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2010 年 12 月 20 日提出 経済 政治開放期のマレーシアにおけるメディアと政治 オルタナティブ メディアを通じたメディアの自由化 研究科 / 国際協力研究科専攻 / 国際協力政策専攻指導教員 / 片山裕学籍番号 / 001i101i 氏名 / 伊賀司

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Academic year: 2021

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Kobe University Repository : Thesis

学位論文題目

Title

経済・政治開放期のマレーシアにおけるメディアと政治 ─オルタ

ナティブ・メディアを通じたメディアの自由化

氏名

Author

伊賀, 司

専攻分野

Degree

博士(政治学)

学位授与の日付

Date of Degree

2011-03-25

資源タイプ

Resource Type

Thesis or Dissertation / 学位論文

報告番号

Report Number

甲5132

権利

Rights

JaLCDOI

URL

http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/D1005132

※当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

PDF issue: 2018-12-11

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2010 年 12 月 20 日提出

経済・政治開放期のマレーシアにおけるメディアと政治

――オルタナティブ・メディアを通じたメディアの自由化――

研究科 / 国際協力研究科 専攻 / 国際協力政策専攻 指導教員 / 片山裕 学籍番号 / 001i101i 氏名 / 伊賀司

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総目次 図一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ⅳ 表一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ⅴ 略語一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ⅵ はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 第一節 主流メディアかオルタナティブ・メディアか―マレーシアにおけるメディアの統 制と自由化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 第二節 本研究の対象、貢献、調査手法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 第三節 本稿の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 第二章 体制移行期におけるメディアの自由化モデル・・・・・・・・・・・・・・・・・12 第一節 メディアを分析対象とする際の想定と定義・・・・・・・・・・・・・・・・・12 第二節 民主化研究におけるメディアの自由化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 第三節 メディアの自由化モデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 第一部 BN 体制下のメディア統制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 第三章 マレーシアの政治体制とメディア統制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 第一節 BN 体制とメディア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 第二節 BN 体制下のメディア統制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 第三節 政府の情報通信技術への対応とレフォルマシ運動・・・・・・・・・・・・・・65 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70 第四章 主流メディアとUMNO の党内政治―NSTP の企業再編とグループ編集長人事 ・・・・・72

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第一節 New Straits Timesの誕生 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74 第二節 UMNO 内の権力闘争と NSTP の企業再編・・・・・・・・・・・・・・・・・77 第三節 グループ編集長人事と政治・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89 第五章 華語紙と政治―『南洋商報』をめぐる政治権力、ビジネスと華人社会・・・・・93 第一節 『南洋商報』と華人社会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93 第二節 MCA による『南洋商報』買収の政治的背景・・・・・・・・・・・・・・・・101 第三節 華語紙業界の再編と新世代の社会運動の登場・・・・・・・・・・・・・・・・111 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・119 第二部 オルタナティブ・メディアを通じたメディアの自由化・・・・・・・・・・・・・123 第六章 BN 体制下のオルタナティブ・メディア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・123 第一節 NGO とオルタナティブ・メディア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・124 第二節 野党とオルタナティブ・メディア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130 第三節 独立系ジャーナリスト/企業家とオルタナティブ・メディア・・・・・・・・・137 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・146 第七章 インターネットによるジャーナリズム復興と市民ジャーナリズムの可能性―マレ ーシアキニとブログに焦点を当てて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・148 第一節 体制移行期にある諸国でのインターネットをめぐる論点・・・・・・・・・・・148 第二節 マレーシアキニのインパクト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・153 第三節 アブドゥラ政権下のブロガー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・162 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・169 第八章 2008 年総選挙にみるオルタナティブ・メディアと新世代の台頭・・・・・・・・171 第一節 BA から PR へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・171 第二節 2008 年総選挙と主流メディアへの不信の高まり・・・・・・・・・・・・・・175 第三節 「若年層」による新たなメディア利用の実態・・・・・・・・・・・・・・・・182 第四節 2008 年総選挙における野党のオルタナティブ・メディアの活用・・・・・・・189 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・196

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第三部 マレーシアにおけるメディアの自由化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・197 第九章 主流メディアの変容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・197 第一節 主流メディア内部からのメディアの自由を求める運動・・・・・・・・・・・・198 第二節 アブドゥラ政権下の主流メディア[Ⅰ]―「規範」の変化と「法」の運用の変調 ・・・・・205 第三節 アブドゥラ政権下の主流メディア[Ⅱ]―「市場」競争と「テクノロジー」がもた らしたもの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・209 第四節 主流メディアのジレンマ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・214 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・216 終章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・218 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・224

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図一覧 図1 政治学上の研究対象としてのメディアの捉え方・・・・・・・・・・・・・・・・・14 図2 カランの「民主的なメディア・システム」のモデル・・・・・・・・・・・・・・・17 図3 体制移行期の自由なメディア・システム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 図4 レッシグの規制に関する 4 つのモード・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 図5 メディアの自由化のモデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 図6 90 年代のNSTとStarの発行部数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82 図7 2008 年のアセアン諸国の 100 人当たりの推計ネット・ユーザー数・・・・・・・・149 図8 マレーシアの推計ネット・ユーザー数(1999 年から 2008 年)・・・・・・・・・・・150 図9-1 2008 年選挙期間中の日刊紙の報道-記事とコラムの数・・・・・・・・・・・・174 図9-2 2008 年選挙期間中の日刊紙の報道-記事とコラムのスペース・・・・・・・・・174 図10 2008 年選挙期間中の ntv7 の午後 8 時の選挙ニュースの報道時間・・・・・・・・175 図11-1 選挙期間中に信頼を置いていたニュース・ソース・・・・・・・・・・・・・・・177 図11-2 選挙期間中に信頼を置いていたニュース・ソース(インターネット・アクセス可能な 人と不可能な人の違い)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・178 図12 選挙期間中のメディアの報道のバイアス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・178 図13 主流メディアに対する評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・179 図14 2008 年のマレーシアの人口構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・181 図15 20 歳から 35 歳までのマレーシア人が政治報道や事件報道で、どの程度主流メディアを 信頼するか(2008 年)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・182 図16 世代ごとのメディアの信頼(ネット調査)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・183 図17 住民 100 人当たりの固定電話と携帯電話の契約者数・・・・・・・・・・・・・・188

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表一覧 表1 主流メディアとオルタナティブ・メディアの理念型・・・・・・・・・・・・・・・32 表2-1 2004 年総選挙でのテレビ各局のニュース・プログラムの報道・・・・・・・・・・40 表2-2 2004 年総選挙での日刊紙の報道・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 表3 メディア規制法の適用の段階・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 表4 BN 体制下の歴代内務大臣(国内治安大臣)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 表5 2008 年段階での主要メディア企業のオーナーシップ・・・・・・・・・・・・・・・54 表6 2010 年 9 月 30 日時点でのメディア・プリマの主要株主・・・・・・・・・・・・・80 表7 『南洋商報』と『星洲日報』の発行部数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・96 表8 『南洋商報』と『星洲日報』の読者数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・97 表9 90 年代半ばのマレー半島部の 2 大華語紙グループ・・・・・・・・・・・・・・・・97 表10 主要政党の 1995 年と 1999 年の総選挙結果(下院と州議会)・・・・・・・・・・・100 表11 2008 年時点でのアセアン諸国のインターネットをめぐる状況・・・・・・・・・・149 表12 1999 年、2004 年、2008 年連邦下院議員選挙の各党の獲得議席数・・・・・・・・170 表13 年齢別のインターネット・ユーザーの割合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・182 表14 都市と農村の間のネット・ユーザー比率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・184 表15 州ごとのネット・ユーザーの割合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・185 表16 ネット・ユーザーの職業構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・185 表17 インターネットを使って何をしているのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・186 表18-1 メディアの広告費 1993 年、1997-2002 年・・・・・・・・・・・・・・・・・・208 表18-2 メディアの広告費 2003-2008 年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・209

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略語一覧

ABIM(マレーシア・イスラーム青年隊、Angkatan Belia Islam Malaysia) BA(代替戦線、Barisan Alternatif)

Bersih(清廉で公正な選挙のための連合、Gabungan Pilihanraya Bersih dan Adil) BN(国民戦線、Barisan Nasional)

BR(人民戦線、Barisan Rakyat)

CIJ(独立ジャーナリズム・センター、Center for Independent Journalism) DAP(民主行動党、Democratic Action Party)

EPF(被雇用者退職積立基金、Employees Provident Found) HINDRAF(ヒンドゥー権利行動隊、Hindu Rights Action Force) ISAI(情報の自由流通研究所、Institut Studi Arus Informasi) ITU(国際電気通信連合、International Telecommunication Union)

KAMI(独立メディア活動家グループ、Kumpulan Aktivis Media Independen) MCA(マレーシア華人協会、Malaysian Chinese Association)

MCMC(マレーシア・コミュニケーション・マルチメディア委員会、Malaysian Communications and Multimedia Commission)

MDLF(メディア発展融資基金、Media Development Loan Fund) MIC(マレーシア・インド人会議、Malaysian Indian Congress) MPI(マレーシア・プレス協会、Malaysian Press Institute)

MRCB(マレーシアン・リソーシーズ・コーポレーション、Malaysian Resources Corporation Bhd)

MSC(マルチメディア・スーパー・コリドー、Multimedia Super Corridor) MTUC(マレーシア労働組合会議、Malaysian Trade Union Congress) NEP(新経済政策、New Economic Policy)

NST(ニュー・ストレーツ・タイムズ、New Straits Times) NOC(国家運営会議、National Operations Council)

NOSCA(オーストラリア・留学生共同体ネットワーク、Network of Overseas Student Collective in Australia)

NUJ(全国ジャーナリスト連盟、National Union of Journalist) PBS(サバ団結党、Parti Bersatu Sabah)

PAP(人民行動党、People’s Action Party) PKN(国民公正党、Parti Keadilan Nasional)

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PKR(人民公正党、Parti Keadilan Rakyat)

PAS(汎マレーシア・イスラーム党、Parti Islam SeMalaysia) PRM(マレーシア人民党、Parti Rakyat Malaysia)

PPP(人民進歩党、People’s Progressive Party) PR(人民協約、Pakatan Rakyat)

SABM(マレーシア民族の子、Saya Anak Bangsa Malaysia) SMS(ショート・メッセージ・サービス、Short Message Service) ST(ストレーツ・タイムズ、Straits Times)

Suaram(マレーシア人民の声、Suara Rakyat Malaysia)

Suhakam(マレーシア人権委員会、Suruhanjaya Hak Asasi Malaysia) UMNO(統一マレー人国民組織、United Malays National Organization)

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は じ め に ま る で B 級 洋 画 を 見 て い る か の よ う に 、悪 漢 達 が 1 人 ず つ 倒 れ て い っ た 。視 聴 者 は そ れ が 起 こ っ て い る の を 見 て 歓 喜 し た 。 だ が 、 そ れ は 映 画 で は な く 、 現 実 の 世 界 の 出 来 事 だ っ た 。2008 年 マ レ ー シ ア 総 選 挙 と い う 現 実 で あ っ た の だ[Kee 2008: 24]。 ガ ン は 、 ち ょ う ど 同 時 刻 に 与 党 連 合 の 屋 台 骨 で あ る 統 一 マ レ ー 人 国 民 組 織 (United Malays National Organization: UMNO)の 緊 急 会 議 が 招 集 さ れ た の を 思 い 出 す 。 会 議 は 午 前 2 時 に 開 か れ 、そ の 後 の 短 時 間 の 記 者 会 見 で ア ブ ド ゥ ラ 首 相 は 、 与 党 は 依 然 と し て 圧 倒 的 な 多 数 派 ( の 議 席 ) を 維 持 し て い る と 声 明 を 出 し た 。 首 相 が ( 記 者 会 見 場 か ら ) 去 ろ う と し て も 、 ジ ャ ー ナ リ ス ト 達 は( コ メ ン ト を 求 め て )追 い す が っ た 。( そ れ を 見 た )首 相 は 言 っ た 。「 な ぜ 、 さ ら に 聞 こ う と す る ん だ ? 我 々 は 負 け た 、 我 々 は 負 け た ん だ 」[Steele 2009: 92]。 第 12 回 総 選 挙 の 投 開 票 日 と な っ た 2008 年 3 月 8 日 、マ レ ー シ ア 国 民 は 選 挙 の 投 票 結 果 を 告 げ る テ レ ビ 各 局 の 特 集 番 組 に 釘 付 け と な っ た 。 夕 方 か ら 始 ま っ た 特 集 番 組 で は 、 誰 も 予 想 し 得 な か っ た 与 党 の 大 物 幹 部 達 の 落 選 が 次 々 と 伝 え ら れ て い く 。Utusan Malaysia紙 の ジ ャ ー ナ リ ス ト を 経 て 情 報 大 臣 に ま で 上 り 詰 め た ザ イ ヌ デ ィ ン ・ マ イ デ ィ ン(Zainuddin Maidin)、同 じ く 閣 僚 で UMNO と 共 に 与 党 を 構 成 す る マ レ ー シ ア・イ ン ド 人 会 議(Malaysia Indian Congress: MIC)で 1979 年 か ら 党 首 の 地 位 に あ る サ ミ ー・ベ ル ー( Samy Vellu)、ペ ナ ン 州 の 州 首 相 で グ ラ カ ン (Gerakan) 党 首 の コ ー ・ ツ ー ク ン ( Koh Tsu Koon)、 い ず れ も 「 負 け る は ず の な い 」 大 物 与 党 政 治 家 が 次 々 と 敗 北 の 報 に 曝 さ れ た 。 テ レ ビ の 選 挙 報 道 で は 、 結 果 が 判 明 す る ま で に 時 間 が か か り す ぎ る と 感 じ た 市 民 の 一 部 は 、 次 々 と イ ン タ ー ネ ッ ト に ア ク セ ス し 、 最 新 の 当 落 情 報 を パ ソ コ ン の モ ニ タ ー 画 面 の 前 で や き も き し な が ら 見 守 っ た 。ウ ェ ブ・サ イ ト の 中 に は 、 独 立 系 オ ン ラ イ ン ・ ニ ュ ー ス サ イ ト の マ レ ー シ ア キ ニ (Malaysiakini) の よ う に 、 一 気 に 50 万 以 上 の ア ク セ ス を 受 け て 、 サ イ ト が 一 時 的 に ダ ウ ン し 、 接 続 不 能 と な っ た サ イ ト も あ っ た[Malaysiakini 10 March 2008]。 後 に 「 政 治 的 津 波 (Political Tsunami)」 と も 称 さ れ た 衝 撃 の 選 挙 結 果 が 明 ら か に な っ て ゆ く に つ れ 、華 人 の 一 部 の 間 で は 、携 帯 電 話 の SMS( シ ョ ー ト ・ メ ッ セ ー ジ ・ サ ー ビ ス ) の メ ッ セ ー ジ が 駆 け 巡 っ た 。 そ れ は 、 与 党 の 大 敗 と い う 選 挙 結 果 を 受 け て 、 マ レ ー 系 住 民 と 華 人 系 住 民 が 首 都 ク ア ラ ル ン プ ー ル で 衝

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突 し 、 そ の 後 の マ レ ー シ ア の 政 治 体 制 を 大 き く 変 え る こ と と な っ た 1969 年 の 「5 月 13 日 事 件 」 と 同 じ 出 来 事 が 再 び 起 こ る こ と を 懸 念 す る 内 容 の SMS だ っ た 。 し か し 、 投 票 日 の 翌 日 、 あ る い は そ れ か ら 数 週 間 経 っ て も 、 懸 念 さ れ た 暴 動 や 衝 突 は 起 こ ら ず 、 マ レ ー シ ア は 平 穏 を 維 持 し た 。 こ の 選 挙 は 、2003 年 に 発 足 し た ア ブ ド ゥ ラ 政 権 が 迎 え た 2 度 目 の 総 選 挙 で あ っ た 。1 度 目 の 2004 年 3 月 の 総 選 挙 で は 、 政 権 発 足 か ら 5 カ 月 弱 の ア ブ ド ゥ ラ 政 権 は 、 前 政 権 の 課 題 と な っ て い た 汚 職 根 絶 、 貧 困 農 民 へ の 支 援 や 警 察 の 制 度 改 革 な ど を 訴 え て 地 滑 り 的 大 勝 を し 、連 邦 下 院 の 9 割 を 超 す 議 席 数 を 与 党 連 合 の 国 民 戦 線 (Barisan Nasional: BN)が 獲 得 し た 。 し か し 、 そ の ほ ぼ 4 年 後 の 総 選 挙 で は 、1974 年 の 発 足 以 来 、BN は 長 年 維 持 し て き た 連 邦 下 院 の 3 分 の 2 の 議 席 を 初 め て 割 り 込 み 、 野 党 の 大 躍 進 を 許 す こ と に な っ た 。 BN の 「 歴 史 的 大 勝 」 か ら 「 歴 史 的 敗 北 」 へ と 僅 か 4 年 で マ レ ー シ ア 政 治 は 大 き く 揺 れ 動 く こ と と な っ た の で あ る 。 事 前 の 選 挙 予 測 で は 海 外 の 熱 心 な マ レ ー シ ア ・ ウ ォ ッ チ ャ ー は も ち ろ ん の こ と 、 当 事 者 で あ る マ レ ー シ ア 国 民 も 含 め 、 誰 も が BN は 前 回 選 挙 よ り 苦 戦 は す る も の の 、3 分 の 2 の 議 席 ラ イ ン を 維 持 す る と 考 え て い た だ け に 、 選 挙 結 果 に よ っ て マ レ ー シ ア 政 界 に は 激 震 が 走 っ た 。 与 党 大 敗 と い う 選 挙 結 果 が 生 じ た 原 因 に つ い て 、メ デ ィ ア は 政 治 家 、研 究 者 、 一 般 市 民 な ど 様 々 な 人 々 を 登 場 さ せ て 報 じ た が 、 総 選 挙 後 の あ る イ ベ ン ト で 、 ア ブ ド ゥ ラ 首 相 自 身 が 語 っ た 次 の コ メ ン ト は 、 特 に 大 き く 報 道 さ れ る こ と に な っ た 。 我 々 は 確 か に 、イ ン タ ー ネ ッ ト の 戦 争 、サ イ バ ー 戦 争 に 敗 れ た 。我 々 は 新 聞 、 印 刷 メ デ ィ ア 、テ レ ビ が 重 要 だ と 考 え て い た 。だ が 若 者 は 、SMS や ブ ロ グ を 見 て い た の だ[Star 26 March 2008]。 ア ブ ド ゥ ラ 首 相 の 言 葉 に 示 さ れ て い る よ う に 、2008 年 総 選 挙 の 行 方 を 決 定 づ け た 要 因 の 1 つ は 、政 府 に よ っ て 統 制 さ れ て き た 従 来 の 新 聞 や テ レ ビ な ど の「 主 流 メ デ ィ ア (mainstream media)」 で は な く 、 新 た な テ ク ノ ロ ジ ー に 依 拠 し 、 政 府 の 統 制 か ら 逃 れ た 「 オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア (alternative media)」 で あ っ た 。 以 下 に 続 く 本 論 で は 、 オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア の 登 場 と 成 長 に よ っ て メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム が 経 験 し た 変 化 に 注 目 し な が ら 、 マ レ ー シ ア の メ デ ィ ア と 政 治 に 関 す る 論 考 を 進 め て い く こ と と す る 。

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序 章 第 一 節 主 流 メ デ ィ ア か オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア か ― マ レ ー シ ア に お け る メ デ ィ ア の 統 制 と 自 由 化 本 研 究 の 目 的 は 、 マ ハ テ ィ ー ル 政 権 末 期 の 1999 年 11 月 に 実 施 さ れ た 第 10 回 総 選 挙 前 後 か ら 、2008 年 3 月 の ア ブ ド ゥ ラ 政 権 下 で 実 施 さ れ た 第 12 回 総 選 挙 に 至 る 10 年 間 余 り の マ レ ー シ ア で 見 ら れ た 、 メ デ ィ ア の 自 由 化 の 要 因 を 論 じ る こ と に あ る 。 こ の 10 年 間 で 、 マ レ ー シ ア で は 民 間 の メ デ ィ ア 企 業 が 発 行 ( 放 送 ) す る 新 聞 や テ レ ビ な ど か ら 成 る 「 主 流 メ デ ィ ア 」 と は 別 に 、 野 党 の 機 関 紙 、 イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ て 発 信 さ れ る オ ン ラ イ ン ・ ニ ュ ー ス サ イ ト や ブ ロ グ な ど か ら 成 る 「 オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア 」 が 多 数 現 れ 、 市 民 は 主 流 メ デ ィ ア 以 外 の 多 様 な 情 報 源 か ら 情 報 を 得 る こ と が 可 能 に な っ た 。 本 研 究 は 、 こ れ ら の オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア が 主 流 メ デ ィ ア も 含 め た 総 体 と し て の メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム の 自 由 化 に 貢 献 し て い る こ と を 、 現 地 調 査 で 収 集 し た 資 料 に 基 づ き 明 ら か に す る 。 複 数 政 党 が 参 加 す る 定 期 的 総 選 挙 が 実 施 さ れ て い る マ レ ー シ ア で は 、1974 年 に 結 成 さ れ た 与 党 連 合 の BN に よ る 統 治 が 現 在 も 続 い て い る 。 こ の 「 BN 体 制 」と 呼 ば れ る マ レ ー シ ア の 政 治 体 制 の 特 徴 の 1 つ は 、そ の 継 続 性 に あ る 。BN の 結 成 か ら 数 え て 30 年 以 上 、BN の 前 身 で 主 要 な 構 成 政 党 が 重 な る 与 党 連 合 の 「 連 盟 (Alliance)」 に よ る 統 治 期 間 も 含 め る な ら ば 、 50 年 以 上 の 長 期 に わ た っ て マ レ ー シ ア は 、 ほ ぼ 同 じ 与 党 に よ っ て 統 治 さ れ て き た 。BN 体 制 が な ぜ 継 続 す る の か 。 そ の 最 大 の 要 因 は 、 与 党 の 誇 る 「3M」 に あ る と さ れ て き た 。 3M と は 、Money( カ ネ )、 Machine( 選 挙 マ シ ー ン )、 Media( メ デ ィ ア ) の 頭 文 字 の M に 由 来 し て い る 。こ こ に 示 さ れ る よ う に 、メ デ ィ ア は 長 年 、BN 体 制 の 継 続 を 支 え る 重 要 な 要 因 で あ る と 見 な さ れ て き た 。

こ の マ レ ー シ ア の BN 体 制 の 継 続 性 を 支 え る 3M の 問 題 を 、 近 年 注 目 さ れ て い る 比 較 政 治 学 上 の 体 制 分 類 で あ る 競 争 的 権 威 主 義 ( Competitive Authoritarianism) 体 制 の 観 点 か ら 捉 え な お す な ら ば 、 す な わ ち 、与 野 党 間 の 不 公 平 な リ ソ ー ス 配 分 の 問 題 に 帰 着 す る こ と と な る[Levitsky and Way 2002; 2010]。 つ ま り 、 体 制 内 部 で は 競 争 が 存 在 し て い る も の の 、 そ の 競 争 は 著 し く 不 公 平 な リ ソ ー ス 配 分 に 基 づ い て 実 施 さ れ て い る と 見 な さ れ る の で あ る 。 こ う し た 与 野 党 間 の 不 公 平 な リ ソ ー ス 配 分 を 内 在 化 さ せ て い る マ レ ー シ ア の BN 体 制 は 、 程 度 の 差 や 名 称 の 差 こ そ あ れ 、 こ れ ま で 政 治 学 者 に よ っ て 権 威 主 義 体 制 の 一 類 型 と し て 捉 え ら れ て き た 。 こ の よ う に 、3M の 一 部 と し て 、 不 公 平 な 競

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争 を 内 在 化 さ せ る こ と で 体 制 の 継 続 に 貢 献 し て い る メ デ ィ ア に 関 す る 研 究 は 、 比 較 政 治 学 の 観 点 か ら も 真 剣 に 検 討 さ れ る べ き 課 題 で あ る こ と が 理 解 で き る 。 他 方 、 マ レ ー シ ア 研 究 の 文 脈 に お い て 、 メ デ ィ ア が BN 体 制 の 維 持 に ど の よ う に 機 能 し て い る か を 論 じ た 研 究 は 既 に 一 定 の 蓄 積 が あ る 。 そ の 中 に は 、 マ レ ー シ ア の メ デ ィ ア 統 制 の 実 態 を 丁 寧 に 記 述 し て い る ム ス タ フ ァ 、 ザ ハ ロ ム 、 ワ ン 、 ブ ラ ウ ン な ど の 研 究[Loh and Mustafa 1996; Mustafa 2002; 2005b; Zaharom 2002a; 2002b; 2008; Zaharom and Mustafa 1998; Wang 2001; Zaharom and Wang 2004; Brown 2005]、 マ ハ テ ィ ー ル 政 権 下 の マ レ ー シ ア 政 治 の 分 析 で グ ラ ム シ の ヘ ゲ モ ニ ー 論 を 適 用 し 、 メ デ ィ ア が BN 体 制 の 正 統 化 の た め の 装 置 と な っ て い る こ と を 示 し た ヒ レ イ の 研 究[Hilley 2001: 117-173]な ど が あ る 。 こ れ ら の 研 究 は 、BN 体 制 下 の マ レ ー シ ア に お い て 、 メ デ ィ ア は 国 家 の 統 制 下 に あ り 、BN 体 制 の 維 持 を 支 え る 「 安 定 化 装 置 」 と し て 機 能 し て い る と の 認 識 で 一 致 し て い る 。 こ れ ら の 研 究 が 指 摘 す る マ レ ー シ ア の メ デ ィ ア 統 制 が 始 ま っ た 時 期 と 、 そ の 実 施 の 方 法 を ま と め れ ば 、以 下 の よ う に な る 。BN は 、3M の 1 つ で あ る メ デ ィ ア を BN 体 制 の 継 続 に 最 大 限 利 用 す る た め に 、80 年 代 初 頭 か ら メ デ ィ ア へ の 統 制 を 強 め 、90 年 代 に 入 る 頃 に は 、ほ ぼ 現 在 と 変 わ ら な い メ デ ィ ア 統 制 の 形 を 完 成 さ せ た 。こ の 時 代 は ち ょ う ど 、1981 年 か ら 始 ま っ た マ ハ テ ィ ー ル 政 権 前 期 に 当 た る 。 BN 体 制 下 で 行 わ れ て い る メ デ ィ ア 統 制 の 手 法 は 、 ジ ャ ー ナ リ ス ト へ の 身 体 的 暴 行 ・ 脅 迫 や 、 メ デ ィ ア 企 業 の 国 営 化 な ど 直 接 的 で 強 圧 的 な 手 段 に 依 存 す る こ と は 殆 ど な く 、 免 許 制 度 を 通 じ た 出 版 ・ 印 刷 物 管 理 、 株 式 所 有 を 通 じ た 経 営 支 配 、 ジ ャ ー ナ リ ス ト へ の イ デ オ ロ ギ ー 的 な 影 響 力 行 使 な ど 、 む し ろ 間 接 的 で 「 洗 練 さ れ た 」 手 法 を と る も の が 多 い 。 こ う し た 手 法 を 通 じ て BN 体 制 に よ っ て 統 制 さ れ た メ デ ィ ア が 行 う 選 挙 報 道 で は 、 与 党 の 情 報 や 選 挙 活 動 は メ デ ィ ア の 中 で 洪 水 の よ う に 溢 れ る も の の 、 野 党 の 情 報 は 、 報 道 さ れ な く な っ て ブ ラ ッ ク ・ ア ウ ト し て し ま う か 、 批 判 的 な 観 点 か ら の み 報 道 さ れ る こ と が 頻 繁 に 起 こ る こ と に な る 。 も ち ろ ん 、 こ う し た 傾 向 は 選 挙 期 間 中 に 限 ら な い 。 日 々 の メ デ ィ ア の 報 道 に お い て も 、 野 党 や BN に 挑 戦 的 な 立 場 を と る NGO な ど の 活 動 は 、 十 分 に 報 道 さ れ る こ と な く 、 政 府 や BN の 活 動 が 常 に ク ロ ー ズ ア ッ プ さ れ て き た の で あ る 。 以 上 の よ う な 国 家 に よ る メ デ ィ ア 統 制 は 現 在 で も 続 い て い る が 、 近 年 は 、 メ デ ィ ア に 変 化 が 起 こ っ て い る と の 指 摘 も 見 ら れ 始 め た 。そ う し た 研 究 の 中 に は 、 近 年 著 し く 普 及 し た オ ン ラ イ ン ・ メ デ ィ ア に 注 目 し た ジ ョ ー ジ や 、 タ ン と ザ ワ ウ ィ の 研 究 が あ る 。 ジ ョ ー ジ は 社 会 運 動 研 究 の 議 論 を 援 用 し な が ら 、 マ レ ー シ

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ア で は 、 オ ン ラ イ ン ・ メ デ ィ ア の 中 に は 、 体 制 の 価 値 観 や 常 識 に 挑 戦 す る 「 た た か う ジ ャ ー ナ リ ズ ム (Contentious Journalism)」 を 実 践 す る も の が 現 れ 、 サ イ バ ー・ ス ペ ー ス は 与 野 党 間 の「 た た か い(contention)」の 場 と な っ て い る こ と を 指 摘 し た[George 2006; 2007]。他 方 で 、タ ン と ザ ワ ウ ィ は 、発 展 著 し い ブ ロ グ が マ レ ー シ ア の 民 主 化 を 促 進 し て い る の か と い う 観 点 か ら 研 究 を 進 め て い る[Tan and Zawawi 2008]。 最 終 的 に ブ ロ グ の 民 主 化 へ の 影 響 は 、 依 然 と し て 限 定 的 で あ る と 結 論 を 出 し て い る も の の 、 彼 ら の 研 究 は 2008 年 の 総 選 挙 で イ ン タ ー ネ ッ ト が 盛 ん に 活 用 さ れ る 以 前 の 状 況 を 基 に 議 論 し て い る た め に 、 最 新 の 状 況 を 踏 ま え る と 議 論 が 違 っ た も の に な る こ と は 大 い に あ り 得 る 。 近 年 の 変 化 を 指 摘 す る 別 の 研 究 と し て 、 ハ ー バ ー マ ス の 公 共 圏 の モ デ ル に 沿 っ て 、 マ レ ー シ ア に は サ イ バ ー ・ ス ペ ー ス 上 に 新 た な 公 共 圏 が 誕 生 し て い る こ と を 指 摘 し た モ ハ マ ド・ア ジ ズ デ ィ ン の 研 究 が あ る 。彼 は 、2008 年 の 総 選 挙 の 結 果 か ら そ の 結 論 を 導 き 出 し た[Mohd Azizuddin 2009]。 以 上 の よ う な メ デ ィ ア の 変 化 を 指 摘 す る 研 究 は 、広 い 意 味 で の メ デ ィ ア の「 自 由 化 」 を 指 摘 す る 研 究 で あ る と 言 え よ う 。 マ レ ー シ ア の 「 メ デ ィ ア と 政 治 」 を め ぐ る 研 究 の 中 で 、 こ う し た 研 究 の 位 置 づ け は 、 最 近 の 発 展 を 追 っ て い る こ と も あ り 、 依 然 と し て 少 数 派 の 研 究 で あ る 。 し か し 、 今 後 の 発 展 が さ ら に 望 ま れ る 重 要 な 研 究 で あ る こ と は 間 違 い な い 。( オ ン ラ イ ン・メ デ ィ ア を 含 む )オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア に 焦 点 を 当 て る 本 研 究 も 、 近 年 の マ レ ー シ ア の メ デ ィ ア に 起 こ っ て い る 自 由 化 に 注 目 す る こ れ ら の 研 究 の 系 譜 に 属 す る 。 た だ し 、 メ デ ィ ア の 自 由 化 に 注 目 す る 先 行 研 究 に も 問 題 点 が 無 い わ け で は な い 。 第 一 の 問 題 点 と し て 、 主 に 近 年 の オ ン ラ イ ン ・ メ デ ィ ア の 発 展 に 注 目 し て い る こ れ ら の 研 究 で は 、 オ ン ラ イ ン ・ メ デ ィ ア が ど の よ う な 歴 史 的 経 緯 の 下 で 登 場 し 、 な ぜ 最 近 に な っ て 影 響 力 を 増 す よ う に な っ た の か 、 必 ず し も 十 分 に 説 明 さ れ て い な い 。 第 二 に 、 体 制 へ の 「 対 抗 メ デ ィ ア 」 と し て の オ ン ラ イ ン ・ メ デ ィ ア の 役 割 に の み 注 目 す る と 、 主 流 メ デ ィ ア と の 対 立 関 係 を 強 調 し す ぎ る き ら い が あ り 、 そ れ が 全 体 と し て の メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム に ど の よ う な 影 響 を 及 ぼ し て い る の か が 、 分 か り に く く な る お そ れ も あ る 。 そ こ で 、 本 研 究 は 、 マ レ ー シ ア に お け る ( オ ン ラ イ ン ・ メ デ ィ ア を 含 む ) オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア の 展 開 に 焦 点 を 当 て な が ら 、 オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア が 、 ① ど の よ う な 背 景 の も と で 、 登 場 し 、 影 響 力 を 拡 大 し て い っ た の か 、 ② オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア の 登 場 と 成 長 が 、 主 流 メ デ ィ ア や メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム 全 体 の 自 由 化 に プ ラ ス の 影 響 を 与 え て い る の か 、そ し て 与 え て い る と し た ら 、 ど の よ う な 形 で な の か 、 と い っ た 点 に 注 目 す る 。 こ こ で は 、 主 流 メ デ ィ ア vs オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア と い う 単 純 な 図 式 で 、 近 年 見 ら れ る メ デ ィ ア の 自 由

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化 に 向 け て の 変 化 が 捉 え ら れ て い る わ け で は な い こ と に 繰 り 返 し 注 意 を 促 し た い 。 つ ま り 、 本 研 究 は 、 オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア の 発 展 を 起 点 と し て 、 主 流 メ デ ィ ア や メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム の 統 制 と 自 由 化 の ダ イ ナ ミ ズ ム を 明 ら か に し よ う と す る 試 み で あ る 。 そ の た め に は 、 以 下 の よ う な 問 い も 同 時 に 投 げ か け ら れ る 必 要 が あ る 。 国 家 ア ク タ ー を 構 成 す る 政 府 や 与 党 ( お よ び 、 そ の 指 導 者 た ち ) は 、 こ れ ま で ど の よ う な 方 法 で メ デ ィ ア を 統 制 し て き た の で あ ろ う か 。 こ う し た 国 家 ア ク タ ー と の 関 係 の 中 で 、 ど の よ う に 企 業 家 は メ デ ィ ア ・ ビ ジ ネ ス を 展 開 し て き た の か 。 国 家 の メ デ ィ ア 統 制 の 下 で 活 動 す る ジ ャ ー ナ リ ス ト は 、 自 由 な 報 道 活 動 を 目 指 し て 、 ど の よ う な 活 動 を 展 開 し て き た の で あ ろ う か 。 主 流 メ デ ィ ア へ の ア ク セ ス が 大 き く 制 限 さ れ て い る 野 党 や NGO な ど は 、 そ う し た 制 限 を ど の よ う に 克 服 し よ う と し て き た の か 。 こ れ ら の 問 い は 、 メ デ ィ ア を め ぐ っ て 様 々 な 政 治 的 ア ク タ ー が 織 り な す 政 治 過 程 に 注 目 す る 問 い か け で あ る 。 さ ら に 、 次 の よ う な 問 い も 本 研 究 に と っ て 重 要 で あ る 。 権 威 主 義 体 制 下 に お け る メ デ ィ ア の 機 能 と は ど の よ う な も の で あ る の か 。90 年 代 に 登 場 し た イ ン タ ー ネ ッ ト に 代 表 さ れ る 新 た な 情 報 通 信 技 術 は 、 メ デ ィ ア を め ぐ る 環 境 に ど の よ う な 変 化 を も た ら し た の か 。 こ れ ら の 問 い に 焦 点 を 当 て て 「 メ デ ィ ア と 政 治 」 に 関 す る 議 論 を 行 っ て い く こ と は 、マ レ ー シ ア に 限 ら ず 、他 国 と の 比 較 の 中 で マ レ ー シ ア の「 メ デ ィ ア と 政 治 」 を 考 え て い く こ と に つ な が る 。 第 二 節 本 研 究 の 対 象 、 貢 献 、 調 査 手 法 マ レ ー シ ア に お け る メ デ ィ ア の 自 由 化 に つ い て 論 じ る 本 稿 の 対 象 、 貢 献 と 調 査 手 法 に つ い て こ こ で 述 べ て お き た い 。 ま ず 、 本 稿 が 考 察 の 対 象 と す る 主 要 な メ デ ィ ア の 形 態 は 、 新 聞 ・ 雑 誌 に 代 表 さ れ る 印 刷 メ デ ィ ア と 、 イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ て 提 供 さ れ る オ ン ラ イ ン ・ メ デ ィ ア で あ る 。 つ ま り 、 テ レ ビ 、 ラ ジ オ な ど の 放 送 メ デ ィ ア は 、 一 部 で 言 及 す る こ と は あ る も の の 、 本 稿 の 中 心 的 な 研 究 対 象 と し て は 除 外 す る 。 そ の 理 由 は 、 第 一 に 、 放 送 メ デ ィ ア ( の 中 で も 特 に テ レ ビ ) は 、 技 術 面 か ら 最 も 統 制 を 受 け や す い メ デ ィ ア で あ り 、 権 威 主 義 体 制 下 で の メ デ ィ ア の 自 由 化 と い う 本 稿 の テ ー マ に 必 ず し も 十 分 に 合 致 し な い お そ れ が あ る た め で あ る 。 電 波 を 通 じ て 発 信 す る 放 送 メ デ ィ ア は 混 線 を 防 ぐ た め に 、 電 波 の 調 整 役 が 必 要 で あ り 、 通 常 は 国 家 か 国 家 の 付 託 を 受 け た 機 関 が そ の 役 割 を 果 た す 。 つ ま り 、 先 進 民 主 主 義 国 で あ っ て も 、 放 送 メ デ ィ ア に は 免 許 制 度 が あ る の が 一 般 で あ る 。 こ れ と 対 照 的 な の が 、 印 刷 メ デ ィ ア で あ り 、 一 般 に 先 進 民 主 主 義 国 で は 免 許 制

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度 は 存 在 し な い 。 こ う し た 放 送 メ デ ィ ア の 技 術 的 特 性 と そ こ か ら 生 じ る 免 許 制 度 の 存 在 は 、 メ デ ィ ア の 統 制 と 自 由 化 を め ぐ る 問 題 を よ り 一 般 的 な も の に し 、 権 威 主 義 体 制 下 の メ デ ィ ア と い う 本 研 究 の 特 定 の テ ー マ か ら 外 れ る お そ れ が あ る 。 第 二 に 、 印 刷 メ デ ィ ア が 放 送 メ デ ィ ア と 比 較 し て よ り 深 く 、 幅 広 い 内 容 を 提 供 で き る 一 方 で 、 依 然 と し て 職 業 と し て の ジ ャ ー ナ リ ス ト の 在 り 方 を 規 定 し て い る た め で あ る 。 こ れ は 、 マ レ ー シ ア に 限 ら ず 、 世 界 各 国 で も 見 ら れ る 一 般 的 な 傾 向 で あ る 。 第 三 に 、 本 研 究 全 体 の 議 論 と 関 わ る が 、 マ レ ー シ ア の オ ン ラ イ ン ・ メ デ ィ ア は メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム の 自 由 化 に 大 き な 影 響 を 与 え て い る に も 拘 わ ら ず 、 依 然 と し て 不 十 分 な 先 行 研 究 し か 存 在 し な い 。 し た が っ て 、 オ ン ラ イ ン ・ メ デ ィ ア の 展 開 を 詳 細 に 検 討 す る 必 要 が あ る 。 次 に 、本 研 究 の 分 析 対 象 期 間 と 貢 献 に つ い て 述 べ て お き た い 。本 研 究 は 、BN が 結 成 さ れ た 70 年 代 か ら ア ブ ド ゥ ラ 政 権 が 終 焉 し た 2009 年 ま で を 扱 っ て い る 。 し か し 冒 頭 で 述 べ た よ う に 、 本 研 究 全 体 の 議 論 で 最 も 重 視 さ れ る の は 、1999 年 11 月 の 第 10 回 総 選 挙 前 後 か ら 、2008 年 3 月 の 第 12 回 選 挙 ま で の 期 間 で あ る 。 こ の 期 間 は 、 メ デ ィ ア 以 外 の 政 治 体 制 の 面 か ら も 大 き な 変 化 が 起 こ っ て い る 。つ ま り 、22 年 続 い た マ ハ テ ィ ー ル 政 権 の 末 期 か ら ア ブ ド ゥ ラ 政 権 へ の 政 権 交 代 が 起 こ り 、 権 威 主 義 的 統 治 の 問 題 点 や 限 界 が 露 わ に な る と と も に 、 体 制 改 革 へ の 必 要 性 が 野 党 の み な ら ず 、BN 内 部 か ら も 求 め ら れ た 時 期 で あ る 。ま た 、 こ の 期 間 中 に は 1999 年 、 2004 年 と 2008 年 に 3 度 の 総 選 挙 が 実 施 さ れ た が 、 与 野 党 間 の 議 席 数 が 大 き く 変 動 し 、最 後 の 2008 年 3 月 の 総 選 挙 で 与 党 BN は 、 結 成 後 初 め て 連 邦 下 院 の 3 分 の 2 以 下 の 議 席 し か 獲 得 で き な か っ た 。以 上 の 点 か ら 判 断 す る と 、 こ の 時 期 の マ レ ー シ ア は 政 治 体 制 が 権 威 主 義 的 体 制 か ら の 移 行 期 に 入 っ た 時 期 で あ る と 理 解 す る こ と が で き る 。 次 に 本 研 究 の 貢 献 に つ い て 述 べ る 。 こ れ ま で の マ レ ー シ ア 政 治 研 究 の 文 脈 に お い て は 、22 年 間 続 い た マ ハ テ ィ ー ル 政 権 の 政 治 分 析 は 、研 究 者 に と っ て 特 別 の 関 心 を 引 い て き た 。 国 政 レ ベ ル で の 政 治 研 究 で は 、 政 権 が 打 ち 出 し た 新 政 策 や 長 期 ビ ジ ョ ン の 分 析 、首 相( =UMNO 総 裁 )へ の 権 力 や 資 源 の 集 中 化 、マ ハ テ ィ ー ル 個 人 の リ ー ダ ー シ ッ プ な ど の 分 野 で 次 々 と 刺 激 的 な 研 究 成 果 が 生 み 出 さ れ て き た1。し か し な が ら 、政 治・ 経 済・ 社 会 な ど 様 々 な 側 面 に 巨 大 な 足 跡 を 1 マ ハ テ ィ ー ル 政 権 下 の 政 治 を 対 象 と し た 代 表 的 な 研 究 を 以 下 に 挙 げ る 。 政 策 や 長 期 ビ ジ

ョ ン の 研 究 で は 、Milne and Mauzy[1999]が マ ハ テ ィ ー ル 政 権 の 包 括 的 な 政 策 分 析 と な っ て い る 。 ま た 、 ア ジ ア 経 済 研 究 所 の プ ロ ジ ェ ク ト か ら 生 ま れ た 鳥 居 編[2006]も 注 目 す べ き 成 果 で あ る 。首 相 へ の 権 力 ・資 源 集 中 に つ い て の 研 究 で は 、Gomez の 一 連 の 政 党 ビ ジ ネ ス 研 究[Gomez 1990; 1991; 1994] や 、「 個 人 化 さ れ た 政 治 ( personalized politics)」 と い う

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残 し た マ ハ テ ィ ー ル が 2003 年 10 月 に 首 相 を 退 任 し 、政 治 の 表 舞 台 か ら 去 っ た 後 の マ レ ー シ ア 政 治 研 究 は 、未 だ 次 の 研 究 課 題 が 定 ま っ て い な い よ う に 見 え る 。 こ う し た 点 を 踏 ま え つ つ 、 本 研 究 の 独 自 性 に つ い て 言 え ば 、「 メ デ ィ ア と 政 治 」 と い う 、 こ れ ま で マ レ ー シ ア 政 治 研 究 の 分 野 で は 必 ず し も 十 分 に 検 討 さ れ て こ な か っ た テ ー マ を 選 択 し て い る 点 、 主 流 メ デ ィ ア で は な く 、 オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア を 中 心 に 据 え た 分 析 を 行 っ て い る 点 の 2 点 か ら 、か な り の 程 度 の 独 自 性 を 持 つ 研 究 で あ る と 考 え ら れ る 。 さ ら に 言 え ば 、 本 研 究 は マ ハ テ ィ ー ル 政 権 末 期 か ら ア ブ ド ゥ ラ 政 権 に か け て の マ レ ー シ ア の 政 治 と 社 会 の 実 態 を 、 メ デ ィ ア と そ れ に 関 わ る ア ク タ ー を 通 じ て 描 き 出 す こ と で 、 マ レ ー シ ア 政 治 研 究 に お け る 新 た な 研 究 分 野 を 開 拓 し て い こ う と す る 試 み で も あ る 。 こ う し た マ レ ー シ ア 政 治 研 究 に 対 す る 貢 献 の 他 に 、 本 研 究 は 政 治 体 制 研 究 と メ デ ィ ア 研 究 に 対 し て 貢 献 が 可 能 だ と 考 え る 。 政 治 体 制 研 究 へ の 貢 献 で は 、 本 研 究 が 事 例 と す る マ レ ー シ ア は 、 政 治 体 制 の 面 で 競 争 的 権 威 主 義 体 制 に 分 類 さ れ る 国 で あ る 。 そ こ で 本 研 究 は 、 競 争 的 権 威 主 義 体 制 の 維 持 に 大 き く 貢 献 し て い る と 考 え ら れ る メ デ ィ ア が 、 ど の よ う な 方 法 で 統 制 さ れ 、 体 制 の 維 持 に 利 用 さ れ て い る の か 、 実 際 の 事 例 を 検 討 す る こ と に よ っ て 、 実 証 面 か ら 競 争 的 権 威 主 義 体 制 の 実 態 を 明 ら か に す る こ と が で き る と 考 え る 。 さ ら に 、メ デ ィ ア 研 究 に 関 し て は 次 の 2 点 か ら 本 研 究 は 貢 献 が 可 能 で あ る と 考 え る 。第 一 に 、一 般 に メ デ ィ ア 研 究 で 注 目 さ れ る 主 流 メ デ ィ ア だ け で は な く 、 オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア に も 注 目 す る こ と で 、 総 体 と し て の メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム 内 部 で の 変 化 ( = 自 由 化 ) が ど の よ う に 起 こ る の か 、 そ の 作 業 モ デ ル と 共 に 、 モ デ ル の 裏 づ け と な る 事 例 を 本 研 究 が 提 供 す る こ と が で き る と 考 え る 。 第 二 に 、 本 研 究 は 議 論 を 進 め て い く 中 で 、 オ ン ラ イ ン ・ メ デ ィ ア に も 注 目 す る が 、 こ の 点 か ら 「 イ ン タ ー ネ ッ ト の 政 治 ・ 社 会 的 影 響 に 関 す る 研 究 」 に 貢 献 す る こ と が で き る と 考 え る 。 急 速 な 情 報 化 の 進 展 に よ っ て 、 既 に 発 展 途 上 国 に お い て さ え も 珍 し い も の で は な く な り つ つ あ る イ ン タ ー ネ ッ ト の 政 治 ・ 社 会 的 影 響 に 関 し て 、 現 在 ま で の と こ ろ 実 証 的 な 研 究 は 非 常 に 不 足 し て い る と 言 わ ざ る を 得 な い 。 こ の 点 か ら 、 現 実 と 学 術 研 究 と の 間 の 大 き な ギ ャ ッ プ の 解 消 に 本 研 究 が 貢 献 で き る と 考 え る 。 本 研 究 は 主 に 以 下 の 2 つ の 方 法 に 依 拠 し た 。 第 一 に 、新 聞 、 雑 誌 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 資 料 、 先 行 す る 研 究 書 な ど の 資 料 の 収 集 と 分 析 で あ る 。 第 二 に 、 関 係 者 へ の イ ン タ ビ ュ ー で あ る 。 筆 者 の マ レ ー シ ア で の 長 期 滞 在 期 間 は 、2004 年 4 月 か ら 2006 年 9 月 ま で の 2 年 半 、 2007 年 6 月 か ら 7 月 の 2 か 月 、 2008 年 3 キ ー ワ ー ド で マ ハ テ ィ ー ル へ の 権 力 集 中 を 明 ら か に し た Hwang[2003] の 研 究 が あ る 。マ ハ テ ィ ー ル 個 人 の リ ー ダ ー シ ッ プ に つ い て は 、Khoo[1995]の 研 究 が 優 れ て い る 。

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月 か ら 4 月 に か け て の 2 か 月 、 2009 年 の 6 月 か ら 8 月 で の 3 か 月 で 、 以 上 の 期 間 中 に ジ ャ ー ナ リ ス ト 、 与 野 党 指 導 者 、NGO 関 係 者 、 学 術 関 係 者 な ど と 会 っ て イ ン タ ビ ュ ー を 行 い 、 メ デ ィ ア や 政 治 関 連 の ワ ー ク シ ョ ッ プ や セ ミ ナ ー に 出 席 し て 、 情 報 を 収 集 し た 。 第 三 節 本 稿 の 構 成 本 稿 の 構 成 は 以 下 の よ う に な る 。 本 章 に 続 く 第 二 章 で は 、 先 行 研 究 に 依 拠 し な が ら 、 本 研 究 に お け る 体 制 移 行 期 に お け る メ デ ィ ア の 自 由 化 の モ デ ル を 提 案 す る 。 第 二 章 の 先 行 研 究 の レ ビ ュ ー か ら は 、 次 の 2 点 の 知 見 が 得 ら れ る 。す な わ ち 第 一 に 、メ デ ィ ア の 統 制 と 自 由 化 に お い て は 、「 法 」、「 市 場 」、「 規 範 」、「 テ ク ノ ロ ジ ー 」 と い う 4 つ の モ ー ド の 変 化 が 重 要 な 鍵 を 握 る と い う 点 で あ る 。 第 二 に 、 メ デ ィ ア の 自 由 化 の 過 程 に お い て は 、 オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア の 役 割 が 重 要 で あ る と い う 点 で あ る 。 本 研 究 が 提 案 す る 体 制 移 行 期 に お け る メ デ ィ ア の 自 由 化 の モ デ ル と は 、 以 上 の 2 点 に 注 目 し た も の で あ る 。 第 三 章 か ら 第 五 章 ま で が 、 本 研 究 の 第 一 部 で あ り 、BN 体 制 下 の メ デ ィ ア 統 制 と 、 そ れ を め ぐ る 各 ア ク タ ー の 活 動 に つ い て 、 主 流 メ デ ィ ア に 焦 点 を 当 て て 論 じ て い く こ と に な る 。 第 三 章 で は 、 ま ず 、 競 争 的 権 威 主 義 体 制 の 特 徴 と も な っ て い る 「 不 公 平 な 競 争 」 の 概 念 を 手 掛 か り に 、 競 争 的 権 威 主 義 体 制 に 分 類 さ れ る マ レ ー シ ア の BN 体 制 が 、 体 制 の 維 持 の た め に メ デ ィ ア を ど の よ う に 利 用 し て い る の か を 見 る 。 そ の 後 、 第 二 章 で 提 案 し た 「 法 」、「 市 場 」、「 規 範 」、「 テ ク ノ ロ ジ ー 」 と い う 4 つ の モ ー ド に 沿 っ て 、 BN 体 制 下 で の メ デ ィ ア 統 制 に つ い て 見 て い く 。 次 の 第 四 章 と 第 五 章 で は 、 事 例 に 沿 い な が ら 、 国 家 ア ク タ ー 、 メ デ ィ ア 企 業 家 、 ジ ャ ー ナ リ ス ト な ど が ど の よ う に 主 流 メ デ ィ ア に 関 与 し て い る の か を 明 ら か に す る 。第 四 章 で 事 例 と し て 取 り 上 げ る の は 、英 語 日 刊 紙 New Straits Times

(NST)な ど を 出 版 す る NSTP グ ル ー プ で あ る 。こ の NSTP グ ル ー プ が 、与 党 連 合 BN を 構 成 す る 中 心 政 党 の UMNO の 党 内 政 治 と 、 ど の よ う な 関 係 に あ る の か 。 こ の 疑 問 を NSTP の 企 業 再 編 に お け る UMNO 政 治 家 の 介 入 の 歴 史 と 、 グ ル ー プ 編 集 長 人 事 の 検 討 を 通 じ て 見 て い く 。 第 四 章 か ら は 、NSTP の 所 有 が UMNO 内 部 の 権 力 闘 争 と 深 く 結 び つ い て き た こ と 、 さ ら に NSTP の グ ル ー プ 編 集 長 人 事 で は 、 首 相 ( 兼 UMNO 総 裁 ) の 意 向 が 強 く 反 映 さ れ て き た こ と を 指 摘 す る 。 第 五 章 で 事 例 と し て 取 り 上 げ ら れ る の は 、華 語 紙 の『 南 洋 商 報 』で あ る 。2001 年 5 月 に 起 こ っ た BN 第 2 党 の MCA に よ る 『 南 洋 商 報 』 買 収 事 件 と そ の 後 の

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経 過 を も と に 、マ レ ー シ ア に お い て 華 語 紙 を め ぐ っ て 繰 り 広 げ ら れ る 政 治 権 力 、 ビ ジ ネ ス と 華 人 社 会 の 関 係 を 明 ら か に す る 。 こ の 事 例 か ら は 、 主 流 メ デ ィ ア を め ぐ っ て 、 与 党 と 華 人 企 業 家 の 関 係 は お 互 い が 利 用 し あ う 関 係 に あ る も の の 、 両 者 の 行 動 の も と と な る 論 理 が 必 ず し も 同 じ も の で は な い こ と が 改 め て 確 認 さ れ る 。 第 六 章 か ら 第 八 章 ま で が 本 研 究 の 第 二 部 に な る 。 第 二 部 で は 、BN 体 制 下 で の オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア の 登 場 と 発 展 を 考 察 す る こ と を 通 じ て 、 オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア に よ る メ デ ィ ア の 自 由 化 と BN 体 制 の 変 化 が ど の よ う に も た ら さ れ た の か を 論 じ る 。 第 六 章 で は 、 市 民 社 会 に 基 盤 を 持 つ 野 党 や NGO な ど と 、 独 立 系 の ジ ャ ー ナ リ ス ト が 設 立 ・ 運 営 す る オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア の う ち 、印 刷 メ デ ィ ア に 重 心 を 置 い て き た も の に 焦 点 を 当 て る 。特 に 、80 年 代 以 降 に 登 場 し た 野 党 の 汎 マ レ ー シ ア・イ ス ラ ー ム 党(Parti Islam SeMalaysia: PAS) の 機 関 紙 の Harakahや 、ア ド ボ カ シ ー 型 NGO の ア リ ラ ン( Aliran)の 月 刊 誌

Aliran MonthlyがBN か ら 圧 力 を 受 け な が ら も ど の よ う に 発 展 し て き た か を 中 心 に 議 論 す る 。 第 七 章 で 問 わ れ る の は 、 新 し い 情 報 通 信 技 術 で あ る イ ン タ ー ネ ッ ト が 、 マ レ ー シ ア の メ デ ィ ア 環 境 を ど の よ う に 変 化 さ せ た の か と い う 点 で あ る 。 そ の 際 に は 、 オ ン ラ イ ン ・ ニ ュ ー ス サ イ ト の 先 駆 者 で あ る マ レ ー シ ア キ ニ と 、 ブ ロ グ に 注 目 す る 。 マ レ ー シ ア キ ニ や ブ ロ グ に 代 表 さ れ る オ ン ラ イ ン ・ メ デ ィ ア は 、 ア ブ ド ゥ ラ 政 権 期 に 多 様 化 す る と と も に 、 影 響 力 を 増 し つ つ あ っ た こ と が 第 七 章 で は 指 摘 さ れ る 。 第 八 章 で は 、2008 年 総 選 挙 で 野 党 が 躍 進 し 、BN が 大 敗 し た 選 挙 結 果 に 基 づ き 、野 党 が ど の よ う に オ ル タ ナ テ ィ ブ・メ デ ィ ア を 活 用 し た の か 、と い う 点 と 、 受 け 手 側 の メ デ ィ ア に 対 す る 姿 勢 の 変 化 に つ い て 、 量 的 デ ー タ を 駆 使 し な が ら 明 ら か に し て い く 。第 八 章 か ら は 、2008 年 総 選 挙 時 に 依 然 と し て BN 寄 り の 報 道 を 続 け た 主 流 メ デ ィ ア に 対 抗 し て 、 野 党 が 活 用 し た オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア は 、 受 け 手 側 の 主 流 メ デ ィ ア へ の 不 信 も 影 響 し て 、 野 党 の 勝 利 に 大 き く 貢 献 し た こ と が 明 ら か に さ れ る 。 さ ら に 、 受 け 手 側 の 中 で も 、 主 流 メ デ ィ ア 不 信 が 強 い の は 、「 若 年 層 」 で あ っ た こ と が 指 摘 さ れ る 。 第 九 章 以 降 は 、 第 四 部 を 構 成 し 、 結 論 に 関 わ る 。 第 九 章 で は 、 再 び 主 流 メ デ ィ ア と そ の ジ ャ ー ナ リ ス ト に 焦 点 を 当 て て 議 論 す る 。 そ こ で は 、BN の 主 流 メ デ ィ ア 統 制 は 依 然 と し て 強 い よ う に 思 え る も の の 、 そ の 実 態 を 詳 細 に 見 て い く と 、 ア ブ ド ゥ ラ 政 権 以 降 は 主 流 メ デ ィ ア の 変 容 が 起 こ っ て い る こ と が 指 摘 さ れ る 。 そ し て 、 こ の 議 論 を 展 開 す る 際 に は 、 メ デ ィ ア の 統 制 と 自 由 化 を め ぐ る 4 つ の モ ー ド に 沿 っ て 議 論 さ れ る 。 第 九 章 で の 検 討 に よ っ て 、 主 流 メ デ ィ ア は 政

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府 統 制 と 自 由 な 報 道 を め ぐ る 、 よ り 深 刻 な ジ レ ン マ を 抱 え る よ う に な り 、 自 由 化 の 兆 し が 見 え 始 め た こ と が 指 摘 さ れ る 。

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第 二 章 体 制 移 行 期 に お け る メ デ ィ ア の 自 由 化 モ デ ル 本 章 の 目 的 は 、 権 威 主 義 体 制 か ら の 移 行 期 に お い て メ デ ィ ア の 自 由 化 が 促 進 さ れ る メ カ ニ ズ ム を 先 行 研 究 の レ ビ ュ ー を 通 じ て 明 ら か に す る こ と に あ る 。 本 章 の 構 成 は 以 下 の と お り で あ る 。 第 一 節 で は 、 本 稿 で メ デ ィ ア を め ぐ る 分 析 を 行 う 際 の 想 定 や 定 義 に 言 及 す る 。 そ こ で 明 ら か に さ れ る の は 、 分 析 対 象 と し て の メ デ ィ ア を ど の よ う に 捉 え る か と い う 点 と 、 メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム の 自 由 化 と は ど の よ う な 状 態 で あ る の か 、 と い う 点 の 2 点 で あ る 。 第 二 節 で は 、 メ デ ィ ア と 民 主 化 と の 関 係 を 分 析 し た 先 行 研 究 を 検 討 し 、 こ の 両 者 の 関 係 が 相 関 関 係 に よ っ て 捉 え ら れ る べ き で あ る こ と を 明 ら か に す る 。 第 三 節 は 、 本 稿 が 依 拠 す る メ デ ィ ア の 自 由 化 に 関 す る 分 析 モ デ ル を 提 示 す る 。 そ の 際 に 注 目 さ れ る の は 、 メ デ ィ ア の 統 制 と 自 由 化 に 関 わ る「4 つ の モ ー ド 」と 、「 オ ル タ ナ テ ィ ブ・メ デ ィ ア 」 で あ る 。 第 一 節 メ デ ィ ア を 分 析 対 象 と す る 際 の 想 定 と 定 義 第 一 項 メ デ ィ ア を 政 治 学 的 に ど の よ う に 捉 え る か 権 威 主 義 体 制 か ら の 移 行 期 の 下 で の メ デ ィ ア を 分 析 対 象 と す る 本 稿 の よ う な 研 究 に 留 ま ら ず 、 メ デ ィ ア と 政 治 と の 関 係 を 明 ら か に し よ う と す る 研 究 に は 、 常 に そ れ 自 体 で 本 来 的 な 困 難 さ が つ き ま と っ て い る 。「 メ デ ィ ア と 政 治 」と 呼 ば れ る 研 究 分 野 を 解 説 し た あ る テ キ ス ト は 、 こ の 分 野 に 関 す る 困 難 さ を 次 の よ う に 語 っ て い る 。 政 治 に お け る メ デ ィ ア の 役 割 は 何 か ? メ デ ィ ア の 重 要 性 に も か か わ ら ず 、 政 党 、 議 会 、 官 僚 制 、 利 益 集 団 、 政 治 意 識 や 投 票 行 動 な ど と 比 べ る と 、 政 治 と メ デ ィ ア の 関 係 は こ れ ま で あ ま り 扱 わ れ て こ な か っ た 。 そ れ は 、 メ デ ィ ア の 行 動 や 形 態 が 複 雑 で 、 ま た 、 接 触 す る 政 治 的 行 動 主 体 に よ っ て も 変 化 す る こ と か ら 、 一 般 化 や 理 論 化 が 困 難 な た め で あ る 。 た と え ば 、 メ デ ィ ア は 政 治 的 行 動 主 体 間 を 結 ぶ 情 報 の 橋 渡 し だ け で な く 、 メ デ ィ ア 自 身 も 政 治 的 行 動 主 体 と し て 活 動 し て い る[蒲 島 、 竹 下 、 芹 川 2007: ⅰ ]。 こ こ で は メ デ ィ ア と 政 治 と の 関 係 を 考 察 す る 際 の 問 題 点 が 2 点 挙 げ ら れ て い る 。 第 一 に 、 メ デ ィ ア の ( 政 治 的 ) 役 割 が 一 体 何 な の か 、 と い う 点 で あ る 。 第 二 に 、 政 治 学 上 、 メ デ ィ ア を ど の よ う な 存 在 と し て 捉 え て 分 析 す る か 、 と い う

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点 で あ る 。 つ ま り 、 メ デ ィ ア を ( メ デ ィ ア 本 来 の 言 葉 の 意 味 通 り ) 媒 体 と 捉 え る の か 、 政 治 的 行 動 主 体 ( ア ク タ ー ) と し て 捉 え る の か 、 あ る い は ま た 別 の 捉 え 方 が あ る の か 、 で あ る 。 以 下 の 本 稿 の 論 考 に お い て は 、 こ れ ら の 問 題 点 を 回 避 す る 必 要 が あ る 。 そ の た め に 、 こ こ で は マ ッ カ ー ゴ の メ デ ィ ア と 政 治 を め ぐ る 想 定 を 紹 介 し 、 そ れ に 検 討 を 加 え た い 。 マ ッ カ ー ゴ は メ デ ィ ア を 政 治 学 的 に 分 析 す る う え で 、 次 の 2 点 を 最 初 か ら 想 定 し て い る 。 1. メ デ ィ ア は そ れ 自 体 が 政 治 的 ア ク タ ー で あ り 、 政 治 的 制 度 で も あ る 。 2. そ の よ う な も の と し て ( メ デ ィ ア を ) 捉 え た と き 、 メ デ ィ ア は 様 々 な 政 治 的 役 割 を 果 た す 。 そ う し た 役 割 に は 、 民 主 化 移 行 や 定 着 の 過 程 を 支 持 す る 時 も あ れ ば 、民 主 化 移 行・定 着 と 全 く 反 対 の 役 割 を 果 た す 時 も あ る[McCargo 2003: 2]。 マ ッ カ ー ゴ の 第 一 の メ デ ィ ア に つ い て の 理 解 は 、 ア メ リ カ の 報 道 メ デ ィ ア (news media)の 政 治 的 役 割 を 分 析 し た ク ッ ク の 研 究 に 影 響 を 受 け て い る 。ク ッ ク は 、 ジ ャ ー ナ リ ス ト を 政 治 的 ア ク タ ー 、 報 道 メ デ ィ ア を 政 治 的 制 度 で あ る と 見 な し た 。 ジ ャ ー ナ リ ス ト と し て ア ク タ ー を 理 解 す る 点 に 関 し て は 、 政 治 学 的 な 視 点 か ら は 、 さ し た る 問 題 が 無 い と し て 、 ク ッ ク の 考 え る 政 治 制 度 と し て の 報 道 メ デ ィ ア と は 、「 超 組 織 的 な (trans-organizational)」 制 度 と し て 見 な さ れ る 。 つ ま り 、 そ れ は 国 家 と 市 民 社 会 の 中 間 的 組 織 と し て 存 在 す る 政 党 と 同 様 な 組 織 で あ る[Cook 2006: 70, 109-110]。こ の ク ッ ク の 理 解 に 従 え ば 、ニ ュ ー ス の 提 供 と い う 形 で 価 値 の 権 威 的 配 分 に 関 わ る 報 道 メ デ ィ ア の 内 部 で は 、 ニ ュ ー ス と い う 「 生 産 物 」 が 完 成 す る ま で に 、 記 事 の 執 筆 ・ 編 集 に 関 わ る ジ ャ ー ナ リ ス ト だ け で は な く 、( 報 道 メ デ ィ ア を 所 有 す る )企 業 家 、( 報 道 対 象 と し て の ) 政 治 家 や 市 民 団 体 な ど 様 々 な ア ク タ ー が 影 響 力 を 行 使 す る 「 場 」 と し て 、 報 道 メ デ ィ ア を 捉 え る こ と が 可 能 で あ る 。 ク ッ ク の 報 道 メ デ ィ ア に 関 す る 、 こ う し た 見 方 は 「 新 制 度 主 義 」 ア プ ロ ー チ と も 呼 ば れ 、 ジ ャ ー ナ リ ズ ム 研 究 や コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 研 究 に 新 し い 地 平 を 開 い た[伊 藤 2007]。 た だ し 、 こ う し た ク ッ ク の ア プ ロ ー チ の 有 効 性 は 、 彼 が 分 析 対 象 と す る 報 道 メ デ ィ ア に 限 ら れ る こ と に は 留 意 す る 必 要 が あ る 。 そ し て 、 分 析 対 象 を 報 道 メ デ ィ ア に 限 定 す る こ と に よ る 研 究 上 の 限 界 は 近 年 、 目 立 ち つ つ あ る よ う に も 思 え る 。 ク ッ ク の ア プ ロ ー チ の 限 界 を 考 え る う え で 、 情 報 通 信 技 術 の 発 展 に よ っ て 登 場 し た イ ン タ ー ネ ッ ト の ブ ロ グ は 興 味 深 い 事 例 を 示 し て く れ る 。 近 年 の ブ ロ グ と そ れ を 執 筆 す る ブ ロ ガ ー の 活 躍 は 著 し く 、 特 定 の 分 野 や イ ベ ン ト に お い

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て は 、報 道 メ デ ィ ア 以 上 に 読 者 へ の 実 際 の 政 治 行 動 に 影 響 を 与 え る 場 合 が あ る 。 そ の 典 型 例 と し て 、 し ば し ば 指 摘 さ れ る の が 、 近 年 の ア メ リ カ の 大 統 領 選 挙 に お け る ブ ロ ガ ー の 活 躍 で あ ろ う[池 尾 2009]。し か し 、ブ ロ グ は 果 た し て ク ッ ク の 想 定 す る 政 治 的 制 度 と し て 見 な す こ と が で き る の で あ ろ う か 。ブ ロ グ の 場 合 、 書 き 手 で あ り 、 発 表 者 で あ る ブ ロ ガ ー は 通 常 1 人 で あ り 、彼 は 記 事 を イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ て 配 信 す る 。 こ の 過 程 に お い て は 、 報 道 メ デ ィ ア に み ら れ る よ う な 様 々 な ア ク タ ー が 「 生 産 物 」 と し て の 記 事 の 完 成 ま で に 影 響 力 を 行 使 し あ う と い う ク ッ ク の ア プ ロ ー チ は 適 用 で き そ う に な い 。 ブ ロ グ の 世 界 は 多 様 で あ る た め 、 時 に は 報 道 メ デ ィ ア と 同 等 の 活 躍 を す る ブ ロ グ が あ り 、 あ る い は あ る ブ ロ グ の 記 事 が 報 道 メ デ ィ ア の 同 種 の 記 事 以 上 の 社 会 ・ 政 治 的 影 響 力 を 持 つ と い う こ と も 現 に 起 こ っ て い る 。 こ う し た 研 究 上 の 問 題 を 解 決 す る 方 法 の 1 つ が 、マ ッ カ ー ゴ の よ う に メ デ ィ ア を 政 治 的 ア ク タ ー で あ り 、 政 治 制 度 で あ る と 考 え る 方 法 で あ ろ う[McCargo 2003]。 本 研 究 は 基 本 的 に 、 マ ッ カ ー ゴ の ア プ ロ ー チ を 採 用 す る 。 た だ し 、 マ ッ カ ー ゴ の 研 究 で は 、 政 治 的 ア ク タ ー と 政 治 制 度 を 列 挙 し て い る に 留 ま っ て い る た め 、 本 研 究 で は 、 メ デ ィ ア と は 、 以 下 の 図 1 の よ う に 独 自 の 境 界 を 持 ち な が ら も 重 な り 合 う 箇 所 を 持 つ 概 念 で あ る と 捉 え る こ と に し た い 。 図 1 政 治 学 上 の 研 究 対 象 と し て の メ デ ィ ア の 捉 え 方 出 所: 筆 者 作 成 他 方 で 、 マ ッ カ ー ゴ の メ デ ィ ア を め ぐ る 第 二 の 理 解 は 、 メ デ ィ ア の 「 政 治 的 役 割 」 に つ い て の 理 解 で あ る 。 彼 の 分 類 で は 、 メ デ ィ ア の 政 治 的 役 割 と は 「 安 定 の 主 体 (agent of stability)」、「 抑 制 の 主 体 ( agent of restraint)」、「 変 化 の 主 体 (agent of change)」 の 3 つ に 分 類 さ れ る と い う [McCargo 2003: 3-4]。 こ の 点 に 関 し て は 、 本 章 第 二 節 の 第 二 項 で マ ッ カ ー ゴ 以 外 の 研 究 と ま と め て 議 論 を 行 い た い 。 そ こ で 、 と り あ え ず 、 現 段 階 で は メ デ ィ ア の 政 治 的 役 割 が 単 一 の 政 治 的 ア ク タ ー 政 治 制 度

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も の で な い こ と だ け を 確 認 し て 行 論 を 進 め よ う 。 第 二 項 自 由 な メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム の 定 義 次 に 、「 自 由 な メ デ ィ ア・シ ス テ ム 」の 定 義 に つ い て 考 え た い 。こ こ で 議 論 す る 「 メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム 」 と は 、 個 々 の メ デ ィ ア で は な く 、 総 体 と し て の メ デ ィ ア が お か れ た 状 態 を 指 し て い る 。 こ こ で の 定 義 の 問 題 に つ い て 換 言 す れ ば 、 そ も そ も 、 あ る 国 に お い て 、 メ デ ィ ア が 「 自 由 」 で あ る と か 、 メ デ ィ ア の 「 自 由 化 」 が 進 む と 言 っ た 時 に は 、 ど の よ う な 状 態 が 想 定 さ れ る の か 、 と い う 問 い に 関 わ る 問 題 で あ る 。 こ の 定 義 の 問 題 に 関 し て 参 考 に な る 議 論 は 、 ロ ズ ミ ロ ウ ィ ッ ツ に よ る 「 自 由 で 独 立 し た メ デ ィ ア 」 の 議 論 で あ る[Rozumilowicz 2002]。 ロ ズ ミ ロ ウ ィ ッ ツ は 体 制 移 行 期 に あ る メ デ ィ ア を 主 に 念 頭 に 置 き 、 メ デ ィ ア 改 革 の プ ロ セ ス で は 自 由 で 独 立 し た メ デ ィ ア ( ・ シ ス テ ム ) が 必 要 で あ る こ と を 指 摘 し て い る 。12 の 先 行 研 究 の 検 討 を 通 じ て ロ ズ ミ ロ ウ ィ ッ ツ は 、民 主 主 義 を 構 成 す る 要 素 は「 競 争 と 参 加 」 で あ る と す る 。 そ し て 「 競 争 と 参 加 」 を メ デ ィ ア の 文 脈 の 中 で 捉 え な お す こ と で 、「 自 由 で 独 立 し た メ デ ィ ア 」 と い う 概 念 が 提 示 さ れ る 。 た だ し 、 ロ ズ ミ ロ ウ ィ ッ ツ は さ ら に 、「 メ デ ィ ア の 独 立 と 自 由 の 核 心 は 、政 府 、市 場 、あ る い は 支 配 的 な 社 会 勢 力 の い ず れ に 拘 わ ら ず 、 メ デ ィ ア の 非 独 占 に あ る よ う に 思 え る 」 と も 指 摘 し て い る[Rozumilowicz 2002: 13]。 ロ ズ ミ ロ ウ ィ ッ ツ の 「 自 由 で 独 立 し た メ デ ィ ア 」 の 核 心 で あ る 「 メ デ ィ ア の 非 独 占 」 に つ い て 、 別 の 論 者 の 観 点 か ら 考 え て み よ う 。 メ デ ィ ア 研 究 者 の カ ラ ン は 、「 民 主 的 な メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム 」 と し て 5 部 門 の メ デ ィ ア が 存 在 す る メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム を 提 案 し た[Curran 2005: 138-144]。 彼 の 提 案 す る 「 民 主 的 な メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム 」 と は 、 異 な る 理 念 や 組 織 原 理 を 持 つ メ デ ィ ア 部 門 の 総 体 と し て メ デ ィ ア ・ シ ス テ ム が 構 成 さ れ る こ と で 、 多 元 性 が 維 持 さ れ て い る 状 態 を 指 す 。 彼 の モ デ ル で は 、 中 核 に 公 共 サ ー ビ ス 放 送 (Public Service TV)が お か れ 、そ の 周 り を 取 り 囲 む よ う に 民 間 部 門(Private Sector)、市 民 部 門( Civic Sector)、専 門 職 部 門( Professional Sector)、社 会 的 市 場 部 門( Social Market Sector) が 配 置 さ れ て い た2( 図 2 参 照 )。 公 共 サ ー ビ ス 放 送 と は 、 国 営 ( 公 営 ) テ レ ビ 局 の こ と で あ り 、 カ ラ ン の モ デ ル で は メ デ ィ ア・シ ス テ ム の 中 核 で あ る と さ れ る 。こ の 中 核 部 分 で は 、「 人 々 が 協 力 し て 社 会 の 運 営 に 関 す る 互 恵 的 な 議 論 に 従 事 す る 場 所 で あ る 」と さ れ 、「 公 2 原 著 の 1991 年 度 版 の 邦 訳 で は 、 民 間 部 門 は 私 的 企 業 部 門 と な っ て い る [ カ ラ ン 1995: 172]。

表 1 主 流 メ デ ィ ア と オ ル タ ナ テ ィ ブ ・ メ デ ィ ア の 理 念 型 規 模 ( 設 立 ・ 運 営 上 、 必 要 な 人 員 ・ 資 本 ) 政 治 学 的な 捉 え 方 メ デ ィ ア 形 態 体 制 移 行 期 の 自 由な メ デ ィア・シ ス テ ム 政 治 的 役割 主 な 担 い 手 主 流 メ デ ィ ア 大 政 治 的 制度 放 送 ( テ レ ビ 、ラ ジ オ ) 出 版 ( 日 刊 紙 、 雑 誌 ) 公 共 部 門民 間 部 門 安 定 の 主体抑 制
表 2-1 2004 年 総 選 挙 で の テ レ ビ 各 局 の ニ ュ ー ス ・ プ ロ グ ラ ム の 報 道
表 4 BN 体 制 下 の 歴 代 内 務 大 臣 ( 国 内 治 安 大 臣 ) 内 務 大 臣 就 任 年 補 足 情 報 ガ ザ リ ・ シ ャ フ ィ (Muhammad  Ghazali  Shafie) 1973-1981 ム サ ・ ヒ タ ム 1981-1986 副 首 相 と 兼 任 マ ハ テ ィ ー ル・モ ハ マ ド 1986-1999 首 相 と 兼 任 ア ブ ド ゥ ラ ・ バ ダ ウ ィ 1999-2008 副 首 相 か ら 首 相 の 就 任 時 に 兼 任 2004
表 5 2008 年 段 階 で の 主 要 メ デ ィ ア 企 業 の オ ー ナ ー シ ッ プ グ ル ー プ 名 主 な メ デ ィ ア 主 な オ ー ナ ー ( 株 主 ) 備 考 M e d i a   P r i m a   ・ N S T P ( N S T 、 B e r it a   H ar i a n 、 H ar i an M e t ro 、 M a l ay   M ai l ) ・ T V 3 ・ 8 T V ・ T V 7 ・ T V 9 ・ 被 雇 用 者 退 職 積立
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