L1およびL2によるノートテイキング指導:継続指導による効果の検証
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(2) 表1. 言語力の三つの観点:言語力育成協力者会議(2007)に基づいて筆者作成. 観点. 具体的な能力の例. 知的活動 (特に思考や論理). 正確に事実を記録・描写する力、論理的に理解・解釈する力、 批判的に考察する力、文章を比較・評価する力. 感性・情緒. 心をこめた言葉で他者と交流する力、感情を言葉で表現する力、 言葉に明示的に表れていないメッセージに気付く力. 他者との コミュニケーション (対話や議論). 日常のコミュニケーションから他者と協同的な関係を築く力 (相手の発言をしっかりと受け止める力、積極的に発言する力、 異年齢の幼児児童生徒・地域の人々・障害のある人々と適切に コミュニケーションを取る力)、意見の異なる人と議論して協 同的に問題解決をする力. 般的な言語力の存在とその L2 運用への影響は直感的に広く認識されていると言える。. そこで、本研究では L1 を用いて一般的な言語力の一部を取り出して集中的に育成を図 り、その力が L2 の運用においても活用されるかどうかを検証することとした。 2.先行研究 L1 と L2 にまたがる一般的な言語力の存在については、ライティングの分野におい て継続的に議論が行われてきた。例えば、L1 作文能力と L2 作文能力の間には一定の 関係が認められており、特に L2 言語能力が一定以上備わっている場合には L1 作文能 力がより強く影響する可能性があることや、L1 での作文方略(作文時のやり方・手順). が L2 作文時に転移する可能性があることなどが示唆されている(Okabe, 1994; Sasaki & Hirose, 1996; Hashemian, 2011)。このことから、当初、L1・L2 作文能力に通底 する一般的な作文能力を本研究で取り上げることも検討した。しかし、言語を越えた 一般的な作文能力を上記の表 1 で捉えた場合、「知的活動」や「感性・情緒」の観点 内の能力を幅広く含むことになる。そうすると、L1 作文の指導や L2 作文の評価の際. に考慮しなくてはならない要因が増大・拡散してしまい、結果として L1 作文指導の効 果を L2 作文の出来映えと関連づけて考察することは極めて困難になると考えた。 他方、講義(lectures)を聞きながらノートテイキングを行う力についても、L1 の 講義を聞きながらノートを取る力と L2 の講義を聞きながらノートを取る力の間には 共通する一般的な言語力が存在する可能性が指摘されている。例えば、染谷(1997) は以下のように述べている。 「共通基礎能力仮説」→理解は、媒介言語が L1 か L2 かに関わらず、大 脳内の同じ個所で行われる(事象関連電位測定=EFR の結果によれば、 言語の違いに関わりなく、意味処理は脳の特定の部位で行われることが 観測されている)。(染谷, 1997, p.3) また、Clerehan(1995)は、英語を母語とする学生(L1)、英語を母語とするが文 化的に国際的な背景を持つ学生(L1, international)、英語を母語としない学生(L2) に同一の英語の講義を聞かせてノートを取らせる実験を行っている。その結果、L2 学 生は講義に含まれる上位の概念(top-level elements)のメモが少ないということが明. - 24 -.
(3) らかになっている一方で、学生の母語や文化的背景の違いに依らず共通して、「理解 度の高かった学生群」には略記や記号を活用して内容を視覚的に階層化・系列化して 捉えるという特徴が、「理解度が比較的高かった学生群」には 講義中に出てきた具体 的な語をそのまま書いていたり、“contrast”、“similar”などの情報の理解の仕方を補足 する語を追記したりしているという特徴が見られたとしている。同様に、森本(2003) が Durham 大学で日本語を専攻している非日本語母語話者の学生を対象として行った 日本語でのノートテイキングの実験においても(素材としてはニュースを使用)、上 位グループのノートには上記と類似する特徴が見られたことが報告されている。これ に加えて、染谷(1997, p, 2)は仮説として「数字の処理は言語脳とは別のところで処 理される。(中略)また、日本語の数字処理回路をそのまま英語の数字処理に援用す ることはできないものと思われる」、「固有名詞の処理も、通常の言語のうとは別の ところで行われるものと思われる」と述べており、これらの点については L2 に絞って 特別な訓練が必要となると思われる。以上を踏まえると、「数字や固有名詞の聞き取 り」のように一部例外はあるものの、全体としては、L1 の講義を聞いてノートを取る 際に使用する方略が L2 の講義を聞いてノートを取る時にも使用される可能性が指摘 されているという点ではライティングの分野における種々の研究と重なる部分がある。 先行研究のレビューの結果、本研究では、①L1 と L2 に共通する一般的な言語力の 構成概念ができるだけシンプルであり、②またその一般的な言語力の習得・未修得が L1、L2 両方の活動において外的に確認可能であって、なおかつ ③その一般的言語力 が L2 の言語運用に寄与しているかどうかについて事後的に検証できるような活動が 望ましいと考えた。そして、これらの条件をある程度満たすものとして、「短い講義 を聞きながらノートテイキングを行い、事後にそのノートを参照しながら講義の内容 に関するテストに解答する形式の活動」を用いることとした。 少し補足すると、上記の①については、L1 の講義を聞きながらノートを取る能力と L2 の講義を聞きながらノートを取る能力に共通する一般的な言語力を表 1 で捉えるな らば、「正確に事実を記録・描写する力」と「論理的に理解・解釈する力」が該当す る。もちろん、内容が高度で複雑なものとなれば「批判的に考察する力」等も影響す るが、この点についてはテスト作成の段階で内容や問を調整して対応する。②につい ては、ノートテイキング方略を使用した結果はノートという形でプロダクトが残るた め、適切な箇所で適切な方略を用いてノートを取ることができるようになっているか どうかを見取ることができる。最後に③であるが、一般的なノートテイキング能力が L2 での実際の言語運用に役立っているかどうかは、ノートの変化やそのノートに基づ いて解答したテスト得点を分析することで手がかりを得ることができると考えた。 3.研究方法 本研究の RQ として以下の三つを設定した。 RQ1:L1 講義音声を教材としてノートテイキング指導を行うことで、(ノートを取る ことが許された状態での)学習者の L2 講義聴解能力は向上するのか。. RQ2:上記の後、L2 講義音声を教材としてノートテイキング指導を継続すると、(ノ ートを取ることが許された状態での)学習者の L2 講義聴解能力は向上するのか。 RQ3:L1、L2 を教材としてノートテイキングの指導を行う中で、学習者のノートテイ. - 25 -.
(4) キング行動やノートテイキングに対する意識は変化するのか。また、変化する とすれば、どのような変化が見られるか。 これらの RQ に基づき、以下のような方法で研究を行った。 (1)調査協力者:英語教員を志望する大学生 *内訳. 33 名. 実験群 2 年生 16 名、統制群 3 年生 17 名 英語力には両群ともかなりのばらつきがあり、TOEIC で おおよそ 500~800 点までの学生が含まれている。. (2)研究計画:2 群の事前・事中・事後テストデザイン(表 1) →2 群(実験群/統制群)×3 時点(L1 指導前/ L1 指導後/ L2 指導後) →実験群に対して、事前テストと事中テストの間に「L1 の講義音声を教材とし たノートテイキング指導」を 3 回、「事中テストと事後テストの間に L2 の講 義音声を教材としたノートテイキング指導」を 5 回実施 →実験群への指導は 1 回 30 分程度で、筆者が日本語で指導 表1. 本研究の実施スケジュール. 実施時期 (2018 年). 実験群 ( n =16). 統制群 ( n =17). 4月 第3週. ①リーディングテスト(講義タイトル“Education”). 4月 第4週. ②事前テスト(講義タイトル“Namibia”). 5 月 第 2 週~ 第5週 6月 第1週 6 月 第 2 週~ 7月 第2週 7月 第3週 3.1. ③L1 の講義音声を教材とする ノーテイキング指導 3 回. 単語、文法指導. ④事中テスト(講義タイトル“Mozambique”) ⑤L2 の講義音声を教材とする ノートテイキング指導 5 回. 単語、指導案作成、 教材作成、模擬授業. ⑥事後テスト(講義タイトル“Australia”). ①リーディングテスト と ②事前テスト. まず、本研究開始前に、a) 本研究で使用する事前、事中、事後テストの語彙や文法 の難易度が適切であるかどうかについて確認するため、および b) 実験群と統制群の間 に英語力の面で差がないことを確認するためにリーディングテストを実施した。なお、 このテストの英文は事前、事中、事後テストにおける講義音声を作成する際に同時に 作成した講義調で口語的なパラレルテキストである。リーディングテスト、事前、事 中、事後テストはすべて、語数、wpm、readability だけでなく、トピック・言語ドメ インも「海外の国の地理・制度・民族・文化の概略を説明する文章」に揃え、文章構 成も冒頭で講義内容の柱立てを明示してから各内容の通時的および共時的な情報が順 序立てて説明される形に統一した。事前、事中、事後テストでは、実験群、統制群の 両群に講義音声を 1 度だけ聞かせてノートを取らせ、そのノートを見ながら講義の内 容理解を問うペーパーテストに解答するよう求めた。リーディングテストにおいては 両群とも英文を見ながら同様のペーパーテストに解答させた。テスト問題は 12 問とし、 難易度やテスティングポイント(各項目で測ろうとする能力)がおおよそ同じになる. - 26 -.
(5) ように注意しながら作成した。なお、これらの講義調の文章および付属のテスト問題 の作成にあたっては英語母語話者の協力を得た。 表2. 各テストで用いた文章 講義. テストの種類. 語数(wpm). タイトル. 604 語. リーディングテスト Education 事前テスト Namibia. 498 語(108). Mozambique 527 語(101) 501 語(106) Australia. 事中テスト 事後テスト. 問題数 各 1 点 Readability (FKG) (選択・空所補充) 7.8. 12 問(3 問・9 問). 8.3. 12 問(3 問・9 問). 9.3. 12 問(2 問・10 問). 7.6. 12 問(3 問・9 問). リーディングテストにおける実験群、統制群の得点について等分散を仮定しない独 立サンプルの t 検定を行った結果、以下の表 3 左側のような結果であった。両群とも. 上限である 12 点付近に得点が集中しており、文章を読んで解答するリーディング形式 であれば、調査協力者はこれらのテストにおいて英文の内容を理解し、問に正しく解 答できることが確認できた。また、事前テストの実験群、統制群の結果を見ると(表 3. 右側)、指導開始前の時点では実験群のほうが統制群よりも有意に得点が低いことが 見て取れる。中程度の効果量も確認されたことから、指導開始前の時点では実験群の ほうがリスニング形式のテストにおいては得点が低い傾向があったことがわかる。 (参 考までに事後テストのスクリプトと問題の一部を Appendix に付しておく。) 表3. 介入前に実施した二つのテストの結果 リーディングテスト. M ( SD ) 実験群. 11.93 (0.07)*. 統制群. 11.77 (0.19). df 26. 事前テスト. t. p. d. 1.35 .19 1.12. M ( SD ) 5.31 (2.50) 6.82 (1.51). df 24. t. p. d. 2.09 .04 0.73. *欠席者 1 名を除く 3.2. ③L1 の講義音声を教材とするノーテイキング指導. 実験群に対して、L1 の講義音声を教材として用いたノートテイキング指導を 3 回行 った。各回の指導では、まず筆者が講義調の文章を 1 分間あたり 300 語程度のスピー ドで自然に読み上げるのを一度聞かせて自分なりにノートを取らせた。その後、調査 協力者には簡単な内容確認問題に解答させ、答え合わせを行った。そして、調査協力 者を 2 人あるいは 3 人組にして各組にボイスレコーダを配布し、ノートテイキングを 行ってみての振り返りを「何が難しかったか、それはなぜか」という観点から自由に 話し合わせて録音した。その後、講義の文章の一部を取り上げるなどしながら筆者が 効果的なノートテイキング方略について具体例を示しつつ説明した。各回には指導す る方略を個別に設定し、それにふさわしい文章を、大学の初年次教育用のテキストか ら引用したり(佐藤・湯川・横山・近藤, 2012; Fry, 1996)、筆者自身が作成したり して用いた(表 4)。指導する方略としては、上述の事前、事中、事後テストで用いる 講義音声の特徴・内容に鑑み、①必要と思われる情報を階層別にすばやく書き留める. - 27 -.
(6) ための(後から思い出すための)略記の方法、②「また」「この中に」「これらとは 別に」といった言葉で示される事象や概念の包含関係などを図や記号で捉える方法、 ③「その後」「〇〇年以前は」「○年後になって」といった言葉で示される時系列的 な変化を年表や記号で捉える方法を扱うこととした。なお、実験群に指導を行ってい る期間、統制群に対しては、実用英語検定準 1 級レベルの単語の学習や英文法書 ( Practical English Usage )を用いた文法指導等を行い、ノートテイキングに関わる 指導は行わなかった。 表4. 指導に用いた L1 の講義音声 タイトル. 著作権とは 佐 藤 ほ か(2012; 39-40). 字数. 指導のターゲット. 634 字. 繰り返し出てくる単語の略記、共時的情報(事象や 概念の包含関係など)の図や記号による整理. メイベル [人名] 固有名詞(人名、地名)の音の略記、通時的な情 1,495 字 Fry(1996; 108-110) 報(時系列的な変化)の表や記号による整理 ガボン共和国 筆者作成. 3.3. (事前・事中・事後テストで使用する L2 の講義 1,244 字 スクリプトと似た形式のもので)共時的情報と通 時的情報の両方の同時整理. ⑤L2 の講義音声を教材とするノートテイキング指導. 事中テストを実施した後、実験群に対しては、続けて L2 の講義音声を教材として用. いたノートテイキング指導を行った。各回の指導内容は、L1 の講義音声を用いた指導 の際と同様、事前、事中、事後テストで用いる講義音声の特徴を踏まえた指導項目を 設けるとともに、それに合う文章を Listening & Notetaking Skills Level 1(Dunkel &. Lim, 2014)から選択して使用した。各回の授業の流れとしては、まず、出版社が HP 上で提供している L2 の講義音声を聞かせてノートテイキングを行わせ、著者が指導項 目に合わせて作成した簡単な理解テストの問題を解かせた。そして、L1 指導時と同様、 学生にペアまたは小グループでの振り返りの録音を行わせ、それに続けてノートテイ キングの実例や音声の英文スクリプトなどを用いた指導を行った。この間、統制群に 対しては、実用英語検定準 1 級レベルの単語の学習に加えて、指導案作成、教材作成、 あるいは模擬授業といった教育実習に向けた指導等を行った。ノートテイキングに関 わる指導は行っていない。 表5. 指導に用いた L2 の講義音声. 講義タイ トル Steve Jobs Pompeii Language Learning. 語数 Readability 指導項目 (wpm) (FKG) 707(101) 8.8 固有名詞( 人名)の音の 略記、通時 的情報 の整理 345(112) 7.5 固有名詞( 地名)の音の 略記、通時 的情報 の整理 670(103). 7.3. 専門用語 の音の 略記、共 時的情報( 因果)の整理. Roller Coaster. 442(121). 5.2. 専門用語 の音の 略記、共 時的情報( 描写)の整理. Bicycle. 356(117). 8.5. 固有名詞 ・専門 用語の 音 の略記、 共時的 情報 (因果・ 描写) と通時 的 情報の同 時整理. - 28 -.
(7) 4.結果と分析 本節では、上記の実践研究の結果を「事前、事中、事後テスト得点の変化」、「調 査協力者が書いた実際のノートに表れた変化」、「指導の際に調査協力者がボイスレ コーダに録音した『ノートテイキングの難しい点』についての振り返りコメントの変 化」の三つの側面について分析を行った結果を述べる。 4.1. テスト得点の変化. 以下の表 6 が事前、事中、事後テストの結果であり、表 7 がその結果に対して 2 要 因(2 群×3 時点のテスト)の分散分析を行った結果である。 表6. 各テストの得点 実験群. 統制群. M ( SD ) M ( SD ) 事前 事中 事後. 5.31. 6.82. (2.50). (1.51). 6.50. 5.56. (2.45). (1.90). 5.60. 6.29. (2.39). (2.61). 表7. 分散分析の結果. SS. 要因. df. MS. F. p. η2. 被験者間 291.11. 1. 31. 4.41. 0.47. .50. .02. 0.253. 2. 0.13. .04. .96. .00. 2. 12.81. 4.37. .02. .12. 4.41. 群 誤差. 9.39. 被験者内 テスト. 25.62. テスト×群. 62. 181.87. 誤差. 2.93. 表 7 から分かるとおり、群およびテストの要因の主効果は有意ではなかった。この ことから、事前、事中、事後テストの難易度には差はなかったと言える。そして、交 互作用が有意であったことから、単純主効果の検定を行い、その結果を各群の得点推 移を表したグラフに書き込んだものが下の図 1 である。 上の表 3 でも示したが、最終的な. 分散分析においても、事前テストの. p =.01. 段階で実験群と統制群の間に有意な 得点差が確認された。そして、実験. p =.04. 群は L1 の講義音声を用いたノート. 実験群. テイキング指導を受けた後に得点が p =.02. 有意に上昇している。他方、統制群. 統制群. は事前テストから事中テストにかけ て得点が有意に下降していることか ら、実験群の事中テストにおける得 点の上昇は英文の readability が低 かったことや、問題が易しかった可 能性などのみに起因するとは考えに. 0. 図 1 単純主効果の検定の結果をテスト得点の 推移を表したグラフに反映したもの. くい。以上の結果を総合的に解釈するならば、少なくとも全体として見ると、L1 の講 義音声を用いたノートテイキング指導に一定の効果が認められたと考えることができ るであろう。しかし、実験群に対しては続けて L2 の講義音声を用いたノートテイキン グ指導を合計 5 回も行ったものの、事後テストでは得点の伸びは見られなかった。. - 29 -.
(8) 4.2. 実際のノートに見られる変化. 指導を行っていくうちに調査協力者のノートには実に多様な変化が表れた。個別に ノートの質的な変化とテスト得点の変化を照らし合わせながら分析したところ、大別 して以下のタイプの学生が存在していた。 ①指導されたノートの取り方を取り入れ、テスト得点が上がった学生 ②指導されたノートの取り方を取り入れたが、テスト得点が上がらなかった学生 ③指導前から自分流のノートの取り方を身につけており、部分的に指導されたノー トの取り方を取り入れて統合した学生(テスト得点は上昇と横ばいが半々) 以下の図 2 は①のタイプの学生のノートの変化である。一見してわかるとおり、聞 き取った情報(語)をリストとしてメモするのではなく、紙面を広く使いながらキー ワードを中心に情報をまとまりごとに書き留めるとともに、矢印や強調などで視覚的 に情報を相互に関連付けていることが分かる。これらはいずれも L1 での指導段階から 指導した方略である。なお、これらのノートに基づくこの学生のテスト得点としては 事前から事中にかけて上昇、その後、事後テストでは微減という結果であった(4 点→ 7 点→6 点)。. 図 2 ①のタイプの学生 A のノートの変化(左から事前、事中、事後テスト時のノート) ②のタイプの学生のノートの典型的な例としては、書き留めている情報が全体的に 少なく、また情報がマクロレベルに留まる傾向が見られた。そのため、話の大まかな 流れについては指導したノートテイキング方略を用いてメモとして残せてはいるもの の、その後のテストの問題に解答するために必要となるメサレベルの情報が抜けてい ることが多かった(図 3)。例えば、事後テスト(Australia)の学生のノートの一部 を見たまま書き出してみると、図 3 の学生 B のノートは「At first uk natular imgration whit ポロシー. 1970 whit オーストポロシー. キャンソル. となっているのに対して、同じ部分について図 2 の学生 A は「歴史. ②. Africa come」. 移民―U.K. psple. natural resaucc s iland then. → huge Europens imgratiion white policy blue only. European →1970s canceled. not European. couldn’t 1970s Europe Asia Africa. middle easten」さらに「not European」から線を引いて、講義の冒頭で書き取ってい たオーストラリアに住んでいる人々の出身国のメモ「China ビエト. - 30 -. インド. フィリ.
(9) ピン. アフリカ南. エジプト. スーダン、ジンバブエ」と関連づけている。具体の情. 報を上位の概念と関連づけながらノートを取ることができているかどうかに違いがあ ることが分かる。 次に、事前、事中、事後にかけての学生 B のノートの変化を見てみると、事前から 事中に掛けてノートの使い方が図示を意識したものに変わっていることが見て取れる。 しかし、情報の密度が粗いままであったためこの学生の事中テストの得点には変化は 見られなかった。しかし、この学生はその後の L2 講義音声を用いての 5 回の指導を受 け、事後テストの得点は平均点程度まで上昇している(2 点→3 点→5 点)。あくまで 推測であるが、L2 の講義音声を繰り返し聞くことでリスニング力が身についてきた可 能性もある。以上のことからすると、ノートテイキング方略を修得したとしても、リ スニング力からの影響により、即座に成果が表れない場合もあり得ると考えられる。. 図 3 ②のタイプの学生 B のノートの変化(左から事前、事中、事後テスト時のノート) 最後に③のタイプに分類される学生は、標準的に考えられている適切なノートの取 り方(講義の小トピックごとにキーワードや重要な数字・固有名詞を相互に視覚的に 関連づけて書き留める)を指導前(事前テスト)の段階で身につけていた。サンプル 数が少ないため一般化はできないが、これらの学生のうち、特に「略記」や「英語の 固有名詞の探り書き」などの細かい方略の修得と使用がノートから伺えるようなケー スでは得点が上昇する、あるいは比較的高い水準が維持される傾向が認められた(16 人中 5 人程度)。これらの学生は以下の表 7 のテスト得点のクロス集計表内の丸四角 で囲った部分に含まれている。例えば、図 4 に示した学生 C の場合、事前から事中に 掛けて得点は中位のままであったが(5 点→6 点)、その後、事後では 11 点と大きく 上昇している。細かくノートの変化を見ると、事中から事後にかけて略記やスペリン グを気にせずより多くの情報をメモしようとしている様子が伺える(e.g., people→p、 million→m、Australians→Aust→ A 、Cristian→Clistch など)。 表7. 事前、事中、事後テスト間の度数分布の変化 事中. 事後. 0-4. 5-8. 9-12. 事. 0-4. 2. 2. 0. 前. 5-8. 2. 5. 3. 9-12. 0. 1. 1. 0-4. 5-8. 9-12. 事. 0-4. 2. 2. 0. 中. 5-8. 2. 4. 2. 9-12. 0. 4. 0. - 31 -.
(10) 図 4 ③のタイプの学生Cのノートの変化(左から事前、事中、事後テスト時のノート) 事前テストの際のノートと事中テスト、事後テストの際のノートを個別に比較して 検討した限り、指導の影響をまったく受けていないものは見受けられなかった。この ことから考えると、ノートテイキング方略と各テストの得点との間に直接的な因果関 係を想定することはできないものの(このようなノートの取り方をしたから得点が高 くなったなどとは言えないものの)、L1 および L2 の講義音声を用いた指導が各調査 協力者のノートテイキング方略に影響を及ぼしたこと、そして、そのことが間接的に テスト得点に影響を及ぼした可能性を示すことができたと考える。 4.3. 調査協力者の振り返り音声の分析. 実験期間の前半(「L1 の講義音声を用いた指導期間および L2 の講義音声を用いた. 指導期間の 1 回目まで」)と後半(「L2 の講義音声を用いた指導期間の 2 回目以降」) において、学生のノートテイキングに対する見方が徐々に変化していることが確認さ れた。以下に前半、後半それぞれの間に見られたコメントの典型例を示す。 ・途中でステージっていうのがわかったけえ、横線引いて工夫して書きました。 前 ・年号書いてその横にちょこちょこって1文字だけっていう感じで書いたけど。 半 ・成長が感じられんかった。人系[ひとけい]っていうか人口?、経済、旅行?、旅 行系[りょこうけい]の3つで、まあ日本語でやったのと同じようにやったけど。. ・時系列が年号じゃなくて 10 months とか 2 years とか、年号?なんだろ、年齢 後 半. と段階の区切りが 2 種類あってややこしい。 ・これまではさぁ、年号とか国の名前とかなんか詳しいことを言う前にさあ、テ ーマとか言われとったじゃん。だけぇ書きやすかった。今回はなんかずらーっ と続いてどこを取り出すのかつかみにくかった。. 下線部に着目すると、前半のコメントは、自分が個別のノートテイキング方略をど こでどのように使ったか、という方略の側面について話していることが分かる。これ までまとまったノートテイキング方略の指導を受けたことがない学生たちにとっては 目に見える具体的な方略の活用に注意が向くことも自然なことであろう。これに対し て、数週間継続的にノートテイキングを経験して後半に入ると、方略が次第と「ノー トテイキングの際に当然使うもの」として調査協力者の意識に根付きはじめたのか、. - 32 -.
(11) 話題は講義の内容や話の流れに関するものへと変化していく様子が見られた。これは、 講義中の英文の展開とそれに適したノートテイキング方略、そしてその方略を使うべ きであった場面との関連という視点、つまりノートテイキング行動についてのメタ認 知の発達を意味していると考えられる(例:上記の後半 2 つ目のコメントは、Language. Learning を用いた指導回のもので、通時的な情報から共時的な情報に指導の焦点が移. った際のもの)。別の言い方をするならば、自身がノートテイキングを行う際に直面 していた問題点について、少なくとも事後的にはモニターできるレベルには到達した と考えられるかもしれない。 また、前半、後半に共通して、「メモするべきか考える間、どのようにメモするか を考える間、メモをしている間に話が流れていってしまう・情報があやふやになって しまう」という趣旨の振り返りが数多く存在していた。やはり、リーディング形式で あれば問題なく読解できるような英文であっても、リスニング形式となると学習者に かかる認知的負荷の種類、大きさが大きく変わってくることが分かる。 5.考察 本研究では、「3.研究方法」の冒頭で挙げた 3 つの RQ について検討を行うため の実践研究を行った。「4.結果と分析」の内容を踏まえると各 RQ について暫定的 に以下のことが言えよう。 RQ1:L1 講義音声を教材としてノートテイキング指導を行うことで、(ノートを取る ことが許された状態での)学習者の L2 講義聴解能力は向上するのか。 L1 の講義音声を教材として用いたノートテイキング指導は、方略の転移を介して、 L2 の 講義 音声を 聞き ながら行 うノー トテ イ キング能 力の向 上に影 響を及ぼ す可 能 性がある。根拠としては、まず、事前から事中テストにかけて、L1 の講義音声を教 材として用いたノートテイキング指導を行った実験群の得点のみが統計的に有意に 上昇したことが挙げられる(図 1)。また、両テスト時の具体的なノートの質の変化 (指導したノートテイキング方略の表出)とテスト得点の上昇の間にも一定の傾向 が確認されたことも有力な傍証である(図 2)。 RQ2:上記の後、L2 講義音声を教材としてノートテイキング指導を継続すると、(ノ ートを取ることが許された状態での)学習者の L2 講義聴解能力は向上するのか。 L2 の講義音声を教材として用いたノートテイキング指導・練習は、調査協力者全 体のノートテイキング能力の向上にはつながらなかった。事中から事後テストにか けては、ノートテイキング指導を行った実験群においても、統制群同様、統計的に 有意な得点の上昇は見られなかった(図 1)。また、事後テストの段階で具体的なノ ートの質の変化(指導したノートテイキング方略の表出)が見られた学生の中には 得点が上昇した者や高い得点を維持している者も少なからず存在したが(図 2、図 3)、 全調査協力者の 3 分の 1 程度に留まっていた(表 7)。 RQ3:L1、L2 を教材としてノートテイキングの指導を行う中で、学習者のノートテイ キング行動やノートテイキングに対する意識は変化するのか。また、変化する とすれば、どのような変化が見られるか。. - 33 -.
(12) 基本的には、指導したノートの取り方をまったく取り入れなかった学生は見受け られず、ノートテイキングを行う際に意識的に方略を用いるようになったことが確 認できた。しかし、事前テスト、事中テスト、事後テストのどこの段階でノートに 可視的な変化が生じたかは調査協力者ごとに異なるだけではなく、事後テストの際 には事中テストで用いていた方略を使用しなくなっているなど、さまざまな変遷が 観察された。他方、指導中の調査協力者のふり返り音声を分析してみると、聞きな がらメモをとるという作業に一貫して高い認知的負荷を感じつつも、徐々に英文の 特徴に応じて方略の選択・使用する重要性に気付く様子が見受けられた。 これらのことを総合的に考えると、ノートテイキング指導の効果は、単に学習者 がノートテイキング方略を使用しているかどうかだけではなく、どの方略をいつ何 のために用いるのか・用いないのかについて学習者自身が判断できているかどうか という観点からも捉えるべきなのかもしれない。極端な言い方をすれば、ある学生 が指導されたノートテイキング方略を使用していないという状況があったとしても、 その判断が意識的であるならば、当該学生は新たなノートテイキングの能力を身に つけたと解釈することができるのである。このことは、達川(1998)が「note-taking は基本的に自分が見るために行う活動であり、したがって『個人差(または多様性) を許容すべき』である」と述べていることともつながると思われる。 本研究は 3 ヶ月という限られた期間の中で行った実践研究であり、調査協力者の特 徴も英語力、動機付けなどの側面から見て極めて偏っている。そのため、このたびの 結果の過度な一般化は控えるべきであるが、それでもなお、個別言語を越えた「言語 力」が L2 の運用に影響を及ぼす可能性が改めて示唆されたことの意義は大きいと考え る。平成 29 年改訂 小学校および中学校学習指導要領、平成 30 年改訂 高等学校学習 指導要領においては、各教科の目標が教科横断的な「3 つの資質・能力」に整理されて いる。そして、本研究が取り上げた「言語力」という概念は現在では「思考力・判断 力・表現力等」という資質・能力に含められている。外国語科(英語)としては、他 教科における「思考力・判断力・表現力等」の育成を受け身的に期待するだけではな く、他教科で扱われている「思考力・判断力・表現力等」に関連する指導内容を英語 の指導に取り込んでいくなど積極的な姿勢が求められるであろう。 謝辞 本研究は JSPS 科研費 JP19K00822 の助成を受けたものです。また、本研究で使用し た英語の講義音声の作成にあたっては Örebro University ( スウェーデン)の Joe Siegel 先生に多大なるご協力を賜りました。ここに記して厚くお礼申し上げます。 参考文献 Clerehan, R. (1995). Taking it down: Notetaking practices of L1 and L2 students.. English for specific purposes , 14 , 137-155.. Dunkel, P. A., & Lim, P. L. (2014). Listening & notetaking skills 1 . Boston: National Geographic Learning.. Hashemian, M. (2011). The effect of L2 writing ability on L1 writing ability.. Journal of Language Teaching and Research, 2 , 1306-1311.. Okabe, J. (1994). Factors which influence the quality of composition of Japanese. - 34 -.
(13) EFL learners: With special reference to the effect of EFL proficiency. ARELE ,. 5 , 61-69.. Sasaki, M., & Hirose, K. (1996). Explanatory variables for EFL students ’. expository writing. Language Learning , 46 , 137-174. 言語力育成協力者会議.(2007).「言語力育成協力者会議(第8回)配付資料 資料5」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/036/shiryo/attach/1399817.htm (2020 年 2 月 6 日. 最 終閲覧日 ). 佐藤望(編著)・湯川武・横山千晶・近藤明彦(2012)『アカデミック・スキルズ: 大学生のための知的技法入門』東京:慶應義塾大学出版 染谷泰正(1997).「ノートテイキング実験の結果(要旨)」 http://www.someya-net. com/01-Tsuyaku/Lecture-03/data/NoteTakingExperiment1997.pdf(2020 年 2 月 6 日 最終閲覧 日). 達川奎三(1998)「Note-taking 指導のための外国語教材開発」『中国地区英語教育 学会研究紀要』第 28 号, 125-132.. Fry, R.(著)・金利光(訳)(1996)『アメリカ式ノートの取り方』東京:東京図書 森本一樹(2003)「上級聞き取りのストラテジー:ノートテイキングの技術」『日本 語教育連絡会議論文集』115, 79-83. Appendix 事後テストのスクリプトと問題の一部抜粋 This week our topic is multiculturalism. So now I would like to talk to you for a bit about multicultural Australia. The country has so many different people who have different beliefs and different customs. I’ll be talking about the numbers of different people and where they came from. I also talk about the history of immigration to Australia as well as religion and languages. ( 中 略 ) So now I’ll talk about the history of immigration to Australia. At first, people from the United Kingdom and Ireland came to Australia because they had a chance to get lots of land and there were lots of natural resources. Some people were looking for gold. So first, people came from the United Kingdom and Ireland. Then after World War II there was a huge European immigration there was a rule called the ‘white Australia policy’, the ‘white Australia policy’, and that rule said only Europeans could move to Australia. Only Europeans, so people moved from Italy, from Greece and from other European countries. Then in the mid 1970s things changed. The ‘white Australia policy’ was cancelled. The ‘white Australia policy’ was cancelled, so lots of people who were not European could come to Australia and that’s when lots of people from Asia, the Middle East and Africa came to Australia. That was in the mid 1970s and those populations, especially Asian and the Middle Eastern have grown a lot in Australia. ( 後 略 ). - 35 -. Q3. Why did most people come from the United Kingdom and Ireland to Australia? ① To get a chance to find a job. ② To live in a warmer place. ③ To look for gold. ④ To own land and resources. Q4. Fill in the blanks of the following table about immigration to Australia. Stages / When. The first stage The second stage 1. After ______ ______ The third stage 4.In _____ _______. Which countries did people come from? The United Kingdom and Ireland 2. _______ , ________ and other European countries. The chief cause of the trend of immigration. 3. The _____ __________ policy was started.. Asian, the Middle 5. The above Eastern policy was and African _______ . countries. *記述問題では意味が正しければ綴りの誤り や 不 自 然 な 表 現 で も 正 解 と し た( 例: Q4 の 表 中 5 で “stoped”の よ う に 書 い て も 正 解 )。.
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