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Vol.23 No.4, Value Awareness Support based on Visualized Clues for Group Discussion Mamoru Yoshizoe 1, Hiromitsu Hattori 2, Arisa E

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(1)

原著論文

Vol.23 No.4, 2021

グループディスカッションにおける 可視化情報提示に基づく気づき支援

吉添 衛 1  服部 宏充 2  江間 有沙 3  大澤 博隆 4  神崎 宣次 5  久木田 水生 6  小川 祐樹 2

Value Awareness Support based on Visualized Clues for Group Discussion Mamoru Yoshizoe

1

, Hiromitsu Hattori

2

, Arisa Ema

3

, Hirotaka Osawa

4

,

Nobutsugu Kanzaki

5

, Minao Kukita

6

and Yuki Ogawa

2

Abstract

We are now faced with the wall of the diversity of values. We are often required to consider or respect the values of other people though, it is not easy to sense them since we tend to think within our scope of knowledge, experience, and imagination.

We have worked on how to exchange values and achieve a synergetic effect among peo- ple. In this paper, we are presenting our prototype system, called AIR-VAS, aiming to support becoming aware of values in group discussion. AIR-VAS has been developed as the system which recognizes characteristic opinions of a group and shares them among all engaging groups on the discussion. The recognized and shared opinion is based on the values of the people of the group. Through the sharing of opinion, people can know the different viewpoints on the issue of the current discussion, so that AIR-VAS can provide stimulation to people for idea generation. We have developed AIR-VAS on the approach that visualizing statements, which are presented during a discussion, as the word co-occurrence network. We implemented opinion sharing as the process of the net- work re-construction including presented sub-network as an opinion of a certain group.

According to the experimental usage of the developed system, we analyzed the relation- ship between discussion and visualized information, and discuss what information gives awareness.

Keywords

: awareness, discussion support, idea generation support, word co- occurrence network, CSCW

1.

はじめに

社会は情報技術の発達とともに,グローバル化・複 雑化が進んでおり,人のもつ価値観も多様化してきて いる.そして,それに伴い,多様で変化する価値に気 づき,広い視野を持って物事を捉えることが社会的に 必要とされるようになってきている.

近年,インターネット上では様々な情報がやりとり され,それらの情報に対して,誰もが容易に参照・投 稿することができるようになった.一方でそれに伴い,

Twitter

に代表される

SNS

において,ある価値観に

*1:立命館大学大学院 情報理工学研究科

*2:立命館大学 情報理工学部

*3:東京大学 未来ビジョン研究センター

*4:筑波大学 システム情報系

*5:南山大学 国際教養学部

*6:名古屋大学 情報学研究科

*1Graduate School of Information Science and Engineering, Ritsumeikan University

*2College of Information Science and Engineering, Rit- sumeikan University

*3Institute for Future Initiatives, University of Tokyo

*4Faculty of Engineering, Information and Systems, Univer- sity of Tsukuba

*5Faculty of Global Liberal Studies, Nanzan University

*6Graduate School of Information Science, Nagoya University

従って導き出された考えや思いを投稿し,多くの閲覧 者から批判・バッシングを受ける, 炎上 問題が頻 発している[1].また,

Web

SNS

の発達により,イ ンターネットユーザが自分の所属する,または関係の 深いコミュニティや,関心と合致する情報ばかりに接 することで,それらとは観点の異なる情報から隔離さ れ,自身と同質な文化的・思想的な皮膜(バブル)の 中に孤立するようになっていく フィルターバブル と呼ばれる問題が顕在化している[2]

これらの問題は,多様な情報に触れる機会を損失し,

広い視野で物事を捉えることができなくなってしまう 可能性を示唆している.そのような事態を防ぐために は,自分の考え,そしてそれとは異なる考え方を認識 し,思考することが重要であり,そのために様々な場 面で多様な視点への気づきを得るための技術や仕組み が必要と考える.また,新たな視点への気づきは,新 しいモノの捉え方・考え方を促す発想支援に発展させ ることができると考えられる.

そこで筆者ら(AIR:Acceptable Intelligence with

(2)

Vol.23, No.4, 2021

Responsibility)

1は,人々に多様な視点への気づきを 与えるプロセスやアプローチについて議論し,その仕 組みを組み込んだプロトタイプシステムの実装と検証 を試みてきた.

本研究では,多数の参加者による議論において,新 たな視点の提示により発想を促すシステムの設計・実 装を行う.より具体的には,参加者が複数のグループ に分かれ,同一テーマに関する議論を同時並行に行う,

ワークショップでよく見られる場面を想定し,各グルー プにおける議論の状況の可視化や,他のグループに向 けた可視化情報の部分的な提示を行う.本来は知るこ とができない,並行して行われている議論の情報を参 照可能にする事で,個々のグループの議論に他の多く の参加者から得た視点を折り込み,議論の活性化や質 の向上を図る点が,筆者らの提案の特徴である.本論 文では,システムのプロトタイピングと,イベントで の利用や実験からのフィードバックを経たシステムの 機能設計を示すと共に,システムの利用効果に関する 評価と議論を示す.

2.

関連研究

2. 1

発想支援システムと

“気づき”

発想支援の手法は,ブレインストーミング[3]やブ レインライティング[4]など,これまで様々な手法が開 発・研究されており,これらの手法を組み込んだシス テムも数多く存在している.XEROXの

Colab

[5]は 初期の有名な支援システムであり,また,日本電気の

MERMAID

[6]や,電子会議システムの応用として開

発されたグループウェア

Cognoter

[7]なども発想支援 の手法を取り入れたシステムとして挙げられる.これ らのシステムは,議論の内容をラベルやキャッチフレー ズとして画面上に可視化し,グループ内でそれらを共 有することで,キーワードや要点の整理を助けるもの である.

可視化による発想支援システムの研究では,“気づ き”(アウェアネス:

Awareness)に着目した研究も多

くなされてきた[8]〜[10].Dourish[8]は気づきを,「自分 の活動に影響を与える他人の活動を理解すること」と 定義している.例えば,画面上に他者の情報を表示す る方法や,仮想的な共有画面で作業を行う方法などは

Dourish

の定義に基づく

“気づき”

を支援する試みと

言える[11]〜[13].発想支援システムにおいて,気づき

は大きなテーマであり,チームの活動やチームに影響 を与える可能性のある出来事についてより良く意識で きるようになれば,チームの生産性の向上につながる ことが示されている[14]

Robert

[14]は,他人への 気づきが検索タスクにどのように影響するかについて

1:人工知能が浸透する社会を考える- Acceptable Intelligence with Responsibility: AIR,<http://sig-air.org/>

調査を行っており,他の利用者の行動を認識すること が,検索タスクにおけるパフォーマンス向上と労力削 減につながることを示した.

2. 2

本研究の位置付け

2. 1

で述べた既存の議論支援システムは,比較的少 人数のメンバーから成るグループにおける議論の状況 を可視化し,そのグループ内に閉じられた議論を対象 とした支援を想定している.

一方,本研究では,議論情報の可視化プロセスの中 で,議論グループという枠を超えて,グループ間にお ける議論情報の共有を行い,自分たちとは異なるグ ループの情報をシステム画面上に可視化することで,

新しい気づきを与える枠組みの構築を考えた.具体的 には,議論の参加者が複数のグループに分かれて同一 テーマに関する議論を同時並行に行うような,グルー プワーク形式の議論の場において,各グループにおけ る議論の状況の可視化に加えて,他のグループに向け た可視化情報の部分的な提示をシステムが行う.本来 は知ることができない,並行して行われている議論の 情報を参照可能にする事で,個々のグループの議論に 他の多くの参加者から得た視点を折り込み,議論の活 性化や質の向上を図る.議論や対話において,異なる グループ,コミュニティ間で議論情報が共有されるこ とで,前述したフィルターバブルのような,思考が一 つのグループやコミュニティなど単一の環境下で閉じ られてしまい,偏った視点や論点で議論が進んでしま うような状況を防ぐことが本研究の狙いである.また,

自分たちにはない他のグループにおける視点を取り込 んで議論を進めることにより,新しい方向性で議論が 発展することも見込め,グループワークやワークショッ プ全体としてもより多くの論点が生まれる可能性があ ると考えられる.

本稿では,実装したプロタイプシステムの機能概要 を示し,実際にシステムを利用した議論実験から,シ ステムによる自分たちにはない視点の情報提供が,議 論の方向性にどのような影響を及ぼすのかを検証する とともに,議論における気づき情報とその提示方法の 在り方についての考察を行う.

3. AIR-VAS

システム

3. 1

システム概要

筆者らは,多様な価値観への気づき・新しい発想の 支援を行うことを目的とした

AIR-VAS

システムの構 築を目指しており.システムの実現に向けて,プロト タイプシステムの実装と実験によるフィードバックを 得ながら,システムに必要な技術や機能の検討を行っ ている.以前筆者らが,グループディスカッションな どの議論の場で,システムによる支援を行うことを想 定し,開発を行ったプロトタイプシステムでは,議論

(3)

の状況を共起ネットワークでシステム画面上に可視化 し,他の議論グループのネットワーク図と比較するこ とで気づきを与える機能を実装した[15].実際にシステ ムを活用したワークショップイベント[15](以降,STS イベントとする)では,画面に表示されるネットワー ク図が議論の状況把握に役立つ効果がみられた一方で,

他グループの議論特徴を確認する際に,その都度シス テムを操作する必要があるなど,人手でシステムを操 作する際の負担面で問題点が見受けられた .そのた め,よりシステムの利便性を高めるために,自動音声 入力によるサーバへのデータ入力方式の変更と,シス テム画面上に表示する可視化情報に関する機能拡張を 行った.図

1

は,システムの概略図である.次節で,

これらシステム機能について,STSイベント以降の改 良点を交えながら説明する.

1 AIR-VASシステム概略図 Fig. 1 The outline of AIR-VAS system.

3. 2

システム機能

本節では,実装したシステムの主な機能について説 明する.機能は以下の通りである.

音声入力による議論内容自動送信機能

共起ネットワークによる議論状況の可視化機能

他の議論グループにおける特徴語の提示機能

議論ネットワークのツリー表示機能

3. 2. 1

音声入力による議論内容自動送信機能

STS

イベントで活用したプロトタイプシステムで は,各議論グループ毎に,キーボード入力により議論 内容をサーバに送信する記録係が必要であり,システ ムを利用するためのコストが高く,障害となっていた.

それを踏まえ,議論の内容をテキスト形式で入力する 手段として,音声認識を利用した議論内容の自動送信 機能を実装した.実装にあたっては

Web Speech API

2を利用し,また,音声認識の精度を高めるため,議 論参加者それぞれに対してピンマイクとノート

PC

を 配布した.これは,卓上型のマイクを各グループに一 つ配置させて音声認識を行うに比べ,それぞれ口元に 近い位置にピンマイクを装着し,音声認識を行った方 が精度が高いことを筆者らが事前に確認したためであ る.音声入力によりテキスト化された議論の内容は,

随時サーバに送信され,サーバ側でテキストを

1

文単 位で形態素解析

MeCab

[16]による分かち書き処理の 後,共起情報とともに各単語がデータベースに挿入さ れる(図

1

の共起語分析).その後,蓄積されたデー タベースをもとに,共起ネットワークの可視化が行わ れる.なお,共起語分析では,生成される共起ネット ワークから情報を読み取りやすいようにするため,ス トップワードリストによる機能語の除去を行っている.

ストップワードリストの作成には,國府らが提案して いるストップワード[17]を利用した.

3. 2. 2

共起ネットワークによる議論状況の可視化

機能

新しい気づきを与えるためにシステムが提示する 情報として,共起ネットワークによる議論情報の可視 化を考えた.具体的には,議論の内容をインプットの 情報としてシステムに入力すると,その内容から議論 中に出現した語の共起ネットワークを作成し,アウト プットの情報として提示する機能を実装した.ブレイ ンストーミングのように,システムの利用者らが自分 の考えや意見をラベルにまとめるのではなく,システ ムに入力された議論内容から自動的に共起ネットワー クを生成し,可視化情報として提示することで,利用 者は議論に集中した上で,気づきにつながる情報をシ ステム画面から受け取ることができる仕組みを構築し た.共起ネットワーク分析は,データの可視化手法と して広く使われており,データから形成される構造や 特徴の分析に効果的である[18]〜[21]

.

リアルタイムに 議論の状態や特徴を共起ネットワーク図として可視化 し提示することで,自分たちが行っている議論の状況 を再確認することができ,現状の議論の整理,および 次なる議論の方向性を決める手助け等にもつながると 考えられる.

開発したシステム画面が図

2

である.サーバは,前 節で示した音声入力により蓄積された議論グループ のデータベースから共起ネットワークに必要なノード

(語)とエッジ(共起情報)をまとめたネットワーク 情報を送り返し,議論参加者の手元のノート

PC

上に 共起ネットワーク図が表示される(図

1

のネットワー ク情報生成).共起ネットワーク図は,議論の内容が 送信されるとともに徐々にノードの数が増え,共起の

2https://developer.mozilla.org/ja/docs/Web/API/Web Spe ech API

(4)

Vol.23, No.4, 2021

2 AIR-VASシステム画面 Fig. 2 The interface of AIR-VAS system.

つながりが更新されるように設定した.これは,以前 の

STS

イベントより得られた知見から,初めから多 くのノードを表示するのではなく,議論が進むにつれ て徐々に数が増えていく形式の方が,ネットワークの 変化や議論特徴の段階的な理解がしやすいと考えたた めである.また,この共起ネットワーク情報生成の過 程で,自分たちにはない考え方・視点の提示機能とし て,他の議論グループにおける特徴語をネットワーク 上に追加するようにした.他の議論グループにおける 特徴語の提示機能については次節で説明する.

ネットワーク図では,単語のノードの色を,通常語 を白色,新しく追加された語を緑色,ポジティブ語を 赤色,ネガティブ語を青色,他のグループの語を黄色 に設定した.ポジティブ語,ネガティブ語といった語 のもつ極性による色分けは,ネットワーク図からより 直感的に議論の印象などの情報を読み取ることを意図 したものである.語の極性の判定では,日本語評価極

性辞書[22], [23]を使用し,辞書中の極性を判定基準と

した.なお,ポジティブ語とネガティブ語については,

新しく追加された初回時は緑色で表示され,その後の ネットワークの更新により赤色・青色で表示される.

また,ネットワークが過剰に複雑になってしまうこと を防ぐため,エッジはノードに対して,一対一の割合 で共起のつながりが強いエッジが表示されるように設 定した.

3. 2. 3

他の議論グループにおける特徴語の提示機能

自分たちにはない他の視点や考え方の提示方法とし て,システムが自動的にネットワーク図中に他のグルー プにおける特徴語を追加する機能を実装した.システ ム画面上で自分たちのグループとは異なるグループに おける議論の特徴語を表示させることで,様々な視点 の可能性を考慮した議論ができる環境の構築を行った.

STS

イベントでは,他のグループの情報を確認する際 に,手動で確認するグループを選択し,その都度画面 を更新する手間があるなど,利用者の負担が大きかっ たため,システムが自動的に他グループの情報の一部 を提示することで,システム利用者の負担軽減を図っ た.他のグループの情報を提示する際に,他のグルー プの議論の中で出現した語の全てを自分たちの議論の 共起ネットワーク中に表示してしまうと,ネットワー ク図全体として視認性が低下してしまう恐れがあるた め,およそ自分たちのグループにおける議論語

10

単 語に対して

1

単語の割合で,自分たちの議論には出現 していない他の議論グループにおける高頻出単語を,

他グループの特徴語(以下,他グループ語とする)と してネットワーク上に追加するようにした.他グルー プ語の選定の流れについては,以下で説明を行う.

3

のように,語とその出現回数を記録したデータ ベースが議論グループごとに存在する中で,それぞれ のグループにおける出現頻度上位語の含まれる割合を 他のグループのデータベースと比較し,対象となる語 の選定を行う.具体的には,

1.

自分のグループ(図中グループ

A

)における頻出 語上位

k

語を取り出す.

2.

他グループ(図中グループ

B

N

)各々に対して,

全出現単語数における

1.

で取り出した語の含む 割合を計算し,その割合が最も低いグループを他 グループ語の提示元グループとして決定する.

3.

決定したグループにおいて,自分たちのグループ の議論に出ていない語の中から出現頻度が最も 高い語を検索し,その語を自分たちの議論ネット ワーク中に表示する.

の流れで選定を行う.割合の計算における

k

の値は,

データベース中の全ての語を対象とした場合,計算コ ストがかかり処理に時間がかかるため設定しているも のであり,現在暫定的に値を

50

に設定している.

3 他グループにおける特徴語の選定例 Fig. 3 The example - the election of other

group words.

(5)

3. 2. 4

議論ネットワークのツリー表示機能 表示する議論ネットワークの形状をツリー状へ表示 を切り替えることができる機能を追加した(図

4).利

用者は,システム画面上の切り替えボタンを押すこと でツリー表示へと状況に応じて切り替えるこができ,

自分たちの行っている議論の遷移や構造の把握がしや すくなると考えられる.ツリー表示にあたっては,エッ ジの結ばれている数が最も多いノードを基準にして,

そこから各ノードを配置するようにしている.

4 議論ネットワークのツリー表示例 Fig. 4 The example - the tree visualization of

the network diagram.

4.

実験:ディスカッションにおける気づき支援

4. 1

実験概要

システムが他グループの情報提示を行う議論支援の 枠組みの評価および,システムの提示内容と気づきの 関係についての調査を行うことを目的として,作成し たシステムによるディスカッション実験を行った.ディ スカッションは実験参加者を複数のグループに分け,

同一テーマの議論を同時に行う形式で実施した.実験 の詳細は以下の通りである.

【対話イベント概要】

参加者:

20

人(大学生)

テーブル構成:

4

人 ×

5

グループ(自分の議論 グループの議論ネットワークの表示に加えて他グ ループ語の提示機能を適用するグループ

a

3

グ ループ,自分の議論グループの議論ネットワーク の表示のみ行うグループ

b

2

グループ)

議論方法: テーマに沿った

30

分間の議論をグルー プ

a,b

の参加歴で偏りが起こらないように配慮 しながらメンバーを入れ替えて計

3

ラウンド行う.

議論の進行や方法については各議論グループに委 ねることとした.なお,システムの操作とディス カッションに慣れるための議論練習テーマを初め に行った.

議論練習テーマ: 「研究室内における連絡手段

(メール,

Slack, LINE

など)の使い分けについて」

議論テーマ

1: 「小中学校のいじめ対策に AI

を導 入する試みについて」

議論テーマ

2: 「人工知能と安全保障について」

4. 2

評価方法

本実験では,システムによる他グループの情報提示 の有無が議論に与える影響について分析を行うため,

各議論グループにおける単語の複雑度[24]を評価指標 として用いることにした.単語の複雑度は,単語の繰 り返しの程度を示す指標であり,議論中の全単語数に 対する単語種類数の割合で表される.単語数や単語種 類数による指標は,人間の主観が介入しない比較的容 易に解析できる発言内容の自動評価指標として有効で あることが示されている[25].本実験では,この単語 の複雑度の観点から議論の多様性について評価を行う.

単語の複雑度の算出においては,発話文を形態素解析

MeCab

によって分割した単位トークンを

1

単語と

定め,それらの異なった種類数(異なり語数)を単語 種類数とし,各グループ内における出現単語を対象と して計算することとした.

また,システムからの他グループ語の提示が議論の 多様性に与えた具体的な影響について分析することを 目的として,議論参加者に対してアンケートを実施し た.アンケートでは,「システムからの情報が議論の状 況把握に役立ったか」,「システムが提示する他の視点 から新しい気づきを得ることができたか」,「有意義な 議論をすることができたか(議論の満足度)」,「議論 をする上でシステムの利用が負担になっていなかった か」の

4

つの項目について

4

段階(1:役立たなかっ た,2:あまり役立たなかった,3:役立った,4:か なり役立った)で評価してもらった.その他,自由記 述欄を設け,具体的に気づきにつながった他グループ 語やシステムが役立った場面について記述してもらっ た.このアンケート結果と各議論のログデータを参考 にしながら,他グループ語の情報提示を行ったグルー プ

a

と提示を行わなかったグループ

b

のそれぞれの議 論についての質的分析と,気づきを与える語として効 果的であった他グループ語の特徴について語の共起関 係の観点からの分析を行った.

4. 3

実験結果

4. 3. 1

他グループ語の提示が議論に与える影響

前節で示した評価指標のもと,各議論グループにお ける単語の複雑度に着目し,システムによる他グルー プ語の情報提示を行ったグループ

a

と提示を行わな かったグループ

b

の両者について分析を行った.表

1,

5,6

は各議論グループにおける出現単語数,異な り語数,提示された他グループ語数の結果と,単語の 複雑度の時系列推移のグラフである.

(6)

Vol.23, No.4, 2021 1 各グループとテーマ毎の単語情報

Table 1 The results of the word count data for each discussion themes.

グループ 出現単語

異なり語

他グループ 語数

テーマ1 - a1 808 464 15

テーマ1 - a2 772 448 15

テーマ1 - a3 810 435 15

テーマ1 - b1 759 326 -

テーマ1 - b2 783 345 -

テーマ2 - a1 789 418 10

テーマ2 - a2 582 309 9

テーマ2 - a3 706 410 10

テーマ2 - b1 651 306 -

テーマ2 - b2 592 272 -

5 各グループの議論時間における単語の複雑 度の推移(議論テーマ1

Fig. 5 Relationship between discussion time and the word complexity (discussion theme 1).

6 各グループの議論時間における単語の複雑 度の推移(議論テーマ2

Fig. 6 Relationship between discussion time and the word complexity (discussion theme 2).

グラフから,システムによる他グループの情報提示 を行わなかったグループ

b

では,議論が進むにつれ単 語の複雑度が低くなっているのに対し,提示を行った グループ

a

では,単語の複雑度の減衰が抑えられてい

ることがわかる.これは,提示を行わなかったグルー プでは,議論が進むにつれ,特定の論点(単語やトピッ クなどの話題の対象)に対して深掘りするような議論 の流れになっていたのに対し,提示を行ったグループ では,他のグループで出てきた議論テーマに対する視 点を自分のグループの議論にも取り入れ,より多くの 論点から議論を行っていたことが要因であると推察さ れる.議論終了後(議論時間

30

分経過時)における各 グループの単語の複雑度を確認すると,議論テーマ

1,

議論テーマ

2

のいずれにおいても,他グループ語の提 示を行ったグループ

a

が提示を行わなかったグループ

b

の単語の複雑度を上回っていることがわかる.議論 の進行や議論中に出てくる論点などは,議論参加者の 議論テーマに関する知識量や対話技能による部分も大 きいと考えられるが,システムからの他グループ情報 の提示が,議論中の出現単語の複雑度という観点から みた議論の多様性において,一定の貢献があることが この結果から示された.

4. 3. 2

他グループ語の提示ありの議論グループに

おける特徴分析

他グループ語の提示が議論に与えた具体的な影響に ついて調べるため,他グループ語の情報提示を行った グループ

a

と提示を行わなかったグループ

b

のそれ ぞれの議論についての質的分析を行った.議論後に実 施したアンケート結果とその特徴を以下に示す.表

2

は,アンケートの項目について,各グループ毎の平均 を示したものである.表中のグループ

b1

b2

について は,他グループ語の提示を行っていないグループのた め,アンケートの「システムが提示する他の視点から 新しい気づきを得ることができたか(気づきに役立っ たか)」の回答項目は省いている.なお,各議論テーマ 毎に議論メンバーのシャッフルを行っているため,そ れぞれのテーマにおけるグループに対応関係はない.

アンケート結果からは,他グループ語の提示を行っ たグループ

a

において,気づきに役立ったかどうかの 評価と議論の満足度に関して相関は認められなかった

(相関係数

-0.47,t

1.07,p

0.36).そこで,他

グループ語の提示を行ったグループ

a

とその提示され た他グループ語が議論に与えた影響を分析した上で,

他グループ語の提示を行わなかったグループ

b

の議論 との違いについて比較を行った.本項では,他グルー プ語の提示を行ったグループ

a

の議論についてその 特徴を分析する.具体的には,アンケート項目「シス テムが提示する他の視点から新しい気づきを得ること ができたか」において,気づきを得ることができた,

かなりできたと回答した人の割合が多かったグループ の議論に着目し,そのグループの議論の特徴と提示さ れた語の関係性をみることにした.関係性をみるにあ たっては,ネットワーク図に加え,議論のテキストロ

(7)

2 各グループとテーマ毎のアンケート結果 Table 2 The results of the questionnaire for

each discussion themes.

グループ 状況把握に 役立ったか

気づきに役 立ったか

議論の 満足度

テーマ1 - a1 3.50 2.00 3.25

テーマ1 - a2 3.25 2.50 2.75

テーマ1 - a3 2.50 2.75 3.00

テーマ1 - b1 3.25 - 3.00

テーマ1 - b2 2.75 - 3.00

テーマ1a平均 3.08 2.42 3.00 テーマ1b平均 3.00 - 3.00

テーマ2 - a1 2.25 2.75 2.25

テーマ2 - a2 3.00 2.75 2.00

テーマ2 - a3 2.50 2.00 2.50

テーマ2 - b1 3.00 - 2.25

テーマ2 - b2 2.50 - 2.00

テーマ2a平均 2.58 2.50 2.25 テーマ2b平均 2.75 - 2.13 システムの利用が負担だったか(実験全体)

負担だった 少し負担だっ

あまり負担で はなかった

負担では なかった

0 2 2 16

グデータを参考にしながら,提示された他グループ語 と提示前後におけるその単語の出現回数を調べた上で,

実際にその単語が議論で話された場面について分析を 行った.

まず,議論テーマ

1

において,気づきを得ることが できた,かなりできたと回答した人の割合が高かった グループ

a3

に注目した(図

7

).提示された他グルー プ語の中で,提示されたことにより最も多く話された ものは

環境

であった.

環境

と合わせて同時に提 示された

“家庭”

も同様に多く話された.このグルー プでは,データの匿名性についての議論から始まり,

データを活用した先生への支援などが主な議論の内容 であったが,“家庭”と

“環境”

が提示されたことによ り,いじめは家庭環境も重要な要因であり,

AI

システ ムの扱うデータとして,家庭環境の情報も考慮するべ きではないかという意見が生まれ,どのようにして家 庭のデータを集めるのかといったプライバシーの問題 の議論に発展していたことが議論のテキストログデー タから読み取れた.“環境”と

“家庭”

が他グループ語 としてグループ

a3

に提示されたタイミングは議論経 過時間約

16

分時点であり,この提示によってこれま でにはない論点で議論が発展し,その後の議論におけ る単語の複雑度の減少が抑制されている様子が伺える

(図

5).

次に,議論テーマ

2

において,気づきを得ることが できた,かなりできたと回答した人の割合が高かった グループ

a1

に注目した(図

8).提示された他グルー

プの単語の中で,提示されたことにより最も多く話さ れたものは

“運転(自動運転) ”

であった.このグルー

7 ネットワーク図の一部:議論テーマ1 - ループa3

Fig. 7 The part of network diagram : the dis- cussion theme 1 - group a3.

プでは,顔認証システムなどの

AI

が学習するデータ とそれを活用したテロリストの特定や無人兵器の導入 などシステムの実用性の観点から議論が進められてい たが,他グループ語の

“運転”

が提示されたことによ り,自動運転における人を轢いたときの倫理的な問題 と自動兵器が人を殺害したときの問題の

2

つは共通し ている部分があるという意見が新しく出てきた,その 上で,自動運転を例にした責任の所在の問題について 議論が発展した.

運転

が他グループ語としてグルー プ

a1

に提示されたタイミングは議論経過時間約

18

分 時点であり,この提示によってこれまでにはない論点 で議論が発展し,その後の議論における単語の複雑度 の減少が抑制されている様子が伺える(図

6

).

8 ネットワーク図の一部:議論テーマ2 - ループa1

Fig. 8 The part of network diagram : the dis- cussion theme 2 - group a1.

上の

2

つの例で提示された他グループの単語

“環境”

(8)

Vol.23, No.4, 2021

“運転”

は,対象の議論の中で単語の複雑度の減少を 抑え,議論の多様性の促進に貢献していたと考えられ る.一方で,提示されたが話されることのなかった他 グループの単語は,“確か”や

“とこ”

などの議論テー マに対してあまり関係がなさそうなもの,想起される ことがないようなもの,あるいは

“そうそう”,“ちゃ

う”などの音声認識の誤認識による単語が大半を占め ていた.

4. 3. 3

他グループ語の提示なしの議論グループに

おける特徴分析

他グループ語の提示を行ったグループ

a

では,提示 を行うことで単語の複雑度の減少が抑えられる傾向が 読み取れた.本項では,他グループ語の提示を行わな かったグループ

b

の議論についてその特徴を示し,グ ループ

a

との違いを分析する.

まず,議論テーマ

1

の議論終了後(議論時間

30

分 経過時)における単語の複雑度が最も小さいグループ

b1

に注目した(図

9).このグループでは,”監視”と

いう単語をキーワードに,AIシステムによる生徒の プライバシーの問題から議論が展開され,データを収 集することによるいじめの早期発見の可能性など,監 視による利点と欠点を掲げながら議論の後半もプライ バシーの観点で議論が継続して進んでいた.

9 ネットワーク図の一部:議論テーマ1 - ループb1

Fig. 9 The part of network diagram : the dis- cussion theme 1 - group b1.

次に,議論テーマ

2

の議論終了後(議論時間

30

分 経過時)における単語の複雑度が最も小さいグループ

b2

に注目した(図

10).このグループでは,無人兵

器や

AI

システムによる戦争は,戦争としての実感が 伴わないという問題点から議論が展開され,人が関与 しているかどうかという観点をベースに議論が継続し て進んでいた.

上の

2

つの例のように,他グループ語の提示がされ なかったグループ

b

では,自分たちの議論の中で出て

10 ネットワーク図の一部:議論テーマ2 - ループb2

Fig. 10 The part of network diagram : the discussion theme 2 - group b2.

きた論点を深め,議論の後半においても既存の論点か ら派生した形で議論が継続して進む傾向がみれた.そ のため,他グループ語の提示を行ったグループ

a

に比 べて論点の大きな転換がなく,発話の中で新しい単語 があまり出現しなかったことが単語の複雑度の減少に つながっていた要因と推察される.

4. 4 Wikipedia

テキストデータにおける議論 テーマ語と提示した他グループ語の共起関係 実験結果において気づきを与える語として効果的で あった他グループ語が,議論における出現頻度が最も 高く議論テーマで中心的な意味を持った単語(以下,

議論テーマ語とする)に対してどのような共起関係を もつ単語か,幅広い種類の単語群と比較し,定量的に 調べるため,日本語版

Wikipedia

の全文テキストデー タ 3から共起語情報データベースを作成し,対象語の 共起関係の分析を行った.

4. 4. 1 Wikipedia

共起語情報データベースの作成 公開されている日本語版

Wikipedia

の全文テキスト データを利用し,Wikipedia共起語情報データベース を作成した.テキストデータは約

100

万記事からなる 規模である.Wikipediaの全文テキストデータ内の文 章を,「。」,「.」などの句点と改行を区切りとして

1

文 単位に分割し,本論文のシステムにおける共起語分析 処理の手順と同様に,MeCabによる分かち書きの処 理を行った後,語の共起情報をデータベースにまとめ た.作成したデータベースは,英単語や分かち書きの 際に生じた誤分割の語も含めて約

500

万種類の語で形 成される規模となった.

4. 4. 2

共起経路探索

各議論のネットワーク図中に表示された他グループ 語と議論テーマ語の間で一般的にどのような共起関係

3https://dumps.wikimedia.org/jawiki/latest/jawiki-latest- pages-articles.xml.bz2

(9)

があるか,作成した

Wikipedia

の共起情報データベー スを用いて,語の共起経路探索を行った.探索の手順 は以下の通りである.

1)議論テーマ語(例:議論テーマ 1

における

“いじ

め”)において,共起頻度の高い上位

k

語を検索し,そ の共起経路と共起頻度を記録する.共起頻度の尺度と して

Dice

係数を用いた.2つの語

w

1

, w

2

W

(W はデータベース中の語集合)における

Dice

係数は以 下の式で計算される.

Dice(w

1

, w

2

) = 2 | V

1

V

2

|

| V

1

| + | V

2

| V

1

, V

2

: w

1

, w

2

W

に対する共起語の集合

2)1)で見つかった語を起点に変更し,同様の操作を

行う.これら

2

つの操作について,kの数を増加させ ながら探索を行う.

アンケートで気づきにつながったと回答した人が多 かった議論テーマ

1

のグループ

a3

と議論テーマ

2

の グループ

a1

において,それぞれの議論テーマ語の

いじめ”と

“戦争”

を探索の起点とし,それぞれのネッ トワーク図内に提示された他グループ語に到達するま での経路探索を行った.探索範囲の閾値である

k

をそ れぞれ

10

50

100

200

500

1,000

2,000

4,000

まで増加させた際の経路数の結果をそれぞれ図

11

と 図

12

に示す(グラフは両対数表示).また図

13

は共 起探索の例である.

11 Wikipediaデータベースにおけるいじ と提示された他グループ語の共起探索 結果

Fig. 11 The co-occurrence search from

”bullying” to suggested other group’s words in the Wikipedia text database.

探索の結果から,議論の中で気づきにつながったと アンケートの自由記述欄にて回答された他グループ語

“家庭”

“環境”(図 11

の赤線部)と

“運転”(図 12

12 Wikipediaデータベースにおける戦争と提示された他グループ語の共起探索結果 Fig. 12 The co-occurrence search from ”war”

to suggested other group’s words in the Wikipedia text database.

13 Wikipediaデータベースにおけるいじ を起点とした共起探索の例

Fig. 13 The example of the co-occurrence search from ”bullying” in the Wikipedia text database.

の赤線部)は,そうでない語に比べ,探索範囲

k

が小 さい値で探索した時の経路数が多く,kの値が大きく なるほど経路数の増加量が減少する現象がみられる.

これは,探索範囲

k

を増加させればさせるほど,共起 探索で到達する経路の幅が増え,様々な文脈で出現す るような一般語に到達する経路数が増える傾向がある 一方で,特定の文脈の中で,それぞれ特徴的な意味を もつと考えられる語(例:“いじめ”における

“家庭”,

“環境”)は,限られた共起の範囲内で強い結びつきを

有する可能性を示している.議論の中で気づきにつな がるシステムからの提示語としては,議論テーマ語と の共起関係の中で,特定の文脈で出現し,より具体的 なケースがイメージされるような語が有効である可能 性が高い.共起経路探索では,計算コストを考慮し経 路長を限定して探索を行ったが,経路長を変更した探 索や議論テーマにおける他の頻出語も組み合わせた探

(10)

Vol.23, No.4, 2021

索などを行い,気づきにつながった語と議論テーマの 関係性をより詳細に分析することで,気づきに対して より有効な提示語の選別をすることができると考えら れる.本実験におけるシステムでは,他グループ語の 選定において,単語の頻度を基準とした選定を行って いたが,語の共起関係についての指標を他グループ語 選定の仕組みに組み込むことで,より効果的な気づき へとつなげることができると期待される.

5.

考察

5. 1

気づきを与える効果的な提示語

実験データおよびアンケート結果から,議論テーマ

1

においては,“家庭”と

“環境”

が,議論テーマ

2

にお いては,“運転(自動運転)”が,それぞれ他グループ 語として新しい気づきを促す有効な単語であったこと が確認できた.また,Wikipediaデータを対象にした 共起経路探索の結果から,これらの単語は,議論テー マ語に対して限られた共起の範囲内で強い結びつき を有する傾向がみられた.これは,議論テーマ語との 共起関係の中で,特定の文脈で出現し,より具体的な ケースがイメージされるような語が気づきに有効であ る可能性を示している.あるテーマに対して議論が行 われているとき,そのテーマに対して関連性が強い単 語は,発言の中で高頻度で出現すると考えられ,例え ばこれらは,議論テーマ

3

における,

戦争

“AI”

な どの単語がそれに該当する(図

14

).それに対して,

責任

自動運転

のような単語は,テーマに対し て必ずしも高頻度で出現するような単語ではないが,

議論の中で切り口になるような重要な単語である.実 験結果にも傾向がみられたように,自分たちにはない 別の視点,考え方への気づきとなる語としては,議論 テーマに対して具体的なケースが想起されやすいよう な語が有効である可能性が高い.一方で,気づきに有 効である提示語は,単語自身がもつ特性だけでなく,

議論の進捗状況や扱う議論テーマによっても変わるも のであると考えられるため,議論テーマに対して具体 的なケースの想起を促す単語だけでなく,議論の状況 や特徴について細かい粒度で評価を行い,その状況に 応じた提示情報の選択を行うことが,より効果的な気 づきを与えるために重要であると考えられる.

5. 2

システムの利便性について

アンケート項目の「議論をする上で,システムの利 用が負担になっていなかったか」の結果(表

2)では,

参加者の

9

割が負担ではなかった,または,あまり負 担ではなかったと回答しており,自動音声認識の導入 による議論データ入力方式の変更は,システム利用者 の負担を軽減する効果があることが確認できた.一方 で,アンケートの自由記述の欄において,ディスカッ ション中は議論に集中していてシステム画面を見るこ

14 ネットワーク図ツリー表示の一部:テーマ

「人工知能と安全保障」

Fig. 14 The tree visualization - The part of network diagram : the theme ”Arti- ficial Intelligence and National Secu- rity”.

とが少なかったと回答している人が数人程度みられた.

ディスカッション中は,議論メンバーの顔を見ながら,

発言したり,話を聞いたりするが,議論がヒートアッ プしてくるとその傾向は顕著になる.音声入力やシス テム画面の自動更新などの機能により,ユーザはシス テムを操作する作業が減り,負担は軽減されていたが,

議論に集中してくると,画面を確認する回数が減り,

随時更新されるネットワーク図の変化を読み取ること が難しかった可能性がある.今回の議論では,ネット ワーク図を確認する時間や得られた気づきをグルー プ内で共有する時間は設けておらず,画面を確認する 頻度等は参加者に委ねていた.そのため,共起ネット ワークから議論の状況やキーワードなどの情報を読み 取るのは,理解度や速さに個人差があり,議論の際中 に,ネットワーク図から得られた情報を等しく議論メ ンバー全員で共有することは困難であったと考えられ る.また,上記の要因に加えて,可視化情報を用いた 議論支援において,議論参加者が目の前にそれぞれ配 置されたノート

PC

の画面からネットワーク図を確認 する場合,画面を確認している間は,議論に参加する ことが難しいという問題も考えられる.議論中,無言 になり議論が停滞してしまうことを避けたい人やシス テム画面確認後に途中から議論に参加することに負担 を感じる人は画面をあまり注視しない可能性がある.

利用者の議論進行の妨げや負担にならない範囲で,

気づきに関する情報を効果的に提示するためには,シ ステム画面からの情報提示ではなく,異なる提示方法 を検討する必要があるだろう.例えば,視覚的な提示 に加えて,音声による働きかけを行うことができれば,

議論メンバー全員が同等にシステムからの情報を受け

(11)

取ることができ,その情報をもとにした,議論の解釈 および進行を容易に行うことができる可能性がある.

また,音声と視覚情報を組み合わせ,音声アナウンス によって更新された視覚情報への注意を適度に促すと いう方法も考えられる.

6.

まとめ・今後の展望

本稿では,多様な価値観への気づきを与えることを 想定し開発している

AIR-VAS

システムの概要を説明 し,グループディスカッションの中で利用することを 想定して,作成したプロトタイプシステムによる議論 実験を行った.実験の結果から,システムからの他グ ループ情報の提示が,議論中の出現単語の複雑度とい う観点からみた議論の多様性において,一定の貢献が あることを確認できた.また,気づきを与えるために 提示する語として,議論テーマに対する問題点や具体 的なケースが想起されやすいような単語を選ぶことが 有効である可能性が示唆された.一方で,議論の中で システムがリアルタイムに気づきを与えるためには,

提示の方法などに工夫が必要であることなど課題も認 識できた.今回,実装したシステムでは,システムか ら一定の頻度で,自分たちの議論には出ていない他の グループにおける頻出単語をネットワーク図上に表示 する機能を実装したが,より有効な気づきの提示を行 うためには,頻度だけでなく語のもつ性質に踏み込ん だ選定の仕組みが必要不可欠であると考えられる.今 後は,実験結果から得られた,気づきを与える語とし て有効であった語の特徴を参考にして,他の価値観・考 え方への気づきとなるような提示内容選定の仕組みの 再検討を行っていきたい.また,システムからの情報 提示方法として,ネットワーク図のような視覚情報だ けでなく,対話ロボットからの音声でのサジェストな ど,気づき支援としてより効果的な方法も検討したい.

謝辞

本研究は,科学技術振興機構(JST)社会技術研究開 発センター(RISTEX)多様な価値への気づきを支援 するシステムとその研究体制の構築(JPMJRX16H2)

の助成を受けたものである.また,本研究を行うにあ たって,AIR研究グループメンバーから様々なご意見 をいただいた.

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202129日受付,626日再受付)

著者紹介

吉添 衛

2019年立命館大学院情報理工学研究科 博士前期課程修了.現在,同大学院情報 理工学研究科博士後期課程在学中.議 論支援システム,情報技術による価値 観の表現や意思決定などの研究に従事.

人工知能学会学生会員.

服部 宏充 (正会員)

2004年名古屋工業大学大学院工学研究 科博士後期課程修了.博士(工学).同 年日本学術振興会特別研究員(PD).リ バプール大学,マサチューセッツ工科 大学客員研究員,京都大学大学院情報 学研究科助教を経て,2014年立命館大 学情報理工学部准教授.2020年同教授.

マルチエージェントシミュレーション,

社会システムデザインに興味をもつ.人 工知能学会,情報処理学会,ヒューマ ンインタフェース学会,ACM等会員.

江間 有沙

2012年東京大学総合文化研究科博士課 程修了,博士(学術).現在,東京大学 未来ビジョン研究センター特任講師,理 化学研究所革新知能統合研究センター 客員研究員.専門は科学技術社会論.

大澤 博隆

1982年神奈川県生まれ.2009年慶應 義塾大学大学院理工学研究科開放環境 科学専攻博士課程修了.2013年より 現在まで,筑波大学システム情報系助 教.ヒューマンエージェントインタラ クション,人工知能の研究に幅広く従 事.2018年よりJST RISTEX HITE プログラム「想像力のアップデート:人 工知能のデザインフィクション」リー ダー.共著として「人狼知能:だます・見 破る・説得する人工知能」「人とロボッ トの〈間〉をデザインする」AIと人類 は共存できるか」「信頼を考えるリヴァ イアサンから人工知能まで」など.マ ンガトリガー『アイとアイザワ』監修.

人工知能学会,情報処理学会,日本認 知科学会,ACM等会員,日本SF作家 クラブ会員.博士(工学)

神崎 宣次

倫理学者. 南山大学国際教養学部教授.

2008年京都大学より博士(文学)取得.

現在の研究テーマは人工知能の倫理,(情 報技術を含む)都市の倫理など.日本 倫理学会,応用哲学会,人工知能学会 等会員.

久木田 水生

2005年,京都大学博士号(文学)取得.

現在,名古屋大学大学院情報学研究科 准教授.専門は哲学.研究テーマは技術 哲学,コミュニケーションの哲学など.

小川 祐樹

2011年電気通信大学大学院情報シス テム学研究科博士課程修了,博士(工 学).現在,立命館大学情報理工学部 講師.専門は計算社会科学,研究テー マはソーシャルメディア,社会シミュ レーションなど.

(C)NPO法人ヒューマンインタフェース学会

参照

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