日本の中小規模自治体におけるクリエイティブ産業 の把握に関する試論
著者 岡田 智博
雑誌名 明治学院大学社会学部付属研究所研究所年報 =
Bulletin of Institute of Sociology and Social Work, Meiji Gakuin University
巻 50
ページ 95‑109
発行年 2020‑02‑20
その他のタイトル Grasping the Economic Scale of Creative
Industry in Small Scale Local Governments in Japan
URL http://hdl.handle.net/10723/00003854
はじめに 地域におけるクリエイティブ産業振 興政策を形成するための基礎づくりとしての試み
1997年に英国が国の政策として新たに盛り込 んだクリエイティブ産業のコンセプトは、創造 力ひとつで瞬く間に地球規模でインパクトを与 えるサービスを少人数ときには個人のスタート アップによって創出するIT分野の勃興に代表 されるような新たな産業分野として、短期間の うちに世界を席巻している。英国の導入から20 年を経てクリエイティブ産業は、中国でも、独 自のブロック経済を形成できるまでになった新 たな経済成長において、デザインが重要なキー となるシェアリングエコノミーに代表されるよ うな新興起業家によるITサービスの創発が重 要な役割を担うなど、世界中のあらゆる国や地 域における成長エンジンとしてなくてはならな いものとなってきた。
わが国においても、他国に遅れながらも2011 年に、 「クリエイティブ産業」という名称のもと、
経済産業省による商務情報政策局生活文化創造 産業課(通称:クリエイティブ産業課)の新設に より国としての取り組みがはじまっている。
クリエイティブ産業の創発のもととなる地域 においても、同分野の振興が地場における成長 分野として、同じく世界各地で着目されている。
とりわけ、アジア各国・地域、主に近代の歴史 的な街並みの風情を転用する中国語圏において は、文化創意園区と一般的によばれるクリエイ
ティブ産業振興団地が生まれ、特に中国、台湾、
香港では、競い合うように各都市の政府が整備 を進めている。これらクリエイティブ産業にお ける「工業団地」は、それぞれの地域における クリエイティブ産業に従事できる拠点であるだ けでなく、多くの場所では、その創造性を求め る来訪者が国内外から集まり、行楽や消費を楽 しむ新たな観光地としても繁栄している。わが 国においても、東京の千代田区や九州の福岡市 等における、クリエイティブ産業の基地として の歴史的な廃校活用など、幾つかの自治体にお いて同様の取り組みが行なわれている。
このようにクリエイティブ産業は、スマート フォン上で日常的に活用するサービスからさま ざまな文化的体験を消費するために足を運ぶ着 地型観光まで、近年新たに習慣化したことの多 くを担う存在であり、これからの地域産業の発 展を願うにあたり有望な分野であり、人間の創 造性を資源とする多様性は立地を選ばない存在 である。
クリエイティブ産業をわが国の地域が政策導 入するにあたり、直面する問題として前例に基 づくエビデンスづくりがあげられる。これだけ 有望かつ成長において必要とされる分野であっ ても、もともとの起点となる定量的なエビデン スがなければ、成長目標がたてられず、それ故、
政策として振興策が採用されないという問題に 直面する。
日本の中小規模自治体における クリエイティブ産業の把握に関する試論
岡 田 智 博
筆者は、沖縄県石垣市において、市民が地域 コミュニティの中で営むことができる「ちいさ な起業家」となり得るクリエイティブ産業基盤 の創出に取り組むための政策デザインに2017年 以降あたってきた。その中において、施策を行 うことにより、どのような効果があるのかを示 すことが必要となった。このような背景により、
石垣市におけるクリエイティブ産業の規模を示 す数値を求める作業が必要となった。
クリエイティブ産業は、地域の発展に新たに 資する要素とはいえ、そのことが顕在化したの は、はやくても20年程度のものであるため、基 準となる前例が実際のところ地域内において存 在せず、そのことが政策化において難しいとい うジレンマの中にある。
今回、石垣市で筆者が試みた、中小規模の自 治体におけるクリエイティブ産業の規模の把握 の取り組みを通じ、他の地域においてもクリエ イティブ産業の振興に向けた、政策形成の基礎 となる材料と資することを期待するものであ る。
1 日本における政策としてのクリエイティブ 産業認知の流れ
「クリエイティブ産業」の政策概念が導入さ れたのは、1997年の英国における労働党への政 権交代による、トニー・ブレア首相のもとで政 策改革が行われたことを発端とする。ブレア政 権は、社会の創造的な力を引き出すことを新た な文化政策の柱とし、その一環として「クリエ イティブ産業」の概念化と振興策に取り組んだ。
ここでいう「クリエイティブ産業」 (Creative…
Industries)とは、英国の文化政策をつかさど る文化・メディア・スポーツ省(DCMS)が、同分 野の国としての政策化を受け、1998年にまとめた 報告書…Creative Industry Mapping Document
(1)の定義によると、「個人の可能性、スキル、才能
を源泉とし、知的財産の活用を通じて富と雇用を 創造する可能性を持った産業」としている。
DCMSは、クリエイティブ産業として13業種 が分類されると提示した。音楽、舞台芸術、映 像(ビデオ)・映画、ファッションデザイン、デ ザイン、工芸、美術・骨董市場、建築設計、テ レビ・ラジオ、出版・文芸、広告、ゲームな らびにインタラクティブソフトウエア、コン ピュータソフトウェア関連の各産業である。
その後、英国ではこの政策の実施によって クリエイティブ産業の存在感が高まり(2000年 には英国のGDPの7.9%を占める)、高い成長率
(1997年から2000年にかけて輸出額が年率13%
の成長)が認められた。
それに平行して議論や研究も増えると、クリ エイティブ産業という概念は、各国の文化行政 や産業行政に広まることとなり、中国、台湾に おいては「創意産業」と翻訳されるなど、世界 各国ならびに地方自治体がさまざまな振興策を とるようになっていった。
わが国においては、当時、日本が国際競争力 をつけていたPCやゲームなどのマルチメディ アの興隆を背景として、これらの分野の産業を 振興するため1994年よりコンテンツ産業の振興 を当時の通商産業省が掲げるとともに、1997年 には文化庁がメディア芸術という新たな芸術領 域を掲げるといった、クリエイティブ産業のコ ンセプトが生まれる以前からの動きを独自に続 けてきた。そのため、クリエイティブ産業を政 策に取り入れるのは、「クールジャパン」政策 による日本文化に立脚した産業の国際化を背景 とした、2011年の経済産業省における商務情報 政策局生活文化創造産業課(別称:クリエイティ ブ産業課)の新設まで待たなければならなかっ た。
先にあげたように、それ以前よりコンテンツ
産業ならびにIT産業の振興が経済産業省を中
心に強く行われ、かつその振興の動きが自治体 レベルにまで浸透していたため、他国と較べて クリエイティブ産業の認知が深まりにくい状況 にあった。あわせて、国がクリエイティブ産業 として政策を統合するまでは、ファッション、
デザイン、伝統的工芸品は、それぞれ連携せず、
別の分野として振興されていたこともあり、コ ンテンツで置かれていた状況と同じく、クリエ イティブ産業への認知を深めることが難しかっ た。ましてや芸術表現においては、映画やマン ガ、アニメーションといったコンテンツを除き、
産業に資するものとして扱われておらず、クリ エイティブ産業課の設置と2017年に内閣によっ て閣議決定された「文化経済戦略」において、
はじめて経済価値としての振興を認め、文化 GDPの算出を試みるというような状況にある。
また、クリエイティブ産業課は、2017年に正式 名称そのものがクールジャパン政策課に改めら れるなど、今なお政策としてのクリエイティブ 産業の認知は、わが国では他国と較べて遅れた 状況にあり、そのため、現在においても地域、
すなわち地方自治体において、多くは産業政策 として浸透しきれていない状況にある。
2 これまでの国内におけるクリエイティブ産 業把握の取組み
わが国においても、クリエイティブ産業振興 の流れは少しずつではあるが、広がり始めてい る。クリエイティブ産業の振興に取組むにあた り、これまで、国と一部の地方自治体において それぞれクリエイティブ産業の把握に向けた調 査が行なわれてきた。
国においては、経済産業省でのクリエイティ ブ産業課の設置の年に最初の試算が行なわれ、
また、内閣府の文化経済戦略とあわせて「文化 GDP」としての試算がなされている。
地方自治体においては、東京都が都内におけ
るクリエイティブ産業の算出に取り組んでい る。
それぞれどのようなかたちでクリエイティブ 産業の算出を行ったのかをみてみよう。
(1) 経済産業省~『クリエイティブ産業に 係る知的財産権等の侵害実態調査及び創作 環境等の整備のための調査』(2)
この調査は、2011年の経済産業省におけるク リエイティブ産業課の発足を踏まえて行なわれ たもので、2012年3月に発行されている。調査 にあたったのは、野村総合研究所である。この 調査によって、わが国の政策上におけるクリエ イティブ産業がはじめて定義されている。
「クリエイティブ産業」は、価格ではなくク リエイティビティの付加価値によって市場か ら選択されるモノ・コト・ヒトからなる。「ク リエイティビティ」とは、個人的・組織的な 製品(モノ)の製造・流通プロセス及びサービ ス(コト)の提供プロセスにおいてなされる独 創的または固有のインプットのことであり、…
また個人(ヒト)が人的資源として保有するそ のようなスキル・才能のことをいう。なお、 「独 創的または固有のインプット」とは、芸術的・
文化的・知的・伝統的・革新的な取組を含む。
また、わが国におけるクリエイティブ産業が 9つの分野として提起された。
その9分野とは、①ファッション、②食、③ コンテンツ、④地域産品、⑤すまい(筆者注:
建築設計、インテリア製造業等)、⑥観光、⑦ 広告、⑧アート、⑨デザイン、である。
わが国におけるクリエイティブ産業の分野の
特徴は、先に日本文化を活用した産業の海外展
開策としての「クール・ジャパン」の政策導入
のために行なわれた、クール・ジャパン官民有
識者会議(2010年11月~2011年5月)での議論を もとに、①~⑥の分野が定められ、その上に先 行する海外におけるクリエイティブ産業として 定義されている⑦~⑨の分野を加えることによ り、適正化が行なわれてという点にある。興味 深いのは、海外でのクリエイティブ産業政策の 展開を踏まえて、はじめて「アート」に関する 分野がわが国の産業を構成するものとして含め られたことにあるだろう。
世界において先行してきたクリエイティブ産 業の定義についての考え方は、実際の石垣市に おける考察とあてはめて後述で説明していきた い。
クリエイティブ産業の市場規模の算出は、先 に提起した9分野をもとに、日本標準産業分類 にあてはめ、主に経済産業省による工業統計調 査、商業調査を売上高で用い、分類内での推計 のために経済センサスによる従業員数を活用し て割合をはじき、調整を行っている。加えて、
各省ならびに機関による分野別の統計を援用 し、算出を行っている。
結果として、約64兆円の経済規模が、主に 2007年(商業統計)から2009年(工業統計)のデー タより、わが国に存在すると試算させた。
分野別では、①ファッション(6.29兆円)、② 食(13.93兆円)、③コンテンツ(11.37兆円)、④ 地域産品(0.62兆円)、⑤すまい(12.52兆円)、⑥ 観光(7.83兆円)、⑦広告(9.84兆円)、⑧アート
(1.58兆円)、⑨デザイン(0.39兆円)である。
デザイン分野の市場規模がその存在感よりも 少なくみてとれる。その理由として、報告書に おいては製造業や広告業、ファッション等の企 業に含まれるインハウスデザイナーや地域産品 やコンテンツ等における副業によるデザインを 織り込むことが統計上難しいことが指摘されて いた。
経済産業省における全国的なクリエイティブ
産業の市場規模の算出は、現在のところ、この 1例のみで、約64兆円にものぼる巨大な産業規 模を明示しながらも、自ら組織名を「クールジャ パン政策課」と改めたように、他国のようにク リエイティブ産業として大きく成長させていく 意欲が薄いようにも感じられる。
(2) 内閣官房 文化庁~「文化産業の経済規 模及び経済波及効果に関する調査研究事業」
一方、2016年に内閣官房は文化庁所管で「文 化GDP」の算出をおこない、文化経済戦略と して2017年6月9日に文化GDPの拡大の推進 が「経済財政運営と改革の基本方針2017」及び
「未来投資戦略2017」として、閣議決定される という局面を迎えた。
文化GDPとは、国としての文化芸術産業の 経済規模として定義されており、規模の拡大に 向けた基礎となる数字として、文化GDPが算 出された。
最初となるわが国の文化GDPの算出は、「文 化産業の経済規模及び経済波及効果に関する調 査研究事業」
(3)として行われ、2016年3月に発 行された。調査にあたったのはニッセイ基礎研 究所である。
わが国の文化GDPの算出は、文化経済戦略 における議論のもととするため、先に「クール・
ジャパン」での議論ありきの経済産業省におけ るクリエイティブ産業の規模の算出と較べて縛 りが少ない設計となっている。そのため、世界 でのGDPにおけるクリエイティブ産業を含め た文化産業による付加価値の算定における先行 事例を踏まえた算出を行おうとしている。
手法としては、国連機関であるユネスコの統 計研究所が提示している、文化サテライト勘定 の方式を導入、国民経済計算の中の一部を組み 替えて算出する手法を取っている。
ユネスコの方式を取り込むことにより、世界
各国との比較が可能となる利点がある。
2009年にユネスコが提唱した経済としての文 化領域は8分野となっている。
Ⓐ文化遺産/自然遺産、Ⓑパフォーミング アーツ/セレブレーション、Ⓒビジュアルアー ツ/工芸、Ⓓ著作・出版/報道、Ⓔオーディオ ビジュアル/インタラクティブメディア、Ⓕデ ザイン/クリエイティブサービス、Ⓖ観光、Ⓗ
スポーツ/レクリエーション、である。
特にⒶからⒻの6分野が、中核となる文化領 域としてとらえられており、わが国の文化GDP の算出において、これら中核となる文化領域に 限って行なわれた。また、算出可能な統計の確 保や算出手法が難しい分野を省き、最終的な文 化GDPが算出された。
ユネスコのガイドラインにありながら算出か ら省いた主なものとして、Ⓐ文化遺産/自然遺 産における「遺跡、史跡」「文化的景観」「自然 遺産」、Ⓑパフォーミングアーツ/セレブレー ションにおける「フェスティバル、フェア、祝 祭」である。
結果として10兆444億円が、2015年度時点に おけるわが国の文化GDPとして算出され、2016 年の名目GDPと較べて1.87%をしめるという結 果を導き出した。
分野別では、Ⓐ文化遺産/自然遺産(1185億 円)、Ⓑパフォーミングアーツ/セレブレーショ ン(5089億円)、Ⓒビジュアルアーツ/工芸(2715 億円)、Ⓓ著作・出版/報道(2兆6740億円)、
Ⓔオーディオビジュアル/インタラクティブメ ディア(2兆6542億円)、Ⓕデザイン/クリエイ ティブサービス(3兆8174億円)である。
経済産業省におけるクリエイティブ産業の規 模算出では、クリエイティブが影響を及ぼす分 野全体を広くとらえているのと較べ、この文化 GDPでは「文化固有または創造的活動」に直 接関わるものに絞り込んでいる点に違いがみら
れる。
2017年に内閣官房において策定された『文化 経済戦略』
(4)において、2025年までにわが国の 文化GDPを18兆円(総GDP比約3%)にまで高め ることが目標とされており、目標の検証と再設 定のため、引き続き文化GDPの算出に向けた 取り組みは続くものと考えられる。
(3) 東京都~『クリエイティブ産業の実態と 課題に関する調査』
地方自治体においては、東京都が国に先駆け て、クリエイティブ産業に関する包括的な実態 調査を実施、産業労働局より2010年3月に第1 回目の報告書
(5)、2015年3月に第2回目の報告 書
(6)が発行されている。ここでは、最新となる 第2回目の報告書から算出方法をみてみる。
東京都が早くからクリエイティブ産業に取り 組み始めたのは、英国のロンドンをはじめ、東 京と同様の大きな発信力を持つ都市がクリエイ ティブ産業の振興を打ち出し始めたことにあ る。その先駆さ故か、東京都では、当初、クリ エイティブ産業を「情報発信型産業」という独 自の名称で扱っていたが、2015年の報告書にお いては概念そのものの定着よりクリエイティブ 産業とのみ明示している。
第1回目の調査では、先行する英国における クリエイティブ産業の定義を参考として、クリ エイティブ産業の範囲を14分野に定め調査をし た。2回目では、経済産業省においてクリエイ ティブ産業の定義が行なわれたことを踏まえ、
16分野に対象分野を拡大した。
東京都ではクリエイティブ産業を「①個人の
クリエイティビティ(創造性)に基づく知的財産
を核として、②それを技術によって情報財また
は物財に転化し、③マネジメント能力によっ
てビジネス化する、価値創造のプロセス」と
捉えている。この定義は、先行する英国政府、
UNCTAD(国際連合貿易開発会議)の定義を踏 まえ、新たに経済産業省による定義を加味した ものである。
東京都における16分野とは、①芸術、②舞台 芸術、③音楽、④映画・ビデオ・写真、⑤テレビ・
ラジオ・報道、⑥アニメ、⑦ゲーム、⑧ファッ ション、⑨デザイン、⑩広告、⑪出版、⑫情報 サービス、⑬日用品、⑭工芸品・装飾品、⑮観 光・飲食、⑯建築設計、である。特に第2回目 で加わった大きな分野として、⑫情報サービス、
⑮観光・飲食、⑯建築設計がある。
算出においては、経済センサス調査の産業分 類に対応させてデータの整理を行った。地方に おける統計データの取り方の難しさもあった。
売上金額及び付加価値額については、産業小分 類及び細分類のデータが東京都レベルで公表さ れていないことから、東京都は総務省から調査 票データの提供を受けて集計する手法をとっ た。地域の単位が小さくなるにつれて、統計に 活用しない数字として省かれるものが国による 資料では生じるようになり、その部分をいかに 推計し、また、埋め合わせていくかが後述の石 垣市の算出においても大きな課題となる。
2012年の経済センサスに基づくクリエイティ ブ産業全体の東京都の付加価値額は6兆586億 円にのぼり、わが国全体の38.3%が集積してい ることが明らかになった。
分野別では、芸術(3億円)、舞台芸術(945 億円)、音楽(433億円)、映画・ビデオ・写真
+アニメ(2314億円)、出版(2857億円)、広告
(8511億円)、テレビ・ラジオ・報道(5284億円)、
ゲーム(292億円)、情報サービス(2兆7478億 円)、建築設計(2638億円)、デザイン(427億円)、
ファッション(1974億円)、工芸品・装飾品(243 億円)、日用品(424億円)、観光・飲食(6752億円)、
である。
東京都においては、アニメーションやゲーム
など、わが国だけでなく、世界の各事例よりも 細かい分類を行っている。これら独自の分類は、
既に東京都が推進しているコンテンツ(ゲーム やアニメーション等)の振興政策と重なる部分 があり、産業把握を通じて、地場産業としての クリエイティブ産業の振興の根拠にしようとい う意図をうかがうことができる。
ほかの地方自治体においては、クリエイティ ブ産業の事業者数の把握に東京都の港区が取り 組んでいる以外、経済規模の把握に取り組んで いる地方自治体は存在してこなかった。その理 由としては、全く新たな産業分野として誕生し たため、東京都のように国際比較において明ら かに地場産業としての特徴をもっていることを 自覚したような地域でない限りには、力を入れて こなかった事業であることが大いに考えられる。
国や都のケースでみるように、観光や食分野 までも含むとともに、大量の外国人旅行者が全 国津々浦々に来訪する現在にあって、何処の地 域であってもクリエイティブ産業の要素は重要 となってくる。地域の持続的発展のためには、
いかにクリエイティブ産業を政策に取り入れて 行くかが必須となるだろう。
このような状況にあり、東京都が着手したよ うに、いかに地域におけるクリエイティブ産業 の把握の基礎となる数字を算出できるかが必要 となってくる。それも、多大かつ多様な経済を 有し、統計としての数値をまとめやすい、東京 都においても妥当な数値を得るのに苦労する 中、地方の中小規模の自治体でそれは可能なの だろうか。
3 中小規模自治体におけるクリエイティブ産 業の把握~沖縄県石垣市をケースとして
日本最南の都市である沖縄県石垣市は、離島
でありながら年間137万人(2018年)
(7)もの観光
客が来訪する自治体である。また、織物である
「八重山ミンサー」「八重山上布」が経済産業省 の伝統的工芸品の指定を受けるとともに、主な 用途である和装だけではなく、現代的な雑貨や アクセサリーなどへの商品化で販路を広げる一 方、自然環境や地域特有の風土に惹かれ、移 住やUターンによって地場で活動するクリエー ターが数多く存在している。石垣市における地 域振興事業をもとに誕生した、市内で活躍す るクリエーターのエージェントである石垣島…
Creative…Flag…には、グラフィックデザイナー や写真家など2018年時点で52者が登録
(8)してい る。
このように石垣市は、クリエイティブ産業の 特色として、先行する国内外の共通項でもあ る、人々の創造性が付加価値を生み出し、観光 といった関連する産業分野を振興させる地域の 環境が成り立っている自治体ということができ る。
筆者は、このような地域固有の創造性を発揮 することにより、自立的かつ持続可能な発展に 資する取組みとして、石垣市の『文化観光振興 プラン』
(9)の編纂に受託事業者であるクリエイ ティブクラスターの担当者として直接関わっ た。その上で、より一層の地域固有の創造的発 展に資するクリエイティブ産業の振興に取組む ため、石垣市におけるクリエイティブ産業の定 量的把握に『石垣市における文化創造分野の振 興に関する調査』
(10)として2018年度、引き続き 取り組んできた。
本項では、これまであげた東京のような、ク リエイティブ産業が存在し、産業や文化環境を リードしていることが承前である大規模な自治 体ではなく、地域固有の創造性があるからこそ 営みが続く地域におけるクリエイティブ産業の 把握をどのようなかたちで取組んだのかについ て、石垣市を例に明らかにする。
(1) 地域におけるクリエイティブ産業の分類
石垣市におけるクリエイティブ産業の定量的 把握にあたり、その数値が今後の政策立案や展 開に資するものとするため、本調査におけるク リエイティブ産業の定義を、国としての定義と なる経済産業省によるものとした。
その上で、石垣市の特性にあわせた把握を可 能とするため、これまでのクリエイティブ産業 の定量評価に向けた議論の流れをもとに、分類 の設定を行った。これからあげる議論の流れは、
これまでの世界における文化経済研究の流れの 中にあるもので、経済産業省によるクリエイティ ブ産業の把握や、内閣官房による文化GDPの算 出でも論拠となったものである。
1) 同心円モデル
クリエイティブ産業理論を導き出した源流に ある文化経済研究において、オーストラリアの 文化経済学者、D.…Throsby… が提唱した「同心 円モデル」は(図1)、クリエイティブ産業に おける産業セクターの位置づけを示すものとし て、クリエイティブ産業の振興にあたっている 国連機関であるユネスコの統計研究所やわが国 の文化庁による文化GDP算出の際のキーとな るツールのひとつとして用いられている。
このモデルでは文章や視覚、音楽などで表現 された独創的なアイデアが放射線状に広がり、
他の文化的な産業に影響をもたらすという考え を基本としている。文学、音楽、舞台芸術、ビ ジュアルアーツなどの「中核となる創造的芸術」
を中心に、「他の中核的な文化産業」、「広義の 文化産業」、「文化関連産業」といった産業群が 同心円状に分布する。ここでいう「文化産業」
とは、クリエイティブ産業の考え方以前に存在
している概念であり、政策およびその根拠とな
る理論研究の流れとしては、諸分野はクリエイ
ティブ産業と同意として考えていい。違いとし
ては、文化産業の中核に「創造的芸術」を置き、
芸術から直接派生する産業モデルを構築してい ることに対し、クリエイティブ産業では中核と なる芸術と融合することにより価値が生じる産 業を含んでいる点にある。クリエイティブ産業 における領域の広がりは、次にあげるユネスコ 統計研究所による文化産業の領域の考え方にも 重なるものがある。
「他の中核的文化産業」には映画、博物館、
美術館、図書館が、「広義の文化産業」には、
遺産サービス、出版、レコード音楽、テレビ、
ラジオ、ビデオゲーム、コンピュータゲームが、
そして「文化関連産業」には、広告や建築、デ ザイン、ファッションが含まれている。
同心円モデルでは、中心から離れるほど、創造 的な芸術活動に加え、施設やサービス、産業な ど他の要素が増えていくことを表している。
2) ユネスコ統計研究所による文化産業の領 域の考え方
クリエイティブ産業の振興にあたっている 国連機関であるユネスコの統計研究所が2009 年 に 発 表 し た レ ポ ー ト“The…2009…UNESCO…
Framework…for…Cultural…Statistics…(FCS)”
(11)の基礎となっている理論では、モデルとと もに文化産業に関する国際標準産業分類、中 央 生 産 物 分 類(Provisional…Central…Product…
Classification)、国際標準職業分類が掲載され ている。
わが国における文化GDP算出に関する根拠 でも示したが、ユネスコ統計研究所モデルでは、
文化領域として6つの分野と、関連領域として 2つの分野を示している。
文化領域はユネスコ統計研究所モデルの中核 に位置し、その次のグループとして広義の文化、
社会活動、レクリエーションと結びつく関連分 野が設定されている。
3) 石垣市におけるクリエイティブ産業の分類
前にあげた、文化産業のアプローチからクリ エイティブ産業の評価に応用されている主なモ デル「同心円モデル」「ユネスコ統計研究所モ デル」をもとに、石垣市のクリエイティブ産業 の流れをみる場合、表1のようなかたちでとら えることができる。わが国の文化GDPにおい ては関連領域を省いていたが、石垣市において は八重山固有の音楽や祭礼等への憧憬やモチー フの活用など文化性そのものが観光サービスに
中核となる創造的芸術 他の中核的文化産業
広義の文化産業 文化関連産業
図1 同心円モデル
おいて色濃く影響を受けているとともに、食に おいても同様の文化的地域性を訴求しているこ とにより、関連分野に加え、経済産業省による 算出同様、同心円の中における文化的存在とし て数値に加味した。
石垣市は、ユネスコ統計研究所モデルを物差 しにみると、クリエイティブ産業を構成する業 種がまんべんなく存在している。また、産業化 されていないが「文化遺産・自然遺産」分野の ような他のクリエイティブ産業分野に用いるこ とができる資源を有していることを今後の振興 において加味していく可能性がある。
また、経済産業省によるクリエイティブ産業
とされている食分野および観光分野の厚みは、
市内におけるクリエイティブ産業資源の強さを 反映することになる。
同心円モデルからみると、クリエイティブ産 業からみた石垣市の特徴がより一層、つかみや すいものとなっている(図2)。中核となる創造 的表現の厚みが、市内のクリエイティブ産業と 結びつきながらビジネス化がおこり、これらの クリエイティブなリソースが関連産業の価値を 高める効果に結びついている。
文化を通じた創造的表現は、観光や食品産業、
工芸等に通じる「石垣島らしさ」を提供する中 核となっており、その厚みを産業価値へと変え
表1 石垣市におけるクリエイティブ産業の分類領域 分野
※アルファベットはユネスコでの文化統計の分類 産業分野 産業分類
クリエイティブ 領域
A …文化遺産、自然遺産
・博物館
・史跡
・文化景観
・自然遺産 B …パフォーマンス、
セレブレーション
・舞台芸術
・音楽
・フェスティバル、フェア、祝祭
・学術研究、専門・技術サービス業
※古典芸能指導者
C …ビジュアル・アーツ、工芸 ・工芸
・美術
・写真
・製造業 ・繊維工業
・窯業・土石製品製造業(陶器類)
・学術研究、専門・技術サービス業
D 本・出版
E …オーディオ・ビジュアル、
インタラクティブ・メディア
・本
・新聞、雑誌、その他の印刷物
・図書館・ラジオ等放送
・インターネット配信
・情報通信業
・学術研究、専門・技術サービス業
F …デザイン、
クリエイティブ・サービス
・ファッションデザイン
・グラフィックデザイン
・インテリアデザイン
・ランドスケープデザイン
・建築的デザイン
・広告サービス
・学術研究、専門・技術サービス業
・情報通信業
関係領域
G 観光 ・個人旅行・団体旅行サービス
・ホスピタリティ、宿泊
・ツーリズムガイド
・宿泊業、飲料サービス業
・生活関連サービス業、娯楽業
食分野 ・農林漁業
・食品製造
・飲料サービス
・農林漁業
・製造業 ・食料品製造業
・飲料・たばこ・飼料製造業
・飲食サービス業
H …スポーツ、リクリエーション ・スポーツ
・フィットネス
・キャンピング ・生活関連サービス業、娯楽業
る関連ビジネスを含めた、クリエイティブ産業 のエコシステムとみることができる。
4) 経済統計に基づく実態
石垣市の特性にあった分類に基づき、経済諸 資料に基づいて、クリエイティブ産業の各要素 の算出を行った。
① 事業者数および雇用者数
石垣市内におけるクリエイティブ産業の事業 者数と雇用者数は、2014年の経済センサスの中 分類に基づき、各分類を割り振って試算を行っ た(表2)。
同統計の抽出により、石垣市内におけるクリエ イティブ産業の従事者は、1,096事業所に6,706 人が従事している(平成26年:2014年)とみるこ とができる。また、この統計では市内の全産業 における事業所数を3,070、従事者数を19,712と 示していることにより、全産業からみたクリエ
イティブ産業の事業者比率は36%、従事者比率 は24%と算出できる。
② 売上高
石垣市内におけるクリエイティブ産業の売上 高を同じく、2012年の経済センサスの大分類に 基づき、各分野に割り振って試算を行った(表
3)。ここで、中小規模の自治体特有の算出におけ る問題が生じる。中分類以下の数値が少ないも のは、データとして省かれてしまうため、石垣 市レベルの小規模な自治体では、大分類しか公 表されておらず、入手できないという点である。
そのため、直接的にクリエイティブ産業には関 らない事業者の売上高が含まれているが、創造 性を通じて関連する産業分野全体に付加価値 を与えるクリエイティブ産業の性格を考慮に入 れ、周辺分野も影響を受けていると考え、売上 高として含め、数値化を示すという考え方によ
文化を通じた創造的表現の厚 みを高めることで、石垣島全体 の産業力が高められている。
中核となる石垣市内の文化を通じた 創造的表現
・音楽 ・舞台芸術
(舞踊等)
・工芸(織物・窯業・木工・民具等)
・視覚芸術 ・現代美術
・自然科学等の専門知識
(「文学」)
石垣市内のクリエイティブ産業
・シアター ・出版 ・レコード音楽
・ラジオ、テレビ、インターネット配信
・地域資源を用いた食品等製造業
・文化体験施設やサービス
・ガイドサービス クリエイティブ関連産業
・イベント ・広告
・デザイン ・ファッション
・IT サービス
・観光業(宿泊・ホスピタリティ)
・飲料サービス ・小売業
・食製造業 ・化粧品等その他製造業
・スポーツ ・レクリエーション
図2 石垣市のクリエイティブ産業における同心円モデル
り集計を行った。
また、周辺資料を用いることにより、それぞ れの産業内における、クリエイティブ産業の寄 与を明らかにしていった。
同統計の抽出により、石垣市内のクリエイ ティブ産業の売上高は、295億7300万円(2012年)
とみることができる。また、この統計では市内 における全産業の売上高を1,093億4500万円と
示していることにより、クリエイティブ産業の 全産業からみた売上比率は27%と算出できる。
周辺資料として、製造業内部の整理のため、
2014年の工業統計調査より、統計として活用可 能な数値のみで、製造業内におけるクリエイ ティブ産業の事業所数・従業者数・出荷額を参 考に示す(表4)。
製造業における中分類と比較することによ
表2 石垣市の産業(中分類)別クリエイティブ産業事業所数、男女別従事者数 平成26年7月1日現在産業区分 事業所数 従業者数 その他
男 女 内常用雇用者 男 女 (%)
農林漁業 50 315 252 63 230 190 40 27.0
食料品製造業 87 712 327 383 556 245 310 21.9
繊維工業 9 68 19 49 55 10 45 19.1
木材・木製品製造業(家具を除く) 6 13 11 2 4 4 - 69.2
家具・葬儀品製造業 5 33 27 6 19 14 5 42.4
印刷・同関連業 8 33 14 19 20 7 13 39.4
なめし革・同製品・毛皮製造業 1 3 2 1 2 1 1 33.3
窯業・土石製品製造業 24 175 139 36 132 103 29 24.6
放送業 4 28 17 11 27 16 11 3.6
情報サービス業 3 18 7 11 11 5 6 38.9
インターネット附随サービス業 5 35 31 4 30 26 4 14.3
映像・音楽・文字情報制作業 6 99 73 26 88 63 25 11.1
専門サービス業(他に分類されないもの) 29 98 56 42 58 21 37 40.5
広告業 2 7 5 2 5 3 2 28.6
技術サービス業(他に分類されないもの) 78 332 252 80 231 166 65 30.4
宿泊業 145 1970 956 1001 1752 856 894 11.1
飲食業 533 2240 912 1290 1476 571 878 34.1
持ち帰り・配達飲食サービス業 20 131 28 103 109 20 89 16.8
娯楽業 81 396 211 180 275 128 145 30.6
合計数 1096 6706 3348 3309 5080 2449 2599 24.3
(注)従業者数合計については男女別の不詳を含む。… 資料:平成26年経済センサス─基礎調査
表3 石垣市の産業(大分類)別クリエイティブ産業売上高等 平成24年2月1日現在
産業区分
売上
(収入)
金額
(注1)
費用 総額
付加 価値額
設備投資額
売上 原価
(注2)
販売費 及び 一般 管理費
(注2)
給与 総額
福利 厚生費
(注3)
動産・
不動産 賃借料
減価償 却費
租税 公課
外注費
(注3)
支払 利息等
(注4)
有形固定資産
(土地を除く)
無形固定資産
(ソフトウェ アのみ)
総数 29573 27046 10115 11388 7072 821 1265 2081 368 677 234 9968 898 11
農林漁業 1129 1013 612 401 260 25 35 53 21 12 11 396 90 0
製造業 10265 9478 4935 3337 2066 255 196 645 136 222 58 2989 571 5
情報通信業 1293 1239 542 688 378 96 18 101 14 62 27 447 94 -
学術研究、専門・技術サービス業 1729 1460 374 563 568 59 45 45 27 140 10 865 14 2 宿泊業、飲食サービス業 11707 10807 2384 5501 2958 332 649 1054 112 219 82 3970 81 0 生活関連サービス業、娯楽業 3450 3049 1268 898 842 54 322 183 58 22 46 1301 48 4
(注)(1)各数値については単一・複数事業所数をまとめたものであり、金額についてはすべて百万円単位である。… 資料:平成24年経済センサス─活動調査 (2)「会社企業」のみ。 (3)「個人」を除く。 (4)「個人」を除く。
り、セメントや土砂など土木製品を含める、窯 業・土石製品製造業を差し引いても、6割超の 寄与をクリエイティブ産業の分野が果たしてお り、サンプル数の関係より数値化されていない 陶器の生産高が表5の沖縄県離島関係資料によ ると2016年度に約3億円存在するなど、製造業 内でもより多くの産業寄与を測ることができる。
③ 特に工芸品分野の生産高ならびに雇用者数
周辺資料の整理において特筆すべきは工芸品 分野である。沖縄県は、本島以外の離島におけ る諸統計を『沖縄県離島関係資料』
(12)としてま とめており、その中で工芸品の生産高を毎年調 査、公表している。同統計の抽出により、石垣 市内のクリエイティブ産業のうち、工芸品に関 する生産高は15億6600万円(2017年)とみること ができる(表5)。
ここで注目すべき点として、石垣市における 工芸品への従事者が全生産業の3割を占め、県 の調査では触れられていない木工分野の従事者
の積み上げも含め、サービス業の分野だけでは なく、製造業においても伝統的産業の継承を基 本として、クリエイティブ産業のウエイトが高 いということを測ることができる。
このように、石垣市では、クリエイティブ産業 の寄与が大分類内においても高く存在し、諸産 業への影響を含め、売上高の把握であったとし ても、全体としてのクリエイティブ産業の成長 目標を見据える根拠として寄与できるものであ ると考えることができる。
④ 業種別売り上げからみる石垣市のクリエイ ティブ産業の特徴
分類モデルの整理でみたように、石垣市の文 化を通じた創造性は、クリエイティブ産業にお けるエコシステムの重要な中核のひとつの要素 とみることができる。そのことは、市内におけ る業種別売り上げからみることができる。市内 全業種の売り上げのうち27%をしめるクリエイ ティブ産業は、石垣市にとって重要な産業分野
表4 石垣市のクリエイティブ産業関連製造業(中分類)における事業所数・従業員数・出荷額
産業区分 事業所数 従業者数 現金給与
総額 原材料
使用額等 製造品
出荷額等 粗付加価値 額
食料品製造業 36 521 1108 1942 4653 2533
飲料・たばこ・飼料製造業 7 80 225 366 1310 606
繊維工業(衣服、その他の繊維製品を除く) 3 66 139 268 332 60
木材・木製品製造業(家具・装備品を除く) 1 4 × × × ×
家具・装備品製造業 2 24 × × × ×
印刷・同関連産業 2 13 × × × ×
窯業・土石製品製造業 9 132 421 887 2228 1252
合計 66 924 1893 3463 8523 4451
(単位:人、百万円)… 資料:平成26年工業統計調査
表5 石垣市の工芸品 従事者数・生産高
工業品目 生産高 従業者数 うち専業
総数 1566 303 172
八重山上布・ミンサー 1166 138 79
八重山花織 111 90 38
陶器類 289 75 55
(単位:人、百万円)従事者数、生産高は平成28年度… 資料:離島関係資料…平成31年1月
とみることができる。
特に製造業からみた場合、経済センサスとと もに、工業統計調査における製造品出荷額と沖 縄県離島関係資料における工芸品の生産高を比 較したところ、食料品に関する製造業と工芸品
(織物、陶器)をあわせた出荷・生産高より、市 内の製造業における売上比率の半数以上、75億 円程度の経済的産出が考えられる。なお、工業 統計調査と沖縄県離島関係資料との数値の乖離 は個人の事業者の部分や製販両方の面を持つ事 業者が含まれている点からと考えられる。同様 のことはセメント等を含む、窯業・土石製品製 造業と陶器類に限った間の乖離にもある(図3)。
このような点から、石垣市においては、文化 を通じた創造性が、観光やサービス消費だけに とどまらず、工芸品や食料品といった「もの」
の分野でも商品力を発揮しているという特徴を あげることができる。すなわち、観光といった イメージとしての文化消費だけでなく、特産品 としての「石垣島」ブランドとその中身の真正 性の反映として地域固有の創造性が市場性を有 しているとみることができる。
⑤ 業種別従事者数からみる石垣市のクリエイ ティブ産業の特徴
従事者数からみた場合でも、市内の全従事 者数にしめるクリエイティブ産業の割合が24%
と、雇用の面においても重要な産業分野である ということが明らかである。
特に製造業からみた場合、経済センサスとと もに、工業統計調査における製造品出荷額と沖 縄県離島関係資料における工芸品の生産高と比 較したところ、食料品に関する製造業と工芸品
(織物、陶器)をあわせた従事者数より、市内の 製造業における従事者の半数以上1,000人程度 の従事者の存在が考えられる。なお、工業統計 調査と沖縄県離島関係資料との数値の乖離は、
個人の担い手が工芸分野においては多く含まれ ている点が要因にあると考えられる。
あわせて、参考数値として、伝統芸能を教授 する古典芸能指導者数
(13)は情報通信業の従事 者より多く、織物分野、生活関連サービス業と 娯楽業の合計や農林漁業と並ぶ従事者数を有す る。なお、古典芸能指導者は、音楽に限ったも のであるため、舞踊を含めるとそれ以上の従事
0 200 農林漁業
製造業(全体)
食料製造業 飲料・たばこ・飼料製造業 繊維工業(衣料、その他の繊維製品除く)
八重山上布・ミンサー・八重山花織 窯業・土石製品製造業 陶器類 情報通信業 学術研究、専門・技術サービス業 宿泊業、飲料サービス業 生活関連サービス業、娯楽業
400 600 800 1000 1200 1400
単位:千万円 前掲各資料(2012年度、2014年度、2016年度)を使用 図3 石垣市のクリエイティブ産業における種別売上高
者数になる。また、他にもわが国の音楽の一ジャ ンルであるオキナワミュージックにおいて、全 国的な活動を含め大きな位置を占める八重山か らの音楽として、石垣市を拠点に活躍するプロ フェッショナルのミュージシャンが多数存在し ており、クリエイティブ産業が市内に多様な職 種で多くの働く場をもたらしていることわかる。
あわせて、個人の工芸従事者やミュージシャ ンの多く、ほとんどの古典芸能指導者は、副業 を有しており、生活文化に根差しながら多様な 働き方によって、石垣市特有かつ、観光産業に おける直接の訴求点となるクリエイティブを支 えている点が特筆できる(図4)。
おわりに 課題~なぜ地域におけるクリエイ ティブ産業の数的把握が必要なのか
本論では、筆者が取り組んだ、沖縄県石垣市 におけるクリエイティブ産業の定量的実態把握 の手法について、わが国における先行事例に触 れたうえで論じてきた。
金額ベースの指標づくりの試みとして、わが
国の地方自治体において採用されたのは、東京 都についで2例目である。従事者ベースであっ ても、2019年3月に公表された東京都港区の事 例だけであり、全国的な政策トレンドとしては まだまだ希少なものであるといえる。
その一方で「地方創生」や「クールジャパン」
の流れもあり、地域を「クリエイティブ」にし ていくことにより振興や再生をはかる動きは全 国に広がっており、文化庁が推進する地方自治 体を中心とする連携組織である「創造都市ネッ トワーク日本」には2019年4月時点、111の自 治体が加盟するなど、その流れはより大きなも のとなっている。
とはいえ、シェアリングエコノミーの本格化 や訪日観光のグローバル化など、創造性による 付加価値化をより一層、地域社会が不可逆的に 迫られる中、一過性のものではなく、持続的な 振興政策の導入が必要不可欠になっている。
これまであげたように、国際的な教育研究機 関であるユネスコがクリエイティブ産業分野の 振興に力を入れるなど、地域におけるクリエイ
0 200 農林漁業
製造業(全体)
食料製造業 飲料・たばこ・飼料製造業 繊維工業(衣料、その他の繊維製品除く)
八重山上布・ミンサー・八重山花織 窯業・土石製品製造業 陶器類 情報通信業 学術研究、専門・技術サービス業 宿泊業、飲料サービス業 生活関連サービス業、娯楽業 古典芸能指導者
400 600 800 1000 1200 1400 1600
単位:人 前掲各資料(2014年度、2016年度)を使用 図4 石垣市のクリエイティブ産業における種別従事者数
ティブ産業が自立的に存在し、各地において多 様に繁栄する姿は、文化の多様性に寄与するだ けでなく、地域社会そのものの持続にもつなが る。その一方で、全く新たな分野だからこそ、
前例がないものとして、もしくは流行りものと して取り入れながらも、力を入れて取り入れら れにくい側面も持っている。
同様に発展をみせるIT産業や観光業が既に ある統計の枠組から現状と目標を算出しやす く、そのために政策に取り入れられやすい環境 にある一方で、クリエイティブ産業は地域社会 に対して大きな影響を与えうることができる側 面を持ちながらも、ものさしとなる計量的実態 を示すことができないことが、その受け入れら れにくさを高めている。
石垣市での調査では、観光のみならず、地域 社会に厚みを与えるために必要不可欠な製造 業においてクリエイティブ分野の寄与が大き く、かつ、その中で伝統的な工芸に基づく分野 が雇用の大きな割合を担っていることが明らか になった。クリエイティブや創造という言葉が 想起するイメージから大都市でしか成り立たな い、東京都が最初の段階で用語化したような「情 報発信」力が強い産業=「情報発信型産業」に 捉えられがちであるが、地域においては日々の 営みの中にある創造こそが今なお産業の担い手 であり続けているのである。
それぞれの地域が持つ文化と創造の特色を持 続し続けるために、地域内における政策競争の 優先順位をたかめるためにも、定量的に把握し 目標となるべき指標とし、取り組むことが有効 であると考えられる。
最後に改めてであるが、わが国の中小規模の 自治体においてはじめてとなった、筆者による
調査の取り組みが、他の地域における文化によ る営みを通じた持続的発展の一助となることを 期待したい。
【注】
(1)…DCMS,…Creative Industry Mapping Document,…
London,…1998,…2001.
(2)…野村総合研究所(平成24年3月)、平成23年度知 的財産権ワーキング・グループ等侵害対策強 化事業(クリエイティブ産業に係る知的財産権 等の侵害実態調査及び創作環境等の整備のた めの調査) 経済産業省
(3)…ニッセイ基礎研究所(2016年3月)、文化産業 の経済規模及び経済波及効果に関する調査研 究事業 文化庁
(4)…内閣官房… 文化庁(平成29年12月27日)、文化経 済戦略
(5)…東京産業労働局(平成22年3月)、平成21年度 政策調査 クリエイティブ産業の実態と課題 に関する調査
(6)…東京産業労働局(平成27年3月)、平成26年度 政策調査 クリエイティブ産業の実態と課題 に関する調査
(7)…沖縄県総務部八重山事務所(平成31年2月5 日)、八重山観光統計
(8)…石垣島…Creative…Flagのホームページでの紹 介情報より…http://creativeflag.com/ 閲覧日 2018年11月30日
(9)… クリエイティブクラスター(平成30年3月)、文 化観光振興プラン 石垣市
(10)…クリエイティブクラスター(平成31年3月)、石 垣市における文化創造分野の振興に関する調 査 石垣市
(11)…UNESCO…Institute…for…Statistics,…The 2009 UNESCO Framework for Cultural Statistics (FCS),…Montreal,…2009.
(12)… 沖縄県企画部地域・離島課(平成31年1月)、
離島関係資料
(13)…2018年度における石垣市内の伝統的な音楽の
各流派発表の指導者名簿より計算