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日本人高校生と大学生の英文読解におけるストラテジーの認識の違いについて

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白鴎大学論集第24巻第1号

論文

日本人高校生と大学生の英文読解における

ストラテジーの認識の違いについて

大木俊英

TheDifferencesofStrategicAwarenessinEnglishReading

BetweenHighSchoolStudentsandUniversityStudentsinJapan

OKIToshihide

1.はじめに

読解はとても複雑な心理プロセスを伴う活動である。Birch(2002)は 読解に関わる構成要素を、(1)知識ベース(knowledgebase)、(2)処 理ストラテジー(processingstrategies)、(3)テキスト(text)の3つに 大きく分けている。Birchによれば「読解」とは、読み手が処理ストラテ ジーを用いながらテキストと知識べ一スの両方を情報資源として文章を理 解することである。優れた読み手であるためには、様々な処理ストラテ 評一を上手に使って積極的にテキストと関わり、素早く意味の再構築がで きなければならない。本研究の目的は、現在の高校生が用いている読解ス トラテジーの傾向を、英語学習経験がより長い大学生のそれと比較するこ

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とで、高校生がより優れた読み手になるためにはどのようなストラテジー を習得する必要があるのか探ることである。

2.先行研究

外国語の読解における人の複雑な心理プロセスについての探究は、母語 における読解の研究より生じた。Goodman(1967,1975)は、読解におい て読み手は自身の背景知識を動員し、テキストの意味の再構築を行ってい ることを明らかにした。この背景知識は一般にスキーマ(schema)とも 呼ばれるが、このスキーマを利用したトップダウン的な読解プロセスの 概念は、単語認知のみからテキスト理解が行われるとする、旧来のボト ムアップ的読解のアプローチとは一線を画すものだった。またRumelhart (1977)などにより提唱されている読解モデルでは、トップダウンとボト ムアップ両方のプロセスが同時並行的に働くことで言語は理解されると考 えられ、このよ うな読解の方法は「読解の相互作用的モデル(interactive modelofreading)」と呼ばれた。 これらに基づき、Carrell(1989)はトップダウンやボトムアップ・ス トラテジーに対する認識が外国語での読解力とどのような関わりがあるか を、質間紙調査を用いて調べた。その結果、ボトムアップ・ストラテジー として分類された項目は、読解力と正の相関関係にあったもの、負の相関 関係にあったものの両方があったが、トップダウン・ストラテジーとして 分類された項目には読解力と負の相関関係にあったも,のはなかった。この 結果は、ボトムアップ・ストラテジーよりもトップダウン・ストラテジー のほうが、外国語での読解力を予測する力が強いことを示唆している。 Carrellの結果を受けて、天満他(1992)は日本人大学生1・2年生(専 攻は様々)を対象に追調査を行っている。天満らはCarrellの36の質問項 目を日本語に翻訳して用いたが、因子分析を行い、より説明力の高い質問 項目のみを用いて読解力との関係を調べた。因子分析の結果、5つの因子

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が抽出された(表1を参照)。「プラス因子」とは、読解に役立つものとし て肯定的に捉えているストラテジーのことであり、「マイナス因子」とは 読解を困難にするものとして否定的に捉えているストラテジーのことであ る。各因子に含まれる質問項目については表2を参照していただきたい。 表1.読解のストラテジーに内在する5つの因子 全体的(トップダウン)ストラテジー

{☆講ll瀦1

局所的(ボトムアップ)ストラテジー

プラス因子二第2因子

マイナス因子二第4因子

天満他(1992)より引用 天満らは結論として、すぐれた読み手ほどトップダウン・ストラテジーを 有効だと考える傾向にあること、未熟な読み手ほどボトムアップ・ストラ テジーに頼る傾向にあること、熟達度に関わらず大学生の英語学習者は語 彙レベルのストラテジーを重要だと考える傾向にあること、未熟な読み手 はトップダウン・ストラテジーを有効だと認識しながらも、自分が読解を 行う際にはそれを活用することができているかどうかには自信がないこ と、などを挙げている。 橋口(2002)は天満と同じく大学1・2年生(専攻は体育)を対象に 追調査を行い、同様の結果を得ている。橋口は学年の差についても検討し たが、学年間で大きな差は見られず、むしろ共通する傾向が見られたと結 論付けている。憶測の域を出ないが、学年間で差が見られなかったのは、 体育専攻の大学1・2年生は英語を読む機会があまり多くないため、1年 という短い期間ではストラテジーの変化が起こらなかったのではないだろ

(4)

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(5)

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(6)

うか。よって本研究ではさらなる学年差を設け、大学生と高校1年生の比 較を行い同様の傾向が見られるかを検討する。 以上より、本研究の調査目的は以下の3点を調べることとしたい。 (1)高校生においても、熟達度によりストラテジーの認識傾向は異なる

か。

(2)大学生と高校生の間にリーディングストラテジーに対する認識の違

いはあるか。

(3)読解ストラテジーの5因子のうち最も英語力を予測するカがある因

子はどれか。

3.調査手順

3.1協力者

ある私立高校の1年生4クラス、計146名のうち135名が調査の対象と なった。この私立高校はどのクラスも4年制大学への進学を主としたカリ キュラムで編成されており、調査に協力してくれた4クラスのうち1クラ ス(34名)は英語を専攻とするクラスである。調査を行った2007年3月 当時では、これらのクラスは英語を週合計7∼12単位学んでいた。英語 の学力は様々で、偏りはないものと考えられる。

3.2調査資料

ストラテジー調査には、大学生との比較を行うため、天満他(1992) と橋口(2002)と同じ36項目を採用した(添付資料参照)。授業時間を教 科担当者に頂き、15分ほどで生徒に回答してもらった。回答方式にっい ては、「全く賛成」「やや賛成」「どちらとも言えない」「やや反対」「全く 反対」の5件法を用いた。各質問項目における上位群と下位群の平均点は 再び表2を参照されたい。 英語の熟達度の測定には、生徒全員が受験を義務付けられている外部模

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擬試験3回分の全国偏差値の平均値を用いた。この外部試験は一般的な読 解問題の他に、リスニングや英作文の問題も含まれており、総合的な英語 の力を測定するのに適したテストであると考えたため採用した。協力者数 を確保するため1∼2回欠席した生徒の偏差値にっいては重回帰式を算出 して推定値で補い、模擬試験3回全てを欠席した協力者と調査当日に欠席 した協力者、計11名については分析の対象外とした。

3.3データ分析

上位・下位群のグループ分けは先行研究に従い、平均値+1SD以上を 上位群(16名)、平均値一1SD以下を下位群(20名)とした。対応なしの 孟検定(両側)により両群の問には有意差が見られ、両群の学力の違いが 明らカ〉になった、∫(16.43)ニ14.58,ρ<.001。 各因子に対する両群の認識に統計的な差があるかについては、対応なし の孟検定(両側)を用いた。また、各因子がどれくらい英語力を予測する のかについては、模擬試験の平均偏差値と5つのストラテジー因子の平均 点を変数としたピアソンの相関分析、また平均偏差値を従属変数、各因子 を独立変数とした重回帰分析を用いて調べた。

4.結果と考察

4.1「高校生においても、熟達度によりストラテジーの認識傾向は異な

るか」について

二群のストラテジーに対する認識の違いを表したのが次の図表1であ る。表中のF1∼F5はそれぞれ第1因子∼第5因子のことを表している。

(8)

図表1.高校1年生の5因子に対する平均値と上位群一下位群の差

高校1年生

5

4

3

}一←一上位

興2

降一…−一’下位

1一去一差

0

−1

5つの因子

ゴ 管’

1

2

3

4

5

F.1

F2

F3

F4

F5

施稚差

3.4 2.5 0.9** 3.7 3.8 −0.1 3.7 3.8 −0.1 2.3 2.9 −0.6 3.2 3.4 −0.2 **ρく.OO1 第1因子にっいては、上位群が下位群を大きく上回り(差二〇.9)、云検 定の結果この差は有意であった、渉(34)一3.96,ρく.001。質問項目ごと に見た場合、比較的大きな差が開いたのは、1(英語を読む際に、文章中 次に何が来るかを予測できる;差二1.0)、3(文章中にすでに存在する情 報と次に来る情報とを関係づけられる;差一1.0)、6(ある事柄が理解で きているかいないかをきちんと認識できる;差=1.1)の3っで、差は全 て有意であった。この結果から、上位群は自分が読解を行う際に「先を予 測する」「文章全体の内容の整合性を考える」「自らの読解過程をモニター する」といったストラテジーを、下位群に比べて重要だと考えていること がわかる。 第2因子にっいては、下位群が上位群をやや上回っているものの差はほ ぼなく、統計的に有意な差もなかった。上位群・下位群ともに点数を一番 高くつけているのは13(英語を読む際に、効果的に読むために気をっけ

(9)

る事柄は、それぞれの単語の意味を理解すること;上位群一3.9、下位群 =3.8)であり、学力に関わらず、高校生は単語の知識が読解にとって重 要であると認識していることが窺える。このような傾向は天満他(1992) や卯城(1996)でも指摘されているが、協力校の生徒が普段の授業や学 校外の英語学習において語彙に関する指導を受けているためだろうと推測 できる。 第3因子についても下位群が数値は上回ったものの群間に大きな差は見 られず、有意差のある項目もなかった。2つの先行研究とは上位群と下位 群の逆転が見られたが、顕著な差が見られなかったという点で類似した結 果となった(天満他では0.3の差、橋口では大学1年生が0.4、大学2年生 が02の差)。両群ともに最も高い点を与えたのは、31(自分の知っている 人物の中で、英語を最も上手に読む人物は、文章全体の意味をっかむこと に優れている;上位群=4.1、下位群一4.2)である。同じトップダウン・ ストラテジーでも、自己に関する認識を表す第1因子において下位群は有 意に上位群を下回っていたことから、下位群は有効なトップダウン・スト ラテジーを知ってはいるが自分では使うことができないと認識している傾 向にあるようである。この点は天満他(1992)と橋口(2002)でも言及 されている。 第4因子は0.6の差が見られ、この差は有意な傾向にあることがわかっ た(ρ一.051)。両群の各質問項目に対する回答に共通した傾向はない が、25(英語を読む際に、読解を難しくする原因は、アルファベットであ る)に対して、上位群は最も低く(L9)、下位群は最も高く点をつけてお り(3.1)、その差は1%水準で有意であった。この違いが意味するのは、 下位群は単語の認識に必要な文字の識別自体に困難を感じており、その結 果下位群の学習者はつづりを見て単語の意味を心内辞書から検索する能力 が上位群に劣っている、ということかもしれない。下位群の生徒に対し文 字一意味や文字一音がそれぞれどのように対応しているかについて指導を 行う必要があることを示唆した結果となった。

(10)

第5因子については両群に有意な差はなく、先行研究とも一致した結果 が出ている(天満他では一〇.1の差、橋口では大学1年生が0。2の差、大学 2年生が一〇.3の差)。しかし、27(英語を読む際に、読解を難しくする原 因は、文章全体の意味をっかむこと)で、上位群(2.7)と下位群(3.8) の間に有意ではなかったが1.0ポイント以上の差が見られた。ここでも下 位群が上位群に比べて、文章全体の内容を把握することに苦手意識を持つ 傾向にあることが見てとれる。 4.2「大学生と高校生の間にリーディングストラテジーに対する認識の

違いはあるか?」について

次に先行研究(天満他,1992;橋口,2002)との比較を行うために、上位 群・下位群・3つの研究の差ごとにまとめたグラフを作成した。それが以 下の図表2∼4である。なお図表中の「橋口1」「橋口2」とはそれぞれ橋 口(2002)の大学1年生と2年生の結果を表している。 図表2.上位群の平均値の比較

上位グループの比較

5

432

埋興降

1

庶 、

1

234

5つの因子

5

…←・一高校生 一ト天満 一」一橋ロ1 一’←一橋ロ2

F1

F2

F3

F4

F5

高校生 天満他

橋口1

橋口2

4厚1QUイ⊥

(11)

図表2より、上位群は学年間でストラテジーに対して大きな認識の差は ないようである。しかし、第3因子のところで高校生のみが4.0を下回っ ており、大学生と比べて有効と思われるトップダウン・ストラテジーに対 する認識が少し低いことがわかる。協力校ではストラテジーに対する指導 は3年次の英語Rの授業で主に行っており、1年次はまだトップダウン・ ストラテジーを客観的に認識するカが十分でないためであろう。大学生と 違い高校生は、第1因子と第3因子の差が小さいが(高校生=0.3、大学 生平均=0.8)、これは有効であると認識しているストラテジーであれば高 校生のほうが自分の読解に生かすことができる、と解釈することもできよ う。第2因子の値がやや高いが、天満他と数字は・一致している。 図表3は下位群についてであるが、3つの研究結果に大きな差は見られ なかった。橋口の大学2年生の第1因子がかなり低い数値を示しているが (1.5)、この理由については橋口(2002)でも特に言及はない。 図表4は上位群と下位群の差をまとめたものである。顕著な違いが見ら れたのは第2因子と第3因子である。第2因子については、高校生は上位 群・下位群ともに高い点を与えていたため、差がほとんどなかった。一 方、大学生が対象の2つの研究ではみな一(マイナス)の値をとっている が、これは上位群の第2因子に対する評価が低かったためで、ボトムァッ プ・ストラテジーを下位群ほど重要だと認識していない傾向にあるとわか る。第3因子は高校生対象の本研究のみが一(マイナス)の値となってお り、大学生とは上位群・下位群の逆転が起きている。原因はすでに述べた ように上位群の第3因子についての認識が大学生に比べて低かったためで ある。このことが示すのは、高校から大学へと学年が上がるほど、上位群 はより様々なトップダウン・ストラテジーを認識できるようになるという ことであろう。特に、大量の文章処理を行うことが必要となってくる大学 受験のための勉強をしているかどうかの違いが高校生と大学生にはあり、 この相違が第3因子について認識の違いをもたらした可能性もありそう だ。

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図表3.下位群の平均値の比較 下位グループの比較

5

432

埋興降

1

1

234

5つの因子

5 ””◆’…・高校生 一トー天満

一橋口1

一←一橋ロ2

F1

F2

F3

F4

F5

高校生 天満他

橋口1

橋口2

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QU43QU

82ワ‘8

33QJ4

ΩuQ﹂80 2∩∠∩乙∩乙 QJ6Q﹂QJ 3.4 3.3 3.4 3.6 図表4.3つの研究の差の比較 差の比較

2

﹄10

拠e鯉興降 一1 一 一 一 一 一 … ⋮子 { { 一 ㎜5 一 一 一 一、] 皿 ︸4 、↓㎜ ・3 乱 .2 ↓ …◆‘”]’高校隼

一天満

一橋ロ1

一←橋ロ2

5つの因子

F1

F2

F3

F4

F5

高校生 天満他

橋口1

橋口2

9ΩuQ﹂6

0001

一〇.1 −0.5 −0.5 −0.5 一〇.1 0.3 0.4 0.2 一〇.6 −0。4 −0.3 −0.4 一〇。2 −0.1 0.2 −0.3

(13)

4.3「読解ストラテジーの5因子のうち最も英語力を予測する力がある

因子はどれか」について

次に、模擬試験の平均偏差値(Score)と5つのストラテジー因子の平 均点(F1∼F5)を変数とした相関分析の結果を下の表3に示す。 表3.外部模擬試験の成績と5つのストラテジー因子の関連

ScoreF1

F2

F3

F4

F5

Score

Fl

F2

F3

F4

F5

,41**一.04

一.06

一,0

8

.01 .24** **.15* .12

.12.27**

.17.22**

一.17*

*カ<.05.**ρ<.01 Scoreと有意な相関が見られたのはF1・F4・F5の3つであった。最も 相関が強かったのはF1で(7=。41)、次に強かったF4はScoreと負の相 関があった(7=一.24)。各因子どうしでも有意な相関はあったが(F2 −F3,F2−F5,F3−F5,F4−F5)、いずれも弱い相関関係に留まっている (r=.17∼.27)。注目すべきは、英語力を測る力が最もあると考えられる 第1因子が、他の4因子との有意な相関が全くなかったことである。これ は他の4因子が少なくともどれか1つの因子と相関があったのとは対照的 だが、おそらくトップダウン・ストラテジーを利用できるカは、高校生に とって、他のストラテジーを利用するカとは独立した特殊なカだからであ ろう。 最後に5つのストラテジー因子を独立変数、英語力の指標とした模擬試 験の平均偏差値を従属変数として、どの因子が最も英語力を予測するのか についてステップワイズ法の重回帰分析を行って更なる検証を試みた。分 析の結果を表したのが次の表4である。

(14)

表4.英語力を予測する変数としてのストラテジー因子についてのステッ

プワイズ法の重回帰分析(N=135)

変数

B

SEB

β 第1段階

定数

F1

第2段階

定数

Fl

F4

24.44 5.77 31.37

5.54

−2.35 QUQU

41

QUイ⊥ 4.27 1.11 0.90 .41** .39** .20* 注:第1段階1∼2一.16:第2段階∠]1∼2ニ.21(ρs<.01) *ρ<.05.**ρく.01. 高校生の英語力を予測するストラテジー因子として抽出されたのは第1 段階では第1因子のみ、第2段階では第1因子と第4因子であった。β 値からどちらのモデルでも第1因子が最も説明力のある変数であること がわかる。第2段階では第4因子も有効な説明変数として抽出されたが係 数(β)が負の値であるため、第4因子は英語力と反比例の関係にあると 言える。しかしながら決定係数(1∼2)が第1段階と第2段階ともに低いた め、モデル自体の当てはまりは良くないと考えられる。したがって高校1 年生ではストラテジーがあまり確立されていないために、読解ストラテ ジーは英語の熟達度を測る指標としてはまだまだ不十分であると言えるか もしれない。

5.結論と教育的示唆

今回の調査を通して明らかになったことをまとめると以下のようにな る。 (1)高校1年生の優れた読み手は、有効と思われるトップダウン・スト ラテジーを客観的に認識するだけでなく、自らの読解活動で用いる

ことができると判断する傾向にある。

(2)高校1年生の未熟な読み手は、有効と思われるトップダウン・スト

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ラテジーを客観的に認識することはできるようだが、自らの読解活 動でそれを用いることに困難を感じている。特に、文章全体の内容

を把握することに苦手意識がある。

(3)高校1年生は英語力に関わらず、語彙知識を重要であると考えてい

る。

(4)大学生と比べて高校生はトップダウン・ストラテジーに対する知識

が少ない。

(5)大学生と比べて高校生は英語力に関わらずボトムアップ・ストラテ

ジーを重要視する傾向にある。

(6)高校生の英語力を最もよく説明できるのは第1因子であること。ま

た第4因子は英語力と有意な負の相関関係にある。

今回の調査で、熟達度に関わらず高校生は、ボトムアップ・ストラテ ジーのうち特に語彙知識の重要性については十分に認識していることがわ かった。(1)と(2)より、高校生の優れた読み手とそうでない読み手 との一番の違いは、認識しているトップダウン・ストラテジーを実際の読 解活動で自在に使うことができるかどうかという点であることが窺える。 これは言い換えれば、彼らが認識しているトップダウン・ストラテジーの 使用が自動化されているかどうかということでもある。言語習得に関わら ず一般に、あるスキルが自動化されるまでには、意識的な訓練を繰り返す 必要があると言われる。よって高校生の未熟な読み手でも、潜在的には認 識していると思われるトップダウン・ストラテジーを意識的に繰り返し学 習する機会が得られれば、それを生かした効率の良い読解ができるように なるかもしれない。 そのためにはトップダウン・ストラテジーを用いるのに必要な最低限の 語彙知識および単語の音韻知識を習得させることも必要である。未知語が あまりに多くては推測などのストラテジーを使用することができなくな るからである。(6)にあるように、第4因子(ボトムアップ・ストラテ ジーのマイナス因子)が英語力と有意な負の相関関係にあったことから、

(16)

熟達度の低い者ほど単語の意味や音韻の認識に困難を感じていることがわ かる。未熟な読み手がトップダウン・ストラ「テジーの自動化を成し遂げて いないのは、これら語彙や音韻などの下位処理段階でつまづいているとい う可能性も高い。遭遇率の高い高頻度語は心内辞書において検索されやす い場所に格納されているという単語認知モデル(探索モデルやロゴジェン モデルなど)も存在するので(門田,2006)、より多くの文章に触れさせ て、覚える必要性の高い語とそうでない語を学習者自身の身をもって感じ させる必要もあるだろう。(4)や(5)の結果から、大学生のほうがトッ プダウン・ストラテジーに対する認識や運用能力が高い傾向にあることが わかったが、それは大学生がストラテジーの学習経験という点で勝ってい たからではなく、単純に読解の量が高校生に勝っていたためボトムアップ 処理がより自動化されていたからかもしれない。いずれにしてもこの点に ついては天満他(1992)や橋口(2002)で調査の対象となった大学生と、 今回の調査対象となった読解学習の経歴について尋ねて比較するほかはな いので、これ以上の議論は控えたい。それよりも重要なのは、高校生より 読解力があると考えられる大学生の優れた読み手がトップダウン・ストラ テジーを重要であると認識している点、そして読解でもそれらを積極的に 用いようとしている点である。 これらのことから、高校1年生の読解力をより高めるためには、まず① 語彙処理などの下位プロセスを自動化するための機会を十分に与えるこ と、そして②彼らのトップダウン・ストラテジーに対する認識を早期から 高め、それを読解で活かせるように指導すること、の2点に留意する必要 があると思われる。 前者にっいては先ほども述べたように、必要度の高い語とそうでない語 の優先順位づけができるように、多量の文章を日常的に与えることが必 要であろう。このような多読による語彙学習は一般に付随的な語彙学習 (incidentalvocabularyleaming)として位置づけられることが多いと思う が、Knight(1994)のように、辞書を用いた意図的な語彙学習(intentional

(17)

vocabulalyleaming)のほうが語彙習得の効果が高いと報告している研究 もある。一方、Huls司in,Hollander&Greidanus(1996)のように辞書を 引かせるよりも注釈を与えた付随的語彙学習のほうが語彙習得は促進され るといった研究結果もある。卯城(2000)は付随的語彙学習を促すため には、「読み手と関わりのある内容の英文を読ませ、できるだけ頭の中で 語句の意味を考えさせ、さらには計画的に何度も何度も語彙に触れる機会 を与える」ことが重要であると指摘している。Gardner(2008)では、複 数の文章を読んだ場合、説明的文章であればテーマが狭い場合に、物語的 文章であれば同じ著者である場合に、同一の語彙が繰り返し登場する確率 が高いことを明らかにしている。これらより、高校の英語指導の特に初期 段階においては、生徒の関心を引くようなテーマを扱った長編の説明的文 章や物語を一定期間通して読解させながら、生徒になるべく内容について 考えるよう求め深い処理を行わせ、高頻度出現するで語は予めコーパス分 析によりリストアップし、注釈を与えたり辞書を引かせるなどして、習得 の可能性を教師が意図的に高めてあげることが望ましい。 一方、後者のトップダウン・ストラテジーについての指導の仕方につい ては天満(1989)が有用な示唆を与えてくれている。天満は単語や単文以 上のレベル、つまり文章レベルの読解ストラテジーを指導する際の観点と して次の10項目をあげている。各項目の見出しは天満(1989)に掲載され ているものをそのまま引用しでいる。 ①読む前の段階:タイトルや挿絵から内容について推論する ②予備的な読み:走り読みや探し読みを行わせ、読解計画を立てる ③読み方の種別:精密読みや広範読みも行わせ、幅広い読みを行う ④テキストの型の区別:描写型・物語型・論説型の区別をする ⑤テキスト構造のスキーマ:上の各型がどのような展開パターンを持っ

⑥テキスト内容のスキーマ:文化的・社会的背景知識が必要な文章かど

うか

(18)

⑦テキストの手がかり:論理・概念関係を読み取る手がかりとなる語旬

を見つける

⑧アウトラインの作成:段落や文章の体系的な構造を整理する ⑨サマリーの作成:簡潔かつ整合性のある文章にまとめ、文章理解を確

実にする

⑩教室学習における留意事項:読速度・グループ活動・辞書使用などに

ついて

これらのうち特に重視したいのは⑧や⑨の読解後の産出活動である。今 回の調査で、高校生は英語力に関わらずボトムアップ・ストラテジー(第 2因子)を重要だと考える傾向にあることが明らかになったが、単語や文 法に偏った文章理解ばかり行っていると、文章全体の内容の整合性や一貫 性を考慮しながら読解する、ということができなくなる可能性がある。事 実、今回の調査からも、高校生の下位群は文章全体の内容を把握すること に困難を感じていることが明らかになっている(質問項目の2や27)。こ のようなアウトプットを意識した読解後の産出活動は、高校では大学受験 に関係ないものとして軽視されがちだが、読解内容の整理と定着を図りな がら、語彙・文法知識に対する仮説検証を行い、学習者が中間言語と目標 言語のギャップに気付く良い機会であり(村野井,2006)、受験勉強の妨 げになるものではない。 村野井(2006)ではこの他のアウトプットを重視した活動として「ディ クトグロス」や「ストーリーリテリング」なども薦めている。ディクテー ションでメモした単語を元に原文を復元していくディクトグロスは文法と ライティングに焦点を置いた活動で、読んだり聞いた内容を口頭で再現す るストーリーリテリングはよりスピーキングに焦点を置いた活動であると 言える。いずれの活動を読解後に行うにしても、読解に対する学習者の動 機付けを高め、読みの目的を明らかにするために、これらの活動を実施す ることは「読解前に」学習者に伝えるべきであろう。さらに何故そのよう な活動を行う必要があるのかを1年生の早い時期から指導を行えば、トッ

(19)

プダウン的な読解ストラテジーが学習者の明示的知識としてより確実に定 着することが期待できよう。

引用文献

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(20)

[添付資料]読解ストラテジー調査用紙

次の質問は、英語を読む(黙読)ことについてのあなたの気持を尋ねる ものです。それぞれの質問に対して賛成か反対か、下に示した基準に従っ て、自分の気持ちに最もよく当てはまる番号に○印をっけて下さい。あま り深く考えずに、感じたまま答えて下さい。全部で36間あります。記入 漏れのないように注意して、1つ1つの問い全部に答えて下さい。 全く反対

1

2

どちらでもない

3

4

全く賛成

5

英語を読む際に、 1)文章中次に何が来るかを予測できる 2)主要部分と、それを支える詳細部分との違いがわかる 3)文章中にすでに存在する情報と次に来る情報とを関係づけられる 4)著者の言っていることの重要性や真実性を問うことができる 5)読んでいる文章の内容を理解するために、すでに持っている知識や

経験を利用できる

6)ある事柄が理解できているかいないかをきちんと認識できる 英語を読む際に、何かわからないことがある場合には、 7)読み続けて、先に行けば解明されるだろうと期待する 8)問題のある箇所を読み返す 9)問題のある箇所の前に戻って、そこからもう一度読み返す 10)知らない単語を辞書で調べる 11)あきらめて、読むのを止める 英語を読む際に、効果的に読むために気をつける事柄は、

(21)

日本人高校生と大学生の英文読解におけるストラテジーの認識の違いについて 12)単語の一部を心の中で発音すること 13)それぞれの単語の意味を理解すること 14)文章全体の意味をつかむこと 15)それぞれの単語全体の発音が完全にできること 16)文法的構造(文章の主語、目的語がどれであるか、あるいは文型

など)

17)その話題について自分がすでに知っていることに文章を結びっけ

ること

18)単語を辞書で引くこと 19)内容の詳細部分

20)文章の構成

英語を読む際に、読解を難しくする原因は、 21)個々の単語の音

22)単語の発音

23)単語を認識すること

24)文法的構造

25)アルファベット 26)その話題について自分がすでに知っていることに文章を結びつけ

ること

27)文章全体の意味をつかむこと

28)文章の構成

自分の知っている人物の中で、英語を最も上手に読む人物は、 29)単語の認識能力に優れている 30)単語の発音に優れている 31)文章全体の意味をつかむことにすぐれている 32)辞書を使うことに優れている 33)単語の意味を推測することにすぐれている

一173一

(22)

34)文章中の情報と自分がすでに知っていることとを統合することに

すぐれている

35)内容の詳細部分に焦点を当てることに優れている

36)文章の構成を把握することにすぐれている

参照

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