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生命保険債権をめぐる利害調整

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生命保険債権をめぐる利害調整

栗 田 達 聡

■アブストラクト

わが国の通説・判例は,保険契約者の債権者による解約返戻金請求権の差 押えおよびその取立権に基づく生命保険契約の解約権の行使を認める。その 前提には,生命保険契約と金融商品一般をほぼ同一に扱う,生命保険契約上 の債権を通常の金銭債権とほとんど変わりないとする考えが存在する。最高 裁判決に必ずしも同調しない下級審決定があらわれ,この議論が収束したわ けではないことを確認し,いわゆる二分説による生命保険債権保護を再評価 する。加えて,最高裁判決が示した権利濫用法理に実効性を持たせるための 試論を提示する。

■キーワード

解約返戻金,差押禁止,権利濫用

一 はじめに

近年,生命保険契約の多様化,保険金額の高額化に伴い,生命保険債権を めぐる利害調整のあり方が,生命保険契約に関する重要な問題となっている。

この問題が最も鮮明になるのは,保険契約者の債権者による解約返戻金請求 権の差押えおよび解約権行使の可否に関する議論である。従来,判例・学説 において,取立権に基づく解約権行使を認める見解 ,無資力要件の充足を

*平成20年9月27日の日本保険学会関西部会報告による。

/平成20年10月3日原稿受領。

1) 大森忠夫 生命保険契約にもとづく権利に対する強制執行 大森忠夫=三宅

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条件に債権者代位による解約権行使しか認めない見解 ,解約権行使の可否 を保険の目的によって分ける見解(いわゆる二分説) ,解約権の行使自体 に疑問を呈する見解 ,裁判所が債務者を審尋できるように,解約権の行使 は民事執行法161条の譲渡命令によるべきであるとする見解 など,さまざ まに議論されてきたところ,最高裁判所第一小法廷平成11年9月9日判決

(民集53巻7号1173頁)は,解約返戻金請求権の差押えおよび取立権に基づ く解約権の行使を認め,例外的に差押命令の取消しまたは権利濫用法理によ って解約を認めない場合もあると判示した(以下,これを 11年最判 とい う)。

とはいえ,これで債権者と債務者側(保険契約者および保険金受取人)の 間の利害調整を模索する必要がなくなったわけではない。なぜなら,11年最 判にいう権利濫用法理がどのような場面に適用されるのか,あるいは実際に 機能しうるのかなどの課題が残されているからである。たとえば,小額の解 約返戻金を狙った差押えが権利濫用になるとも ,小額の債権を充足するた

一夫 生命保険契約の諸問題 (有斐閣,1958年)110頁,山下友信 保険契約 の解約返戻金請求権と民事執行・債権者代位請求 金融法務事情1157号8頁

(1987年,同 現代の生命・傷害保険 (弘文堂,1999年)145頁に所収),濱田 盛一 生命保険契約上の権利の差押 石田満編 保険と担保 (文眞堂,1996 年)264頁,西島梅治 保険法〔第3版〕 (悠々社,1998年)371頁,中野貞一 郎 民事執行法〔新訂四版〕 (青林書院,2000年)601頁など。大阪地判昭和 59年5月18日(金法1084号46頁),福岡高判平成8年2月15日(金法1466号41 頁)など。

2) 伊藤眞 解約返戻金請求権の差押えと解約権の代位行使 金融法務事情1446 号24頁(1996年)など。

3) 糸川厚生 保険金受取人の権利の差押 金融・商事判例986号100頁(1996 年)。東京地判昭和59年9月17日(判時1161号142頁),大阪地判平成5年7月 16日(判時1506号126頁),東京地判平成6年2月28日(金法1395号56頁)など。

4) 倉澤康一郎 保険契約解約返戻金請求権の法的性質とその差押え 法学研究 66巻1号63頁(1996年)。

5) 山下孝之 解約払戻金請求権 入江正信執筆代表 三宅一夫先生追悼論文 集・保険法の現代的課題 (法律文化社,1993年)387頁。

6) 伊藤眞=山下孝之=山下友信 生命保険契約の解約返戻金請求権の差押と差

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めに高額な解約返戻金を差し押さえることが権利濫用になるとも考えられて おり ,同法理を適用する方向性がいまだ定まっていないということができ る。さらに,平成22年度から施行予定の保険法60条2項では保険金受取人が 解約返戻金相当額を保険契約者の債権者に支払うことにより生命保険契約を 存続させる介入権制度が導入されたが,保険金受取人は保険契約者に経済的 に依存していることが多いため,解約返戻金相当額を支払えない場合が十分 にありうる。その場合もまた,利害調整の問題が検討されなければならない はずである。

本稿では,11年最判に必ずしも同調しない下級審決定があらわれ,この議 論が収束したわけではないことを確認するとともに,現行法解釈の範囲内で 考えうる利害調整方法の提示を試みる。

二 二分説の再登場

11年最判は, 生命保険契約の解約権は,身分法上の権利と性質を異にし,

その行使を保険契約者のみの意思に委ねるべき事情はないから,一身専属権 ではない と判示して,二分説を明確に否定した。しかし,以下に紹介する 個人年金保険の解約返戻金請求権の差押えに関する裁判例は,保険契約の目 的から解約権の一身専属性を検討し,二分説を再登場させた。

事案の概要は,次のとおりである。当時35歳のYは,個人年金保険契約 を保険会社Zとの間で締結し,保険料497万余円を一括して払い込んだ。そ の契約内容は,Yが60歳の時の平成26年から年金支給が開始し,基本年金 額は年100万円,10年間保証,保証期間経過後は基本年金額を支払う,保証 期間中に死亡した場合は,その期間中の年金のうち,まだ支払っていない年 金の現価を一時に支払う,年金開始日前に死亡した場合は,死亡保険金を支 押債権者による解約権の行使 金融法務事情678号44頁(1999年)〔山下友信 発言〕。

7) 糸川厚生 債権者代位権による生命保険解約・解約払戻金請求事件 生命保 険文化研究所所報68号185頁(1984年),山下友信・前掲注1)9頁,吉川栄一

判批 損害保険研究64巻2号215頁(2002年)。

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払う,Yは,年金開始日前に限り,いつでも契約を解約し,解約返戻金の 支払いを請求できる,というものであった。Yの債権者Xは,YZに対 して有する保険契約解約返戻金の支払請求権について,その差押えを申し立 てた。

奈良地決平成13年5月30日(金商1125号23頁)は,本件個人年金保険は,

個人年金保険普通保険約款において 老後の生活の安定を図ることを目的と した保険 と規定されていることや,差押禁止財産として法定されていない 生命保険契約と異なり,個人年金保険は差押禁止債権(民事執行法152条1 項1号)とされている趣旨から,その主な目的は,保険金受取人である老齢 者の生活保障であると解され,個人年金保険の解約権も,もっぱら保険契約 者の意思を尊重すべき行使上の一身専属的権利であると解さざるをえないの で,債務者自身が解約した後であるならば格別,債権者が年金契約の解約権 を代位行使することを前提とする返戻金の差押えは許されないとして,Xの 申立てを却下した(以下,これを 奈良地裁決定 という)。

これに対し,大阪高決平成13年6月22日(判時1763号203頁)は,本件年 金保険契約は,いわゆるバブル経済の最盛期に締結されたものであり,保険 料に比して高額の年金保険が給付されること,保険料も一括前納されており,

保険料総額は月払契約に比べて相当程度軽減されていることなどから,貯蓄 目的の保険契約であると認め,こうした本件年金保険契約の目的からすれば,

本来の年金保険の給付についても,そのすべてが差押禁止財産にあたるとは 考えられないうえ,本件では年金開始日前の解約返戻金請求権を差押えの対 象とするものであって,本件年金保険契約上,解約権は年金開始日前であれ ばいつでも行使することができるものであるから,身分法上の権利などとは 異なり,解約権行使を保険契約者のみの意思に委ねるべき事情はなく,行使 上の一身専属的権利とは解されないとして,本件年金保険契約の解約返戻金 請求権は,被差押適格を有するものであり,Xは民事執行法155条の取立権 に基づいて解約権を行使することができると判示し,原決定を取り消し,本 件を原審に差し戻した(以下,これを 大阪高裁決定 という)。

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11年最判は,すべての生命保険契約について,その解約権が一身専属権で はないと判示したものと考えられるから,個人年金保険契約にも同判決の射 程は及んでいたはずである 。それにもかかわらず,大阪高裁決定は,原審 の奈良地裁決定と結論こそ異なるものの, 最高裁の右判例理論に依拠する ものであるが,生活保障型の保険契約については否定的に解する余地を残す 含みのある判断を示し たわけであるから,11年最判に必ずしも同調しな い下級審裁判例があらわれたということができる。

この点について,奈良地裁決定は, 年金保険契約は,差押禁止財産とし て法定されていない生命保険契約と異なり,…差押禁止債権である と述べ て,生命保険契約と個人年金保険契約とを区別する。これは,11年最判(多 数意見は明言していないが,反対意見の遠藤裁判官は, 差押禁止財産とし て法定されていない生命保険契約の解約返戻金請求権 , 生命保険金請求権 が差押禁止財産とされていない以上,解約返戻金請求権を差押えの対象とす ることが許されることはいうまでもない と明言する)と本件とを対比する 意味であると思われる。しかし,個人年金保険は,被保険者の死亡または生 存を保険金支払いの条件とするものであるから,生命保険の中に含まれる。

また,個人年金保険もその他の生命保険も,特別の立法によって差押禁止に なっているわけではなく,ともに 債務者が国及び地方公共団体以外の者か ら生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権 (民事執行法 152条1項1号)に含まれるかどうかが解釈に委ねられている点では,同じ であるといいうる。

奈良地裁決定は, 差押命令を得た債権者が解約権を行使することができ ないとすれば,解約返戻金請求権の差押えを認めた実質的意味が失われる結

8) 山本克己 判批 金法1581号217頁(2000年)は,生命保険契約に関する11 年最判の判旨を他の保険契約にも推し広げることが可能であるという。ただし,

山本教授は,年金保険など老後保障を目的とする保険への誘導を図るうえで,

11年最判が障碍となる可能性をはらむと指摘される。

9) 塩崎勤 判批 民事法情報184号75頁(2002年)。倉部真由美 判批 ジュリ 1276号162頁(2004年)も参照。

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果となる との11年最判の判示部分を引用し,それゆえ,解約権の一身専属 性を検討するとしている(ただし,11年最判では,当該判示部分は,解約権 の行使が取立権に基づいてなしうる行為の範囲内にあることを論証するため に述べられていたため,奈良地裁決定は,11年最判とは異なる意味で当該判 示部分を引用したといいうる)。そして,解約権が一身専属的権利であるか ら,それを代位行使することを前提とする返戻金の差押えは許されないとす る。こうした立場は,第三者が執行債務者に代わって行使・換価することの できない行使上の一身専属権は被差押適格を有しないことを前提に ,行使 上の一身専属権の行使によって具体的に発生する権利もまた,その具体的発 生の前には被差押適格を有しないという考え方に基づいているものと思われ る。

これに対しては,解約権行使の可否と解約返戻金請求権の被差押適格の有 無とは次元の異なる問題であるとの批判があり ,解約権行使の一身専属性 を理由として解約返戻金請求権の被差押適格を否定するのは論理が通らない という見方もありえよう。従来の二分説も,解約返戻金請求権の被差押適格 にまでは必ずしも言及していない 。さらに,大阪高裁決定は,民事執行法 152条1項に定める差押禁止債権の範囲について解釈し,それに引き続いて 本件年金保険契約の目的について論じていることから,差押禁止債権の適合 性をめぐって二分説を適用したものとも読むことができる。したがって,二 分説から得られる帰結およびその適用場面もまた,いまだ定まっておらず,

今後の検討を要するということができる。

10) 中野・前掲注1)569頁,香川保一監修 注釈民事執行法⑹ (金融財政事情研 究会,1995年)386頁〔宇佐美隆男〕。

11) 東京地方裁判所民事執行センター実務研究会編著 民事執行判例エッセンス 2002 (判タ1103号)72頁。

12) 糸川・前掲注3)99‑100頁。

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三 生活保障型生命保険債権の保護

1 未必的な保険金請求権の保護

解約返戻金の差押債権者が解約権を行使した場合,債務者側は,次の2種 類の不利益を被る。1つは,未必的な保険金請求権の喪失(あるいは,保険 金受取人への保険金給付を実現するという保険契約者の利益)である。この 不利益は,債務者側の具体的事情のいかんにかかわらず,解約権の行使によ って一般的,不可避的に生じる。あと1つは,現に給付中の入院給付金や高 度障害保険金が停止したり,年齢制限のために再度保険に加入できなくなっ たりするなど,個々の事案における具体的事情しだいで生じうる損失である。

11年最判の多数意見は,債務者側に未発生の保険金請求権の喪失という前者 の不利益を甘受させ,後者の不利益のみ例外的な権利濫用法理によって救済 しようとしたものであるのに対して,二分説は,当該生命保険が生活保障を 目的とする場合に,債務者側を前者の不利益から救済しようとするものであ るといえよう。

二分説は,生活保障に役立つのは保険契約に限られず,保険契約による生 活保障のみが債権者の利益に優先して保護されてよいという判断を導くだけ の根拠は現行法体系のなかには見出しえない,あるいは,生活保障を目的と する保険契約を区別する基準が不明確である,と批判される 。しかし,わ が国では,民事執行法152条1項1号が差押禁止債権を規定しており,ある 種類の生命保険債権がこれにあたるという解釈は,十分に成り立ちうる。す なわち,大阪高裁決定は,民事執行法152条1項に定める継続的給付にかか る債権は,生計維持に必要な限度で,現に年金として支給が開始されている ものに限られるとするが,そのような限定解釈を明言する学説は見受けられ ない。民事執行法152条は, 支払期に支給を受けるべき給付 あるいは 生 計を維持するために支給を受ける継続的給付 という文言を用いており,

13) 山 下・前 掲 注1)6 ‑7 頁。石 田 満 判 批 判 評326号(判 時1180号)50頁

(1988年)など。

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現に支給を受けている と規定していないので,支給開始前の保険金請求 権も差押禁止債権にあたるものと解することができる。そして,たとえ解約 返戻金請求権自体が継続的給付債権でなくとも,それが経済的には保険金請 求権の現在の価格またはその前身というべきで,両者は実質的には同一の債 権であるという考え方 をもとにすれば,当該保険金請求権が差押禁止債権 にあたる場合には,その解約返戻金請求権も差押禁止債権にあたると考えら れなくはない。

通説は解約前の解約返戻金請求権の差押えを肯定するが ,個人年金保険 など差押禁止債権にあたるものについては,このように別異に考える余地が あると思われる。この点が,生命保険契約と,しばしば引き合いに出される 預貯金などとの決定的な違いの1つであるといいうる。また,保険契約者以 外の者が保険金受取人となっている生命保険を債権者が解約するのは,形成 途上にある他者の財産(保険金受取人の保険金請求権)を第三者が強制的に 保険契約者のもとに(解約返戻金の形で)戻すことを意味する。こうした債 権回収方法が,他者の権利喪失を伴うもので,しかも,その喪失する権利は 他者の生活保障の拠り所であることから,債権者には慎重な姿勢が求められ るべきである 。保険契約者と保険金受取人が同一人である生命保険の場合 であっても,解約により発生する一時金(解約返戻金)と満期到来により発 生する本体の債権(保険金)との差額が他の金融商品に比べてきわめて大き

14) 大森・前掲注1)110頁。

15) 石田満 商法Ⅳ(保険法)改訂版 (青林書院,1997年)318頁,山下友信 保険法 (有斐閣,2005年)659頁など。

16) 福田弥夫 生命保険契約における解約返戻金と債権者の権利 日本法学65巻 4号853頁(2000年,同 生命保険契約における利害調整の法理 (成文堂,

2005年)250頁に所収)は,保険契約者の債権者は,債務者の遺族が受領した 生命保険金には手をつけられないのに,11年最判によれば,保険事故発生後で あれば認められない債務者名義の生命保険契約に,保険事故発生前であれば債 権者は簡単に手を伸ばせるようになると指摘される。なお,保険事故発生後の 保険金請求権に対する差押えを認めた最判昭和45年2月27日(判時588号91頁)

では,保険金受取人の債権者による差押えの可否が問題となっていた。

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いこともあるので,満期まで待たずに解約権を行使しようとする債権者の権 利行使を制限すべき理由がある。

結局,生活保障の拠り所とするものが債権者の得られる満足よりもはるか に大きく損なわれてしまうこと,そして,債権回収によって債務者ではない 他者の生活保障が脅かされる場合があることが,他の金融商品からの債権回 収と違って,保険契約による生活保障が債権者の利益に優先して保護されな ければならない理由であるといえるであろう。生活保障に役立つ金融商品を 生命保険以外にどれほど列挙してみたところで,十分な批判になるとは思わ れない。生活保障型か貯蓄・利殖型かの区別が不明確であるという指摘につ いては,従来,二分説を支持する立場,否定する立場ともに類別基準を明確 にする努力を怠ってきたことにも一因があるといいうる。次節において,生 活保障型生命保険の類別基準についての見解を明らかにしたい。

ところで,債権者代位による解約権行使しか認めない見解は,差押えの対 象たる権利が付随的であり,かつ,解約によって当該法律関係によって実現 を予定される重大な利益が失われるときには,差押債権者の取立権能には,

解約権は含まれないとして,取立権に基づく解約権行使からの保護を図りつ つ,無資力状態に陥っている場合には,保険契約者は,解約によって保険金 受取人への保険金給付の実現が不可能になるという不利益を甘受すべきであ るとする 。なるほど利害関係人を債権者と保険契約者(債務者)に限定し て本問題を捉えた場合(論者は,解約により保険金受取人が保険金請求権を 喪失する不利益,という表現を用いていない),無資力状態にある保険契約 者を債権者に優先させるべきではないという論理は,支持を集めやすいかも しれない。

しかし,債務者側には,保険契約者のほかに,保険金受取人が存在する。

そして,保険金受取人は,法律上,保険契約者と別個の主体であって,特に,

遺族の生活保障を目的とする保険契約では,実際に両者は別人物なのである

17) 伊藤・前掲注2)22‑23頁。

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から,保険金受取人は保険契約者の債務を負担させられるべき立場にはない といいうる。また,この見解も,生活保障の拠り所とするものが債権者の得 られる満足よりもはるかに大きく損なわれてしまうことへの配慮が十分であ るとはいいにくい。さらに,法的に存在するのは保険金受取人の有する保険 金請求権であって,保険契約者が保険金受取人への保険金給付を実現する利 益という構成は,技巧的に過ぎると思われる。

2 解約権の一身専属性と解約返戻金請求権の被差押適格

奈良地裁決定のいうように,生活保障型生命保険の解約権は一身専属権で あると考えることは,不可能ではない。保険金受取人として指定された者が 得るべき生命保険による生活保障を失わせてもよいかどうか,あるいは,自 己の生活保障の拠り所とすべきものを失わせて,それよりもはるかに小さな 権利しか発生させなくてもかまわないかどうか,という判断は,解約権を行 使すれば保険金受取人の経済生活の根幹を揺るがす事態を招くことを勘案す ると,保険契約者にのみ許されたものであるということができよう。

二分説に立った場合,生活保障型生命保険の類別基準が問題となる。従来 の下級審裁判例および二分説が提示していたのは,専ら生活保障あるいは社 会保障の補完の意味合いを強く持つ生命保険と,貯蓄あるいは利殖を目的と する生命保険を区別して取り扱い,その際,保険契約の種類,内容,契約締 結の経緯などの諸事情を考慮するといったものであった 。しかし,今日の 生命保険契約の多様化は,利殖・投機目的の保険の出現にとどまらず,1つ の契約で複数の目的を実現しようとするニーズに応えた結果の契約内容の複 雑化をももたらしたため,契約内容をつぶさに観察しなければ,専ら生活保 障目的といえるものを選別することが難しい。したがって,いかなる契約内 容ならば生活保障目的となりうるかについて明示することが,類別基準とし て求められているはずである。従来の二分説は,この点で必ずしも十分では

18) 糸川・前掲注3)100頁。

(11)

なかったと考えられる 。

試論として,次のような要素を総合判断して生活保障型か貯蓄・利殖型か を類別することを提案したい。すなわち,①保険料払込方式が分割払込か,

一括前納か(一括前納ならば,余剰資金の貯蓄行為の傾向が強い),②保険 料払込期間が長期か,短期か(短期の方が一括前納に近いといいやすい),

③保険契約締結時の保険契約者の年齢が若年か,高齢か(高齢の方が保険料 払込期間は短期になりやすく,余剰資金でもって保険に加入している可能性 が高い),④保険契約者と保険金受取人との関係が本人または親族か,それ とも債権者や法人などの第三者か(第三者であれば生活保障を図ったとはい いがたい),⑤保険金額の決定方法(変額ならば,投機目的であるといえる),

⑥保険金支払方法が分割か,一括か(分割支払ならば年金の意味合いが強ま る),⑦保険契約の名称(保険契約締結時の保険契約者の意図を探るための 指標となりうる),⑧入院給付金などのオプションの有無などである。とり わけ,①保険料払込方式と⑤保険金額の決定方法の2つが,貯蓄または利殖 目的の生命保険を排除するための重要な要素となろう。

生活保障型の生命保険の解約権の一身専属性を肯定しえた場合,さらに,

その契約の解約返戻金請求権の被差押適格を否定すべきか否かを検討すべき であろう。従来の二分説は,生活保障型とされる生命保険の解約権を一身専 属権と認めた場合,それゆえ債権者は解約権を行使することができないとし てきた。具体的には,債権者と(解約に応じない)保険会社との間の,取立

19) 大阪高裁決定は,当該保険契約がバブル経済の最盛期に締結されたものであ ることを貯蓄目的と認定した論拠の1つに挙げていたが,契約締結時の経済事 情は,契約自体の性質と無関係のはずである。なお,福島雄一 債権者代位権 に基づく保険契約の解約に関する一考察 保住昭一先生古稀記念論文集 企業 社会と商事法 (北樹出版,1999年)389頁は,間接事実の積み重ねによって契 約の実体に迫るアプローチとは異なり,米国において,生命保険契約に対する 税制上の優遇措置が新しい種類の生命保険契約にも及ぶかが問題となった場合 に,法律で生命保険の定義を行い,その定めるテストに合致したものを生命保 険として優遇措置を行うという手法がとられていることを紹介される。

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債権請求訴訟(取立訴訟)または債権者代位による解約返戻金請求訴訟(代 位訴訟)において,債権者による解約の主張を否定することにより,生命保 険債権の保護を図ってきた。

しかし,保険会社が債権者による解約に応じてしまえば,取立訴訟または 代位訴訟が提起されることはなく,その結果,二分説による生命保険債権の 保護は実現されない。理論上,保険会社は,解約が有効であると過失なく信 じて債権者に対して解約返戻金を支払った場合,民法478条によって支払免 責の保護を受けうるし,解約されるかぎりいずれ誰かに解約返戻金を支払う 義務があるので,あえて債権者の請求に対抗して債務者の利益を守るインセ ンティヴが存在しないと指摘されている 。実務上も,保険会社は,穏便な 解決方法を志向し,保険契約者の意向を聞きながら,その同意を得て解約す ることが多かったようである 。つまり,取立訴訟または代位訴訟が提起さ れないままに決着がついてしまうのが実情なのである。権利濫用法理に関し て後述するとおり,保険会社に調査義務を課して解約に応じないインセンテ ィヴを作ろうとする試みもありえないではないが,保険会社に相当な負担を 負わせるものであるし,逆に,解約に同意するように保険会社から債務者へ の説得が強まる可能性もある。

このように,現状では二分説による生命保険債権の保護が実効性を持たな いことが考えられる。二分説を実効あるものとするためには,奈良地裁決定 と同様に,解約権を一身専属権と解しうる生命保険については,その解約返 戻金請求権の被差押適格を否定することを認めるべきではないかと思われる。

こうした解釈に対しては,解約権行使の可否と解約返戻金請求権の被差押適 格の有無とは次元が異なる,あるいは,生活保障を根拠に,法律によらない で新たな差押禁止債権を創出することとなる法律論は受け入れがたい とい

20) 平井宜雄 債権者代位権の理論的地位 星野英一=森島昭夫編 加藤一郎先 生古稀記念・現代社会と民法学の動向 (有斐閣,1992年)234頁。

21) 伊藤他・前掲注6)9頁〔山下孝之発言〕。

22) 平井・前掲注20)239頁。

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う批判があるかもしれない。しかし,権利の発生が債務者の意思に委ねられ た債権を差し押さえることに実質的な意味はないはずで,解約権が一身専属 権のとき解約返戻金請求権は被差押適格を有しないとする解釈は,説得力を 持つものといいうる。

四 権利濫用法理による救済

1 権利濫用法理の実効性

解約権の一身専属性の議論は,生活保障型とされる生命保険の保険金請求 権を保護することを目的としていた。解約により,現に給付中の入院給付金 や高度障害保険金が停止したり,年齢制限のために再度保険に加入できなく なったりするなど,具体的な事情のもとで債務者側に著しい不利益が生じる 場合は,別途の例外的な利害調整を要するであろう。解約権の一身専属性を 認めない11年最判もまた,民事執行法153条により差押命令が取り消されう るか,または,解約権の行使が権利濫用となり許されない,として利害調整 を図ろうとする。差押命令の取消しが認められた実例はほとんどないと指摘 される一方 ,権利濫用法理による利害調整は,債務者側の固有の事情を斟 酌するのに適しているとして,学説において比較的支持を集めている 。

しかし,権利濫用法理が実際に機能しなければ,適切に債務者の救済を図 ることができず,債権者による債権回収は正当化されないと思われる。他方 で,権利濫用法理は,あくまでも個別的救済を図るものであるから,債権者 の権利行使を大きく阻害しないように限界を設ける必要もあるはずである。

本章では,権利濫用法理が利害調整方法として実効性を有するのかについて 検討し,有しないとすれば,債権者の正当な権利行使の確保を図りつつ,ど のように実効性を持たせるべきかについて提言したい。

権利濫用法理の実効性に関しては,裁判所が同法理について判断する機会

23) 伊藤他・前掲注6)43頁〔山下孝之,伊藤眞発言〕。

24) 小磯武男 判批 金商1076号2頁(1999年),出口正義 判批 法教234号 111頁(2000年)など。

(14)

が保障されているのかどうかという点が,議論の中心となるであろう。裁判 所が判断する機会がなければ,権利濫用法理は実質的に機能していないのに 等しい。そこで,差押え・取立ての過程の中で,裁判所は,いつ,どのよう に権利濫用を判断するのか,について確認するのが,同法理の実効性を探る うえで有益であろう。

まず,債務名義を有する債権者の差押命令の申立てに対して,執行裁判所 は,債務者・第三債務者を審尋することなく,差押えの許否を決する(民事 執行法145条2項)。そこでは,本来,解約権の行使が権利濫用になるかどう かについて判断することは予定されていない。次に,差押命令は,債務者お よび第三債務者に送達され(同法145条3項),差押債権者は,差押命令が送 達された日から1週間を経過したときは,取立権を行使することができる

(同法155条1項)。その間に,債務者は,差押命令の取消しの申立て(同法 153条)または,請求異議の訴え(同法35条1項)を提起することができる。

債務者が差押命令の取消しを求めるときに主張する事由は,権利濫用を基礎 づける事実と似通ってくるものと思われるが,そこでは,裁判所が権利濫用 について判断するわけではない。また,請求異議の訴えは,本来,債務名義 に係る請求権の存在または内容について異議のある債務者が提起する訴訟で あるから,解約権行使が権利濫用にあたるということが請求異議事由になり うるのかについて,対立ないし疑問がありえよう。したがって,実質的には,

請求異議の訴えにおいても,裁判所が権利濫用法理について判断する機会が 十分に保障されているとはいいがたい。

差押命令が送達された日から1週間経過後に,債権者が取立権に基づき生 命保険契約を解約する意思表示をしたとしても,保険者は,その解約権の行 使が権利濫用で無効と判断したときは,債権者の請求に応じない。なぜなら,

解約が無効ならば,保険者が債権者になした解約返戻金の支払いは無効であ って,その後に保険事故が発生したとき,保険者は,保険金を保険金受取人 に支払わなければならないからである。保険者が解約に応じない場合には,

債権者は,保険者を相手取って取立訴訟を提起する。そして,取立訴訟には,

(15)

債務者が訴訟参加することができるので,裁判所は,債務者の主張をもとに,

権利濫用について判断することができる。したがって,11年最判により提示 された権利濫用法理は,取立訴訟において裁判所が判断するものであったと いうことができる。

しかし,三.2において前述したとおり,保険者は,解約が有効であると 過失なく信じて解約返戻金を支払った場合,民法478条によって支払免責の 保護を受けうるし,また,解約される限りいずれ誰かに解約返戻金を支払う 義務があるので,あえて債権者の請求に対抗して債務者の利益を守るインセ ンティヴが存在しないと指摘されている。さらに,平成11年に最高裁判決が 出たこともあって,保険者が解約に応じる傾向はいっそう強まると予想され る 。したがって,債権者と保険者との間で取立訴訟にまで至らず,裁判所 が権利濫用について判断する機会がないというケースが増えていくであろう と考えられる。このように,現状では,差押え・取立ての過程においては,

取立訴訟にまで紛争が発展しないかぎり,権利濫用法理が機能する場面がな い,ということができる。

学説においても,権利濫用法理を実質的に機能させようとする問題意識を 持つ見解がある。権利濫用に関する調査の懈怠を第三債務者たる保険会社に とっての民法478条の過失として考慮する試論である 。すなわち,保険会 社に対して,権利濫用となる事情の有無を調査する義務を課すことにより,

保険会社は,二重弁済の危険を避けるため,安易に解約に応じなくなるとい うものである。

しかし,この試論に対しては,いくつかの批判が可能であろう。第1に,

このような調査義務を課すのは,保険会社にとって負担が大きい。保険会社 には現行実務と同様に債務者に問い合わせることが要求されるにすぎず,事 情の存否が不明な場合であっても,訴訟において債権者と債務者に争わせれ

25) 片岡宏一郎 判批 銀行法務21・570号56頁(1999年),高部眞規子 判批 最高裁判所判例解説民事篇・平成11年度 570頁(法曹会,2002年)など。

26) 榊素寛 判批 法学協会雑誌118巻11号1783頁(2001年)。

(16)

ばよいだけであるとはいえ ,単に顧客へのサービスとして実務上行われて いることが義務化され,それを怠れば二重弁済を強いられることになるのは,

保険会社にとっての意味合いが全く異なってくるというべきである。また,

権利濫用という高度な法的評価を要する判断は,法律専門家ではない一般企 業の能力を超える要求であろう(解約権の一身専属性に関連して,保険契約 の目的を判断させる方が,保険会社にとってはるかに容易なはずである)。

第2に,保険会社に調査義務を課したとしても,債務者の利益を守るインセ ンティヴが生ぜず,債務者(保険契約者)の保護が実現されないおそれがあ る。すなわち,現状においてすら,保険会社は,解約に応じなかった場合に 差押債権者から提起される取立訴訟のリスクを嫌がる傾向にある。仮に保険 会社に調査義務を課せば,ますます,債務者に対して解約に同意するように 説得に向かうことが予想される。また,保険会社に調査を尽くさせたところ で,保険会社が差押債権者による解約を拒否する保障は,それほど期待しえ ない。むしろ,保険会社は,差押債権者から提起される取立訴訟と,保険契 約者から提起される保険契約存続確認訴訟,あるいは保険金支払請求訴訟

(保険事故が解約直後に生じた場合)等とを天秤にかけて,解約の許否を判 断すると思われる。したがって,保険会社に対して権利濫用の調査義務を課 す試論は,保険会社の負担が大きく,債務者の保護が図られないおそれがあ るので,支持することができない。

2 執行裁判所による権利濫用の判断

11年最判以後に予期される状況の下では,取立訴訟にまで紛争が展開する ことが考えにくく,学説もそれを解消するのに十分でない現状を踏まえると,

取立訴訟以前に権利濫用法理について判断され,債務者の個別的救済が図ら れるべきではないか,と考えられる。すなわち,差押命令の申立てを受けた 執行裁判所は,解約権行使が権利濫用にあたるか否かを検討しなければなら

27) 榊・前掲注26)1784頁。

(17)

ず,あたると判断したときは申立てを却下すべきである,との試論を提示し たい。

執行裁判所が権利濫用法理について判断することの問題点は,それが執行 裁判所の権限の範囲を超えないか,換言すれば,解約権行使が権利濫用にあ たるとき,差押命令は却下されるのか,ということである。この点について は,解約権の一身専属性から解約返戻金請求権の被差押適格がないことを導 いた論理と同じように,債権者が解約権を行使できず解約返戻金請求権を発 生させることができない以上,実質的な意味を持たない差押えを認めるべき ではないと考えることができよう。さらには,解約権行使が権利濫用となる 具体例のうち,たとえば,解約返戻金が極めて小額の場合や,債権額に比し て非常に高額の解約返戻金を差し押さえて解約するという場合,あるいは,

保険金受取人が解約返戻金を差し出して契約を引き継ぐ場合などは,解約権 行使が権利濫用なのではなく,むしろ,差押えが権利濫用にあたる事例であ ると思われる。差押え自体が濫用的か否かという判断ならば,過剰差押えの 事例などと同様に,執行裁判所であってもなしうるはずである。

執行裁判所は形式的判断しかできないといわれるが,大阪高裁決定に見ら れるように,差押禁止債権該当性に関してすら,相当実質的な判断がなされ るのであるから,執行裁判所が権利濫用について判断することができないこ とはないと考えられる。もっとも,執行裁判所は,債務者を審尋することが できないため,いかなる資料に基づいて,どのように権利濫用について判断 をなせばよいのかが問題となろう。しかし,権利濫用の判断に要する資料は,

必ずしも債務者本人の審尋を経なければ知り得ないものばかりではない。執 行裁判所は,差押対象とされている債権を特定するための資料などから,権 利濫用について判断するうえで有益な事実,たとえば,債権額,解約返戻金 の残額,契約者貸付の有無,債務者の年齢,契約の種類・目的などを入手す ることができる(逆に,債務者を審尋しなければ判明しないのは,被保険者 の現在の健康状態などに限られるのではないか)。執行裁判所は,これらの 事実をもとに,保険契約の種類や目的を斟酌しながら判断をなすべきである。

(18)

たとえば,保険契約者が高齢者であっても,貯蓄・利殖型の生命保険に再度 加入する利益は,債権者との関係において保護に値しないというべきである から,現在加入している生命保険が生活保障の色彩の強いものであれば,解 約権行使が権利濫用にあたりやすいであろう。このように権利濫用法理を適 用するにあたっても保険契約の種類・目的が問われるべきであって,その際,

三.2で前述した類別基準が一助になると思われる。

私見に対しては,権利濫用の適用範囲を過度に広く解せば,保険契約者が 事後的に,遺族保障とは相容れない目的のために保険契約を処分してしまう 可能性があるとの批判もありえよう。このような批判をする学説は,後にな って保険契約者が,遺族保障という目的と反する処分をする可能性を考慮に 入れても,それでもなお保護が正当化できるような極めて限られた場合だけ に,執行が制限されるにとどまると解すべきであるとされる 。しかし,そ のような問題点は,いかなる法律構成をとっても避けることはできないし,

事後的に詐害行為取消権などで対処すればよい。したがって,権利濫用法理 の適用範囲を狭く解すべき理由はないと思われる。

五 結びにかえて

債権者による解約返戻金請求権の差押えをめぐっては,11年最判多数意見 に限らず,判例・学説の大半が,その差押可能性についてほとんど疑問を抱 かないままに肯定し,議論のほとんどを差押えの方法に集中させてしまって いる。そうした傾向は,生命保険契約債権の差押えについて明示的な禁止・

制限を設けていないわが国の現行法制度のもとでやむをえず採られていると いうよりも,むしろ,生命保険契約と金融商品一般とをほぼ同一に扱う(生 命保険債権を通常の金銭債権とほとんど変わりがないものとする)のが当然 であるとする考え方に支えられているように見受けられる。しかし,生活保 障型の生命保険から債権回収を図る試みは,債権者の得られる満足よりもは

28) 藤田友敬 保険金受取人の法的地位(七・完) 法学協会雑誌110巻8号1211 頁(1993年)。

(19)

るかに大きな損害を債務者側にもたらす可能性があり,この試みとその他の 生活保障に役立つとされる金銭債権から債権回収を図る試みとを同列に扱う ことは,(生活保障型の)生命保険の本来的な機能を軽視した議論というべ きであろう。

本稿は,生活保障型生命保険の類別基準をより精緻な形で提示し,さらに,

解約権を一身専属権と解しうる生命保険について,その解約返戻金請求権の 被差押適格を否定することを提唱し,二分説による生命保険債権保護を大い に補強することができたと思われる。そして,11年最判多数意見が採用した 権利濫用法理については,取立訴訟にまで紛争が発展しなくても,執行裁判 所による判断を認めることにより,その実効性を確保する道筋を開くことが できたといえよう。

(筆者は弁護士)

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