論 文
銅板の深絞り性におよぼす絞り速度の影響
重 松 清
(昭和45年9月26日受理)
Effect of drawing speed on the deep drawability of copper sheet
Kiyoshi SHIGEMATSU
(Received. September. 26, 1970)
Tensile properties and deep drawability of a copper sheet were investigated皿ainly as a function of deformation speed. An amsler universal testing machine was used to perform the present experiment.
The results obtained are as follows:
1. The tensile strengch increased with testing speed. Howevere, total elongation, r value, ¢ value, and
u value were independent ot the speed.
2. The maximum deep drawing force increased with draw speed. L.D.R. showed a tendency to decrease slightly with the speed.
1 緒 言
プレス加工の生産性を高めるために,薄板材料の成形性 を予知することが重要視されて,その試験法も多く提起さ
れている。1)・2)
成形性予知試験法には,模型的試験法と基礎的試験法と がある。前者は一種のプレス成形加工を行ない,直接的に 成形性を予知するもので,深絞り試験,エリクセン試験,
コ田町ルカップ試験および伸びフランジ試験はこれに属す る。3)後者はJISでも規定している引張試験,硬度試験 で,これらの試験から入手される特性値から間接的に成形 性を予知するものである。
模型的試験法のうち深絞り試験から得られる特性値に は,限界絞り比および最大絞り力などがあり,基礎的試験 法のうち引張試験から得られる特性値には,引張強さ,伸 び,加工硬化指数(n値),材料の塑性異方性をあらわす 殖,4)一様伸び限界での幅ひずみu値(u=・lnWu/W・,W・
は一様伸び限界まで引張ったときの幅),5)破断部の幅収 縮率をあらわす幅絞りφ値(φ=(w・一凧)/W。,Wiは 破断部の幅)6)がある。そのうちr値は,W.T.Lankford によって提起されて以来,多くの研究者により深絞り性と
の関係歩解析されている。7)・8)
一方,金属の機械的性質は,変形速度により少なからぬ
影響を受け,9)また深絞り性も絞り速度により変化するこ とが報告されている。10)
著者は,銅板の引張試験特性値と深絞り性の試験速度依 存性ならびに引張試験特性値と深絞り性の関係を求めるた め,アムスラー万能試験機を使用して4種類の試験速度で 実験を行なった。
*機械工学科
2 実 験 方 法
1.試験材料と試験片
試験材料として,市販のCuP 1−1/4且(公称板厚1.O mm)を使用した。
引張試験片は,図1に示すようなJIS 5号試験片を採用 し,試験片軸方向が板材の圧延方向に対して0。,45。なら びに90。になるように採取した3種を準備し,専門治具 によりフライス切削(切込0.5mIn以下,仕上げ切込0.1 mm,切削油使用)で作成した。
深絞り試験片(以下ブランクという)は,限界絞り比付 近の直径のものを0.25皿mおきに旋削して作成した。旋削 は専門治具を使用して旋盤の最低回転数で行ない,仕上げ 旋削は手回しでブランクにわん曲の生ずるのを防止した。
両試験片の周辺に発生したカエリは,油目ヤスリでてい ねいに除去し,念のためマイクロビッカースで硬度変化を 調査し,加工硬化のないことを確認した。
一13一
津山高専紀要 第8巻 第1号(1970)
母J
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℃
, N
50 U0 Fig.1. Tensil test piece
2.引 張試 験
試験片の軸方向のみに応力が働くように自在継手式チャ ックを使用し,アムスラー万能試験機(島津製30ton,
:REH−30 TV型)で引張試験を行なった。
引張速度は,3.8×10−3,2.6x10−2,4.2x工0−1ならび に2.05mm/secの4種類である。
試験片の四幅と板厚は,標点付近の2箇所で測定し,標 点距離と板幅の測定はノギス(1/20mm),板厚の測定に はポイントマイクmメーター(1/100mm)を使用した。
3。深絞り試験
本実験で行なった深絞り試験は円筒絞りで,図2に示す 固定しわ押え式深絞り型を使用した。用いた試験機は,引 張試験に用いたものと同じアムスラー万能試験機である。
絞り速度は,引張試験と同じ4速度を採用した。
ブランクとしわ押え,ブランクとダイスの間の潤滑には 白絞油を使用し,ポンチラジヤス部には,白絞油を塗った ときと塗らないときの2つの条件で絞りを行なった。
限界絞り比は,同一直径のブランクの3枚とも全部絞り 得た最大ブランク直径をポンチ直径で除したものとした。
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3 実験結果と考察
1.引 張 試 験
(i)引張強さ 引張強さは,図3に示すように試験片 の採取方向によって異なり,0。方向のものが最も高い値を 示し,圧延によって生じた繊維組織の影響をよく示してい
る。
いずれの方向の試験片も,引張速度の上昇とともに引張強 さが増しているが,この現象は多くの金属の変形抵抗が変 形速度に依存するとしてよく知られた事実である。9)
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Fig.2 Deep drawing die
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Tensile speed , mm/sec
Fig.3. Relation between tensile strength and tensile speed
(ii) 全伸び 金伸びは,図4に示すように試験片の 採取方向によって異なり,45。方向の試験片の場合に最も 大きい。0。方向試験片の全伸びは,引張速度によって若干 増加するようであるが,他の方向の試験片に対しては引張 速度依存性は認められない。
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Tensi[e speed,mm/sec
Fig.4. Relat圭on between t6tal elongation and tensile speed
(iii)n値 n値は,図5に示すように試験片の採取 方向のちがいによって差は認められない。引張速度が2.05 mm/secのときに急増が認められるが,この原因としては,
この引張速度において急に引張速度依存性があらわれたこ とと,アムスラー万能試験機の荷重指針が真の荷重変動に 一ユ4一
銅板の深絞り性におよぼす絞り速度の影響 重 松
追随し得なかったために,真のn値以上の値を示したこと が考えられる。真の原因が後者であれば,真のn値は図示
したものよりも小となり,引張速度依存性が少ないことを 示すが,この実験では解明することができなかった。
0.30
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0 0Φ三〇>G
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Tens[le speed,mm/sec Fig.5. Relation between n value and tensile speed
90
盾
45.
一
(iv)r値 図6は,20%公称ひずみにおけるr値を 示す。試験片の採取方向のちがいによる差が認められ,45。
:方向試験片が最も大きく,ついで90。方向,0。方向が最小 を示す。このちがいは,アルミニウム板材についての報告11)
と同性質のものである。また,引張速度のちがいによるr 値の相違は認められない。
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L
o,5
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Tensile speed , mm/sec Fig.6. Relation between r value and tensile speed
(v)φ値,u値 図7にφ値,図8月置値を示す。 r 値と同様の方向性を示し,引張速度依存性は認められな
い。
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Tens[le speed , mm/sec Fig.7. Relation between 1 value and tensiie speed
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一
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丁ensiie speed,mm/sec Fig.8. Relation between u value and tensile speed
2.深絞り試験
(i)限界絞り比 図9は,ポンチラジヤス部に白絞油 を塗布したものと塗布しなかったものとの比較を示すが,
限界絞り比は両者にはほとんど差異がない。ポンチラジヤ ス部への白絞油の塗布の有無は,ポンチラジヤス部とブラ ンクの摩擦にちがいを生じ,この部分のブランクの絞り力 負担度が変化して限界絞り比に影響すると考えられるが,
この実験においてはそのちがいを検出することができなか
った。
絞り速度の上昇により,限界絞り比がやや低下する傾向 が認められる。著者らは,さきにアルミニウム板材の深絞 り加工性についての報告12)をし,その際限界絞り比が絞り 速度の上昇によって増加することを見出したが,本実験結 果とは異なるものである。これは,絞り速度上昇によるフ ランジ部の塑性変形抵抗の増大が,ポンチラジヤス部に接 するブランクの絞り力負担度以上になるためと考えられ
る。
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DrQw speed,mm/sec Fig.9. Relation between L.D.R. and draw speed
Ono soybeon oil smeQ
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『 一
(ii) 絞り力 絞り力を絞り込みに必要とされる最大 絞り力であらわし,ブランク径と絞り力の関係を絞り速度 をパラメータとして示したものが図10である。図11は,図 10に示したブランク径70.75m皿のものについて絞り力と 絞り速度の関係を,ポンチラジヤス部へ白絞油を塗った場 合と塗らない場合について示したものである。
絞り力は,絞り速度の上昇により増大するが,これは銅板 の変形抵抗の変形速度依存性に対応するものと解される。
一15一
津山高専紀要第3巻第1号(1970)
図10において,同径ブランクの絞り速度上昇による絞り 力増大量を比較すると,小径ブランクの方が大径ブランク よりも大きい。一丁目,金属の変形抵抗は,小さいひずみ における方が大きいひずみにおけるよるも変形速度の影響 を大きく受けることが知られているが,小径ブランクの最:
大絞り力を示すときの変形量が大径ブランクの最大絞り力 を示すときの変形量よりも小さいため,著しく絞り速度の 影響を受けたものと考えられる。13)
絞り速度別にブランク径増加による絞り力の増大率を比 較すると,絞り速度が高いときの方が絞り速度が低いとき よりも小さい。ブランク径が増加すると,絞り加工完了の ための塑性変形量が増大する。この増大した塑牲変形が変 形速度の影響を受けるならば,絞り速度が高いときの絞り 力増大率の方が大きい筈である。これは,絞り力の変勤要 因がブランクの変形抵抗のみた限定されないで,変形抵抗 以外の要因,例えばフランジ部における摩擦が絞り速度の 上昇により静摩擦から動摩擦に変化することや,フランジ 部の潤滑が境界潤滑から流体潤滑に変化する14)ためと考え
られる。
ポンチラジヤス部への潤滑効果は,図11にみられるよう に明らかでない。ポンチラジヤス部の潤滑のちがいによ る絞り力の変化は,本実験条件の範囲内では認められな
い。15)
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v一一一ゐ4 結 言
以上の結果をまとめると,この実験の試験速度範囲内に
おいて,
1.引張速度の上昇により,引張強さは増大するが,全 伸び,r値,φ値およびu値などの変形特性値16)は変化し
ない。
2.試験片の採取方向により引張試験特性値に差が認め られ,引張強さは圧延方向と0。のもの,全伸び,r値,φ値 およびu値は45。のものが最:も高い。n値の試験片軸方向 による差は認められない。
3.深絞り加工限をあらわす限界絞り比は,絞り速度の 上昇によりやや低下する傾向を示す。ポンチラジヤヌ部の 潤滑の効果は認められない。
4.深絞り力は,絞り速度の上昇により増大する。これ は,主に変形抵抗が変形速度によって上昇することの反映
である。
あ と が き
この研究の解析において有益なご助言をいただいた広島 大学工学部助教授大森正信先生に深謝します。
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Draw speed, mm/sec
Fig.11. Relation between drawing force and draw speed (blank dia. 70.75mm)
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文 献
1) J.C.Wright, Sheet Metal lnd., 38413 (1961−9),
649
2) D.H.Lloyd, Sheet Metal lnd., 39417 (1962−1),
6
3)阿部,新美,塩飽,深瀬,プレス技術,2−10(1964
−2), 28, 31, 36, 39
4) W.T.Lankford,Trans.ASM,42 (1950), 1197 5)吉田,第15回塑性加工連合講演会前唄,(1964),163 6)岡本,福田,住友金属,15(1963),161
7) R.L.Whitely, Trans. ASM,52 (1960), 154
8)pLi M,プレス技術,1−1(1963−1),109)大森,吉永,武井,金会誌,29−1(1965),1087 10)前田,東大綜年,18−2(1960),1
11)五弓,鈴木,富永,金会誌,30−7(1966),669 12)大森,吉永,重松,小林,日機会前唄集,151(196
6−4), 13
13)大森,吉永,森,日機会前罪集,167(1967−4),305
14) H.T.Conpland, D.V. Wilson, Sheet Metal lnd.,
35−370 (1958−2), 85
15)春日,プレス技術,2−12(1964−2),5
16)阿部,薄板の引張試験とプレス成形への応用,(196
5), 4
一16一