新型コロナウイルス感染症による
ドイツ刑事訴訟施行法の改正について
河
野
敏
也
目次 Ⅰ 序論 Ⅱ ドイツ刑事訴訟施行法改正について 1.概要 2.ドイツ刑事訴訟法229条の概要 (1)公判の中断と停止 (2)中断の「進行停止」 3.ドイツ刑事訴訟施行法10条の改正理由 Ⅲ 判例 1.COVID-19-Pandemie の刑事手続への影響 (1)立法時の情勢の確認 (2)ドイツ刑事訴訟法121条,122条の概要 2.判例の確認 (1)ナウムブルク高等裁判所2020年3月30日決定 (2)カールスルーエ高等裁判所2020年3月30日決定 (3)シュツットガルト高等裁判所2020年4月6日決定 3.検討 (1)前提の確認 (2)取り得る感染予防措置について (3)裁判員制度に関する日本法への示唆 Ⅳ 結論 キーワード:新型コロナウイルス,公判の停止と中断,中断の進行停止, 感染予防措置,勾留の継続に関するその他重大な理由 227Ⅰ
序
論
世界的な病気の流行は,これまでもあった。最高裁判所は,直下型地震 が生じた場合だけでなく,新型インフルエンザによってパンデミックが引 き起こされた場合の業務継続計画を策定している。そこでは,「新型イン フルエンザ等の流行規模や被害規模は,病原性や感染力に左右されるもの であり,現時点でこれを予測するのは困難」として過去の「新型インフル エンザ等発生時における裁判所の業務継続計画を検討するに当たっても」 これまでの「被害状況等の想定と異なる想定をすべき事情はな(1)い」としな がらも「課題が明らかになった場合等には,適宜,業務継続計画の見直し を行(2)う」とされている。現在でも世界において再度ロックダウンが行われ ている状況にあることか (3) ら,刑事裁判に関する課題も出てきているように 思われる。 特に,国民の行動制限が行われている状況下では,裁判員裁判の実施が 課題となり得る。裁判員制度は,2019年に制度10周年として,最高裁判所 によって「裁判員制度10年の総括報告書」が公表され,これに基づいた論 稿が多数出ている状況下にある。確かに,総括報告書では,辞退率につい て,「裁判員の選任に具体的な支障が生じた例はなく…制度の安定的な運 用に差し迫った影響を及ぼすレベルには至っていない」ので,課題とまで は言えないとし,出席率については,そもそもその「低下は,現状でさほ ど深刻なものではない」上に,総括報告書の直近では改善されていたこと からも課題として扱われていな(4)い。ただし,辞退率・出席率について,こ のまま低下が続くことがあれば制度が立ち行かなくなる危険性があると指 摘されてい(5)る。緊急事態宣言だけでなく,本人や親族等の基礎疾患の不安 から辞退率・出席率が悪化すれば,制度が立ち行かなくなる危険性も現実 化し,公判が実施できなければ様々な弊害も出てくるのであ (6) る。 したがって,この新型コロナウイルス感染症下において公判をどのよう に維持していくのかを検討することには意義があると言って良い。その検討にあたっては,諸外国の対応も参考になり得るので,ここでは,比較法 としても扱われ得るドイツがどのように対応していたのかを検討すること にしたい。ドイツでは,新型コロナウイルス感染症が問題となった2020年 3月に刑事裁判の崩壊の危機から救うため,「民事・破産・刑事手続法に おける新型コロナウイルス感染症パンデミックの問題を緩和するための法 律」(das Gesetz zur Abmilderung der Folgen der COVID-19-Pandemie im Zivil-, Insolvenz- und Strafverfahrensrecht)が制定された。これは,ド イ ツ刑事訴訟施行法10条を改正するものであるが,万能薬(Allheilmittel)と も評価されてい (7) る。そこで,本稿では,ドイツ刑事訴訟施行法10条の改正 の内容を明らかにしたい。そこでは,ドイツの高等裁判所による判決がで ているので,まずドイツ刑事訴訟施行法改正の内容の確認をして(Ⅱ), 改正内容にかかわる判例をみていくことにする(Ⅲ)。その上で,日本法 への示唆を得たい。日本法への示唆としては,裁判員制度との関係を中心 に見ることにする。最後に,明らかにしたことをまとめていく(Ⅳ)。
Ⅱ
ドイツ刑事訴訟施行法改正について
1.概要 ドイツでは,民事・破産・刑事手続法における新型コロナウイルス感染 症パンデミックの問題を緩和するための法律(das Gesetz zur Abmilderung der Folgen der COVID- 19 - Pandemie im Zivil - , Insolvenz - und Strafver-fahrensrecht)が,2020年3月27日に可決され,翌28日に施行され (8) た。本 法は,新型コロナウイルス感染症における手続規定に関する改正で,その 1条と2条では,COVID-19 パンデミック下に制定された民事法や破産に 関する法の改正が規定され,3条と4条においてドイツ刑事訴訟施行法 (EGStPO)の改正が,5条において民法施行法(Einführungsgesetz zum Bürgerlichen Gesetzbuche)の改正が規定されている。 本法の第3条は,「刑事訴訟法施行法の改正」として,ドイツ刑事訴訟 法施行法の10条を「感染予防措置を理由とする中断期間の進行停止(Hem-新型コロナウイルス感染症によるドイツ刑事訴訟施行法の改正について 229mung)」として,以下のように改(9)正するとした。 (1)SARS-CoV-2-Virus(COVID-19-Pandemie)の感染拡大を阻止す るための予防措置に基づいて公判手続が実施され得ない限り,公判手 続の期間に関係なく,ドイツ刑事訴訟法229条1項および2項で挙げ られた中断期間の経過は,2月を限度として進行停止(Hemmung) がなされる。この期間は,進行停止の事由が消滅した後,早くとも10 日後に満了するものとする。進行停止の開始と終了は,不服を申し立 てることができない決定によりその存在を確認するものとする。 (2)前項は,ドイツ刑事訴訟法268条3項第2文で挙げられた判決の 宣告の期間についても適用する。 また,本法の第4条では,第3条の改正を2021年3月27日までとしてい る。この改正の理由としては,COVID-19 ウイルスの蔓延から社会を守る ためには,人が集まる状態は避ける必要があり,それは刑事手続であって も同様であることが挙げられてい(10)る。ドイツでは,この改正をもって, 「刑事訴訟の崩壊の危機」(Die Gefahr des Pratzens von Strafprozessen)に
対応しようとしたのであ (11) る。そして,これらは,原則として好意的に受け 入れられたと評価されてい(12)る。本改正は,ドイツ刑事訴訟法施行法の10条 1項において,ドイツ刑事訴訟法229条1項と2項に定められている公判 の中断に対する「進行停(13)止」の規定である。これは,ドイツ刑訴法229条 3項の規定では,この新型コロナウイルス感染症に対応することが出来な いとして,その不足分を補うために制定されたとされていることか(14)ら,以 下ではドイツ刑訴法229条の制度の概要を確認していくことにする。 2.ドイツ刑事訴訟法229条の概要 (1)公判の中断と停止 ドイツ刑事訴訟法では,その228条1項1文後段,229条1項で公判の中 断(Unterbrechung)が,228条1項1文 前 段,229条4項 で 停
止(Aus-setzung)が規定されており,両者は厳密に区別されなければならな (15) い。 停止とは,事件の呼上げによって始まる公判を取りやめることである。こ の場合,新たに独立して訴訟を行わなければならな(16)い。すなわち,停止の 場合には,これまで審理されたことは全てなかったことになり,審理を全 て初めからやり直すことにな(17)る。 これに対して,中断とは,同一構成でまとまった一つの公判を一時停止 することであ(18)る。229条1項の場合は,公判手続(Hauptverhandlung)は, 3週間まで中断することが出来るとし,2項では,公判手続が,すでに少 なくとも10日間行われているときは,1度に限り,1月まで中断すること が出来るとする。中断された場合には,それまで審理されたことは全て維 持して残されることにな (19) る。中断した後,遅くとも229条1項・2 項で示 された期限を満了した翌日に続行されない場合は,229条4項によって, 公判が停止され (20) る。 このように公判の中断を定め,その期限を越えた場合に公判を停止し, 審理をはじめからやり直すとしているのはなぜか。公判は,集中審理主 義により,できる限り予測し得る時間的範囲内で行われなければならず, 特に長期間の中断を認めるべきではない。これにより口頭弁論の印象が 薄れず,公判において出来事を思い出したことの信用性が害されないも のとな(21)る。というのも,この規定は,立法者によって,中断が長期間続い た際に裁判所がもはや261条に反して審理の全体から心証を形成できない という危険を防止するために制定されたからであ(22)る。さらに,この規定は, 公判の迅速な進行を保障しているとされ (23) る。 (2)中断の「進行停止」 229条3項は,2019年に改正さ(24)れ,次のような規定となっている。公判 手続がすでに少なくとも10日間行われている場合において,前2項の定め る中断期間は,①被告人または判決の任に当たる者(Urteilsfindung be-rufenen Personen)が病気のため出廷できないとき,②判決の任に当たる 者が法的出産者保護(gesetzlicher Mutterschutz)または 育 児 休 暇 申 請 新型コロナウイルス感染症によるドイツ刑事訴訟施行法の改正について 231
(Inanspruchnahme von Elternzeit)のため出廷できないとき,その障害が 存在する間,2月を限度として,その進行停止をする(hemmen)。前2 項の定める中断期間は,進行停止(Hemmung)の事由が消滅した後,早 くとも10日後に満了するものとする。進行停止の開始および終了は,裁判 所が決定でこれを決める。この決定に対しては,不服を申し立てることが 出来な(25)い。 このように,一定の者の病気や産休・育休によって出廷できないことで, 少なくとも10日経過した公判が停止されなければならないことを防ぐため, 229条3項は,最大2月にわたり期間の「進行停止」(Fristhemmung)を 予定してい(26)る。その要件は,病(27)気,あるいは法的出産休暇または育児休暇 申請で出廷できないこと,主体が判決の任に当たる者であること(病気の 場合は被告人を含(28)む),公判手続がすでに少なくとも10日間行われている ことである。そうではない場合は,裁判長は「進行停止」をすることが できず,229条1項に従い3週間の中断のみがとられ得(29)る。「進行停止」の 期間を最長6週間だったところ,最長2月に延長した点について,手続の 簡素化と迅速化への対応が挙げられてい(30)る。家庭と仕事の両立を挙げた 上(31)で,手続の長期化によって中断を越えたことで停止となり,審理が繰り 返されることを防ぐためとも述べられてい (32) る。「進行停止」を無期限にす ることや,法的出産休暇や育児休暇申請の最長期間が満了するまで行う ことは許されない。直接主義および公判 の 統 一 性(Einheitlichkeit der Hauptverhandlung)を守るためには「進行停止」の最長期間の定めが必 要とな (33) る。 「進行停止」の最長期間が2月であることから,中断は全体として「3 月と10日」となる。このとき,公判は停止されることなく,審理が継続さ れることになる。中断の全期間は,公判がすでに少なくとも10日間継続し た場合にのみ「進行停止」が生じることを考慮し,手続の目的を考慮して 正当化される。なぜならば,訴訟を停止して新たな構成で新しく始めると いう代替案は,通常,遅延がより大きくなるだけでなく,証拠が失われる おそれがあるからであ (34) る。
以上のことから,229条3項は,公判の停止を選択して新しく審理を再 度行うことが,むしろ遅延を引き起こし,証拠の散逸や記憶の欠落といっ たことも引き起こし,迅速性の要請からみても,直接主義からみても「進 行停止」をして中断として審理を継続した方が良いという判断から規定が なされたものといえる。それゆえに,公判が少なくとも10日間行われてい るという229条2項への該当性が,「進行停止」の正当化の根拠となってい る。そして,229条2項が1月の中断を認めていることから,2月の進行 停止と併せて3月となる。これに加えて,「進行停止」の事由が消滅した 後の10日後に中断期間が満了となり(229条3項),中断期間が満了した翌 日に公判が続行される必要がある(229条4項)ことから,10日が追加さ れ,中断の最大が3月と10日となることも確認された。 3.ドイツ刑事訴訟施行法10条の改正理由 翻って,ドイツ刑事訴訟施行法10条の改正は,ドイツ刑訴法229条3項 の規定では新型コロナウイルス感染症に対応することが出来ないことが理 由であった。すなわち,COVID-19 パンデミックを回避するための措置が 取られており,公的な生活が目下制限されていることに基づいて,公判を 停止して新たに開始しなければならなくなることを回避するために改正が なされたのである。229条3項から逸脱して,公判手続の期間に関係なく, すなわち公判が10日行われていない場合であっても,「進行停止」を認め るべきとしたのである。これは,あらゆる裁判手続を同様に包括している パンデミックによって生じた特別な状況に基づいて正当化される。「進行 停止」となる要件は,広範であり,裁判所や保健所(Gesundheitsbehörde) による感染予防措置に基づいて公判の規定に従った進行の妨げとなってい る全ての事由を含んでいる。したがって,被告人または判決の任に当た る者自身が病気である必要も隔離されている必要もないのであ(35)る。 リスクグループに属している者,例えば高齢者,基礎疾患保有者,免疫 系が抑制された者の法廷活動の制限または参加もまた,公判のさらなる進 行を妨げる予防措置を受け入れることにとって充分である。公判手続の実 新型コロナウイルス感染症によるドイツ刑事訴訟施行法の改正について 233
施の妨げは,裁判所や保健所の予防措置に間接的にしか依拠しない場合に も存在している。ドイツ刑訴法229条3項の場合と同様に,裁判所は,原 則として自由な証明で,いつからいつまで「進行停止」の要件事実が存在 しているのかを検討するのである。したがって,裁判所は,ドイツ刑事訴 訟施行法10条を適用する場合,自由な証明において,公判手続の実施を不 可能にする感染予防措置が必要か否かを検討しなければならない。公判手 続の実施が不可能であるのは,裁判所の管理部(Gerichtsverwaltung)ま たは保健所からの命令(Anordnung)および勧告(Empfehlung)に起因 することがある。それは,裁判所が緊急下での運営(Notbetrieb)に切り 替えた,手続関係人間の距離を守ることができない,または自宅隔離状態 の者がいるもしくは手続の進行の際に潜在的に危険に晒されるようになる ということから生じ得る。10条の改正は,ドイツ刑訴法229条3項と対応 している。したがって,公判手続は,最大で3月と10日中断され得るので あ(36)る。 以上のことから,ドイツ刑事訴訟施行法10条の改正は,新型コロナウイ ルス感染症の特別状況ということから,本来のドイツ刑訴法229条3項で は「進行停止」の対象とならない10日間行われていない公判に対しても 「進行停止」をなし得るとしていることが明らかである。したがって,条 文の「SARS-CoV-2-Virus(COVID-19 Pandemie)の感染拡大を阻止するた めの予防措置に基づいて公判手続が実施され得ない限り」という部分が 「進行停止」に対する唯一の要件ということになる。 しかし,これまで見てきたところによると229条3項は,10日間公判が 行われていたことこそが「進行停止」を正当化する重要な要件であった。 新型コロナウイルス感染症の特別状況が「進行停止」の正当化根拠を失わ せたのは,10日経過していない公判において手続関係人に症状が現れた場 合には中断せざるを得ないが,この場合は3週間が限度であり,それでは 期間として短いという点であろう。それらの公判をすべて停止として,審 理を新たに行うというのは,社会全体のロックダウンが行われ,審理すべ き事案を処理することが出来ずに積み重なっていく中で (37) は,公判の停止と
する方がさらなる遅延を引き起こすと考えることもできよう。そして,裁 判所に,感染予防措置に基づいて公判手続を実施できないかどうかを自由 な証明で判断する責任があるとしているのである。 また,ドイツ刑事訴訟施行法10条の改正に対しては,ドイツ弁護士会 (Deutsche Anwaltverein:DAV)は,原則的に賛成してい(38)るが,「進行停 止」に対する制限規定がなく,複数回の「進行停止」も可能となってしま うことから1回限りであることを明記するように意見書を出してい(39)る。
Ⅲ
判
例
1.COVID-19-Pandemie の刑事手続への影響 (1)立法時の情勢の確認 2020年3月22日にドイツ全土で社会生活に関する制限が設けられ (40) た。こ れは,「3月12日に発表したガイドラインをさらに拡大して,ドイツ全土 において,統一した社会生活上の接触制限措置を定めるも (41) の」であった。 その間にも,ドイツ司法労働組合(Deutsche Justiz-Gewerkschaft:DJG) から裁判所の閉鎖が要求されたとされてい(42)る。民事・破産・刑事手続法に おける新型コロナウイルス感染症パンデミックの問題を緩和するための法 律によるドイツ刑事訴訟施行法の改正の前後では,裁判手続が取り消され ている状況にあったようであ (43) る。この情勢下での「進行停止」の導入であ ることから,施行時のプレスリリースにおいて連邦司法大臣クリスティー ネ・ランブレヒトは,「法廷に多くの関与者がいる刑事手続は,じきにほ とんど行うことができなくなる」と述べてい(44)る。裁判自体が実施できない ことにより,ドイツ刑事訴訟施行法の改正との関係で別の問題が浮上して くる。それは,勾留の継続の問題であ(45)る。ドイツ刑訴法121条1項2項に よると,通常,同一の事件による勾留の執行は6箇月を限度とするところ, 「事件に特別の難しさがあるため,捜査の規模が特に大きいため,又はそ の他重大な理由があって,なお判決を行う段階に至らず,勾留の継続が正 当化される限り,6箇月を超えて続行することができ (46) る」のである。 新型コロナウイルス感染症によるドイツ刑事訴訟施行法の改正について 235結論を述べておくと,「その他重大な理由」に相当するものは,端的に 言うと「COVID-19 パンデミックの危険性によって開廷できないこと」で ある。そうすると,危険性を考慮した上で開廷できると判断された場合に は重大な理由がなくなるのであるから,重大な理由をなくすための措置は, 感染からの予防措置と重なることになる。したがって,勾留の継続が問題 となった判例を検討することで,あり得る「予防措置」の内容が明らかと なる。したがって,以下では,ドイツにおける勾留の制度の概要を確認 した後,ドイツ刑事訴訟施行法の改正に言及しながら勾留の継続につい て触れているナウムブルク高等裁判所(上級地方裁判所)2020年3月30 日決(47)定,そして,カールスルーエ高等裁判所2020年3月30日決(48)定および, 前記カールスルーエ高裁決定の影響を受けているシュツットガルト高等裁 判所2020年4月6日決(49)定を見ていくことにする。 (2)ドイツ刑事訴訟法121条,122条の概要 ドイツ刑訴法は,勾留の実体的要件を112条,112a 条,113条および127 条2項に規定してい(50)る。勾留命令は,各手続段階で許されており,112条 1項により,①切迫した嫌疑,②勾留理由を要件とす(51)る。112条1項が, 「被疑者又は被告人が罪を犯したと疑うに足りる強い理由があり,かつ, 勾留理由が存するときは,これを勾留することができる。ただし,勾留す ることが,事件の軽重及び予想される刑又は改善保安処分に照らして均衡 を失するときは,この限りではな(52)い」と規定されていることから,勾留が 事件の意義および予測される刑もしくは処分とのバランスがとれている必 要があ(53)る。 勾留の理由は,112条2項および3項,112a 条に規定されており,①逃 亡または逃亡の虞,②罪証隠滅の虞,③重大犯罪の疑い,④再犯の虞,迅 速な手続に関して特殊なものとして⑤不出頭の虞が挙げられてい(54)る。 これらの要件で行われる勾留は,121条2項で,同一事件による「勾留 状の執行が第116条により猶予されたとき,又は高等裁判所が勾留の継続 を命じたときを除き,勾留状は,6箇月を経過した後これを取り消すもの
とす(55)る」としていることから,原則は6箇月が限度と解されてい(56)る。ただ し,121条1項で,「事件に特別の難しさがあるため,捜査の規模が特に大 きいため,又はその他重大な理由があって,なお判決を行う段階に至らず, 勾留の継続が正当化される限り,6箇月を超えて続行することができ (57) る」 と例外が規定されているのであ(58)る。
捜査の特別の難しさ(Besonders Schwierichkeiten der Ermittlungen)は, 事実的な観点にも法的な観点でも存在する。ときには,両観点が密接に関 係している。たとえば,証人の多くが尋問され得る場合や外国で時間のか かる捜査が必要な場合,時間のかかる鑑定が行われなければならない場合 は,捜査が特別に困難とな(59)る。捜査の特別の規模(Bedonderer Umfang der Ermittlungen)は,その都度の個々の場合の事実的な状況から導出される。 全ての捜査リソースを使い尽くした状況下で遅延が生じ得る場合,場合に よっては手続の制限や分離が行われなければならないのであ (60) る。 勾留継続の理由となる「その他重大な理由」は,条文の構造に従うと捜 査の特別の難しさや捜査の特別の規模と比較できる場合に認められること になる。その他重大な理由の例としては,一般条項,すなわち解釈を必要 とするものに関わる問題が挙げられる。決定的に重要なのは,第一審判決 について6箇月以内で手続を終えるために投入される労力すべてが過大な ものでなくかつ可能なものであるということである。その場合は,先を見 通した計画が望ましい。「その他重大な理由」は,刑事訴追機関および裁 判所が適切な措置を通じて抑止できなかった状況によって手続が遅延され た場合にのみ存するのであ (61) る。 6箇月を越える例外的な勾留の継続は,122条1項によって「管轄裁判 所が勾留の継続の必要があると認めたとき,又は検察官がこれを請求した ときは,管轄裁判所は,裁判のため,検察官を経由して記録を高等裁判所 に提出す(62)る」とされている。したがって,以下では,この手続に基づくい くつかの高等裁判所の決定を確認していくことにする。 新型コロナウイルス感染症によるドイツ刑事訴訟施行法の改正について 237
2.判例の確認 (1)ナウムブルク高等裁判所2020年3月30日決 (63) 定 本件の事実の概要は次の通りである。被告人は,2019年9月25日にデッ サウ=ロスラウ地方裁判所によって発せられた令状に基づいて,翌9月26 日以降,中断することなく勾留されていた。2020年3月23日の命令(Ver-fügung)で,裁判長は,手続関係人の健康に対する危険が排除され得な いという理由で,SARS-CoV-2 ウイルスによる当時の危険な状況のために 弁護人からの申立てに基づいて公判期日を取消した(aufheben)。それと 同時に,4月14日から新たな公判を開始することを決定した。ドイツ刑事 訴訟法121条122条に基づいて,検察官が被告人に対する特別の勾留審査を ナウムブルク高等裁判所に要求したという事案である。 これに対してナウムブルク高等裁判所は,次のように述べてドイツ刑事 訴訟法121,122条に従い被告人に対する6箇月を超える勾留の継続が認め られるとし(64)た。 …連邦憲法裁判所の確立された判例によれば,勾留の命令及び維持 の際,個人の自由に関するドイツ基本法2条2項2文で保障された個 人の権利と効果的な刑事訴追という避けられない必要(Bedürfnis)と の間の緊張関係が考慮されるべきである。そこから,勾留の事案にお いては,憲法上の迅速性の要請(Beschleunigungsgebot)が一貫して 順守されるべきことにな(65)る。その場合,勾留継続で拘束されている者 に関する自由の要請の重さは,勾留継続が長くなるにつれて国家の刑 事訴追の関心に比して増大す(66)る。 事件に特別の難しさがあるため,捜査の規模が特に大きいため,ま たはその他重大な理由があって,なお判決を行う段階に至らず,勾留 の継続が正当とされるときに限り,同一の事件による勾留の執行は, 6箇月を超えて続行することができる,ということをドイツ刑訴法 121条の規定が考慮している。もっとも,121条の規定は,6箇月を超 える勾留の継続をもっぱら限定的な範囲でのみ認めているのであって,
厳格に解釈される必要があ(67)る。被疑者被告人が責任を負う必要がない 客観的に不当で回避可能である重大な手続的遅延がある場合,迅速性 の要請の無視が規定に従うと勾留のさらなる継続と矛盾す(68)る。その点 で,状況によっては,約2月の回避可能な手続的遅延は,勾留におけ る迅速性の要請と両立しないことがあり得(69)る。 勾留事案に妥当する特別な迅速性の要請違反というものは,ここで は明らかではない。特に,ここでは,公判の開始がその他重要な理由 で延期された。
a) 捜査は,被告人の逮捕 の 後(nach der Festnahme der Angek-lagten),要請される迅速性をもって行われた。2019年9月26日に複 数の場所で複数名の被疑者についての捜索を実施した後,証拠を分析 し,特に差し押さえられた麻薬の種類と性質に関する鑑定を得なけれ ばならなかった。多額の現金の差押えは,財務捜査を必要としていた のであり,指紋や生物学的痕跡の確保は,科学的捜査を必要としてい たのである。さらに,被告人の自己使用があり得るかを解明するため に髪と血液の試料が必要であった。警察の最終的な報告書は,2020年 1月9日付であり,検察官は,およそ1月後の2020年2月11日にデッ サウ=ロスラウ地方裁判所に起訴した。 b) 地方裁判所も,要請された迅速性に従って事案を処理し,即 座に行い得る審理の期日を決めようとし,その間に管轄部の変更が あったにもかかわらず1月足らずで公判を開始した。公判の開始は, 弁護人の出廷状況を考慮して2020年3月25日に予定していたのであっ て,6箇月の期限が切れる前に定められていたのである。 変更された管轄権配分計画(Geschäftsverteilungsplan)に基づく部 の管轄の変更は,手続上の遅延を何ら引き起こさなかった。補助刑事 部(Hilfsstrafkammer)の設置は,特に原則として,過剰な負担状況 に対応するために行われるのであ (70) り,それゆえ,手続の遅延ではなく 迅速性に資するものである。補助刑事部が裁判体の開始後わずか1週 間で手続の開始を決定し,裁判長が6箇月の期間内に公判の期日を定 新型コロナウイルス感染症によるドイツ刑事訴訟施行法の改正について 239
めたのであるから,ここでは,事実上,重大な遅延が生じたわけでは ない。弁護人によって本来の管轄部に通知された期日を考慮したなら ば,公判をより早く開始することは,不可能だったであろう。 c) 公判を2020年4月14日に延期することは,迅速性の要請に違反 するものではなく,現在の危機的状況を考慮すれば必要かつ相当であ る。したがって,上記延期は,ドイツ刑訴法121条の意味におけるそ の他重大な理由に基づいて正当化される。 なぜならば,このさらなる遅延は,SARS-CoV-2 病原体(Erreger) による現在の危機的状況にのみ起因しているからである。そしてそれ は,感染症予防法の32条1文における権限に基づくドイツ全国で比較 可能なラント政府令(bundesweit vergleichbare Verordnung der Lan-desregierung der Ermächtigung in § 32 S. 1 des Infektionsschutzgeset-zes)によって,ドイツ連邦共和国における公的生活の広範囲にわた る制限に至ったものであ(71)る。刑事部の裁判長が手続関係人を保護する ために公判の開始を遅らせることを命令した場合,これらの条件下で は異議を唱え得ず,回避不可能な遅延を構成する。 民事・破産・刑事手続法における新型コロナウイルス感染症パンデ ミックの問題を緩和するための法 (72) 律による改正を通じて,SARS-CoV-2 ウイルスへの感染拡大を防止するために現在優勢である予防措置の 下で,それまでの公判日数に関係なくより長い公判の中断が生じ得 (73) る。 したがって,立法者は,効果的な刑事司法(Strafrechtspflege)の必 要性よりも,勾留状態にある被告人の自由権(Freiheitsgrundrecht) よりも,健康の保護に優先が認められ得ることを示したのである。そ の際,裁判所は,自由な証明で,裁判所管理部または保健所からの命 令および勧告,空間的状況並びに手続関係人の数,年齢および健康状 態を考慮して,公判手続の実施が可能か否かを明らかにしなければな らないのであ (74) る。 この点では,現在の危機的状況においても広く妥当性を備えてい(75)る
ところの刑事司法が機能していることによる法的平和の保護(Si-cherung des Rechtsfriedens)についての一般の利益と,特に勾留さ れている場合,被告人に対して行われる刑事手続の迅速な処理につい ての被告人の利益が優越するのか,公判手続の実施と結びつけられた 健康上の危険性および手続関係人と一般の負担が優越するのか,とい うことは,個々の事例で慎重に考慮されるべきである。 もっとも,その場合に,一方にも他方にも一般的な優越は認められ 得ない。むしろ,現場で具体的な空間的または人的関係を考慮する。 そ の 場 合,直 接 的 な 手 続 関 係 人 の 利 益 と 並 ん で,例 え ば 刑 務 官 (Wachtmeister im Vorführdienst),裁 判 所 書 記 官(Urkundsbeamten der Geschäftsstelle)のようなその他の関係者の利益(Belange),ま た法廷外のその他の利益も含まれるべきであ (76) る。その際,それに加え て,通常,司法当局( Justizbehörde)によって講じられ得る措置を 通じただけでは危険状況が減少ないし排除され得ない,ということが 考慮されるべきであ(77)る。公判の環境においてそしてその期間中つねに 前段階での措置によってコントロールできない関与者や傍聴人の行為, 必要に応じて裁判の場所をさらに変更する必要性,弁護人と被告人の 秘密交通権による必要性,または部内での評議による必要性は,特に 距離要件の順守が困難であることから,刑事司法の利益が優先される ことである公判手続の実施には重大な危険を孕み得るのである。しか し,これらの理由は,裁判所や司法当局によって主張され得ず,被告 人が,現在制限を受けている市民と同様に,場合によっては対抗する ものとする。 本件では,たとえ公判がいまだ開始しておらず,ドイツ刑事訴訟施 行法10条の新規定が直接有効性を備えていないとしても,ここでは明 らかに他に何も適用し得ない。なぜならば,中断の可能性の拡大を引 き起こすために場合によっては短い最初の公判期日(のみ)の進行は, 比較衡量の決定(Abwägungsentscheidung)の枠内でそれと並行して 現れている危険状況には優越し得ない。その結果として,比例性の原 則(Grundsatz der Verhältnismäßigkeit)を考慮して場合によっては
ドイツ刑事訴訟施行法10条において予定された期間に公判の開始を変 更する重大な理由が存在する。 ナウムブルク高等裁判所は,121条1項の解釈において個人の自由とい う基本権と犯罪の解明と迅速な処罰という国家の利益とを対置した上(78)で, 勾留の継続期間が長くなればそれだけ自由の要請の方が重要性を獲得して いくという確立された判例に基づいて検討を加えている。そこでは,捜査 機関に迅速性の要請に反するようなものがないか詳細に検討をしている。 COVID-19 パンデミック下で勾留期間の6箇月を越えた2020年4月14日へ の公判の延期は,必要かつ相当なものであってそれは「その他重大な理由」 に該当するとしている。そして,感染予防措置に基づいて公判ができない 場合に中断の「進行停止」を認めることが,健康の優先を示したものと解 している。そこでは,121条1項の「その他重大な理由」においても,公 判実施による感染のリスクと被告人の利益との比較が行われるとした。 (2)カールスルーエ高等裁判所2020年3月30日決(79)定 本件の事実の概要は次の通りである。被告人は,2019年9月24日の仮拘 束後,翌25日から同日の裁判所の勾留状に基づき中断することなく勾留さ れている。2019年11月25日に背信的に人を殺した謀殺罪として起訴された ことに基づき,地方裁判所の陪審裁判所(Schwurgeric (80) ht)は,2020年3 月17日の決定で,COVID-19 パンデミックが続いていることを理由に2020 年3月9日に開始された公判を勾留の継続を命令したうえで停止し,同日 の命令でドイツ刑訴法121条3項3文に従い勾留審査部(Senat zur Haft-prüfung)に事件を提出した。これを受けて検察官が勾留の継続を申請し, 弁護人が勾留の取消しを申請した。
これに対してカールスルーエ高等裁判所は,次のように述べて勾留の継 続が認められるとした。
勾留事件に妥当する手続の迅速性の要請は順守されている。勾留の継 続を正当化する(その他の)重大な理由があるため,いまだ判決の宣 告ができなかったのである(ドイツ刑訴法121条1項)。 a) 犯罪事実が明らかになった2019年9月24日に,刑事警察が捜査 を引き継ぎ,その後,特に犯罪事実の背景を明らかにするため,多く の証人を尋問し,被告人の電子通信(elektronische Kommunikation) を利用した。死因に関する法医学的検査(Die rechtsmedizinischen Un-tersuchungen zur Todesursache)は,2019年9月25日 に 行 わ れ た。 2019年11月7日に刑事警察の最終的な報告書の提出後,検察官は2019 年11月25日に公訴提起で捜査を終結した。起訴状の到着後,陪審裁判 所の裁判長は,その日にドイツ刑訴法201条によって必要な措置を講 じた。2019年12月20日,陪審裁判所が公判の開始を決定した。2020年 1月8日の陪審裁判所の裁判長の命令に従い,公判は,2020年3月25 日,26日および27日の連続の期日を予定して2020年3月9日に開始さ れた。2月に公判の開始を早めることは,弁護人および公訴参加(Ne-benklage)の代理人が阻止したので,不可能であった。 b) 2020年3月17日,COVID-19 パンデミックのために,連続の期 日において,ウイルスによる感染から法廷内の多くの手続関係人,証 人,勾引の職員(Vorführungsbeamte),法廷警備員(Gerichtswacht-meister)および傍聴人を保護することが保障されず,したがってド イツ刑訴法229条1項による公判の単純な中断はもはや考慮に値しな かったという根拠でもって,刑事部は,公判外で公判の停止を決定し た。その日の命令で,陪審裁判所の裁判長は,弁護人,公訴参加の代 理人および法医学の鑑定人に,公判期日がすぐに新たに設定されるべ きことを通知し,2020年5月18日以降のやむを得ない差支え(Verhin-derung)を遅くとも2020年3月24日までに通知するよう要請した。 c) このような状況下では,確かに事案の特別な困難性も捜査の特 別な規模も存在しない。しかし,ドイツ刑訴法121条1項3項3文の 意味におけるその他重大な理由が存在しているのである。そしてそれ 新型コロナウイルス感染症によるドイツ刑事訴訟施行法の改正について 243
は,6箇月を超える被告人に対する勾留の執行(Vollzug)を維持す ることを正当化する。この点では,勾留の継続が客観的な理由に基づ いてやむを得ずに命令されたないし必然的であり,これまでの手続に おいて回避可能な誤りまたは不履行(Versäumniss)に起因していな い場合にのみ,公判の停止が勾留の継続の命令(Anordnung)のもと で原則的に考慮されることを刑事部(Senat)は見てき (81) た。しかし, このような懈怠(Säumnis)は存在していない。むしろ,公判の停止 は,異常かつ誰も責任を負い得ない状況に起因しているのである。 d) 連邦憲法裁判所のこの点に関して決定的な,刑事部によって その際考慮される判例によれば,勾留を命令し維持する際に,常に, 基本法2条2項2文において保障された個人の自由と効果的な刑事訴 追の必要性との間の緊張関係が,考慮されるべきである。原則として, 有罪の確定判決を受けた者以外の自由を剥奪してはならないのである。 犯罪事実の疑いがあるだけの者の自由の剥奪は,基本法20条3項の法 治国家原理にその根源をもち,欧州人権条約(EMRK)6条2項にお いても明文で強調されている無罪の推定のため,例外的にしか許され ない。その場合,刑事訴追の観点から必要かつ相当であると思われる 自由の制限と,まだ有罪判決を受けていない被疑者被告人の自由の要 請とが調整方法として対置されなければならない。そしてその際には, 比例性の原則に決定的な重要性があるのであ (82) る。 e) この基準に従うと,とりわけ,除去不可能で回避不可能な困難 または予見不可能な偶然および運命的な出来事(schicksalhafte Ereig-niss)は,例えば,必須の手続関係人の公判を停止する病気に由来す る差支えのように,ドイツ刑訴法121条1項の意味における重大な理 由を構成す(83)る。それ自体は障害の原因ではないが,他者に重大な危険 をもたらす感染率の高い病気を持つ手続関係人の病気も,重大な理由 となり得 (84) る。防御権の保障と公判手続の公開の保障のための手続規定 と調和しながら,訴訟関係人,裁判所の職員,警備員(Sicherheits-beamte)および公衆の感染リスクを,裁判所が許容できるレベルま
で下げることが出来ない場合,この間に証明されてきた高い感染リス ク,検出されていない感染の推定数が多いことおよび重症から致死に 至る病状経過の程度がいまだ完全には判断できないことを考慮すると, この重大な理由は,目下急速に広がっている COVID-19 パンデミック にも存在している。 f) この点につき,刑事部は,以前の高等裁判の判 (85) 例に依拠して, 感染リスクを減少させるための措置が適切かつ期待可能(zumutbar) であるか否か,どのような措置が適切かつ期待可能かを判断する 際には, 刑事部によってもっぱら制限されて検討可能な 判 断余地(Beurteilungsspielraum)が判決を下している裁判体(Spruch-körper)にある,ということを出発点とする。したがって,本件で は陪審裁判所がこの新型ウイルスについての科学の情報の発展と パンデミックの進行予測に基づいて,COVID-19 パンデミックを克服 するためのバーデンヴュルテンベルク州政府の決定的な勧告(die maßgebliche Empfehlung der Landesregierung Baden - Württemberg zur Bewältigung der COVID-19-Pandem
(86)
ie)を基に方針を定める こ と に異議は唱え得ない。そしてそれは,裁判所が裁判上独自の専門知識 およびその他の現在学問的に存在する専門知識が欠如している中でも 想起されるものである。接触回避という州政府の勧告と司法省令(Er-lass des Justizministeriums)にとって重要な原則が,高い危険性を持 つ人々の直接的な保護に資するだけではなく,特に感染率の社会全体 で必要な減少に寄与する以上,陪審裁判所は,刑事部の見解にも従い, 弁護人が述べるように 公判手続の実施に至らなかったのであ る。なぜならば,「直接の手続関係人の一人が急性のリスクグループ に属していることが明らかではなかった」のであり,また傍聴人が1.5 メートルの距離内で座るかもしれなかったからである。結局のところ, 刑事部にとって,陪審裁判所が公判を停止する決定を軽率に行ったの ではなく,熟慮して行われたのであり,かつ, 停止の決定で述べ ているように 状況と行動の選択肢を裁判所の管理部および他の刑 新型コロナウイルス感染症によるドイツ刑事訴訟施行法の改正について 245
事部と検討したあとで,裁判所にとってその時点で明らかな可能性の すべてを検討した中で,是認し得る程度の感染リスクを伴うすでに決 まった期日に公判を移した,ということを疑う理由は存しないのであ る。ドイツ刑訴法229条に従い5月まで公判を中断する法的な可能性 は,公判の停止を部が決定した時点ではまだ存在していない。なぜな らば,2020年3月27日の民事・破産・刑事手続法における新型コロナ ウイルス感染症パンデミックの問題を緩和するための法律は,2020年 3月28日に初めて効力を有したからであ(87)る。 g) 勾留から被告人を即時に釈放することは,いずれにせよ,い つ公判が行われ得ていつ判決が行われ得るのかが完全に不確実である ので,命令されない。その限りで,陪審裁判所が明らかに停止の決定 の際に公判をすでに2020年5月には再度開始し得るという仮定に左右 されたことに対して何も異議はない。確かに,このことは,動的で大 部分が予見できないパンデミックの展開とその影響があるため,決し て確実なものではない。しかし,陪審裁判所のこのような楽観的な仮 定には全く根拠がないわけではない。いずれにせよ5月の危険状況に よっては本件の公判手続の実施が認められ得ることへの少なくとも追 体験が可能な言及は,2020年3月14日のバーデンヴュルテンベルク司 法省令だけでなく,2020年3月17日の SARS-CoV-2 ウイルスの蔓延に 対する感染予防措置に関するバーデンヴュルテンベルク州政府令 (CoronaVO)から生じているのである。そしてそれは,公的学校ま たは大学(CoronaVO 1 条 2 条),その他の施設(CoronaVO 4 条)が 2020年4月20日にその活動を再開し得るとされているのである。いず れにせよ,現在予見不可能な COVID-19 パンデミックの展開でもって, 2020年5月における裁判長によって現在考慮されている新しい公判期 日の取り決めは,明らかに実施不可能と評価することはできない。 f) 2019年9月25日以降続いている勾留の継続は,申立ての重大性 を考慮しても比例している。 …刑事訴追の利益に対して,被告人の自由の要請の重大性は,勾留
期間が長くなるにつれて規則的に増大する。勾留が長引けばそれだけ, 手続の迅速な進行に厳しい要求がなされ得るのであ (88) る。したがって, もし,裁判所の仮定に反して,5月の危険状況がなおも,簡単に公判 を行い得るという程度にまで改善されなかったならば,手続のさらな る遅延を正当化できるようにするために,公判手続の実施を確実にす るために講じられ得る措置に対してより厳しい要求もなされ得るので ある。したがって,陪審裁判所は,感染リスクを,公判手続の間ずっ と公判手続の直接の環境において,許容できるレベルにまで下げるた めに具体的にどのような措置を取ることができるか,これを検討しな ければならない。そこでは,例えば保健所による専門的な助言が適切 であるように思われる。法的に許される程度まで傍聴人を制限する こ(89)と,および・または,ドイツ裁判所構成法(GVG)169条1項3文 に準拠した報道関係者のための作業室内への音声伝達の許可が,この 関連において考慮され得るのである。 例えば,空調が稼働してお り,場合によってはエアロゾル感染の危険性があるため 陪審裁判 所の通常の法廷内では必要な措置を講じることが出来ない場合は,そ れに加えて,公判手続を別の法廷に移すことが,それも場合によって は裁判所の建物の外に移すことが検討され得るのであ (90) る。いずれにせ よ,ドイツ刑訴法121条1項2項と比例性の一般原則を考慮して勾留 の継続に関する合法性の検討を可能にするために,裁判所の労力と公 判手続の実施に反対する根拠は文書化されるべきである。 カールスルーエ高等裁判所もナウムブルク高等裁判所と同様に,121条 1項「その他重大な理由」の解釈として,被告人の自由と刑事訴追による 国家の利益との比例性を検討している。そこでは,感染リスクを許容し得 る程度にまで下げることが出来ない場合にその他重大な理由を認めている のである。 新型コロナウイルス感染症によるドイツ刑事訴訟施行法の改正について 247
(3)シュツットガルト高等裁判所2020年4月6日決(91)定 本件の事実の概要は次の通りである。2019年10月9日から勾留されてい る被告人の初公判の期日は,当初2020年3月20日になっていたところ, COVID-19 の影響で実施できないと判断された。そこで,公判期日を2020 年4月21日としたことで6箇月を越える勾留の継続となったため,2020年 3月16日にドイツ刑訴法122条に基づいてシュツットガルト高等裁判所に 勾留請求がなされた。これに対してシュツットガルト高等裁判所は,次の ように述べてドイツ刑事訴訟法121,122条に従い被告人に対する6箇月を 超える勾留の継続が認められるとした。 「たとえば病気を起因とする公判手続の停止を強制する手続に必須とな る手続関係人の差支えなど,除去不可能で回避不可能な困難または予見不 可能な出来事または決定的な出来事は,ドイツ刑訴法121条1項の『重大 な理由』である。また,それ自体は障害とならないが,他の人に重大な危 険をもたらす感染率の高い病気を持つ手続関係人の病気も,重大な理由と なり得る。防御権の保障と公判手続の公開の保障のための手続規定と調和 しながら,訴訟関係人,裁判所の職員,警備員および公衆の感染リスクを, 裁判所が許容できるレベルまで下げることが出来ない場合,この間に証明 されてきた高い感染リスク,検出されていない感染の推定数が多いことお よび重症から致死に至る病状経過の程度がいまだ完全には判断できないこ とを考慮すると,この重大な理由は,目下急速に広がっている COVID-19 パンデミックにも存在している。…ここでは,軽率に,恣意的にまたは勾 留されている被告人の自由という基本権の重大性を誤認して決定がなされ たという根拠は存しない。 …感染リスクを許容できるレベルにまで下げるために具体的にどのよう な措置を取ることができるか。法的に許される程度まで傍聴人を制限する こと…。参審裁判所(Schöffengericht)の通常の法定では必要な措置を講 じることができない場合は,場合によっては区裁判所(Amtsgericht)の 外であっても,公判手続を別の法定に移動することを検討されなければな らない。それまでの公選弁護人の特別な健康リスクのみが,手続を迅速性
の要請(Beschleunigungsgebot)に適合して進行することと矛盾するなら ば,信頼できる弁護人に弁護される権利の重大性を考慮しても,別の弁護 人を任命する必要があるかは,慎重に検討されなければならない。」 このようにシュツットガルト高等裁判所は,その他重大な理由に該当す るかの判断につき,カールスルーエ高等裁判所の見解を用いている。また, カールスルーエ高等裁判所の見解は,ツェレ高等裁判所2020年4月6日 決(92)定が,感染リスクを減少させるための措置の適切性判断は裁判所が判断 するとした点を引用した上で,勾留の継続を正当(93)化している。 ここまで判例を見たところ,いずれも121条3項の「その他重大な理由」 に該当すると判断している。もちろん勾留から釈放されることはあるとし ても,判例は,いずれも「その他重大な理由」を認めていた。というのも, すでに確認した通り,「その他重大な理由」は,刑事訴追機関および裁判 所が適切な措置を通じて抑止できなかった状況によって手続が遅延された 場合にのみ存す(94)るとされているので,国家側が迅速性の要請に反していな い場合には,COVID-19 パンデミックに基づく公判の停止は,「異常かつ 誰も責任を負い得ない状況に起因している」ものであって,まさに適切な 措置によっても抑止できなかった遅延状況なのである。 そうすると,COVID-19 パンデミックによる「その他重大な理由」の判 断は,公判手続の実施と結びつけられた健康上の危険性および手続関与人 と一般の負担が優越するか,感染リスクを許容できるレベルにまで下げる ための具体的な措置が講じ得るかでなされるものである。これは,まさに ドイツ刑事訴訟施行法10条の「進行停止」が認められる「感染拡大を阻止 するための予防措置に基づいて公判手続が実施され得ない」場合とパラレ ルになる。そこで,以下では,感染予防措置としていかなるものが導き出 されているのか検討をしていく。 3.検討 (1)前提の確認 日本においては,刑法21条で任意的算入が,刑訴法495条で第一審判決 新型コロナウイルス感染症によるドイツ刑事訴訟施行法の改正について 249
後の勾留について法廷通算による場合が定められている。任意的算入の制 度趣旨としては,「未決の勾留は,刑事訴訟遂行の必要上やむなく被疑者 又は被告人の身体を刑事施設に収容して拘禁する強制処分であ」ることか ら,そもそも「刑の執行と」未決勾留は「その本質を異にし」ているので, 未決勾留期間を「本刑に算入するのは制度上いささか合理性に乏しいが, …未決の勾留による身体の拘禁によって個人の法益が侵害されるところが 少なくなく,その形態において自由刑の執行と類似するところがあること, また,被疑者又は被告人がすべて勾留されているとは限らない上,勾留さ れた者も事件の性質その他,種々の事情によって勾留期間に長短を生じる ことなどに鑑みて,本条は,未決の勾留の全部又は一部を本刑に算入し, その算入された日数を本刑の執行があったものとみなすことにより,刑事 司法における衡平の維持を図ろうとする」ものであると説明されてい(95)る。 算入の基準については,全部算入説と一部算入説とがある。全部算入説は, 任意的算入と必要的算入の法規定が存している点から,「両者間の調和を 取るためには,被告人の責に帰すべき事由によって延長された勾留日数を 除くと解す(96)る」見解である。なお,「ドイツ刑法51条1項は,全部算入説 と同様の立場からの規定であるが,未決勾留日数は,法律により…当然算 入され,その全部または一部の算入を拒否する場合は,例外的に判決主文 でその旨を命じることになる」とされてい(97)る。一部算入説は,「被告事件 の審理経過に照らし,当該事件の捜査,審判に通常必要な期間の勾留日数 を除外し,その余の日数について本刑に算入するのが衡平の観念に適った 判 (98) 断」であると主張されている。また,判例としては,「実務の取扱いは, 必ずしも確定しているとはいい難(99)い」ものの,「現在の実務では,一部算 入説に立った運用が支配的であるとされている」のであ (100) る。そして,その 一部算入説のもとでの実務の運用は,「起訴前の勾留は,原則として捜査 に必要な日数として算入すべき未決勾留日数から(101)除」かれている。「起訴 後については,第1回公判期日までに通常必要とされる30日と,その後の 公判期日ごとに10日間を,審理に必要な期間として算入から除外するとい うも (102) の」を基本として,「事件の審理経過の状況に照らし,公平の観念に
基づ(103)き」個別事案に応じて修正がなされることにな(104)る。 ここまでをみたところ,日本においては,一部算入説が取られていると 考え得るが,ドイツは全部算入説と同様の立場だと指摘されている。そこ で,ドイツの見解を概観する。 ドイツ刑法51条1項は,「有罪の言渡しを受けた者が手続の対象である か又は対象であった犯罪事実により未決勾留その他の自由剥奪を受けたと きは,これを有期の自由刑及び罰金刑に算入する。ただし,算入が有罪の 言渡しを受けた者の犯罪後の態度を考慮して正当とされないときは,裁判 所は全部又は一部を算入しない旨を命じることができ (105) る」と規定されてい る。勾留などの自由剥奪は,この規定により決定した刑罰から算入される。 その規範は,犠牲の観念を形にしたもの(Ausgestaltung des Aufoperungs-gedankens)である。この規定によって,効果的な刑事訴追という関心に おける国家の側面から市民に要求する負担の効果が事後的に調整されるの である。その際,刑の配分(Strafzumessung)の問題ではなく,原則に従 うと算入の場合,単なる執行措置(Vollstreckungsmaßnahme)が問題と なっているのであ(106)る。勾留は,被告人在席の元で刑事手続をするためのも のである。場合によっては,被告人は長期間にわたって自由を剥奪される ことにより,かなりの犠牲を求められるのであって,これについて清算が なされるのが当然であるとされてい(107)る。判決の確定に至るまで手続の間 ずっと被った自由剥奪が算入され得るのであ (108) る。そしてその算入は,科さ れる刑期からその期間を差し引くという方法で行われ(109)る。 以上より,日本とドイツとは指摘されている通り,一部算入説か全部算 入説か,原則任意的算入とするか必要的算入とするかで法状況が異なる。 したがって,必要的算入を原則とした上で,身柄拘束期限の制度自体にも 相違があるドイツの法理論をそのまま比較することはできない。 しかし,どの決定も,定型的にパンデミックによる健康上の危険性が被 告人の自由に優越するとは述べていなかった。そこでは比例性の原則に基 づいて,感染リスクを許容可能なレベルにまで下げ得た場合には,迅速性 の要請に基づき,公判を行うことが求められていたのである。したがって, 新型コロナウイルス感染症によるドイツ刑事訴訟施行法の改正について 251
いかなる感染予防措置が講じられた場合に,感染リスクから勾留の継続お よび「進行停止」が取られるのではなく公判の実施が取られると判断して いるのかについては,比較法的な示唆を得ることができよう。 (2)取り得る感染予防措置について ナウムブルク高等裁判所は,裁判所が講じ得る措置では危険状況を減 少・排除できないと指摘していた。特に,人が接触することが不可避的で あるため,特に1.5メートルの距離要件の順守の困難性を指摘していたの である。これに対してカールスルーエ高等裁判所は,あり得る感染予防措 置について言及している。すなわち,保健所による専門的な助言,法的に 許される程度まで傍聴人を制限すること,ドイツ裁判所構成法169条1項 3文に準拠して報道関係者のための作業室内への音声伝達を許可すること, また,場合によっては裁判所の建物の外で裁判を行うことをも検討してい た。判決文で具体的に挙げられている感染予防措置としてはこれらのもの が考えられる。 また,いずれの裁判所も,保健所からの助言のみならず,州政府令に従 うことにも言及していた。距離要件がでていたのは,3月22日の連邦政府 によるガイドラインが言及していたからであ (110) り,これに従っていると考え 得る。そこで,このようなガイドラインに基づく感染予防措置のあり得る ものとして (111) ,バイエルン州司法省の状況を確認す (112) る。 まず,優先的に処理する事案を設定している。現在は裁判実務が拡大し ているが,制限が厳しい場合には,期限が問題となっている勾留や時効, すでにかなりの進行段階にある長期的な手続の事案を優先するようにして いた。マスクの着用義務を認め,拒否した場合には裁判所への立ち入りを 拒否することが出来るとしている。ただし,法廷内では,裁判官が着用に 関して法的に独立して決定するとされる。入場時には,自分の健康情報を 申請する必要があるとしている。法廷においては,より大きな法廷にする ことや,傍聴人の制限が講じられている。手続関与人の1.5メートルを確 保するために,法廷の机を延長している。透明な隔離用ガラスの設置がな
されている。法定の換気のために休憩時間を取るといったことが講じられ てもいる。これらに加えてバイエルン州司法大臣ゲオルグ・アイゼンライ ヒは,「COVID-19 の期間は,刑事手続においてビデオ使用の可能性を拡 大すべき」としてい (113) る。 優先処理事案については,日本においても「新型インフルエンザ等対応 業務継続計画」において策定されている。そこでは,「発生時継続業務」と して,「令状(身柄に関する裁判を含む。)に関する事務」と「医療観察事 件(鑑定入院命令・決定がされている事件)に関する事務」が挙げられ, 「発生時継続業務以外の業務」の第1順位として,「刑事公判(勾留がされ ている事件)に関する事務」が挙げられてい(114)る。マスクの着用については, ドイツの各州での対応がなされているが,たとえば小売店や公共交通機関 等 で の マ ス ク は 着 用 義 務 が あ り,違 反 に 対 し て は250ユ ー ロ の 過 料 (Bußgeld)となってい (115) る。したがって,裁判所内への立ち入りにおける マスクの着用義務は,州政府令に基づいている。これに対して,各法廷内 は,法的に独立して裁判官が決定するというのであるから,州政府令とは 独立した決定権が裁判官に与えられているものと解される。その他,法廷 の傍聴席の制限,ソーシャルディスタンスの確保,アクリル板・換気時間 の導入は,日本でも行われてい (116) る。 異なる点は,刑事手続におけるビデオリンクの使用可能性を拡大しよう としている点である。この点,ドイツにおいては,直接主義の要請がある ことからビデオリンクの拡大については否定的に解され得るものの,2020 年10月には改正案が提出されてい (117) る。オーストリア刑事訴訟法では,247a 条で証人に対して,174条1項で勾留時に関してビデオリンクの使用が可 能である旨が規定されている。日本の現行法上は,157条の6第1項およ び2項の場合に限定されているので,解釈論としては,ビデオリンクの使 用拡大を認めることはできないものと解される。これに加えて,傍聴の制 限にはメディアに向けた別室への音声送信の活用が挙げられていた。裁判 の公開についてのビデオリンクの使用可能性も考慮される。したがって, 立法論としてはこれらの点についてさらに検討されてなければならず将来 新型コロナウイルス感染症によるドイツ刑事訴訟施行法の改正について 253
の課題となる。 (3)裁判員制度に関する日本法への示唆 検討の最後に,裁判員制度の関係で日本法への示唆を確認する。ドイツ の高等裁判所の論理に基づくと,勾留は,無罪の推定が妥当する者に対す る身柄拘束であるので,被告人の自由と効果的な刑事訴追の必要性との緊 張関係が考慮される必要があることになる。そこでは,迅速性の要請や比 例性に鑑みて,勾留期間が長くなればそれだけ被告人の自由の要請が大き くなる。そこで,一度公判を延期して勾留の継続を認めたとしても,その 後に時間が経てばそれだけ公判を実施する要請が強くなることが指摘され ていた。法制度の違いからそのまま比較することはできないが,勾留期限 の問題と公判の実施については次の点を指摘することができる。日本では, 憲法37条1項に迅速な裁判を受ける権利が規定され,それを受けて刑事訴 訟法1条にも刑罰法令を迅速に適用することが規定されている。さらに, 個人の基本的人権の保障と事案の真相解明の調和が謳われていることから すると,身柄拘束を受けている被告人の自由という基本的人権は,刑事訴 追の必要性との緊張関係にあり,勾留期間が長くなればそれだけ被告人と いう不安定な状況の早期解消,すなわち迅速な裁判が求められることにな る。ドイツと同様に,新型コロナウイルス感染症によって公判が延期され て未決勾留が長引けばそれだけ公判実施の要請は強くな (118) る。 裁判員裁判対象事件は,現在のところ一定の重大事件が対象であって, 平均よりも勾留されている割合が高い類型も含まれてい (119) る。そうすると, 裁判員裁判は,迅速な裁判を受ける権利の要請から,なおも実施の必要性 に迫られることになる。また,裁判員裁判の成果の一つには,公判中心主 義により人の言葉で裁判を実施することが挙げられる。迅速な裁判を受け る権利の要請は,証拠の保存とも関係があり,たとえ勾留事件ではなくと も,時が経過して関係者の記憶が薄れてしまえば,口頭主義に基づく裁判 の効果も下がることになる。したがって,身柄拘束されていない事件で あっても,特に裁判員裁判は,理論上,迅速に実施される要請がある。
反対に,ドイツは任期制たる参審制であるので,日本のような事件ごと の選任よりも固定化されている分,裁判所の出入りは限定的である。これ に対して日本は,事件ごとに異なる多数名が選任手続に呼ばれるとされて いるのであるから,感染リスクは高いものと言える。ドイツでは手続関係 人がリスクグループであることも「その他重大な理由」となり得るもので あった。この点は,感染リスク側に傾く事情といえる。解釈論を越えて立 法論においては,選任候補者に対するビデオリンクの使用や,非常時にお ける呼出をしない措置の拡大,また,そもそも対象事件からの除外があり 得るのか検討することが課題となる。