の予言や魔女を追い払えるといったサービスを. 行う準備はできていないが,本稿の目的は,客. 購入した場合である.. 観的帰属論の当否そのものにあるのではなく,. 著者 に よ れ ば,「被害者学」の 観点 か ら は,. 詐欺罪の成立範囲の画定をめぐる近時のドイツ. ①~③につき,次の理由から,被害者側に自己. の議論の一端として,本書を紹介することにあ. 責任があるとして結論的に詐欺罪の成立を否定. る.. すべきと解されている.すなわち,①では,被. 19). 害者の側で,代金全額の支払いに応じない顧客.
(4) 148 (590). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). が一定数存在し,損失の生じることが想定され. 範囲を限定する方向で)過剰に拡張されて解. ているが,それでも割賦払いまたは信用払いを. 釈 さ れ て お り,目的論的縮減(teleologische. 認めることで利益を拡大することを見込んで,. Reduktion)がなされているものとして批判す. あえて軽率な取引をしている.②では,高度な. る.すなわち,そのような目的論的解釈は,た. 投機的取引に参加する者は,高額の手数料の生. だ 詐欺罪 の 成立範囲 を 縮減 す る た め だ け に,. じるリスクを意識すべきであり,それに関する. 「欺罔」の文言から導かれる可能な意味の限界. 情報を自己責任として充分に取得して,チャン. を 超 え て,さ ら な る 構成要件的要素 を 付加 す. スとリスクとを慎重に計算することが義務づけ. る も の で あって,立法権 に 抵触 す る.著者 に. られる.③では,買主の側で,セールスマンの. よれば,「欺罔」の自然的な言語上の意味から. 述べたことが真実でないかもしれないと認識す. は,簡単に見抜ける嘘でも欺罔行為に当たるこ. べきであり,かつ認識することも可能であるの. とは排斥されず,逆に簡単に見抜くことが困難. で,軽率な取引がなされている.これに対して,. な場合に限定することは,その文言の意味から. ④については,当該被害者の虚弱性が利用され. は許容されない.それゆえ,被害者が軽率な場. ているゆえに,詐欺罪による保護を否定すべき. 合について,欺罔行為を限定することは否定さ. ではないとされている(S. 24ff.) .. れるべきである(S. 29f.).なお,この批判は,. ⑶ 上記の帰結を導くための方法論として,著者. Kindhäuser の見解にも妥当する(S. 32.).. によれば, 「欺罔行為」 (Täuschung)を限定す. ま た,通説 は,詐欺罪 に お け る 虚偽 の「事. る見解(Ellmer, Kindhäuser ら) , (虚偽の) 「事. 実」の対象は「現在もしくは過去の関係または. 実」 (Tatsachen)を限定する見解(Hilgendorf) ,. 状況,出来事」で あって,価値 の 評価 や 意見. または欺罔と錯誤との「因果関係」を限定する. 等は含まないと解している.これとは異なり,. 見解(Naucke)が あ る.著者 は,そ の 各説 の. Hilgendorf は,平均的な教育を受け,取引上の. 当否につき次のように論じる.. 知識のある市民から疑わしいものと評価される. まず,欺罔行為について,通説は, 「人の観. 内容は,虚偽の「事実」には当たらないと主張. 念に影響を与えるもの」すなわち「現実」に関. する.もっとも,その判断に際しては,Ellmer. する誤った観念の惹起行為であって,その作用. が被害者側の重過失の有無を問題にすることを. は「事実」について表示しているあらゆる行為. 支持して,被害者が精神的に劣っているかどう. から生じると解している.これとは異なり,被. か,また年齢その他の観点から被害者の側にと. 害者学の代表的論者である Ellmer は,被害者. くに(疑わしいものと評価することが)困難な. の個人的な能力を考慮しつつ,一定程度の危険. 事情があるか否かも考慮される.しかし,著. 性がある行為のみを, 欺罔行為であると認める.. 者は,この Hilgendorf の見解に対しても,「事. その危険性は, 「錯誤」に陥ったことに重過失. 実」の 文言 の 可能 な 意味 と は 無関係 の 規範的. がなく,当該被害者側を非難しえない場合に認. な検討が行われているとして批判する.例え. められる.また,Kindhäuser は,詐欺罪を被. ば,Hilgendorf の見解によれば,広告チラシに. 害者利用の間接正犯の構造により理由づけした. 記載された完全に誇張された推奨文句は,この. うえ,その成立には,欺罔行為として単なる嘘. チラシが理解力のある人間に渡れば,単なる価. 以上の主帳のなされることが必要であり,それ. 値の評価を示したに過ぎないので,虚偽の「事. は,被害者に対して行為者が真実義務(Recht. 実」には当たらない.しかし,精神的に薄弱な. auf Wahrheit)を 負って い る 場合 に 認 め ら れ. 人間に渡れば,価値の評価にすぎなかったはず. るとする.これに対して,著者は,Ellmer の. の同じ推奨文句が虚偽の「事実」に当たると評. 見解 で は,欺罔行為 の 概念 が(詐欺罪 の 成立. 価される. このような帰結は,「事実」の概念.
(5) 外国文献紹介 Nikolai Harbort 著『詐欺罪における客観的帰属の意義』 (渡辺). (591) 149. の限界づけをあいまいにするもので,その本来. ⅰ)~ⅴ)の疑問が想定されるとする.すなわ. の文言上の理解を超えている.それゆえ, 「事. ち,ⅰ)「刑法各則の問題は刑法総則の原則を. 実」の概念を基準とすることは適切ではない (S.. 用いることでは解決しえないのではないか」 .. 33f.) .. ⅱ)「被害者の過失行為があっても,行為者の. さらに,欺罔行為と錯誤との「因果関係」に. 故意行為の結果への帰属は排斥されないのでは. ついても,通説は,欺罔と錯誤との連関があれ. ないか」.ⅲ)「見え透いた欺罔行為であっても. ば足りると解している.それゆえ,被害者が欺. 『許されない危険』を創出しているのではない. 罔されて,軽率ゆえに錯誤に陥っても,その因. か」.ⅳ)「客観的帰属論が個別の犯罪に応じて. 果関係は必ずしも否定されない.これとは異な. 改変されることになるのではないか」.ⅴ)「詐. り,Naucke は,刑法が詐欺罪の被害者にとっ. 欺罪の成立範囲について,客観的帰属における. て「過剰なサービス」となり, 「陶酔や怠惰の. 『規範の保護目的』を考慮することも,『目的論. 状態であっても,被害者は保護される」ことは. 的縮減』ではないか」.. 回避しなければならず,そのために欺罔行為と. これに対して,著者は,次のように反論する.. 錯誤との間の連関に「相当性」を要求すべきと. まず,ⅰ)に対しては,「客観的帰属論の役割は,. する.その 「相当性」判断は,純粋に客観的に,. 刑法各則における全犯罪について有効な一般的. 包括的な教育を受けた理想上の市民であって. 基準を創設することであって,個別の構成要件. も錯誤を惹起されるか否かを基準としてなされ. の範囲を画定することにあるのではない」と認. る.著者は,この Naucke の見解に対して, 「結. めつつ,「刑法総則における被害者の自己答責. 果の惹起」と「結果の帰属」とを混同するもの. 性という客観的帰属の観点は,被害者の共同責. として批判する.すなわち,現在では, 「因果. 任がその可罰性に影響しうるかどうかの問題と. 関係」は条件関係によって確定され, 「相当性」. して,詐欺罪以外の多くの犯罪についても一般. の判断は客観的帰属の問題として検討されると. 的に取り扱われる」 .それゆえ,その観点を個. 一般的に考えられている.しかも,Hilenkamp. 別の構成要件の解釈の問題として応用すること. も指摘しているように,詐欺罪の因果関係に関. は可能である.. してのみ 「包括的な教育を受けた理想上の市民」. ⅱ)の疑問は,Ellmer から提起されたもので,. を基準として,その相当性を判断することは,. そこではさらに,被害者が軽率であることを理. 相当性の一般的な概念から乖離している.その. 由に客観的帰属論を適用して詐欺罪の成立を否. ような解釈は, 「論理的安定性の法理」 (Gesetz. 定すれば,被害者にとって自身の行為が不利益. der logischen Stabilität)に反する.それゆえ,. なものと評価されて, 「被害者」の扱いが不当. Naucke の 見解 も, 「相当性」に つ い て,目的. に縮小されることになる,とも批判されている.. 論的縮減を意図した許されない解釈となる(S.. これに対して,著者は, 「この場合に行為者へ. 35ff.) .. の結果の帰属を否定することは,被害者の行為. ⑷ 著者 は,上記 の よ う に 各説 を 批判 し た う. にしかるべき地位すなわち当該結果は決して行. え,客観的帰属論の適用を試みる.もっとも,. 為者だけの仕わざではないとの地位を与えるに. Kurth は,すでに,被害者が軽率な場合に,客. すぎない」とする.また,故意犯における客観. 観的帰属論を適用して詐欺罪の成立範囲を限定. 的帰属の範囲では,過失行為を行った被害者側. すべきことを主張している(S. 39ff.) .しかし,. の答責領域を含めた慎重な検討がなされること. この Kurth の見解に対しては,他説から疑問. は,一般的に承認されている.さらに,Ellmer. が提起されている.著者は, その疑問も含めて,. 自身も,上記のように欺罔行為を限定的に解す. 客観的帰属論を適用することに対しては,次の. ることには賛成している.このことが,なぜ被.
(6) 150 (592). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). 害者の扱いが不当に縮小されることにならない. されていないと解されているからであって(後. のか.Ellmer の批判は,自己矛盾である.. 記F章参照),被害者の軽率さを直接に考慮し. ⅲ)に対しては,この疑問は,行為者への帰. ているわけではない.しかし,フランスやイギ. 責を排斥する基準があるのか否か,また法的に. リスなど,他のヨーロッパ諸国では,程度の差. 許されない危険があるか否か,その基準の提示. はあるが,被害者に落ち度があった場合,すな. が重要であることを指摘するに留まる,と反論. わちとくに軽率であった場合には,詐欺罪にお. する.すなわち,仮に,あらゆる欺罔行為が法. ける「欺罔行為」を認めることには消極的であ. 的に「許されない危険」を常に創出していると. る20).そのフランスやイギリスでは,福祉国家. の帰結になるとしても,それは客観的帰属論を. の原理が妥当し,また社会経済的な規制がなさ. 適用すること自体への疑問提起にはなりえな. れてもいる.それゆえ,解釈として,被害者の. い.. 軽率さを考慮して詐欺罪の成立範囲を限定して. ⅳ)の疑問の趣旨は,客観的帰属論の一般的. も,ドイツ基本法が「福祉国家」を謳っている. な概念を詐欺罪構成要件に適合するように特. こととは必ずしも矛盾しない(S. 55f.).. 殊なものへと変化させ,Naucke の見解と同様. 他方で,著者は,社政政策及び刑事政策上の. に「論理的安定性の法理」を欠くことになるの. 観点からの検討として,次のように論じる.被. ではないか,ということにある.これに対して. 害者が軽率であった場合に詐欺罪の成立範囲を. は,例えば規範の保護目的や自己答責性の観点. 限定的に解すると,①とくに軽率な人間が詐欺. など,あらゆる犯罪に妥当する一般的な原則を. 行為者の標的にされる危険が生じる.また,②. 考慮するにすぎないと反論する.もっとも,そ. 被害者の軽率さゆえに行為者の欺罔行為が不可. の一般的な原則には適用範囲の枠があり,それ. 罰になるとすれば,あらゆる人間が潜在的には. との調和を図ることが必要である.規範の保護. 「敵」であるとの雰囲気を社会に醸成すること. 目的を重視する Kurth の見解は,その範囲の. になる.さらに,③詐欺罪の無罪判決が出た場. 枠との調和が充分に認識されていなかった,と. 合には,その被害者は詐欺の被害を受けたのみ. する.. ならず,軽率であったとして物笑いの種になっ. ⅴ) に 対 し て は, 「規 範 の 保 護 目 的」 に. てしまう.この許容しえない帰結を避けるため. 関 す る 一 般 的 な 原則 は,詐欺罪 の み な ら. には,被害者として,とくに刑法上の保護を必. ず,それ以外の全犯罪に妥当する責任の基礎. 要とする構造的な弱者が問題になっているかど. (Haftungsgrundlage)に な る.す な わ ち,全. うかを検討すべきである.例えば, 「割賦販売. 犯罪に共通する一般的な原則を適用するにすぎ. または信用取引」の事例での大手デパートや銀. ないのであるから,詐欺罪の構成要件該当性を. 行側をこの構造上の弱者に当たるとすることは. 判断する際に,規範の保護目的を考慮すること. 適切ではない.その理由は,まず,大手デパー. は,目的論的縮減には当たらない(S. 45─51.) .. トや銀行側は,割賦販売または信用取引を行う. ⑸ さらに,著者は,被害者が軽率であった場. に際して,一定数の顧客はその支払能力がある. 合に,詐欺罪の成立範囲を限定してよいのかに. との仮装をするものと予測している.しかも,. ついて,比較法的考察を行う.著者によれば,. 自ら民事法上の手段を用いて,極めて短期間に. ドイツの判例は,一部の例外を除くと,被害者. 被害回復をなしうると信頼できることにある.. が軽率であったゆえに詐欺罪の成立が否定され. このことは,商品先物取引のような高度に投機. ると は 考 え て い な い.また,通説も, 「誇大」. 的な投資をする者にも妥当する.これらの投資. 広告については,詐欺罪の可罰性を否定するも. 家は,本来,自己の投資にリスクのあることを. のの,それは「重大な」 (虚偽の)事実が主張. よく理解し予測してもいる.そのため,市場で.
(7) 外国文献紹介 Nikolai Harbort 著『詐欺罪における客観的帰属の意義』 (渡辺). (593) 151. 想定される取引の将来の展開や高額な手数料の. 妨げられてしまう.しかし,他方で,流通取引. 生じうることについて,自ら情報を得ることが. では,当事者に,一定のリスクについて最低限. 要求される.しかも,究極的にはなお民事法的. の吟味をすることが要求される.それにもかか. な解決手段が残されているので,刑法的な保護. わらず,例えば,玄関口でセールスマンの極め. は必要ない.訪問販売の事例と迷信にとらわれ. て大胆な約束を信頼する者,行為者の超自然的. た動機で取引をする事例は,上記とは異なる.. な能力を信じる者,未経験でありながらリスク. 前者の事例での「売買のトリック」の多くは,. の高い複雑な取引に参加する者等は,極めて軽. 取引について経験不足の被害者を標的にしてな. 率な取引をしている.これらの者は,取引にお. される.後者の事例でも,被害者が迷信に陥っ. ける最低限必要な吟味すらしていないので,流. ているゆえの弱さにつけこまれている.それゆ. 通取引の円滑な進行の保障を衡量するまでもな. え,これらの被害者には,少なくともある程度. い.それゆえ,このような軽率な取引がなされ. の保護が必要である(S. 56ff.) .. た場合には,詐欺罪の規範の保護目的からすれ. ⑹ 以上のように論じたうえ,いよいよ「客観. ば,行為者に対する帰責を否定するための必要. 的帰属論による基準の応用」として,私見が提. 条件は整っている.. 示される. すなわち, 軽率な被害者が錯誤に陥っ. 著者は,上記のように論じながらも,被害者. たことを行為者に客観的に帰責しうるかどうか. の自己答責的な自己危殆化を認めるためには,. が検討されることになり,とくに「被害者の自. さらに被害者の主観的な要件,すなわち危険を. 己答責性」の観点が重要な役割を果すとされる.. 引き受けるとの認識があると認められなければ. そこで,著者は,まず判例及び学説における「被. ならない,とする.このことを上記 ⑴ の諸事. 害者の自己答責性」についての一般的な理解を. 例に当てはめると,①「割賦販売または信用取. 分析して, 「被害者が自己の行為の危険性を充. 引」では,全顧客の内,一定の割合で支払いの. 分に概観し,それでも自己答責的に行動する場. 不能状態が生じ,それによる損失は自社の法務. 合には,行為者の刑法上の責任が原則的に否定. 部で対応したり,刑事告発をすることでカバー. されるとする点で見解の一致がある」 と論じる.. できる,というような意識的な計算が被害者の. また,それのみならず,個別の犯罪には,固有. 側でなされている.また,②「投機的な取引」. の「規範の保護目的」があることも考慮されて. では,投機的な取引に参加する投資家は,その. いる.この理解は,詐欺罪についても転用しう. 都度の市場の展開に包括的な関心を払い,チャ. る(S. 59─63.) .. ンスとリスクとを相互に正確に計算できる能力. 著者によれば,詐欺罪に固有の「規範の保護. があり,場合によっては高額の手数料が生じう. 目的」は,何よりも個人の財産を保護すること. ることについて一定のリスクのあることを認識. であるが,それに加えて「流通取引における円. してさえいる.それゆえ,①では各顧客の支払. 滑な進行」を保障することにもある.それゆえ,. 能力等について調査をしないこと,②では手数. 客観的帰属論を適用して,詐欺罪の可罰性を限. 料についての情報を取得しないことから,その. 定的に解釈する場合には,その解釈によって流. 取引にリスクのあることは,当該被害者側に基. 通取引を極端に阻害しないことが,客観的に示. 本的に認識されており,あるいは意識的に甘受. されなければならない.例えば,被害者が取引. されていることになる.これとは異なり,③「訪. のリスクについて徹底的に吟味していなければ. 問販売」では,疑ってかかることをしない人間. 詐欺罪の成立を認めないとすれば,取引におい. を意図的に標的にして,欺罔行為に当たるト. て必要以上の吟味をするよう当事者に課すこと. リックが用いられている.そこでは,個別の事. にもなる.それでは,流通取引の円滑な進行は. 案に即して,当該被害者が取引における危険に.
(8) 152 (594). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). 対して必要な認識を実際に有していたかどうか. 被害者についても当てはまる.例えば,被害者. が検討されなければならない.また,④「迷信. 側が,財産処分に応じなければ行為者側から民. にとらわれた動機での取引」では,当該被害者. 事訴訟を起こされるとのリスクを認識して,財. は,迷信にとらわれた結果,疑ってかかること. 産処分に応じざるをえないと考えていた場合で. が完全にできなくさせられているので,自己答. あ る.こ の 場合 の 財産処分 は「分別 あ る 動機」. 責的な自己危殆化があったとすることはできな. に基づいてなされたゆえに,被害者の自己答責. い.. 性は否定され,被害者側に財産処分をさせたこ. 要約すれば,被害者が軽率であった場合に,. とが行為者側に帰責されて,詐欺罪が成立しう. 自己答責的な自己危殆化があったとして,行為. る.. 者側の帰責を否定するためには,まず被害者が 少なくとも軽率な取引をしているとの客観的な. Ⅳ.B 章~ G 章の要約. 事情が認められなければならない.それに加え. B 章以下では,A 章での検討を踏まえたう. て,その被害者の主観を基準として,当該取引. え,各論的な考察がなされている.以下では,. における危険を理由づけるための基本的な視点. その概要を紹介する.. が認識または甘受されている必要がある(S. 63f.) .. B 章「法または公序良俗に反する被害者に関す る客観的帰属」 (S. 88─108.). 2.被害者が「疑念」を抱いていた場合の客観 的帰属 Ⅱ節(S. 69-87.)では,欺罔され錯誤に陥っ. 本章では,被害者側が法や公序良俗に反する 目的から金銭を交付した場合に,なお当該金銭 自体はその目的とは無関係のいわゆる「良貨」. た被害者がなお行為者の主張に疑念を抱くに. (gutes Geld)であるとして,詐欺罪の成立を. 至ったにもかかわらず,最終的に錯誤に基づく. 認めてよいかが検討される.例えば,チョコレー. 財産処分をした場合に,詐欺罪の成立を否定す. トを麻薬であると偽られて売買代金を交付した. べきかが論じられる.. 事例や,行為者側に殺し屋であると詐称され,. 著者によれば,上記の場合に詐欺罪の成立範. これを信じて他人の殺害を依頼して,その代金. 囲 を 限定 す る た め に, 「錯誤」 (Irrtum)の 要. を交付した事例が問題となる.. 件 を 厳格 に 捉 え る 見解(Giehring und Krey,. 著者 に よ れ ば,学説 で は,上記 の 諸事例 に. Amelung, R. Hassemer ら)や 錯 誤 と 処 分 行. つ き,主 と し て い わ ゆ る「法律的・経済的財. 為 と の 因果関係 を 厳格 に 捉 え る 見解(Blei,. 産概念」 (D e r j u r i s t i s c h e - ö k o n o m i s c h e. Krack ら)がある.しかし,著者は,これらの. 21) Vermögensbegriff) の立場から,当該金銭に. 見解についても,詐欺罪の各構成要件要素の文. ついて刑法上保護すべき財産価値があるか否か. 言の可能な意味を超えた目的論的縮減がなされ. が検討されている.しかし,必ずしも結論の一. ている,として批判する.. 致を見てはいない.すなわち,少数説は,交付. そこで,著者は,客観的帰属論を適用して,こ. される金銭自体は被害者が正当に取得したもの. こでも上記 1 ⑹ で見たのと同様に,被害者側の. であるから,刑法上保護に値するとして詐欺罪. 自己答責的な自己危殆化があったか否かを問題. の成立を認める.BGH の判例にも,上記の殺. にすべきとする.ただし,被害者の自己答責性. し屋の事例について,被害者から支払われた金. は,当該被害者が「分別ある動機」 (einsichtiges. 銭について刑法上の要保護性を認めたものがあ. Motiv)に基づいて,自己を危険に晒す行為をし. る(BGH JR2003, 163).こ れ と は 異 な り,多. た場合には否定される.このことは,詐欺罪の. 数説は,法または公序良俗に反する取引である.
(9) 外国文献紹介 Nikolai Harbort 著『詐欺罪における客観的帰属の意義』 (渡辺). (595) 153. がゆえに,当該被害者側には反対給付を請求す. 罔行為は「許される」と評価される.また,法. る民法上の権利がないとして,刑法上も当該金. 的に是認されない目的を追求して金銭を給付し. 銭の保護を否定すべきとする.. た場合,民法上は,その金銭についての返還請. 著者は,上記の見解の当否に先立ち, 「財産」. 求をなしえない.そのような法的リスクのある. (Vermögen)の概念を検討する.まず, 「財産」. ことを認識しながらも,なお当該金銭を行為者. の文言の可能な意味からすると,経済的に価値. に交付したときは,その処分行為は客観的にも. のあるものがこれに当てはまることは疑いな. 軽率な行動なのであり,主観的にも上記のリス. い.また,その経済的価値が個人に帰属してい. クの引受けがあったものと言える.それゆえ,. るとの状態は,民法上承認されることで初めて. 被害者の自己答責性も認められるので,行為者. 適法に実現しうる.それゆえ,個人に「法的に」. 側への帰責が否定される.. 帰属すると認められる経済的価値が「財産」で あると評価される. このことから,上記の事 例では, 当該被害者が適法に取得していた限り,. C章「被害者に追求された目的失敗に関する客 観的帰属」 (S. 109─127.). 当該金銭は間違いなく被害者の「財産」の構成. 本章では,とくに,寄付金の募集者が,虚偽. 要素となる.被害者が財産処分において法や公. の寄付額リストを提示して,「あなたの隣人も. 序良俗に反する目的を追求していることと,そ. 多額の金銭を寄付している」と述べて,これを. の処分客体の財産価値に法的な要保護性を認め. 信じた被害者に多額の金銭を寄付させた事例. ることとは,別の問題である.それゆえ,著者. (以下では「寄付金事例」と称することがある. ). によれば, 「財産」の概念から「良貨」につい. につき,詐欺罪の成立を認めるべきか否かが検. ての要保護性を否定し,上記の事例での処分者. 討される.著者によれば,多数説は,この被害. には全体財産の損害が生じていないと解するこ. 者の「隣人に後れを取りたくない」との目的が. とは, 財産概念に関する目的論的縮減であって,. 社会的に承認されるものではないゆえに,結論. 許されない.しかしながら,例えば,殺人の依. として詐欺罪の可罰性を否定すべきと解してい. 頼のために給付された金銭は刑法上没収の対象. る.具体的には,主として,①欺罔行為または. となり(刑法 74 条 2 項 1 号) ,民法上も返還請. ②財産損害(Vermögensschaden)が欠けると. 求権が否定される (民法 817 条, 同 823 条 2 項) .. 考えられている.. それにもかかわらず,詐欺罪の成立を認めるこ. ①の見解として,例えば,Mitsch 及び Arzt. とは,これらの法的効果の意義を弱めることに. は,そもそも,財産処分をすることで全体財産. なる.それゆえ, むしろ刑事政策的観点からは,. が減少するとの認識が処分者側にある場合に. 詐欺罪の成立を否定すること自体は許容される. は,欺罔行為は否定されるとする.すなわち,. べきである.. 寄付金の交付は一方的な給付であるから,その. 著者は,上記の検討を踏まえたうえ,客観的. 処分者側には上記の認識があったものと認めら. 帰属論を適用した解決を試みる.まず,流通取. れる.そのため, (欺罔行為の内容にかかわら. 引は,法や公序良俗などの秩序に適って実行さ. ず)常に詐欺罪の成立が否定されるのである.. れることを前提としている.しかし,その秩序. また,Merz 及び Graul は,被害者に追求され. に対して誠実な者は,取引において,法や公序. る目的が取引の基礎であった場合にのみ,それ. 良俗に反する目的を追求しない.それゆえ,法. に関する欺罔行為が可罰的になるとする.その. や公序良俗に反する事項についての欺罔行為. 帰結として,隣人を凌駕するために高額の寄付. は,その誠実な者を錯誤に陥れて,財産処分を. をするとの目的は,この取引の基礎であるとは. させることはできない.このことから,当該欺. 言えないため,欺罔行為が否定される.しかし,.
(10) 154 (596). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). 著者は,このいずれの見解に対しても, 「欺罔. それはまさに法的に許されない危険の創出が. 行為」とは,その文言からして「偽りの事実を. あったか否かという客観的帰属論の文脈で論じ. 説明すること」を意味するのであって,それを. られるべきである.. 超える意味を付加して限定化を行うことは目的. なお,著者は,社会政策及び刑事政策上の観. 論的縮減であり,許されない,と批判する.. 点からは,例えば,牧師が教区の寄付への熱意. 他方,② は,い わ ゆる「目的失敗説」 (D i e. を高めるために,寄付金を収集する袋の中に多. Zweckverfehlungslehre)と 呼 ば れ る 通説的見. 額の金銭があると見せかける行為を処罰するこ. 解である .この見解によれば,被害者の交付. とは,不当であるとする.しかし,これとは異. 目的の失敗は,基本的に全体財産の損害を発生. なり,寄付金が募集者の提示する目的のために. させうる.逆に言えば,一方的給付として財産. 役立てられる,との信頼は保護されなければな. 処分がなされた場合にも,その交付の目的が達. らないと論じる.. 成されれば等価の「反対給付」があったものと. 上記の検討を踏まえて,著者は,「寄付金事. して,処分者側の全体財産の損害発生を否定し. 例」につき,客観的帰属論を適用し,ⅰ)行為. うる.しかし,その「目的」は,社会的に承認. 者が法的に許されない危険を創出したか否か,. されたものでなければならない.寄付をする際. ⅱ)被害者に自己答責的な危殆化があったか否. の「隣人に後れを取りたくないとの目的」は,. かが検討されるべきとする.まず,ⅰ)につい. 社会的に承認される価値がないため,その不達. ては,その価値観にかかわらず,当該行為者が. 成は, そもそも全体財産の損害を理由づけない.. とくに正しい行為をしているとは言えない.ま. BGH の判例にも,同様の理解を示すものがあ. た,B章の問題とは異なり,「隣人に後れを取. る(BGH NJW1995, 539) .. りたくない」との動機は,法的に是認されない. これに対して,著者は,次のように論じる.. わけではない.さらに,例えば,「イラクに爆. 処分による全体財産の減少があるにもかかわら. 弾を」という暴力的なスローガンの下で寄付を. ず,処分が単に動機の錯誤に基づいていたから. 募るために,虚偽の寄付額リストを提示する場. といって,なぜ財産損害が否定されるのか.逆. 合,寄付金の使用目的自体が道徳的価値を有さ. に言えば,社会的に承認された目的失敗があっ. ないゆえに,社会的相当性を欠くことになるの. た場合にのみ,処分による財産損害が認められ. か,という問題もある.それゆえ,Herzberg. るのはなぜか.この点について, 「目的失敗説」. の主張する社会的相当性の視点も,決定的な論. からは,充分な説明がなされていない.それゆ. 拠とはなりえない.このことからして,虚偽の. え, 「目的失敗説」は, 「財産損害」の概念から. 寄付額リストを提示する者は,やはり法的に許. 明らかに乖離する解釈をしており,基本法が要. されない危険を創出していると評価せざるをえ. 請する刑法上の構成要件の明確性の原則にも反. ない.これに対して,ⅱ)については,そもそ. する.ここで真に問題とすべきは, 「財産損害」. も寄付のために金銭を交付する行為は,(一方. の発生の有無ではなく,いかなる事情があれば. 的給付となるゆえに)全体財産の損害を自ら確. 被害者の処分の自由を保護してよいかにある.. 実に生じさせるという限りで,客観的には軽率. この点に関して,Herzberg は,利他的で道徳. な行為がなされており,かつ被害者にその損害. 的な価値観から寄付を集めるために虚偽の寄付. 発生についての認識もある.しかしながら,こ. 額リストを提示することは,非難すべきものと. こでは,A 章(Ⅲ 2)で論じたのと同様のこと. は言えず,社会的に相当であるゆえに,詐欺罪. が当てはまる.すなわち,当該寄付(財産処分). の可罰性を否定すべきとしている.しかし,そ. が「分別ある動機」に基づいてなされていれば,. のような社会的相当性の視点は重要であるが,. 被害者の自己答責性は否定される.例えば,被. 22).
(11) 外国文献紹介 Nikolai Harbort 著『詐欺罪における客観的帰属の意義』 (渡辺). (597) 155. 害者が救済団体への寄付と信じて金銭を交付し. ②について,通説は,民事訴訟において法的評. た場合には,この「分別のある動機」に基づく. 価を行うことは裁判官の排他的な使命であっ. 財産処分であったと認められる.それゆえ,行. て,訴訟当事者の主張にのみ依拠してこれを行. 為者が実際には寄付金を私的流用するつもりで. うことは許されないとして,可罰的な「訴訟詐. あったとすれば,被害者の自己答責性は否定さ. 欺」には当たらないと解している.その論拠と. れ,当該財産損害の発生は,行為者側に帰責さ. して,ⅰ) 「事実」概念からアプローチする見解,. れる.これとは異なり, 「隣人に勝りたい」と. ⅱ) 「因果関係」からアプローチする見解,ⅲ). の目的は,当該被害者の主観においてのみ理解. 「主観的構成要件」からアプローチする見解が. 可能であるにすぎず,客観的に見れば合理的で. ある.著者は,これらの見解の当否を次のよう. はない.すなわち, 「分別ある動機」から金銭. に検討する.. の交付がなされたとは言えないので,被害者の. まず,ⅰ)のアプローチとして,判例及び一. 自己答責性は否定されない.それゆえ,当該金. 般的な学説は,単なる価値評価は「事実」には. 銭の交付による全体財産の損害は,被害者側の. 当たらないとする.これは,行為者の主張す. 自己答責的な自己危殆化の結果として,詐欺罪. る「事実」が経験的に検証可能(überprüfbar). の構成要件該当性が否定される.. か否かによって判断される.この見解によれ ば,虚偽の権利を申立てることは,純粋な「法. D章「訴訟詐欺に関する客観的帰属」 (S. 128─. 的見解」であって価値評価に当たるので,「事 実」には含まれない.著者も,一定の事実を基. 144.) 本章では, いわゆる「訴訟詐欺」 (Prozessbetrug). 礎としても,当事者に当該権利が成立している. をめぐる詐欺罪の成否が検討される.なお,民. かどうかは「検証可能」ではないとして,その. 事訴訟法上の裁判官の執行手続等が財産処分行. 結論を支持する.これとは異なり,例えば,行. 為として被害者(敗訴者)側に帰属しうるのか. 為者が自己の法的見解を裏づける裁判例がある. については,次章(E章)で検討される.本章. との虚偽の「法的事実」を述べる場合には, 「事. では,民事訴訟において自らを勝訴させるため. 実」に当たることを否定しえない.この場合に. に,裁判官 に「錯誤」を 惹起 し た 行為 に つ き,. は,当該裁判例があるか否かは検証可能だから. 行為者側の帰責を認めうるかが論点となる.. である.それにもかかわらず,Lackner は,こ. 具体的には,①行為者側が偽造の証拠資料を. の「法的事実」についても,「事実」に当たる. 提出するなどして,その訴訟の相手方から申立. ことを否定するが,著者によれば,それは「事. てられる事実が偽りであると主張する事例及び. 実」の文言の可能な意味を超えた目的論的縮減. ②現在の法制度では成立しないはずの請求権が. である.. 存在すると主張したり,自己の法的主張を裏づ. また,ⅱ)のアプローチは,当該裁判官が職. けるものとして,実際には存在しない法律上の. 務を正当に実行しないゆえに被害者が損害を受. 規範及び裁判例の存在(法的事実)を主張する. けるとして,行為者の欺罔と損害との因果関係. などして,法的評価に対する虚偽の申立てをす. が欠けるとする.しかし,著者は,それは結局. る事例である.①について,通説は,可罰的な. のところ財産損害の発生を阻止すべき答責性の. 「訴訟詐欺」で あ ると認めているが,著者も,. 範囲を論じるものであって,本来的に客観的帰. 訴訟当事者には民事訴訟法上の真実義務(民訴. 属論を適用して検討されるべきであるとする.. 法 138 条)があることから,当該行為は裁判官. これに対して,ⅲ)のアプローチとして,例え. の錯誤惹起を帰責しうる可罰的な欺罔行為に当. ば Lenckner は,当該裁判官は訴訟法上の義務. たるとの見解. に反して行為者に欺かれて行動しており,その. 23). を支持する.これとは異なり,.
(12) 156 (598). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). 前提でのみ生じうる結果に関しては,行為者に. 欺罔による錯誤に基づく処分をした者(処分者). よる行為支配が表現されたものとは言えないと. と,それによって全体財産の損害を被る者(被. して,行為者の故意を否定する.しかし,著者. 害者)とが同一人格でない場合に,この財産処. によれば,学説では,その行為者は具体的に生. 分行為が当該被害者自身のものとして帰属しう. じた結果をそうなるよう望んでいたのであるか. るかが問題となる.具体的には,①例えば宝石. ら,故意を否定するのは誤りである,とするこ. 販売店の店員が買主から提供された紙幣が偽札. とで概ね見解の一致がある.. であることに気づかず,指輪を交付する事例,. 次に,著者は,刑事政策的な考察を加えて,. ②共同駐車場の守衛が各自動車の持主からスペ. 「訴訟詐欺」については,結論として,詐欺罪. アキーを預かっていたところ,行為者から,あ. の成立範囲を限定することは必要であるとす. る自動車の持ち主が自分に車を使用させること. る.一方の訴訟当事者が刑法上答責的な手法を. に同意していると偽られたため,そのキーを交. 用いて,裁判官を自己の虚偽の法的評価に依拠. 付した事例,③賃貸居室の貸主が,その借主の. させ,不当な判決を出させるための道具とする. 留守中に,行為者から,その借主の部屋にある. ことを広く承認して,詐欺罪の成立を広範に認. 物の使用を許されていると偽られて,その居室. めるならば,裁判所の品位が貶められるからで. に立ち入ったうえ,その物を行為者に引き渡し. ある.. た事例である.さらに,④「訴訟詐欺」の事例. そ う し て,著者 は,客観的帰属論 を 適用 し. の内,上記D章の①の事例につき,被害者側を. て,次のような解決を試みる.すなわち,裁判. 敗訴 さ せ た 当該裁判官 に は,そ の 被害者 に 帰. 官が法的評価を下す際に,一方の訴訟当事者か. 属可能な財産処分行為をなしうるかが問題とな. ら主張される法的事実のみを専ら基礎とするこ. る.上述のように,その裁判官への錯誤惹起は,. とは,客観的には極めて軽率な行動である.し. 訴訟当事者(行為者)に真実義務の違反がある. かも,そ の 場合 には,一方の当事者の主張に. ゆえに,行為者側に帰責される.しかし,処分. のみ依拠しているとの危険があるにもかかわ. 行為の帰属が別途問題となる.. ら ず,当該裁判官 に は, ( 「分別 あ る 動機」な. 著者によれば, 「三角詐欺」をめぐっては,主. く)これを引き受けることへの認識もあった. に,ⅰ)陣営説(Die Lagertheorie)と ⅱ)権限. と充分に認められる.また, 「異なる答責領域. 説(Die Befugnistheorie)とが対立している24).. と の 限界 づ け」 (Abgrenzung verschiedener. 判例及び通説は陣営説に立っている.すなわち,. Verantwortungsbereiche)の 観点 か ら も,当. 処分者が被害者の「陣営」にいなければ,当該. 該訴訟において問題となる法理を確定してこれ. 処分行為の被害者への帰属が否定される.とく. を適用することは,民事訴訟法上の管轄からし. に BGH の判例(BGHSt18, 221)及びこれを支. て,裁判官の排他的な役割である( 「我に事実. 持する学説によれば,処分者が当該被害者から. を与えよ,汝に法を与えん」や「裁判所は法を. 単独または共同で財産を所持することを事前に. 知る」の原則).これらのことから,ここでの. 許可されていれば,この「陣営」の関係が認め. 錯誤惹起は,当該行為者ではなく裁判官に帰責. られる.これに対して,権限説は,処分者が被. されて,詐欺罪の可罰性が否定される.. 害者側の陣営にいたか否かではなく,その処分 者が処分権限を与えられていれば,当該処分行. E章「三角詐欺に関する客観的帰属」 (S. 145─ 158.). 為が被害者に帰属されるとする.同説内部では, その「権限」は,処分者自身が主観的に「権限. 本章では,いわゆる「三角詐欺」 (Dreiecksbetrug). があると感じる」ことでは足りないとすること. につき,詐欺罪の成否が検討される.すなわち,. で,見解の一致がある.しかし,「権限」の根.
(13) 外国文献紹介 Nikolai Harbort 著『詐欺罪における客観的帰属の意義』 (渡辺). (599) 157. 拠につき,法律上のものに限られるのか,それ. すぎない.居室の借主が,この一般的な危険を. とも事実上のものでも足りるのかについては,. 受け入れていたからといって,自己危殆化が. 見解が分かれている.. あったとして,居室の貸主の処分行為が被害者. これに対して,著者は,両説を次のように批. に帰属されることにはならない(ただし窃盗罪. 判する.まず, 「陣営説」は, 「陣営」の概念自. の間接正犯が成立する).これに対して,④では,. 体があいまいで説得力を有していない.また,. 当該被害者にも,裁判官が欺罔されて錯誤に陥. そこでいう「所持」が民法の占有概念に依拠す. り,(民事訴訟法上の執行手続等に基づく)処. る限り,上記①の事例では,店員が宝石の占有. 分行為の行われる危険があることは認識されて. 及び「所持」をしているとは言えないので,処. いる.しかし,行為者側からの請求権を理由づ. 分行為の被害者への帰属が否定されることに. ける事実関係が実際には存在していなかったと. なってしまう.さらに,④でも,裁判官が一方. しても,当該被害者はその民事訴訟に応じざる. の訴訟当事者(被害者)側の「陣営」に立って. をえなかったのであるから,自由意思に基づい. いるとは言えないので,やはり処分行為の被害. て,かつその危険について自己答責的に身を晒. 者への帰属が否定される.これらの事例で,詐. したとは言えない.もっとも, 「異なる答責領. 欺罪の成立が否定されるとの結論は不当であ. 域との限界づけ」の観点からは,主権の担い手. る.これとは異なり,確かに,権限説によれば,. (Hoheitsträger)には,処分行為を行う法律上. ①の店員及び④の裁判官には,処分行為をする. の権限が与えられている.その担い手による処. ために必要な法的権限が与えられているので,. 分行為は,被害者自身に帰属されうる.当該裁. 処分行為の被害者への帰属を認めることが可能. 判官には,まさに法律上当該被害者の財産に対. となる.しかし,②及び③の事例については,. する執行権限が与えられているため,その処分. 同説内部でも,処分者に権限があるか否か決着. 行為は被害者に帰属され,詐欺罪が成立する.. がついておらず,これを認める見解もその説得 的な論拠を示せていない. その結果として, 「権 限」の認められる範囲が狭すぎる.. F章「客観的帰属と『社会的に相当な欺罔行為』 の問題」 (S. 159─176.). 上記の検討を踏まえて,著者は,Rengier の. 本章では,取引におけるいわゆる「社会的に. 見解25)を援用しつつ,客観的帰属論を適用して,. 相当な」範囲で欺罔行為が行われた場合につい. 次のように論じる.ここでは,とくに自己答責. て,詐欺罪の成否が論じられる.具体的には,. 的な自己危殆化の観点が重要になる. すなわち,. 商品を購入させるために,①「推奨広告」すな. 当該被害者が処分者に財産の処分権限を与えて. わち誇張された広告宣伝が用いられた事例及び. いる場合には,その処分者が誤った処分をして. ②「決まり文句」すなわち売買取引等の交渉時. しまう危険のあることが認識されている.それ. において,周知の一般的なトリックが用いられ. でも,被害者は,当該処分者に自己の処分行為. た事例である.①については,例えば,「最も. の権限を肩代わりさせることにメリットを見出. よく読まれている雑誌」,「最も綺麗になる洗濯. しているのであるから,そのリスクのあること. 用漂白剤」などとして自社製品の広告を出す行. を甘受したうえで,自己危殆化行為を行ってい. 為が挙げられる.これについては,判例及び学. る.①・②では,まさにこのことが妥当するの. 説では,詐欺罪の可罰性を否定することで見解. で,処分者の処分行為は,被害者に帰属される. の一致がある.これとは異なり, 「髪の毛を倍. (詐欺罪が成立する) .これに対して,③では,. 増させる効能のあるクリーム」,「5分使うだけ. 留守中に外部者に侵入されて室内の物が奪われ. で 10 年は若く見えるクリーム」などと,一見. るとの一般的かつ常に存在する危険があったに. すると学問上の根拠があるかのような広告を出.
(14) 158 (600). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). す行為には,その可罰性を肯定すべきと解され. 著者は,上記の見解に対して,次のように論. ている.②については,例えば,売主側が「他. じる.まず,ⅰ)の見解に対しては,詐欺罪に. に買いたがっている人がもっと高い値段を提示. おける「欺罔行為」の要件では,あらゆる人間. している」と述べる行為や,商売上手の店員が. に錯誤を惹起できるものでなければならないと. 「注文が殺到していて,在庫は後わずかである」. の限定化は要求されておらず,逆にそれを要求. と述べる行為である.この事例についても,流. することは,目的論的縮減になる.例えば,推. 通取引では許容される「はったり」であるとし. 奨広告等の事例についてのみ,錯誤に陥った具. て,詐欺罪の可罰性を否定すべきとの理解が学. 体的な被害者ではなく,取引における一般的な. 説及び実務において定着している.. 知識人を基準として「重大な」欺罔が欠けると. 上記の①・②の事例で,詐欺罪の可罰性を否. 解することは,「欺罔」の文言からは導くこと. 定すべきとしても,そのいずれの構成要件要素. ができない.ⅲ)及び ⅳ)の見解も,同様に,「事. が否定されるのか.これについて,通説は,ⅰ). 実」・「錯誤」の文言上の可能な意味を超えた目. 一般的な取引における「重大な」 (ernsthafte). 的論的縮減に当たる.これに対して,ⅱ)の見. 主張とは言えないとして,欺罔行為を否定す. 解の社会的相当性の観点は,客観的帰属論の範. る.また,ⅱ)当該広告等が社会的に相当か否. 囲で考慮されるべきである.また,ⅴ)の見解. かの観点から,欺罔行為を限定する見解(Arzt/. のように,取引における「通常性」による自己. Weber ら)も あ る.こ れ に 対 し て,ⅲ) 「事. 答責性等の規範的な観点を「財産損害」の要件. 実」の概念からアプローチする見解もあり,そ. において考慮することもできない.「財産損害」. こでは「広告」が平均的な教育を受けた観察者. の発生は,その文言からして原則的に流通価値. に対して用いられる限り,原則的に単なる価値. に基づいて算定される得喪によってのみ判断さ. 評価にすぎないと主張されている(Maurach/. れるべきだからである.さらに,詐欺罪の各構. Schroeder/Maiwald,Tiedemann,Tröndle/. 成要件要素は極めて詳細に記述されているた. Fischer,Hilgendorf ら) .また,ⅳ)詐欺罪の. め,「開かれている」とは言えない.それゆえ,. 規範では「個人の利益に関する日常的な経済紛. ⅵ)の見解の趣旨は,基本的に妥当であるとし. 争」を防止すべきではなく,詐欺罪の錯誤は,. ても,客観的帰属論を適用して実現すべきであ. 欺罔行為者が給付する客体に関するものでなけ. る.. ればならず,(とくに②の「決まり文句」の事. 上記の検討を踏まえて,著者は,Jänicke の. 例のように)市況に関する単なる錯誤の惹起で. 見解を援用しつつ,客観的帰属論を適用するこ. は充分ではないとする見解(Kühne)や,ⅴ). とで,解決を試みる.ただし,その前提となる. 「財産損害」は「規範的に特色づけられた」構. 刑事政策的な考慮から,流通取引は原則的に誠. 成要件要素 で あ る と し て,取引上通常 の 広告. 実に行われているとの一般的な信頼は損ねるべ. の内容を信じた当該被害者の処分行為が自己答. きではないとして,次のように論じる.①・②. 責的であるときには, 「財産損害」が否定され. の事例については,詐欺罪の構成要件該当性を. るとする見解(Schmoller)もある.なお,ⅵ). 否定することを広範に認めるべきではない.例. 詐欺罪規定 は「開 か れ た 構成要件」で あ る と. えば,表面上は学問的な根拠に基づく広告を出. して,行為者が単に欺罔を用いただけでは詐欺. す行為は,流通取引における「通常性」を超え. 罪における違法性を示すことにはならず,さら. ているゆえに,「許される」ものではなく,欺. に当該欺罔が取引の「通常性」の範囲を乗り越. 罔行為者への帰責を否定すべきではない.しか. えているかどうかを検討すべきであるとの見解. しながら,前述のように,詐欺罪の規範は,個. (Bockelmann, Herzberg ら)も主張されている.. 人の財産を保護するのみならず,流通取引の円.
(15) 外国文献紹介 Nikolai Harbort 著『詐欺罪における客観的帰属の意義』 (渡辺). (601) 159. 滑な進行も保障している.その保障の観点から. 2006 年 12 月 15 日 判 決( BGHSt51, 165)は,賭. は,取引の交渉において,単なる決まり文句を. けに参加する者は賭博契約の締結に際して,試. 処罰対象とすることは望まれていない.このこ. 合結果への細工には加担していないことを黙示. とは「自社製品は最高である」との推奨広告を. 的に表示しており,このことが妥当する限りで. 出すことにも当てはまる.すなわち,少なくと. 被告人は当該表示に関して欺罔行為をしてい. もこれらの事例では,「法的に許されない危険. る,として,詐欺罪の成立を認めた27).さらに,. の創出」が欠けるため,被害者が錯誤に陥った. 著者は,③「極端に高い価額を提示」する事例. ことを欺罔行為者側に帰責すべきではない.. も挙げる.すなわち,商品の売買において,売 主が市場価額よりも極端に高い価額を提示した. G章 「推断的欺罔に関する客観的帰属」 (S. 177 ─191.) 本 章 で は,. ところ,その買主側に,当該価額は市場におい ては適正な価額である,との誤った観念が生じ. い わ ゆ る「推 断 的 欺 罔」. た場合である.この場合には,売主は単に特定. (konkludente Täuschung)が用いられた場合. の価額を述べているにすぎないとして,推断的. について,詐欺罪の成否が検討される. 「推断. 欺罔を認めないことで見解の一致がある,とさ. 的欺罔」とは,行為者が偽りを明示的に述べて. れる.. いるわけではないが,具体的状況下における行. 著者によれば,判例及び通説は,「推断的欺. 為者の挙動が欺罔行為に当たると判断される場. 罔」を認めうるか否かについて,行為者の挙動. 26). 合である .. が「説明価値」(Erklärungswert)を含んでい. 具体的には,BGH の 2 つの判例の事例が挙. るか否かを基準としている.すなわち,法的取. げられている.まず①「請求書の様式を用いた. 引において,客観的には明示的な説明はなされ. 提案」の事例では,被告人が,新聞紙上の死亡. ていないものの,行為者側の挙動に一定の(虚. 欄に掲載された故人の遺族に,書面と金額記載. 偽の)説明が含まれていると理解されるときに. 済みの振込用紙とを送りつけた.その書面は,. は,説明価値があると認められる.例えば,②. 当該死亡欄への掲載料を請求しているように見. では,BGH が述べるように,賭博の参加者は,. えるものであったが,その裏側には,当該書面. 通例,賭博の結果を知らないことを黙示的に説. が被告人の設立したインターネットサイトにお. 明して,主催者側と賭博契約を締結している.. いて死亡記事を掲載することを提案する広告で. それゆえ,当該試合の八百長に関与しているこ. あり,かつその契約申込書である旨が小さな文. とを秘して賭博契約を締結するという挙動に. 字で記載されていた. しかし, この書面を受取っ. は,虚偽の説明が含まれるので,推断的欺罔が. た大半の者が,請求書であると誤信して,当該. 認められる.これとは異なり,③の売主の挙動. 振込用紙を使って, 被告人に金銭を振り込んだ.. には,市場において適切な価額を提示している. BGH 2001 年 4 月 26 日 判 決( BGHSt47, 1)は,. との虚偽の説明価値は含まれていないので,推. 契約申込の提案という取引上公正な行動であっ. 断的欺罔が否定される.他方,①については,. ても,その目的が詐欺罪における錯誤の惹起で. BGH の判決の結論を支持する見解もあるが,. ある限り欺罔行為を認めうる,として,詐欺罪. 一般的には,当該書面を正確に読めば契約申込. の成立を認めた.次の②「八百長賭博」の事例. の提案(広告)であると分かるので,この請求. では,被告人が,プロサッカー試合における主. 書にはそれ以外の虚偽の説明は含まれていない. 審を買収して,取り決め通りの試合結果になる. と解されている.. よう細工をさせたうえ,その結果に合致する. これとは異なり,欺罔行為の成立範囲を規範. サッカーく じ を 主催者側 か ら 購入 し た.BGH. 的な観点から限界づけようとする見解がある..
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[r]
Yamanaka, Einige Bemerkungen zum Verhältnis von Eigentums- und Vermögensdelikten anhand der Entscheidungen in der japanischen Judikatur, Zeitschrift für