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(上)―近年の企業結合規制改革に関する一考察―

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(1)

EC企業結合規則2004年改正における企業結合の評価

(上)―近年の企業結合規制改革に関する一考察―

著者 平川 幸彦

雑誌名 明治学院大学法学研究 = Meiji Gakuin law journal

巻 84

ページ 1‑96

発行年 2008‑01‑31

その他のタイトル EC Merger Regulation 2004 and Substantive Issues―An Analysis over the Recent Reform of the EC Merger Control (1)

URL http://hdl.handle.net/10723/1996

(2)

EC

企業結合規則2004年改正 における企業結合の評価(上)

――近年の企業結合規制改革に関する一考察――

平 川 幸 彦

《目次》

¿.序

À.ECにおける企業結合規制の改革 1.改革の契機

(1)EC委員会の緑書 A 管轄に関する問題

(a)EC企業結合規則第1条3項に関する改正提案

(a.1)概 要

(a.2)mandatory3+system

(b)EC企業結合規則第9条と第22条に関する改正提案

(c)EC企業結合規則第3条の改正提案 B 手続規定に関する問題

C 実体規定に関する問題

(a)EC企業結合規則第2条2項・3項に関する改正提案

(b)効率性の考慮

(c)簡易な企業結合審査

(2)EC委員会とEC司法裁判所の実務の動向 A GE/Honeywell事件決定

B Airtours事件判決 C Schneider事件判決 D Tetra Laval事件判決 2.改革パッケージ

A EC企業結合規則改正草案 B 水平的企業結合ガイドライン草案 C 非立法的措置

D 小 括

(3)

Á.EC企業結合規則2004年改正の概要と問題点

――実体法上の規制基準の改正を中心として 1.管轄に関する規定の改正

(1)EC企業結合規則第1条3項に関する改正

(2)企業結合案件の付託に関する規定の改正 A EC企業結合規則第9条の改正 B EC企業結合規則第22条の改正

C EC企業結合規則第4条の改正 (以上,本号)

(3)EC企業結合規則第3条の改正

(4)小 括 2.手続規定の改正

3.実体法上の規制基準等の改正

Â.EC企業結合規則第2条における企業結合の評価 Ã.総括――日本の独占禁止法への示唆

¿.序

2004年5月1日,東欧10カ国は,ヨーロッパ連合条約(Treaty on European

Union)第49条に基づき, 新たにヨーロッパ連合に加盟し,ヨーロッパ連合は,

東欧に大きく拡大した。

ヨーロッパ連合への新加盟国は,ポーランド,チェコ,スロバキア,ハンガ リー,スロベニア,エストニア,リトアニア,ラトビア,マルタ,キプロスの 10カ国であり,2004年5月1日に,ヨーロッパ連合は,従来の加盟国15カ国 と合わせて合計25カ国となった(1)。またこれによりヨーロッパ経済領域条約

(Agreement on the European Economic Area)の加盟国も増大した。すなわちこ の条約の加盟国は,従来,同条約第128条に基づき,EU加盟15カ国にアイ スランド,ノルウェー,リヒテンシュタインを加えた合計18カ国であったが,

前記の東欧10カ国を加えて,合計28カ国となった(2)

ヨーロッパ共同体(European Community,以下「EC」と略す)に関する法は,

(4)

このようなヨーロッパ連合の東欧への拡大に合わせて整備され,ヨーロッパ共 同体の新たな発展の基盤となった。EC独占禁止法について見るならば,同法 は,ヨーロッパ共同体設立条約(Treaty of establishing European Community,以下 EC条約)の第81条と第82条を主要な規定とするが,ヨーロッパ連合条約と ヨーロッパ経済領域条約の加盟国の競争政策を担う法として,その有効性を維 持するため,大幅な改正が行なわれることになった。

近年のEC独占禁止法改正に関しては,次の2点の特徴を挙げることができ (3)。第1の特徴は,同法の改正により,同法の適用原則が,従来のEC委員 会とEC司法裁判所による中央集権的な適用から,EC加盟国の独占禁止法当 局とEC加盟国国内裁判所による分権的な適用へと大きく変わった点である。

EC委員会の権限は重要案件に限定されることになり,EC委員会の負担は,

大幅に軽減されることになった。また第2の特徴として挙げられるのは,EC 独占禁止法とEC加盟各国独占禁止法の適用領域の峻別,ならびに実体法上の 要件の明確化が重視されたという点である。

EC独占禁止法は,ヨーロッパ連合が2004年に東欧に拡大するのに合わせ て,次のように改正された(4)。まずEC委員会は,EC条約第81条ならびに第 82条に関する同委員会の告示やガイドラインを改訂した。例えばEC委員会 は,競争への影響が軽微な企業間の協定に対してEC条約旧第85条(現81条)

を適用しないとする同委員会の告示を,1997年と2002年に改訂した(5)。さら EC委員会は,2000年に垂直的協定に関する同委員会のガイドラインを改 訂し(6),2001年には水平的協定に関するガイドラインを改訂した(7)。またEC 委員会は,1999年には垂直的協定に関してEC条約第81条の一括適用除外規 則を改正する等,EC条約第81条ならびに第82条に関する多くの一括適用除 外規則を改正した(8)。次に,1962年に制定されたEC条約旧第85条(現81条)

と旧第82条(現82条)の実施規則であるEC理事会規則第17号(9),ならびに 1989年に制定されたEC企業結合規則であるEC理事会規則第406489号(10)

(5)

は,ともに改正され,新規則は,ヨーロッパ連合が東欧に拡大した2004年5 月1日から施行された。

これらのガイドライン,告示,規則の改正を,EC理事会規則第17号とEC 理事会規則第406489号について見るならば,両規則は,いずれも,EC独占 禁止法の重要な規則であったが,2004年に行なわれた両規則の改正は,とも に規則制定以来の大改正であったと評価することができる。

第1に,EC理事会規則第17号の改正を見ると,同号の改正は,EC委員会 が1999年に公表した「EC条約第85条(現第81条―筆者注)ならびに第86条

(現第82条―筆者注)の実施規則の現代化に関する白書」(11)を基礎としている。

すなわちEC委員会は,この白書において,特にEC条約旧第85条3項に基 づく同条1項の適用除外制度を改正する方針を明確にしている(12)

詳述すれば,従来,EC条約旧第85条3項に基づく同条1項の適用除外を 受けようとする事業者は,EC理事会規則第17号第4条1項に基づき,EC 員会に,協定等を事前に届け出ることを義務づけられていた。他方,EC委員 会は,EC理事会規則第17号第9条1項に基づき,EC条約旧第81条3項を 適用して,同条1項に該当する協定,決定,協調行為を,同条1項の適用除外 とする専属的権限を有していた。しかしEC委員会は,白書において,EC 盟国の増大や通貨・経済統合が進展している現状に鑑み,同委員会によるEC 条約第81条3項の適用からEC加盟国独占禁止法当局や裁判所による同項の 適用へと,同項の適用権限を効率的に分権化し,EC委員会の負担を軽減し て,EC委員会の審査を重大な案件に集中させるべきであると主張した。そし EC委員会は,従来,EC条約旧第85条3項に基づく同条1項の適用除外制 度について,EC理事会規則第17号第4条1項が規定していた企業結合のEC 委員会への事前届出制度を廃止し,またEC委員会が,同号第9条1項に基づ いて有していたEC条約旧第85条3項の専属的適用権限を廃止するとして,

EC理事会規則第17号を改正する見解を表明したのである。

(6)

EC委員会は,その後,2000年に,EC理事会規則第17号の改正案(13)EC 理事会に提案し,EC理事会は,2002年12月に同号を改正して,改正規則を EC理事会規則第12003号(14)として公布した。

新規則は,特に,次の3点において,旧規則であるEC理事会規則第17号 を改正している。第1に,旧規則第4条1項は,EC条約第81条3項に基づ く同条1項の適用除外について,EC委員会の事前承認制度を規定していた が,新規則は事前承認制度を廃止した。また第2に,EC委員会は,旧規則第 9条1項に基づき,EC条約第85条3項適用の専属的権限を有していたが,新 規則は,EC委員会の専属的権限を廃止し,EC委員会に加えて,EC加盟国の 独占禁止法当局とEC加盟国国内裁判所が,同項の適用権限を有することを明 確にした。さらに第3に,新規則は,前文の第8において,EC独禁法とEC 加盟国独禁法との関係について規定し,EC独禁法上,合法とされる協定等 を,EC加盟国独禁法によって違法とすることを避けなければならないとし た。また新規則は,同規則の本文においても,同号第3条2項,同号第11条 6項,第16条1項において,EC独占禁止法が,EC加盟国独占禁止法に対し

て優越することを明確にした。

第2に,EC理事会規則第406489号の改正を見ると,同規則の改正は,EC 委員会が2001年12月に公表した「EC理事会規則第406489号の見直しに関 する緑書」(15)を,直接の契機としている。すなわちEC委員会の緑書は,ヨー ロッパならびに世界において,企業結合のグローバル化やEC加盟国の増大 等,経済と政治に関する状況の変化に対応して,企業結合規制の有効性を維持 するため,従来のEC委員会の実務ならびにEC司法裁判所の判例を尊重する としながら,ECの企業結合規則であるEC理事会規則第406489号について,

その改正を検討する方針を明らかにした(16)。EC委員会は,緑書において,同 規則の改正の検討を,管轄に関する問題,実体規定に関する問題,手続規定に 関する問題の3点を中心に行なうとし,パブリック・コメントを求めている。

(7)

そしてEC委員会は,同委員会に寄せられた約120のパブリック・コメントを 検討した後,2002年12月に,ECにおける企業結合規制に関して,「改革パッ ケージ(the reform package)」と呼ばれる包括的改革の実施を決定し(17),その後,

EC企業結合規則の改正をはじめとするEC企業結合規制の一連の改革が実現 することになった。

EC企業結合規則の改正は,次のように行なわれた。すなわちEC委員会 が,2002年12月に,EC理事会に対して,EC企業結合規則であるEC理事会 規則第406489号の改正草案(18)を提案し,EC理事会は,2004年1月に,同規 則を改正して,改正規則をEC理事会規則第1392004号(19)として公布したの である。

EC企業結合規則の2004年改正に関しては,次のような学説の指摘に留意 する必要がある。それは,そもそもEC企業結合規則の基本的な部分を改正す る必要があったわけではなく,むしろヨーロッパ連合の拡大に直面して,規制 の最適化という目的に同規則を適合させる必要があったとの指摘である(20)

詳述すれば,同規則に基づく企業結合案件の処理に関しては,企業結合に関 与するすべての当事者が,同規則の手続規定を遵守することが困難な状況で あった。企業結合を行なう事業者がEC委員会に届け出る企業結合件数は増加 し,EC委員会が審査する必要のある企業結合案件の件数も増加した結果,審 査に関する時間的制約から,EC加盟国が企業結合案件の処理に関与する余地 も縮小していた。そして従来の企業結合の審査期間では,EC委員会が下す決 定について,良好な水準を維持できないと懸念された。特に,EC委員会は,

次第に増加する複雑な事例について,分析と評価に時間を要したが,その際,

EC委員会は,企業結合審査に関しては,できるだけ早期にEC委員会から企 業結合の承認を得ようとする企業結合当事者の利益と,EC委員会による企業 結合案件の処理に有効に関与するEC加盟国の利益を,調和させる必要があっ たと,学説から指摘された。

(8)

従って,かかる学説によるならば,まずEC委員会の負担を軽減し,同委員 会の企業結合審査を重要案件に集中させるべく,特に,EC企業結合規則第1 条3項が規定する企業結合案件の管轄に関して,どのように管轄をEC委員会 EC加盟国に配分するか,新たな措置を講ずる必要があった(21)。また企業結 合が,EC企業結合規則の基準を満たさずEC加盟国の管轄となる場合,複数 EC加盟国に企業結合の届出を行なう必要がある状況についても,特に企業 結合当事者の不利益を取り除き,法的安定性を確保しなければならなかっ (22)。そして企業結合審査を確実かつ迅速に行なうという要請を考慮し,同規 則第9条と第22条所定の企業結合案件の付託については,企業結合当事者の 利益を考慮するだけではなく,EC加盟国が企業結合の処理に関与する利益と 調和させる必要があったのである(23)

また手続規定に関しても,企業結合当事者の利益を考慮して,例えば,EC 企業結合規則第4条1項所定の企業結合の届出時期について,より早期に届出 ができるよう,届出時期を柔軟化するよう期待された(24)。さらに実体的規定に 関しては,従来のEC委員会の実務ならびにEC司法裁判所の判例を尊重する 一方,企業結合審査を改善し効率化するため,EC企業結合規則第2条に規定 されている企業結合の実体法上の規制基準を改正すべきか,また企業結合がも たらす効率性を企業結合の実体法上の評価において考慮するため,従来よりも 明確な法的根拠をEC企業結合規則に設けるべきか,問題となったのであ (25)

新企業結合規則であるEC理事会規則第1392004号を,第2条に規定され ている企業結合の実体法上の規制基準について見るならば,2004年の同規則 の改正によって,1990年の同規則の施行以来,はじめて同規則第2条2項な らびに3項所定の企業結合の規制基準が改正されるに至った。かかる改正の目 的は,同規則第2条2項ならびに3項所定の「支配的地位の形成または強化」

という企業結合の実体法上の規制基準について,その趣旨を明確化することに

(9)

あったが,改正により,同項に基づいて規制される企業結合の範囲は,従来よ り拡大したと解釈し得ることが明確となった(26)

詳述すれば,EC企業結合規則の新たな第2条2項ならびに3項は,従来,

企業結合の実体法上の規制基準であった「支配的地位の形成または強化」とい う文言を残したものの,同項に「有効な競争の著しい阻害(Significant Impediment

to Effective Competition)」という文言を付加して,この「有効な競争の著しい阻

害」という文言を,同規則による企業結合規制の中心に位置づけている。すな わち新規制基準は,旧規制基準と異なり,「支配的地位の形成または強化」を,

「有効な競争の著しい阻害」を引き起こす主要な一例と位置づけており,かか る新規制基準からすれば,企業結合が「支配的地位の形成または強化」をもた らさなくとも,「有効な競争の著しい阻害」を招来するならば,企業結合はEC 企業結合規則第2条3項に違反し,同規則第8条3項によってEC市場と調和 せず違法であるとして,企業結合を禁止し得ることが明確となったのである。

そこで本稿は,2004年に行なわれたヨーロッパ連合の東欧への拡大に伴っ EC独占禁止法改正が行なわれた点に留意しながら,EC企業結合規則の改 正に焦点を当てて,新規則が制定されるに至った経緯,ならびに新規則の概要 を考察する。そして特に,新規則における企業結合の実体法上の評価を検討す る。すなわち近年における包括的なEC企業結合規制改革の中で改正された EC企業結合規則に関し,新規則制定の経緯と新規則の概要を考察し,さらに 新規則第2条2項ならびに3項に規定された「有効な競争の著しい阻害」とい う企業結合の新たな規制基準を検討して,新規制基準が,近年のEC企業結合 規制の改革において,いかに位置付けられ,どの程度,新たな課題に対処でき るのか,明らかにしたい。またかかる新規制基準の検討を通じて,日本の独占 禁止法における企業結合規制について示唆を得ることとしたい。

(10)

À.ECにおける企業結合規制の改革

.改革の契機

EC委員会は,前述のように,2001年12月に「EC理事会規則第406489号 の見直しに関する緑書」(27)を公表し,緑書を直接の契機として,ECにおける 企業結合規制改革が議論されることになった。そして2002年12月に,EC 員会は,「改革パッケージ(the reform package)」と呼ばれる包括的改革の実施 を決定し(28),その後,EC企業結合規則の改正をはじめとするEC企業結合規 制の一連の改革が実現するに至った。まず最初にEC委員会の緑書を見る。

(1)EC委員会の緑書

EC委員会は,2001年12月に公表した緑書の冒頭において,従来のEC 業結合規則であるEC理事会規則第406489号を改正するよう提案した。EC 委員会は,同規則改正を提案する目的について,ヨーロッパならびに世界レベ ルにおいて経済と政治に関する状況が変化する中で,企業結合規制の有効性を 維持することを挙げている(29)。すなわち緑書は,同規則が,1990年に施行さ れた後,10年以上にわたって成功裏に適用されてきたとし,従来の同規則に 関するEC委員会の実務ならびにEC司法裁判所の判例を高く評価する一 (30),同規則は,次のような新たな現代的諸課題,すなわち企業結合のグロー バル化,通貨統合,ECにおける市場統合の深化,EC加盟国の増大に対処し,

またECEC加盟国の管轄を調整する必要に迫られているとし,これらの新 たな現代的課題に同規則の改正で対処しようとしたとする(31)。そしてEC委員 会の緑書は,EC企業結合規則の改正に当たっては,同規則の根底にある原 理,すなわちECレベルにおいて企業結合規制を行ない,規制の有効性,効率

(11)

性,公平性,透明性を確保する必要性を,ECにおける一般的な原則である

「補完性の原則(subsidiarity principle)」と調和するよう最大限,配慮するとい う原理に基づかなければならないとしている(32)

EC委員会は,緑書において,同規則の主な検討事項を,A管轄に関する問 題,B手続規定に関する問題,C実体規定に関する問題,の3点とし,これら 3点を中心にパブリック・コメントを2002年3月末までに提出するよう求め (33)。そしてEC委員会は,その後,EC委員会に寄せられた約120のパブ リック・コメント(34)を検討して,2002年12月に,企業結合規制に関し,「改 革パッケージ」と呼ばれる包括的な改革の実施を決定した。

EC委員会が,同規則改正の主要な対象を,前記ABCとした点に関して は,本稿¿「序」で述べたように,特に,次のような学説の指摘に留意する必 要がある。すなわち当時,同規則に必要であったのは,同規則の基本的部分を 改正することではなく,ヨーロッパ連合の拡大に直面して,規制の最適化とい う目的に同規則を適合させることであった考えられるという学説の指摘であ (35)

ここでかかる学説を詳述するならば,とりわけ企業結合当事者がEC委員会 に届け出る企業結合件数が増加し,また複雑な事例が増大したことにより,

EC委員会の企業結合審査が,従来の審査期間では良好な水準を維持できなく なったことから,まず第1に,前記Aの管轄の問題,すなわちEC委員会の負 担を軽減し,同委員会の企業結合審査を重要案件に集中させるべく,同規則第 1条3項が規定する企業結合案件の管轄を,適切にEC委員会とEC加盟国に 配分することが問題となった。また企業結合が,EC企業結合規則の規定する 基準を満たさずEC加盟国の管轄となる場合,複数のEC加盟国に届出を行な う必要がある状況について,特に企業結合当事者の不利益を取り除き,法的安 定性を確保するため,いかに対処すべきかが重要な問題となった。そして企業 結合審査を確実にかつ迅速に行なうという要請を考慮し,同規則第9条が規定

(12)

する企業結合案件のEC委員会からEC加盟国への付託,ならびに同規則第22 条が規定するEC加盟国からEC委員会への付託に関しては,企業結合当事者 の利益を考慮するだけではなく,EC加盟国が企業結合の処理に関与するとい う利益と調和させる必要があった。

また第2に,前記Bの手続規定に関する問題のうち,殊に,できるだけ早期 EC委員会から企業結合の承認を得ようとする企業結合当事者の利益を考慮 して,より早期に届出ができるよう,企業結合の届出時期を柔軟化すること,

ならびにEC委員会が,複雑な企業結合事例を十分に審査できるようにするた め審査期限の延長することが問題となった。

そして第3に,前記Cの実体規定に関する問題に関しては,従来のEC委員 会の実務ならびにEC司法裁判所の判例を尊重しながらも,他方で,国際的な 企業結合が増加していることを考慮し,EC企業結合規則第2条2項ならびに 3項所定の「支配的地位の形成または強化」という企業結合の実体法上の規制 規準を,アメリカ,カナダ,オーストラリア等,世界の他の多くの国が採用し ている「競争の実質的制限」という規制基準に改正すべきか否か,また企業結 合を評価する当たって企業結合がもたらす効率性を考慮するため,従来よりも 明確な法的根拠を,同規則に設けるべきか否か,が重要な問題となったのであ る。

A 管轄に関する問題

EC委員会の緑書は,前述のように,EC企業結合規則の改正事項の最初に

「EC企業結合規則の管轄に関する問題」を挙げているが,EC委員会は,管 轄に関しては,次の3点を同規則改正の主要な検討事項としている(36)

(a)同規則の適用対象となるEC規模の企業結合を定義する同規則第1条 3項の改正,

(13)

(b)企業結合案件のEC委員会からEC加盟国への付託に関する同規則第 9条の改正,ならびにEC加盟国からEC委員会への付託を規定する同

規則第22条の改正,

(c)同規則の適用対象となる企業結合概念を定義する同規則第3条の改 正,

EC委員会は,緑書において,これらの管轄の問題に言及するに当たり,同 規則が,EC規模を有する一定の企業結合に対して排他的な管轄権が有すると するワンストップショップの原則(one-stop shop principle)に基づくとする(37) すなわちEC委員会は,企業結合が,同規則3条の企業結合の定義に該当し,

かつ同規則第1条所定のEC規模を有する場合について,EC企業結合規則は EC委員会が当該企業結合に対して排他的な管轄権を有するとするワンストッ プショップの原則に基づくとし,かかる原則が,次の2つの目的を有している とする(38)

第1に,EC委員会は,ワンストップショップの原則はEC加盟各国が処理 できる案件はEC加盟各国の処理に委ねながら,案件が国際的な規模と効果を 持ち,単一のEC加盟国では包括的に処理できない限りにおいて,ECの管轄 を認めるという目的を有するとし,これはECの一般原則であるEC条約旧第 3条b(現EC条約第5条2項)の「補完性の原則」と調和すると述べる。そし て第2に,EC委員会は,ワンストップショップの原則により,EC委員会に 企業結合事案に対する排他的な管轄権が付与される結果,行政手続が簡素化さ れ,それによりEC加盟国の独占禁止法当局と事業者が企業結合規制に費やす コストが最小化されるとして,ワンストップショップの原則が,行政手続の簡 素化という目的を有するとする。そして次に,EC委員会は,前記(a)の「EC 企業結合規則第1条3項の改正」について述べている。

(14)

(a)EC 企業結合規則第1条3項に関する改正提案

(a.1) 概 要

EC委員会は,緑書において,前記(a)の「EC企業結合規則第1条3項 の改正」について,まず次のように述べる。すなわちEC委員会は,EC企業 結合規則第1条2項が有効に機能しているとする一方,同条3項については,

同条3項が1997年改正によって同規則第1条に追加された当時の期待に反し,

企業結合当事者が企業結合を3カ国以上のEC加盟国官庁に届け出るという問 題を,未だに有効に防止できていないとする(39)

因みにEC委員会は,緑書において,2000年に,同規則第1条3項に基づ いてEC委員会に届出が行なわれた企業結合案件は20件にとどまり,3カ国 以上のEC加盟国独占禁止法当局に届出は行なわれた企業結合案件は75件で あったとする(40)。またEC委員会は,2000年には,EC委員会に届出が行なわ れた企業結合事案のうち,5% のみが,同規則第1条3項に基づく届出で あったとしている(41)。さらにEC委員会は,本来,ECレベルで取り扱うべ企 業結合事案についても,今なお,EC加盟国に届出がなされ,EC加盟国の審 査を受けているとし,また特に懸念されるのは,事業者が3カ国以上のEC 盟国官庁に対して企業結合の届出を行なう事例が増加する傾向にあり,また 2004年のEC加盟国の拡大により,その傾向が加速すると予測されることだ としている(42)。またEC委員会は,事業者が3カ国以上のEC加盟国官庁に対 して企業結合の届出を行なう場合,企業結合の審査期間の長期化,費用の増 大,法的安定性の欠如といった問題を生ずるとしている(43)。それゆえEC委員 会は,緑書において,2005年のEC加盟国の拡大に備えて,特に,企業結合 を複数のEC加盟国に届け出る事例を減少させるため,企業結合事案の管轄に 関しては,ワンストップショップの原則によるEC委員会の排他的管轄を拡大 すべく,同規則第1条3項の改正を重視している(44)

なおEC企業結合規則第1条は,1989年の同規則制定後,1997年に改正さ

(15)

れているが,2002年1月1日の新通貨ユーロの導入を経て,2004年の同規則 改正前には,次のような内容であった(45)

EC企業結合規則旧第1条 本規則の適用範囲

1.本規則は,第22条の場合を除き,本条第2項ならびに3項で定義するすべて EC規模の企業結合に適用されるものとする。

2.企業結合は,以下の場合,EC規模を有する。

(a)すべての企業結合当事者の全世界での売上高合計が,50億ユーロを超え,

かつ

(b)少なくとも2つの企業結合当事者のEC域内での売上高合計が,2億5,000 万ユーロを超える場合であって,

企業結合当事者の各々が,EC域内の全売上高の3分の2を超える部分を,

同一のEC加盟国で得ていない場合

3.第2項に規定された基準を満たさない企業結合は,以下の場合,EC規模を有 する。

(a)企業結合当事者すべての全世界での売上高が,合計25億ユーロを超え,かつ

(b)企業結合当事者の全売上高が,少なくとも3つのEC加盟国において1億 ユーロを超え,かつ

(c)第b号の要件を満たすEC加盟国のうち少なくとも3加盟国において,少な くとも2つの企業結合当事者の売上高合計が,それぞれ2,500万ユーロを超 え,かつ

(d)少なくとも2つの企業結合当事者のEC域内での売上高合計が,それぞれ1 億ユーロを超える場合であって,

企業結合当事者の各々が,EC域内の全売上高の3分の2を超える部分を,同 一のEC加盟国で得ていない場合

4.委員会は2000年の7月1日までに,EC理事会に対し,第2項および第3項 に定める基準の運用について報告するものとする。

5.EC理事会は,第4項の報告を受領後,EC委員会の提案により,特定多数決 により,第3項に定める基準を変更することができる。

因みに,1989年に旧EC企業結合規則が制定された当時は,同規則第3条 の企業結合の定義に該当し,かつEC域内における企業規模が,同規則第1条

(16)

2項の次の3つの基準をすべて満たす場合であった。

(1)結合関係事業者すべての全世界での売上高が,合計50億ECUを超 えること。

(2)結合関係事業者の少なくとも2つが,EC域内でそれぞれ2億5,000 ECUを超える売上高を有すること。

(3)結合関係事業者の各々が,EC域内の全売上高の3分の2を超える部 分を,ECの同一加盟国で得ていないこと,

このようなEC規模に達しない企業結合に対しては,EC加盟国独占禁止法 の企業結合規制が適用されるので,企業結合当事者は,企業結合を,EC加盟 国の独占禁止法に基いて,複数のEC加盟国官庁に届け出ることも必要となっ た。

そこで企業結合当事者が,1つの企業結合を,複数のEC加盟国官庁に届け 出ることから法的不安定性が増大し,企業結合当事者の事務上の負担や金銭的 コストが増加し,EC加盟国各国の企業結合規制が相互に異なる結論を導く可 能性があることに配慮して,1997年にEC企業結合規則第1条が改正され (46)。すなわち1997年の同規則の改正においては,同規則第1条に第3項が 追加され,企業結合は,同規則第1条2項を下回るEC規模であっても,同規 則第1条3項(a)〜(d)と「企業結合当事者の各々が,EC域内の全売上 高の3分の2を超える部分を,同一のEC加盟国で得ていない場合」という合 計5つの基準をすべて満たし,当該企業結合が3カ国以上のEC加盟国に及ぶ 場合,EC規模を有すると規定された。

以上のように,EC企業結合規則の1997年改正により,新たに同規則第1 条3項が追加されたが,同規則第1条3項が複雑な規定となったことに対し

(17)

て,実務界の不満は強かったと指摘されている(47)。そこでEC委員会は,2001 年の緑書において,EC企業結合規則第1条3項の改正を検討するよう提案し たが,EC委員会は,同項の改正については,売上高の要件と他の要件を様々 に組み合わせた改正が可能であると指摘している。

詳述すれば,EC委員会は,第1に,EC委員会の緑書は,EC企業結合規則 第1条3項所定の売上高基準を引き下げる可能性として,例えば,同項(a)

所定の25億ユーロを20億ユーロあるいは5億ユーロに改正する可能性,同項

(b)所定の1億ユーロを5,000万ユーロに改正する可能性,そして同項(c)

所定の2,500万ユーロに改正する可能性,があると指摘している(48)。また第2 に,EC企業結合規則第1条3項については,特に,同項(c)所定の基準を 満たすことが難しいとして,EC委員会は,同項をEC加盟国3カ国以上につ いてではなく,2カ国以上について規定するという改正の可能性を指摘してい (49)。さらにEC委員会は,第3に,同項(c)の基準は,同項(b)の基準 とリンクさせた形になっているが,EC委員会の緑書は,このように同項(c)

の基準を同項(b)の基準とリンクさせたのは,同項(c)の基準を満たす企 業結合について,同項(b)の基準が1事業者によって満たされるのを防止す る趣旨であるとし,もしも同項(c)の基準が同項(b)の基準から切り離さ れるならば,同項(c)の基準を満たす企業結合事案は54% 増加するとして,

同項(c)の基準から同項(b)の基準を切り離す改正の可能性を指摘してい (50)

またEC委員会は,緑書において,企業結合当事者が企業結合3カ国以上の EC加盟国官庁に届け出ることを防止するという観点からは,同規則第1条3 項の改正ではなく,企業結合案件の共同付託請求を規定する同規則第22条3 項を改正する可能性があると指摘している(51)。すなわちEC企業結合規則の 1997年改正においては,3カ国以上のEC加盟国に企業結合を届け出ることを 防止し,企業結合規制の有効性を維持するため,同規則第22条3項が改正さ

(18)

れ,EC加盟国の2カ国以上から,共同で,企業結合案件をEC委員会に付託 する請求があった場合,EC委員会が事案を処理すると規定され,前述の同規 則第1条3項の改正を補完することになったが,EC委員会は,前述の同規則 第1条3項の改正ではなく,共同付託請求を規定する同規則第22条3項を改 正する可能性があるとしている(52)

(a.2)mandatory3+system

しかしEC委員会は,緑書において,上述のような改正は,事業者が企業結 合を3カ国以上のEC加盟国官庁に届け出ることを有効に防止するため,いず れも一定の効果はあるものの,有効ではないとする(53)

第1に,EC企業結合規則第1条3項所定の売上高の要件と他の要件を様々 に組み合わせた改正の可能性に関しては,EC委員会は,同項の要件が,企業 結合に関する統計に基づいた予測から,改正はいずれも不十分であるとし,そ の主たる原因として,同項が複雑な構成となっており,様々な理由から同項を 充足しない事例があると指摘している(54)。すなわちEC委員会は,EC企業結 合規則第1条3項所定の売上高基準を引き下げる可能性に関して,同項(a)

と同項(c)の改正が効果的であるとしながら,統計に基づく予測は不十分で あるとし,またEC委員会の管轄を過度に拡大するおそれがあるとする(55)。ま EC委員会は,同項をEC加盟国3カ国以上に及ぶ企業結合についてではな く2カ国以上に及ぶ企業結合について規定するという改正の可能性に関して,

そもそも同項がEC加盟国3カ国以上に及ぶ企業結合について規定しているこ とに大きな意義があるとする一方,たとえ同項をEC加盟国2カ国以上に及ぶ 企業結合に関する規定に改正したとしても,限定的な効果しかないと思われる とし,付言して,この点については統計上の情報はなく,統計から予測するこ とは困難であるとする(56)。さらにEC委員会は,同項(c)の基準から同項(b)

の基準を切り離す改正の可能性に関しても,両基準を切り離せば,同項(c)

(19)

の基準を満たしEC委員会の管轄となる企業結合事案は54% 増加するとして も,同項(c)の基準を満たす企業結合は,少なからず3カ国以上のEC加盟 国官庁に届出が行なわれるとする(57)。またEC委員会は,EC加盟国の独占禁 止法については,企業結合当事者の売上高合計が2,500万ユーロ以下でEC 盟国官庁に企業結合の届出を義務付けている例も少なくないとし,同項(c)

が規定する売上高以下においても競争上の懸念が生じると推測させると述べて いる(58)

第2に,事業者が企業結合3カ国以上のEC加盟国独占禁止法当局に届け出 ることを有効に防止するため,企業結合案件の共同付託請求を規定するEC 業結合規則第22条3項を改正する可能性を見ると,EC委員会は,緑書にお いて,同項が,次のような弱点を有しているとし,同項の改正について基本的 な疑念を示している(59)。すなわちEC委員会は,3カ国以上のEC加盟国に企 業結合を届け出る事例について,同項が有効でないとする最大の理由として,

EC加盟各国の企業結合規制の手続が,企業結合の届出の要件や時期等におい て異なっている点を挙げ,同項は,かかる弱点を克服するためには,EC加盟 各国の国内法を,ある程度,調和させる必要があるとする。しかしEC委員会 は,EC加盟各国の国内法の調和は,今回の企業結合規制改革の対象ではな く,相当の時間が必要であると述べている(60)

そこで次に,EC委員会は,緑書において,3カ国以上のEC加盟国に企業 結合を届け出る事例を有効に防止するため,同規則第1条3項を,EC委員会 の強制的な管轄を定める規定とする可能性を指摘し,かかる可能性を検討する よう提案している(61)。すなわちEC委員会は,企業結合当事者がEC加盟国の 3カ国以上に企業結合の届け出る義務がある場合,それ自体,企業結合をEC の管轄とする十分な根拠となるとして,自動的にECの管轄とする「mandatory 3+system」(62)と呼ばれる強制的な管轄の制度を,従来の同規則第1条3項に 替えて,新たに導入する提案をしており,EC委員会は,このようなECの強

(20)

制的な管轄の制度が,次の理由から適切であるとしている(63)

まずEC委員会は,同委員会が1996年に公表した緑書において,企業結合 当事者が,EC加盟国の2カ国以上に企業結合の届け出る義務がある場合につ いて類似の提案をしたことを紹介し(64),当時,かかる類似の提案に対する主要 な批判は,EC加盟国の独占禁止法の間で,企業結合の定義や企業結合の届出 が義務か否かについて相違があるという点に向けられ,その相違のため,法的 安定性が損なわれるという問題が生ずると批判されただけではなく,EC加盟 国の独占禁止法が企業結合に適用されるか否かについて,EC委員会の判断が 困難となると批判されたとする(65)

しかし他方で,EC委員会は,現在では,EC加盟国の間では,独占禁止法 における企業結合規制について,顕著な調和がみられることから,当時,EC 委員会が提案したような強制的な管轄の制度に関して,問題が少なくなったと する(66)。そしてEC委員会は,このような状況の変化から,ECの強制的な管 轄の制度を同規則第1条3項に導入する点について,再度,そのメリットを議 論すべきであるとして(67),強制的な管轄の制度に関しては,1996年の緑書を ベースにして,企業結合当事者が,企業結合をEC加盟国の3カ国以上に届け 出る義務がある事例について検討するよう提案した(68)。またEC委員会は,従 来のEC企業結合規則第1条3項の実務からすれば,この制度を,特定の売上 高を有する企業結合に限定する理由はないとしている(69)

(b)EC 企業結合規則第9条と第22条に関する改正提案

次に,EC委員会の緑書のうち,本稿11頁以下のA「管轄に関する問題」

の冒頭で言及した前記(b)「企業結合案件のEC委員会からEC加盟国への 付託に関する同規則第9条の改正,ならびにEC加盟国からEC委員会への付 託を規定する同規則第22条の改正」を見ると,まずEC委員会の緑書は,同 規則において,企業結合案件に関する管轄をEC委員会とEC加盟国に配分す

(21)

るに当たり,同規則第9条と第22条が,管轄の配分をある程度柔軟に行なう ことを保障しているとして,両条は今後とも重要であるとする(70)。そしてEC 委員会は,緑書において,次の2点を中心として両条の改正の可能性を検討す るよう提案している(71)

第1に,EC委員会は,EC企業結合規則第9条と第22条に規定された付託 手続を迅速化して,付託制度を効率的に運用するため,両条の要件を簡素化す るよう提案する(72)。詳述すれば,EC企業結合規則第9条2項は,企業結合案 件をEC委員会からEC加盟国に付託する要件として,次の2つの場合を挙 げ,企業結合がいずれかに該当する場合,当該EC加盟国は,その旨をEC 員会に通知すると規定していた。

(Ë)企業結合が,個別市場のすべての特徴を備える当該EC加盟国の国内市場に おいて,有効な競争を著しく阻害する支配的地位の形成または強化をもたらす おそれがある場合

(Ì)企業結合が,個別市場のすべての特徴を備え,かつEC市場の実質的な部分 を構成しない当該EC加盟国の国内市場における競争に影響を与える場合

このうち(Ë)について,EC委員会は,「有効な競争を著しく阻害する支 配的地位の形成または強化をもたらすおそれ」という要件を削除し,(Ì)に ついては,「EC市場の実質的な部分を構成しない」という要件を削除して,

これらの要件に関するEC加盟国の立証を不要とするよう提案している。

またEC企業結合規則第22条3項も,「企業結合が,EC加盟国の国内にお いて,有効な競争を著しく阻害する支配的地位の形成または強化をもたらす場 合」を,企業結合案件をEC加盟国からEC委員会に付託する要件としていた が,EC委員会は,同規則第9条と第22条に規定された付託が表裏の関係に あるとして,この同規則第22条3項の要件も,同規則第9条2項の場合と同 様に削除するよう提案している。

(22)

また第2に,EC委員会は,EC企業結合規則第9条と第22条所定の付託の 手続を迅速化するという観点から,EC委員会が,自らのイニシアティブによ り,企業結合案件を付託できるよう両条を改正することを提案している(73)

(c)EC 企業結合規則第3条に関する改正提案

次に,EC委員会の緑書のうち,本稿11頁以下のA「管轄に関する問題」

の冒頭で言及した前記(c)「EC企業結合規則第3条の改正」を見ると,ま EC委員会は,緑書において,同規則の対象となる企業結合を定義する同規 則第3条について,次のように述べている。すなわちEC委員会は,同規則第 3条について,同条は,1事業者または複数の事業者が,企業結合により,1

事業者または複数の事業者に対して,法律上または事実上の支配を獲得する場 合,かかる企業結合を同規則の適用対象とすると定義しているとし,例えば,

ある事業者に対する単独または共同での少数資本参加で当該事業者に対して支 配を及ぼさないという事例は,この定義に該当せず,同規則の対象とはならな いとする(74)。またEC委員会は,企業の戦略的な提携の事例についても同断と し,EC委員会は,これらの企業結合の事例が当該市場を構造的に変化させる 可能性があるものの,企業結合の事前届出のためにこれらの企業結合を十分に 定義することが困難であるとして,問題が残ると認識していると述べてい (75)

そしてEC委員会は,さらに次のような事例,すなわち同規則第3条に該当 して自立的に事業を行なうジョイント・ベンチャーの設立が他の独立した事業 者間の競争行動の調整する目的または効果を有するという同規則第2条4項の 事例,生産部門において部分的な機能を同じくするジョイント・ベンチャーの 事例,法律上独立した複数の取引が同規則の届出義務のある1つの企業結合と みなされるか否か問題となる複数取引の事例,また同規則第3条5項に関連し て,ジョイント・ベンチャーが行なう取引をはじめとした金融分野のいくつか

(23)

の取引の事例を,同規則の適用対象となる企業結合に含めるか否かを検討した 後,次のような提案を行なっている(76)

第1の提案は,前述の複数取引に関する。まずEC委員会は,同規則第3条 1項(b)が「1事業者または複数の事業者の全部または一部について直接ま たは間接的な支配」を獲得する企業結合を同規則の適用対象とするとして,同 規則の適用対象となる企業結合を一般的に広く定義する一方,前述の複数取引 を直接規定する条文として,同規則第5条2項2文が,同一の人または事業者 間の2年以内の複数の取引を同一の企業結合として取り扱うと規定していると 指摘する(77)。そして次にEC委員会は,基本的に,同規則第5条2項2文が,

1つの企業結合を複数の取引に分割することにより同規則を脱法することを防 止するために規定されたとし,この規定が存在することから,同規則において は,この規定を満たす複数取引は1つの企業結合とみなされるとして,同規則 第5条2項2文を改正して,前述の複数取引を広く同規則の適用対象とするよ う提案している(78)。また同規則第1条が売上高の要件を有しており,他方,同 規則第5条は売上高の算定について規定しているが,EC委員会の緑書は,両 条に相違が見られるとし,第2の提案として,同規則第5条4項における事業 者のグループの概念が,同規則第3条3項所定の「支配」の概念と調和するか 否かについて検討するよう提案している(79)

B 手続規定に関する問題

EC委員会の緑書は,本稿10頁で言及したように,EC企業結合規則の改正 事項の2番目に「EC企業結合規則の手続規定に関する問題」を挙げているが,

EC委員会は,手続規定に関する問題について,次のような改正の可能性を検 討するよう提案している(80)

まず第1に,EC委員会は,同規則第4条1項が,企業結合のEC委員会へ の届出期限を,企業結合の契約締結等のから1週間としている点について,改

(24)

正の可能性を検討するよう提案している(81)。その理由として,EC委員会は,

通常の場合,企業結合当事者の主要な関心は,きるだけ早くEC委員会の承認 を得るために,可能な限り早期にEC委員会に企業結合の届出を行なうことに あるから,そもそもEC委員会が,企業結合の契約締結等から1週間の期限を 遵守させる必要がないこと,また従来,EC委員会の実務も柔軟に対処してき たことを挙げている(82)。またEC委員会は,企業結合の契約締結等が行なわれ る以前に,EC委員会に届け出ることを可能とすべきか否かについても検討す るよう提案している(83)

第2に,EC委員会は,同規則第7条1項が,企業結合の届出前ならびに EC委員会による企業結合の承認前について,企業結合の実施を禁止している 点について,次のような提案をしている(84)。すなわちEC委員会の緑書は,同 規則の適用対象となる企業結合を定義する同規則第3条に関する改正提案が示 唆するように,複数取引に関する同規則第5条2項2文を改正して,かかる条 項の適用対象に,同規則第7条2項所定の公開買付,ならびに次のような一連 の証券の取得,すなわち株式市場に見られるような様々な売り手からの証券の 取得を加え,同規則第7条2項に基づき,同規則第7条1項の適用除外とする 可能性について検討するよう提案している。

さらにEC委員会は,企業結合当事者が,EC委員会の承認を求めて問題点 を解消するための約束案を提出する場合について,EC委員会による企業結合 の審査期限を,延長する可能性について検討するよう提案している(85)。すなわ ちその提案は,Phase¿と呼ばれるEC企業結合規則第6条における企業結合 の予備審査,ならびにPhaseÀと呼ばれる同規則第8条における企業結合の詳 細審査において,企業結合当事者が,EC委員会に企業結合の承認を求めて問 題点を解決するための約束案を提出する場合,企業結合当事者が熟慮した約束 案を提出できるよう,約束案のEC委員会への提出期限とEC委員会の審査期 限を延長することを検討するとの提案であり,EC委員会は,かかる提案を,

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