社会的レリバンスの構築を目指した授業研究の方略 ― 米国社会科教育は子どもの学びへの動機をどのように扱ってきたか ―
10
0
0
全文
(2) 社会科教育論叢 50,2017. てきた。しかしながら,それらは往々にして「教. ナーの研究を基盤とした内発的動機と外発的動機. 師の切実性」と「子どもの切実性」の関係が曖昧. の特徴から整理し,“認知的行動の修正モデル. であること,デューイが本来的に示す「問題発見」. (Cognitive Behavior Modification,以下 CBM と. を含み込んだ問題解決学習が展開されていないこ. 略 記 )“ と い う 動 機 モ デ ル を 提 案 し た(Stipek,. と,また問題を存在論的に扱う事例が多かった。. 1995)。この CBM モデルは,子ども自身が自身. すなわち,子どもを「切実に動かす」ための存在. の行動を確認しながら修正してゆくことを目的と. 論的な問題設定がなされ,子どもが持つ既存の価. する。CBM に従った学びは,子ども自身が学びの. 値観や思想を子ども自身の動機によって自主的に. 過程や目標を自身でモニタリングし,そこに基づ. 揺さぶるものは少ない。また,教室内の文脈の中. く学びを自身で生み出すように学び方を修正して. で擬似的な解決が目指されるため,実際は解決出. ゆく。それまでの動機の定義が学びを引き起こす. 来ない可能性を内在している現実社会との齟齬が. 認知的な分析であることに対して,スタイペック. 生まれるものもある。ゆえに,①事前に授業テー. は子ども自身のセルフ・スタディーを重視し,学. マに関わる子どもの認識・関心・切実性を調査し,. びを修正するための行動的な分析モデルを示した。. ②子どもの切実性が生み出される社会文化的な文. これらの知見を生かして,ガイは動機を「行動. 脈を分析し,③子どもの切実性を活用することで. の根源的な理由」と定義し(Guay, 2010),教育. その社会文化的状況を批判的に検討し,④それを. 活動における子どもの動機付けの重要性を改めて. 通して授業と現実社会の関係を検討する学びの検. 指摘した。しかし,動機を引き起こす要素は極め. 討は行われてきていない。教科教育学における社. て複雑であり,そこには子どもがすでに持つ信念. 会科教育学の位置と意義が問われている現在,社. や認知,価値,興味,全てが密接に関連している。. 会科授業・子ども・現実社会の関係を再度検討し,. そのため,動機によって引き起こされる行動は,. 社会科教育学が担うべき社会的レリバンスを再検. 認識しているものと認識していないものもあり得. 討することが求められている。. ることが指摘された(Emily, 2011)。. そこで本稿では,米国社会科教育研究を対象と. 上記のような心理学領域の研究を受け,学校で. し,子どもの動機(学びへのモチベーション)や. の学びも変容してきた。リンレイ・アンダーマン. 切実性と社会科教育研究・実践の関係がどのよう. は内発的動機・外発的動機を引き受け,学校での. に捉えられてきたのか整理してゆく。. 学びが入試突破や効率的な学習が求められている. 2.米国社会科教育学研究における子ど もの文脈 (1)教育学研究における子どもの動機. 状況に触れ,学びの変革が必要であることを指摘 した。氏は,学習環境の重要性を論じ,認知心理 的領域とそれを基底する学習環境の複合的な分析・ 設計の必要性を指摘した(Anderman, L, 2011) 。そ. 米国において子どもの興味関心と教育目標・内. の中で,氏は“goal orientation”というキーワード. 容・方法の関係は,常に研究・論争の対象となっ. を用いて,到達目標を基盤とした学習環境の設計. てきた。それは,デューイの議論を出すまでもな. を主張した(Anderman, L, 2012)。リンレイ・ア. く,教育学者と心理学者の間で数多くの論争が展. ンダーマンと同じオハイオ州立大学教育学部に勤. 開されてきた。例えば,ターナーは動機(モチベー. 務するエリック・アンダーマンは,この goal を. ション)を「自分自身が高いレベルで調整できる. 理解と技術の二つに分類して整理し,各々を学級. 学びの方法論」と定義し,学びへ向かう方法に基. 全体で達成することを主張した。理解の達成とは,. づき動機を説明した(Turner, 1995)。これは,. エイムズが提起した概念フレーム(Ames, 1992). 動機を「理解から生まれる学習の楽しみ」と定義. に基づいたもので,活動・生徒と教師間の権利と. し,学びの内容(理解)に基づき説明する文脈. 責任・認識・集団活動・評価・柔軟な時間設定の. (Gottfried, 2001)とは異なる。スタイペックは多. 6つの要素に基づき,学びと活動を連結させた一. 様な動機の定義を歴史的な文脈で整理し,スキ. 連の実践を組織することである。技術の達成とは,. ― 82 ―.
(3) 社会的レリバンスの構築を目指した授業研究の方略(田中 伸). 自身の認識や認知を外在化させることを目的とし,. 学習は,共に知識・教養・問題・観点や視点が先. 実験結果を他者へ説明する活動や,学んだ知識に基. に置かれ,その理解や分析,解釈を目的とした目. づき社会参画等の取り組みをすることを指す。エ. 的論的な学習が展開され,子どもの認識や思想は. リック・アンダーマンは,この両者は不可分の関係. 議論の外に置かれているものが多かった。. であり,両方を達成することが子どもの動機を育成. 新社会科の様々なプロジェクトが開発される中,. し,活用した学習環境デザインにつながることを指. 1980年代にかけて学校全体では Effective School の. 摘した(Anderman, E. M, 2012) 。. 取り組みが進み,より効果的な授業や学校経営のあ り方を探る研究が行われ,基本的な知識やスキルの. (2)社会科教育研究における子どもの動機. 獲得度合いを教師の指導法(インストラクション). 上記に示した心理学や教育心理学の研究成果. と結びつけて検討する取り組みが進んだ(Brokover,. は,社会科教育領域にも徐々に影響を与えていっ. W., Beady, C., Flod, P., Schweitzer, J., & Wisenbaker,. た。サマーズは社会科授業を教養教育として行う. 1979) 。しかし, これらの研究でも, 子どものモチベー. のではなく,子ども達が授業で自身の関心を表明. ションは必ずしも大きな議論にはならなかった。. できるような価値的な学習を展開することで,子. では,子ども達の動機(学びへのモチベーショ. ども達が社会科の教育内容に興味を持ち,現実社. ン)と社会科教育はどのように接続してゆくのか。. 会への関心を高めることが出来るとする. 例えば,オリバーとランプは社会科の存在意義が. (Summers, 2008) 。また,マンフラとリーは,社. テストと結び付けられていることを指摘し,外発. 会科の学びが全く子どもの関心を喚起せず,現状. 的動機のみで教科学習が展開されていることを指. の授業は彼らの社会的関心や社会参加を促してい. 摘する(Oliver & Lumpe, 1996) 。また, マーティン,. ないことを指摘した上で,子どもの認識や価値観. ワインバーグ,ウィルソン,フレイザー,ベイ. を授業で活用することで,彼らの切実性を喚起す. フォード,トッドらも,米国社会科と子どものモ. る社会科教育の学習が可能であることを論じる. チベーションの関係を指摘する。それらは,子ど. (Manfra & Lee, 2012)。その際,彼らは子どもた. ものモチベーションが社会科学習の引き金(トリ. ちの身近にある SNS やインターネットブログを. ガー)になることを論証しながら,それが叶って. 授業へ応用することを提案する。2000年代以降は,. いない現実の状況や改善のあり方を論じている。. このように子どもの興味関心を喚起し,彼らの視. このように,1990年代以降になると社会科教育研. 点を社会へ向けるための研究がなされた。. 究領域において,子ども理解・調査を目的とした. しかし, 米国社会科教育研究での主要な議論は,. 調査研究がすすめられてきた。. このような子どもの認識に関するものではなく,. この影響下の中,米国社会科教育研究は,具体. 長らく社会科教育内容の選択における社会諸科学. 的な子どもや学級へのフィールドワーク,及びア. と社会問題の関係であった。1960年代以降にみら. クションリサーチに基づき,子どもの関心と社会. れた米国新社会科期では,社会諸科学を学ぶ学習. 科の関係を分析する研究が現れてきた。先駆的な. と社会問題学習を行う数多くのカリキュラムや教. 実証研究を行ったニューマンは,中等学校での調. 材・プロジェクトが開発された。前者は主に教養. 査に基づき生徒のエンゲージメントの重要性を指. 教育・科学教育が中心である。後者は若干複雑で. 摘し,十分に達成した場合は事象の理解だけでな. 様々な流派の違いがあり,ヘスは多様な社会的論. く,批判的思考等のスキル育成へも大きな効果を. 争問題学習の提唱者を分析し社会的に隠蔽されて. もたらすことから,教師が授業を設計する際には. きたタブーを取り上げる教科論としてハントやメ. 子どもの認識や観点を考慮する必要性を指摘する. トカーフらのアプローチを取り上げ,政治的課題. (Newmann, 1992)。フースタインは,中学生を. を取り上げる論理としてオリバーやシェイバーら. 対象にどのように彼らが自国史(米国史)の学習. のアプローチを示し,社会問題学習の特徴を整理. へ関心を持つかを歴史教師18人と生徒60人に対し. している(Hess, 2008)。しかし,新社会科期の. て調査を行い,教師は子ども達が持つ歴史認識,. ― 83 ―.
(4) 社会科教育論叢 50,2017. 興味,価値,歴史的体験,歴史を学ぶ意義を捉え. もが自身で見つけた問題では大きく異なるが,80年. ることが必要であり,それらを実社会と繋げる活. 代末まではそれほど議論がなされてはこなかっ. 動的な学びを組織することを論じる(Hootstein,. た。しかし,子どもの認識や動機と社会科学習の. 1995) 。. 相関関係が明らかにされたことで,米国社会科教. ハーンは civic knowledge という新たな概念を. 育研究の論理が大きく変容した。. 導き出し,社会科における知識論を再解釈し,教. ジルーは,学校や授業には権力性がつきまとう. 養教育と市民的資質育成の二者を結びつける論理. ことを指摘する(渡部,2014)。現在は,子ども. を展開し, (Hahn, 1996)中学生へのインタビュー. の認識や文脈を重視することで,無意識には見え. 調査を踏まえて子ども達が考えている国家と自身. ない政治や社会の権力性へ着目した実践や調査研. の関係を分析している(Hahn, 1999)。同様に,ソー. 究を基にした教師のインストラクションの方略を. ントンも多数の米国社会科教育実践を社会諸科学. 示す研究が増えてきた。すなわち,かつて開発さ. 教育と社会的論争問題を扱う社会的教育と整理し. れた様々なプロジェクトやプログラムのように社. た上で,両者を対立するものではなく,複合的に. 会問題学習を講義で設定するだけでは不十分であ. とらえ直した社会科教育論を展開し,そこでは子. り,目前の子ども達の認識に応じた教科内容や方. どもが主体的に学習するための教師のゲートキー. 法の選択が迫られている。バートンらの指摘は,. ピングを主張した(Thornton, 2004)。. 子どもの認識や学びへの動機を生かした新たな教. そのような中,特質すべきはバートンとレヴス. 科論の可能性を提起している(Tanaka, 2016)。. ティックの研究である。彼らは,子どもが持つ歴. なお,子どもの動機・社会科授業・社会の関係. 史認識・歴史理解の傾向と課題・問題点を事前に. を意識的に示した研究は,フィンのものが先駆的. 調べ,彼らの思考パターンを捉える必要性を指摘. であろう。フィンは,学校と実社会が離れている. する(Barton & Levstik, 2004)。例えば,教師は. ことを指摘し,それが学校からのドロップアウト. 子ども達が持つアメリカ独立革命や公民権運動,. を促す要因になっていることを指摘したゲイツ財. 権利章典に対する理解を捉え,彼らがどのような. 団の報告書を用いながら,学校や授業での社会参. 過程でそれらに対する一定の理解を持ったのか,. 加が彼らの社会参画意識や行動規範の反省へ大き. また,その認識を強固する作用を及ぼす教科書記. な影響を与えることをモデル的に示している. 述や博物館,地域教育の場など,複合的に彼らの. (Finn, 1989) 。また,氏は別の論文でこのような. 認識形成過程を捉えてゆく必要性を論じる。また,. 学習が学校への貢献や所属意識を育成することも. 彼らは歴史を学ぶ際の子どもの能動性をも調査対. 示している(Finn, 1993) 。先述のニューマンも,. 象とし,歴史の分析・解釈,博物館訪問,歴史談. 子どもの参加を促す学習が社会科授業の改善し,. 義等に対しての興味関心,及び能動性を調査して. それが学校改善へと繋がることを指摘する. いる。そこでは,学習やインタビュー調査などの. (Newmann, 1992) 。社会科教育実践・社会・子ど. 様々な文脈で新しい歴史解釈に出会った際,彼ら. もの文脈の3者を繋げることが社会に開かれた学. がその情報を蓄積するのか,分析するのか,解釈. 習を促し,社会的レリバンスを達成するという論. するのかなど,情報に対する彼ら自身のスタンス. 理である。. までをも調査する。米国社会科教育研究は,子ど もの認識調査やその活用へと展開をみせている。 上記の研究は,社会科教育のカリキュラム論を. 3.子どもの動機に基づく社会科教育研究 (1)子どもの認識を活用した対話的教育. 大きく変えてゆく論理である。従来は,多くの米. 子どもの文脈に着目した学びでは,授業を生徒. 国社会科教育研究者が指摘する通り,社会諸科学. 中心の対話や議論を基に設計する実践が数多くみ. を基盤とした教科内容を重視する教科論が席巻し. られる。米国では1960年代からこのような対話に. ていた。これは社会問題学習についても同様であ. 基づく教育論が多数開発・実践されてきた。例えば,. る。学びの切実性は,教師が設定した問題と子ど. 1960年代末にリップマンが開発した Philosophy. ― 84 ―.
(5) 社会的レリバンスの構築を目指した授業研究の方略(田中 伸). for Children(以下,P4C と略記)である。P4C と. く。その原理はパウロ・フレイレの思想であり,. は,社会問題や論争を対話により探究する場を構. 学習へ子どもを巻き込むことを企図する。そのた. 築することである。現実社会の文脈の中で,様々. め,学習では時に暴力や性差別,商業主義等,子. な見方・考え方が立論可能な事例を対話に基づき. どもが日々直面している現実社会の文脈を取り込. 分析・解釈してゆく2)。. み,それらを批判的に解釈してゆく。学習はあく. P4C が持つ代表的な思想は,子どもの認識に. までも子ども中心であり,子どもが活動的かつ協. 基づいて探究としての学びを展開する点である。. 同的に政治・文化を批判的に研究してゆく。この. 子どもが持つ既存の理解や観点を活用しながら対. ような協同作業は,子どもを中心とした考えるコ. 話を行うことで,自身の認識を反省してゆくので. ミュニティーを作り出すことに繋がり,学習を通. ある。すなわち,子どもは自身の価値観や視点を. して友人間の信頼や学びのコミュニティーの復権. 授業で表明し,それを議論や対話によって様々な. をも促す(Sabbaghm, 2009) 。HHP の理論的枠組. 根拠や視点・観点から批判的に反省してゆく。. みとされる“Beat Rhymes Classroom Life”を出版. P4C に基づく実践は,近年,日本においてそ. したヒルは,HHP は文化研究理論であるカルチュ. の多くが道徳教育や総合的な学習の時間で展開さ. ラル・スタディーズを批判的教育論として発展さ. れている。それらは,世間で常識や規範とされる. せたものであることを指摘する(Hill, 2009) 。. ルールやモラルを原理的に再検討してゆくものが. HHP の目標は学校内外で子どもたちが消費し. 多い。従来は哲学領域がメインであった P4C を. ている文化的テクスト(文脈)について批判的な. 社会科へ応用する研究の主なものとして P4CH. 対話を促すことである。主な内容は,対立的事象,. (Philosophy for Children Hawaii)におけるマカ. ジレンマ,矛盾などであり,人種,階級,ジェン. イアウらの研究がある(Makaiau, 2012, 2013)。. ダー,セクシャリティーなどのテーマ等にみられ. 彼女は,P4C を用いた社会問題学習の意義と可. るような,子どもたちの信念や価値観に挑戦する. 能性を論じ,当該の理論に基づく社会科教員養成. ものを取り扱う。方法は批判的対話を用いる。批. の視点も合わせて提起する(Makaiau, 2016)。一. 判的対話とは,分析,批評,文化的・社会的テク. 定の規範やモデルを教え込む学習ではなく,子ど. スト(文脈)の再生産 / 再構築である。核となる. もが自分自身の価値観や思想を表明しながら問い. 思想は批判的探究(critical inquiry)であり,ヒッ. を立て,それを対話の中で探究する学習論を,具. プホップ文化を社会のレンズとみなし,ヒップ ホップ文化が表出する社会を読み解く学習を行う. 体的な実践とともに示している。. (Tinson & McBride)。HHP の核となる教材は音 (2)Hip Hop Pedagogy にみられる現象学的教. 楽である。授業の例は大きく2つあり,第1は,. 育論(Phenomenographic Education). 歌詞の読み解き,曲が作り出された社会文化的文. 近年米国で注目を集めている対話的教育論とし. 脈,曲の社会的機能等の分析である。特定の音楽. て,Hip Hop Pedagogy(以下,HHP と略記)が. やアーティストを取り上げ,曲や歌詞が内在する. ある。HHP とは,ヒップホップ音楽を授業に取. 社会的文脈や主張,異議申し立て,思想を解釈し. り入れた教育論である。主な提唱者はコロンビア. てゆく。第2は,社会問題を曲で表現(フリース. 大学教員養成学部の Christopher Emdin である。. タイル・ラップ)する。社会を自分で分析・解釈. 現在,全米の125以上の大学で Hip-Hop Studies. し,分析結果や主張を曲で表現する。. のコースが設定され,ペンシルバニア州ニュー. ヒップホップを用いた学習は米国で1970年代か. ジャージでは,810ある学校の内,64の学校でカ. ら始まった。当初は黒人やラテンアメリカ系の若. リキュラム化されている(Connor, 2016)。. 者がたくさん住むニューヨークで取り入られた。. HHP は現象学的研究方法論(Phenomenological. しかし,ヒップホップ音楽が若者向け音楽として. research Methodology)を基盤とし,社会の現. メジャーになるにつれて,1980年代から90年代に. 実や子どもの文脈から教科論をデザインしてゆ. は様々な場所で実践がなされるようになる。その. ― 85 ―.
(6) 社会科教育論叢 50,2017. 後,2000年代になると当初は抵抗としてのヒップ. する主要な見方・考え方・視点を批判的に探究す. ホップが,様々な文化を表象したものと変容し,. 3) 。 る 教 育 論 で あ る と 指 摘 す る(David, 2007). 文化的生産物としての色彩が濃くなり,この時期. HHP は,学校における教師のインストラクショ. に教育論として確立した。アポンテは,HHP 成. ンを子どもを巻き込む方略へと原理的に変革する. 立 の 背 景 と し て 米 国 に お け る No Child Left. ものである。. Behind Act’s(NCLB 法)が,貧困層や学習困難 な若者を置き去りにしてきたことを指摘し, 「米. (3)HHP に基づく授業デザイン. 国公教育の失敗は,すべての子どものニーズを捉. 米国では HHP に基づく教科書が発行されてお. えるための実践研究がなされてこなかったことで. り,そこには音楽,国語(英語),美術,社会科,. ある。教師は,授業において生徒のパートナーと. 歴史,数学,科学など,様々な実践事例が示され. して,彼らの学びの過程を保証できる様な内容と. ている。各事例ともに,単元名,対象学年,時間. 方法を選択することで,生徒を授業へ巻き込まな. 設定やワークシート・資料も示されている。教師. くてはいけない」と指摘する(Aponte, 2013)。. が学校現場でそのまま活用できるワークブックの. NCLB の失敗が,HHP の成立を促したという指. ような形式をとる(Runell & Diaz, 2007)。本教. 摘である。. 科書の全体構成を示したものが表1である。. コナーは,同様に HHP が提唱される背景とし. 本教科書の特徴は3点である。第1は,「つま. て「多くの新人教師,ベテラン教師は,多様な学. み食い」可能な構成を取っていることである。本. 習者のニーズに十分答えることができていない。. 教科書の内容構成に順序性は無い。好きな単元を. 一方で,現象学的(Phenomenographic)な研究. 抽出し,自由に実践可能としている。また,教科. 実践は,生徒を学びへ意識づけることが出来ると. の縛りも無いため,教師が適宜異なる領域で自由. いうデータがある。学校や生徒が直面する信念を. に活用出来る構成となっている。これは,近年,. 扱い,探究するためのコミュニティーを作り上げ. コンピテンシー育成論に基づき教科の枠組みが揺. ることが,生徒を主体的に学びへ参加させること. らいでいる米国において,本書は教師がクロスカ. を可能とする」と指摘する(Connor, 2016)。氏は,. リキュラムの観点を含めて自由に授業をデザイン. 教師にとって最も大事なことは,子どもを個々人. することを可能としている。第2は,現実社会と. として捉え,彼らが持つ既有の知識を知り,彼ら. そこに生きる子どもから学習を設計している点で. の関心を捉えることであるとする。すなわち,子. ある。本書が扱う事例は,現実社会に見られる個. どもが知りたいことや興味,その優先順位を知り,. 別具体的な事例である。また,その多くは子ども. それを授業へ取り込むことである。教師のインス. 自身が直面している政治・社会問題や個々人のア. トラクションは,彼らが持つ社会的・文化的文脈. イデンティティーに関わる事例であり,子ども自. に根ざした知識や認識を再構成する学習を組むた. 身が意識的・無意識的に関わらず巻き込まれてい. めに子どもが持つ知識や関心を捉え,授業デザイ. るものが多い。それを米国の若者に浸透している. ンへ活用することであるとする。. ヒップホップ音楽を視点に解き明かしてゆく。第. HHP の研究課題(Research Question)は①教. 3は,教師が社会と協働で教材を開発している点. 師はどのようにして子どものニーズに応えられる. である。表1に示した通り,授業開発者は学校教員,. か,②教師の経験値を生かした教材研究のあり方. 大学研究者,出版社や企業勤務,社会運動家など,. は,③子どもの多様性を基盤とした教材研究のあ. 様々であり,各々の専門やキャリアパスも大きく. り方は,④何が教師の実践と教材研究の質を高め. 異なる。各々の領域の専門家と学校教育の専門家. るのか,の4点である。HHP は,授業設計だけ. が協働することで,子どもにとって「リアルな」. でなく,学習環境をどのようにデザインするか,. 学習を追求している。. また教師によるインストラクションの方略をも射. ここでは,社会科系の授業として事例を2つ取り. 程に入れる。デイビッドは,HHP が社会を支配. 上げる。第1は,9学年から12学年を対象に設定さ. ― 86 ―.
(7) 社会的レリバンスの構築を目指した授業研究の方略(田中 伸). 表1 HHP に基づく教科書の内容構成 内容構成. 想定されている 教科領域. 授業開発(実施)者のキャリア. 学習の要点. 大学の人類学・社会学部所属。また,グロー バル・アフリカン・スタディーズ学科にも 兼務し,女性の労働や黒人女性の権利や人 権,階級等の研究を進める。 教育学部出身,学位(修士),専門:教 育政策・都市教育, 現在は初等・中等教員。. 桃太郎の物語が現在まで受け継がれている理由,この民話を後世へ伝承す る価値の有無を考える。その上で,現代版桃太郎を執筆し,ラップに乗せ て表現する。. 1.リテラシーと英語 Lesson1. 現代版桃太郎: ヒップホップにお 言語,ESL ける民話. Lesson2. 詩や物語における視覚 言語(Visual Language)言語 の認識と活用. Lesson3. 自分自身を立て直 言語, す:ヒップホップ Creative と自伝 Writing. Lesson4. 読み書き活動. 言語. Lesson5. 詩を書く. 国語. 2.歴史,グローバルスタディーズ,地理. Tupac 氏のラップを参考に,自身の経験や体験,来歴を書き出す。その後, 自身の経験を他者と比較するためのルーブリックを自分で作成し,それに 基づいて少人数で違いに比較を行う。 ニューヨークブルックリン生まれ。高校 前時の活動に基づき,自身を他者へ説明する。その際,人種・階級・自身 時代は公的機関による放課後プログラム の来歴への批判的検討を必ず行い,自身に対する振り返りを社会の側面か を受けていた。現在は,教育者として,ら説明する。 学習環境等改善に関わっている。 教育学部出身,学位(修士) ,専門:リテ Bill Cosby 氏の曲を参考に黒人の若者に対する社会的現実を整理する。そ ラシー教育,現在は特別支援学級の教員。 の上で,社会,文化を視点に,自身が直面している社会問題の状況と原因 を書き出し,批判的に分析する。 専門は詩と芸術。初等学校の教員をしな Run DMC 氏の“Hard Times” (社会問題,国際社会を歌うラップ)などを事例に自 がら大学でも社会正義の講義を持つ。 分自身で詩を書く。その際,社会科・科学・言語で学んだ学習と結びつけて考える。. 元教員。現在は大学で教鞭をとりながら,Jim Crow 氏が描いたアフリカ・アメリカ人に対する人種差別,Goodie 初等中等学校の学校政策担当教員。 Mob 氏 の ”Good Nigga” ,Assata Shakur 氏 の ”The government’s Terrorist is our community’s Heroine”などを事例に,社会的な差別を 生み出す原因を議論する。 International 社会科,グロー 教育学部出身,学位(修士),専門:社会 国際的なヒップホップアーティストに関わる事例(出身国,出身地,ミュー Lesson2 Hip-Hop Geography バルスタディーズ 科教育,現在は高校で社会科を教える。 ジックビデオの撮影地など)を用いて,世界の地理を理解する。 教育学部出身,学位(修士),専門:リ 無知,予言,天罰,嫉妬,敵意,不誠実など予言や提唱に関わる10個の言 Lesson3 予言とは何か? 言語 テラシー教育,現在は初等・中等教員。 葉を定義する。その後,他者による予言を批判した曲を視聴・分析し, 「予 言者(提唱者)に依存する」という思想のメリットとデメリットを議論する。 私は誰か? DNA 経営学部出身,学位(MBA),専門:学 DNA の有効性と限界を調べて理解した後, 「自分自身を同定(identify) を用いて祖先と文 世界史,科学, 校経営,現在はアフリカ系アメリカ人の するものは何か」という問いを議論する。また,ヒップホップ音楽と文化 Lesson4 化的アイデンティ 言語,地理 ル ー ツ を 探 る 企 業(African Ancestry)におけるアフリカ系人種の世界的な重要性も合わせて理解をする。 (文化 ティーを確定する の経営者。 を継続と断続の両面から分析する) 3.音楽,数学,科学 中等学校の教員。「ラップの数学者」とい 個々人や家計,国家の収入と支出,借金などを取り上げ,各項目を積極的 ナンバーラインダ う異名を持つ。「数学ラップ」を通して学 選択・消極的選択の2択から判断する。その際,床にラインを引き,その Lesson1 数学 ンス 力底辺校の子供達の学力向上に努める。 左右を往来するダンスを用いて,消費行動を考える。 教育学部出身,学位(修士),専門:社 乗法,両替,正負の数の概念を理解する。教師が実社会で計算が求められ 数学の旅:国際的 会科教育, 現在は高校で社会科を教える。 る具体的な16個の問いを生徒へ提示し,現実社会における数学の有効性を Lesson2 な文脈へ数学的ス 数学 (2-Lesson3と同人物) 理解する。その後,海外旅行を事例に気候変動やお土産を事例に地理的要 キルを適用する 素と数学との関連を考える。 マイクのチェッ ヒップホップ関連の雑誌編集社勤務。中 レコード会社の収支を事例に,CD や雑誌の売り上げ,及びアーティスト ク:数学的スキル 等学校,及び大学においてヒップホップ が受け取るロイヤリティーの計算を行う。その後,Mos Def 氏のラップを Lesson3 数学,歴史 を反省するための の授業を持つ。 事例に曲の歌詞を解読し,数字だけでは見えないアーティスト文化と,アー ヒップ・ホップ ティストを受け入れる社会の関係を分析する。 ブレイクダンスと筋肉 学位(修士),専門:哲学と宗教, 「寛容 始めにダンスの歴史を学び,ブレイクダンスと身体能力や身体機能との関 科学,医療, を基盤としたカリキュラム開発」に関わ 係を理解する。その後,身体を効果的に使う別のダンスを考える。 Lesson4 の仕組み:ダンスを通 体育 して人体を考える る教育チームに勤務。 4.リーダーシップとメディエーション 引用:ヒップホッ 心理・社会学部出身,初等学校教員。自 ヒップホップ音楽に見られる様々なステレオタイプを抽出し,それがどの リーダーシップ, Lesson1 プの歌詞を用いた 身で初等のカリキュラム開発を行う。 メディアか,また,それが発信されることによる(若者,社会,経済等へ 言語,社会正義 批判的思考 の)社会的な影響を分析する。 心理・社会学部出身,初等学校教員。自 ヒップホップ音楽を聴き,歌詞の意味,含意,信念や,曲が含みこむ身体 リーダーシップ, Lesson2 自己概念の理解 身で初等のカリキュラム開発を行う。 的・社会的・学術的な影響力を考える。その後,自身が社会に巻き込まれ 言語,心理学 (Lesson1と同人物) ているものとして自分の価値観や思想,将来像の可能性を考える。 誰があなたの道を歩い 教育学部出身,学位(修士),専門:カ 最初に生徒が持つ政府と民主主義に関する認識を調査する。その後,様々 ているのか?:民主主 公民,社会科, リキュラム開発。Human Writes Project な統治方法を理解し,民主主義が内在するイデオロギーを分析する。民主 Lesson3 義への招待,選挙の仕 アメリカ史,言語 所属。 主義の歴史を学んだ上で,若者が参加可能な民主主義の形を考える。 組みと教室の政治 教育学部出身,学位(修士),専門:リ Dead Prez 氏の“The Game of Life”の歌詞と,Walter Meyers 氏が執筆した Lesson4 人生はゲームである 言語 テ ラ シ ー 教 育, 現 在 は 初 等・ 中 等 教 員 Hoops を読み, 「人生はゲームである」という言説を批判的に検討する。その (2ー Lesson3と同人物) 後,この比喩を自分なりに解釈し,この言説に対抗するエッセイを執筆する。 5.メディアとテクノロジー 若者の雇用対策関係の仕事をしながら,人権,ヒップホップの定義,歴史,要素,有名なアーティストをインターネット 効果的なインター テクノロジー, ヒップホップの歴史,エイズの問題等に関わ を用いて検索・収集し,情報を個人・集団・全体で整理する。その後,イ Lesson1 ネット検索 言語 るワークショップやイベントを企画する。 ンターネットに掲載されている情報の妥当性と正当性を議論する。 使用されている用語「アイデンティティー」 「観点」 「経験」 生きていること:ア 高等学校教員。多様な文化を対象とした ヒップホップの曲を聴き, テクノロジー, の定義を考える。その後,だまし絵を用いて他者との認識の不一致を考える。最後 Lesson2 イデンティティー, 学習方法のデザインを研究する。 言語,社会科学 に 「ヒップホップはあなたにとってどのような意味があるか」 という問いを議論する。 視点と経験 6.社会正義,寛容,多様性 社会科,言語, 教育学部出身,学位(修士),専門:社 搾取やジェンダーの問題等を扱い,現代社会で引き起こる不平等や搾取の Lesson1 売春と性的搾取 アメリカ史,メ 会科教育, 現在は高校で社会科を教える。 問題を当該の問題を描いた歌詞の読み解きを通して議論する。 ディア学習 (2-Lesson3と同人物) 西洋諸国における 社会科と言語の教員。社会正義やコミュニ 過去の奴隷貿易の事実と解釈を扱いながら,それを描いているヒップホッ Lesson2 過去の奴隷コミュ 地理,世界史 ティーサービスの仕事に関わりながら,大 プ音楽を取り上げ,音楽文化と史実や社会問題との関係を議論する。 ニケーション 学向けのヒップホップ教育の普及に努める。 専門:社会正義。10年以上の教員ん経 自身のアイデンティティーを文章で示す。ここでは,自身が好きな音楽や 験があり,現在博士課程在学中。ニュー 場所,習慣,また所属する宗教や団体・文化などを表明し,そこへの所属 Lesson3 多様な私 公民,芸術,言語 ヨークタイムスや雑誌に記事を書くフ 意識を反省的に考えてゆく。 リーランスのライター。 社会科と言語の教員。社会正義やコミュ まずスプレー缶で絵を描く使い方を学ぶ。その後,実際に様々な場所に絵 スプレー缶の効果 芸術,社会正義,ニティーサービスの仕事に関わりなが を描く。その上で,絵の描き方や壁に描く意味を考え,絵が描かれた場所 Lesson4 的利用方法 身体学 ら,大学向けのヒップホップ教育の普及 と内容により社会へ発信するメッセージが異なることを議論する。 に努める。 (6-Lesson2と同人物) Lesson1. 自己嫌悪:融合を アメリカ史, 目指した結果 社会科,言語. 著者作成. ― 87 ―.
(8) 社会科教育論叢 50,2017. れた単元「International Hip-Hop Geography」で. 展学習としては,生徒各々が同様の問いを作る活. ある。本単元は教育学部出身で社会科教育を専門. 動や,別のアーティスト等へ調査を応用する活動. とする高等学校の教員が開発・実践したものであ. が示されている。. る。授業過程を示したものが,表2である。. 本学習の特徴は2点である。第1は,生徒のモチ. 本授業は,世界の地理や文化をヒップホップ音. ベーションを喚起する仕掛けである。問いに用いら. 楽を事例に分析するものである。まず,事前に教. れている音楽やアーティストは,全て若者世代が精. 師が問いを設定し,生徒は各問いに答えることで,. 通しているものである。それらと国や文化を結びつ. 諸 外 国 の エ ッ セ ン ス を 掴 む。 例 え ば,「DJ の. けることで,彼らの関心を喚起する。第2は,自身. Honda は,車やゴジラを輸出している小さな国. を文化の中に位置付けている点である。本授業の前. の DJ である。アメリカは,第二次世界大戦でこ. 提として,pure な文化は存在せず,それは各々が. の国に対して2度原爆を投下した」という問いか. 違いに影響をし合いながら作り出された媒体として. ら,DJ の honda 氏が所属している国(日本)を. 位置付けられている。そのため,展開5や6では文. 世界地図から探し出す作業を行う。同様の問いが. 化の変容を議論する活動が展開する。. 31個設けられている。その後,米国とそれ以外の. 次に,「社会正義・寛容・多様性」を扱う社会. 国の関係を調べ,各々が影響をし合いながら存立. 科授業を取り上げる。. していることを捉える。また,その活動の中で必 ずしも個別の特徴や文化が純粋(pure)なもの ではなく,各々が影響し合うことで一定の特徴を 作り出していることを議論の中で捉えてゆく。発 表2 International Hip-Hop Geography の授業過程. 教育目標. 教材. 教材. 世界の場所に関わる自然・人文地理的特徴を理解する. 著者作成. ― 88 ―. 終 結. 終結. 1時間 ・海外の都市や街の場所を理解する ・様々な国や地域の歴史や文化に関心を持つ ・ポップカルチャーが様々な影響の下で形成される過程を理解する 1,ヒップホップを事例に世界を理解する問いが書かれたワークシート 問いの例:(合計31個の問いがある) ・Djhonda は,車やゴジラを輸出している小さな国の DJ である。ア メリカは,第二次世界大戦でこの国に対して2度原爆を投下した。 ・DMX とアリーシャはかつて英国の植民地であった国からきた JET LI とともにミュージックビデオを作成した。 ・スヌープドッグのビデオ“Beautiful”は,この国で撮影された。 ヒントは,この国はアフリカで最大の人口を抱える国である。 2,世界地図 3,ネットワークへアクセス出来る環境 導入1:個々でワークシート教材の問いに答えてゆく。 導入2:導入1で捉えた国々が自身へ与えている影響(ファッショ ン,音楽,言語,車,ゲーム等)を見つけ出す。 展開1:クラス全体で,自分たちの生活が他の国と関係している 点を議論する。また,そのような影響や恩恵を私たちが 当然の事柄であるとみなしていることに気がつく。 展開2:小グループに分かれて,導入で回答したワークシートを照 らし合わせる。その際,該当の国を世界地図に示してゆく。 展開3:教室全体でワークシートの答え合わせをする。 また, ワークシー トに書かれている情報について考えた事に関して議論を行う。 」があるのかどうか, 議論する。 展開4:世界に「純粋な文化(pure culture) 展開5:「生徒の文化」から学べるものを考える。 展開6:私たちが「他の文化から借りてきているもの」があるか どうか,議論する。 終 結:ワークシートに書かれた問い(知識)に関して後日テス トを行うことを示して終わる。 授業への参加態度,地図の完成状況,テスト 先祖,コロニアリズム,大陸,植民地,血統主義,文化,駆け引 き,少数民族,貿易,国家主義,反乱 1,子ども達が自身で地理や文化を探究し, 各々がクイズを作成する。 2,音 楽やアーティスト,風俗画,スポーツ選手などを事例に, 世界地図に出自と覇権を示してゆく。. 展 開. 展 開. 発展学習. 教育目標. 授 業 展 開. 導 入 授 業 展 開. 評価 獲得する 知識や概念. ヒップホップを通して国際地理を探究する grade9-12. 単元名 学年 スタンダード 該当箇所 時間設定. 導 入. 単元名 学年 スタンダード 該当箇所 時間設定. 表3 「社会正義・寛容・多様性」の授業過程. 評価 獲得する 知識や概念. 発展学習. 売春と性的搾取 grade9-12 歴史的思考の理解,現代社会における経済,社会,文化的発展の 理解 1時間 ・売春と搾取を定義する ・若い女性が搾取されてしまう主要な要素を考える ・問題解決を担う機関を調べ,理解する 1,Tupac Shakur のミュージックビデオ“Brenda’s got a baby” と歌詞カード 2,DVD プレーヤーとテレビ 3,Law-Enforcement Officials Note Marked Nationwide Increase in Teen Prostituion: Trends”の記事(Newsweek Magazine) 導入1:2つの問い(「なぜ売春が存在するのか」「売春の原因は 何か」 )を提示し, 各問いに対して2つの見方を考え, ワー クシートに記入する。 導入2:導入1で記載したワークシートを使い,他の生徒と議論 する。議論の結果を,ワークシートに記入する。 展開1:歌詞カードを読みながら Tupac Shakur のミュージックビデオ “Brenda’s got a baby”を視聴する。 (米国で起きた実話を元に した曲。12歳で子どもを妊娠した Brenda は,両親が麻薬中毒 で警察に逮捕され,母子家庭で子どもを育てる。しかし,生活 をすることが出来ず,そのために売春をする。Tupac は,これ を社会の問題と捉え,Brenda を社会の文脈で考えることを訴 える曲を作り,発売した) 展開2:曲を聴いて, 最初に考えたことをワークシートに記入する。 展開3:他の生徒とともに,Brenda の状況を生み出した要因,彼 女が誰にも助けを求められなかった原因を考える。 展開4:他の生徒とともに,Brenda と同じ状況が現代社会にある か議論する。その際,現実社会では名前も無い子ども達が 過酷な労働下に置かれていることも示す。 展開5:社 会保障や家族の援助を求めることが理想ではあるが, 現実的には人権侵害や売春等の搾取が循環的に起きてい る要因を議論する。 展開6:なぜ,社会は違法行為等をなくすことが出来ないのか。 Brenda の事例を元に,その原因と解決策を議論する。 展開7:ミュージックビデオが,このような社会問題(性的搾取) を表現することの是非を考える。その際,他のメディア (雑誌等)も参考にしながら,議論する。 展開8:若者がこのような現実に対抗する策を考える。また,このような 問題に対する男女間の役割の違いはあるのか議論する。 終 結:雑誌記事を読み,最終的な自分の考えを立論する。 議論への参加,自身の立論過程 搾取,売春,ジェンダー,広告,虐待,誘惑,セクシャルハラス メント,尊重 1,他の国で起きている売春や搾取の問題を調査し,議論する。 2,このような現状に対応するための機関や組織を調べる。 3,別 の ミ ュ ー ジ ッ ク ビ デ オ“The Myth of the Great Black Pimp”や“Soldier” , “Love is Blind”を視聴し社会問題や男 女の格差について議論をする。. 著者作成.
(9) 社会的レリバンスの構築を目指した授業研究の方略(田中 伸). 本学習は4時間構成となっており,1時間目「売. 国社会科教育研究が示す社会的レリバンスを育成. 春と性的搾取」を示したものが表3である。本授. する教科教育の思想は,社会科学習を民主主義的. 業も,表2同様,社会科教育の専門家がデザイン・. な学校や社会を作り出す核として設置する。教養. 実施したものである。本単元は,搾取やジェンダー. の獲得であれば google 検索で事足りる現代社会. の問題等を扱い,現代社会で実際に起きた不平等. において,社会科教育は改めてその意義と価値が. や搾取の問題を,当該の状況を描いた歌詞の読み. 問い直されている。. 解きを通して議論する。特徴は2点である。第1 は,生徒が持つ価値観や思想へ挑戦している点で ある。妊娠や中絶,社会保障や家族の役割等は, 正解の無い倫理的な問題を孕む。しかし,正解と される社会規範を学ぶ道徳的な授業では,生徒の 問題意識を喚起することは難しい。本授業では, 理想では解決不可能な,様々な価値観が渦巻く社 会的現実を生徒が互いに議論することで,生徒の 思想へ挑戦を挑む。第2は,社会問題への応用過 程である。第1の仕掛けを組むことで,①生徒の 身近にあるヒップホップや文化が表象する社会的 現実を浮き彫りにし,②他国にみられる同様の社 会問題を自ら発見する展開を設定する。問題解決 を求めるものではなく,自身の関心に基づいた問 題発見をその軸に置くのである。. 4.米国社会科にみられる社会科授業の 教育学的意義-授業を通した社会的 レリバンスの構築- 子どもの動機を教師のインストラクションへ活 用・応用する研究は,社会科教育・子ども・現実 社会の関係を再検討する。最初に教育目標を設定 し,それに基づいて子どもの認識や文脈を活用し ながら教科内容・方法を導き出す。旧来展開され たロジックは,社会問題学習を設定すれば自動的 に子どもが社会へ関心を持つことであった。しか し,これは幻想である。彼らが持つ既存の認識枠 組みと価値観・思想を捉え,そこに民主主義社会 の主権者育成としての教育目標を重ねる。この論 理は,子どもの文脈と社会科学習を一致させるこ と を 通 し て 学 校 と 社 会 を 繋 げ る 試 み で あ る。 HHP に見られる現象学的教育論や,近年の米国 社会科教育研究にみられる傾向は,社会科授業を 通した社会的レリバンスの構築を論じている。 現在,日本では社会科教育学を含めた教科教育 学の存在意義が問われている。しかしながら,米. 【註】 1)社会科教育研究を類型的に整理し,各々の特徴と課 題を述べている。詳細は拙稿「コミュニケーション理 論に基づく社会科教育論-社会と折り合いをつける力 の育成を目指した授業デザイン」 『社会科研究』全国 社会科教育学会,第83号,2015,pp.1-12参照。 2)P4C を社会科へ応用する研究として,福井氏の研 究がある(福井駿「小学校低学年における関係として の社会の学習- Getting Started in Philosophy の分析 を 通 し て -」『 社 会 科 研 究 』 全 国 社 会 科 教 育 学 会, Vol.81, 2014, pp.51-62,福井駿「問いを立てることを 学習する哲学教育-米国初等後期用教科書 Philosophy for Kids の場合-」『日本教科教育学会誌』日本教科 教育学会,第37巻第3号,2014,pp.23-32)。 3)本書の前書きにおいて,HHP が1997年に発行され たハワード・ジン『民衆のアメリカ史』にも影響を受 けていることが示されている。. 【参考文献】 Adele Gottfried, James Fleming & Allen Gottfried, Continuity of academic intrinsic motivation from child hood through late adolescence: A longitudinal study, “Journal of Educational Psychology”, 93 (1), 2001, pp.3-13. Amber Makaiau, philosophy for children Hawaii: A culturally responsive pedagogy for social studies education, In C. C. Lin and L. Sequiera (Eds.), Diversity and Intercultural Dialogue in Young People’s Inquiry, Sense, Rotterdam, (in press). Amber Makaiau & Miller, C., The philosopher’s pedagogy. “Educational Perspectives”, 44, 2012, pp8-19. Amber Makaiau, Incorporating the activity of philosophy into social studies; A seven-part philosophical inquiry process. Questions: “Philosophy for Young People”, 13, 2013, pp.15-17. Amber Makaiau, The philosophy for children Hawai‘i approach to deliberative pedagogy: A promising practice for preparing pre-service social studies teachers in the college of education. “Analytic Teaching and Philosophical Praxis”, 36, 2016, pp.1-7. Carol Hahn, Research on Issues-centered social studies, “Handbook of teaching social issues”, 1996, 99. pp.2639. Carol Hahn, Challenges to Civic Education in the U n i t e d S t a t e s , “C i v i c E d u c a t i o n A c r o s s t h e Countries”, 1999, p.597. Carole Ames, Classrooms: Goals, structures, and. ― 89 ―.
(10) 社会科教育論叢 50,2017. student motivation, “Journal of Educational Psychology”, 84, 1992, pp.261-271. Christopher Tinson and Carlos McBride, Introduction to Special Issue: Hip Hop, Critical Pedagogy, and Radial Education in a Time of Crisis, “Radical Teacher”, No.97, 2013, pp.1-9. Christian Aponte, When Hip-Hop and Education Converge: A look into Hip-Hop Based Education Programs in the Unites States and Brazil, “Dietrich College Thesis“, Carnegie Mellon University, 2013, pp.1-29. Deborah Stipek, Rachelle Feiler, Denise Daniels & Sharon Milburn, Effects of different instructional approaches on young children’s achievement and motivation. “Child Development”, 66(1), 1995, pp.209223. Diana Hess, Controversial issues and democratic discourse, “Handbook of Research in Social Studies Education”, Routledge, 2008, p.124. Edward Hootstein, Motivation Strategies of Middle School Social Studies Teachers, “Social Education”, National Council for the Social Studies, 59(1), 1995, pp.23-26. Emily Lai, Motivation: A Literature Review, “Research Report”, Pearson, 2011, p.4. Eric Anderman, & Helen Patrick, Achievement Goal Theory, Conceptualization of Ability/ Intelligence, and Classroom Climate, ”Handbook of Research on Student Engagement”, Springer, 2012, pp.173-191. Eric Anderman, & Helen Patrick, Achievement Goal Theory, Conceptualization of Ability/ Intelligence, and Classroom Climate, ”Handbook of Research on Student Engagement”, Springer, 2012, pp.185-187. Fred Newmann, Student Engagement and Achievement in American Secondary Schools, Teachers College Press, 1992. Fred M. Newmann, Helen M. Marks and Adam Gamoran, Authentic Pedagogy and Student Performance, American Journal of Education, Vol. 104, No. 4, 1996, pp.280-312. Frederic Guay, Julien Chanal, Catherine Ratelle, Herbert Marsh, Simon Larose, & Michel Boivin, Intrinsic, identified, and controlled types of motivation for school subjects in young elementary school children. “British Journal of Educational Psychology”, 80(4), 2010. 711-735. Jeremy Finn. Withdrawing from school. Review of Educational Research, American Educational Research Association 59(2), 1989, pp.117-142. Jeremy Finn., & Kristin Voelkl, School characteristics related to student engagement. Journal of Negro Education, 62(2), 1993, pp.249-268. Jessica Summers, Cognitive approaches to motivation in education. “21st century education: A reference handbook”, SAGE Publications, 2008, pp. I-113-I-121,. Julianne Turner, The influence of classroom contexts on young children’s motivation for literacy. “Reading Research Quarterly”, 30(3), 1995, pp.410-441. Keith Barton and Linda Levstik, “Teaching History for the Common Good”, Lawrence Erlbaum Associates, 2004. Lynley Anderman, Carey Andrejewski, Jennifer Allen, J., How do teachers support students’ motivation and learning in their classrooms? “Teachers College Record”, 113(5), 2011, pp.969-1003. Maghan Manfra & John Lee, “You have to know the past to (blog) the present”: Using an educational blog to engage students in US history. Computers in the Schools, 29(1-2). 2012, pp.118-134. Marc Lamont Hill, “Beats Rhymes Classroom Life”, Teachers College Press, 2009. Marcella Runell & Martha Diaz foreword by David Kirkland, “The Hip-Hop Education Guidebook Volume 1” Hip-Hop Association, 2007. Matthew Lipman,“Thinking in Education” Cambridge University Press, 2003. Noboru Tanaka, ”History Learning as Citizenship Education: Collaborative Learning based on Luhmann’s Theory of Communication”, The Journal of Social Studies Education, The International Social Studies Association, Vol.5, 2016, pp.57-70. Sara Goering, Nicholas Shudak, Thomas Wartenberg,” Philosophy in Schools: An introduction for Philosophers and Teachers”, Routledge, 2015. Stephan Thornton, “Teaching Social Studies that Matters: Curriculum for Active Learning”, Teachers College Press, 2004. Trudy Mercadal Sabbagh, Hip Hop Stories and Pedagogy, Florida Atlantic University, 2005, p.1-16. Wang Jianjun, Oliver Steve & Andrew Lumpe, The relationship of student attitudes toward science, mathematics, ”English and social studies in U.S. secondary schools. Research in the Schools” 3(1): 1996, pp.13-21. W, Brokover, C. Beady, P. Flod, J, Schweitzer, J., & J. Wisenbaker. “School social systems and student achievement: Schools can make a diference”, NewYork, 1979, Praeger. キース・C・バートン,リンダ・S・レヴスティック著, 渡部竜也,草原和博,田口紘子,田中伸訳『コモン・ グッドのための歴史教育』春風社,2015。 草原和博・溝口和宏・桑原敏典編『社会科教育研究法ハ ンドブック』明治図書,2015。 拙稿「社会科教育における社会的レリバンスの構築-コ ミュニケーション理論を用いた授業開発方略-」『教 科教育学研究の可能性を求めて』風間書房,2017。 全国社会科教育学会編『社会科教育論叢』全国社会科教 育学会,Vol.48,2012。 フレッド・M・ニューマン著,渡部竜也,堀田諭訳『真 正の学び/学力』春風社,2017。. . ― 90 ―. (岐阜大学).
(11)
関連したドキュメント
氏は,まずこの研究をするに至った動機を「綴
教育・保育における合理的配慮
経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を
年間約5万人の子ども達が訪れる埋立処分場 見学会を、温暖化問題などについて総合的に
・私は小さい頃は人見知りの激しい子どもでした。しかし、当時の担任の先生が遊びを
● 生徒のキリスト教に関する理解の向上を目的とした活動を今年度も引き続き
● 生徒のキリスト教に関する理解の向上を目的とした活動を今年度も引き続き
社会学研究科は、社会学および社会心理学の先端的研究を推進するとともに、博士課