非外来語のカタカナ表記にみられる言語使用者の心的態度
On the Subjective Attitude of Using Katakana Notation of Non-Loan Words
許 夏玲
HUI Harling
東京学芸大学留学生センター
Tokyo Gakugei University, The International Student Exchange Center
Abstract: In this paper, I will examine the use of the non-loan words of katakana notation in daily life. The focus
will be based on the subjective attitude of the user and the communicative effects of using the katakana notation instead of those of the original notation. Moreover, from the viewpoint of Japanese language education, I will conclude the research results on the frequency of using the katakana notation of the non-loan words in the Japanese language textbooks recently.
1.研究背景と目的
日本のグローバル化が進む中で、外来語や外国 語によるカタカナ表記が増えるだけでなく、和語 と漢語の非外来語のカタカナ表記も日常よく見 受けられる。日本語のカタカナ表記に関する研究 は、これまでも多くなされてきた。中山(1998) は、新聞の三日分の記事に現れた非外来語の片仮 名表記の言葉を調べ、「擬音(声)語・擬態語」、 「感動詞・終助詞・語気語調」「振りがな」「方言・ 文」「外国人の発話文中語・外国製単語」「混種語」 「動植物名・性別」「専門用語・隠語・俗語」「電 報文・(事務書類の宛名)」「単位・数を数える語」 「人名・国名・地名」「機関・施設名」「その他」 の13種類に分類した。 こうしたカタカナ表記の研究を支えるその社 会背景の一つとして、外来語や外国語の増加が考 えられる。1995年の文化庁の「国語に関する世論 調査」を振り返って見ると、約58%と6割近く人た ちが外来語や外国語の増加を容認している。その 後、2007年の調査では、日頃読んだり聞いたりす る言葉の中に、約86%の人たちが外来語や外国語 などのカタカナ語を使っている場合が多いと感 じるという回答があった。また、これらのカタカ ナ語の使用に関しては、好ましくないと回答した 人は約39%、別に何も感じないと回答した人は約 43%であるという。好ましくないと感じる人たち の理由としては、「日本語の本来の良さが失われ る」「カタカナ語はわかりにくい」といった理由が 挙げられる。一方、好ましいと感じる人たち(約 15%)では「カタカナ語でなければ表せない物事が ある」「カタカナ語の方がわかりやすい」といった 理由が挙がっている。 一方、臼木(2008)は、5冊の週刊誌(1926年 〜2006年)と4冊のファッション誌(1981年〜 2006年)から10年ごと、5年ごとに100文ずつを抽 出し、これらの文に現れた外来語以外の片仮名表 記の言葉を調べた結果、1986年をピークに2006年 まで減少が続いていることを示した。それ以降、 2013年の文化庁の調査では、すべての世代で外来 語の多さを感じる度合いが低下しているという 傾向がうかがえる。 日本語教育では、特に読解の素材として新聞、 雑誌、小説などを多く用いられている。上述の研 究の調査対象とは異なって、村中・黎(2013)は、 中上級日本語教科書7冊に現れた非外来語のカ タカナ表記の言葉に関して調べた。その結果、擬 態語と擬音語のカタカナ表記が一番多く、次いで 画数の多い漢語、動植物名、固有名詞等といった 順になっていくと説明した。また、中上級の日本 語学習では生教材が多く取り入れられているた め、今後の課題として、カタカナの使用法に関す る明示的な説明や、指導法の開発が必要となって くるという見解も示した。 また、2016年の文化庁調査では、書き言葉のコ ミュニケーションとして、不特定多数の人が読む インターネット上のブログや掲示板へ書き込み をするような場合において、情報の「分かりやす さ」(22%)、「正確さ」(23%)、「読み手の気持ちへ 人工知能学会研究会資料 SIG-SLUD-B803-02の配慮」(21%)、「自分の気持ちの明確な表出」(11%) が重視されることがわかった。 上記の先行研究をふまえて、本研究では、日常 の和語や漢語、いわゆる非外来語のカタカナ表記 を中心に調べ、これらの語彙の特徴、言語使用者 の心的態度(意図、評価、伝達効果等)を、原語 である和語や漢語との比較対照を行いながら、通 時的および共時的に考察し分析する。
2.研究概要
本研究では、非外来語の現在の使用実態を調べ るため、2016 年〜2018 年の代表的な若者および 中年層向け雑誌の男性誌と女性誌、ブログを中心 に 260 例(異なり語数)を収集し、また 2000 年〜 2015 年に出版されている日本語教材の中から 157 例(異なり語数)を収集した。考察の結果、これ らの用例の語彙(異なり語数)を品詞別に分類す ると、名詞(専門用語、動植物名、施設名等)が 最も多く、次いで副詞(オノマトペ)、形容詞、 動詞といった順になっていく。オノマトペの中で、 柔らかいやふわっとした独特なイメージを表す ためにひらがなで表記する語彙以外は、ほとんど の語彙はカタカナで表記される傾向が見られる。 なお、以下の通り、男性誌より女性誌、中年層の 雑誌(40 代〜50 代)より若者雑誌(20 代〜30 代)、 ブログのほうが非外来語のカタカナ表記が多く 現れることがわかる。これは、外国の事物や文化 への憧れのゆえ、若年層が外来語の使用や増加に 寛容であることに理由があると考えられる。 【女性誌】(異なり語数/延べ語数) ・More(18/19)乙女ゴコロ、カッコいい、 ヒミツ、ハッキリ、オススメ ・anan(15/15)テカリ肌、スジ出し、チカラ、 タンパク質 ・Hers(6/7)ケバさ、キレイめ読者、オジさん、 オシャレな人 ・クロワッサン(23/29)オバチャン、ダメ、 キツかった ・Oggi(20/21)ワケ、ニクい、ニキビ、ブレる ・家庭画報(5/6)ヒト、ノリ、セリ、コツ ・婦人画報(18/20)ニッポン、パッと、ハッと 【男性誌】(異なり語数/延べ語数) ・Men’s NON-NO(10/11)ニヤリ、ワル柄、 ツッコまれる ・Men’s club(16/16)ウンチク、キモ、サマ、 キメキメすぎ ・GQ Japan(10/10)モノマネ、アナタ、チラリ、 ・UOMO(8/9)オトコ、遊びゴコロ、カタチ、 新しいモノ 【ブログ】(異なり語数/延べ語数) ・Yahoo, CM 等(78/79)シャキシャキ感、カンタン、 ワケ、ニガテな人、オトナ女子3.通時的変化にみる表記の使用
今回の収集した用例を見ると、非外来語のカタ カナ表記には、慣習的なものと恣意的なものがあ ると考えられる。通時的に見ると、慣習的なもの は、佐藤(1991)で述べられている「語種」(元 の言葉は和語、漢語、外来語)の概念が薄れ、広 範囲でカタカナ表記が用いられる。そのような例 を以下に示す。 ・オノマトペ[擬音語と擬態語] 「外はサクッ、中はふわっ!魚焼きグリル」 「一線でバリバリ仕事をされている」 「ハッと目を奪われる」 ・カテゴリーと専門用語 「決め手はタンパク質でした!」 「シミと別れて恋が始まる♡」 ・難しい漢語 「苦み&コクのハーモニーが最高!」 「なんとも大人のツボを押さえた一足です。」 ・るで終わる動詞 「自分もまだイケるなって」 「大人トラッドにハマる U40mm の小径ミリ顔時計」 上記のオノマトペのカタカナ表記に関して、中 山(1998)では、文部省の『小学校指導書国語編』 (1989)で「片仮名で書く語」として外来語、外国 語、擬声語などがあるとし、平仮名表記となって いる擬態語も日常生活において片仮名による表 記(擬態語の約 56%)がよく用いられるという指 摘が既になされた。 しかし、今回の収集した用例を見ると、日常生活 において、オノマトペのカタカナ表記による慣用 的なもの(たとえば、「バリバリ」「イライラ」 「サラリと」)があることがわかった。 坂本(2012)は、一般的に言語の持つ音と意味 の間の関係は必然的なものではないが、オノマト ペ表現で、音と意味との間になんらかの音象徴の 関連が見られる場合があるとしている。また、音 の組み合わせで構成される言葉から形態と意味 へと結ぶこともできる。たとえば、被験者の言葉 への印象評価ではオノマトペの「ふわふわ」に対し、比較的に高い数値が分布しているのが「丸み のある」「滑らかな」「やわらかい」「快い」「明 るい」「太い」「力強い」「騒々しい」「潤いの ある」といった順になっていくという結果を示し ている。 今回の収集した用例を見ると、オノマトペの中 で擬音語がカタカナで表記される傾向があるの に対し、上述のような「ふわふわ」、「ふっくら」 等の擬態語の意味を形態から容易に想像できる ように、「フワフワ」「フックラ」のカタカナ表 記より、原語のままにひらがなで表記されること が多く見受けられる。 次いで、カテゴリー・専門用語と難しい漢語と の関連性という点を取り上げたい。多くのカテゴ リー・専門用語は外来語や難しい漢語で構成され るものが多く、それゆえ「メス(雌)」「オス(雄)」 「クモ(蜘蛛)」「ヒト(人)」「ニキビ(面皰)」 「タンパク(蛋白)質」などの漢語ではカタカナ 表記が多く用いられる。そして、難しい漢語には、 当て字や画数の多い言葉、多義的な言葉がこの分 類に含まれる。たとえば、「アク(灰汁)」、「美 肌グセ(癖)」、「化粧ノリ(糊)」や「心のハ リ(張り)」はその例である。漢字は表意文字と して1文字に一つの意味が託されているため、漢 字で表記すると、当該の漢字の表される意味が固 定されてしまう、または漢字通りに意味を解釈さ れてしまうため、敢えて漢字表記が用いられない と考えられる。しかし、漢字表記を除き、ひらが なの柔らかいイメージや助詞で連なる日本語構 文の特徴により、形態的にも意味的にも目立たせ るためにカタカナ表記が選ばれやすい傾向があ る。たとえば、今回収集した用例の「苦み&コク のハーモニーが最高!」の「コク」は「こく、こ く味、濃く、酷」という味から「豊かさ」「濃度 感」「充実感」「時間の持続性」「旨味」の多義 的意味が生じる。言語使用者が敢えて非外来語の 「コク」をカタカナで表記することにはその意図 が伺えるだろう。 そして、るで終わる動詞のカタカナ語を用いた 混種語は、「サボる」「ダブる」などのような原 語の「サボタージュ」を略した「サボ」の動詞化、 「ダブル」の動詞化から由来した言葉が若者語と して早くも1990年初期の研究に現れていたが、今 回収集した用例の中に「ハマる(嵌まる)」「ツ ッコまれる(突っ込まれる)」「イケる(行ける)」 「バテる(果てる)」のような原語が非外来語で もカタカナ表記が用いられる。このような混種語 は、若者語から影響を受けたとも考えられるし、 難しい漢語という分類と似たような特徴や言語 使用者の意図も関連しているとも考えられる。 以上、通時的に見てきた慣習的な非外来語のカ タカナ表記の言葉の中で、副詞(オノマトペ)の ような慣習的なカタカナ表記の方法を除き、名詞、 形容詞、動詞にはカタカナ表記によるポジティブ 評価(「おにぎりがウマい!」、「簡単キレイが 叶う!」)とネガティブ評価(「ムダ遣いゼロに!」 「可愛いけど子供っぽくのはイヤ、大人っぽいけ ど老けて見えるのもイヤ」)の大差が特になかっ た。これは、外国の事物や文化への憧れのゆえ、 若年層が外来語の使用や増加に寛容であること に理由があると考えられる。
4.経時的変異にみる表記の使用
一方、前述のように、非外来語のカタカナ表記の 中で、慣習的なものと恣意的なものがあると考え られる。ここで述べる恣意的なものは、経時的に 見て言語使用時における当該の使用者の意図や 態度によってカタカナ表記の使い分けがうかが えるのである。 恣意的なものは、言語使用者の意図や主観的態 度(評価など)が含まれており、一種の伝達効果 を狙うために用いられる。例えば、以下の例を見 てみよう。 ・「カラダは動くか。」(薬品CM) ・「デキる男は 身だしなみ が違う!」 (パナソニックCM) ・「…極端な話になってしまうんですが、年上の すてきな女性になるのか、オバチャンになっち ゃうかはその人の心がけ次第で違ってくると 思います。」(クロワッサン) 上記の例において、「カラダ」はカタカナ表記 の特徴による視覚的・触覚的な効果を現し、「デ キる男」は原語の様々な意味用法から「優れてい る」という性質を目立たせる効果を現し、「オバ チャン」は呼称より「おばさん」に見える特徴(厚 化粧、ぱさぱさ髪、大声、肥満型、服装のコーデ ィネートなど)のみの人を暗示的に示すと考えら れる。 今回収集した用例を考察した結果、前にも述べ られたように、男性誌より女性誌、中年層の雑誌 (40 代〜50 代)より若者雑誌(20 代〜30 代)、 ブログのほうが非外来語のカタカナ表記が多く 現れることがわかる。非来語のカタカナ表記は、 若者語のように、現代の若者を中心に広まる傾向があると考えられるが、日常生活において、生活 用語として中年層まで広がることも見受けられ る。筆者が入手した若い世代〜40,50 代の読者を 対象とした生活誌に現れる非外来語のカタカナ 表記を調べた結果、副詞として用いられるオノマ トペなどの語彙は原語のひらがなで表記される ことが多い中でも、カタカナ表記の言葉は以下の ようなものがあった。 ・「特に女性は更年期を迎え、体調ががらりと変 わります。私の場合は 45 歳くらいにガクっと きましたね。」 ・「体のためにこれを食べたほうがいい、あの運 動がいい、シミやシワになるからこんな生活は ダメ……」 ・「お肌にハリがない」 ・「仕事や活動がテキパキ」 ・「何となくダラダラタイプ」 ・「モコモコした素材やスウェットは、スムーズ な寝返りや体温調節の妨げになる。」 ・「顔を斜め上に向け、ガラガラと音を出しなが ら、首を左右に動かして水うがいをする。」 ・「肩の力を抜いて腕をブラブラさせるだけの シンプルな体操です。」 ・「上半身はイヤイヤ運動」 ・ 「日常生活に取り入れるコツ」 ・ (材料)マグロ、青ネギ、ゴマ ・ 「花粉による鼻炎の薬など毎年必ず使用する薬 があれば、併せて買っておくのがオススメ。」 ・「15 分程度の短時間で目覚めスッキリ感を 得られますが、本人には寝落ちした自覚がなく、 周囲に指摘されて初めて気づくことが少なく ありません。」 『self doctor』Autumn,2018 上記の記事は複数の男性と女性の執筆者によ るものである。年齢は不明であるが、対象となる 読者は中年層と想定されるため、一般に若者雑誌 で多く見られる非外来語のカタカナ表記は比較 的に多く用いられておらず、原語であるひらがな による表記が多く用いられている。また、男性の 執筆者の原稿より女性の執筆者の原稿にカタカ ナ表記の使用が多く見られる。総じて見ると、生 活用語として定着している言葉、たとえば「シミ」 「シワ」「ハリ」「コツ」や素材名の「マグロ」 「ネギ」「ゴマ」以外、カタカナ表記の「勢い」 「感情の高ぶり」「音の響き」などの特徴を活か して、文字の表記の使い分けをしていると考えら れる。その中で、他のひらがな表記と比べ、言語 使用者のネガティブな気持ちや評価を含めた場 合はそれを目立たせるためにカタカナ表記が用 いられる傾向が見られる。 その他、もう1冊の若い世代〜中年層の女性対 象の生活誌に現れる非外来語のカタカナ語につ いて調べてみた。若者雑誌で多く用いられている 言葉のカタカナ表記は、ひらがなで表記されるも のが多い中で以下のよう言葉はカタカナで表記 されている。 ・「旨み成分である「コハク酸」が豊富に含まれ ている…」 ・「スープのポカポカ効果がスゴイ!!」 ・「鶏肉とかぶのコクうまポトフ」 ・「アレコレ使える!だししょうゆ」 ・「 サクサクチョコバー」 ・「シャキッとした食感とほどよい辛さで肉の旨 みを引き立てる…。」 ・「体温計などのピッピッという電子音など…」 ・「コートや上着は、花粉がつきにくいツルツル した素材のものを選ぶ。」 ・「とにくホクホク!煮崩れしやすいけど、その 溶けた感じが好みの人も。」 『くらし方録』Vol.2, 2019 上掲の用例の中で、専門用語以外のカタカナ表 記がほとんどオノマトペの言葉である。擬音語以 外の擬態語の言葉には、びっくりマークも付いて いることから言語使用者の驚きや意外な気持ち を込めていることがわかる。しかし、同じ文章に 現れる「とろ〜り」「ほっとする」「しっかり目 に」「しっとり」などの言葉は原語のひらがな表 記が用いられている。
5.日本語教科書に見る表記の実態
前述の村中・黎(2013)の研究では、5冊の日 本語初級教科書(1994 年〜2000 年頃に出版され たもの)に現れた外来語・カタカナ表記語のうち、 非外来語のカタカナ表記語を抽出し、考察した結 果、初級教科書にはオノマトペ、動植物の名前、 感動表現、強調表現のカタカナ表記があるものの、 大変少ない(25 語、約 3%)と述べられている。そ こで、今回は筆者が 2001 年〜2013 年に出版され た5冊の日本語初級教科書を新たに調べてみた。 非外来語のカタカナ表記(54 語)では、動物や海 産物(「ウナギ、タコ、カニ、イルカ」など 27 語) のほか、生活用語や食料品(「チラシ、ゴメン、 ズボン、ゴミ、なつバテ、ケータイ、リンゴ、イチゴ、クルミ、ミカン、ゴマ」など 12 語)がある。 その他、「コロコロ、ザーザー、ビュービュー、 ドキドキ、ヒリヒリ、フラフラ」などのオノマト ペは 15 語がある。近年、出版された初級の教科書 でも日常生活でよく用いられる非外来語のカタ カナ表記も導入されていることがわかる。 一方、村中・黎(2013)は中上級日本語教科書 7冊(2004 年〜2009 年頃出版)に現れた非外来語 のカタカナ表記の言葉を調べた結果、和語・漢語・ 混種語(「からオケ/空オケ」「だめ/駄目」など) でみると、和語(一番多いのは擬音語と擬態語、 約 36%を占める)をカタカナ表記したものが多く、 約 63%を占める。そして、画数の多い漢語、動植 物名、固有名詞等といった順になっていくと説明 した。今回は筆者が、上述の中上級日本語教科書 のほか、2006 年および 2015 年に出版された中上 級学習者向けの総合教材と読解教材の3冊を調 べてみた。特にエッセイや小説や新聞記事を素材 として多く用いられた読解教材の文章には、非外 来語のカタカナ表記の言葉(91 語)が多く見られ た。これらのカタカナ語は、初級教科書に見られ る言葉だけでなく、むしろ前掲の日常生活でよく 用いられる言葉に近づいていると見られる。以下、 いくつかの用例を示す。 ・「このラーメン、ヤバい。マジうまい。」 ・「若者は「誰もクルマナンテ買ってないや… じゃ、僕もやめよう」となる。」 ・「病気やケガも度々経験している。」 ・「先生にチクッたと言われたって、それはカッ コ悪いことじゃない。」 『読解厳選テーマ 10』 ・「なのに、その意識があまりないのは、「お茶」 はごちそうになっていいがコーヒーはダメ」と いう公務員倫理規程でも明らかである」 ・「…ハッと現実の世界へ引き戻されてしまった。」 ・「夫婦ゲンカはイヌモ食わない」 ・「いずれはラクして遊んでやるゾ」 ・「私はお天気屋だから店員が不親切だったり、 ブスッとした顔でいられるとカチンとくる。」 『日本語上級読解』 今回調査対象とした日本語教科書には、カタカ ナ語が現れるものの、本文の中でカタカナ表記に ついて特に説明がなされていないようである。非 外来語のカタカナ表記についての説明は、教員が 授業中に行うと考えるが、管見では非外来語のカ タカナ表記に対する詳しい説明は、これまでの先 行研究でしかなされていないと思う。
6.語彙の品詞の変化
若者語の特徴については、米川(1996)による と、若者語は会話の「ノリ」を楽しむために大げ さな表現(たとえば、強意語「すごい」)が多い という。言葉をいろいろ用いて細かく説明するよ り、視覚的または聴覚的な単語や表現を用いて瞬 間的に物事のイメージを伝えるほうが速く伝わ ると考えられる。また、桑本(2002)でも指摘さ れているように、若者語から「形態的派生形」「機 能の転換」「曖昧さ」という特徴が判明したとい う。本研究では、収集した用例を見ると、非外来 語のカタカナ表記は、比較的に若者雑誌(20 代〜 30 代)、ブログに多く現れることがわかった。 そして、非外来語のカタカナ表記は、和語や漢 語の表記の形態上の変化のみでなく、語彙によっ て品詞の変化も見られる。たとえば、以下のもの はその例である。 ・「簡単キレイが叶う!」 ・「チークの “ワカラナイ”」 ・「この春キレイを学びに」 ・「キッチン&冷蔵庫収納のスゴ技」 上記のカタカナ表記語は品詞の転換により動作 性や状態性の描写(形容詞)から同じ種類に属す る個々の事物の区別(固有名詞)へと転じると見 られる。また、形容詞の語幹と名詞で構成される 混種語もある。7.今後の課題
日常生活で用いられる非外来語のカタカナ表記 は、一見すると、その使用が恣意的なものでもある と考えられるが、通時的にみると、慣用的な用法が 存在しているということは否めない。なお、外国語 学習とは、その国の文化習慣、広く言えば言語生活、 人々の考え方などと深く関わっているものであるし、 学習ではしばしば生の素材を用いられることがある ため、日常多く見かけられる非外来語のカタカナ表 記の日本語学習への導入および説明が必要だと考え ている。そして、中上級の読み物として扱われるエ ッセイ、小説、記事などの文章でもこれらのカタカ ナ語がよく用いられることから、学習者の作文でも 主観的態度を表すこのような修辞的手法を活用する ことが期待できるのではないかと思われる。今後の課題として、日常よく用いられる非外来語 のカタカナ表記の用例を網羅的に収集し、その使用 頻度を見て分類し、日本語学習に取り入れる非外来 語のカタカナ表記の語彙リストを作成し、これらの 使い方についての説明を提言したい。