靱
信託財産に対する受託者の権利に関する近時の判例について
石 尾 賢 二
は じ め に 金
銭 信 託 の受 託 者 に よ る解 約 及 び そ の際 の信 託 財 産 に対 す る受 託者 の権 利 に関 す る判 例 が 二件 存 す る︒ 受 託 者 であ る信 託 銀行 が合 同 運 用指 定 金 銭 信 託 あ る いは 金 銭 信 託 以外 の金 銭 の信 託 に お いて 受 益 者 の破 産 あ る いは 解散 の際 貸に 付 債 権 と受 益 権 を相 殺 し た︑ あ る いは 信 託 を解 除 し︑ 信 託 財 産 に対 す る留 置 権 を 実 行 し 弁︑ 済 充 当 し︑ ま た貸 付 債 権 と受 益権 を 相殺 し た事 例 であ る︒ いず れ も 一審 判 断 と 異 な り
︑ 控訴 審 では 信 託 銀 行 の主 張 が 認 めら れ︑ 最 高 裁 では 上 告 が 受 理 さ れ な か たっ
︒ こ れら 判の 決 か ら信 託 の性 質 に つ いて 考 察 す る︒ な お︑ 本 稿 おに け る信 託法 条 文 は 旧信 託 法 であ り
︑ 改 正 信 託法 に つい ては そ の旨 明 記 す る︒
信託財産に対する受託者の権利に関する近時の判例について
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一 受益 者 破 産 の場 合 の受 託 者 の相 殺 に 関 す る事 例
︵京都 地 判 平成 一二 年 二月 一八 日金 法 一五 九 二号 五
〇頁 大︑ 阪 高 判平 成 一二 年 一 月一 二九 判日 時 一七 四 一号 九 二頁
︑ 最 判 平成 一三 年 月七 一三 日金 法 一七 五 二号 五 三頁
︱ 最高 裁 は上 告 棄 却
︑ 不受
︶理 1
事 案 の概 要 原告 は平 成 八年 六 月 三 日 に破 産宣 告 を 受 け た会 社 の破 産 管 財 人 であ る︒ 破 産会 社 は信 託 銀 行 であ る被 告 に対 し て平 成 三年 月七 二日 信︑ 託 期 間 同は 日 か ら 元本 支 払 期 日
︵平成 一〇 年 月七 二日
︶ の前 日 ま で の約 定 合で 同 運用 指 定 金 銭 信 託 に 二 日︑ 合 計 億一 円信 託 たし
︒ 原告 は 破︑ 産 宣 告 のな さ れ た 日 破︑ 産 会 社 が本 件 信 託 に か か る元 本 及び 収 益 配 当 金 の入 金 先 と し て指 定 し て たい 座口 を 解 約 し た 被︒ 告 は 被︑ 告 別の 段 預 金 座口 に︑ 成平 一〇 年 七 月 一日 に︑ 件本 信 託 の 同年 六 月 三
〇 日 ま で の収 益 配 当金 六 一〇 万 四 三 二 四円 を
︑ 同年 月七 二 日 に︑ 元 本 一億 円 及 び 月同 の 一日 分 の収 益 配 当 金 三 万 六 三 四 五 を円 そ れ ぞ 振れ り 込 んだ 被︒ 告 は 同︑ 年 七 月 二 日時 点 で︑ 破 産会 社 対に し︑ 貸 付 金 債 権 有を し て いた
︒ 被 告 は︑ 原 告 に 対 し
︑ 同年 七 日到 達 の書 面 で
︑ そ の 一部 の債 権 を も てっ
︑ 原 告 の元 本 及 び 収 益 配 当金 交付 請 求 権 と
︑ そ の対 当 額 にお いて 相殺 す る旨 の意 思表 示 を し た そ︒ れ 対に し て破 産 管 財 人 あで る原 告 が 被︑ 告 に対 し︑ 合 同運 用 指 定 金 銭 信 託契 約 の終 了 に基 づ き 破︑ 産 者 が被 告 に信 託 し た 元 本 一億 円 及 収び 益 配 当金 の内 金 六 一〇 万 四 三 二四 円 の支 払 いを 求 め た事 案 あで る 即︒ ち 合︑ 同運 用指 定 金 銭 信 託受 益 者 破の 産 の際 に︑ 信 託銀 行 が受 益 者 対に す る貸 付 金 と受 益 者 の元 本
・収 益 配当 交 付 請 求 権 を相 殺 し た のに 対 し て︑ 受 益 者 の破 産 管 財 人 が 信託 銀 行 に合 同運 用指 定金 銭 信 託 契 約終 了 よに る 元本 と収 益 当配 金 の支 払 いを 請 求 たし 事 例 であ り 信︑ 託 銀 行 信の 託終 了 の際 の受 益 者 の貸 付金 と の相 殺
法政研究11巻1・ 2・ 3・ 4号 (2007年)
が認 めら れ る のか 否 か が争 わ れ た
︒ 2
一審 判 決 一審 は まず 信 託 に つ いて 以 下 のよ う に述 べ る︒
﹁信 託 と は︑ 委 託 者 が法 律 行 為 に よ つて 受 託 者 に財 産権 を 帰 属 さ せ つ つ︑ 同時 に︑ そ の財 産 を 一定 の目 的 に従 てっ 委︑ 託 者 のた め に管 理
・処 分 す べき 拘 束 を 加え ると こ ろに 成 立す る法 律 関 係 を うい
︵信 託 法 一条
︶︒ す なわ ち 受︑ 託 者 が 財 産 権 名の 義 者 と な り
︑ 財 産 の管 理 o処 分 の権 限 を 取 得 す る が
︑ 右 権 限 は自 己 のた め 与に え ら れ たも ので は なく 他︑ 人 のた め に 一定 の目 的 に従 てっ 行 使 なし け れ ばな ら な いの であ っ て︑ 信 託 財産 は︑ 実 体 的 に受 託者 の固 有 財産 か ら 区 別 さ れ る特 性 を持 つ
︵信 託 財 産 独の 立 性 と
︒ そ し て︑ 信 託 法 一七 条 の
﹁信 託 財産 属に す る債 権
﹂ と
﹁信 託 財 産 に 属 さ な い債 務
﹂ と の相 殺 を 禁止 に つ いて 信︑ 託 財 産 が受 者託 の財 産 か ら 独 立 し たも ので あ り 別︑ 個 の法 主 体 間 の債 権 債 務 の相 殺 を禁 止 す るも のと し 本︑ 件 にお いて
︑ 受 益 債 権 と受 託 者 個 人 の貸 付 金 債 権 の受 託 者 によ る相 殺 が
﹁信 託 財 産 属に す る債 務
﹂ と
﹁信 託 財 産 に属 し な い債 権﹂ の相 殺 と した 上 で︑ 同様 に別 個 の法 主 体 間 の債 権 債 務 であ り
︑ それ ら の相 殺 は 一七 条 の趣 旨 に 反 し て認 め られ な いと す る
︒ そ し て︑ 信 託 終 了後 の元 本 o収 益 配当 金 交 付 請 求 権 に つ いて も
︑ 信 託 契 約 と 別は の単 な る金 銭 債権 と見 る こと が でき ず
︑ こ の場 合 相に 殺 を認 め る こと は 受︑ 託 者 自が 己 の地 位 を 利 用 し て利 益 を 図 てっ は な ら な いと うい 一七 条 の 趣 旨 に 反す ると す る︒ 信
託 の特 質 を 受 益 者 のた め に管 理処 分 す べき 拘 束 を伴 たっ 受 託者 への 財産 帰 属 であ り 信︑ 託 財 産 は受 託 者 の固 有 財
信託財産に対する受託者の権利に関する近時の判例について
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産 と は 区 別 さ れ る と し︑ 信 託 法 七一 条 に つい ては
︑ 別個 の法 主 体 間 の債 権 債 務 の相 殺 を 禁 止す るも のと し 信︑ 託 財産 に 属す る債 務 と 信 託 財 産 に 属 し な い債 権 と 相の 殺 も 禁 止 さ れ ると す る の であ る
︒ 3
二審 判 決 二審 は 一七 条 趣の 旨 を 以 下 のよ う 述に べ る︒
﹁信 託 法 七一 条 は信 託 財 産 相の 殺 禁 止 を 定 め︑ 信 託 財 産 属に す る債 権 と 信 託 財 産 属に せざ る債 務 と は 相殺 を 為 す とこ を得 ず と︑ 規 定 し て いる
︒ こ れ は 信︑ 託 財産 独の 性立
︑ ひ いて は受 益 者 の保 護 のた め︑ 受 者託 の個 人債 務 債の 権 者 が そ の債 権 と 受 託者 名 義 にな てっ いる 信 託 財産 帰に 属す きべ 同 人 の債 務 と を 相 殺 す る こと を禁 たじ も ので あ る︒ こ のこ と は そ の立 法 理由 に お いて
﹃相 手 方 二対 信シ 託 財産 二属 ス ル権 利 有ヲ 同シ 時 二固 有 ノ債 務 ヲ負 フ場 合
︵例 ヘ ハ信 託 財産 ヲ預 入 タレ ル銀 行
︹第 三者 あで る銀 行
︺ 二対 受シ 託 者 力 有固 ノ取 引 二於 ケ 債ル 務 負ヲ フ場 合︶ 二於 テ ハ⁝
⁝特 二之 ヲ禁 止 ス之 ヲ許 セ ハ信 託 財 産 ヲ受 託 者 ノ固 有 債 務 ノ弁 済 二充 ツル コト ヲ得 セ シ ム ルト 同 一ノ 結 果 ヲ生 スレ ハナ リ﹄ と 説 明 さ れ て いる
﹂︒ 信 託 財 産 の独 立 性 に つい ては 以 下 のよ う 述に べる
︒
﹁信 託 は委 託 者 の信 託 目 的 を 達 す るた め︑ 信 託 行 為 に よ てつ 信︑ 託 財 産 を 受 託 者 に 帰 属 さ せ て︑ 同 人 に︑ そ の財 産 権 を自 己 又 は 他 人
︵受 益 者
︶ のた め そ の財 産 の管 理 又 は 処 分 を さ せ るも の あで る
︵一 条
︶︒ そ こ で︑ 信 託 法 は受 益 者 の 利益 を保 護 す る た め︑ 信 託 財産 を受 託 者 財の 産 か ら 一定 独の 立 し た取 り 扱 いを 規 定 し て いる
︒ 添 附 混︑ 同 排の 除
︵信 託 法 一八 条
︑
〇三 条
︶︑ 受 託 者 の費 用
︑ 損失 の求 償 六︵三 条
〜 三 八条
︶︑ 受 託者 の賠 償 責 任
︵二七
︑ 二九 条︶ や第 三者 に対 す る 信 託 財 産 の処 分 取の 消 権
︵三条
︶ な ど が これ であ る﹂
︒ そし て︑ 信 託 財 産 の別 主 体 性 から 本 件 相殺 に 七一 条 を 類 推 適 用 す る こと 相は 当 でな く 信︑ 託 存 続 中 に つ いて は ︑ 一 ︑
・受 益 債 権 と 受 託 者 の委 託 者 に対 す る金 銭 債権 は同
法政研究ll巻1・ 2・ 3・ 4号 (2007年)
信託財産に対する受託者の権利に関する近時の判例について
種 の目 的 を 有 す るも ので なく
︑ 民法 五〇 五条 一項 所 定 の要 件 を欠 く
︑ 二︑
・弁 期済 未 到 来 金 銭 信託 に つ いて 貸 金 回 収 都の 合 で金 銭 信 託 の返 済義 務 を 発 生 さ せ︑ 受 動債 権 と す る こと は きで な い
︵本件 債 権 に つ いて は信 託 期 間満 了後 の債 権 であ り こ の問 題 では な い︶
︑ 三︑
・信 託 法 三 六条
︑ 三 七条 に 規定 す るも の以 外 に受 託 者 が 信 託 財産 優に 先 権 を 有 し な いと うい 意 味 を含 み︑ 信託 財 産 に つ いて 受 託者 は 一般 債 権 者 よ りも 優 先 した 地位 にあ る べき でな い︒ 信託 終 了後 は
︑ 信 託 法 六 三条 によ り 原信 託 の延 と長 し て法 定 信 託 が成 立す る︒ 合 意 相 殺 に つ いて は 信︑ 託 存 続 中 の相 殺合 意 特は 段 の事 情 のな い限 り効 力 が な いと す る が
︵債権 の同 種 性 要 件 は 合 意 で排 除 可 能 であ る が︑ そ の際 は債 権 を 特定 す るこ と が必 要 あで り 信︑ 託 財 産 と貸 金 債 権 を相 殺 す る合 意 信は 託 財 産 管 理 の余 地 を な く し︑ 信 託 を終 了 さ せ るも ので あ る た め 慎に 重 な 合 意 が 必要 であ る 弁︒ 済 期 未 到 来も 合 意 によ り期 限 の利 益 を 放 棄 でき る が︑ 信 託を 途 中 で打 ち 切 る明 確 な意 思 が 必 要 であ る︒ 信 託 法 三 六条
︑ 三 七条 の適 用を 回避 し 信︑ 託 を維 持 し な が ら 否︑ 定 し かね な いよ う な合 意 も 可 能 では あ る︒ いず もれ 銀 行 取 引 約定 書 七 条 一項 だ け では 不 十 分 で あ る︶
︑ 信 託 終 了 後 の合 意 は 元 本
︑ 収 益 金 が受 益 者 に移 転 し
︑ 貸 金 債 権 と の合 意 は 通 常 の相 殺 であ り 有︑ 効 と す る︒ 信 託 終 了 後
︑ 信 託 法 六 三条 に よ る法 定 信 託 は 元本 等 の移 転 と うい 目 的 に限 ら れ 原︑ 信 託 と 同様 の信 財託 産 の管 理運 用 と うい 目的 が あ るわ け では な い︒ 本 件 にお いて 信︑ 託 終 了後
︑ 日座 解が 約 され て いる た め に 元︑ 本等 は信 託銀 行 の別 段 金預 振に り 込 ま れ て いる
︒ こ の別 段 預 金 は 一時 保 管 金 の性 質 を 有 す る︒ 本 件 当事 者 は こ のよ う な満 期 後 の金 銭 信 託 の元 本 収︑ 益 金 と これ を 引 き当 てと し てな さ たれ 付貸 金 に つい て︑ 銀 行 引取 約 定書 七 条 一項 よに る相 殺 の合 意 の存 在 を 認 識 し て いた と 考 え ら れ︑ 反対 の意 思 表 示 など 特 段 の事 情 が認 めら れな い限 り
︑ 合 意 相 殺 は有 効 であ ると す る︒
法政研究11巻1・ 2・ 3・.4号 (2007年)
即 ち 信︑ 託 存 続 中 の信 託 財 産 に属 す る債 務 と 信 託 財産 属に し な 債い 権 と 相の 殺 は 別︑ 主 体 間 相の 殺 止禁 と うい こと では なく
︑ 同種 の目 的 はで な い︑ 弁 期済 未 到来 受︑ 託 者 三は 六条
︑ 七三 条 以外 の優 先 的 地 位 なに いと うい こと から 否 定 さ うれ る
︵信託 存 続 中 の合 意 相殺 も 可能 で あは る が︑ 不 利益 を 明 確 に認 識 し たも ので な け れ ば な ずら
︑ 銀行 取 引約 定 書 はで 不十 分 であ る︶
︒ 信 託 終 了後 法︑ 定 相 殺 は法 定 信 託 の成 立 に より 認 めら なれ いが
︑ 合 意 相 殺 は信 託 目 的 が 元 本等 の移 転 に限 ら れ るた め に有 効 あで ると す る ので あ る
︒ 4
問 題 点 と諸 見解 こ の事 例 で問 題 と さ れ た のは 以 下 点の あで る︒ 信 託存 続中
︑ 受 託 者 に よ る信 託財 産 属に す る債 務 と信 託 財 産 属に し な い債 権 と の法 定 相 殺 に つい ては 信 託 法 七一 条 に よ てっ 認 めら れ な い のか
︑ 三 六条
︑ 三 七条 の反 対解 釈 よに てつ 認 め ら れ な い のか 合︑ 意 相 殺 は 可 能 あで る のか
︒ 信 託 終 了後 の受 託者 によ る信 託 財 産 に 属 す る債 務 と 信 託 財産 属に なし い債 権 と の法 定 相 殺
︑ 合 意 相殺 は可 能 あで る のか
︒
︶︵1 信 託法 七一 条 の趣 旨 に よ る相 殺 に つい て 一審 判 決 の うい よ う 別に 主体 間 の相 殺 は 七一 条 違 反 であ る とす る こと に対 し ては 批︑ 判 が多 い︒ 一七 条 に つい ては 以 下 のよ う に いわ れ る
︒ 四宮
﹃信 託法
﹄ は相 殺 禁 上 信を 託 財 産 独の 立 性 と し て扱 い
︑
﹁信 託 財 産 属に す る﹂
・甲 に対 す る
・債 権 と
﹁受 託 者