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意思決定能力を欠如した高齢患者の胃瘻造設の代理意思決定をめぐる「揺らぎ」に関する研究――家族の語りの分析を通して――

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社会福祉学 第 61 巻第 4 号 42‒56 2021

意思決定能力を欠如した高齢患者の胃瘻造設の

代理意思決定をめぐる「揺らぎ」に関する研究

―家族の語りの分析を通して―

竹森 今日子

要旨:本研究の目的は,高齢患者の胃瘻造設をめぐる代理意思決定を行った家族の語りか ら,代理意思決定における「揺らぎ」が,患者の生活とどのように関連しながら生成,継続, 変動しているかを分析し,代理意思決定における「揺らぎ」の内実を考察することである. 3名の家族へインタビュー調査を行った結果,「揺らぎ」の特徴として,「揺らぎを増減させ る影響因がある」,「揺らぎの増減は,現在に至るまで『患者と培ってきた関係性』を背景に, 『揺らぎの影響因』と複雑に関連しながら変動している」という二つの点が示された.また, 家族全員に共通し,「患者の利益」を検討して揺らぎ続けていたという点から,家族の「揺ら ぎ」を減少させることではなく,家族の精神的負担へ配慮しつつ,「患者と向き合いながら, その家族らしく揺らぎ続けていける」ことに重点を置くことが,代理意思決定支援に必要と される視点であるという示唆を得ることができた. Key Words : 胃瘻,代理意思決定,揺らぎ

Ⅰ.はじめに

疾病等により意思決定能力が欠如している高齢 患者の人工的水分・栄養補給法(Artificial Hydra-tion and NutriHydra-tion,以下AHN)における方針決定 は,「その家族が担う」ということが通例となって いる. また,高齢者においては,生理的な嚥下機能の 低下に加え,さまざまな疾患を複合して発症しや すいという特性から,青壮年者に比して高率で摂 食・嚥下障害を来すということが知られている (平田ら 2006:25).さらに,認知および嚥下機 能障害の後遺症リスクがある脳血管疾患は,高齢 者の入院受療率が最も高い(内閣府 2017)という 点も踏まえると,加齢に伴い,治療における意思 決定が困難である状態で摂食・嚥下障害を来し, AHN の方針を代理意思決定される割合が高まる ということである. 前述のとおり,高齢者やその家族にとって, AHN をめぐる代理意思決定は誰もに起こりうる 出来事であるが,その代理意思決定には,高齢者 特有の難しさがある.それは,AHNを検討する段 階にあっても,病状の経過が多様である高齢者の 予後は予測困難であり,一概に終末期と断定する こ と も で き な い 点 で あ る(日 本 老 年 医 学 会 2012;横内ら 2012). なかでも胃瘻に着目すると,高齢者の特徴に加 え,処置の特徴や政策的力動も関与しているた 2020年4月11日受付/2020年12月16日受理 TAKEMORI Kyoko 社会医療法人 札幌清田病院 E-mail:[email protected]

論 文

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め,より複雑な判断が必要であると言える.詳述 すると,まず処置の特徴としては,造設術を必要 とするため,AHN のなかで最も侵襲性が高いと いう点であろう.また,安易な胃瘻造設を防ぐた め,胃瘻造設に関する診療報酬改定が展開されて きた経緯から,胃瘻患者の増加に対する政策レベ ルでの抑制システムが成立している. 以上のことから,家族は臨床的にも社会的にも 複雑な状況下で胃瘻の代理意思決定を担っている 現状がうかがえる. 他方,高齢者医療をめぐる意思決定について は,政策面での支援策も講じられてきた.支援策 の展開として,「終末期医療の決定プロセスに関 するガイドライン」を公表し(厚生労働省 2007), その後も改訂を重ねていき,2018年の診療報酬改 定では,同年改訂されたガイドラインを踏まえた 対応を算定要件に加え,高齢者医療の方針決定に あたり,本人の意思決定を基本としたうえで,「本 人または家族と医療・ケアスタッフが繰り返し話 し合う」という体制の強化を推進している. すなわち,高齢者医療をめぐる代理意思決定を 支援する社会的枠組みは進展しているが,代理意 思決定のあり方については家族および現場の関係 者に委ねられていると言えよう. 一方,胃瘻に関する先行研究を概観すると,胃 瘻の普及に伴い,2011年以降で「胃瘻造設の代理 意思決定」を主題とする研究も増えており,さら に問題関心として「家族の思い」に着目し,代理 意思決定支援のあり方を検討する傾向がみられ る.これら「家族の思い」に着眼した研究者たち により,胃瘻造設の代理意思決定を担う家族は, 一定の心理的プロセスを経ることが明らかとなっ ている(榎本ら 2010;相場・小泉 2011;加藤ら 2011;加藤・原 2012;祢宜 2011). ここで,胃瘻造設をめぐる代理意思決定プロセ スのなかでも「揺らぎ」の状態に至るということ に注目したい. まず「揺らぎ」は,代理意思決定プロセスにお ける一つの段階であることが知られている(相 場・小泉 2011;加藤ら 2011;祢宜 2011). また,加藤らは,疾患における「進行像の受け 止め方」や,「胃瘻造設の予測」等の違いにより, 「胃瘻造設という現実との向き合い」,「揺らぎ」, 「胃瘻造設の意味づけ」という心理過程の行き来を 繰り返しながら,意思を固めていくというプロセ スと,「揺らぎ」を経ず決定に至るというプロセス があることを明らかにした(加藤ら 2011:165). 以上のとおり,先行研究によって,胃瘻造設を めぐる代理意思決定の「揺らぎ」は,家族によっ て「揺らぐ思い」やプロセスが異なるということ が示された. しかし,これらの研究は,代理意思決定におけ る心理的プロセスの明確化を目的としており,胃 瘻造設の代理意思決定をめぐる「揺らぎ」に着目 し,その内実を追究した研究は,管見の限り存在 していない.加えて,カテゴリー化によって代理 意思決定プロセスを明示する傾向があり,「揺ら ぎ」においても代理意思決定プロセスを構成する 一つのカテゴリーとして抽出されている(加藤ら 2011;祢宜 2011).そのため,患者がどのような 生活を送ってきたのか,そしてその生活の歩みと ともに家族の思いはどのような変化や醸成があ り,「揺らぎ」につながっているのかという点には 踏み込んでいない. 胃瘻造設をめぐる代理意思決定において,経口 摂取による栄養補給が不良状態にある患者の栄養 のあり方という,患者の生死に関わる判断である が,家族にとっては,患者のこれまでの生活を踏 まえ,今後の生活のあり方を方向付ける判断とも 言える.AHN の代理意思決定支援を検討するう えでも,「生活の歩みと思い」という視点を踏まえ たうえで,胃瘻造設の代理意思決定を担う家族の 「揺らぎ」を分析し,考察することが重要であると 考える. 以上を踏まえ,本研究では,高齢患者の胃瘻造 設をめぐる代理意思決定を行った家族の語りか ら,代理意思決定における「揺らぎ」が,患者の 生活とどのように関連しながら生成または継続, 変動しているかを分析し,代理意思決定における 「揺らぎ」の内実を考察することを目的とする.

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Ⅱ.研究の意義

これまでの研究により,胃瘻造設の代理意思決 定には「揺らぎ」が伴うということが示された. しかし,それらの研究は,代理意思決定を担う家 族の「思い」を明確化する傾向があり,代理意思 決定前から現在に至るまでの患者との関係性やラ イフイベントを踏まえ,どのように代理意思決定 の「揺らぎ」が生じ,あるいは変動しているのか という点には踏み込んでいない.本研究におい て,家族の語りから,患者の生活を踏まえて「揺 らぎ」を詳細に考察することは,これまで焦点化 されてこなかった胃瘻造設の代理意思決定をめぐ る「揺らぎ」の意味を示すという学術的意義があ ると言える. また,家族の視点にアプローチし,胃瘻造設の 代理意思決定をめぐる「揺らぎ」の内実を考察す ることは,複雑な状況下で代理意思決定を担う家 族の心情を緻密に分析することでもあり,それは AHN における代理意思決定支援を検討するうえ での一助になると考える.

Ⅲ.調査の概要

1.調査目的と調査対象者 本調査の目的は,家族の語りから,対象患者の 生活を踏まえ,胃瘻造設をめぐる代理意思決定に おける「揺らぎ」がどのように生成され,または 継続,変動しているのかを分析することである. 調査対象者の選定については,以下のとおりで ある.すなわち,胃瘻造設の検討過程において, 患者本人の意思が確認できない状況であると,よ り代理意思決定の判断が複雑であり,選択的ジレ ンマなどの困難も生じやすいことを想定し,対象 者の選定においては,疾病により言語能力および 意思決定能力を欠如した患者に限定し,過去に胃 瘻造設の有無をめぐり代理意思決定を行った経験 を持つその家族を対象とした. そして,対象患者の生活経験や思いを踏まえた 厚みのある語りを分析対象とするため,語ること が可能である家族に限定した.「語ることが可能 である」という状態について,宮地は,トラウマ における語りの精神構造を隠喩的空間である「環 状島」モデルで捉えている.宮地によると,トラ ウマをめぐる語りや表象は中空構造をしており, その空間の中央にはトラウマ的出来事の「爆心 地」を中心とする「内海」がある.その「爆心地」 に近い人ほど被った被害や抱える負担が大きく, 言葉を失ったまま「内海」に沈んでいるが,「陸 地」へ上がることによって発話力が増していく. この「環状島」モデルは,トラウマに限らず,焦 点の当て方などによって幾通りもイシュー化でき るという(宮地2007:9‒12, 75). 本研究において,患者の生命に関わる決定を代 理で行ったというセンシティブな経験を持つ家族 を対象とするため,「環状島」の観点でみると, 「内海」に沈み,語りを失っている状況ではなく, 「陸地」の位置から語ることが可能である家族に 限定した. 語りを表出することができる状態にある家族の 選定に際しては,次の手順で行った.はじめに, 機縁法に基づき,X病院およびZ病院の入院患者 の中から意思決定能力を欠如した状況で胃瘻造設 の検討が行われた高齢患者を数名選出した.な お,X病院,Z病院は療養病棟を持つ機関であり, 胃瘻の状態にある患者も入院療養している.次 に,X 病院および Z 病院の医療ソーシャルワー カーと協議し,選出した患者の家族の中から,胃 瘻造設の代理意思決定における経験や思いを語る ことができる状態にあると判断した3名の家族を 選定した. また,対象家族の比較を目的とはしていないた め,対象患者の疾患および家族の属性は限定して いない.対象患者および調査対象者の基本情報は 表1, 表2のとおりである. 2.調査方法 意思決定能力を欠如した高齢患者の家族(以 下,調査対象者)に,半構造化面接によるインタ ビュー調査を実施した.調査期間は 2018 年 10 月

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から11月までの間である.調査は調査対象者全員 の希望に沿い,X病院,Z病院の面接室で実施し た.調査内容は,調査対象者が語りうる患者の生 活経験を対象時期とし,その患者と関わるなか で,「代理意思決定についてどのような考えや思 いを持っていたか,あるいは持ち続けているか」 を質問の主軸とした. 調査は調査対象者ごとに 2 回実施し,1 回目は 「現在に至るまでの高齢患者と家族のライフイベ ント」および「胃瘻造設をめぐる代理意思決定の 表1 対象患者 基本情報 対象患者 A氏 B氏 C氏 性別・年齢 男性・75歳 女性・72歳 女性・82歳 病名 進行性核上性麻痺 脳出血後遺症 パーキンソン病 現在の栄養方法 胃瘻 経鼻栄養 胃瘻・経口(少量) 日常生活動作 (以下ADL) 全介助・発語不可 全介助・発語不可 気管切開 全介助・発語不可 入院期間・ 現在の療養先 2017年8月からX病院に 入院継続中 2012年1月からZ病院に 入院継続中 2016年9月からZ病院に 入院継続中 代理意思決定 までの経過 60代での原因不明の変調から ADL低下が始まった.介護老 人保健施設入所後に嚥下機能 も低下し,胃瘻の検討が行わ れた.2017年,受診先のICに て進行性核上性麻痺の確定診 断を受けた後,胃瘻が決定さ れた.X 病院で胃瘻造設し, 長期療養している. 2012年に脳出血を発症し,急 性期病院に入院した.外科的 治療を受けるも,意識障害の 遷延が続いている.同年に Z 病院へ転院し,AHNの検討が 行われ,経鼻栄養の継続とい う決定に至る. 2005年にパーキンソン病の診 断後も在宅生活を継続した. 2016 年,誤 嚥 で の 入 院 後 に ADLが低下し,経鼻栄養の状 態となった.リハビリ目的で Z 病院に転院後,誤嚥性肺炎 発症を機に胃瘻の検討が行わ れた.同年胃瘻造設に至る. 表2 調査対象者(家族) 基本情報 調査対象者 A氏の妻 B氏の弟 C氏の夫 年齢 72歳 66歳 83歳 入院前の役割 主介護者 別居家族 主介護者 医療機関での 役割 キーパーソン キーパーソン キーパーソン 家族構成 A氏,妻,娘3人の5人家族 長女,B氏(次女),三女, 弟(末子)の4人兄弟 C氏,夫,娘2人の4人家族 面会頻度 ほぼ毎日 毎週2回 ほぼ毎日 インタビュー 調査の日時と 所要時間 1回目 2018年10月22日 所要時間:114分 1回目 2018年11月21日 所要時間:110分 1回目 2018年11月14日 所要時間:85分 2回目 2018年10月29日 所要時間:98分 2回目 2018年11月28日 所要時間:96分 2回目 2018年11月22日 所要時間:112分

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概要」を中心に問い,後日行った2回目では,第 1回目の調査内容を踏まえたうえで,「代理意思決 定に関する考えや思い」について掘り下げて問う ことを中心とした.調査対象者毎の調査における 所要時間は,表2のとおりである.なお,調査時 には許可を得たうえでICレコーダーを使用した. 3.倫理的配慮 本研究のインタビュー調査は,北星学園大学倫 理審査委員会の承認を得たうえで実施した(文書 番号18-研倫9号).調査対象者には,結果の公表 に際し,得られたデータを匿名化して個人が特定 されないよう最大限配慮すること,調査の協力や 中止は任意であることなどを口頭と文書にて説明 し,研究協力同意書への署名をもって同意を得 た. 4.分析方法 はじめに,録音した音声から調査対象者毎にト ランスクリプトを作成した.そして,患者におけ る主要なライフイベントを経時的に集約し,患者 の生活経験の概要と経験に伴う家族の思いを記し た.次に,「胃瘻造設の代理意思決定における家族 の思い」を中心に,「患者の生活や思い」について の語りを確認しながら,「代理意思決定における 心情」とその背景を検討する作業を繰り返し行っ た. そのうえで,「揺らぎ」とは「実践のなかで援助 者,クライエント,家族などが経験する動揺, 藤,不安,あるいは迷い,わからなさ,不全感, 挫折感などの総称」という尾崎の概念(尾崎 1999)を分析上の指針とし,①表出された「揺ら ぎ」と「揺らぎ」を増幅させた影響因,②「揺ら ぎ」を減少させた影響因,③現在の「揺らぎ」と いう観点から,胃瘻造設の代理意思決定をめぐる 「揺らぎ」の意味を分析した.

Ⅳ.結果と分析

以下の分析にあたり,表記において,A氏の妻 は「妻」,B 氏の弟は「弟」,C 氏の夫は「夫」と 略記する.なお,文中の(※アルファベット・数 字)で表記されている箇所は,分析に関連する語 りを示しており,語りの詳細においては表3∼5の とおりである.また,表の語りにおける( )内 の表記は,内容理解のために筆者が補足した説明 である. 1.A氏の妻 1) 表出された「揺らぎ」と「揺らぎ」を増幅させ た影響因 以下の分析において,在宅生活時のかかりつけ 病院は「Y病院」,Y病院の医師は「主治医」,介 護老人保健施設(以下,老健)入所後に受診した 病院は「Q病院」と表記する. 「A氏の生活の歩み」における語りのなかで,胃 瘻造設をめぐる代理意思決定の「揺らぎ」として 示されたのは「胃瘻を選ぶべきか否かわからな い」という心情である.妻は,A氏の嚥下機能低 下が進む一方,好物の和菓子は摂食できるという 姿も確認しており,1カ月程胃瘻造設の有無につ いて決定できずにいたという(表3※A1)(以下, 表3は略).そして,妻の思考において,「A氏の 現状が不明確」であったことが,「揺らぎ」を増幅 させていた影響因の一つとして示された. 胃瘻の検討時期における A 氏の「現状」には, 急速な ADL 低下と,A 氏の症状に関し幾度も主 治医とインフォームド・コンセント(以下,IC) が行われた経過を伴っている.ICを通して「A氏 の現状における明確な理解」へつながらなかった 背景には,妻の実感として,「ADL低下の原因に ついて明確な病状説明を受けることがなかった」 (※A2),および「主治医との信頼関係を築くこと ができなかった」ことがある(※A3).主治医と の関係における否定的な語りから,A氏の状態に ついて明確な病状説明を得ることができないとい うフラストレーションに加え,主治医と治療を巡 り対立したことにより,主治医への不信が回復さ れず,長年にわたりA氏の状態および治療につい て不全感を抱えていたことがうかがえる.

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さらに,A氏の「現状」の理解に至っていない 妻にとって,医療従事者や知人等から得た「胃瘻」 という初見の情報は,「他者から得た情報」の範囲 内での理解にとどまり,A氏の「現状」および「胃 瘻造設後の生活」と照らし合わせて具体的に検討 することが困難であったことも示された(※ A4). また,妻は「自分であれば,食べることができ 表3 A氏妻の語り 観点 生データの一部 「揺らぎ」 胃瘻がどういうものかもわかんなかったし,いやね,むせて食べれなくなって,気管に入った らね,危ないんだってって色々ね(病状説明を受けた).でもね,食べれなくなるのって嫌だよ ねって.うん….せっかく口から好きな物あって食べれるのに,それさえも食べれなくなった ら,いや,可哀想だよねっていうのと.でもそれで…気管に詰まって…それも…あるし(※A1) 「揺らぎ」を 増幅させた 影響因 もうあの,あちこちでっていうかね,今までの経過全部話してるんです.もうずっと経過話し てるんだけど,老健でも先生にも話したけど…あの,う∼んって感じで聞いてて,だからって いうことはない.ただ危ないから,あの,今の現状をみて,このままいけば全然飲み込みも悪 いし,うん….肺炎を起こすかもしれないから胃瘻にしたら良いよっていう感じなのね.だか ら今までの(経過との)関連性っていうのはわかんなくて(※A2). (主治医へ治療の相談は)一切言わないです.もうなんか,大人げないなぁっていうのとあきれ 返っちゃったの.ふふふ.言ってもわからないと.うん,そういう感じ.その代わり信用もし ないと(※A3) 「実際にはみてないんです.話だけです.だから本当に,あの,他人の話で.よその話で.い やぁ,胃瘻って聞いたけど….あくまでも他人の話で,実感としてはわかんなくて…」 「(肺炎罹患や胃瘻造設した家族がいないため)だから,なんかいまいちあんまりピンとこなく てね…」(※A4) 本人にしたらどっちなんだろうねって.まだ自分がそういう立場じゃないから.私なんかはね, 食べれなくなったらもういいわって.食べたい物食べて,それで,もしかなんかがあったらも う仕様がないわって.うん,私はそう言ってたんだけどね(※A5) 「揺らぎ」を 減少させた 影響因 「(Q病院医師の)説明がね,ものすごくわかりやすくて.あの,今までの状況をワーっと言っ た時にね,全部関連性があるって.うん….今始まったことではなくて,あの,いろんな症状 が起きた,それが全部関連性あって,今に至ってるから….うん.胃瘻やるんだったら早い方 が良いよって.これやっぱり,話し方なのか.説明なのかね」 「今まで何年間か,最初ね,Y病院でみてて,ずっとわかんなくて,わかんなくて,わかんなく てきていたのが,そのQ病院に行った時にね,全部今までの経過を話して,何年か前からのね, 全部繋がっててこうなんだよって言われた時…, もうやっと納得したっていうか….初めて何と なくすっきりしたというか….はっきりしたというかね….うん.だったら,(胃瘻を)やるん だったら早くしようって.それで踏ん切りついたっていうか」(※A6) その手術をしたって,あの…必ずしも食べれないわけではないし,病院じゃなくてまた老健の 方にね,戻ってこれる人もいるんだよ∼とか,(看護師から)色々言われて….割と楽になった かな∼っていう感じ.あ,そういうもんなんだ∼って(※A7) 現在の 「揺らぎ」 「(胃瘻を造って)良かったかなというより,これしかなかったのかな∼って感じかな….本人 も…どうなんでしょうね.仕様が無いと思っているのか.今の状況がね.納得…せざる….ど うなんでしょうね.わかんないです.うん…」 「胃瘻にするよりね,うん….仕様が無い…んだろうなと思ってたから….他の選択肢って何だ ろうかって今思うけど,でも今の様子見てたらね,まぁこれで良かったんだろうなって思う」 (※A8)

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なくなった時点で人生を終わらせてよい」という 価値観を持っていたが,「胃瘻における A 氏の意 思」が不明であり,かつA氏の「現状」も不明確 であるなか,代理意思決定において妻の価値観を 優先することもできず(※A5),「揺らぎ」が増幅 していたものと言える. 2)「揺らぎ」を減少させた要因 「医療従事者からの説明」が「揺らぎ」の減少に おける顕著な影響因として示された.すなわち, 「医療従事者からの説明」で,胃瘻の「家族なりの 理解」に至ったことにより,「揺らぎ」が減少した ものと考える.妻は,かかりつけとは異なる受診 先での医師とのICで,「A氏の過去から現在を踏 まえた明確な病状説明」を受けたことにより,「揺 らぎ」が減少し,胃瘻造設の代理意思決定が促進 されていた(※A6).ここで示されたことは,従 来から不明確であった変調は「進行性核上性麻 痺」の症状であり,結果として「現在」のA氏の ADL 低下につながっていることを理解したこと により,「A氏の生命のリスク」も認識され,「胃 瘻がA氏に必要な方法である」という思考が促進 されたということである. さらに,妻が懸念していた「胃瘻造設後の生活」 に関する情報が看護師から提供されたことによ り,他者から得た情報の範囲内にとどまっていた 「胃瘻」の理解が転換され,「A氏の『現状』およ び『胃瘻造設後の生活』と照らし合わせた胃瘻の 検討」へとつながり,「揺らぎ」も減少したことが 示された(※A7). 3)現在の「揺らぎ」 代理意思決定および現状を「必然として納得し ようとしている」心情と「A氏にとって最善の生 活が送れているか」を問う心情が関連し,現在も 「揺らぎ」が続いていることが示された(※A8). 現在は生命維持を優先する心情から胃瘻造設の 「必然性」が優位となり,代理意思決定および現状 を肯定的に捉えていた.しかしながら,A氏の状 態変化に伴い「必然性」が優位ではなくなった場 合,A氏にとっての胃瘻の意味を再検討し,「揺ら ぎ」の振幅が変動する可能性もあると言える. 2.B氏の弟 1)表出された「揺らぎ」と「揺らぎ」を増幅させ た影響因 以下の分析にあたり,弟の語りにおける「姉」 は,「B氏」と同義の用語として使用する. 弟 の 語 り に お い て,数 週 間 に わ た り B 氏 の AHNを検討したというが,その期間には,「これ まで日常生活を送っていたB氏が,脳出血発症に より急激に状態変化した」という現実と向き合い ながら,今後どのように生きてほしいかという検 討も重ねていたことがうかがえる. 弟の心情として,AHNの検討当初より「経鼻栄 養の継続が良いだろう」と考えていた一方で,「胃 瘻を選ぶべきか否かわからない」という「揺らぎ」 の心情も有していたことが示された(表 4 ※ B1) (以下,表4は略).その「揺らぎ」を増幅させた 影響因として,一つに B 氏との「関係性の重み」 が示された.それは,脳出血発症まで共有してき た時間や,B氏のこれまでのライフスタイルや人 格が,「B氏への尊敬」や「姉弟としての良好な関 係性」として現在でも弟の思考に反映され,「B氏 の為に行動する」という原動力にもつながってい た(※B2).その一方で,培われた「関係性」が 生命に関わる決定をより重責化したものと考え る. 他方,「B氏であれば何を考え,何を望むか」と いう弟の思考も「揺らぎ」を増幅させた影響因と して示された.それは「B氏との良好な関係性」か ら生じている思考であり,B氏との関わりの基本 となっている(※ B3).B 氏が入院して以来,弟 はB氏のこれまでの「ライフスタイル」や「人格」 および現在の「表情」といった「手がかり」によっ て「B氏が望むこと」を捉え,「B氏の為に行うべ きこと」を判断している. しかし,「女性という視点でAHNの処置につい てどのように望むか」といった「AHNの検討過程 で生じた問い」にはB氏から得られる「手がかり」 を活用できず(※B4),さらにAHNに関する経験 知もないため,「B氏が望むこと」をめぐる思考に 確信を得ない状況が継続し,「揺らぎ」が増幅して

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表4 B氏弟の語り 観点 生データの一部 「揺らぎ」 「やっぱり大事なことを決めるとか,こっちいったりこっちいったり.もう色々とね,駆け巡る んですよね」 「こっちの方が良いんじゃないかなぁとか,いや,こういう風にしてあげたら良いんじゃないか なぁとか,やっぱり常にグルグルグルグルまわるんですね.そして結論が出ないんですよ」 「自分ではこう決めてるんですけど,でも最終的な,何と言うか判断って言うのか…」(※B1) 「揺らぎ」を 増幅させた 影響因 「すごく友達の多い人で,趣味も一番多くて.私…自分の姉弟の中でも一番尊敬してるんです よ.すごい苦労をした人ですし,すごい努力家なんですよ.だからそういう姿を私も見てます し.だから,私はやっぱり本当に,この姉にはこうやってやれることはやってあげようと思っ てます」 「まぁ本当にいろんな面でやっぱり,私は今の姉に感謝してるんですね」(※B2) 私はやっぱり,考えてても,姉だったらどう思うかな…ってことは,いつも思うんですね.こ ういうことしてあげたら姉はどう思うのかなぁと(※B3) やっぱり女性の心理というのは私よくわかりませんが,(AHNによって身体に)傷はつきたく ないっていう部分もあるのかなぁって(※B4) 「揺らぎ」を 減少させた 影響因 こうやって育ってきた環境の中で,やっぱりあの,入院してる姉だったら,きっとこっちを選 ばないでこっちを選んだだろうっていうのが自分なりに何となくわかるんですよ.間違ってる か合ってるかわかりませんけど.だからなるべくそういう風にしてあげようと(※B5) 倒れたのも 64 歳で若いし.胃瘻っていうのは,年配の人がするっていうイメージがちょっと あったんですね.講演を聞いて(胃瘻の情報を得て).姉も若いですし,今の時代からすれば. だから,胃瘻っていうのはちょっと抵抗あったんですよ.それでやっぱり自分でも決めかねて た…(※B6) 胃瘻はただ…栄養を入れるだけでね.なんか,本当に極端に言うとただ生かしてるだけってい う感じもちょっとあるんですね.自分の気持ちの中で.やっぱりこうやって鼻から栄養を入れ てあげると,実際には感ずるか感じないかわかりませんけど,なんとなく,まぁ普通もの食べ ると口から入れますから,それを口からじゃなくて鼻からだったらね,多少は胃瘻とは違うん じゃないかなっていうのも自分の気持ちの中であったんですね(※B7) 胃瘻をしたら,チューブを取り換えなきゃいけないとか,またこうやってメスを入れて傷つけ る部分もあるし.ここの喉切開をしてるので,それ以上またね,姉の身体を傷つけるのもいか がなものかなと(※B8) 「今こうやって入院してても,常に表情があるわけじゃないですけど,たまには何となく表情も ある時はあるんですね.やっぱりそういうのも,自分としては見たいというのもありますね」 「(その時々によって表情が)違うと思う.いや,僕はそう思ってるんですけど,周りの人はわ かりませんよね,見てもね」(※B9) 自分で一応は何かすることに対してやろうかな,これで良いんじゃないかと思ってても,何と なく女房だとか娘に聞くんですね.まぁ…やっぱり,何かあった時に考えてくれるのはね,そ ういうのはやっぱり本当に家族いて良いなっていうのは私も感じますけどね(※B10) 現在の 「揺らぎ」 ただ今ね,鼻から栄養を入れてて,これはできませんよと言われたら,もう…処置が無いので, 胃瘻をあの,しなきゃいけないなと思ってますけど.最終的にはね,胃瘻を考えなきゃいけな いことはあるかもしれないけど,今の段階で胃瘻はしないと(※B11)

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いたものと考える. 2)「揺らぎ」を減少させた影響因 「揺らぎ」の減少においては,大きく分けると 「意思推察」,「弟の価値観」,「B氏の状態」,「信頼 の置ける情報」という四つの影響因が示された. 胃瘻造設の代理意思決定という複雑な事柄に対す る思考であるため,要因が四つであると限定する 意図はなく,あくまでも語りから表出された主要 な要因として検討していく. まず「意思推察」については,B氏が意思決定 および言語能力を欠如した現状でも,B氏と弟の 間で培ってきた「関係性」のもとでB氏が望むこ とを「自分なりに何となくわかる」という推察で あった(※B5). 次に「弟の価値観」においては,弟の思考のな かで「年齢が胃瘻のイメージと適合しない」(※ B6),「人間らしく過ごして欲しい」(※B7),「こ れ以上身体に傷をつけたくない」(※B8)という 価値観が,「B氏の為に行うべきこと」と接合した ものと考える.なかでも,胃瘻のイメージにおい ては,AHN の検討過程で胃瘻に関する講演会に 参加し,講演者である医師から得た情報により, 「胃瘻は B 氏よりも高年齢者が行う」という印象 を深めている. また,「B氏の状態」については,「表情」を重 視し,その時の体調や「満足度」を看取していた ことから,経鼻栄養の生活について「人間らしく 過ごしている」という理解があったものと考える (※B9). 最後に「信頼の置ける情報」は,前述した講演 会等から得た「医師からの胃瘻に関する情報」と, 「弟の妻・娘からの意見」(※B10)が「揺らぎ」を 減少させた影響因として示された.すなわち,弟 のなかで信頼の置ける情報提供者を選定し,その 情報提供者から取得した「B氏の代理意思決定に とって主要な情報」と,「B 氏の為に行うべきこ と」が関連したものと考える. 以上の影響因において,「揺らぎ」の減少と増幅 を繰り返しながら決定に至っていた経過から,突 出した影響因によって「揺らぎ」が減少したので はなく,影響因が関連し合いながら,緩徐に「揺 らぎ」が減少されたという特徴も示された. 3)現在の「揺らぎ」 今後において,「経鼻栄養の継続が困難となっ た場合は胃瘻を選択するかもしれない」という 「揺らぎ」の継続を示す語りが散見された(※ B11).弟の心情として,代理意思決定および現状 においては「B氏にとって有益である」という肯 定感が続いているため,「今後の B 氏」へ向けた 「揺らぎ」が継続していると言える.すなわち,代 理意思決定において,「現在のB氏は何を望むか」 という観点で検討しているため,今後の B 氏に とって「胃瘻が必要か否かわからない」という誠 実な反応としての「揺らぎ」が示されている.そ して「揺らぎ」の継続には,家族として,そして 代理意思決定者として「B氏の生命維持」を望む 心情も関連していた. したがって,「B氏が何を望むか」を検討し続け る限り,「生命の重み」と向き合いながら,状態変 化に応じて「胃瘻がB氏に適合するか否か」とい う「揺らぎ」が続いていくものと考える. 3.C氏の夫 1)表出された「揺らぎ」と「揺らぎ」を増幅させ た影響因 以下の分析にあたり,胃瘻造設の検討過程で担 当していたZ病院の医師を「主治医」と表記する. C 氏の夫においても「胃瘻を選ぶべきか否か」 という「揺らぎ」が示された(表5※C1)(以下, 表5は略).介護者として長年C氏と暮らしてきた 夫にとって,C氏の「入院後のADLおよび摂食・ 嚥下機能低下」や「誤嚥性肺炎の発症」といった 入院後のC氏に関わる出来事の展開が早く,著し い変化として経験されたため,胃瘻造設をめぐる 「揺らぎ」に至るには,一つひとつの出来事と変化 に対する否定的感情の表出と理解からはじめる必 要があったものと考える. C氏の変調に伴う夫の心情として,C氏のADL 低下につながったと考えている入院先の「治療の 欠落」(※ C2)および「誤嚥を招いた食事介助」

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表5 C氏夫の語り 観点 生データの一部 「揺らぎ」 「心配ってことも.はたして胃瘻が良いか悪いかっていうのはね,わからんかったわけだから」 「(胃瘻造設後に)もし食べれなくなったらこれは大変だと.やっぱり考えるけども.だから逆 に,(胃瘻造設を行わないことで)肺炎を起こして先に死んじまうということじゃ困るし.それ が悩むんだ,やっぱしね.どっちが良いかってことは」(※C1) 「揺らぎ」を 増幅させた 影響因 最初の入院がね,一番悪かったの.1週間薬を止めたことによって,おかしくなっちゃったんだ よ.だからもちろん,飲むことも出来なくなって(※C2) 「(食事介助に不備があって)そうやって肺炎起きたの事実だから.きちんとやってたらそんな に起こさなかったんじゃないかなっていうことを思ってるけどね」 「先生(主治医)とも喧嘩したことあるんだけどね.(介護職員が)ああいう食べさせ方するか らね,そうやって誤嚥起きて肺炎も起きるんであってね,これ今起きるか今起きるかって俺,見 てたんだって言ったの.やっぱりそうでしょっと.だから∼そうやって肺炎起きたしょ!と. な∼にやってんだよ!って俺,はっきり言ったんだよ」(※C3) 先生(主治医)ね,ようやってくださったの.(夫が)はじめは文句も言ってたけどね.言った ことは言ったし.だけど別にね,(主治医が)それによってなんもしないとかさ,そんなこと じゃなくてさ.ちゃんとやることはやってくれてるしね.なんも今,不服のことは無いんだ.今 現在はね(※C4) だからやっぱり胃瘻やってしまったらご飯とか食べれるのかな,食べれないのかなっていうこ ともあったしね.胃瘻っていうもんがわからんかったもん,大体.見たこともないしね.だっ て胃瘻ってこと自体がね,何をするもんなのか,どんなものなのかも,何にもわからんから(※ C5) 「今度ね,また肺炎起きてそのまんま逝っちまったなんてなったら.胃瘻やった方が肺炎の心配 ないってことはないんだ.クックと(唾を)飲んでるわけだから.はっきり言ったら.自分の 唾 飲 ん で も 肺 炎 を 起 こ す 人 は い る っ て い う か ら.そ れ 一 概 に 言 え な い ん だ」 「本当にやって良いのか悪いのかっていうのはね,(胃瘻造設後に)食べれなくなるっていうの が頭にあったから.そうと言って,食べさせて肺炎を起こしたら大変だと」(※C6) 「揺らぎ」を 減少させた 影響因 (在宅時から)そりゃあ痛い時痛い顔するからな(※C7) 「(経鼻栄養チューブの交換を)見ててもね,痛そうなんだわ.入れれないのは何回も.したら 痛いんだな.血も出てくるしさ.やっぱり入んないのは中々入らない人いるんだよ.取ったり 外したり.したら本人も大変だよ.はっきり言うと痛いんだから」(※C8) 本人のためにはね,腹(胃瘻)から直接入れたら痛くも痒くも無いわけだから.胃瘻をしなかっ たら鼻から管を通してやっぱりやらなきゃいかんと.したら本人やっぱり苦しいと思うんだよ. もの喋れんにしたって本人だって大変だと思うんだよ,やっぱし.だからそれでなくてね,痛 くなくて,長生きできるのであれば,そっちの方が良いわけだから(※C9) 娘と話した結果,こうだと言うからね.そしたらやろうかと.それは俺が考えることだから.は たして良いか悪いかっちゅうことをね(※C10) 現在の 「揺らぎ」 「今はなんも,(胃瘻造設を)やった後は痛くも痒くも無いわけだから,本人自体が.だから実 際が,俺,胃瘻ってものわからなかったけど,やって良かったと思う.今はだよ.そう思う. だって胃瘻にして失敗したということは,今現在は無いし」 「(嚥下障害を招いたと考える病院への不満は)今は無い.胃瘻の手術して,それが悪ければ思 うかもしれないけど.今,全然本人も負担なく生きてるし」(※C11)

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(※C3)に対しての「怒り」から始まり,主治医 とのICによる「病状理解」を経て,胃瘻造設に対 する「揺らぎ」へと変動している.それは,夫の 思考において,「ADL低下につながったと考える 出来事」から「嚥下機能低下による誤嚥性肺炎の リスク」へと,「C氏の不利益」の対象が転換され たことを意味している.すなわち,主治医とのIC は,夫にとって胃瘻を検討する契機であり,「揺ら ぎ」が振幅しはじめた出来事でもあるが,日頃の 診療やC氏および夫へ向き合う姿勢に対する「主 治医への信頼」も,「怒り」から「揺らぎ」への変 動および病状説明の理解を促したものと考える (※C4). そして,夫の思考において,胃瘻という初見の 情報から「C氏の胃瘻造設後の生活」を具体化す ることができず(※ C5),夫の希望である「C 氏 の状態改善」延いては「生命維持」の確信を得な かったことが,「揺らぎ」の増幅に影響していたと 言える(※C6). 2)「揺らぎ」を減少させた影響因 「C氏の苦痛を回避する」という「現在のC氏の 利益」を優先する思考が,「揺らぎ」を減少させた 影響因として顕著に示された.胃瘻造設の検討時 以降では,在宅介護時に比してC氏との言語的コ ミュニケーションが困難となった一方,C 氏の 「表情」から感情を看取するという夫のコミュニ ケーションは変わっていない.すなわち,夫は在 宅介護時から「C氏の苦痛」を気にかけてきた経 過(※C7)があり,胃瘻造設の検討過程において 「経鼻栄養チューブの自己抜去に伴う苦痛」を視 認していたことから(※C8),「揺らぎ」が続く過 程のなかで,胃瘻が「C氏の苦痛を解消する方法」 として認識されたものと考える(※C9). また,胃瘻造設後に長期療養していた義父と関 わっていた経験がある娘から,胃瘻に関する肯定 的な情報と意見を得たことも,「揺らぎ」を減少さ せた影響因の一つとして示された.胃瘻造設の代 理意思決定において「良いか悪いかは自分が考え ること」という夫の意思に沿うと,娘の経験を活 かした意見は,夫にとって有用かつC氏の利益に つながる「良い」情報であり,故に代理意思決定 をめぐる思考に取り入れたとも言える(※C10). 3)現在の「揺らぎ」 代理意思決定および現状において,肯定的評価 に至っている心情が示された.すなわち,夫の思 考において「肯定化に向かわせている要素」に よって「否定的感情」が緩和され,代理意思決定 および現状の肯定化に至っているものと考える. ここでの「否定的感情」は,嚥下機能低下の原 因が入院先の「治療の欠落」,「誤嚥を招いた食事 介助」であるという認識から生じている.「否定的 感情」を緩和している要素として,「C氏の状態が 安定している」ということが最も関連していた (※ C11).夫は,胃瘻造設後も「現在」の C 氏に 苦痛かつ状態悪化が生じていないことを確認して いる.換言すれば,胃瘻造設前から現在に至るま で,「C氏の不利益を回避する」という思考によっ て「揺らぎ」が減少され,代理意思決定後および 現状を肯定化する思考が優位になっていると言え る. また,「医療従事者等からの手厚い対応の実 感」,「病院スタッフの人間性」,「病院という環境 に対する妥協」という心情も「肯定化に向かわせ ている要素」として示された.なかでも前述のと おり「主治医への信頼」が顕著に示されていたな か,「一人ひとりのスタッフの人間性や環境に よってC氏への対応は異なる」という理解も「否 定的感情」を緩和させていた. 今後において,C氏の「肯定化する要素」と「否 定的感情」とのバランスの関連によっては,「揺ら ぎ」の振幅が大きく変動する可能性があると考え る.

Ⅴ.考

分析を通し,家族に共通していたのは,「胃瘻を 選ぶべきか否かわからない」という「揺らぎ」で あった.表出された「揺らぎ」について,以下考 察を進めていく. まず,家族の「揺らぎ」に共通する特徴として,

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「揺らぎを増減させる影響因がある」,「揺らぎの 増減は,現在に至るまで,『患者と培ってきた関係 性』を背景に,『揺らぎの影響因』と複雑に関連し ながら変動している」という二つの点が示され た. 一つ目の「揺らぎを増減させる影響因がある」 という特徴においては,主な影響因として,「医療 従事者等の関係者による影響」と「家族自身の思 考や心情からの影響」を挙げることができる.な かでも,「医療従事者との関わり」は影響因として 顕著であり,特に「医師」との関わりは「揺らぎ」 の増減に限らず,患者や家族のライフイベントが 転換される程の影響があった.そして,患者の 「病状理解」および「現状の納得」の差異によって 「揺らぎ」の増減にも差異がみられたが,その背景 には医師との「信頼関係」および「ICにおける納 得」の差異があったものと考える. 高齢患者の胃瘻造設をめぐる家族の代理意思決 定と「医師による影響」との関連は,従来の研究 でも明らかにされているが,「決定要因」としての 影響が主である(相場・小泉 2011;祢宜 2011; 種市ら 2013).本研究でも,「医師による影響」に よって,家族の決定が促進されるという傾向も見 受けられたが,その背景として,「揺らぎ」という 観点から,「医師への信頼」や「ICによる納得」に よって「揺らぎ」が顕著に減少されたことにより, 決定も促進されたという家族の心情を捉えること ができる. そして,胃瘻に関する知識と経験が乏しい家族 にとって,医師に限らず,看護師,さらには家族 や知人などの身近な人から得る胃瘻に関する情報 も,胃瘻の理解として取り入れやすいが,取り入 れた情報内容によって「揺らぎ」が増減する傾向 もみられた. 一方,家族の繊細な思考や心情も影響因となっ ている.特に「患者の不利益の回避」と「生命の 重み」は家族に共通していた影響因であり,代理 意思決定前に限らず決定後も継続する「揺らぎ」 の影響因としても示された. また,二つ目の「揺らぎ」の特徴は,胃瘻造設 の検討から代理意思決定までに限らず,代理意思 決定前から現在に至るまで,「揺らぎ」の影響因が 複雑に関連し合い,「揺らぎ」の増減が変動してい ることである.いずれの段階においても,患者と 家族で培ってきた「関係性」の継続が背景にあり, 「揺らぎ」の影響因と関連しながら,現在および今 後の患者にとって「胃瘻を選ぶべきか否かわから ない」という「揺らぎ」が継続されていた. 先行研究では,高齢患者の胃瘻造設を選択した家 族において,代理意思決定に伴う心理的プロセス (榎本ら 2010;相場・小泉 2011;加藤ら 2011; 加藤・原 2012;祢宜 2011)や,決定時の思い(榎 本ら 2010;加藤ら 2011;福本ら 2014)および 決定要因(榎本ら 2010;相場・小泉 2011;福本 ら 2014)の明確化を重視する傾向があり,「患者 の生活」にも着眼した代理意思決定をめぐる「揺 らぎ」には着目されてこなかった.本研究を通し, 胃瘻造設の代理意思決定時に限らず,現在に至る まで,「患者の生活の歩み」が家族の心情とつなが りながら,多様な影響因が関連し合い,「揺らぎ」 の増減が変動していく過程が示されたことは,代 理意思決定を担う家族の複雑な心情を理解してい くうえでの有用な知見であると考える. 以上の特徴を踏まえ,「揺らぎ」の意味を検討し たい. まず,「揺らぎ」は,代理意思決定において「患 者の利益」を追求し続けている家族の自然な反応 であると考える.分析から,現在延いては今後の 「患者の利益」を考慮し,揺らぎ続けていたことが 家族に共通して示された.それは,「揺らぎ」が代 理意思決定時のみに限定された感情ではなく,現 在に至るまで「患者の利益」を追求し続けている 家族の誠実かつ自然な反応であることを意味して いる. 一方で「揺らぎ」は顕在化し難いという点にも 注目したい. 前述のとおり,「胃瘻を選ぶべきか否かわから ない」という「揺らぎ」は,多様かつ変動的な影 響因が関連しながら継続している状態であること が示された.「揺らぎ」の渦中にいる家族が,医療

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従事者等へその複雑な心情の詳細を明確に伝える ことは困難であると考える.さらに,胃瘻造設の 代理意思決定自体が生命に関わる難しい判断であ るという観点からみると,家族が揺らぐことは, 医療従事者等において自明視されやすいため,そ の複雑な心情の詳細に目が向けられにくいと言え よう. 尾崎は,「揺らぎ」の性質において,「決めつけ」 とは対極であり,「間」や「振幅性」を備えている ため,「 藤」等を生じさせ,深刻化すると「危機 や破綻」につながる反面,「異なる視点や新たな発 見」を導き,「変化や成長」を生み出す可能性があ ることを指摘している(尾崎 1999).「患者の利 益」の追求と「家族の危機」につながりうる側面 を併せ持つという意味でも,顕在化しにくい「揺 らぎ」に着目する意義があると言える. 他方,前述のとおり「医療従事者との関わり」 が「揺らぎ」への顕著な影響因として示されたが, ここでの「医療従事者との関わり」とは,「患者お よび家族へ向き合う姿勢」や「ICを通しての話し 合い」,「情報提供」が主である.この「医療従事 者との関わり」を「胃瘻造設の代理意思決定を担 う家族への支援」という意味で捉えると,「医療従 事者による家族への支援の在り方」によって,胃 瘻造設をめぐる「揺らぎ」が増減しうるという実 情も示されたと言える. すなわち,家族への支援者は「揺らぎ」の影響 因になりうるということを前提とし,家族の「揺 らぎ」を減少させることではなく,「揺らぎ」にお ける家族の精神的負担へ配慮しつつ,「患者と向 き合いながら,その家族らしく『揺らぎ』続けて いける」ことに重点を置くことが,代理意思決定 支援に必要とされる視点であるという示唆を得る ことができた.

Ⅵ.おわりに

本研究は,意思決定能力を欠如した高齢患者の 胃瘻造設をめぐる代理意思決定を経験した家族の 語りを分析し,代理意思決定をめぐる「揺らぎ」 の内実について考察した.調査対象者を入院して いる患者の家族に限定したこともあり,語りの傾 向として,代理意思決定に対する肯定的評価とと もに,いずれの段階においても「患者の長生きを 望む心情」が示され,その心情は「揺らぎ」の増 減にも影響していた. しかし,患者の状況や家族を取り巻く環境は変 わりゆくものであり,その変化によって「揺らぎ」 の影響因が変わり,「揺らぎ」の増減も変動しうる と考える.今後,「揺らぎ」の内実をより詳細に考 察するためにも,長期的な追跡調査を行っていき たい.加えて,本研究で取り上げることができな かった「代理意思決定に対し否定的評価を行う家 族」や「患者の死を経験した家族」も調査対象と し,「揺らぎ」に関する事例を積み重ねていく必要 があるだろう. また,胃瘻に関する社会情勢として,2000年以 降の社会的普及をうけて胃瘻造設の適正化政策へ と推移したことにより,医療機関による医療供給 体制や個々人による胃瘻の評価等へ影響を与えて いる可能性から,代理意思決定への影響も類推で きる.以上のことから,胃瘻に関する社会情勢の 影響は重要な観点であるが,社会情勢と代理意思 決定との相関関係についての詳細な分析が必要と なるため,この点も今後の課題としたい. 謝辞 本研究をご理解いただき,長時間にわた る調査にご協力くださったA氏,B氏,C氏のご 家族,X病院,Z病院のMSWの皆様に心より感謝 申し上げます. 付記 本報告は,北星学園大学大学院社会福祉 学研究科提出の修士論文(2019)の一部改変に基 づくものである. 文  献 相場健一・小泉美佐子(2011)「重度認知症高齢者の代理意 思決定において胃瘻造設を選択した家族がたどる心理 的プロセス」『老年看護学』16(1),75‒84.

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榎本裕美・露崎かおり・小島ちあき・ほか(2010)「高齢患 者の胃瘻造設を家族が代わって意思決定する時の要因 ―高齢患者の娘による意思決定の分析を通して」『日 本看護学会論文集 老年看護』41,64‒7. 福本彩美・中西真望・横井由枝・ほか(2014)「胃瘻造設時 の意思決定に対する家族の思い」『四国こどもとおとな の医療センター医学雑誌 看護研究集』,189‒91. 平田佳代子・佐藤奈央・金井枝美・ほか(2006)「高齢者の 嚥下障害の実態とその治療―痴呆の影響と栄養サ ポートチーム(NST)介入の効果」『耳鼻と臨床』52(補 1),25‒39. 神部今日子(2019)「意思決定能力を欠如した高齢患者の胃 瘻造設の代理意思決定をめぐる「揺らぎ」に関する研究 ―家族の語りの分析を通して」北星学園大学大学院社 会福祉学研究科修士論文. 加藤真紀・梶谷みゆき・伊藤智子・ほか(2011)「誤嚥性肺 炎のため胃ろう造設をおこなった高齢者家族の意思決 定プロセス」『島根県立大学短期大学部出雲キャンパス 研究紀要』5,161‒8. 加藤真紀・原 祥子(2012)「介護老人福祉施設入所高齢者 の胃瘻造設における家族の代理意思決定プロセス」『老 年看護学』16(2),38‒46. 厚生労働省(2007)『終末期医療の決定プロセスに関するガ イドライン』(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/05/ dl/s0521-11a.pdf,2020.4.11). 宮地尚子(2007)『環状島‒トラウマの地政学』みすず書房. 内閣府(2017)「平成29年版高齢社会白書」(https://www8. cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/ s1_2_3.html,2020.4.11). 祢宜佐統美(2011)「経管栄養を導入した在宅要介護者の家 族介護者の思い―インタビューを通して家族による 代理意思決定のあり方を考える」『岐阜医療科学大学紀 要』5,41‒52. 日本老年医学会(2012)「「高齢者の終末期の医療およびケ ア」に関する日本老年医学会の「立場表明」」『日本老年 医学会雑誌』49(4),381‒6. 尾崎 新(1999)『「ゆらぐ」ことのできる力―ゆらぎと 社会福祉実践』誠信書房. 種市悦子・加藤美紀・佐々木真紀子・ほか(2013)「経皮内 視鏡的胃瘻造設術(PEG)を受けた患者家族の意思決定 時と造設後の認識」『日本看護学会論文集 老年看護』 43,86‒9. 横内正利・安藤泰至・高橋 都・ほか(2012)『シリーズ生 命倫理学-第4巻 終末期医療』丸善出版.

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“Wavering Feelings”:

Surrogate Decision-Making Regarding Gastrostomy

on Behalf of Elderly Patients Who Cannot Decide for Themselves

Kyoko TAKEMORI

This study considered the circumstances surrounding the “wavering feelings” of family members who made decisions regarding gastrostomy as surrogates of elderly patients based on the “family narrative.” The researcher conducted interviews with the families of three elderly patients who had impaired decision-making abilities. The sur-vey was designed to analyze how “wavering feelings” in family members are gener-ated, maintained, and fluctuates in relation to the lives of patients. The survey results further revealed two characteristics of “wavering feelings.” The first characteristic was that several factors influenced “wavering feelings,” and the second was that fluctua-tions in “wavering” are related to a “continuous relafluctua-tionship with the patient” and sev-eral “factors influencing the waver.” A major conclusion of the study was that while thinking about the patient’s well-being, all families continued to waver. This suggests that surrogate decision-making support requires an acknowledgment of the family’s continued wavering during the process while considering the mental burden on the family.

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