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修士論文

トラヒック偏りを伴う

クラスタ型無線センサネットワークの クラスタヘッド間通信における 伝送特性の不均一性緩和に関する研究

平成

26

年度修了

三重大学大学院 工学研究科 博士前期課程

(2)

目次

1

序論

1.1

研究背景

1.2

本研究の目的

1.3

本論文の構成

2

関連する基礎技術

2.1

無線センサネットワーク

2.2

クラスタツリー型トポロジ

2.3 IEEE802.15.4MAC

2.3.1

スーパーフレーム

2.3.2

チャネルアクセス方式

2.4 MAC

層における優先度制御方式

2.4.1 QoS

制御

2.4.2 EDCA

3

トラヒック偏りを伴う

WSN

3.1

不均一トラヒックの発生要因と対策技術

3.2

クラスタヘッド間通信への影響

3.2.1

伝送特性差異の定性的な考察

3.2.2

伝送特性差異の定量的な評価

4

トラヒック適応バックオフ制御手法

4.1

トラヒック適応バックオフ制御の狙い

4.2

トラヒック適応

BE

制御

4.2.1

優先度制御

4.2.2

トラヒック推定

4.3

具体的制御方法

5

シミュレーション評価モデル

5.1

ネットワークモデル

5.2

トラヒックモデル

5.3

チャネルアクセスモデル

5.4

評価項目

(3)

6

特性評価結果

6.1

シミュレーション条件

6.2

制御パラメータの最適化

6.3

伝送特性評価

6.3.1

パケット廃棄率

6.3.2

伝送遅延

6.4

様々なトラヒック環境での特性評価

6.5

端末台数変化に対する影響

7

結論

参考文献

謝辞

研究業績

(4)

略語集

AC access category アクセスカテゴリ

AIFS arbitration IFS

BE backoff exponent バックオフ指数

BI beacon interval ビーコン間隔

BO beacon order

CAP contention access period 競合アクセス期間

CCA clear channel assessment キャリアセンス

CFP contention free period 予約アクセス期間

CH cluster head クラスタヘッド

CSMA/CA carrier sense multiple access with collision avoidance

搬送波感知多重アクセス /衝突回避方式

CW contention window コンテンションウィンドウ

DCF distributed coordination function 自動分散制御 DIFS DCF IFS

EDCA enhanced distributed channel access 拡張型分散チャネルアクセス

GTS guaranty time slot 保証時間スロット

IFS inter flame space フレーム間隔

SD superframe duration アクティブ期間長

SIFS short IFS

SN sensor node センサノード

SO superframe order

UBP aUnitBackoffPeriod 単位バックオフ期間

LAN local area network

MAC medium access control メディアアクセス制御

PAN personal area network

OSI Open system interconnection 開放型システム間相互接続

PANC PAN coordinator PANコーディネータ

QoS quality of service サービス品質

WSN wireless sensor network 無線センサネットワーク

(5)

第 1 章

序論

1.1

研究背景

ユビキタス社会は,「いつでも,どこでも,何でも,誰でも」がネットワークに繋が り,ネットワークから得た情報を活用した様々なサービスを提供することで,人々の 生活を豊かにする社会である.ユビキタス社会では,人の周辺状況を情報としてネッ トワークに取り込み,その情報に応じて最適なサービスが提供される.周辺状況の認 識のためには,実環境を観測し,情報としてネットワークに取り込む必要がある.そ のための手段の一つとして,無線センサネットワーク(WSN)が注目されている. WSN ではあらゆる装置,設備などに組み込まれたセンサが環境情報等を観測し,無線通信 により情報を収集することで,人やコンピュータによる周辺状況の認識や制御が実現 可能となる[1-3].

WSN は,無線通信機能を備えセンサデバイスを搭載したセンサノード(SN)と,

SN から情報を収集し,外部のネットワークと接続するシンクノードによって自律的 に構築されるネットワークである.WSNの使用例としては,作物監視のように,ビニ ールハウス等の屋内や田畑等の屋外に規模に応じて数百の SN を農場全域に散在させ てネットワークを構築し,監視域内の異常状態の検出及び通知などにより生産者を支 援する使用方法が考えられる[4, 5].その際,多数のSN設置を容易にするために,そ の小型化,低コスト化が必要とされる.また屋外など電力供給が困難な場所にも設置 できる様にするためにバッテリ駆動であることが望ましい.しかし,SN の電力が枯 渇した場合,ネットワークが機能しなくなる恐れがあり[6],また多数のSNに対する バッテリ交換にはコストを要するため,バッテリ交換は最小限にする必要がある.そ

(6)

非アクティブ期間を長くすることで消費電力の大幅な削減が可能になる.間欠動作の 実現例としてIEEE802.15.4ビーコンモード[7]がある.IEEE802.15.4は低消費電力,低 コストなどの特徴を持ち,ZigBee[8]などに採用されている WSN向け無線通信規格の 低レイヤ規格である. IEEE802.15.4ビーコンモードでは,全ノードがビーコンにより 同期を取り,各ノードの動作状態をスーパーフレームにより制御することで,間欠動 作を実現する.

一方クラスタリングは,ネットワークをクラスタと呼ばれる領域に分割する技術で ある.クラスタの代表端末であるクラスタヘッド(CH)はクラスタ内のSNから情報 を収集して,収集情報をシンクノードに向けて転送する.クラスタ型トポロジでは各 ノードで情報の送信距離が短くなるので,情報送信に要する消費電力を減少させるこ とができるため,ネットワークの省電力化が可能となる[9].本研究では上記の低消費 電力性に優れた IEEE802.15.4 ビーコンモードとクラスタ型トポロジを採用した WSN を用いた情報伝送に着目する.

クラスタ型WSNにおける情報伝送は,クラスタ内通信とCH間通信に大別できる.

クラスタ内通信はCHがクラスタ内のSNから情報を収集する際の通信であり,CH間 通信はクラスタツリー構造の末端部に位置する下位CH がSN から収集した情報をネ ットワークの中枢部に近い部分に位置する上位CHに転送する際の通信である.これ らの通信は互いに関連し合って動作するため,クラスタ型 WSN における情報収集で は両方の通信を考慮する必要がある.

ところで,WSNでは時間や空間で送信情報量に偏りが生じる不均一トラヒック特性 がある[10].例えば気温や湿度などの自然現象を周期的に検知するWSNでは,特定の 時間に複数の SN が検知し,情報送信する場合が考えられる.その場合,時間軸で送 信情報量の異なる時間不均一トラヒックとなることが考えられる.またこれらの自然 現象の状態変化などのイベントが発生した時に観測する WSN では,イベントが頻繁 に生じる領域とそうでない領域(気温では日向と日陰など)の存在が考えられ,地理 的にトラヒック量の異なる空間不均一トラヒックとなることが考えられる.特に空間 不均一トラヒック環境下のクラスタ型 WSN では,クラスタトラヒックが不均一とな り,その結果,ネットワークの領域毎に取得できる情報の品質(信頼性,即時性など)

のばらつきが生じ問題となる場合がある.これはクラスタ間で情報伝送特性が不均一 となるためであり,クラスタ型 WSN の情報伝送に対して,トラヒックに応じて伝送 制御パラメータ等の調整を行うトラヒック適応制御を実施する必要がある.

これまでに,空間不均一トラヒック環境のクラスタ内通信に対するトラヒック適応 化技術は数多く研究されている[11, 12].クラスタ内通信において各クラスタのスーパ ーフレームのアクティブ期間と非アクティブ期間の比(デューティ比)が同一の場合,

各クラスタがトラヒック量に対して適切なアクティブ期間長を得られなくなる恐れが ある.この問題に対して,クラスタトラヒックに応じてデューティ比の制御をするト ラヒック適応2段階アクティブ期間制御法が提案されている.この制御により,トラ

(7)

ヒック量に見合ったアクティブ期間長が与えられるため,各クラスタで公平な情報伝 送を実現できる.しかしながらこれらの制御は,トラヒック量の異なるクラスタ内通 信間でのトラヒック適応が主目的であり,CH 間通信は考慮されていない.クラスタ 内通信でトラヒック適応制御を実施する場合,各下位CHの転送負荷が大きく変化す るため,CH 間通信に対して大きく影響すると考えられる.ネットワーク全体の性能 保証を考えると,クラスタ内通信におけるトラヒック適応制御のみでは不十分であり,

CH間通信におけるトラヒック適応を議論する必要がある.

空間不均一トラヒック環境下のCH間通信においては,高トラヒックの下位CH (高

負荷CH)では転送する情報量は多くなり,逆に低トラヒックの下位CH (低負荷CH)

では転送する情報量は少なくなる. CH間通信では,上位CHからのビーコンにより 通知された同一のアクティブ期間で複数の下位 CH が競合して情報送信を試みる.

IEEE802.15.4MACでは,この通信における情報衝突回避のためにバックオフ制御が実

施されるが,このとき各 CH の送信待機時間を決定するバックオフ指数(BE)は全 CHで同一値であるため,送信機会は全てのCHで同等となる.このため高負荷CHは トラヒック量に見合った送信機会が獲得できずに低伝送特性となり,下位CH間の伝 送特性に差異が生じる恐れがある.しかしながらこれまでのところ,不均一トラヒッ ク環境が CH間通信の伝送特性に及ぼす影響は明らかにされていない.そのため空間 不均一トラヒック環境下のCH間通信における伝送特性の差異を明確にする必要があ る.またこの伝送特性の差異を緩和するために,CH 間通信においてもトラヒック適 応制御が必要である.これを実現する手法として,各下位 CHのトラヒック量に応じ て送信頻度を制御する優先度制御が有力であると考えられる.

ところで,無線 LAN システムにおいて情報伝送の優先度制御を実施するプロトコ

ルにIEEE802.11e[13]がある.ここでは音声や動画配信などのマルチメディア通信にお

いて安定して要求サービス品質(QoS: Quality of Service)を提供するため,EDCA

(Enhanced Distributed Channel Access)を用いた優先度制御を行っている.EDCAは IEEE802.11[14]のDCF (Distributed Coordination Function)を拡張した方式であり,伝 送情報を要求 QoS で分類し,その優先度に従って送信することでQoS 保証を提供し ている.EDCAでは優先度制御を,CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)のバックオフ制御のパラメータ変更によって,送信待機時間を 変化させ,送信機会の獲得頻度を変更することで実施している.IEEE802.15.4 では

IEEE802.11e と同様のバックオフ制御が実施されているため,同方式の応用が可能で

あり,これにより伝送特性差異の緩和の可能性が見込まれる.

(8)

1.2

研究目的

本研究では,空間不均一トラヒック環境下で IEEE802.15.4 が適用されたクラスタ型 WSNにおけるCH 間通信を研究対象とする.空間不均一トラヒック環境下のCH間通 信における伝送特性がトラヒック量の異なる CH 間で不均一となることを明らかにし,

この伝送特性の差異を緩和する送信制御手法を開発・確立することを目的とする.本研 究ではまずCH間通信における伝送特性の不均一性を定量的に示すために,計算機シミ ュレーションにより伝送特性の調査を行う.その結果,トラヒック量の異なるCH間で パケット廃棄率や伝送遅延などの伝送特性に差異が生じることを明らかにする.その後,

伝送特性差異の緩和を達成するために,各CHにおいて自身のトラヒック量に応じて自 律的に送信機会獲得において優先度制御を実施するトラヒック適応バックオフ制御手 法を提案する.提案法はIEEE8002.15.4が採用するSlotted CSMA/CAにおけるバックオ フ制御を利用して優先度制御を実施する.計算機シミュレーションにより提案法の伝送 特性の評価を行い,提案法を用いることでトラヒック量の異なる下位CH間の伝送特性 差異の緩和が可能であることを明らかにする.

(9)

1.3

論文構成

本論文の構成について説明する.第2章では無線センサネットワークとその通信規格 であるIEEE802.15.4, Slotted CSMA/CA方式,MAC層で実施されている優先度制御方式 について説明する.第3章ではIEEE802.15.4ビーコンモードを用いたWSNにおけるト ラヒック不均一問題と不均一トラヒックがCH間通信に与える影響について説明し,そ の伝送特性を定量的に評価することでCH間通信における伝送特性差異を明らかにする.

第4章では伝送特性差緩和のためのトラヒック適応バックオフ制御を提案する.そして,

第5章では提案法の評価を行うための特性評価モデルを示し,第6章において提案法の 有効性を示すために計算機シミュレーションによる特性評価を実施する.最後に,第7 章で本論文の結論を述べる.

(10)

第 2 章

関連する基礎技術

第2 章では,本研究で検討する WSNの基礎的事項について記述する.2.1節では,

本研究の対象システムである無線センサネットワークの概要について記述する.2.2 節 でWSNの省電力を実現するクラスタリング技術により形成されるクラスタ型トポロジ について記述する.2.2 節では,無線センサネットワーク向けの規格であり,低消費電 力性に優れた IEEE802.15.4 で採用されるメディアアクセス制御(MAC)方式について 記述する.

2.1

無線センサネットワーク

無線センサネットワーク(WSN)は,温度,照度,などの事象を観測するセンサ機 能と情報の送受信を実施する無線通信機能を併せ持つSNをあらゆる場所に配置し,各 SN が取得した情報をシンクノードで収集するネットワークである.WSN の一般的な 構成を図2.1に示す.WSNは複数のSNとシンクノードで構成され,自律的にネット ワークを構築する.各SNはセンサ機能を用いて周辺の環境を観測する.観測された情 報は,SN間のマルチホップ・アドホック通信によりシンクノードに集められる.シン クノードはWSNから得られた環境情報を集約,保持する.シンクノードはイーサネッ トやインターネットなどのネットワークに接続しているため,ユーザーはネットワーク を介して情報を参照・利用することができる.

WSNには以下のような特徴,要求事項が存在する[15].

WSN の対象領域は多様であり,家の中や農場など身近な場所から,化学薬品が 漏出した工場などの危険区域まで考えられる.後者のような場所で人がSNを意 図的に配置するのは困難であり,上空から散布するなどの配置方法がとられる.

このような状況ではSNの配置密度の偏りが考えられ,場所によってトラヒック 量が変動する場合がある.

観測目的によるが,SN の数は比較的多く数百,数千となる場合もある.このよ うな大規模ネットワークにおいて,管理ノードが個々のSNの動作に対して集中

(11)

制御を行うのは, 困難であると考えられる.そのため,SNはそれぞれが独自に 周囲の状況を確認して動作する自律分散制御であることが望ましい.また多数の SN が情報伝送を行っても,性能が低下しないようなネットワークトポロジが要 求される.

マルチホップ通信を行う点から,通信する情報が冗長となってしまう可能性があ る.そのため,各中継ノードで等しい情報や類似性のある情報は削除するなど,

情報の圧縮をする必要がある.

SN は様々な場所での設置を可能とするため,電力供給の必要がないバッテリ駆 動が基本である.しかし多数のSNが分散配置されるため,バッテリの交換や充 電にはコストを要する.ネットワークの長寿命化のために,数年単位でのバッテ リ持続を実現する低消費電力化技術が要求される.WSN においては,クラスタ

リングやIEEE802.15.4の利用による低消費電力化が期待されている.

図2.1 WSNの構成

(12)

2.2

クラスタツリー型

WSN

ネットワークの稼働時間を長くする省電力化技術として,クラスタリングがある.ク ラスタリングは図2.2のように,ネットワークを複数の近隣SNから形成されるクラス タと呼ばれる領域に分割する技術である.クラスタ内のSNの一つを代表端末であるク ラスタヘッド(CH)として選出する.各SNは自身の所属するクラスタのCHと通信を 行うことで,取得した情報をCHで収集する.CHは収集した観測情報を圧縮し,シン クノードへ向けて転送する.このように構成されるクラスタ型WSNにおいてSNは,

CHにデータを中継させてマルチホップ通信するため,直接シンクノードへ送信するス ター型トポロジと比較して通信距離が短縮され,送信電力の低減による低消費電力化を 実現し,ネットワークの稼働時間を長くすることができる.さらに,SN の情報伝送を クラスタ毎に分散することで,全てのSNがひとつのシンクノードに情報伝送を行う場 合と比較して効率の良い通信を可能とし,情報収集特性の向上やネットワークの拡張性 の向上が可能となる.

クラスタ型WSNにおける情報伝送は,クラスタ内通信とCH間通信の2種類が考え られる.クラスタ内通信はCHがクラスタ内のSNから情報を収集する際の通信であり,

CH間通信はクラスタツリー構造の末端部に位置する下位CHがSN から収集した情報 をネットワークの中枢部でnでの近くに位置する上位CHやシンクノードに転送する際 の通信である.CH 間通信は複数のSNから受信した情報を転送する通信であるため,

各送信ノードの情報量がクラスタ内通信よりも多くなることが考えられる.これらの通 信はそれぞれ異なる特徴を持つため,シンクノードでの情報収集を考える場合,両方の 通信について考慮する必要がある.

本研究では,低消費電力性に優れたクラスタリング技術を用いたクラスタ型WSNを 研究対象とする.

図2.2 クラスタ型トポロジの構成例

(13)

2.3 IEEE802.15.4 MAC

IEEE802.15.4は低速パーソナルエリアネットワーク(PAN)向けの低レイヤ規格であ

る.IEEE802.15.4は低速度通信,短距離通信,低消費電力,小メモリ容量,低コストと いった特徴があり,WSNへの応用が期待されている[16].IEEE802.15.4での端末間の伝 送制御に関しては,主にMAC層で記述されている.

IEEE802.15.4MAC ではビーコンモードと非ビーコンモードの二つの動作モードが

規定されており,ネットワークの管理ノードである PANコーディネータ(PANC)に よって選択される.ビーコンモードにおいて,PANC は CH に対してビーコンを送信 する.その後,CHは配下のCHもしくはSNにビーコンを送信する.このビーコンを 受信した全てのCHやSNは同期し,スーパーフレームに従って間欠動作をすることで 低消費電力な情報伝送を実現する.一方,非ビーコンモードでは,ビーコンによる同期

はせず,Unslotted CSMA/CAを使用した競合アクセスのみを規定している.そのため,

各ノードは他ノードからの情報受信のために,常に起動し続けなければならないので,

ビーコンモードと比較して消費電力は高い.このことから本研究では,ビーコンモード に着目した.次節以降で IEEE802.15.4MAC のビーコンモードで使用されるスーパー フレームとチャネルアクセス方式のSlotted CSMA/CAについての詳細を記述する.

2.3.1

スーパーフレーム

ビーコンモードでは,PANCが周期的にビーコンを送信し,ネットワークの全ノード が同期する.その際,同期したノードは図2.5に示すようなスーパーフレーム構造に従 って動作する.スーパーフレーム構造は,非アクティブ期間とアクティブ期間で構成さ れている.非アクティブ期間において,ノードは通信機能をオフにする低消費電力なス リープモードに入る.ビーコンを送信する周期であるビーコン間隔(BI)とアクティブ 期間長(SD)は,macBeaconOrder (BO)とmacSuperframeOrder (SO)値を用 いて以下の(2.1)式のように決定される.

SO BO

ion*2 frameDurat aBaseSuper

SD

ion*2 frameDurat aBaseSuper

BI

 (2.1)

ここで aBaseSuperframeDuration はスーパーフレームを形成するときの最小値を定 義している.

またアクティブ期間は16タイムスロットで分割されており,それを複数使用するこ

(14)

ムスロット(GTS: Guaranty Time Slot)が割り当てられ,割り当てられたノードはそ のGTSでSlotted CSMA/CAを使用せず情報送信を実施する.本研究では,CAPにお ける情報伝送に着目し検討する.

クラスタ型トポロジを採用した場合,PANCがスーパーフレーム構造を決定し,ビー コンによってCHに通知する.ビーコンを受信したCHは下位ノードに向けてビーコン を送信する.ビーコンを受信したノードは通知されたスーパーフレーム構造に同期する.

このときスーパーフレームは,図2.6のように各 CHのアクティブ期間(SD)を時間 軸上で重複しないように設定する.このため,ネットワーク上で同一チャネルを用いる 場合において,同一 CH に接続するノード同士では情報伝送時に競合するが,異なる CH に接続するノード同士では競合しない.また 各クラスタ内通信のアクティブ期間 の後,CH間通信のアクティブ期間が到来するようにスーパーフレームを設計すること で,一回のビーコン周期で上位CH(PANC)まで情報を送り届けることができ,効率 的な情報収集を実現する.

図2.5 スーパーフレーム構造

(15)

Beacon  v 

上位

CH 

BI 

SNsl 

今 ︐h

一 フ 一 対日引い

下

α ク

SNs2 

下位C

Hl

{O

て

│クラスタ l I 1 ‑ /  小

¥0  ‑ ノ │

o  0 

CH開通信

クラスタ内 通信2

. 上 位

CH(PANC) 

! / 「 や ヌ ロ o ラ 矧 i 

¥ O L Q

,/ 

、

O / /

(16)

2.3.2

チャネルアクセス方式

IEEE802.15.4 MAC では,CAP におけるチャネルアクセス方式として Slotted

CSMA/CAが採用されている.ここでCSMA/CA方式は無線LANなどで主に利用され

るIEEE802.11規格で採用されているチャネルアクセス方式であり,搬送波感知多重ア

クセス/衝突回避方式の略である.これは通信手順を名前にしたものであり,搬送波感 知(キャリアセンス)では送信待機中のノードはチャネル状態を監視し,チャネルがア イドルであることを確認し,情報送信を行う.逆にチャネルがビジーであれば送信を待 機する.この動作により,複数のノードがチャネルを共用する多重アクセスを実現する.

しかしながらキャリアセンスによる多重アクセスでは複数のノードが同時に情報伝 送を行った場合,情報衝突が生じてしまう.イーサネットのような有線ネットワークで は,衝突を検知し,直ちに情報伝送を停止することが可能であるが,WSNのような無 線ネットワークでは衝突検知を行うことができない.そのため,衝突回避方式としてバ ックオフ制御が実施されている.バックオフ制御は,キャリアセンスの前にランダムな 時間待機することで,各ノードの情報伝送のタイミングに差異を与え,衝突の回避を試 みる.

Slotted CSMA/CAはスロットを基準として,上述したCSMA/CAの動作を実施する.

そのスロットの単位は,aUnitBackoffPeriod(UBP)で定義される.この Slotted

CSMA/CA方式では,ランダムな待機時間の決定のためにバックオフウィンドウが使用

される.バックオフウィンドウはランダムな待機時間の選択範囲(Backoffwindow)であ り,バックオフ指数(BE: Backoff Exponent)を用いて以下の式(2.2)で定義される.

] 2 [0, 1

BE

dow

Backoffwin (UBP) (2.2)

BEは初期値であるBEminと最大値であるBEmaxで定義され,ある情報送信の最初のバ ックオフではBEminが使用され,バックオフ後の2回のキャリアセンス(CCA: Clear Channel Assessment)でビジーを検出する度にBE値を1増加し,再びバックオフを 行う.数回のバックオフの後,最終的にBEmaxが使用される.ある情報送信における再 バックオフ回数が規定の回数(macMaxCSMABackoffs)を超過した場合,その情報は 廃棄される.

Slotted CSMA/CAの動作例を図2.6に示す.ノード1とノード2の二つがチャネル アクセスを行うと想定する.両ノードは,ビーコンを受け取りCAPが開始すると,そ れぞれに与えられたBEminを使用してバックオフを開始する.このとき選択されたバッ クオフ遅延時間はランダムであるため,ノード2がノード1より早くCCAを実施する.

ノード2は2回のCCAでチャネルアイドルを確認できたため,情報伝送を行い,確認 応答フレーム(Ackフレーム)受信後,スロットの境界から次の情報のバックオフ制御 を実施する.ノード1は,バックオフ後のCCAでチャネルビジーを確認したため,BE 値を1増加して再バックオフを行う.その後2回のCCAでチャネルアイドルが確認で きたため情報伝送を実施する.

(17)

小さいBE値の場合,バックオフウィンドウが短くなるため,送信待機時間が短くな るが,選択されるバックオフ値の幅の少なさやバックオフの回数が多くなりやすいこと から,情報衝突や最大バックオフ回数超過による情報廃棄が生じやすい特徴を持つ.逆 に大きいBE値の場合,バックオフウィンドウが長くなるため,送信待機時間が長くな るが,選択されるバックオフ値の幅の多さから情報衝突などが減少する特徴を持つ.一 般的にBEminとBEmaxは各ノード間で平等な通信を実施するために,全てのノードで同 じ値が設定される.

図2.6 バックオフ動作モデル

(18)

2.4 MAC

層における優先度制御方式

本研究では提案方式で優先度制御を実施するために,従来の優先度制御方式を応用す る.そこで従来から無線 LAN の MAC 層で実装される優先度制御方式である IEEE802.11eについて記述する. IEEE802.11eは無線LAN規格であるIEEE802.11 にQoS (Quality of Service)制御などの付加機能を追加したものである.この規格で は,情報の要求QoSに基づいた伝送の優先度制御によりQoS保証を実現する.

2.4.1 QoS

制御

QoS 制御では,伝送情報を差別化し特定の情報を優先させることで,信頼性や低遅 延などの要求される通信品質を実現する.例えば電子メールやWeb アクセスの情報を 伝送する場合には,多少の遅延時間は問題にならないが,情報誤りのない信頼性の高い 伝送が要求される.これに対してリアルタイム性を要求される電話や動画などの情報を 伝送する場合には,情報は一定の遅延時間内での伝送が要求されるが,ある程度の誤り は許容できる.電子メールやWebページの情報はリアルタイム性が要求される情報を 先に伝送した後に伝送できれば十分である.

従来のIEEE802.11における情報伝送では,情報の信頼性に対して,情報の再送制御

により保証を行っているが,リアルタイム性を有する情報に対して,その遅延時間を保 証する技術はなかった.そこでリアルタイム性を有する情報に対して,IEEE802.11e では上位レイヤからの情報を要求QoSに従い,4種類のアクセスカテゴリ(AC)に分 類することで,情報の優先順位付けを行う.このときリアルタイム性の高い情報である 電話や動画などは高優先 AC の”音声”や”ビデオ”に分類され,リアルタイム性の低い Web アクセスや電子メールなどは低優先 AC の“ベストエフォート”や“バックグラ ウンド”に分類される.IEEE802.11e ではこの AC の優先順位に基づいた情報伝送の 実施により要求QoSを保証する.優先伝送を実施する方式として,EDCA(Enhanced Distributed Channel Access)が実施されている.

2.4.2 EDCA

EDCAは,従来のIEEE802.11のチャネルアクセス方式であるDCF (Distributed Coordination Function)に対して,情報の種別毎に伝送の優先度制御を実施すること で,QoS保証できるように拡張されたものである.EDCAでは,前節のACに対して,

それぞれの優先度に応じた送信機会の制御が実施される.

EDCAでは,従来のIEEE802.11 DCFと同様にCSMA/CA方式による情報伝送を行 う.このときACの優先順位に応じて,CSMA/CAのバックオフ制御で用いるパラメー タであるフレーム間隔(AIFS: Arbitration Inter Frame Space)とコンテンションウィ ンドウ(CW)幅を設定する.AIFSはDCFのDIFS(Distributed Inter Frame Space)

(19)

をQoS制御の目的で拡張したものである.DIFSはチャネルのアイドル状態を判定する ために使用され,一定の時間間隔で規定されるパラメータであるが,AIFS では要求 QoSに従い情報毎で異なるパラメータに設定することが可能となる.一方CWは,2.3.2 節で記述したバックオフ制御のバックオフウィンドウに相当するものであり,初期段階 で最小値CWminが使用され,再送制御を実施する度に増加し,最大CWmaxまで増加す る.ランダムな遅延時間はバックオフウィンドウから選択された乱数値にスロット時間

(SlotTime = 50 [s])を掛け合わせた値で定義される.

ここでEDCAにおける各ACに対するAIFSとCWの具体的な設定値を表2.2に示 す.AIFSの値は,表2.1のAIFSN, SlotTime,制御情報のフレーム間隔(Short IFS:

SIFS = 28 [s])以下の式(2.3)で定義される.

μs] [ SIFS SlotTime

* [AC]

[AC]

AIFS  AIFSN(2.3)

EDCAでは,リアルタイム性が要求される高優先順位のAC(音声,ビデオ)に対して,

多くの送信機会が獲得できるように小さいAIFSやCWが設定され,リアルタイム性が 要求されない低優先順位のAC(ベストエフォート,バックグラウンド)に対して,大 きいAIFSやCWが設定される.この設定により情報伝送の優先度を制御する.

EDCAでの情報送信方法を図2.8に示す.高優先ACは,低優先ACと比較して小さ いAIFSのチャネルアイドルを感知後,早いタイミングでバックオフを実施する.また CWも低優先ACと比較して小さいため,[0, CW]の範囲でランダムに選択される送信 待機時間も小さくなりやすい.そのため優先的に送信機会の獲得が可能であり,伝送遅 延の要求QoSを満足することが可能となる.つまりEDCAでは,各情報の送信待機時 間をAC毎に調整することにより,情報伝送の優先度制御を行い,QoS保証を実現して いる.

EDCA での優先度制御は,バックオフ制御の送信待機時間に関するパラメータを変 化させることにより実施しており,同様にバックオフ制御を実施するIEEE802.15.4の

Slotted CSMA/CAに対して応用できると考えられる.しかしながら,これらのバック

オフ制御は厳密には異なるものである.IEEE802.15.4においては,省電力化を実現す るためにバックオフ中のキャリアセンスを実施しないので,情報送信終了後に全てのノ ードが挿入するAIFSに相当するパラメータが存在しない.よってCWに相当するバッ クオフウィンドウのみを変化させ,送信待機時間を操作することで優先度制御を試みる.

(20)

表2.1 EDCAの設定値

アクセスカテゴリ AIFSN CWmin CWmax

音声 2 3 7

動画 2 7 15

ベストエフォート 3 15 1023 バックグラウンド 7 15 1023

図2.8 EDCAでの情報送信

(21)

2.5

基礎技術の位置付け

本章で説明した基礎技術の本論文での位置づけを説明する.図2.9に各基礎技術の位 置付けを示す.図2.9はOSI(Open System Interconnection) 参照モデルを基に記 述している.

まずWSNはIEEE802.15.4を含む様々な技術を組み合わせたものであり,図で示す

ネットワーク技術のみではなくアプリケーション層から物理層までの技術から構築さ れる.次にIEEE802.15.4は無線PAN向けのMAC層と物理層(PHY層)を規格する プロトコルである.IEEE802.15.4のMAC層には,ビーコンモードと非ビーコンモー ド の 2 つが 規格さ れて いる .ビ ーコン モード には スー パーフ レーム や Slotted CSMA/CAなどの技術があり,非ビーコンモードにはUnslotted CSMA/CAなどがある.

一方IEEE802.15.4のPHY層ではネットワークトポロジなどが規格されており,クラ

スタツリー型トポロジもこちらで定義される.

また無線LAN向けのMAC層とPHY層を規格するプロトコルとして,IEEE802.11 がある.IEEE802.11のMAC層では,基本アクセス手順としてDCFが用いられる.

さらにIEEE802.11 のMAC 関連の拡張プロトコルとして,QoS制御機能を追加した

IEEE802.11eが存在し,基本アクセス手順としてDCFを拡張した EDCAが用いられ

る.

図2.9 各基礎技術の位置付け

(22)

第 3 章

トラヒック偏りを伴う WSN

第3章では不均一トラヒックを伴うWSNに対して,省電力性に優れるIEEE802.15.4 規格とクラスタ型トポロジを導入したときの情報伝送への影響について検討する.3.1 節ではクラスタ型 WSN における不均一トラヒックの発生要因と従来研究について記 述する.3.2 節ではこれまであまり研究されてこなかった不均一トラヒック環境下の CH間通信におけるトラヒック量の異なるCH間の伝送特性差異について定性的,定量 的に考察する.

3.1

不均一トラヒックの発生要因

WSN は,無線 LAN やセルラシステムなど他の無線通信システムと比較して,不均 一トラヒックが顕著である.決められた時間にSNが環境情報等の観測を行う時間同期 型WSNでは,特定の時間に数多くのSNが情報観測を行い,情報伝送を試みる状況が 考えられる.そのような状況では,時間軸でトラヒックが変化する時間不均一トラヒッ クとなる.また火事や人の動作,環境の変化などのイベントに反応してSNが情報観測 を実施する イベント検出型WSN では,特定領域においてイベント発生が集中する状 況やイベントに反応するSN数が地理的に偏る状況が考えられる.そのような状況では,

空間不均一トラヒックとなり,領域毎でトラヒック量に差異が生じる.

ここで不均一トラヒックが存在する状況下で,クラスタ型トポロジを採用したWSN における情報伝送への影響について考える.空間不均一トラヒックが存在するクラスタ 型WSNでは,図3.1のようにクラスタ毎のSN配置密度が異なることで,クラスタ領 域毎でトラヒック量に差異が生じる.これによってクラスタ内通信ではクラスタ間で伝 送の競合状況が異なることから,CHでの情報収集率に差異が生じることが考えられる.

またCH間通信では,下位CHがSNから収集した転送トラヒック量の差異が生じる.

これにより,トラヒック量の異なる下位CHが共通のアクティブ期間で競合して送信す るため,上位CHでの情報収集率に差異が生じることが考えられる.

これまでこの不均一トラヒック問題に対して,主にクラスタ内通信に着目したトラヒ

(23)

ック適応化技術が検討されてきた. IEEE802.15.4 ビーコンモードで,全 SN が同一 のスーパーフレーム構造に従い動作する場合,各クラスタでトラヒック量に見合った適 切なアクティブ期間長に設定されないことが予想される.具体的にはトラヒック量の多 いクラスタではアクティブ期間の不足によりCHでの情報収集率が低下し,トラヒック 量の少ないクラスタでは冗長なアクティブ期間が発生し消費電力効率が低下する.

この問題に対する対策技術として, 2段階トラヒック適応制御が提案されてきた[11,

12].2 段階トラヒック適応制御では,ネットワーク全体で共通のスーパーフレーム構

造を定義するパラメータであるBO/SO制御,およびクラスタ毎に長さの調節が可能で あるCAP長制御が実施されている.CAP長制御では空間不均一トラヒックに対して,

クラスタ間でCAP長を高負荷クラスタに対して長い期間が割り当てられるように変更 することで適応を試みる.またBO/SO制御では時間不均一トラヒックによるネットワ ークトラヒックの変化に対して,BI や SD などのスーパーフレーム構造を変更するこ とで適応を試みる.この制御により,トラヒック量の大きいクラスタではアクティブ期 間長を長く設定することで多くの情報送信を可能とし,トラヒック量の小さいクラスタ ではアクティブ期間を減少することで情報送信のない冗長な期間を省いている.これに よりクラスタ間の情報収集率の公平性とネットワークの低消費電力化を実現している.

図3.1 クラスタ型WSNにおける空間不均一トラヒック

(24)

3.2

クラスタヘッド間通信への影響

空間不均一トラヒックがクラスタ型WSNに及ぼす影響は,クラスタ内通信だけでは なくCH間通信に対しても生じると考えられる.ここで空間不均一トラヒック環境下の CH間通信への影響を考察するため,CH間通信の想定トポロジを図4.2に示す.図4.2 のようにCH間通信は,SNからデータを収集する下位CHと下位 CHで収集した情報 の転送先である上位CHから構成される.またイベント発生頻度やクラスタ内のSN数 により,下位CHには高負荷CHと低負荷 CHがある.CH間通信では1つの上位 CH に従属する全ての下位CHは,スーパーフレーム上の同一CAPでSlotted CSMA/CAに 従った情報伝送を行う.

CH間通信では,クラスタ内のトラヒックを転送する際に同一の CAPでトラヒック 量の異なる複数のCHが競合するため,上位 CH での情報収集率に下位CH 間で差異 が生じることが考えられる.特に3.1節で記述したクラスタ内通信におけるトラヒック 適応制御をすると,高負荷クラスタではクラスタ内通信により多くの情報をCHで収集 可能となる.このことから,下位CH間で転送情報量の差異が大きくなると考えられる.

よってクラスタ内通信のみでトラヒック適応制御を実施する場合,CHでの情報収集率 は平等となるが,CH間通信で情報収集率に差異が生じる状態となってしまう.それ故 にクラスタ内通信に着目するだけでは不十分であり,CH間通信への影響も議論した上 でトラヒック適応制御を実施する必要がある.

これまでにCH間通信に着目した研究はないため,以下の各節で空間不均一トラヒッ クのCH間通信に対する影響を定性的に検討していき,計算機シミュレーションを利用 した定量的評価により明確化していく.

図3.2 空間不均一トラヒック環境下のCH間通信の想定トポロジ

(25)

3.2.1

伝送特性差異の定性的な考察

CH間通信では,第2章で記述したSlotted CSMA/CA方式を用いて,全ての下位CH が情報伝送を試みる.このときバックオフ制御において,同じBE値が使用される場合,

獲得できる情報送信機会は全ての下位CHで同じとなる.同一CAP において異なるト ラヒック量のCHが情報伝送を行うため,高負荷CHはトラヒック量に見合った十分な 送信機会が獲得できず,待ち行列の情報を全て送信することができず,低伝送特性とな る. 一方低負荷 CH では,トラヒック量に対して十分な送信機会が獲得でき,高伝送 特性となる.このことからトラヒック量の異なる下位CH間で伝送特性に差異が生じる ことが考えられる.

このようにCH間通信の伝送特性に差異が生じる状態では,特定領域からの情報量が 不足し,情報の信頼性が領域毎で不均一となる.そのような状況下で,環境モニタリン グアプリケーション等の利用を考えると,情報の信頼性の低い領域では誤ったモニタリン グを基に不適切な制御が実施されることが考えられ,そのような状態は望ましくない.

以上でCH間通信において伝送特性差異の発生が定性的な考察により明らかとなった.

この考察を証明するため,空間不均一トラヒック環境下でのクラスタヘッド間通信にお けるパケット廃棄率の差異を計算機シミュレーションによって定量的に求める.

3.2.2

伝送特性差異の定量的な評価

本論文では,BEの最小値BEminと最大値BEmaxを,全ての下位CHで同じ設定値と したシステムを評価することで,空間不均一トラヒック環境下のCH間通信の伝送特性 を評価する.

本節の特性評価で使用するシミュレーションモデルやシミュレーション諸元,また評 価指標の定義は第5章で記述する. BEは(BEmin, BEmax) = (5, 8)で一定とする.

空間不均一トラヒック環境実現のため,各下位CHグループ(低負荷CH,中負荷CH,

高負荷CH)にトラヒック比(Rlow: Rmid: Rhigh) = (1: 1.5: 2)を与えた場合の特性評 価を実施する.

図3.3にパケット廃棄率Rdropを示す.またパケットの廃棄要因である3つの特性(バ ッファオーバーフロー率𝑅dropOF ,最大バックオフ回数超過による廃棄率𝑅dropBF ,最大再送回 数超過による廃棄率𝑅dropCOL)を図3.4~図3.6に示す.図3.3よりトラヒックの異なる3 つの下位CHグループでパケット廃棄率特性が異なる特性となっており,低負荷CHと

(26)

の特性が劣化していることが分かる.これは情報量の多い高負荷CHがチャネルを占有 するため,低負荷CHの情報送信が阻害されるからである.しかしバッファオーバーフ ローによる廃棄と比べて特性差が小さいため,パケット廃棄率の伝送特性差異の主な要 因はバッファオーバーフローであるといえる.以上から,トラヒックの異なる下位CH 間でパケット廃棄率の特性差異が生じることが明らかとなった.

また図3.7に伝送遅延Dtxを示す.図3.7より伝送遅延特性においても,パケット廃 棄率特性と同様の傾向が見られる.高負荷CHでは,バッファ内に格納されている転送 情報量が他CHよりも多いが,送信機会は全てのCHで同じである.そのためCAPで バッファ内の情報が全て送信されない可能性が高くなる.このことから高負荷CHの伝 送遅延特性が劣化する.結果として,トラヒックの異なる下位CH間で伝送遅延の特性 差異が明らかとなった.

以上の結果により,空間不均一トラヒックが存在する状況下のCH間通信において,

トラヒックの異なる CH 間で伝送特性の差異が生じることを定量的に評価することが できた.この伝送特性差異はトラヒック量に見合った送信機会が獲得できていないこと が主な要因であり,緩和のためには送信機会の獲得頻度をトラヒック量に見合ったもの に変化させることが有効であると考えられる.そのため送信機会の変更を実施するため に,第2章で記述したEDCAでの優先度制御をIEEE802.15.4に応用したトラヒック 適応バックオフ制御を第4章で説明する.

図3.3 パケット廃棄率 0

0.1 0.2 0.3

0.001 0.01

パケット廃棄率Rdrop

ネットワークトラヒックG [packets/packet length]

(27)

図3.4 バッファオーバーフロー率 0.001

0.01 0.1 1

0.001 0.01

ネットワークトラヒックG [packet/packet length]

0.001 0.01 0.1 1 バッファオーバーフロー率𝑅dropOF最大バックオフ回数超過による廃棄率𝑅dropBF

(28)

図3.6 最大再送回数超過による廃棄率

図3.7 伝送遅延 0.00001

0.0001 0.001 0.01 0.1 1

0.001 0.01

ネットワークトラヒック G [packets/Lpkt]

5000 6000 7000 8000 9000

0.001 0.01

伝送遅延Dtx [UBP]

ネットワークトラヒックG [packets/packet length]

最大再送回数超過による廃棄率𝑅dropCOL

(29)

第 4 章

トラヒック適応バックオフ制御手法

従来のSlotted CSMA/CAを用いた伝送では,空間不均一トラヒックにおけるクラス タ型WSNのCH間通信において,トラヒック量の異なるCH間で伝送特性差異が発生 することが第3 章で明らかになった.そこで第4 章では,第2 章で記述したバックオ フ制御を利用した優先度制御を実施するEDCAをIEEE802.15.4に応用して,トラヒ ックの異なる CH 間での送信機会獲得頻度を自律分散的に制御するトラヒック適応バ ックオフ制御手法を提案する.4.1 節で提案方式の狙い,4.2 節でその制御内容につい て記述し,4.3節で具体的な制御方法について記述する.

4.1

トラヒック適応バックオフ制御の狙い

空間不均一トラヒック環境のCH間通信では,異なる負荷のCH間で伝送特性の差異 が生じる.これは同一BE値を用いたバックオフ制御により,全CHに同等な伝送を提 供していることが原因であり,高負荷CHでトラヒックに見合った十分な送信機会が獲 得できていないことに起因する.

よって提案方式では,優先度制御により送信機会をトラヒック量に応じて変化させる ことで,伝送特性差異の緩和を試みる.送信機会の獲得頻度制御は,EDCA の優先度 制御と同様に,送信待機時間の変更により実施する.優先度制御では,バックオフ制御 におけるバックオフウィンドウを定義するパラメータであるBEを制御し,送信待機時 間を変化させることで送信機会獲得に対する優先度を変化させる.図4.1のように待ち 行列内の情報量の多い高負荷 CH では,より多くの情報を限られた送信期間(CAP)

(30)

また提案方式では,上記の送信機会獲得頻度の変更を各下位CHが独立に実施する自 律分散制御で試みる.その理由として,上位のCHが各下位CHのトラヒックを監視し,

送信機会を変更する集中制御では,確実性の高い制御が実施できる反面,制御情報の交 換が必須となり,オーバーヘッドの増大に繋がるためである.自律分散制御を実現する ためには,自身の他CHと比較したト相対的なラヒック状態の推定を実施し,推定され たトラヒック状態に基づいて優先度制御を実施する必要がある.

図4.1 優先伝送による送信機会変化

(31)

4.2

トラヒック適応

BE

制御

提案法で実施する優先度制御とトラヒック推定について,以下で実施内容の詳細を記 述する.

4.2.1

優先度制御

優先度制御の従来例であるIEEE802.11eでは,送信待機時間を決定するCWを用い て優先度制御を行っている.IEEE802.15.4においては,CWに相当する制御パラメー タとしてバックオフウィンドウが存在する.そのためバックオフウィンドウを定義する 制御パラメータであるバックオフ指数(BE)を変更することで優先度制御が可能であ ると考えられる.このBE値を下位CH毎で異なる値に設定することで,バックオフウ ィンドウの長さを変化させ,そこから選択されるランダムな待機時間が変化することで,

優先度制御の実現が可能となる.

優先度制御時の情報送信は,図4.2のように高負荷CHにおいてBEを小さい値に設 定することにより,バックオフウィンドウを小さくし,送信待機時間を短くすることで,

送信機会を獲得しやすい高優先度状態にする.逆に低負荷CHではBEを大きい値に設 定することにより,バックオフウィンドウを大きくし,送信待機時間を長くすることで,

送信機会を獲得しづらい低優先度状態にする.これにより,情報送信機会を十分に獲得 できていなかった高負荷CHが素早く情報の送信を行うことで,他CHによる伝送を抑 制することができる.そのため他CHと比較して多くの情報送信機会を獲得でき,バッ ファオーバーフローによる廃棄が減少する.逆に低負荷CHでは,送信機会の獲得をト ラヒックに見合った頻度に減少させることができる.結果として,各下位CHがそれぞ れのトラヒックに応じた頻度で情報伝送を行うことが可能となり,トラヒック量の異な る下位CH間で伝送特性差異の緩和を期待できる.

ところで第2章で記述したように IEEE802.15.4MACにおいて,バックオフウィン ドウを決定する制御パラメータ BE は,BEminと BEmaxの 2 種類で定義されている.

BEmin はある情報送信に対して最初のバックオフで使用される初期値のパラメータで あり,BEmaxは数回のバックオフの後使用される最大値のパラメータである.したがっ てBEmin値を調節する場合は,バックオフ制御の初期段階から各下位CHのバックオフ ウィンドウの長さに差を設けることができ,優先度制御に高い効果をもたらすことが可 能となる.しかし,BEmax値を調節する場合,初期段階ではBE値に同一のBEmin値が 使用されるため,優先度制御の効果をもたらすことができない.数回のバックオフの後,

(32)

図4.2 BEminによる優先度制御

(33)

4.2.2

トラヒック推定

トラヒックに適応した優先度制御を実施するためには,各下位CHで自身の絶対的な トラヒック量を監視するだけでは不十分であるため,自身のトラヒックが他CHと比較 してどのような状態にあるのかを推定する必要がある.そのためには,伝送路における 他CHとの競合状況を反映したトラヒック推定を行う必要がある.そこで相対的トラヒ ック状態を推定するための指標としてCAP終了時のバッファ内の送信待ち行列長に着 目した.

各下位CHが待ち行列長監視で得られる情報は,その時点において自身の持つトラヒ ック量である.しかしCAP終了時においてこの量は,直前のCAPで送信が未完了とな った情報量とみなすことができ,送信未完了情報量の大小によって,他 CH とのチャネル 競合状況を反映した送信機会の獲得度合を判断できる.これにより他 CH と比較したトラ ヒック状態を推定できる.例えば図5.3では,CAP開始時に両下位CHがクラスタ内通 信でSNから受信した情報を保持しているが,他CHと比較した自身のトラヒック状態 は推定できない.ところがCAP終了時では,CAPで送信した情報を差し引いた状態と なっており,待ち行列長が小さければトラヒック量に見合った送信機会を獲得できた低 負荷状態であると推定でき,待ち行列長が大きければトラヒック量に見合った送信機会 を獲得できなかった高負荷状態であると推定できる.

以上の考察より,各CHにおけるCAP終了時送信バッファ内の待ち行列長を使用す ることで,相対的なトラヒック状態を推定する.

(34)

4.3

具体的制御方法

提案法では,各下位CHで推定したトラヒック状態を基に,優先度制御により情報送 信機会の獲得頻度を変化させることで,トラヒック量の異なる下位CH間の伝送特性差 異を緩和する.

提案法の具体的な動作について図4.4に示す.提案法では図のように下位CHがスー パーフレーム毎に自身のCAP終了時待ち行列長を監視し,その監視値Lqueueからトラ ヒック状態を推定し,次回のスーパーフレームで使用するBEmin値の調節を行う.

トラヒック状態推定基準として,待ち行列長監視値に対する閾値 Thqueueを用いる.

監視値 Lqueueが閾値 Thqueueより大きい状態が検出された場合,トラヒックに見合った

送信機会が獲得できていないため,他CHと比較して高負荷状態であると推定する.ま

た監視値 Lqueueが閾値 Thqueue以下の状態が低負荷状態推定必要回数 Nupだけ連続で検

出された場合,トラヒックに見合った送信機会が獲得できているため,他CHと比較し て低負荷状態であると推定する.

BEmin 値の調節は,高負荷状態であると推定された場合,優先度を上げる必要があ るため,BEmin値を減少し,低負荷状態であると推定された場合,優先度を下げる必要 があるため,BEmin値を増加する.BEmin値の具体的な調節方法とその範囲を式(4.1)

に示す.

u p p e r l o w e r

b e f o r e

q u e u e q u e u e

up up

before

queue queue

down before

after

BE BE

BE BE

Th L

N BE

BE

Th L

BE BE

BE



min min

min min

min

;

;

;

ただし その他

連続で (4.1)

ここで BEdownは BEminの減少幅であり,BEup は BEminの増加幅である.BElower と

BEupperはBEminの調節範囲の最小値と最大値である.ここで BEdown,BEup,Nupは予

め設定する制御パラメータであり,提案法の伝送特性に影響を及ぼすため,第6章の特 性評価において最適値について議論する.

(35)

図4.4 提案法の具体的動作

図

表 2.1  EDCA の設定値
図 2.9  各基礎技術の位置付け
図 3.4  バッファオーバーフロー率 0.0010.010.110.0010.01ネットワークトラヒックG  [packet/packet length]  0.0010.01 0.11バッファオーバーフロー率
図 3.6  最大再送回数超過による廃棄率  図 3.7  伝送遅延 0.000010.00010.0010.010.110.001 0.01ネットワークトラヒック G  [packets/ L pkt ] 500060007000800090000.0010.01伝送遅延Dtx [UBP] ネットワークトラヒックG  [packets/packet length] 最大再送回数超過による廃棄率
+7

参照

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