201 中・長距離走のトレーニング内容の分析方法に関する研究(小原)
中・長距離走めトレーニング内容の 分析方法に関する研究
小 原 達 朗
A Study on the Method for Analysis of Training Contents on the Middle and Long Distance Running
Tatsuro OBARA
Abstract
Though physical resources(V2max and O2Debtmax)are equal ievel in the top−class middle and long distance runners,their physical performance show the different recor(is.This main cause is due to the incompletness of the method for analysis of training contents.
And so,the purpose of this study is to devise the analysis table of train−
ing contents based on the kind,of aerobic work capacity as the aims in training,
moreover to use the quantitive expression of training contents based on the physi−
cal performance,and to attempt the analysis of practical training data.
As the result,it was cleared up to agree considerably with physical per−
formance or physical resources and training contents.Therefore,this method for analysis of training contents was recognited.
1.緒 言
最大酸素摂取量(VO、max)は,中・長距離走者の身体資源(全身持久性)を量的に 示す重要な指標とされ,中・長距離走の競技成績と高い相関のあることは,周知の事実で
あるQ2),9),10),16)
三浦らは14),世界および目本の一流選手のVO,maxと5000mの記録とを比較し,
記録の上位者ほどVO、maXが大きい傾向にあるが,これは一般的傾向であり,記録の下 位群にも上位群と同等のVO、maxを示すものがみられ,このことは,同じ大きさのVO、
202
長崎大学教育学部教育科学研究報告 第25号
maxを示したものでも,記録にはかなりの幅があることを指摘している。
これらの事実は,全身持久性を,比較的短時間にかつ,一過性に出現するVO2maxのみ により評価することの困難さを示している。
そこで,金原ら7)は,トレーニング目標とする全身持久性のとらえ方に関して,中・長 距離走のいくつかの記録水準などを手がかりにして理論的に考察し,次のような四種の分 類を示している。
さらに,
原型的な持続トレーニング法,インターバルトレーニング法およびレペティショントレー ニング法の3種について関連づけて,
(1)持続トレーニング法は,有気的全身運動過程における酸素摂取水準の上限あるいは それに近い水準の持続能力および有気的エネルギー源の供給能力の養成を主なねらい とする。
(2)インターバルトレーニング法および有気的持久性(短距離のようなスピードの出し 方をねらいとしない)を主なねらいとする(3)レペテイショントレーニング法は,
取素摂取水準を高くするのに,いいかえると,VO,maxの増大にとくに有効である とされてきたが,強度と頻度をかえることにより最大酸素摂取水準に近い高い酸素摂 取水準の持続能力をも副次的なねらいとする。
という位置づけを行っている。
中・長距離走のトレーニング手段は,以上のほかに,競技会を含めたタイムトライアル およびファルトレーク走などをあげることができる。これらのトレーニング法には,それ ぞれ高めたトレーニングの生理学的および走運動の技術的ねらいや,そのための負荷が考
慮されている1),6),7),8),13)。
Roskamm15)や,Shephard17)は,トレーニングの条件として,トレーニングの強 度(質),時間あるいは距離,頻度の重要性を指摘している。しかしながら,各々の競技 者やコーチにとっては,種々のトレーニング法を経験的にあるいは競技季節に合わせて組 合せているのが現実であろう。したがって,個々の競技者に至適なトレーニング強度・時 間・頻度について定量的に判定することは困難であり,ねらいとするトレーニングの効果
も目的まで達しない場合も生じている。
そこで,本研究では,現実に即してトレーニング内容を各距離のベストタイムを基準に して,定量的に表わし,高めたいトレーニングのねらいを全身持久性の種類に即して適確 に判断し得えるトレーニング内容の分析方法について検討することを目的とする。具体的 には,4名の中・長距離走者の身体資源,競技成績およびトレーニング内容を用いて本分 析方法の妥当性について検討を試みた。
最大酸素摂取水準への立上りの速さに関する能力 最大酸素摂取能力
高い酸素摂取水準(最大酸素摂取水準に近い)の持続能力
有気的エネルギー源の筋および肝臓への蓄積能力(有気的エネルギー源の供給 能力)
注:()内は,小原の加筆
これらを全身持久性トレーニング手段としての各種のトレーニング法の中から
︵1︶︵2︶︵3︶︵4︶
203 中・長距離走のトレーニング内容の分析方法に関する研究(小原)
2。方『 法
(1)対象者
中・長距離走とも,日本のトップレベルの選手各1名ずつ2名,学生選手1名ずっ2名 の計4名を対象とした。
それぞれの身体的特性については,表1に示した。ただし,T.IshiiおよびM.Hattori については,日本体育協会スポーツ科学研究所報10)から引用し,M.Itoについては,
黒田ら11)の方式に準じて測定した。T.Takaiは資料が得られなかった。
Table :L Physical characteristics of subjects
表ユ対象者の身体的特性
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500π 3 38 4
M.Ito 25 168.5 56.5 4.30 76.3 10.02 177.3
800篇 1 52タ9
500篇 4,03 6
M.Hattori 21 164.5 55.5 3.85 69.3 5.66 101.9
5000ηし 14 11 O
arathon2。13 13 0
T.Taka置 21 ユ63.0 51.0
1500篇 4 02 6
000πし 14 47 4
(2)分析方法 (a)定量化の方法
トレーニングの内容は,各対象者のトレーニング記録より,下記の期間の1年分を用い た。ただし,T,lshiiについては,10ケ月間である。
T.Ishii M.Ito M. Hattori
T.Takai
以上の期間について,
と頻度により表2〜5のような分布表を作成した。強度は次式により算出される。
Tmax
−Tx彩 x彩
1975年1月〜1975年10月 1975年7月〜1976年6月 1975年1月〜1975年12月 1974年7月〜1975年6月
それぞれの対象者が常用しているトレーニング距離での強度(彩)
Tmax :ベストタイム(秒)
x彩 :ベストタイム対する割合(%)
Tx% :ベストタイムのx彩のときの走行タイム。
頻度は,ここでは,年間のトレーニング回数で表わした。 ()内の数字は,インター バルあるいはレペテイショントレーニングの1回の年間平均本数である。
(b)全身持久性の種数に即した負荷の分類方法
走距離と酸素摂取量および酸素負債量の比率についてMathe宙sとFox12),清水ら18)
および石河4)は,図1に示すような実測値あるいは推測値を報告している。図の実線は,
204長崎大学教育学部教育科学研究報告 第25号
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205中・長距離走のトレーニング内容の分析方法に関する研究(小原)
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206長崎大学教育学部教育科学研究報告 第25号
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207中・長距離走のトレーニング内容の分析方法に関する研究(小原)
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208
長崎大学教育学部教育科学研究報告 第25号
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Fig l Percentage of distance and euergy sources(aerobic anaerobic)
図 1 走行距離と有気的・無気的エネルギーの比率
有気的エネルギー源の供給過程の占める割合,破線は,無気的エネルギー源の供給過程の 占める割合について近似的に作図したものである。これらの値は,酸素摂取水準あるいは 逆に酸素負債水準による全身持久性のとらえ方に着目して,A〜Eの距離による5種類の
ランクに分類できよう(表6)。
これらは,トレーニングに用いる距離のベストタイムに近いところでトレニングした場 合の1回の負荷のエネルギー供給過程の内訳について分類したものである。しかし,現実
には,必ずしもトレーニング手段によっては,各距離のベストタイムで走行することはな い。本対象者の場合,いずれの距離においてもベストタイムの62〜98%(T62〜T98%)
の範囲のスピードを使ったトレーニングを実施している。また,いくつかの競技会での記 録をベストタイムと比較してみると,約96〜100%の範囲にあり,自己記録の更新のない 限り,T96%以上は,ベストタイムに相当するトレーニングスピードといえよう。
そこで今回は,トレーニング強度を
(原則)
ランク1:T90%2{上 少ない
↑ ランクE :T80〜T89%
くり返し回数 ランク皿 :T70〜T79%
↓
ランクIV:T69彩以下 多い
の4種に分類した。ただし,ランク1は,くり返し回数が少なくランクlVに近づくにつ
209 中・長距離走のトレーニング内容の分析方法に関する研究(小原)
れてくり返し回数が多くなることは自明の原則である。以上の点を理解した上で,距離に よるA〜Eのランクと強度による1〜Wのランクを組合せることによって,無気的および 有気的持久性の種類に即したトレーニング負荷の分類を行った。それが,表6である。
Table6
表6
Classification of training roa(1based on the kind of aerobic work capacity 全身持久性の種類に着目したトレーニング負荷の分類
ベス トタイ
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ラン
距 離 酸 素 債量
酸 素
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ク (%) (%)
レペティション 1:最大酸素負債能力とスピード
トレーニング法 ∬:高い酸素摂取水準の立上りの速さ
A 200篇 92 8 1 最大酸素摂取能力(一過性)
以下 インターバル 皿1最大酸素摂取能力(一過性)
トレーニング法 有気的エネルギー源の供給能力
レペティション 1:高い酸素負債水準の持続能力
300⑳ 87 13 トレーニング法 高い酸素摂取水準への立上りの速さ
B 〜 1 豆:最大酸素摂取能力(一過性)
600鵠 75 25 インターバル 皿:最大酸素摂取能力(一過性)
トレーニング法 有気的エネルギー源の供給能力
持続トレーニング法 1:高い酸素負債水準の持続能力
800ηL 60 40
レペティション 高い酸素摂取水準の持続能力
C 〜 トレーニング法 皿:最大酸素摂取能力(一過性)
1500駕 40 60 [インターバル 皿:最大酸素摂取能力(持続性)
トレーニング法 有気的エネルギー源の供給能力
1:最大酸素摂取能力(持続性)
2000働 35 65
持続トレーニング法 高い酸素摂取水準の持続能力
D 〜 H l最大酸素摂取能力(持続性)
15Km 71 93
レペティション トレーニング法
皿:有気的エネルギー源の供給能力 V:Joggmg(積極的休養を含む)
有気的エネルギー源の供給能力 1:高い酸素摂取水準の持続能力
持続トレーニング法 高い有気的エネルギーの供給持続能力
E 15Km 5 95 皿:高い有気的エネルギーの供給持続能力
以一上 皿:有気的エネルギーの供給能力
超持続トレーニング法 精神的努力の持続能力
表7は,各競技者の表2〜5の分布表をさらに表6の分類法に従って集計したもので,
年間に実施したトレーニング回数の総和で表わしてある。ただし,Joggingは,この総和 の中に含まれていない。 ( )内の数字は,総トレーニング回数に対する割合(%)で
ある。
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第25号長崎大学教育学部教育科学研究報告
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211 中・長距離走のトレ」ニング内容あ分析方法に関する硫究(小原)
3.結果および考察 (1)対象者の特性
本対象者の身体的特性は,表1に示したとおりである。年令,身長および体重は,
の VO,maxと最大酸素負債量(02Debtmax)の測定時のものである。
本対象者のVO2maxおよび02Debtmaxの値は,黒田ら10)・11)の測定による日本の ロ中・長距離走の一流選手とほぽ同等であり,SaltinとAstrand16)が報告した世界一流選 手ともほぼ同等の値である。
VO,max/weightについて,中距離選手2名を比較すると,学生選手M.Itoの値
76.3配/鳥9・minは,目本の一流選手丁.lshiiの71.3η乙/Kg・minより高く,02Debtmax
/weightも同様にM.Itoの177.3 緬がT.lshiiの168.8η乙屠9より高い値を示して いる。しかし,競技成績は,すべての距離においてT.Ishiiの方がM.Itoに勝っている
(表2,3,図2)。
長距離選手M.H:attoiのVO2max/weightおよび02Debtmax/weightの値は,それ
ぞれ69.3η乙/Kg・min,IOl.9η乙茄9でV20max/weightの値は,宇佐美の83.2η乙編9・rロin,
君原の78.2刎角9・minに比べて,かなり低い値を示.している。しかしながら,M.Hattori の競技成績は,彼ら同様もしくは,それ以上の記録を残している。
図2は,本対象者の各距離でのベストタイムの走スピード(m/sec)と距離(対数)の 関係を表わしたものである。
中距離学生選手M.Itoは,200m,400mで高いスピードを持ち合せ,身体資源も大き
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Fig 2 Reration between distance and running speed 図 2 走行距離と走行スピードとの関係
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長崎大学教育学部教育科学研究報告 第25号
なものをもっているにもかかわらず,距離が延びるに従い急激なスピードの低下を示し,
1500m以上の距離での高い酸素摂取水準および酸素負債水準の持続能力の不足を示唆して いる。反対に,一流選手丁.Ishiiは,いずれの距離においても高い能力を有していると 考えられる。
長距離一流選手M.Hattoriは3身体資源は一流選手としては小さく,絶対スピードも 他の3名に比べ最も低いにもかかわらず,距離が延長してもスピードの低下は小さく,高 い駿素摂取水準の持続能力に優れているものと考えられる。
(2)本分析方法によるトレーニング内容の検討
中距離選手丁.I shiiとM.Itoについて,(表2,3,7)
T.Ishiiは,1500粥の日本記録保持者である(1977年10月現在)。200窺から10肋ま で中距離選手としては,相当に高いレベルを有し,高い酸素負債水準および酸素摂取水準 の持続能力があるものと考えられる。年間の主なトレーニングは,Bランクの3007n〜600 卿の距離を使ったトレーニングが23%,Cランクの800規〜1500彫の距離を使ったトレ_
ニングが32%と,最も多い。中でも,最も回数の多いものは,C−1ランクの高い酸素負 債水準の持続能力と高い酸素摂取水準の持続能力をねらったトレーニングである。このこ
とは,彼の記録に反映し,よく一致している。また,B一皿ランクが10%l E一:肛ランクが 14%と中距離選手でありながら,有気的エネルギー源の供給能力の養成をねらったトレ_
ニングも多く組まれていることは,注目される・事実,1976年箱根駅伝において区間賞を 記録している。また,8肋〜10肋の距離を使った積極的休養を兼ねたJoggimgもloケ月 間で166回とトレーニング量の豊富さを示している。全体的にムラなくトレーニングされ ているが,中距離選手に必要な高い酸素摂取水準への立上りの速さをねらいとしたB−1
ランクのトレーニングの若干の不足が考えられる。
次に,M.Itoについて,まず注目されるのは,Aランク43%,Bランク31彩と200彿以 下あるいは600初以下の短い距離でのトレーニングが多い点である。中でも,A−1,A 一旦,B−EおよびB皿ランクを使った最大酸素負債能力を高めることをねらいとした,
また,一過性の最大酸素摂取能力の増大をねらったトレーニングであるといえる。ただ し,A一旦,B一∬およびB一皿でインターバルあるいはレペテイショントレーニング法 を用いているが,1回の本数が6〜20本と負荷の強さに比べると少ないようである。した がって,トレーニングのねらいとする高い酸素摂取水準への立上りの速さ,有気的エネル ギー源の供給能力の向上という目的は達せられていないと考えられる。B−1およびC−
1を使った酸素負債水準および酸素摂取水準の高いレベルでの持続能力をねらいとするト レーニングが今後,これに加えられるべきであろう。
長距離選手M.Hattor:とT.Takaiについて(表4,5,7)
M.Hattoriは,マラソン選手である。表をみるとEランクの73%と,積極的休養とし て用いているE−Wランクの41彩が注目される。すなち,トレーニングの主なねらいは,
有気的エネルギー源の供給能力を高めることにおかれている。また,8肋〜10肋のJo99−
ing80回および5000郷〜lo肋の毎朝のJo99ingもトレーニングに付随する条件として無視 できない効果を引き出していると考えられる。D−1ランクの持続的最大酸素摂取能力の 増大,高い酸素摂取水準の持続能力をねらいとしたトレーニングが16%を占めている点
213 中・長距離走のトレーニング内容の分析方法に関する研究(小原)
は,Eランクの割合が圧倒的に多いのも含めて,M.H:attoriのVO2maxおよび 02Debt−
maxが一流選手としては比較的低いにも・かかわらず,記録的に優れていることの1裏付けと なるかも知れない。しかし,短い距離の強い負荷を使ったトレーニングが少ない点は,酸 素負債能力,スピードに対する余裕および長距離レースにおけるスピードの変化に対する 適応性に欠ける可能性がある。必ずしも,効果的なトレーニングとはいえないだろう。
学生選手丁.Takaiは,かなり多様化した焦点のしぼりにくい・トレーニングを実施し ている。A−Eのすべての距離で1ランクの強い負荷のトレーニングを多く(51彩)用い ている点が注目される。すなわち,それぞれの距離での高い酸素負債水準,酸素摂取水準 の持続能力の増大をねらいとしているといえる。また,回数は少ないが,表5のA台皿,
B一皿ランクにおいてインターバルトレーニングの1回の本数が20〜60本と比較的多く実 施されている点は,全身持久性トレーニングの負荷方法として合目的的であるといえよう。
じかし,記録的にみて,1500解塚下の距離での成績がM.Hattoriと同等であるごとか ら,酸素負債の絶対量あるいは酸素負債の高い水準での持続能力をねらいとしたB−1お よびC−1ランクのトレーニングにも重点をおくことも考えられる。
域上,中・長距離選手4名を対象として全身持久性の種類に着目したトレーニング内容 の定量的分析方法によるトレーニング内容の検討の結果,各々の対象者の身体資源および 競技成績とトレーニシグ内容との一致する点が数多く見出された。
しかしながら,Zatsiorskil20)は,走行記録を次のように表わしている。
走行記録一a X+b Y+c X:無気的能力の係数 Y:有気的能力の係数
a,b:それぞれの距離によって異なる係数
C l無気的および有気的能力以外の記録に影響を与える因子
係数cの存在は,すなわち,身体資源の他に,走運動の技術的要因が付加されて初めて 最高の記録を出し得ることを意味する。
金原5)は,走運動における技術を,フォーム,ぺ一ス,作戦であると述べている。
また,進藤19)は,無気的および有気的エネルギーを走る距離全体にわたって合理的に 配分する,すなわち,エネルギーの出し方に相当する調整力の存在を指摘している。
さらに,猪飼ら3)は,自らの能力の上限に近いところで走行しているとき,一種の精神 的状態として「努力の流れ」にひ1たることにより脱制止作用を生じ,心理的限界が生理的 限界に近づき,記録の壁が破られることもあると想定している。
これらのことから,必ずしもトレーニングの内容のみから直ちに競技成績まで言及する ことはできないが,最も重要な要因であることは疑いのないところである。
したがって,トレーニング内容の定量化と全身持久性の種類に分類した本分析方法によ るトレニニング内容め分析は,ある程度の妥当性が認められると考えられる。
トレーニング内容は,本来,トレーニングを計画する時点で決定されるものである。し たがって,本分析方法を用いて,競技成績から,望めるなら身体資源をも考慮してトレー ニングすべきねらいと手段を選択することが可能であると考えられる。
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長崎大学教育学部教育科学研究報告 第25号
4.要 約
トップレ・磯ルの中・長距離走者において,身体資源が同等であるにもかかわらず,競技 成績に差が生じている。この主な原因をトレーニング内容におき,現在広く用いられてい るトレーニング法による主観的トレーニング内容の分析方法のあいまいさを是正するため に,現実に即して,トレーニング内容を競技成績を基準にして定量化し,トレーニング目 標となる全身持久性の種類に着目して負荷を類別し,さらに,実際に4名の中・長距離走 者のトレーニング内容の分析を試み,その妥当性について検討した。
その結果,いくつかの問題点を含んでいるが,競技成績および身体資源とトレーニゾグ 内容との間によく一致する点を見出した。また,各競技者のトレーニング内容の傾向も判 定できた。したがって,本分析方法の妥当性を認めた。
稿を終わるにあたり,本研究のトレーニング記録の集収と整理に積極的に協力下さった 神奈川県立中沢高校教諭,中条明氏に,深く感謝の意を表します。
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