論 文
森林空間がもたらす騒音に対する音の物理的減衰効果
宮 城 昭 博
1,3・美 濃 羽
靖
1,*・森
有 花
2金 田
茜
2・川 村 真 央
2Physical attenuation effects of forest spaces on noises
Akihiro Miyagi
1,3, Yasushi Minowa
1*, Yuhka Mori
2Akane Kaneda
2and Mao Kawamura
2*連絡先(Corresponding author)E-mail : [email protected]
1 京都府立大学大学院生命環境科学研究科(606−8522 京都市左京区下鴨半木町1−5)
Graduate School of Life and Environmental Sciences, Kyoto Prefectural University, 15 Shimogamo-hangi cho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8522, Japan 2 京都府立大学生命環境学部(606−8522 京都市左京区下鴨半木町1−5)
Faculty of Life and Environmental Sciences, Kyoto Prefectural University, 15 Shimogamo-hangi cho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8522, Japan 3 一般財団法人砂防・地すべり技術センター(102−0093 千代田区平河町2−7−5 砂防会館5階)
SABO&Landslide Technical Center, 275 Hirakawa cho, Chiyoda-ku Tokyo 102-0093, Japan
宮城昭博・美濃羽靖・森有花・金田茜・川村真央:森林空間がもたらす騒音に対する音の物理的減衰効果,森 林計画誌54:93∼103,2021 本研究では,森林空間がもたらす騒音に対する音の物理的減衰効果について音響 実験を行い検証した。京都市左京区大見地区の落葉広葉樹林内に10m×50m の音響実験区域を設定した。8通 りのサイン波(125,250,500,1,000,2,000,4,000,5,000,8,000Hz)およびホワイトノイズの計9音を 発振点から2種類の音の大きさ(80および95dB)で発振させ,五つの測定地点で地上高1.3m および5.0m 地 点の音を録音し音圧レベルの解析を行った。音響実験は落葉前後で2回行い,実験区内の毎木調査から作成し た立木位置図,樹冠投影図等を用いて樹冠内に占める枝葉の占有体積を算出した。その結果,各周波数帯にお ける理論値から測定値の音圧レベルを引いた値(減衰量と呼ぶ)は多くのケースおいて正の値となった。発振 点とマイクの間の枝葉の占有体積と減衰量とには高い正の相関が見られた。落葉前後における減衰量は全体と してはほとんど変わらなかったが,周波数別に見ると発振音の大きさ95dB において落葉前の減衰量が大きい 結果を示したことから,樹葉の有無は音の減衰効果に大きく関与していることが示唆された。また,音の減衰 効果は低周波数帯において最も高く,順に中周波数帯,高周波数帯といった傾向が示唆された。本論文によっ て森林による騒音に対する物理的減衰効果に影響する要素について新しい知見が得られた。
Akihiro Miyagi, Yasushi Minowa, Yuhka Mori, Akane Kaneda and Mao Kawamura: Physical attenuation effects of forest spaces on noises. Jpn. J. For. Plann. 54: 93 103, 2021 We used a sound test to determine the physical attenuation effects of forest spaces on noises. We selected a 10 50 m study area in a deciduous broad-leaved forest in Ohmi District, Sakyo-ku, Kyoto City. Oscillating sound was sampled at 80 and 95 dBs, and the sampling frequency comprised nine patterns : eight sine waves(125, 250, 500, 1,000, 2,000, 4,000, 5,000 and 8,000 Hz),and white noise. The sounds were oscillated from a set oscillation point and recorded at the heights of 1.3 and 5.0 m at five sound recording points. The sound pressure levels of the recorded sounds were then analyzed. A sound test was performed twice: before and after the falling of leaves. We created a standing tree map and a crown projection diagram based on tree census data, calculated the volume of the space occupied by the branches and leaves in the tree crowns, and established the presence and absence of leaves. The differences between the measured and theoretical values of sound-pressure levels(hereinafter, the
Ⅰ.はじめに 近年,森林は木材生産を目的としたものだけではな く,安らぎや癒しをもたらす空間であることや蒸発散 作用等により気候を緩和するなど人々にとっての快適 な環境の形成に寄与する働きを有するとして注目され ている(林野庁,2013)。またこのような機能は,森 林のみならず都市における緑地空間においても同様の 効果を発揮していると考えられている。例えば,歴史 的には大気汚染に対する浄化機能としての公園緑地, 今日的には高熱環境対策としての特殊緑化は我々の疾 病の予防に貢献しており,緑の景観や植物の芳香作用 などは癒しの効果をもたらしている。さらには,緑地 内での散歩や遊戯,ガーデニング作業は,爽快感やス トレス発散効果を持つため,リハビリテーション,認 知症予防,心療内科領域等において療法的に活用され る場面もある(飯島,2013)。こういった緑地空間が もたらす心理的,身体的効用については,人間・植物 関係学(松尾,2011),バイオセラピー(古賀ら,2011), グリーン・アメニティー(仁科,2008)といった様々 な定義のもと,研究が行われている。 一方,人口が密集し,かつ交通量の多い都市では騒 音は重要な問題となっている。一般に,人々は騒音が 発生している環境に長期間さらされると,生理的機能 や聴力の低下,睡眠障害,あるいは精神疾患などと いった問題が生じる。また,たとえ騒音が低度であっ たとしても,騒音は,不快感や作業・学習効率の低下, 精神的ストレスや近隣トラブルの一因となることがあ る(ベリルンドら,1995)。そこで,このような都市 で発生する交通騒音や生活騒音に対し,都市内に緑地 が存在することによって騒音が緩和されるといった研 究がいくつか行われている。騒音の緩和には,騒音が 緩和されたように感じる心理的減衰効果と,緑地が存 在することによって騒音が遮音される物理的減衰効果 があると考えられている。前者については,葉の擦れ 音が100∼1,000Hz の成分を持っているため,1,000 Hz 付近にピークを持つ自動車騒音の緩和に有効であ るといった報告(小松ら,2000)や,視覚で緑を認識 することで聴覚を介した騒音の喧騒感が緩和されると いった報告(田村ら,1992)がある。後者については, 森林や緑地帯にある程度の密度で樹木が存在すること で騒音が吸音されること,特に樹葉が騒音の減衰効果 に貢献していること,といった多くの研究が報告され ており(本田,1972;前崎ら,1973;三澤,1980;鹿島 ら,1984;鹿島ら,1989),特に樹葉については,大 規模緑地での落葉前後における音の減衰効果を比較し た結果,落葉前の方がより静かな空間を有するといっ た報告(本田,1972)や,植樹帯や単木単位を対象と する実験から,樹種の違いによって音の減衰が異なり, 特に大きい葉を持つ樹種のほうがより音の減衰効果が 大きくなるといった報告(鹿島,1984)がある。上記 の報告に対しては,三澤(1980)は,樹冠全体が多孔 質物質のような役割を果たして音を吸音させていると いうこと,また樹冠内で音の乱反射が起こり,音のエ ネルギーが散乱させられることによって音の減衰が起 こるといった考察を行っている。一方,植樹帯に向 かって音を発振し,反射された音の大きさを観測した 実験結果から,樹種によって音の反射量が異なること (三澤,1980)や,立木本数密度よりも材積や胸高断面 積合計が音場環境に対してより影響を及ぼしている可 能性があること,さらには,森林内において,それほ ど大きくない空間が出来るとその中で音は反響する (野堀,2008)といった研究例などから,森林や緑地 は樹木と空間との一体効果によって音を減衰させる働 きを持つことが示唆されている。一方,騒音は様々な 周波数を持った音から構成されているが,これまでの 研究の多くは,騒音として用いる音はホワイトノイズ などのノイズを用いるものが多い。また周波数別の音 を用いた研究(本田,1972)は見られるものの,騒音 を遮断する森林や緑地については,その構成要素であ る樹葉の有無や量との関係を明確に捉えた解析がなさ れてはいない。しかし,樹木の配置や樹葉の有無と
quantity of attenuation )for every frequency band at the sound recording points showed almost positive values. Moreover, the volume of the space occupied by the branches and leaves in the tree crowns and the levels of attenuation between the oscillation point and the microphone were found to show a strong positive correlation. Overall, the quantity of attenuation hardly changed in the presence or absence of leaves. According to the frequencies, the quantity of attenuation for 95 dBs of oscillating sound were found to be higher before the falling of leaves than they were after the leaves had fallen. We thus inferred that the presence and absence of leaves had a significant effect on noise attenuation. In addition, the highest effect on noise attenuation was found in the levels of attenuation in the low-frequency band, followed by the middle and high frequencies. This study provides new information on the factors that influence the physical attenuation effects of forest spaces on noises.
いった林分構造の違いにより騒音がどのように減衰さ れるのか,また,その際,騒音の減衰において周波数 ごとに違いが見られるのか,といった点を同時に検討 することは,都市内における緑地の管理等を考える上 で重要であると考えられる。 そこで,本研究では,森林空間内の林分構造を把握 した上で音響実験を行い,森林空間がもたらす騒音に 対する音の物理的減衰効果を明らかにすることを目的 した。騒音は様々な周波数を持った音から構成されて いることを踏まえ,音の種類として周波数帯ごとのサ イン波を用いた。また,林分構造には様々なものが考 えられるが,本研究では,樹冠が空間を占めていると 考えられる体積を毎木調査から算出し,また,その空 間内における樹葉の量の違いとして,落葉前後におい て音響実験を行い,森林空間内における音の減衰量の 比較を行った。 Ⅱ.音響実験 1.音響実験区域の概要 本研究では,人為的に発生させた音を騒音と仮定し て,森林空間内において音響実験を行った。音響実験 を行う場所としては,周辺の道路交通音などの人為的 な騒音がないこと,地形の影響を受けることがない比 較的平坦な地形であること,等を考慮した結果,実験 場所として,京都府京都市左京区の北部に位置する大 見地区の森林を選定した。大見地区は標高610∼680m の低山地で標高750m 級の山々に囲まれた盆地である。 年平均気温は約10℃であり,市街地に比べて約5℃程 度低く,また降水量は年間約2,000mm 程度と市街地 と比べ50mm 程度と多い場所である。実験場所は大見 地区の平坦地で,クリやコナラが生育し,夏季には林 床 に シ ダ 類 が 繁 茂 す る 落 葉 広 葉 樹 林 に 設 定 し た (写真−1および写真−2)。 2.音響実験区域の設定 音響実験区域は,ほぼ平坦な落葉広葉樹林内とし, 発振点および測定地点を含む10m×50m の実験区域を 設定した。なお,本研究で利用した大見地区内の森林 では,地区内に森林がある程度まとまった形で点在し ており,本実験区域においても,実験区域周辺には樹 冠等が重なる樹木の存在が見られなかったことから, 区域外の樹木の影響はほとんどないと考えられる。本 研究では,スピーカーを設置した地点を音の発振点 (0m 地点)とし,発振点からそれぞれ10m,20m, 30m,40m,50m 離れた5つの測定地点を設定し,録 音用マイクを設置した。騒音計は発振点から1.0m 地 点に設置し,騒音レベルを一定に保つよう測定ごとに スピーカーの音量を確認,調整した。また,各測定地 点では,地上高が約1.3m および約5.0m の場所に2 本のマイクを設置し,発振点からの音を同時録音した (図−1)。 実験区域内の林分構造を把握するため,立木位置, 胸高直径,樹高,枝下高,樹冠幅,開空度を測定した。 立木位置は Laser Technology 社の Impulse200/200LR および Impulse 用デジタルコンパス MapStar を(Laser Technology website),胸高直径は直径巻尺を,樹高,枝 下高,樹冠幅は Hagröf 社の Vertex を用いて測定し た(Hagröf website)。なお,樹冠幅は Vertex を用い て東西南北4方向の水平距離を計測し,楕円近似した。 開空度は各測定地点において撮影した全天写真から, 全天写真解析プログラム「CanopOn2」(竹中,2009) を用いて求めた。また,本研究では,実験区域内にあ る葉の量を測定地点間ごとに比較するために,葉が樹 冠内に占める体積を簡易的に算出した。ここでは,樹 冠は樹高,枝下高,樹冠幅からなる円柱として近似さ れた空間と考え,各測定点で落葉前後に撮影した全天 写真から空隙率を算出し,近似した円柱の体積と空隙 率より葉が樹冠内に占める体積(本研究では,枝葉の 占有体積とする)とした。 音響実験は,落葉前(2016年8月)および落葉後(2016 年11月)において,それぞれ1回ずつ行った。 3.音の発振および録音方法 音の発振,録音に関する機器等は以下を用いた。音 の発振には,信号音発生ソフト「Wave Gene」を搭載 し た 発 振 用 PC に ス ピ ー カ ー を 接 続 し て 行 っ た。 Wave Gene(Wave Gene website)とは,様々なテス ト用音声信号を計算により発生させ,サウンドデバイ スやファイルへ出力するアプリケーションであり, 9種類の波形を八つまで同時に組み合わせて出力する ことができるソフトである。音の録音には Spectra SOFT 社の「SpectraPLUS-SC Sound Card Edition」(以 下,SpectraPLUS)(SpectraSoft website)を搭載した 測定用 PC により行っ た。SpectraPLUS と は,音 声 信号に含まれている音圧レベルなどの基本的な周波数 成分を測定し,表示および解析を行うことができる スペクトラムアナライザーソフトである。録音用マイ ク に は,BEHRINGER 社 の 無 指 向 性 マ イ ク で あ る ECM8000(BEHRINGER website)を,ま た マ イ ク アンプには TASCAM 社の US-144MKⅡ(TASKAM website)を 使 用 し た。ス ピ ー カ ー は ION Audio 社 Explorer iPA76S(ION Audio website)を,騒音計は サトテック社 CENTER322(サトテック社 website) をそれぞれ使用した。発振音の種類は,Wave Gene に用意されている波形のうち,サイン波およびホワイ トノイズの2種類の波形とした。サイン波は8通り
(125,250,500,1,000,2,000,4,000,5,000,8,000 Hz)の周波数を用いた。ホワイトノイズは,全ての 周波数帯域においてエネルギーが均一に混入したノイ ズである。発振音の大きさは,Wave Gene からホワ イトノイズを3分間発振させ,スピーカーから1.0m 離れた位置に騒音計を設置し,80dB および95dB に なるよう設定した。測定中に発振音以外の突発的な 音が入らないように 注 意 し た。発 振 音 の 録 音 は, SpectraPLUS の Recorder モードで録音し解析を行っ た。録音は1回につき約5∼7秒間行い,これを3回 繰り返した。 本 研 究 で は,音 の 大 き さ と し て,「音 圧 レ ベ ル (dB)」を用いた。一般に,音は大気圧の圧力振動に よって生じるが,この振動の振幅の大きさを音の大き さとして表したものは音圧と呼ばれ,圧力の国際単位 パスカル(Pa)を用いて表される。また,人間が聞 き取ることのできる最小音圧は20µPa であるため,一 般には20µPa を基準とした音圧レベル(dB)を用い て音の大きさは表される。音圧レベルとは,ある音の 音圧と基準の音圧との比の二乗の対数をとったもので, 単位は dB が用いられる(境,1978;難波ら,1989; 日本音響学会,1996)。なお,発振音の大きさを80dB および95dB とした主な理由は,ベリルンドら(1995) であげられている社会的影響,行動への影響,不快感 として感じられるのが80dB を超える音としているこ とから,80dB およびそれ以上の音として95dB を用い ることとした。95dB としたのは,用いたスピーカー において安定して得られる音量でかつ最大に近い音圧 レベルとして95dB が適当であると判断したためで ある。 Ⅲ.解析方法 本研究では式1に表す距離による音の減衰の理論式 を用いて発振点から1.0m の地点の音圧から,各測定 地点における音圧の理論値を算出,各測定地点におい て測定した録音データとの比較を行った。 L1−L2=20log10(r1/r2) (1) ここで,r1,r2は音源からの距離(m),L1,L2は r1, r2におけるに音圧レベルをそれぞれ表す(生物音響学 会,2019)。式1より,音は発振点から距離が遠くな るにつれて,距離に従った音圧レベルの減少は徐々に なだらかとなる。例えば,距離が2倍になると音圧レ ベルは6dB 減衰する。音は,単位時間あたりにある エネルギーを伝える仕事率(パワー)を有しているが, 自然界における音の減衰要因としては,音の空間的拡 散によるパワー密度の減少,空気や水などの媒体によ る損失などがある。距離による減衰は,パワー密度が 距離の2乗に反比例して減少することから,本研究で 行ったスピーカーからマイクに向かって音を発振した 場合においても,音の距離による減衰は式1で示した 関係で表される(生物音響学会,2019)。本研究では, 各測定地点において式1より算出した値を理論値とし, 測定値との差を「減衰量」(式2)とした。 減衰量(dB)= 理論値の音圧レベル(dB)−測定値の音圧レベル(dB)(2) ここで理論値は式1より算出した各測定地点におけ る音圧レベル,測定値は各測定地点で実測した音圧レ ベルである。このとき,測定値の音圧レベルが理論値 の測定値より小さい値を示した場合,すなわち減衰量 が正の場合は,各測定地点における音圧レベルは式1 で算出した理論値以上に音圧レベルが低下している場 合であり,その結果,森林空間には音を減衰させる働 きがあると考えることができる。なお,本研究では, 音を減衰させる働きを音の減衰効果とし,ここでは, 減衰量が大きいほど減衰効果は高いとした。 音の解析には,SpectraPLUS の「Spectrum」を用 いた。Spectrum は横軸が周波数で,縦軸が周波数ご との音圧レベルを表すグラフである。図−2に示すよ うに,記録した音源ファイルを Spectrum で再生する と,発振された音は発振周波数においてピークが示さ れる。本研究では,各測定地点で得られた3回の測定 データの平均値を用いた。 Ⅳ.結果と考察 1.毎木調査 音響実験区域の樹冠投影図および3次元立体図を 図−3に示す。なお,森林構造は3次元表示・樹冠投 影図表示シミュレーター「Forest Window 2.53」を 用いた(野堀,2016)。表−1は,毎木調査の結果から 得られた各測定地点における立木本数,胸高断面積合 計,落葉前後における枝葉の占有体積を示す。音響実 験区域全体を通して,極端に樹冠が開けたところはな く,低木から高木まで成立していた。下層植生として は,主にイヌヒメワラビが群生しており,10m から 30m の間では点々と,30m から50m の間では一面に 分布していた。本音響実験区域では,発振点からの距 離が10m から30m 地点において,多くの樹木が成立 しているが,極端に開けた場所等が存在しないため, 音響実験を行うのに十分な調査地であると考えられた。 2.音響実験 図−4−1,4−2は,発振点からの距離,音の大き ― 96 ―
発振点 測定点 測定点 測定点 測定点 測定点 騒音計 1m 測定用マイク 発振用 PC 測定用 PC スピーカー 10m 20m 30m 40m 50m 5m 5m 発振点 樹高 - 5 m 灰色 5- 9 m 緑色 9-14 m 青色 14 m-19 m 紫色 19 m - 赤色 図−1 発振点および測定点
図−2 Spectra PLUS の「Spectrum」による音圧レベ ルの解析
図−3 音響実験区域内の樹冠投影図および3次元立体図 写真−1 音響実験区域内の落葉前(8月)の様子 写真−2 音響実験区域内の落葉後(11月)の様子
さ,マイクの高さおよび落葉前後における周波数別に 見た減衰量を示した図で,図−4−1は周波数が125Hz か ら1,000Hz ま で を,図−4−2は2,000Hz か ら8,000 Hz までを示した図である。横軸は発振点からの距離を, 縦軸は減衰量を表している。発振音の減衰量は平均値 を用い,図中の縦線は標準誤差を示している。また, 図では,落葉前後は同じ凡例で,音の大きさの違いは 同じ色で表している。 全体的な傾向としては,ほとんどの周波数帯におい て,音圧レベルは理論値より測定値の方が小さい値を 示す場合が多かった。このことから,森林空間ではど の周波数帯であっても,音の減衰効果を有すると考え られる。各測定値の測定結果の標準誤差を見ると,全 体的な傾向としては,低い周波数では3回の測定のバ ラツキが比較的小さいこと,また,発振点からの距離 が遠くなると3回の測定のバラツキが大きくなること, といった傾向が見られた。 図−5−1は,落葉前後における周波数と減衰量の関 係を示した図で,横軸が周波数を縦軸が減衰量を示し ている。減衰量は平均値を用い,図中の縦線は標準誤 差を示している。図より,落葉後の周波数125Hz,発 振音の大きさ95dB,および落葉前の周波数1,000Hz, 発振音の大きさ80dB の2つの測定条件の場合を除い て,減衰量は正の値を示した。落葉前後で見た場合, 落葉前の減衰量の方が大きかった周波数は,発振音が 80dB では,125Hz および250Hz の低い周波数でのみ 大きくなり,それ以外では,落葉後の減衰量の方が大 き く な る 傾 向 を 示 し た。一 方,発 振 音 が95dB で は,1,000Hz および4,000Hz を除く6つ の 周 波 数 で 落葉前の減衰量の方が大きくなる傾向を示した。減衰 量の大きさを比較すると,落葉前後,発振音の大きさ ともに足し合わせた場合,上位3位で見ると500Hz (総計は44.3,以下同様),250Hz(38.4),2,000Hz(33.0) となった。傾向としては,250Hz と500Hz,2,000Hz と 4,000Hz(30.8),5,000Hz(20.2)と8,000Hz(21.3), といったように比較的近い周波数帯が同じような値を 示した。ただし,125Hz(2.3)および1,000Hz(3.6) では,他の周波数に比べて減衰量はかなり小さい値を 示す結果となった。減衰量が大きかった周波数帯とし ては,順に,250Hzおよび500Hz,2,000および4,000Hz, 5,000Hz および8,000Hz となった。上述のように125Hz と1,000Hz では,ほとんど減衰効果がみられなかった が,全体的な傾向としては,森林内における音の減衰 効果は低周波数帯において最も高く,順に中周波数帯, 高周波数帯といった傾向が示唆された。 図−6は,落葉前後におけるマイクの高さおよび落 葉前後における発振音の大きさと減衰量の関係を示し た図である。減衰量は平均値を用い,図中の縦線は標 準誤差を示している。落葉前後で比較した場合,マイ クの高さが1.3m では発振音の大きさが80dB および 95dB ともに,落葉前の減衰量が大きくなる傾向を示 した。一方,マイクの高さが5.0m では,1.3m とは 逆に,2つの発振音とも落葉後の減衰量が大きくなる 傾向を示した。マイクの高さが5.0m において落葉後 の減衰量の方が大きくなった要因の一つとして,マイ ク周辺における樹葉の有無の影響が考えられる。すな わち,マイクの高さが5.0m では,樹冠内の樹葉周辺 にマイクが設置されることから,マイク周辺に樹葉が ある場合は,樹葉により音が増幅される可能性が考え られる。平均値で比較すると,マイクの高さ別で見た 場合,1.3m では5.9dB,5.0m では6.3dB となり,発 振音の大きさで見た場合は,80dB では5.6dB,95dB では6.1dB となり,どちらの場合においてもほぼ同じ 値を示した。 図−5,6より落葉前後について比較すると,図−5 より,周波数別に見た場合,発振音が80dB における 125Hz および250Hz や95dB におけるほとんどの周波 数において,落葉前の減衰量が大きくなる傾向を示し たことから,森林空間における樹木の葉の存在は,音 の減衰効果おいて大きな役割を果たしていると考えら れる。ただし,図−6で示したように,減衰量をすべ ての周波数を足し合わせて全体として見た場合,落葉 後の方が大きくなる場合があることから,すべてにお いて常に落葉前の減衰量の方が落葉後より大きくなる わけではないことが示唆され,騒音の吸音は樹木の葉 だけでなく,幹や枝においても音の減衰効果を有して 測定区間 立木本数 平均樹高 胸高断面積合計 枝葉の占有体積(m3) (m) (本) (m) (m2) 落葉前 落葉後 0−10 5 10.4 7.3 748 567 10−20 12 11.1 44.6 4,719 3,795 20−30 9 12.3 46.6 2,785 2,061 30−40 7 16.9 37.1 952 709 40−50 3 11.0 18.4 837 649 表−1 毎木調査結果 ― 98 ―
いると考えられる。ただし,一般に,人間の可聴音20Hz か ら20,000Hz の う ち,50Hz か ら5,000Hz 程 度 が 騒 音として認識されやすいとされており,また,本研究 の結果から,1,000Hz を除く,250Hz から4,000Hz に おける減衰量は大きく,またこれらは落葉前の発振音 95dB において大きかったことを踏まえると,森林空 間は騒音として認識されやすい周波数に対して音の減 衰効果を持つことが示唆される。なお,125Hz および 1,000Hz における減衰量は,他の低い周波数帯と比べ るとかなり小さな値を示したが,その理由については, 図−4−1 発振点からの距離,音の大きさ,マイクの高さおよび落葉前後に対する周波数別に減衰量 −125Hz から1,000Hz− ― 99 ―
本研究の結果からは明確な理由は見出せなかったため, これらの周波数についてはさらなる検証が必要である。 ただし,1,000Hz については,先述したように,葉 の擦れ音の周波数が1,000Hz 程度であることが知ら れており(小松ら,2000),落葉前ではマイク周辺に 樹葉が存在することから,葉の擦れ音によって音の減 衰効果がそれほど得られなかったのではないかと考え られる。 図−7および図−8は,落葉前後における枝葉の占有 体積と減衰量との関係を表した図で,図−7は相関係 図−4−2 発振点からの距離,音の大きさ,マイクの高さおよび落葉前後に対する周波数別に減衰量 −2,000Hz から8,000Hz− ― 100 ―
数を周波数別に示した図を,図−8は,落葉前後,発 振音の大きさ別に見た発振点とマイクの間の枝葉の占 有体積と減衰量との関係を示した図である。枝葉の占 有体積および減衰量は,表−1に示した測定区間ごと に順に積算した値を用いた。また,減衰量はマイクの 高さが5.0m の場合のみを用いた。図−7中の平均と は,すべての周波数を足し合わせて算出した場合であ る。また,無相関の検定を行なった結果のうち,有意 水準5%および1%で有意差が見られた場合をそれぞ れ,*(p<0.05),**(p<0.01)として 図 示 し た。こ こでは,枝葉の占有体積の増加に伴い減衰量も増加す る場合は正を,減少する場合は負の相関を示すことと なる。 図−7より,全体的な傾向として,三つの測定条件 の場合(落葉前,周波数125Hz,発振音の大きさ80dB), (落葉前および落葉後,周波数1,000Hz,発振音の大 きさ80dB)を除き,枝葉の占有体積と減衰量との相 図−5 落葉前後における周波数と減衰量との関係 図−7 発振点とマイクの間の枝葉の占有体積と減衰量 との相関 *p <0.05,**p <0.01 平均:すべての周波数を足し合わせて算出した場合 図−6 落葉前後におけるマイクの高さおよび発振音の 大きさと減衰量との関係 図−8 落葉前後,発振音の大きさ別に見た発振点とマイクの間の枝葉の占有体積と減衰 量との関係 ― 101 ―
関は正の相関を示した。周波数別に見ると,正の相関 を示した場合のうち,比較的相関が低かった測定条件 は,落葉前の125Hz,発振音の大きさ80dB(相関係数= 0.45),落葉前の500Hz,発振音の大きさ80dB(相関 係数=0.58),落葉前の1,000Hz,発振音の大きさ95 dB(相関係数=0.55)であったが,その他の測定条 件では,相関係数は0.7以上を示し,また,多くの測 定条件において,相関係数は0.9以上と高い値を示し た。すべての周波数を足し合わせて算出した場合を見 ると,落葉前の95dB のみ相関係数が0.85と低い値を 示したが,他の場合は0.9以上となり高い値を示した。 図−8より,全体的な傾向としては,多くの周波数 において,枝葉の占有体積と減衰量とが単純な線形関 係ではなく,若干ではあるが指数関数的な傾向を示し た。発振点とマイクの間に存在して減衰効果に関わる と推測される枝葉の占有体積に対して,減衰量は直線 関係ではなく指数関数的に傾きが増加する曲線になる 可能性が考えられるが,そのメカニズムについては, 本研究からは明確に示すことはできなかった。また, 落葉前後の散布図を比較した場合,落葉後のほうが占 有体積に対して減衰量の値が高くなる傾向を示した。 このことは,枝葉の占有体積の算出手法に関して落葉 前の樹冠における見積もりが落葉後の樹冠に比べて過 大である可能性や,枝と葉では体積当たりの減衰効果 が異なる可能性などが考えられる。 Ⅴ.おわりに 本研究では,騒音に着目し,音の物理的減衰効果が 複雑な構造を持つ森林内でどのように起こっているの かを明らかにするため,落葉広葉樹林において落葉前, 落葉後に音響調査を実施し,音の減衰効果についての 比較および検討を行った。 また,森林空間,特に落葉樹が存在する広葉樹林内 では,落葉前後により空間内に占める樹葉の量が異な ることから,落葉前後における音の減衰量も異なると 考えられた。しかし,全体で見た場合は,落葉前後で 減衰量が大きく異なる傾向は示さなかった。ただし, 周波数別に見た場合,特に騒音としてより問題となる 発振音の大きさが95dB においては,落葉前の減衰量 が大きい結果を示したことから,森林空間内における 樹木の葉の存在は,音の減衰効果に正の影響を与える と考えられた。また,森林内における音の減衰効果は 低周波数帯において最も高く,順に中周波数帯,高周 波数帯といった傾向が示唆され,また,一般に,50 Hz から5,000Hz 程度が騒音として認識されやすいこ とを踏まえると,森林の持つ音の減衰効果の特性が, 騒音の減衰に対して有効である可能性が示唆された。 なお,本研究では,平坦な広葉樹林での音響実験であ ることから,異なる地形要因における音響実験や,あ るいは都市内にある緑地における音響実験などを行う ことで,より詳細な成果を得ることが期待できる。 謝 辞 本研究を行うにあたり,調査対象地である京都市左 京区大見地区における音響実験の許可をいただきまし た京都市および京都市建設局水と緑環境部緑政課には 厚くお礼を申し上げます。また,原稿改訂に関するご 意見を多数いただいた2名の審査者および編集委員の 方々,毎木調査にご協力いただいた本学森林科学科流 域情報学研究室および砂防学研究室の方々にもお礼を 申し上げます。 引用文献 ベリルンド・リンドボール・シュウェラ(1995)環境 騒音のガイドライン実務的抄録,1−15. BEHRINGER https : //www.behringer.com/ (Accessed on 30 January, 2020) Hagröf https : //www.haglof.jp/ (Accessed on 17 February, 2020) 本田侔(1972)都市の公害防止に関する樹木の空間効 果の基礎的研究Ⅱ緑地の防音機能について.千葉 大学園芸学部学術報,73−91. 飯島健太郎(2013)人の健康に役立つ緑の知覚.桐蔭 論業28,89−97.
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(2020年3月11日受付) (2021年1月15日受理)