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新しい口唇圧測定器の開発について

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Academic year: 2021

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新しい口唇圧測定器の開発について

外 丸 雅 晴,

茂 木

司, 笹 岡 邦 典

神 野 恵 治, 山 口

要 旨 【背景と目的】 口唇機能の簡 でかつ定量的な評価のため, 新しい口唇圧測定装置を開発し, 臨床応用の可 能性について検証した. 【対象と方法】 口唇圧測定装置は口唇圧センサーと圧力計から構成されている. 口 腔機能に異常がないと診断された 常者 40人 (男性 20人, 女性 20人, 平 年齢 26.9±3.6歳) を対象にして, 口唇閉鎖時および口笛時の口唇圧を測定した.また,下唇癌患者の術前・術後の口腔機能評価の一環として口 唇圧測定を行った. 【結 果】 口唇閉鎖圧 (平 値±SD) は, 96±26 g/cm (男性 104±31 g/cm , 女性 89± 26 g/cm ) と男性の方が女性より約 16%高かった. また, 口笛時の口唇圧は, 72±36 g/cm (男性 81±40 g/ cm ,女性 62±30 g/cm )と同じく 30%高かった. 【結 語】 本測定器は,表情筋を支配する顔面神経の障害 をもたらす各種の顎顔面領域疾患や, これらの疾患に対する手術後の機能障害を客観的に評価する際に有用 であると えられた.(Kitakanto Med J 2006;56:19∼23) キーワード:口腔機能, 口唇圧, 摂食・嚥下障害, 口腔機能 析法, 口腔外科手術 緒 言 口腔顎顔面領域疾患においては, 疾患そのもの, もし くは治療に伴う外科手術の後遺症として, 各種の口腔機 能障害を生じる場合がある. 特に口唇に関連した機能は, 摂食・嚥下・発音・発声および表情の発現などに関係し, 人間らしい生活の質 (Quality of Life) の保全に必要不可 欠である. 口唇機能を定量的に評価する試みはいくつか存在する が, 未だに適切な方法を見出し得ていない. 著者らは口 唇閉鎖機能と口唇を窄める機能に着目し, これらの動作 時の口唇圧を, 定量的に測定する装置を開発し, 臨床に 応用したので報告する. 対 象 と 方 法 口唇圧測定装置の開発 著者らは,口唇閉鎖・突出運動に着目し,これらの機能 時の口唇圧を定量的かつ簡 に評価する装置 (口唇圧測 定装置)を有限会社アステック (群馬県境町)と共に開発 した. 開発した口唇圧測定装置は, 口唇圧センサー部と空気 圧測定装置から構成されている (図 1). 口唇圧センサー 部は, 長径 30mm, 短径 25mm, 高さ 30mmの楕円形円柱 状を呈する厚さ 0.7mmのゴム膜製であり, 口唇運動時の 弱い力に応じて, 自由に形態変化が可能である. また, 被 験者の唾液に触れるため, 可撤式となっており, 患者毎 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科医科学専攻臓器病態制御系病態腫瘍制御学講座顎口腔科学 2 群馬県高崎市中居町3-19-2 医療法人社団美心会黒沢病院歯科口腔外科 平成17年10月28日 受付 論文別刷請求先 〒370-0852 群馬県高崎市中居町3-19-2 医療法人社団美心会黒沢病院歯科口腔外科 外丸雅晴 図1 新しい口唇圧測定装置 左矢印 : 口唇圧センサー 右矢印 : 空気圧測定装置 (ハンディ・マノメーター )

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に 換が可能となっている. 口唇運動時にセンサー部に 加わった空気圧が, 肉厚のゴムパイプ内を伝わって, 連 結された空気圧測定装置 (ハンディ・マノメーター・ MODEL PG-100: 日本電産コパル電子株式会社製) に より測定され, 圧力がデジタル表示 (単位 g/cm ) される 仕組みとなっている. 口唇圧の測定対象 口唇圧測定対象としては, 口唇機能に関して, 問診お よび視診による診査で, 異常が存在しないと診断され, 口唇圧測定検査の施行に同意した 常者 40人とした (表 1).口唇の運動能力の診査は,40点法 (柳原法) に準 じて行った. 具体的には, 鼻翼を動かす」, 頰を膨らま す」, 口笛を吹く」, イーと歯を見せる」, 口をへの字に 曲げる」の各動作を肉眼的に診査し, いずれの動作も正 常と判定できた者を対象とした. 口唇圧の測定方法 口唇圧の測定では, 被験者を座位とし, 咬合平面を床 に平行に頚部を位置させる. この状態で, 口唇圧セン サー部を口腔前 に置き, 前歯でセンサー部を嚙むこと のない様, 上下口唇間の口裂に楕円柱状のセンサー部を 挟ませる (図 2). 対象とした口唇圧は, 口唇閉鎖圧と, 口 笛を吹くように口唇を突出させる圧の 2動作とした. 各 動作を, それぞれ 10回ずつ行わせ, その平 値を各動作 時の口唇圧値と定めた. 結 果 口唇閉鎖圧 (平 値±SD) は, 96±26 g/cm (男性 104±31 g/cm , 女性 89±26 g/cm ) と男性の方が女性よ り約 16%高かった. また, 口唇突出圧は, 72±36 g/cm (男性 81±40 g/cm ,女性 62±30 g/cm )と同じく約 30% 高かった (表 2). 臨床応用 下唇癌を有し,手術療法 (腫瘍切除・再 術)を行った 患者 1例に対し, 術後の口唇運動機能評価として, 本装 置を用いて口唇圧測定を行った. 患 者:71歳, 男性 初 診:2003年 1月 14日 主 訴:右下唇の腫脹. 現病歴:2002年 12月下旬より, 右下唇の腫脹の存在を 自覚した.症状改善がないため,2003年 1月 9 日,近医を 受診したところ, 同年 1月 14日当科を紹介され, 受診し た. 現 症: 口腔外所見:顔貌は左右対称. 右下唇に 16×17mm大の 表面不整, 境界不明瞭な腫瘤を認めた. 腫瘤は弾性 で 可動性はなく, 疼痛その他の自覚症状は認められなかっ た (図 3). 口腔内所見:特記事項無し 画像所見:X 線 CT 画像所見として, 右下唇に限局する 比較的境界明瞭な病変を認めた. 臨床診断:右下唇癌 (T N M ) 処置および経過:組織生検にて扁平上皮癌の診断を得た ため, 加療目的にて 2003年 1月 22日当科入院となった. 入院時の口唇圧は, 口唇閉鎖圧が 45±4 g/cm , 口唇突出 圧が 38±4 g/cm であった. 同年 1月 24日, 全身麻酔下 にて口唇悪性腫瘍切除, Abbe法に準じた下唇の即時再 表1 口唇圧測定対象者の概要 被験者数 年齢(歳) 身長(cm) 体重(kg) 男性 20 27.8±3.5 169.7±4.8 69.9±8.7 女性 20 26.2±3.5 157.9±5.1 49.3±3.3 計 40 26.9±3.6 163.8±7.7 59.6±12.2 図2 口唇圧測定方法 表2 口唇圧測定結果 口唇閉鎖時(g/cm ) 口笛時(g/cm ) 男性(n=20) 104±31 81±40 女性(n=20) 89±26 62±30 計 (n=40) 96±26 72±36 図3 初診時口腔外所見

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術を, 局所皮弁により施行した. 手術に伴い, 口裂が縮 小し, 審美障害を伴う, 口唇の形態変化を認めた (図 4). 口笛は不能であり, 食 時にも食片や水などが口からこ ぼれやすい事を訴えていた. この時点での口唇圧測定結 果は, 口唇閉鎖時 39±4 g/cm , 口笛時に 35±5 g/cm と 術前に比べ軽度の低下を認めた. このため, 2月 14日に右口角形成手術を施行した. 二 次手術後は, 口唇が拡大し, 左右差も少なくなり, 口唇の 運動機能および審美的にも口唇の形態改善を認めた (図 5).この時点でも口笛時の運動障害を認めたが,食 時の 障害は大きく改善されていた. 二次手術後 2週間の時点 での口唇圧は, 口唇閉鎖時に 98±11 g/cm , 口笛時に 72±8 g/cm であった. 原発巣の治癒経過も良好なため, 患者は 2003年 2月 25日に退院となった. 術後は, 当科 外来にて月に 2回の割合で経過観察を行っているが, 特 に問題となる訴えは存在せず, 口笛も可能となった. 2次 手術後約 2ヶ月の時点での口唇圧は, 口唇閉鎖時に 91± 5 g/cm , 口笛時に 78±7 g/cm であった (図 6). 察 常者 40人を対象に, 口唇閉鎖時, および口唇突出時 の口唇圧測定を施行した. 口唇圧を測定する試みは幾つ か存在し,千木良 は,20∼35歳の 常者 (n=51)を対象 として口唇圧を測定しており, その平 を 121±59g/cm と報告した. Wohlert は, 20∼34歳の 常者 (n=10) を 対象にして, 口唇圧の測定を行っており, 両唇を閉じた ときには, 17.2±4.21kPaと報告した. また, 野呂 の報告 では, 20∼29 歳の 常者 (n=107) を対象にした口唇閉 鎖力は, 男性で 15.2±3.0N, 女性で 12.8±2.3N と報告さ れている. いずれも測定装置が異なるため, 単純な比較 検討はできないが, 野呂 および中尾 の報告では, 男性 に比べ女性の測定値が低いとの結果が得られている. 当 科の口唇圧測定結果は, 口唇閉鎖時に男性 104±31 g/ cm , 女性 88±26 g/cm であった. また口唇突出時には, 男性 81±40 g/cm , 女性 62±30 g/cm であり, 口唇閉鎖 時および口唇突出時共に, 男性の口唇圧が女性に比べ高 い傾向が認められた. 当科開発の口唇圧測定装置は, 口唇の自由な運動に応 図4 1次手術後の口腔外所見 図5 2次手術後の口腔外所見 図6 下唇癌患者における口唇圧測定結果の推移

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じて, 口唇圧を測定できるところに特徴がある. 口唇圧 を測定する研究の多くは, 口唇閉鎖力の測定 であり, 測定装置の構造上, 口笛を吹くように口唇を突出させる 動きなど, 他の動作時の口唇圧の測定が不可能である. 本装置は, 口唇圧センサー部に特徴があり, 口唇の複雑 な動きに対応した口唇圧測定が可能である. 平 値で比 較した場合, 口唇突出時の口唇圧 (73 g/cm ) は口唇閉鎖 時の口唇圧 (98 g/cm ) に比べ低かった. しかしながら, 全体の 12.5%である 5例 (男性 3例, 女性 2例) では, 口 唇閉鎖時の口唇圧が口笛時の口唇圧に比べ高い測定結果 が得られた. また, 臨床応用として, 下唇癌患者の口唇機能評価に 本装置を 用した. 病変そのものによる口唇運動機能障 害を認めた術前の口唇圧は, 口唇閉鎖時に 45±4 g/cm , 口唇突出時に 38±4 g/cm であった.腫瘍切除を行い,手 術に伴う口唇運動機能障害を認めた 1次手術 2週間後の 口唇圧は,口唇閉鎖時に 39±4 g/cm ,口唇突出時に 35± 5 g/cm であり, 術前と大差はなく, 特に食 時を中心に 口唇の運動不全に起因すると推定される摂食・嚥下障害 を認めた. 口唇の形態及び機能改善を目的に行った 2次 手術 2週間後では, 口唇閉鎖時の口唇圧が 98±11 g/cm , 口唇突出時の口唇圧は 72±7 g/cm であり, この時点で は口笛を吹く動作や, 頰を膨らます動作の障害や, 食 時に水や食物をこぼしやすいとの訴えは消失していた. 2次手術後 2ヶ月の時点での口唇閉鎖時の口唇圧は, 口 唇閉鎖時に 91±5g/cm , 口唇突出時に 78±7g/cm であ り, 口唇運動機能の回復が, 口唇圧測定結果からも定量 的に確認できた. 術後も定期的に口唇圧の測定を行って おり, 前回の測定結果と比較する事で, 口唇の運動能力 が明確に評価できた. また, 患者本人に口唇圧測定結果 を定量的に示す事が可能であるため, 術後口腔機能障害 に対するリハビリテーションにおいて, 具体的な目標値 の設定が可能となった. 口唇の運動に際しては, 口唇の周りを取り巻く口輪筋 群が主に働き, に頰骨筋や口角挙筋,口角下制筋,笑筋, 頰筋などの表情筋群が補助的に関与し, 複雑な動きを成 している. 口唇には食物を口腔内に保持する働きがあ り, 摂食・嚥下運動に重要な役割を果たしている. また, 口唇の開閉によりパ行やバ行の発音など, 発声が調節さ れる事もわかっている. 殊に口腔顎顔面領域疾患の術 後患者においては, 手術による直接的な切除はもちろん のこと, 顔面神経の障害などにより, 口唇の運動不全を 来たす事が少なくない. 顔面神経麻痺の程度を判定する 評価法には, House-Brackmann法 に代表される顔面全 体の印象を概括的に評価する方法 (Gross System) の他, 柳原 らが提唱する, 表情の主要な機能から評価を行う 顔面部位別評価法がある. これらの評価法は特殊な器具 を必要としない利点はあるが, 主観的で再現性に乏しい などの問題点も指摘されている.また,客観的・定量的評 価のため, コンピュータ技術を応用したマーカー法やサ ブトラクション法, モアレ法などの様々な方法も提唱さ れているが, 特殊な器具を要する事や, 検査に高コスト がかかり簡 でないなどの欠点が挙げられている. 本 装置は,口唇の複雑な動きに応じて,口唇圧を定量的・客 観的に測定する事が可能であり, 測定装置以外の特殊な 器具や準備も必要としない. 本装置を用いて口唇機能を 定量的に評価する事は, 口腔機能 析に有用であり, 口 腔外科手術や顔面神経麻痺に伴って, 口唇運動の機能障 害を生じた口腔外科患者の治療を全うする上で有効であ ると えられた.また,口唇が摂食・嚥下運動に大きく関 与する器官である事実を 慮すると, 今後高齢化社会の 到来と共に増加が予想される摂食・嚥下障害の正確な評 価においても有用であると えられた. 今後は, に被 検者を多症例に増やしていく事で, 口唇圧の加齢などに 伴う変化や, 障害の生じる境界点に関する検討を行い, 口腔顎顔面領域疾患に対する治療を行う歯科口腔外科や 耳鼻咽喉科などでの臨床応用を目指して, 器具の改良を 進めていきたいと えている. 本論文の要旨は,第 57回日本口腔科学会 会 (平成 15 年 5月 8日 福岡市) にて報告した. 参 文 献 1. 井出吉信. 加齢による口腔機能変化を理解するため の解剖学. 群歯医学会誌. 2003; 7: 1-12. 2. 井出吉信,上 博子.摂食・嚥下を理解するための解 剖. 日歯医学会誌. 2000; 53: 117-128. 3. 本田信光, 暁清文. 顔面運動採点法. 青柳優 (編): 顔 面神経障害. 東京 : 中山書店, 2001: 63-68. 4. 千木良あき子. 捕食時口唇圧の発達変化. 昭歯誌. 1991; 11: 38-46.

5. Wohlert A.B, Smith A. Spatiotemporal Stability of Lip Movements in order Adult Speakers. JSLHR 1998; 41: 41-50.

6. 野呂明夫, 細川壮平, 高橋純一ら. 新規口腔リハビリ 器具による口腔筋 (口輪筋・頰筋)機能療法の基礎と 臨床 (第 2報). 日歯保存誌. 2002; 45: 817-828. 7. 中尾 誠, 長井紀子, 山下大輔. Lip Pressure Gauge

による診断に必要な口唇圧の測定―正常咬合者の口 唇圧― (抄). 日口蓋誌. 2003; 28: 193.

8. 阿部伸一, 井出吉信. 表情筋の機能解剖. 井出吉信, 小出馨 (編): 基本機能解剖. 東京 : 医歯薬出版, 2004: 95-108.

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systems.Laryngos-cope 1983; 93: 1056-1069.

10. 村田清高. コンピュータ解析による顔面運動評価.

青柳優 (編): 顔面神経障害. 東京 : 中山書店, 東京, 2001: 69-72.

New Device for M easuring Lip Pressure

Masaharu Tomaru,

Kenji Mogi,

Kuninori Sasaoka,

Keiji Kanno,

and Toru Yamaguchi

1 Department of Stomatology and Maxillofacial Surgery, Subdivision of Oncology, Division of Biosystem Medcine, Course of Medical Sciences, Graduate School of Medicine, Gunma University Graduate School 2 Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Kurosawa Hospital

Background and Aims: Although several studies have been conducted on measurement of lip pressure, no reliable method of measuring lip pressure is yet available. We developed a new device for measuring lip pressure,and in this paper we describe the device and the results obtained by measuring of lip pressure with it. M ethods: The device consists of a lip pressure sensor and a pressure gauge (HANDY MANOMETER Model PG-100). The lip pressure sensor is made of synthetic rubber. Lip pressure was measured in 40 subjects(20 males and 20 females; mean age,26.9±3.6 years). Results: With lips closed, lip pressure was 96±26 g/cm (males: 104±31 g/cm , females: 89±26 g/cm ). With the lips pursed, the lip pressure was found to be 72±36 g/cm (males: 81±40 g/cm , females: 62±30 g/cm ). Conclusions: The results indicated that the lip pressure is higher in males than in females. This device is useful for functional assessment of patients with facial paralysis or postoperative dysfunction of oral and maxillofacial surgery. Further measurements of lip pressure are required to determine the normal range of lip pressure.(Kitakanto Med J 2006;56:19∼23)

Key Words: Oral function, Lip pressure, Dysphagia, Oral function analysis, Oral and maxillofacial surgery

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