-81-新刊紹介 朴正煕と朴正煕時代に対する評価は、歴史のみならず、韓国社会の現在を評価するにあたって、最も 論争的なテーマの一つである。朴正煕時代から、すでに 40 年余りが過ぎてしまったが、彼に対する評価は、 韓国社会で持続している朴正煕シンドロームにより、そして次期大統領候補者と目されている朴槿恵元 ハンナラ党代表により、ただ過ぎ去った歴史としてではなく、現在進行形のものになっている。 しかし、歴史学界では朴正煕時代に対する分析と評価はまだ早すぎる感がある。1960 年代と 1970 年代に対する歴史学界の研究が、ようやく始まった段階にあるからである。セマウル運動に対する基礎 的な研究から、林志弦教授(漢陽大)に代表されるいわゆる「大衆独裁」論者と社会科学者の間で繰り 広げられた論争に至るまで、歴史学界の努力は全くなかったわけではないが、具体的な社会分析や実証 を通じた論議はまだ進んでいない。 それにもかかわらず、この時期に関する論議は現在進行形であるだけに、資料が公開されるまで待つ わけにもいかない。最小限の資料だけででも、当時の時代に対する分析と評価が必要であり、韓国現代 史全体に占める位置についての評価も必要である。また、体系的な分析を欠いた状態で続いている発展 国家論(developmental state)のモデルとしての評価もまた、朴正煕時代についての具体的分析を通じ て補完、 発展させなければならない。 このような点から、チョ・ヒヨンの『動員された近代化』は重要な意味を持つ。筆者が序論で明らか にしているように、本書は進歩と保守の間で二分法的に分けられている評価を越えて複合的に分析し、 ヘゲモニーが貫徹されながらも、同時にヘゲモニーの亀裂が現われるような「矛盾的複合性」に注目し たものである。これは朴正煕という個人と、その時代を一刀両断して客観的な分析を妨げていた冷戦的 研究から、一歩進んだものであると言える。 筆者はまず、韓国だけではなく台湾、シンガポールとの比較を通じて、「開発動員体制」の一般性と特 殊性を分析し、その上で、朴正煕政府の動員体制を分析とした。筆者は動員の核心的なイデオロギーが「反 共」と「開発」であり、反共と開発のスローガンの下に、法的、制度的、行政的動員がなされたが、そ れによる社会的動員が概して「受動的」同意と評価しうるにもかかわらず、一方で「能動的」同意の確 保もある程度は成立したと評価した。しかし、ヘゲモニーを貫徹する過程で現われるヘゲモニーの亀裂は、 結局、弾圧的な維新体制という強圧的体制をもたらし、これが、「同意」の亀裂を招いたと結論付けている。 実際に、歴史学者として、本書の足らない点を挙げるとするならば、具体的な実証的分析が共になさ れなかった点である。筆者は『朴正煕と開発独裁時代』(歴史批評社、2007)で、実証的分析を行ったので、
政 治
朴泰 均
(ソウル大学校国際大学院副教授)
チョ・ヒヨン
著『動員された近代化 ─
朴正煕開発動員体制の政治的二重性』
(フマニタス、2009 年) 조희연『동원된 근대화 ─ 박정희 개발동원체제의 정치사회적 이중성』 후마니타스 , 2009コリア研究 創刊号 -82-本研究書では、主に理論的接近に重点を置いたと言うが、それでも既存の社会科学的分析が犯した「実 証欠如」の問題を踏襲しているといわざるを得ない。また、同時に韓国現代史で見られる外的影響力の 問題についても具体的な分析が欠けている。「反共」と「開発」だけでなく朴正煕時代の諸般の社会的な 問題、また物質的な基盤もまた、「米国」と「日本」を除いては、具体的な内容を分析することは不可能 である。台湾の蒋介石時代が、1950 年から 1970 年代初めまでそうであったように、朴正煕時代にお ける執権の名分は、ただ国内の動員と支持によって可能だったのではなく、外部の支援と冷戦によって 胚胎した存在の必要性によって可能であったためである。また、「動員」のみを通じて朴正煕時代の「秘 密」を明かそうという試みは、朴正煕時代がもつ多様な鍵の中で一つだけを絶対化する誤りに陥る恐れ がある。 それにもかかわらず、本書は現在進行形である朴正煕と朴正煕時代の問題を、一段高い次元から論議 しうる基盤を作った。単純な二分法的分析から脱しただけではなく、結論を通じて最近ニューライトと 脱民族主義的傾向でなされている朴正煕時代についての新しい認識への批判的分析を試みたからである。 そのような意味で、本書が契機となり今後、朴正煕時代についての本格的な研究と論争が持続すること を願う。
-83-新刊紹介:政治(朴泰均) 韓国人には相当な専門家が多い。したがって韓国では研究成果を出しにくい分野が多いといってもよ い。誰もが一家言持っているからだ。具体的な内容をもって論ずるのではなくても、ある先験的な内容 を土台にして「私もすべて分かっている話なのだが」と言いながら、苦労して整理した文が貶められた りもする。多くの分野の中でも現代史、特に韓国政治は「教育問題」とともに研究者たちに困難さを感 じさせる分野であると言える。しかし、他方では、韓国の幾多の大学に「政治学科」または「政治外交 学科」があるにもかかわらず、実質的な「韓国政治」専門家を探しえないことが韓国の現実でもある。 このような点から見ると、『韓国現代政治外交の主要争点と論議』は久しぶりに出版された韓国政治に 関する研究成果である。そして、韓国の国内外政治のみならず、南北関係についての歴史的、社会科学 的認識が同時に含まれている。大韓民国建国 60 周年を迎えて開かれた学術会議の発表原稿が基になっ ている。 本書は、大きく三つの部分に分かれている。1 部は韓国近現代史を見る基本的な視角に対する新しい 主張と、それに対する批判を扱っており、第 2 部は韓米同盟と日韓関係、そして第 3 部は、韓国社会の 最も重要な四つの言説であると言える産業化、民主化、そして南北及び統一問題を扱っている。こられ について、10 人の政治学者・歴史学者・経済学者がそれぞれの分野を担当している。 問題は、互いに違う分野にある研究者たちが各論を担当しているため、全体的には統一性に欠けると いう点である。しかし、まさにそのような点こそが逆に本書の最大の長所であるとも言える。それは本 書が韓国社会の左右の研究者たちすべてを包括しているためである。したがって、本書一冊すべてが現 代韓国の「知識人地図」と言っても過言ではない。ニューライトの中心人物の研究と、それへの批判的 な分析が並ぶ第 1 部が、その序幕であるとすれば、産業化と民主化、そして発展国家についての相反す る評価が混在する第 3 部も、読者たちに韓国学界の現実をよく示すものとなっている。 しかし、本書を通じて韓国政治の全体像を再現することができるわけではない。何よりも、「韓国政治」 そのものの構造を描き出せていないからだ。にもかかわらず、昨年他界した故キム・ヨンイル教授の遺 作を読めるということも本書のもう一つの大きい価値であると言えるであろう。