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進行性筋萎縮症成人患者の生活支援に関する一研究

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(1)

心身障害学研究室

Seminar of Education for the Handicapped

〈原

著〉

進行性筋萎縮症成人患者の生活支援に関する一研究

早船

聡・中村

勝二

A Study of Supports of Life for Adult Patients with Progressive Muscular Atrophy

Satoshi HAYAFUNE and Katsuji NAKAMURA

Abstract

The purpose of this research is to clarify the needs of living among adult patients with Progressive Muscular Atrophy (PMA) and to consider the proper support to meet their needs.

Six individuals with PMA were chosen as subjects for the case study. I interviewed the subjects in-dividually, investigating mainly their knowledge of PMA, age of becoming sick and the present condi-tions of their daily life, occupational life and leisure life within their life history.

The following points were found to be important;

1) Advancing the understanding of adult patients with PMA among supporters.

2) Improving the environment of facilities and institutions by adopting the ideas of the parties con-cerned.

3) Trying to revise laws and regulations in consideration of the characteristics of PMA. In the present condition, understanding and knowledge about the situation of those people is not nearly su‹cient. Above all, it is important that supporters (family, home helpers, volunteers and so on) who are concerned with them directly become persons of understanding and voices for them, and that they inform the society about their situation. Furthermore, it is necessary that adult patients with PMA work in society and deal with their problems by themselves.

Continuing these eŠorts will raise their understanding and knowledge, as well as support situations in which it is easy for them to live. Though these eŠorts require steady eŠort, they will help these people lead more fulˆlling lives than now, and will allow them to establish an independent and rich life.

は じ め に

今日,障害者が自立した生活をする場合,「自 らが生活の主体者として自己決定を下し,平等な 機会を均等に享受できるようにする」ことが一般 的な考え方となってきているが4)16),日本におい ては様々な側面においてそこまで到達できていな い17).そのような現状の中で障害者が自立した主 体的な生活をし,更にその生活を豊かなものにし ていくためには,様々な形での支援が今まで以上 に必要不可欠となる. しかし,一口に障害といってもその障害の種別 や程度,あるいは個々人によって抱えている問題 は多様であり,支援の内容も異なってくる.なか で も 進 行 性 筋 萎 縮 症 ( Progressive Muscular Atrophy,以降 PMA と略す)と総称される疾患 は,筋原性と神経原性に大別され,いずれの疾患 であってもその発症によって筋萎縮が進行する. その進行速度は,疾患の種類だけではなく個々人 によっても異なり,急速なものから緩徐なものま で大変幅が広い.しかも,進行速度に違いはあっ

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ても疾患の進行に伴って歩行,物を持つ,立ち上 がる,起き上がるなどの自力での行動が制限さ れ,最終的にはほとんどの行動ができなくなると いう困難な状態に陥る3).そのため,その時々の ニーズに応じた支援が必要となってくる. これまでの PMA に関する研究を概観すると, 医学的・医療的側面からのものが主流であり,特 に進行性筋ジストロフィーの小児型15)27),筋萎縮

性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis: ALS)5)などの進行が急速なものについては研究 が進んでいる.それらの研究の中でも生活に言及 している調査研究1)12)30)はいくつか見られるが, 医療側の立場からのものや進行が急速な疾患を中 心としたものが多い. しかし,疾患の進行が比較的緩やかな種類や型 に属する PMA の成人患者についての在宅生活及 び支援に関わる研究は,今のところほとんど見受 けられない.そのため,彼らの生活の実態を明ら かにしていくことは,彼らの生活支援を考えてい く一つの手がかりとなり,彼らに対する支援をよ り良いものにしていくためにも,必要かつ重要な ものであると考えられる.

.

研究の目的及び方法

本研究では,PMA 患者の中でも比較的進行の 緩やかな成人患者を対象として取り上げ,彼らの 疾患に伴う生活上のニーズを明らかにし,それを 手がかりとしてこれからの彼らの生活を充足して いくための支援について検討することを目的とし た. 対象として,筆者がボランティア活動を通じて 5 年間関わってきた者の中で,十分に信頼関係を 築くことのできた 6 名を抽出した.またその 6 名 は,三好型遠位型進行性筋ジストロフィー(Au-tosomal Recessive Distal Muscular Dystrophy以 降 ARDMD と 略 す ) が 1 名 , シ ャ ル コ ー ・ マ リ ー ・ ト ゥ ー ス 病 ( Charcot-Marie-Tooth Dis-ease以降 CMT と略す)が 4 名,進行性筋萎縮 症であるが詳細は不明というものが 1 名となって いる.障害の程度は身体障害者等級で 1 種 1 級か ら 1 種 3 級の範囲に属する. 方法として,対面式の自由面接(インタビュー) 法による聞き取り調査を行った. 聞き取りは,個別に自宅あるいは外出先で行い, PMA 患者の進行の程度や疲労などを考慮し,数 回に分けて実施した.併せて,状況に応じて E-Mail,手紙,電話などを活用した.また,自宅 での様子や外出先での行動をビデオにより録画 し,補足資料とした. 内容については,主に◯生活歴,◯疾患の認 識,発症年齢,◯日常生活,◯職業生活,◯余暇 生活などの点から聞き取りを行った. 今回の調査では対象者の内面に関わる問題もあ り,信頼関係を築くことが大変重要になってく る.そのため,平成 7 年から対象者が所属する T 進行性萎縮症協会(以降,T 協会と略す)の行事 や活動にボランティアとして参加し,またそれ以 外のプライベートな面(食事,外出,旅行など) でも積極的に関わり,信頼関係を深めた.そし て,本調査の趣旨を十分理解してもらった上で, 平成12年 6 月から 9 月中旬まで調査を実施した.

.

事例の概要

PMA の成人患者は,大きくは筋原性と神経原 性の 2 つに分類されている.筋原性では進行性筋 ジストロフィーの肢帯型(LGMD)や顔面肩甲 上腕型(FSHD),遠位型(DMD)などがあり, 神経原性ではシャルコー・マリー・トゥース病 (CMT)や筋萎縮性側索硬化症(ALS),脊髄性 進行性筋萎縮症(SPMA)などがある. そのような中で,本事例の疾患の種類をみてい くと,筋原性の ARDMD が 1 名(W・K),神経 原性の CMT が 4 名(S・T, T・Ka, T・Ke, M・ K)であり,PMA であるが詳細は不明というも のが 1 名(H・J)となっている.この 6 名のタ イプは,いずれも PMA の中では比較的進行が緩 やかなものに入る.障害の程度をみてみると,身 体障害者等級では 1 種 1 級に 4 名(T・Ka, H・ J, M・K, W・K),1 種 2 級に 1 名(T・Ke),1 種 3 級に 1 名(S・T)がそれぞれ属している. 次に疾患の発症年齢とその自覚についてみてみ ると,CMT という同じ病名であっても 2~3 歳

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頃に発症した事例から成人後に発症した事例まで おり,その時期には個人差があり大変幅が広い. また,進行が緩やかな疾患であるとされていて も,個人によって進行が早いものがいたり,遅い ものがいたりする.更には,発症が早くても進行 が緩やかであったため,歩行や階段の昇降の困難 さを感じ始めるのが比較的遅かったもの(S・T, T・Ka, T・Ke)と発症と同時期に自覚し始めた もの(H・J, M・K, W・K)とがおり,疾患の 発症や進行にかなりの個人差があることがわかる. そして,生活歴についてみてみると,ほとんど の事例は高校卒業後就職したり,結婚したりして いる.なかには,自衛隊に入隊後,疾患の進行に 伴い除隊し理容学校を卒業して就職したもの,大 学院に進学しセミナーで産業技術翻訳という仕事 の仕方を身に付け働いているものもいる.しかし ながら,現在でも働いているのはこのうちの 2 事 例(S・T, T・Ke)だけである.それ以外の事例 については,疾患の発症や進行に伴い退職した 後,在宅生活を送りながら外出や旅行に出かけた り(T・Ka, H・J, M・K),在宅と入院の生活を 何度か繰り返したが,現在は在宅で生活をしなが ら外出などをしたり(W・K)して日々を過ごし ている. 最後に現在の状況についてみてみると,全面的 な介助を必要とする事例(T・Ka, W・K)や一 部に介助を必要とする事例(T・Ke, H・J, M・ K),介助をほとんど必要としない事例(S・T) と個人差があるものの,いずれの事例もそれぞれ の方法を確立しながら積極的に外出や旅行などに 出かけている.しかし,今後介助を必要とする事 柄が増えていくことは明らかである.また,全て の事例が T 協会の会員であり,理事を務めてい るもの(T・Ka, T・Ke)もいる.なお,表 1 は 事例の概要についてまとめたものである.

.

事例の生活の現状

ここでは,聞き取り調査の結果を踏まえ,本事 例の生活の現状についてみていくことにする.一 口に生活といっても食事,家事,労働,買物,旅 行など様々な側面からとらえることができる.そ こで,本研究ではそれらの生活の側面を日常生 活,職業生活,余暇生活という 3 つの観点からと らえ,みていくこととする. なお,ここでいう日常生活は,人間が生きてい くために必要な食事,更衣,入浴,排泄などの身 辺処理,洗濯,掃除,料理などの家事,室内外の 移動などを指す.また職業生活は,生計を立てる ための仕事やそれに関わる業務及び移動などを指 す.そして余暇生活は,人間としての生活をより 充実させていくものとして考え,具体的には総理 府による世論調査報告書21)に準じ,テレビ等を視 聴する,休養する,地域活動・社会活動をする, 趣味を楽しむ,旅行に行く,ショッピングに行 く,友人・知人と過ごすなどといった範囲のもの を指す. ここでは,6 事例の中でも疾患が進行してお り,より多くの支援を必要としている T・Ka を 中心に取り上げ,みていくことにする. 1) 日常生活の現状 各事例の日常生活の現状は,あまり支援を必要 とせずほとんどの事柄を自力で行っている事例 (S・T)や一部の事柄(家事,更衣,入浴など) については支援を必要とする事例(T・Ke, H・ J, M・K),そして全面的な支援を必要とする事 例(T・Ka, W・K)と大変幅が広い.また,事 例によって支援が必要な場面が異ることや支援が 必要な場面が同じでも,支援の仕方が大きく異な るということがある. この点について T・Ka をみてみると,T・Ka はどの生活場面においてもほぼ全ての面に介助が 必要であり,多くの支援を必要としている.彼の 場合は公共住宅で 1 人暮らしをしているため,家 族による支援は期待できない.このような T・ Ka の生活支援の現状を図式化したものを図 1 に 示した.それによると T・Ka は,行政や民間で 行われているホームヘルプ,訪問看護,巡回入浴 などの介助者の派遣サービスを最大限に利用し て,生活を営んでいる.また,それでも足りない 部分については,ボランティアを学生や知人に依 頼して補っている. T ・ Ka の そ の よ う な 生 活 の 状 況 を ◯身 辺 処

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表 1 事例の概要(2000年 9 月30日現在) 対象者の属性 疾患の種別・障害の程度 疾患の認識・発症年齢 生 活 歴 1 S・T 男・40 同居者妻 東京都 E 区に在住 進 行 性 筋 萎 縮 症 シ ャ ル コー・マリー・トゥース 病 1 種 3 級(疾患による歩 行困難) 7~8 歳頃に発症(医師の診 断による). 25歳頃に症状を自覚し始めた. 33歳のときに医師により,現 病名を告知された. 都立高校卒業後,ラーメン店 に就職.25歳の頃に結婚した. 40歳の時にラーメン店を退職 し,運送会社の配送センターに 勤務.現在,T 協会会員.介助 はほとんど不要である. 2 T・Ka 男・52 同居者無 東京都 Ar 区に在住 進 行 性 筋 萎 縮 症 シ ャ ル コー・マリー・トゥース 病 1 種 1 級(シャルコー・ マリー・トゥース病によ る四肢体幹機能障害) 20歳以前に発症(医師の診断 による). 19~20歳の頃に,おかしいと 感じ始める. 24~25歳の頃に検査入院し, 現病名を告知された. 兵庫県立高校卒業後,自衛隊 に入隊.しかし,歩行困難にな ったことで除隊.その後,理容 学校に進学.都内理髪店で働く も,疾患のため退職. 現在,T 協会会員で理事を務 める.全面的に介助を必要とす る. 3 T・Ke 男・43 同居者母 東京都 Ad 区に在住 進 行 性 筋 萎 縮 症 シ ャ ル コー・マリー・トゥース 病 1 種 2 級(進行性神経性 筋萎縮症による四肢機能 障害) 2~3 歳の頃に発症(医師の 診断による). 14~15歳の頃,実際に歩くこ とが辛くなってきた. 10歳の頃,現病名が判明した. 都立高校卒業後,大学に進学 し,更に大学院に進学するも中 退.その後,家庭教師,塾の講 師などをする. 技術翻訳という仕事を知り, 請負うようになり,現在に至る. T 協会会員で理事を務める.一 部介助を必要とすることがある. 4 H・J 女・61 同居者夫,次女 東京都 Ar 区に在住 進行性筋萎縮症(型は不 明) 1 種 1 級(四肢体幹機能 障害による起立困難) 49~50歳頃に発症(医師の診 断による). 49~50歳頃に階段を登るのが 辛いと感じ始める. 51歳の時に検査入院し,現病 名の告知を受けた. 富山県立高校卒業後,まもな く結婚.長女出産後,TV 局で 働く.50歳頃に疾患が発症した ことにより退職し,在宅生活と なる. 現在,T 協会会員.一部介助 を必要とする. 5 M・K 女・56 同居者夫 東京都 Ar 区に在住 進 行 性 筋 萎 縮 症 シ ャ ル コー・マリー・トゥース 病 1 種 1 級(疾患による四 肢体幹機能障害) 20歳前後に発症(医師の診断 による). 20歳頃から身体の変化に気付 き始め,24歳の時にけがをした ことがもとで疾患が判明した. 41歳の時に現病名の診断を受 けた. 都 内私立 高校 卒業 後, 就職 (事務).結婚とともに退職. その後,様々なパートをする が,疾患の進行に伴い,30歳以 降は在宅生活となる. 現在,T 協会会員.一部介助 を必要とする. 6 W・K 女・49 同居者母 東京都 Ad 区に在住 三好型遠位型進行性筋ジ ストロフィー 1 種 1 級(四肢体幹機能 障害) 医師の診断による正確な疾患 の発症年齢は不明. 22~23歳の頃から身体の変化 に気付き始めた. 29歳の時に検査入院し,現病 名の診断を受けた. 都 内私立 高校 卒業 後, 就職 (事務).3 年後,疾患の発症に より退職. 在宅で通院をしながら 6 年間 過ごしたが,入院生活に切り換 える.しかし,47歳の時に再び 在宅生活に切り換える. 現在,T 協会会員.全面的に 介助を必要とする. 理,家事◯自宅での移動◯外出の 3 つの側面から みていくと,以下のようになっている. ◯ 身辺処理,家事 更衣,排泄,起床・就寝,入浴,家事につい ては全面的な支援が必要であり,先に挙げた サービスなどで派遣されてくる介助者やボラン ティアが支援にあたっている.また食事におい て,自宅では,スプーン,フォークなどを持て るようにする,皿の位置を動かすといった支援 が必要であり,飲み物は,ストローを使って飲 んでいる.外出先では介助者に全てを任せるこ ともある. ◯自宅での移動 自宅ではベッドから降りる時,車椅子へ乗る 時などに図 2 に示したような天井走行型リフ ターという機器を使用し,バリアの解消に役立

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図 1 T・Ka に対する生活支援の現状

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図 3 T・Ka に対する生活支援サービスの現状 てている.しかし,T・Ka はこの機器の操作 ができないため,介助者がいないときには移動 をすることができない.自宅はバリアフリー住 宅で間口が広く床もフラットにされており,電 動車椅子に乗れば移動は可能となる.ただし, 引き戸の開閉の介助や支援は必要である. ◯外出 移動手段としてもっぱら電動車椅子を使用す るため,乗用車やタクシーは利用せず,公共交 通機関を利用している.外出時に車椅子から降 りることはほとんどないが,降りる必要がある 場合には付き添いの介助者などの助けを借りる ことになる.ほぼ毎日のように外出するため, 1 人で出かけることも多い.しかし,ほとんど の場合は,ボランティアや友人などが 1 人から 2 人付き添いとして同行する. 図 3 は,T・Ka に対する生活支援サービスの 現状を図式化したものである.それによると,支 援者・介助者の派遣を受けていても週 3 回が上限 で 1 回あたりの時間が30分のもの(訪問看護)や 週何回でもよいが合計 6 時間を超えてはならない というもの(ホームヘルプ)などがあり,法規等 により時間や回数などを制限されている.そのた め,T・Ka が生活上の支援者を確保することは 容易ではない.また,表 2 は T・Ka が実際にそ れらのサービスを 1 週間でどのように運用してい るかを示したものである.この表からも生活支援 サービスによって派遣されている介助者は少な く,十分ではないことがわかる.そのため,夕方 や土日などには学生ボランティアや地域のボラン ティアに頼らざるを得ないのが現状である.これ らのことから,生活支援サービスだけに頼って支 援者を確保することは困難であり,T・Ka の生 活がまだ十分に充足されたものにはなっていない ことがうかがえる. また,行政サービスなどで支援者や介助者を確 保できたとしても,派遣側に一方的に介助者を決 定されてしまったり,毎回同じ人が来るわけでは ない.たとえ,毎回同じ人が来ていても,一定期 間を過ぎると人員の入れ替えが行われることがあ

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表 2 T・Ka の週間シフト る.そのため,それぞれの支援者との意志の疎通 や相互理解には,相当な努力をしなければならな い状況に置かれている. 仮に支援者を確保し外出できたとしても,外出 先では様々な物理的なバリアに遭遇することにな る.付き添い者の支援によって対処できる場合も あるが,数人の手助けやエレベーター,エスカ ル,車椅子用エスカレーターといった機器が必要 な場合がほとんどである.そのような機器があっ ても,エレベーター以外のものは係員に操作の依 頼をしなければ使用することはできない. このように T・Ka の日常生活を中心にみてき たが,それ以外の事例も「家族への負担が増加し てきた時に,家族以外の介助者をどのように入れ ていくかその兼ね合いが難しい」(H・J),「夫へ の負担が増してきた時にどのように対処していく かを考えていく必要がある」(M・K)と述べ, 介助者(支援者)にかかる負担の増大に不安を抱 いている.また,「筋萎縮が進行していったとき に住居の改造や建て直し,あるいはバリアフリー 住宅への引越しなどを考えなければならない」 (S・T, H・J, M・K)と述べており,将来的な 住居の問題についても危惧している.このような 日常生活の問題は,程度の差はあるものの各事例 が疾患の進行に伴って必ず直面していくものであ る. ) 職業生活の現状 各事例の職業生活の現状は,以下のように大き く二分される. 支援を受けずに働いている(S・T, T・Ke) 過去に働いていたが,疾患の発症や進行に伴っ て退職し,現在は働いていない(T・Ka, H・ J, M・K, W・K) T・Ka の場合をみていくと,現在は働いてい ないが,20歳から22歳までは東京都 S 区,22歳 から37歳までは同 Ar 区で理容師をしていた.S 区から Ar 区の理髪店に途中で移っているが,疾 患の進行によって階段の昇降が困難になったため だということである.また,37歳で退職した時は 自転車での通勤や長時間の立ち仕事が困難になっ てきていたことが大きな理由であったという.ま だ働きたい気持ちもあったが,店の主人から「十 分に頑張ったのだから,そろそろいいのではない か」と言われたことも退職を決心したきっかけと なっている. 一方,現在働いている 2 事例のうち T・Ke を みていくと,T・Ke は,産業技術翻訳という仕 事をしている.また,仕事の受注は仲介業者に依 頼し,電話,FAX, E-Mail を使用して行ってお り,通勤をせずに自宅で業務をこなしている. 仕事の内容をみていくと,英語あるいはロシア 語で書かれた特許明細書を日本語に翻訳する頭脳 労働であり,疲労のたまりやすい職業である.現 在 , T ・ Ke は 自 力 で 全 て の 作 業 を し て お り , ワープロ専用機,パソコン,語学辞書,専門辞典 などの機器・道具を駆使して翻訳をしている.し かし,「最近,重くて厚い辞書を扱うのが容易で はなくなってきた」と述べており,このことから

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将来的に作業が困難となって退職することが予想 される.T・Ke は,この退職後の経済面につい てどのように安定させていくかについて不安を抱 えている.しかし,それをうまく解消することが できていないのが現状である. このような職業生活の問題は,T・Ke に限っ て出てきているものではない.T・Ke は,疾患 の進行による退職やそれに伴う経済的な不安定に よって生活不安を増大させているが,現在働いて いる S・T も同様の状況に置かれている. ) 余暇生活の現状 各事例の余暇生活の現状をみてみると,自宅内 では音楽を聴いたり,テレビやビデオをみたり, インターネットをしたり,電話で話をしたりして いる.また,自宅以外では T 協会の活動や行事 に参加したり,友人宅にでかけたり,散歩をした り,コンサートなどに出かけたりしている. 支援をあまり必要としない事例(S・T, T・Ke) は,自由に自分のやりたいことを行っている.ま た,一部に支援を必要とする事例(H・J, M・K) や全面的に支援を必要とする事例(T・Ka, W・ K)も支援を受けながら自由に自分のやりたいこ とを行っており,その過ごし方を確立しているこ とがうかがえる. この点について T・Ka をみていくと,現在彼 は仕事をしていないため,自由に使える時間が豊 富にあり,頻繁に外出をしている.外出する時に は電動車椅子に乗り,公共交通機関を利用してい る.付き添い者が同行することもあるが,1 人で 出かけることも多い.介助や支援には,ヘルパー やボランティア,友人,出先の人々があたってお り,外出の際の物理的なバリアへの対処にも彼ら があたっている. こういった現状の中で T・Ka は,T 協会の理 事を務めながら会の活動や行事に参加している. また,居住地域の患者会に参加したり,施設に ワープロを教えに行ったり,日帰りで遊びに出か けたり,あるいは旅行に出かけたりもしている. そのような日々の生活の面からは,余暇生活が充 実 し て い る よ う に み え る . し か し , T ・ Ka は 「行く先々,その時々で支援が必要であり,その ための人材の確保が重要である」と支援者の確保 の重要性を指摘している. このように T・Ka の余暇生活を中心にみてき たが,その他の事例をみてみると T・Ka 同様に 出かける際の付き添い者や支援者の重要性を述べ ているもの(W・K)や,外出したくとも,介助 者に対する「申し訳ない,すまない」という気持 ちと自分自身の「外出したい」という気持ちの葛 藤があることを述べているもの(H・J)がいる. また,自力での外出や移動のできる事例(S・T, T・Ke)も,「今後移動をする上での困難に直面 したときに,住居の改築,改造,引越しなどを考 える必要がある.また,人的支援も必要となって くると思う.」と述べており,住居の問題や人的 支援の問題に考えを及ばせていることがうかがえ る.この住居や人的支援の問題については,H・ J や M・K も同様に述べており,既に支援を受け ながら生活をしている人々から情報の収集をした りもしているという. 以上ここでは,日常生活,職業生活,余暇生活 のそれぞれについて T・Ka を中心にみてきた. 疾患の進行の度合いによって生活状況は異なるも のの,各事例は生活全般について「介助・支援の ための人材が不足している」(W・K),「住居の 設備面での充実が必要」(S・T, H・J, M・K), 「介助・支援には相互理解が必要であり,そのた めの努力もお互いに必要」(T・Ka),「家族への 負担の増大とヘルパー等の介助者の導入との兼ね 合いを考える必要がある」(H・J, M・K),「退 職後の経済面を考える必要がある」(S・T, T・ Ke)という悩みや考えを抱えている.このよう な悩みや考えを抱えながら,それぞれの生活場面 や状況に応じてやりくりしてはいるものの,多く の課題や不安,葛藤を抱えており,生活が十分に 充足されているとはいいがたい.

.

全体的考察

) 事例における生活上の問題 本研究では,PMA 成人患者を対象として取り 上げ,生活をするためにどのように対処している のかを明らかにした.しかし,先に触れたよう

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に,必ずしも彼らの生活が充足したものであると はいえないのが現状である.そこで,ここでは, 彼らの生活の実態を踏まえながら,今後の生活に 関わる問題についてみていくこととする. 先に述べたように,各事例は家族,行政サービ ス,ボランティアなどの支援を得て,それぞれの 状況に合わせてやりくりをしながら生活をしてい る.しかし,それは多くの課題や不安,葛藤を抱 えながらの生活である. 例えば日常生活の場面をみてみると,これまで みてきた T・Ka や全面的な支援を必要としてい る W・K は,現在行政サービスなどによる支援 を最大限に活用している.しかし,これはあくま でも制度上の範囲の中でやりくりしているだけで あり,実際には介助者のいる時間帯が限られてい て「自分のやりたいことをやりたい時にできない」 ということや,制度上の制約から「福祉サービス による介助者を確保できない場合には自分で確保 しなければならない」といった問題が当事者から 挙げられている.そして,現在はやりくりができ ていても今後もうまくいく保障はない.これらの ことは,田端ら(1986)が以前から指摘してい る24)ことでもある. そのような状況であるにもかかわらず,T・Ka や W・K は「現状を維持していく」と述べてい る.根本的には,当事者に合わせて人材を派遣で きるように現行法が改正されることが望ましいと 考えられる.しかし,その実現をすぐには望めな い以上,友人・知人,ボランティアなどに頼らざ るを得ない.この 2 事例の場合,夕方や土・日の 日中の支援は主に J 医療短期大学または J 大学の 学生に依頼しているのが実情である.しかし,こ のようなボランティアだけに頼ることはきわめて 不安定であり,安心して生活を営むというわけに はいかない. この 2 事例に限らず,現在は家族の支援によっ て生活を営んでいる H・J や M・K,ほとんど支 援を必要とはしていない S・T や T・Ke につい ても同様のことがいえる.特に H・J や M・K の場合には,現在の支援の担い手である家族の高 齢化と自身の疾患の進行によって行政サービスに 頼らざるを得なくなり,T・Ka や W・K のよう な生活になることが予想される.そのため,先に 述べたような現行法の制約を考えると,どの程度 進行が進んだらヘルパーの導入をしていくことが 妥当かなどを検討し,情報を収集する必要がある. また,日常生活や余暇生活のいずれにおいて も,外出は豊かな生活を営んでいく上で欠かすこ とのできないものである.しかし,この外出の際 にも T・Ka, H・J, M・K, W・K は介助者や付 き添いを必要とする.現在彼らは,ホームヘル パーやガイドヘルパーを利用できるにもかかわら ず,家族,ボランティア,友人・知人と一緒に行 動することがほとんどである.これは,先に述べ たような法的な制限によって長時間の外出,ある いは旅行などができないためであり,それらの人 々に頼らざるを得ない.そして,飯田(1992)の 指摘6)や T・Ka が「自分の介助を円滑に進めて もらうためには,自分自身を知ってもらうことと 介助者を知ることが必要」と述べているように, 介助を担う人々との相互理解ができているかいな いかで生活も左右される. これらのことから,彼らが生活を営んでいく上 で介助者を確実に確保することは,大変重要な位 置を占めていると考えられる.また,ボランティ アや周囲の友人・知人だけに頼る生活は,決して 望ましい生活状況であるとはいえない. 全ての生活場面において,S・T, T・Ke, H・J, M・K の 4 事例は,今後更に増え続ける自宅内 や自宅以外の物理的なバリアについて対処してい かなければならない.自宅に関しては,車椅子か らベッドへの移動,あるいはトイレの便座や浴槽 などへの移動といった用途に応じた福祉機器を設 置する(W・K),様々な移動の際に使用できる 福祉機器が設置されている住居へ引っ越す(T・ Ka),現在の自宅を改造するといった方策が考え られる.しかし,「福祉機器自体に自立の要素が 欠けている」7)という指摘や,「住環境整備に関連 する福祉的制度を利用するには所得制限や受付期 日の指定など種々の条件があり活用しにくい」18) という指摘があることから,それに取り掛かる時 期も含めて慎重に検討しなければならない.

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図 4 PMA 成人患者の就労に関する現状と問題点 また,外出した際のバリアについては,平成12 年版障害者白書23)の報告をみてみると,公共交通 機関であってもその整備率はあまり高いとは言え ない.また,ハートビル法(平成 6 年)や交通バ リアフリー法(平成12年)が公布・施行されたも のの,まだ全ての官公庁や公共交通事業者,道路 管理者において改修等が実施されているわけでは ない22)23).そのため,いまだに外出先で介助を依 頼したり付き添いを伴ったりしなければならず, その際の人材の確保も課題となってくる.そし て,改修が実施されていても当事者の意見が取り 入れられていないものが多いという指摘11)もある. T・Ka, H・J, M・K などが行っている「障害者 が住みやすい街にするための活動」のような当事 者達によるサービス提供側への働きかけだけでは なく,当事者の意見を積極的に取り入れるという サービス提供側の努力も必要である. そして,職業生活の場面をみてみると,現在働 いている S・T, T・Ke の 2 事例が他の事例と同 様に退職せざるを得ない状況に至ることが予想さ れる.そのため,まだ身体を動かせる時に退職後 の生活をどのようなものにしていくかを考え,事 前に準備しておく必要がある. 図 4 に PMA 成人患者の就労に関する現状と問 題点を示した.これによると,現在の日本では障 害者の雇用の状況は厳しいものがある.また, PMA の特性を考えると,身体を動かせない状態 での再就職はかなり困難であるといわざるを得な い.更に,現行法には障害者が労働する際の実務 上の支援に関する規定はないため,疾患が進行し ながらも仕事を継続するということはできない. たとえ,T・Ke のように専門知識を身に付けて いても,身体を動かせなくなった時には介助を担 う人材を確保しない限り,仕事を継続していくこ

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とは困難となる.しかし,現行法では仕事を遂行 していく上でヘルパーを利用することはできない ため10),支援を望むことはできない. このように,働きたくても様々な制約によって 働き続けられない状況に置かれてしまうことは, 人間らしく生きていく上で望ましい状態にあると はいえない. ここまでみてきたように,事例において生活を する上での対処の過程には様々な問題が生起して おり,また生起することが予想される.具体的に みていくと,以下の 4 点にまとめられる. ◯ 全ての生活場面における介助者の確実な確 保とその人々との相互理解について ◯ 住居の改造,増改築,引越し及び福祉機器 の設置の検討について ◯ 外出時の公共施設・設備等の改善について ◯ 職業の継続と再就職についての検討と退職 後の生活の安定について これらの問題は,三ツ木11)(1991)が指摘して いるように,当事者だけが関わっている問題では なく,彼らに関わる全ての人々の問題として考え る必要がある.つまり,国,地方公共団体,交通 関係事業者,介助に携わる人々の問題でもあると いうことである.一つ一つのことを改善していく ことは大変重要なことであるが,改善する側が当 事者の意見を取り入れない限り,これまでと同じ ことを繰り返すだけであり,改善ではなく改悪に なりかねない.また,北野(1993)や齊場(1999), 愼(1993)の指摘9)18)20)にあるように関係部署や 関係者が相互に連携を取っていく必要があろう. ) PMA 成人患者の生活を充足するための支 援について 1)で事例にみられる生活上の問題として 4 点を 挙げた.これらを総合して考えると,以下の 3 点 にまとめることができる. ◯ 生活上の介助者の確実な確保とその人々と の相互理解 ◯ 自宅及び外出先の物理的バリアの解消とそ のための検討 ◯ 就労に関する検討 他にも福祉機器の使いやすさや金額に関する問 題,日本社会全体における心のバリアの解消につ いての問題点などが挙げられるが,特に上記の 3 点について一つ一つ丁寧に対応していくことが彼 らの生活を充足していくことにつながると考えら れる. まず,◯の介助者の確保については,先に述べ たように T・Ka, W・K は,土・日・祝日の介助 者の確保に苦労している.これは,「ホームヘル パーの設置の在り方が自治体によってまちまちの ため,地域格差を生んでいる」26)という指摘や, 「生活関連制度・施策の利用のしづらさの問題や 看護・介護等のサービス及び社会資源の日常生活 圏における絶対的・慢性的不足,不備の問題があ る」13)という指摘もあるように現行法では必ず生 起する問題である. 個々人に合わせたヘルパー派遣の上限時間の設 定や,地域格差の是正といった新たな取り組みを 行うことが望ましいと考えられる.しかし,その 実現がいつになるのかわからない以上,別の手立 てを考えて生活をしていかなければならない. 先に挙げた 2 事例は,サービス以外の人材確保 の手段として,ボランティアの依頼を学生にして おり,彼らへの働きかけや広報活動を行ってい る.これは,自分を知っている人に介助を依頼で きるという点で良い方法であり,重要である.し かし,学生たちだけではなく居住地域の役所の福 祉課や社会福祉協議会へ働きかける事も重要であ る.そして,これらの様々なボランティアを併行 して利用していくことで,人手の足りない部分を 補うことが可能になると考えられる. 次に,介助者との相互理解についてであるが, PMA の疾患の特性から個人差はあるものの必ず 介助者が必要となってくる.その介助者が近親者 あるいは当事者を良く知っている人物であれば, 相互理解を図る上ではあまり問題はない.また, 行政サービスによって派遣されるヘルパーの場合 でも,一部の自治体では選択できるようになって きている8)という報告もある. しかし,横須賀(1993)の指摘29)にもあるよう に,多くの場合行政側が派遣するヘルパーを一方 的に決定してしまうため,介助者との相互理解を

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図っていくことは大変重要なものとなってくる. T・Ka は,「一週間につき,延べ10人以上もの介 助者が日替わりで来るため,自分自身を全員に理 解してもらうことはかなり難しい」と述べてい る.また,「派遣されてくるヘルパーさんが定期 的に変わるため,そのたびに理解してもらうため の努力をしなければならない」とも述べており, ヘルパーを導入した後の当事者自身の努力も要求 される. 小川(1991)の報告14),横須賀(1993)の指 摘29)にもあるように,福祉の先進国に比べて,日 本はまだ障害をもつ人々がイニシアティブをもっ て生活できる環境が整備されていない.そのた め,米国や北欧などで実施され始めている介助 者・介護者を必要とする側が雇用できる制度へと 改善すべく全面的な法の見直しを図っていくこと が望ましい. 次に◯の自宅及び外出先の物理的バリアの解消 とそのための検討についてみてみると,自宅のバ リアの解消については在塚(1995)の指摘2)にあ るように,現行法では身体状況が変化した場合の 対応策がないのが現状である.住居の改造や福祉 機器の設置などに費用がかかっても,その助成の ための給付金額が低い,自治体によってはその給 付が一度だけしか認められないということもあ る6).このような場合,自力でできることが減少 していく PMA 成人患者は,先を見越して対処を するかぎりぎりまで待つかの二通りしか選択肢が ない.しかし,自分の身体の状況に合わせて環境 を変えていくことの方がより人間的であり,望ま しい状況である.そのためには,身体状況の変化 に応じて生活のための対策を立てられるように法 規を見直していくことが必要不可欠である. また,外出時の物理的なバリアについては,先 に触れたように現行法によって,「官公庁や各公 共交通機関の公共建築物は高齢者や障害を持つ人 であっても使えるようにしなければならない」と されている.しかし,平成12年版障害者白書の報 告22),多田(1999)の指摘25)にあるように,整備 を今まで以上に積極的に推進し改修等を進めて行 く必要がある.更に,齊場(1999)の指摘19)にあ るように,当事者の視点に基本を置いてそれらの ことを実施していく必要もある. また,井内(1993)の報告8)や時田(1993)の 指摘28)にもあるように,当事者による各公共機関 への働きかけは,現行法の下ではきわめて重要な 位置を占めていると考えられる.しかし,このよ うな状態が続くことは決して望ましい状態にある とはいえない.当事者に指摘されなければ改修な どが行われない現状をいかに変革していくかも合 わせて考えていく必要がある. 最後に◯の就労に関する検討についてみると, ま ず 就 労 に つ い て は 先 に 述 べ た よ う に , 特 に PMA 成人患者にとっては厳しいのが現状であ る.以前の S・T のように家業を手伝うことも一 つの手段であり,T・Ke のように専門知識を身 につけそれを生かせる仕事をすることも一つの手 段であると考えられる.しかし,PMA 成人患者 の全てにそれを求める事はきわめて難しい.個人 個人の身体の状態や周囲の環境などに応じて考え ていかなければならない. 彼らにとって,疾患の進行に伴って退職すると いうことは,その後の生活の不安定を意味するこ とに他ならない.これは障害の有無に関わらずい えることである.健常者には定年退職後であって も再就職のチャンスは少なからずある.しかし, できることが減少するような PMA 成人患者に は,そのチャンスはほとんどない.このことは, 彼らにとって望ましい状況にあるとはいえない. また,生活の安定という面からみると,身体障 害者は現行法において生活を保障されている10) しかし,これは重度障害者と認定された人々に対 しての措置であり,軽・中度の障害者が厚遇され ているとはいえない.また,愼(1993)の指摘20) にもあるように,その給付金額で十分な生活を営 んでいくことは難しい. これらのことから,彼らの疾患の特性を踏まえ た上で,働く際の介助者を派遣できるような法の 整備,職場の人々の意識改革によって労働環境を より良いものにする努力も必要であろう.また, 疾患に起因する定年前退職に対する生活の安定の 保障をしていくことも必要となろう.

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以上ここでは,PMA 成人患者の生活を充足し ていくための支援についてみてきた.これらのこ とから彼らの生活を充足していくためには,以下 のような様々な側面からの支援が必要と考えられ る. ◯ 支援者の PMA 成人患者に対する理解を促 進していくこと. ◯ 当事者の意見を取り入れた施設・設備等の 環境改善を行うこと. ◯ PMA という疾患の特性に配慮し,法規の 見直しを図ること(特に支援者の確保,就労 の保障,生活の安定に関するものについて). これらの 3 点は,それぞれが重要であるだけで はなく,様々な場面で有機的なつながりを持つこ とで,彼らの生活をより自立した豊かなものへと 変えていくことができる.そして,生活が豊かに なることが生活の質,更には人生の質を向上させ ることにもつながっていき,より充実した人間ら しい生活を可能にしていくものと思われる. しかしながら,現状において当事者に支援をし ていく場合,支援側の努力だけでは彼らに対する 理解や働きかけには限界があり,十分な支援がで きるとは言い切れない.彼らに対する支援がより 意味のある充実したものとなるためには,当事者 自身による訴えや働きかけを行っていくことが重 要であり,必要不可欠である.

本研究では,PMA 成人患者 6 名を対象にイン タビュー調査を実施し,彼らの疾患に伴う生活上 のニーズを明らかにした.また,それを手がかり として彼らのニーズに対応した支援について検討 した.聞き取りの結果,現行法では人材を確保す るのに限界がある,介助者が定まっていないため 相互理解を図ることが困難である,退職後の生活 不安が増大する,住居の設備面を充実するのに法 的な制約があるなどの問題が明らかとなった. これらの問題を解消していくためには,以下の ような様々な側面からの支援が必要であると考え られた. ◯ 支援者の PMA 成人患者に対する理解を促 進していくこと. ◯ 当事者の意見を取り入れた施設・設備等の 環境改善を行うこと. ◯ PMA という疾患の特性に配慮し,法規の 見直しを図ること(特に支援者の確保,就労 の保障,生活の安定に関するものについて). これらの支援の中でも,法規の見直しや施設・ 設備等の環境改善は,長期的視野に立って推し進 めていかなければその達成は難しい.しかし現状 における PMA 成人患者の置かれている状況につ いての理解・認識はなお十分ではない.そのため には,何よりもまず彼らに直接関わる支援者(家 族,ホームヘルパー,ボランティア等)が彼らの 良き理解者となり,代弁者となって社会に発信し ていくことが重要である.そしてまた,PMA 成 人患者自身が自らの問題として社会に働きかけて いく自助努力も必要であろう. このような努力の積み重ねは,社会の理解・認 識を高め,更には彼らにとって生活のしやすい状 況を作り出していく第一歩となろう.その取り組 みは地道なものではあるが,彼らの生活をより豊 かなものとし,自立した生活の確立や豊かな人生 の実現につながっていくものと考えられる. 参 考 文 献 1) 阿部和俊在宅療養の現状と今後のありかた―生 活の面から,厚生省筋ジストロフィーの療養と看護 に関する臨床的,社会学的研究班在宅療養・看護分 科会編,筋ジストロフィー在宅医療の手引き(改訂 版),4046,厚生省精神・神経疾患研究班,(1996) 2) 在塚礼子バリアフリーをめざす居住環境―高齢 者・障害者の在宅・地域生活を可能にする条件整 備,社会福祉研究,63, 814, (1995) 3) Emery, A. E. H.述,貝谷久宣訳筋ジストロフ ィー―いま筋ジストロフィー患者の生活と治療を見 直 す , 第 1 版 , ラ イ フ リ サ ー チ か ま わ ぬ 書 房 , (1996) 4) Frieden. L.述,小沼順子訳米国における障害 者政策―自立生活運動に関連して―,リハビリテー ション研究,92, 1116, (1997)

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5) 八瀬善郎筋萎縮性側索硬化症(ALS)の在宅治 療,日本医師会雑誌,112, (7), 947949, (1994) 6) 飯田精一対人援助サービスの流儀, 川崎医療福 祉学会誌,2, (1), 16, (1992) 7) 伊東弘泰福祉機器のはたす役割と現状,月間福 祉,74, (4), 3035, (1991) 8) 井内ちひろ交通機関アクセス運動―TRY の活 動から―,定藤丈弘,岡本栄一,北野誠一編,自立 生活の思想と展望,初版,158172,ミネルヴァ書 房,(1993) 9) 北野誠一障害者の自立生活と自立生活支援,定 藤丈弘,佐藤久夫,北野誠一編,現代の障害者福祉, 4974,有斐閣,(1996) 10) 厚生省障害保健福祉部監修身体障害者福祉編, 注解社会福祉六法(追録第334号),5711184,第一 法規出版,(1997) 11) 三ツ木任一障害者の自立と社会参加,月間福祉, 74, (4), 2429, (1991) 12) 長嶺道明筋ジストロフィー患者の家庭生活―家 庭における問題点と解決法(成人患者),厚生省筋 ジストロフィーの療養と看護に関する臨床的,社会 学的研究班在宅療養・看護分科会編,筋ジストロフ ィー在宅医療の手引き(改訂版),8184,厚生省精 神・神経疾患研究班,(1996) 13) 野田哲郎社会福祉サービス提供システムに果た す当事者団体の役割,ソーシャルワーク研究,19, (4), 276281, (1994) 14) 小川政亮民主主義と措置と社会福祉サービス 北欧・ドイツで見た介護と福祉,みんなのねがい, 372, 2025, (1999) 15) 大澤真木子筋ジストロフィー,福山幸夫編,小 児の運動障害―筋ジストロフィー症と脳性麻痺を中 心に―,第 1 版第13刷(増補),45110,医歯薬出 版,(1999) 16) 定藤丈弘障害者福祉の基本的思想としての自立 生活理念,定藤丈弘,岡本栄一,北野誠一編,自立 生活の思想と展望,初版,221,ミネルヴァ書房, (1993) 17) 定藤丈弘スウェーデンの身体障害者の自立と介 助,ノーマライゼーション障害者の福祉,188, 38 41, (1997) 18) 齊場三十四わが国の住環境・街空間整備,バリ アフリー社会の創造,61100,明石書店,(1999) 19) 齊場三十四バリアフリー概念の理解のために, バリアフリ ー社会の 創造,189 191 ,明石 書店, (1999) 20) 愼英弘障害者の自立と所得保障,定藤丈弘,岡 本栄一,北野誠一編,自立生活の思想と展望,初版, 195212,ミネルヴァ書房,(1993) 21) 総理府編国民生活に関する世論調査報告書,大 蔵省印刷局,(2000) 22) 総理府編住みよい環境の基盤づくり,平成12年 版障害者白書,239273,大蔵省印刷局,(2000) 23) 総理府編高齢者・障害者等のための公共交通機 関 施 設 整 備 等 の 状 況 , 平 成 12 年 版 障 害 者 白 書 , 368,大蔵省印刷局,(2000) 24) 田端光美,菊地信子障害者の介護・介助ニーズ の実態と特徴―東京都 A 区における実態調査から, 社会福祉,26, 7996, (1986) 25) 多田善隆鉄道駅のバリアフリー化について, JREA, 42, (1), 2588525887, (1999) 26) 高橋流里子,高橋五江ホームヘルパーの専門性 の検討(1)サービスの有機的統合について,日本 社会事業大学研究紀要,38, 4772, (1992) 27) Tinsley, J. M., Potter, A. C., Phelps, S. R., Fisher,

R., Trickett, J. I., Davies, K. E.: Amelioration of the dystrophic phenotype of mdx mice using a truncated utrophin transgene, Nature, 384, (28), 349353, (1996) 28) 時田和明障害者の自立と移動について,定藤丈 弘,岡本栄一,北野誠一編,自立生活の思想と展 望,初版,150157,ミネルヴァ書房,(1993) 29) 横須賀俊司障害者の介助制度,定藤丈弘,岡本 栄一,北野誠一編,自立生活の思想と展望,初版, 107128,ミネルヴァ書房,(1993) 30) 吉岡恭一筋ジストロフィー患者の家庭生活―成 人患者の就職上の問題点,厚生省筋ジストロフィー の療養と看護に関する臨床的,社会学的研究班在宅 療養・看護分科会編,筋ジストロフィー在宅医療の 手引き(改訂版),8488,厚生省精神・神経疾患研 究班,(1996)

平成13年12月 6 日 受付 平成14年 2 月20日 受理

表 1 事例の概要(2000年 9 月30日現在) 対象者の属性 疾患の種別・障害の程度 疾患の認識・発症年齢 生 活 歴 1 S・T 男・40 同居者妻 東京都 E 区に在住 進 行 性 筋 萎 縮 症シ ャ ルコー・マリー・トゥース病1種3級(疾患による歩行困難) 7~8 歳頃に発症(医師の診断による).25歳頃に症状を自覚し始めた.33歳のときに医師により,現病名を告知された. 都立高校卒業後,ラーメン店に就職.25歳の頃に結婚した.40歳の時にラーメン店を退職し,運送会社の配送センターに勤務.現在
図 1 T・Ka に対する生活支援の現状
図 3 T・Ka に対する生活支援サービスの現状てている.しかし,T・Kaはこの機器の操作ができないため,介助者がいないときには移動をすることができない.自宅はバリアフリー住宅で間口が広く床もフラットにされており,電動車椅子に乗れば移動は可能となる.ただし,引き戸の開閉の介助や支援は必要である.◯外出移動手段としてもっぱら電動車椅子を使用するため,乗用車やタクシーは利用せず,公共交通機関を利用している.外出時に車椅子から降りることはほとんどないが,降りる必要がある場合には付き添いの介助者などの助けを借りる
表 2 T・Ka の週間シフト る.そのため,それぞれの支援者との意志の疎通 や相互理解には,相当な努力をしなければならな い状況に置かれている. 仮に支援者を確保し外出できたとしても,外出 先では様々な物理的なバリアに遭遇することにな る.付き添い者の支援によって対処できる場合も あるが,数人の手助けやエレベーター,エ スカ ル,車椅子用エスカレーターといった機器が必要 な場合がほとんどである.そのような機器があっ ても,エレベーター以外のものは係員に操作の依 頼をしなければ使用することはできない. この
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