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共同研究の経緯と成果 : 共同研究「保護地域制度が周辺地域の生業変化や資源化に及ぼす影響 ―持続可能な地域発展における規制のあり方―」

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Academic year: 2021

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柴崎茂光

1.共同研究の設立ならびにその目的

 共同研究「保護地域制度が周辺地域の生業変化や資源化に及ぼす影響―持続可能な地域発展にお ける規制のあり方―」(以下,保護地域共同研究)(研究代表:柴崎茂光,2013~2015 年度)が行われ, 本報告は,この研究成果をまとめたものである。  近年,世界文化遺産・自然遺産制度など,保護地域の指定に対する世論の関心が高まっている。 このほかにも,国有林,自然公園,自然環境保全法や文化財保護法に基づく地域指定,鳥獣保護区・ 保護水面など,ある一つの地域に対しても多様な保護地域の指定が重層的になされている。しかし, 保護地域の指定とは新たな規制が課せられることにほかならず,これまで地域社会が継承してきた 多様な価値が切り捨てられ,その周辺部との関係性を分断するといったコンフリクトを生じさせる 可能性がある。その一方で,保護地域の指定をきっかけに,地域内の文化的資源の新たな価値づけ や,さらに進んだ場合には観光資源化や,保護地域に関連するブランド商品の開発という動きが起 きる可能性がある。日本においても,エコツーリズムやグリーンツーリズム,ジオツーリズムとい われる「もう一つの観光」をベースにしたブランディングの動きが一部の保護地域で興りはじめた が,一方で「真正性」の観点からそのあり方に疑問を投げかける声が出ている。しかしながら,上 述した事象に関しては,フィールドワークに基づく実証研究や,政策研究はまだ十分なされておら ず,さらなる研究蓄積が不可欠な状況といえる。  本研究では,日本国内の農山漁村を主な対象として,学際的な視点から,保護地域制度が周辺地 域の生業変化や資源化に及ぼす影響について多面的に捉えることを目的とする。具体的には,保護 地域の価値の歴史的な経緯を踏まえつつ,①規制によるコンフリクト発生の構造とその変遷を把 握し,②ブランド化の展開とそれが内包する課題を明らかにする。さらに,③地域住民の視点か らみた,保護地域制度のあり方について改善策などを提案する。

2. 研究メンバー

(所属は研究開始時点もしくはゲストスピーカー招待時点) [共同研究員] 西谷 大 (本館研究部・教授) 青木隆浩(本館研究部・准教授) 内田順子(本館研究部・准教授) 松田睦彦(本館研究部・助教)

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葉山 茂 (本館研究部・機関研究員) 伊藤幸男(岩手大学農学部・准教授) 奥 敬一 (森林総合研究所関西支所・主任研究員) 奥山洋一郎(愛媛大学農学部・助教) 金澤悠介(立教大学社会情報教育研究センター・助教) 上机美穂(札幌大学法学部法学科・准教授) 齋藤暖生(東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林・助教) 茅野恒秀(岩手県立大学総合政策学部・准教授) 原田一宏(兵庫県立大学環境人間学部・准教授) 深町加津枝(京都大学大学院地球環境学堂・准教授) 町田 哲 (鳴門教育大学人文社会系教育部・准教授)※ 2014 年度 八巻一成(森林総合研究所北海道支所・グループ長) 渡部鮎美(総合研究大学院大学学融合推進センター・特任助教) ○川村清志(本館研究部・准教授) ◎柴崎茂光(本館研究部・准教授) (◎は研究代表者,○は研究副代表者) [ゲストスピーカー] 北村健二(総合地球環境学研究所・特任助教) トマス・ジョーンズ(明治大学・特任准教授) 古田尚也(大正大学・特任教授)

3. 研究の経過

[2013 年度] ◇第 1 回 2013 年 6 月 16 日~ 17 日 (国立歴史民俗博物館ほか) 6 月 16 日 研究会(国立歴史民俗博物館)  柴崎茂光(国立歴史民俗博物館)「趣旨説明」  ※その後,リニューアルオープンした第 4 展示室の見学・討論 6 月 17 日 現地調査(君津市蔵玉・平山地区) 「日本の中山間地域における人と自然の文化誌」(代表:原 正利・千葉県立中央博物館)(平成 23 年度~25 年度)と共同で現地調査を開催した。具体的には,「川回し」や「二に ご あ な五穴」を見学 し,近世末期に行われた農業開発の状況を把握するとともに,房総地域における保護地域の活 用方法について検討を行った。 ◇第 2 回 2013 年 9 月 15 日~ 17 日(広島県福山市鞆ともの浦) 柴崎茂光(国立歴史民俗博物館)「鞆の浦における開発史概説」 上机美穂(札幌大学)「広島地裁判決 平成 21 年 10 月 1 日(鞆の浦訴訟)」

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葉山 茂「地域の生業変遷と観光開発―西海国立公園:長崎県北松浦郡小お ぢ か ち ょ う値賀町を事例に―」     (国立歴史民俗博物館) 八巻一成(森林総合研究所北海道支所)「北海道における森林の開発・保護と林業遺産」 ※現地調査では,福山市鞆の浦歴史民俗資料館や,鞆の浦における架橋建設賛成・反対派の住 民に対する聞き取り調査を実施した。 ※このほかに,本共同研究に関連した科研申請について議論を行い,概ねの方針を決定した。 ◇第 3 回 2013 年 11 月 2 日~ 3 日(国立歴史民俗博物館) 青木隆浩(国立歴史民俗博物館)「庄川流域に向けられた学問的関心の変化と集落の盛衰」 奥 敬一(森林総合研究所関西支所)「嵐山国有林をめぐる保全と利用の歴史と課題」 茅野恒秀(岩手県立大学)「国有林における自然再生プロジェクトに対する地域社会の応答:     赤あ か や谷プロジェクトの経過と課題」 ※次年度の研究計画や,科研以外の外部資金獲得の可能性についても検討を行った。 [2014 年度] ◇第 1 回 2014 年 5 月 10 日~11 日 (国立歴史民俗博物館ほか)  金澤悠介(岩手県立大学)「国立公園をもつ自治体の特徴―公的統計からの検討―」 柴崎茂光(国立歴史民俗博物館)「保護地域の利用と保全を巡る政策の現状      ―保護地域制度の比較分析―」 松田睦彦(国立歴史民俗博物館)「瀬戸内海国立公園と採石業」 渡部鮎美(日本学術振興会 PD)「保護地域の認定と開発をめぐる地域の選択       ―新潟県十日町市の棚田百選認定地域を事例に―」 ※このほかに今年度の研究会の方針について議論した。 ◇第 2 回 2014 年 9 月 13 日~ 15 日(鹿児島県屋久島町) 斎藤暖生(東京大学演習林富士癒しの森研究所)「富士山のブランド化と山麓の生業       ―富士山北麓地域の概観から―」 柴崎茂光(国立歴史民俗博物館)「守られる自然と壊される歴史・文化       ―保護地域「屋久島」の保全のあり方―」 ※現地調査では,宮之浦川上流域にかつて上屋久営林署(当時)が斫伐事業所として開設した 官行集落を視察し,林内に残る住居跡の遺構を視察するとともに,そうした林業遺構の保存状 況が危うい状況にあることを把握した。このほかに,荒川登山口から縄文杉を往復しながら, 自然資源の観光資源化の現状を把握するとともに,管理上の問題点を明らかにした。 ◇第 3 回 2015 年 1 月 10 日~11 日(国立歴史民俗博物館)  奥山洋一郎(愛媛大学)「別べつしやま子山における保護と利用」  伊藤幸男(岩手大学)「宮城県大崎市鬼首地区の開発と慣行的組織による管理資源の展開」

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 上机美穂(札幌大学)「保護地域における利益対立の法的考察」  ※このほかに,次年度の研究計画についても検討を行った。具体的には,都内で開催される  研究会では,フィールドツアーを含めて実施することなどが提案された。 [2015 年度] ◇第 1 回 2015 年 6 月 28 日~29 日 (国立歴史民俗博物館ほか)  深町加津枝(京都大学)「京都・山間部の地域文化と新たな国定公園の指定」 川村清志(国立歴史民俗博物館)「保護される領域とは何か―マガキ,雪割草,そして棚田」 柴崎茂光(国立歴史民俗博物館)「契約講による野火入れ(宮城県大崎市鬼首・軍沢集落)」     (民俗研究映像) ※研究会終了後には,文京区の旧磯野家住宅 銅あかがね御殿(文京区)を見学(希望者のみ)  このほかに今年度の研究会の方針について議論した。 ◇第 2 回 2015 年 9 月 20 日~22 日(山梨県山中湖村ほか)  古田尚也(IUCN)「自然の聖地―保護地域の文化的・精神的価値について―」  トマス・ジョーンズ(明治大学)「保護地域のブランディング―イギリスの事例―」  町田 哲 (鳴門教育大学)「御おはやし林と地域社会―徳島藩那賀川中流域を中心として―」  北村健二(総合地球環境学研究所)「コスタリカの保護地域」 ◇第 3 回 2016 年 1 月 30 日~31 日(国立歴史民俗博物館)  原田一宏(名古屋大学)「グローバルな森林保全・気候変動政策に適応したローカルな      森林管理―インドネシアの国立公園の事例―」  金澤悠介(岩手県立大学)「国立公園をもつ自治体の特徴―自治体の分類をもとにした分析―」  柴崎茂光(国立歴史民俗博物館)「総括・今後の展開に向けて」 ※最終年度の現地調査であるが,富士吉田口一合目周辺における文化的資源調査や,富士山の 資源を活用した企業への聞き取り調査,東京大学附属演習林富士癒しの森研究所やふじさん ミュージアムを訪問し,保護地域と地域住民との関わりの歴史を把握した(第 2 回研究会)。 また宮城県大崎市での野火入れ(野焼き)についても現地調査を行った。

4. 研究成果の概要

[2013 年度]  初年度は,保護地域の保全をめぐる諸事例を報告してもらった。守るべき資源(景観)の対象が 年代ごとに大きく異なってきているにもかかわらず,法的な規制には大きな変化がみられないこと や,保護地域指定によるブランディング効果が必ずしも十分得られていないという事例が明らかに なった。今後もこうした事例を蓄積していくことに加えて,定量的な分析や法的な枠組みから,こ れまでの知見を多角的に検討できるようにしたい。  なお研究会の成果の一部について,総合誌歴博 No.182「特集:保護地域(世界遺産や国立公園)

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と地域社会」(2014 年 1 月号)で公表した。 [2014 年度]  昨年度から引き続いて保護地域の保全をめぐる諸事例を報告することに加えて,本研究会として の研究対象について再確認を行った。 まず本研究会として,保護地域について再度議論を行い,国際条約・法律・条例等で規定された 公的な制度のみならず,地元団体・業界などが指定・登録・ルール化した種々の取り決めの対象と なった場所も含むものとして合意した。  事例報告から得られた知見として,まず景観保護を中心とした規制型の保護地域政策が進められ る一方で,市町村などが独自に選定する保護地域制度を活用して,地域おこしを行っている事例が 存在していた。さらに近年は,ジオパークやユネスコエコパークなど,国際的な機関による認定を うけた場合に,補助金を活用できるような制度設計が進んでいることも明らかになった。このほか に,土地の管理利用組織へと変容してきた契約講が,牧野・リゾート開発の影響を受けて,その利 用・管理形態が変化している事例も紹介された。  屋久島では,研究報告を行うとともに,林業遺構(集落跡や軌道跡)や観光客の多く訪れる場所(縄 文杉など)を現地調査した。その結果,保護地域の指定によりシンボル化されるものは過度に注目 され,ときに過剰利用問題が発生する陰で,シンボル化されない多様な価値はむしろ軽視され,時 に消失させられることがわかった。今後もこうした事例を蓄積していくことに加えて,定量的な分 析や法的な枠組みから,これまでの知見を多角的に検討できるようにしたい。  また研究会で発表を行い,活発に議論を行う中で,宮城県大崎市鬼おにこうべ首地区で現在も実施されてい る野焼きや,富士山地域における山野利用の現状,そして都市部における景観訴訟の対象となった 地域を把握したいという意見が出された。そして,これらの現地調査を行えるよう最大限努力しな がら,共同研究会を実施するということでまとまった。 [2015 年度]  最終年度では,保護地域の保全をめぐる諸事例(とりわけ海外研究,近世研究)に加えて,本研 究会の総括を行った。またグローバルな視点からも日本の保護地域制度の相対化を試みた。  事例報告やフィールド調査から得られた知見として,保護地域に指定・登録されることで,価 値の純化(Simplification)が発生していることが確認され,そうした変容に行政機関だけでなく, 専門家が関わっていることもわかってきた。海外の事例発表によると,エコツーリズムの先進地で あるコスタリカなどであっても,海外 NGO からの援助によって,地域住民が主導する形での内発 型のブランディング・商品開発が行われてきたが,プロジェクト終了後には,そうした活動が下火 となり,活動の継続が困難な状況であることが報告された。ただし,保護地域における文化的価値 に対する意識の高まりは世界的な潮流であることも報告された。  現地調査では,富士山地域を訪問し,保護地域と地域社会の関わりの歴史を把握した。江戸時代ま では富士山山腹から採取した薬草を富士講の講員に対する霊験あらたかなる土産物などして配る・販売 することが普通に見られた。国立公園の指定により,特別保護地区などでは,すべての植物の採取が禁

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じられるなど,厳しい規制が課せられるようになった。しかし入会集団については既着手行為として 森林産物利用の採取や,鑑札による一般来訪者に対する利用券の販売が認められているが,森林産 物の採取については地域社会の高齢化が影を落としていることが明らかになった。また世界遺産登 録前後から,富士山麓で行われてきた森林産物採取といった慣習が今後も継続されるのかという不 安の声が住民側からあがってきている(規制強化の恐れや高齢化過疎化による慣習の担い手問題な ど)。  このほかに,宮城県大崎市の鬼首地区で行われてきた契約講による野火入れ(野焼き)について も現地調査を行った。かつては高原大根の生産や,ワラビの持続的な採取のために野火入れを行っ てきたが,近年は火災予防のためにこうした野火入れが行われてきた。なお天候不良の関係で,3 年 ぶりに実施されたが,契約講としての活動に高齢化の問題が,存在していることも明らかになった。

6. 今後の展望

 日本の農山漁村の人口流出が続く中で,1990 年代から始まった世界遺産に代表される保護地域 ブームは依然続いている。とりわけ近年は,生物圏保存地域(通称:ユネスコ・エコパーク),日 本遺産など,これまでの規制型の保護地域よりも,むしろ保全活用型の保護地域制度に保護地域制 度が移行しつつあり,実際に様々な保護地域を地域づくりや経済活性化につなげようとする動きが 日本各地で広まっている。文化財保護法に基づく,史跡・名勝・天然記念物・文化的景観といった 保護地域制度についても,2017 年の改正により,自然資源や資料を守りながらも活用する動きが 活発化するように求められることになろう。  しかしながら,今回の共同研究の成果をみると,こうした政策を進めることで,農山漁村の再生 が進むというバラ色の将来が待っているとは必ずしも言えないことが見えてきた。  まず,統計分析から国立公園を有する市町村であっても,人口減少・高齢化が必ずしも十分防が れてない状況がみえてきた。国立公園の場合には,大正末期から昭和初期にかけて,現在の世界遺 産ブームと同等もしくはそれ以上のブームが発生した経緯がある。こうしたブランド力の高い保護 地域制度であっても,農山漁村の疲弊を食い止める十分な効果を果たしていない可能性が高いとい う結果は,現在の保護地域ブームに警鐘をならすものと解釈できる。  次に,「価値の移ろいやすさ」という問題が,保護地域に内在することもみえてきた。たとえ同 一の観光地域であっても,時代ごとに注目される価値は常に一定ではなく,むしろ変化してきたの である。さらに,「価値の単純化や固定化」といった問題が,保護地域登録・指定後に発生する状 況も判明した。とりわけこうした価値の単純化や固定化が,行政によってもたらされるだけでなく, 観光利害関係者(地元観光業者,観光メディア)や,ときに研究者によってももたらされる可能性 も明らかとなった。価値が移ろいゆく中で,価値の単純化が進んだ場合,その価値が劣化・消失す るリスクが高いのは,主要な価値に付随する副次的な価値といえる。もう少し具体的にいえば,自 然資源や生態系が主要な価値を有する場合には,付随する文化的歴史的価値が種々の規制によって 制限を受ける可能性が高い。  このほかに,国内外の事例を通じて保護地域を活用して地域づくりを目指す事例についても報告 があったものの,先進地と言われる場所であっても,保護地域制度が存在することによる正の効果

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は限定的であることが判明した。  なお保護地域共同研究期間中に,以下の科学研究費助成事業が採択された。 (1)挑戦的萌芽研究(2014 ~ 2015 年度,代表者 : 柴崎茂光)   「保護地域の規制やブランディングが地域社会に及ぼす影響」 (2)基盤研究(B)(2016 ~ 2019 年度,代表者 : 柴崎茂光)   「林業遺産の保存と持続的な活用による林業教育・地域づくりの可能性」  これらは,いずれも本保護地域共同研究の打合せの中で有益なコメントやヒントを得た上で研究計画 を作成し,採択されたものである。 (国立歴史民俗博物館研究部,共同研究代表者)

参照

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