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被害者救済に関する原子力損害賠償責任 保険の課題

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被害者救済に関する原子力損害賠償責任 保険の課題

大 羽 宏 一

■アブストラクト

2011年3月11日に東北地方と関東地方を襲った地震とそれに伴う津波によ り,東日本は大きな被害を被ったが,東京電力の福島第一原子力発電所の1 号機〜3号機は全交流電源が喪失することとなり,原子炉の圧力容器に注水 できなかったため,炉心の核燃料が露出することとなった。この結果シビア アクシデントに陥り,放射性物質が多量に放出されることになり,ここに

原子力損害 が発生することとなった。

本稿では,原子力損害の賠償に関する法律の特色を分析し,また今回の原 子力損害を解決するために立法された原子力損害賠償支援機構法を解説し,

それを踏まえてどのように新しい被害者救済策を策定すべきかを提案してい る。また,国際条約への加盟についても提案をしている。

■キーワード

原子力損害,原子力損害賠償支援機構,プライス・アンダーソン法

1.はじめに

2011年3月11日14時46分に東北地方と関東地方を襲った東北地方太平洋沖 地震 は,わが国の観測史上最大規模の地震といわれマグニチュード9.0を

/平成24年10月3日原稿受領。

1) 政府は激甚災害法に基づく激甚災害と指定している。一般には東日本大震災 といわれることが多い。

(2)

記録するところとなった。この地震は太平洋プレートが陸側プレートに潜り 込む形の典型的なプレート境界型の地震ということができ,震源域はきわめ て広く,岩手県沖から茨城県沖までの南北約500㎞,東西約200㎞の範囲であ ることが判明している。今回の東日本大震災はマグニチュードの大きさも記 録的なものであり,その結果,宮城県栗原市で震度7を記録し,東北や関東 の市町村で震度6以上を記録することとなり,大きな地震被害をもたらすこ ととなった。また震源域が海洋中(震源の中心は宮城県牡鹿半島の東南東 130㎞付近)であったことから,沿岸地域にかつてない津波被害をもたらす ことになってしまった 。

問題は,その沿岸地域に後述するように5ヵ所の商業用の原子力発電所が あり,15機の原子炉が実在(稼働中のものに加え,定期点検中のものを含 む)していたことである。特に東京電力福島第一原子力発電所では,地震と それに伴う津波(最大の津波は高さ10ⅿの防潮堤を超えて建屋敷地内へ侵入 したとされている )により全交流電源が喪失することとなり,冷却機能が 不能となった。つまり結果として,原子炉圧力容器への注水ができない事態 が一定時間継続したことから,炉心の核燃料が露出することとなった。そし てこれにより1号機〜3号機がシビアアクシデントに陥り,炉心損傷を防止 できなかっただけではなく,格納容器や原子炉建屋も維持できず,放射性物 質が多量に放出されることになり 原子力損害 が生じることとなり,世

被害者救済に関する原子力損害賠償責任保険の課題

2) 今回の東日本大震災の犠牲者数は,2012年9月11日現在,15,870人,行方不 明者数は2,814人とされているが,この多くが津波の被害であるといわれてい る。

3) 福島第一原子力発電所の最大の津波高さは, 原子力安全に関する

IAEA

僚会議に対する日本国政府の報告書 (平成23年6月)によれば,14〜15ⅿと している。また,ニノ方寿 福島第一原子力発電所事故の概要 (平成23年8 月2日,シンポジウム資料)は14ⅿと推定している。

4) 原子力損害の賠償に関する法律第2条第2項では 核燃料物質の原子核分裂 の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを 摂取し,又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをい う。)により生じた損害をいう。 としている。

(3)

界中に改めて原子力発電所の危険性を認識させることとなった。

事故の原因究明は,再発防止の観点からも引続き行っていかねばならない と思われるが,わが国はその地理上の位置や地形などの自然的な条件から地 震,津波,火山噴火に加え,台風,豪雨,洪水なども発生しやすい国土(大 陸の東端にあり,環太平洋地震帯に属し4種のプレートが複雑に交差してい ること,またモンスーン地帯で毎年夏から秋にかけて発生する台風の通り道 となっていることなど)であることは事実であり,今後はこれを念頭に置き 政策決定をする必要はあろう。世界に占める日本の災害発生割合は,マグニ チュード6以上の地震回数20.5%,活火山数7.0%,災害死者数0.3%,災害 被害額11.9%などであり ,これは世界に占めるわが国の国土の面積割合 0.25%から比べればきわめて高い値を示しているといえる。わが国は災害多 発国であることを再認識する必要があるだろう。

そこで,今回の原子力損害を教訓として原子力損害に関する被害者救済策 を再考すべき時期であると考えられよう。今回の原子力損害の対処のために 立法された,後述する原子力損害賠償支援機構法の附則第6条においても,

原子力損害の賠償に係る制度における国の責任の在り方,原子力発電所の事 故が生じた場合におけるその収束等に係る国の関与及び責任の在り方等につ いて,紛争を迅速かつ適切に解決するための組織の整備について検討を加え,

賠償法の改正等の抜本的な見直しをはじめとする必要な措置をできるだけ早 期に講ずるものとする旨,記述しているのは原子力損害について,その賠償 解決をするにあたって原子力損害の賠償に関する法律(以下 原賠法 とい う)に問題があることが明らかとなったからということだろう。

そこで,本稿では今回の原子力損害を踏まえ,今後の原賠法のあり方,そ れに加え原子力損害に関する多国間での条約のあり方などを含め,ここに取 り纏めることとした。

5) 平成22年版防災白書 内閣府,平成22年7月,pp33〜35。

(4)

2.今回の地震と津波による原子力発電所の被災状況

今回の原子力損害に関する政府としての直後の公式的な報告書は, 原子 力安全に関する

IAEA

閣僚会議に対する日本国政府の報告書―東京電力福 島原子力発電所の事故について― である。この報告書内容については,単 に福島第一と福島第二の原子力発電所の地震と津波による被災の実態を記述 しているだけではなく,表1のように地震と津波の影響のあった5ヵ所の商 業用原子力発電所(15機の原子炉)すべてにわたり言及していることが特徴 となっている 。この報告書によると,わが国で稼働中の原子炉54機(地震 発生時)のうち15機(福島県10機,宮城県3機,青森県1機,茨城県1機)

が地震と津波の被害を受けることとなったとしている。これは原子力発電所 の設置場所についての問題提起をすることとなったといえよう。福島県に10 機(福島第一6機,福島第二4機。ただし,2012年4月19日電気事業法によ り福島第一1号機〜4号機は廃止となっていることから現在では福島県には 6機),福井県に11機(美浜3機,高浜4機,大飯4機),新潟県に7機(柏 崎刈羽7機)と,特定の地域に原子力発電所が集中しているが,今回の実態 を考慮すればリスク分散の観点からみて好ましいことではないということが できるだろう 。

6) 詳細には,大羽宏一 原子力発電所の災害に関する被害者救済策について 保険学保険法学の課題と展望 成文堂,2011年12月,pp729〜744。

7) 例えば, 福島原発事故独立検証委員会,調査・検証報告書 では,福島第 一の事故は1号機の炉心損傷に端を発して,1号機の水素爆発,3号機の炉心 損傷,3号機の水素爆発,2号機の炉心損傷と,連鎖的に進行していったとし ている(同報告書

p39)。1機のみであれば,このような連鎖的な事態の拡大

はなかったということができるだろう。

被害者救済に関する原子力損害賠償責任保険の課題

(5)

この報告書により15機の原子炉の被災状況を比較検証すると,シビアアク シデントとなったかどうかの別れ目について次のポイントが浮かび上がって くる。

① 津波想定水位と防潮堤・敷地の高さ……福島第一(1号機〜4号機)で は想定水位を土木学会の評価に基づき5.7ⅿとしていたが,14ⅿ近くの 津波が襲ったとされている。これは防潮堤と敷地の高さ10ⅿを越えるも のだった。同じ福島第一についても5号機と6号機の場合は,敷地の高 さが13ⅿと若干高かったことが幸いし,6号機の非常用ディーゼル発電 機1台が水没せずに機能したことで,数日中に冷温停止状態となってい る。それに比べ,女川は津波想定水位が9.1ⅿだったが,敷地の高さが 運転開始の年月 工事認可の年月

電気出力 電力会社名 (万 )

昭和46年3月 昭和42年9月

46.0 東京電力

昭和49年7月 昭和44年5月

78.4 東京電力

昭和51年3月 昭和45年10月

78.4 東京電力

昭和53年10月 昭和47年5月

78.4 東京電力

昭和53年4月 昭和46年12月

78.4 東京電力

昭和54年10月 昭和48年3月

110.0 東京電力

昭和57年4月 昭和50年8月

110.0 東京電力

昭和59年2月 昭和54年1月

110.0 東京電力

昭和60年6月 昭和55年11月

110.0 東京電力

昭和62年8月 昭和55年11月

110.0 東京電力

昭和59年6月 昭和46年5月

52.4 東北電力

平成7年7月 平成元年6月

82.5 東北電力

平成14年1月 平成8年9月

82.5 東北電力

平成17年12月 平成10年12月

110.0 東北電力

昭和53年11月 昭和48年4月

110.0 日本原子力

発電

(注) 基本的なデータは 原子力ポケットブック2010年版 により作成した。そ の後,福島第一1号機〜4号機は2012年4月19日に電気事業法に基づき廃 止されている。表中の

BWR

は沸騰水型軽水炉の略称である。

表1 被災した原子力発電所の一覧

発電所・機名

福島第一1号機 福島第一2号機 福島第一3号機 福島第一4号機 福島第一5号機 福島第一6号機 福島第二1号機 福島第二2号機 福島第二3号機 福島第二4号機 女川1号機 女川2号機 女川3号機

東通

東海第二 BWR

  BWR  BWR  BWR  BWR  BWR  BWR  BWR  BWR  BWR  BWR  BWR  BWR  BWR  BWR 原子炉形式

(6)

13.8ⅿと高く13ⅿの津波に耐えたようである 。

② 外部電源喪失と非常用発電機との接続……一般に原子力発電所周辺が地 震により被災した場合,送電鉄塔の倒壊や送電線の切断による電源喪失 が一番の問題となることが想定されている。今回の地震でも外部電源が 失われることとなってしまった福島第一,東通,東海第二の原子力発電 所は非常用ディーゼル発電機への緊急的な切換えを迫られている。福島 第一は6回線ある外部電源すべての受電が停止しており,またその後の 津波により非常用ディーゼル発電機も機能停止となってしまい,結果的 にシビアアクシデントに陥ってしまった。これに対し,東通は定期検査 中で炉心の燃料はすべて使用済燃料プールに取り出されていたが,非常 用ディーゼル発電機により給電が行われ,また東海第二は津波の影響を 受け1台の非常用ディーゼル発電機が使用不能となったが,残りの2台 により電源が確保され,数日中に冷温停止状態となっている。次に,福 島第二では地震直後外部電源1回線が使用可能で,翌日もう1回線が回 復している。これにより4機とも数日中に冷温停止状態となった。女川 も5回線中1回線が正常であったので,翌日までに3機とも冷温停止状 態となっている。

つまり,災害多発国のわが国では,想定水位以上の津波が来襲したり,複 数回線の外部電源がすべて喪失したりすることが容易に想像されるわけであ る。したがって今回のシビアアクシデントの反省に立てば,原子力発電所の 立地の際のリスク判断の重要性を再認識すべきということになる。そしてこ れはわが国のエネルギー政策上の重大な課題ともいえよう。

なお,この原子力損害は,東日本大震災の地震と津波を原因として発生し たともいえるが,事故後約1年半が経った現時点で,4種の報告書が上梓ま たは公表されてきている。 福島原発事故独立検証委員会,調査・検証報告 書 (北澤宏一委員長,2012年3月11日), 福島原子力事故調査報告書 (東 8) 筆者の東北電力女川原子力発電所への取材に対する東北電力担当者の回答。

被害者救済に関する原子力損害賠償責任保険の課題

(7)

京電力・山崎雅男委員長,平成24年6月20日), 東京電力福島原子力発電所 事故調査委員会報告書(以下 国会事故調 という) (黒川清委員長,平成 24年6月28日), 東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 報告書(以下 政府事故調 という) (畑村洋太郎委員長,平成24年7月23 日)である。政府事故調では, 今回の事故は,直接的には地震・津波とい う自然現象に起因するものであるが,当委員会による調査・検証の結果,今 回のような極めて深刻かつ大規模な事故となった背景には,事前の事故防止 策・防災対策,事故発生後の発電所における現場対処,発電所外における被 害拡大防止策について様々な問題点が複合的に存在したことが明らかになっ た 。 と結論付けているが,一方,国会事故調では, 事故の根源的な原因 は,東北地方太平洋沖地震が発生した平成23年3月11日以前に求められる。

当委員会の調査によれば,3.11時点において福島第一原発は,地震にも津波 にも耐えられる保証がない,脆弱な状態であったと推定される。…事業者で ある東京電力及び規制当局である内閣府原子力安全委員会,経済産業省原子 力安全・保安院,また原子力推進行政当局である経済産業省が,それまでに 当然備えておくべきこと,実施すべきことをしていなかった 。 と,引金 となったのは地震と津波だったかもしれないが,根本原因は東京電力の組織 内部の問題であり,またわが国の規制当局と東京電力の癒着の問題 でも あり,その意味で人災であったと厳しい見解を示している。

事故の真の原因については,上述のように種々意見も分かれるところであ るが,現時点では原子炉建屋敷地内外の放射性物質のレベルが高いため立ち 入り調査ができないこともあり確定的な結論が出せない段階であるというこ とができよう。

9) 政府事故調 Ⅵ総括と提言

pp361〜362。

10) 国会事故調 結論 事故の根源的原因,p10。

11) 国会事故調 第5部事故当事者の組織的問題 (

pp489〜574)では,規制当

局が事業者の 虜 となっていることについて具体例を挙げ指摘をしている。

(8)

3.原賠法の概要と原子力損害賠償支援機構法の新設

⑴ 原賠法の特色

わが国の原賠法は,被害者の保護を図ることと同時に原子力事業の健全な 発達に資することを目的としており,次の諸点の特色を有しているといえる。

概略は図1を参照していただきたい。

① 無過失責任の採用

近代不法行為法の原則は,被害者に加害者側の故意・過失を立証させるも のであるが,専門的な知識のない被害者に立証責任を課すことは酷といえる ことから,この法では故意・過失がなくても原子力損害について原子力事業 者は責任を負うべきとしている。いわゆる無過失責任の考え方を採っている

(原賠法第3条第1項本文)。つまりは,著しい危険性と予想される損害の大 図1 わが国の原子力損害賠償制度

(注) 原子力発電所の損害賠償措置額は平成22年1月以降1,200億円である。

(電気事業連合会 でんきの情報広場 をもとに作成)

被害者救済に関する原子力損害賠償責任保険の課題

(9)

きさから他の特別法にはない徹底した無過失責任法となったといえる 。他 方,その損害が,異常に巨大な天災地変または社会的動乱によって生じたも のであるときは,原子力事業者の責任はない(免責事由)としている(原賠 法第3条第1項ただし書き)。ここで文理解釈上の疑義が生じるのは,今回 の地震と津波はこの 異常に巨大な天災地変 に該当するかどうかというこ とであるが,経済産業大臣の予算委員会での答弁 では, 昭和36年に作ら れた法律でございますが,そのときの国会審議の過程などを見ますと,今回 の事象は,ここで規定をします異常に巨大な天変地異に当たらないものとい う考え方が一般的でございます。 として原子力事業者の免責事由には該当 しないとしている 。わが国では法の解釈上の問題となっているが,各国の 法律では,原子力事業者が免責となっていない国(例えば,イギリス,ドイ ツ,アメリカ)もあり,規定の仕方は国によって異っている。わが国での今 後の論議が俟たれるところである。

② 責任集中

また,この法では損害賠償の主体を原子力事業者に集中させていることが 特色といえよう(原賠法第4条第1項)。したがって原子力事業者以外の者,

例えば原子炉のプラントメーカーなどは責任を免れるということとなる。原 子炉本体やその部品などに欠陥があったとしても製造物責任法上の損害賠償 は否定されている(原賠法第4条第3項)。この責任集中については,各国 の法律もほぼ同様な規定となっている。

③ 事業者に対する損害賠償額の無限責任

わが国においては,原子力事業者に責任制限額は設定されていないことか ら損害賠償額については無限の責任を負っているといえよう。しかしながら,

前述のように原子力事業者に無過失責任を課し,またその上,責任制限額が 12) 浦川道太郎 無過失損害賠償責任 民法講座第6巻 有斐閣,昭和60年,

pp231〜232。

13) 第177回国会,衆議院予算委員会第21号,平成23年4月29日。

14) 第177回国会,参議院文部科学委員会第7号,平成23年4月19日の文部科学 大臣答弁も同趣旨である。

(10)

設定されていないとなれば,当然のことながら損害賠償資力の確保に問題が 生じることとなる。そこで,この法では一定額の損害賠償措置を講じなけれ ば原子炉の運転等をしてはならないことを定めている (原賠法第6条)。

この措置の方法は,原子力損害賠償責任保険契約(損害保険会社との契約)

と原子力損害賠償補償契約(政府との契約)の2種の契約の締結となってい (原賠法第7条)。原子力損害賠償責任保険と原子力損害賠償補償保険 の関係は図1のとおりであるが,地震,噴火または津波によって生じた損害,

正常運転によって生じた損害,10年経過後に請求された損害など,について は原子力損害賠償責任保険で免責となっているが,原子力損害賠償補償保険 では支払い対象となっていることから,両契約は補完的関係にあるといえる。

なお,今回の原子力損害は,上述のように原子力損害賠償責任保険の免責事 に当たるため原子力損害賠償補償保険の支払い対象となっている。

④ 損害賠償履行に対する国の援助や措置

次に,この法では損害賠償措置額を超えた損害賠償が発生した場合は,政 府は国会の決議により必要な援助を行うことができるとしている(原賠法第 16条第1項,第2項)。さらに,異常に巨大な天災地変または社会的動乱に よって生じたものの場合は,被災者の救助や被害の拡大防止のための必要な 措置を講ずるとしている(原賠法第17条)。1999年に発生した

JCO

臨界事故 については,損害保険会社から原子力賠償責任保険契約の保険金として10億 円が支払われている が,被害者からの請求総額はこれを大幅に超えてい

15) 原子力発電所については,平成22年1月以降,損害賠償措置額は1,200億円 となっている。

16) 契約締結のほか,供託が認められている。

17) 野村豊弘 原子力事故による損害賠償の仕組みと福島第一原発事故 ジュリ スト

No.1427,2011年8月1日・15日,p122。具体的な約款内容については,

大羽宏一 原子力災害と原子力損害賠償責任保険 大分大学経済論集第51巻第 6号,2000年3月,pp39〜47参照。

18) 当時の核燃料物質加工施設の損害賠償措置額は10億円。

害賠償責任保険の課題 に関する原子力損

アキを入れていま 脚注を送るため,1行

(11)

た 。そのため,当時第16条による政府の援助が論議された経緯もあったが,

結果的に親会社の資金援助があり政府は出費することはなかった。

⑵ 原子力損害賠償支援機構の新設

前項の①で述べた予算委員会 の審議の場に,東京電力社長も参考人と して出席しているが,委員からの質問に答え東京電力社長は これから大変 広範囲にわたる多くの被害者に対する補償を実施していくといことにあいな ると思いますが,原子力損害賠償制度のもとで,資金面も含めまして,国の ご支援もいただきながら,指針を踏まえて公正迅速に対応してまいりたい,

このように考えております。 と述べている。つまりは原子力事業者として 天災地変の免責を主張しないという決意表明と捉えることができる。

この参考人答弁と符合するように,東京電力社長から原子力経済被害担当 大臣宛に平成23年5月10日付にて 原子力損害賠償に係る国の支援のお願 い という文書が出状されているが,この中で 原子力損害の原因者である ことを真摯に受け止め,被害を受けられた皆さまへの補償を早期に実現する との観点から,原子力損害賠償法に基づく補償を実施することとし,そのた めの準備を進めてきております。 と東京電力の考え方を明確に伝えている。

そして末尾には 被害者の皆さまへの公正かつ迅速な補償を確実に実施する ため,国によるご支援を何とぞよろしくお願い申し上げます。 と原賠法第 16条による援助の要請を行っている。

そしてこれに応えるように政府は原子力損害賠償支援機構法(以下 機構 法 という)の審議を進め,平成23年6月14日に閣議決定し,与野党で合意 を取り付けるまでの間に紆余曲折があったものの,8月3日に参議院本会議 で可決成立することとなった。この法の趣旨は,内閣官房の文書によれば,

大規模な原子力損害を受け,政府としても原子力政策を推進してきたことに

19) 原子力安全委員会

JCO臨界事故10年を迎えて⎜原子力安全委員会の取組

状況について (平成21年9月)によれば,合意総額154億円としている。

20) 前掲注13に記述した予算委員会。

(12)

ともなう社会的な責任を負っていることに鑑み, ①被害者への迅速かつ適 切な損害賠償のための万全な措置,②福島原子力発電所の状態の安定化・事 故処理に関する悪影響の回避,③電力の安定供給,の3つを確保するため,

国民負担の極小化を図ることを基本とし,損害賠償に関し万全の措置を講ず る 。 としている。

東京電力は原子力事業者として免責を主張しないということであれば,本 来の責任は東京電力の株主が全面的に被るということになるが,それを今回 の原子力損害に関与していない他の原子力事業者に対し負担金という名目で 納付させることしている(機構法第38条)。この奉加帳を回すような方式を 取るのは,現代的なビジネスルールに乗らないとの感が否めない。決済シス テムの崩壊を避けるための金融機関の救済と同様,破綻回避の必要性がある と説明すると思われるという意見 は,前述の政府の立法趣旨からすれば,

正鵠を射ていると思われる。しかしながら,アメリカのメディアからはこの

(経済産業省

HP

を参考として作成した)

図2 原子力損害賠償支援機構法の概要

21) 内閣官房 原子力損害賠償支援機構法の概要 平成23年8月。

22) 野村修也 東電公的管理の課題(上) 日本経済新聞,2011年5月25日,p25。

被害者救済に関する原子力損害賠償責任保険の課題

(13)

相互扶助的なシステムについては社会主義的なものであるとの批判 もあ るところである。

この機構法は,原賠法第16条に基づく政府の援助を具体化する制度的枠組 みとして策定されたもので,概略は次のとおりである。なお,原子力損害賠 償支援機構については以下 機構 という。

① 機構の設置,原子力事業者からの負担金の収納

原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払い等に対応する支援組織とし て機構を設ける。また機構は原子力事業者から負担金の収納を行う。

② 機構による通常の資金援助

損害賠償を実施する上で機構の援助を必要であれば,機構は,資金の交付,

融資,株式の引受け,社債や約束手形の取得などを行う。

③ 機構による特別資金援助

機構が資金援助を行う際,原子力事業者と共に 特別事業計画 を作成し,

主務大臣の認定を求める。主務大臣の認定を受け,資金援助を実施するため,

政府は機構に国債を交付し,機構は国債の償還を求め,原子力損害を起こし た原子力事業者に対し必要な資金を交付する。

④ 機構による国庫納付

機構から援助を受けた原子力事業者は,認定事業者として特別負担金を支 払う。機構は負担金等をもって国債の償還額に達するまで国庫納付を行う。

⑤ 損害賠償の円滑化業務

機構は,損害賠償の円滑な実施を支援するため,被害者からの相談に応じ 必要な情報提供・助言,原子力事業者が保有する資産の買取り,賠償支払い の代行,を行うことができる。

2012年4月27日の 総合特別事業計画 策定の時点での東京電力の賠償見 積額は,約2兆5千億円強と計算されている。機構としては,これに対応す

23)

“Japan Stumbles Toward Honest Socialism”The Wall Street Jour-

nal, May

18

,

2011

.

(14)

るために,約2兆5千億円強から,東京電力が受領している1,200億円の原 子力損害賠償補償契約の支払額を控除し,約2兆4千億円強を損害賠償履行 に充てるための資金として交付することとしている。また,東京電力の財務 基盤強化を目的として2012年6月の株主総会後,機構は株式に関し払込金額 総額1兆円の引受けを行うこととしている。

4.新しい被害者救済策について

昭和36年に策定された原賠法について検討した原子力災害補償専門部会

(部会長我妻栄)の答申 では,原子力事業者の要求される損害賠償措置で は損害賠償義務を履行しえない万一の場合には,原子力事業者に対して国家 補償をする必要がある,と結論付けていた。この答申の審議に当たっては大 蔵省の主計局長と銀行局長が態度保留するなど,委員間に見解の相違が明ら かになっていることが答申の文脈からも読み取れるものであった。そのため,

立法化されたのは,この答申内容とは異なり原子力事業者に無限責任を課す ものとなっていた。

これに対しては,我妻栄博士は 原子力事業という前例のないものを国の 政策として発展させようとするなら,万一生ずる損害は…国民全体で負担す べきという思想にはおそらく何人も反対しないだろう 。 と原子力事業者 の無限責任には反対する意見を述べている。

この答申の結論の考え方を尊重するとすれば,原子力事業者と政府が一体 となった新しい被害者救済策を再考することが求められよう。

⑴ 原賠法第3条の原子力事業者の免責事由

この免責事由は,わが国が災害多発国であることを考慮し,規定されたも

24) 昭和34年12月12日,原子力災害補償専門部会我妻栄会長から,原子力委員会 中曽根康弘委員長宛の答申。

25) 我妻栄 原子力二法の構想と問題点 ジュリスト

No.236,1961年10月15日,

p9。

被害者救済に関する原子力損害賠償責任保険の課題

(15)

のと思われる。しかしながら,今回の地震と津波はこれに該当しないという ことであれば,一体どの程度の地震と津波であれば原子力事業者は免責とな るのかを明確にしなければならないだろう。 原子力発電を不安だと思う理 由 を問うたアンケート では, わが国は地震が多いから という回答が 2番目(53.1%)となっている(図3参照)。

26) 内閣府・エネルギーに関する世論調査(平成21年10月15日〜25日)調査方法 は調査員による個別面談聴取

あなたは,わが国の原子力発電について不安だと思われるのは,どのような理由からで しょうか。この中からいくつでもあげてください。

図3 原子力発電を不安だと思う理由

( 原子力ポケットブック2011年版 から平成21年のアンケートのみを抽出した)

(16)

このような国民の漠然とした不安を払拭するためにも,原賠法の規定を明 確に記述することが求められよう。原子力損害が発生した後に,原子力事業 者に責任があることとし,機構法により政府が援助するという今回の被害者 救済のシステムは, 異常に巨大な天災地変 という言葉の定義の明確性を 欠いていることで生じた彌縫策ということができるだろう。

⑵ 原子力事業者の無限責任と損害賠償措置

原子力事業者に無限責任を負わせるということについては,今回のような 万一の巨大原子力損害発生の際には,当然に政府の援助を行うという立法時 の暗黙の了解があったのかもしれないが,これについては明確になっていな い。しかしながら,現在では いかなる投資家も上限のない責任制度に伴う リスクには耐えられない とするジョン・ハムレ(アメリカ戦略研究所 長)の発言は傾聴に値するものである。そこで,今後は原子力事業者に対し ては,アメリカと同様な有限責任を法律で明確に定めることが望ましいと考 えられよう。

そのため,損害賠償措置の方策としては,現行の原子力損害賠償責任保険 と原子力損害賠償補償保険の2種の契約の一本化が求められるだろう。その 方法としては原子力損害賠償補償契約で政府が引受けていたリスクについて,

政府が損害保険会社から再保険として引受ける方法があるだろう。これは地 震保険の政府による受再業務と同様と考えられよう。

また,その上にはアメリカのプライス・アンダーソン法(1954年原子力法 の修正法)による,遡及保険料方式の原子力事業者の相互扶助制度 がア イデアとしてある。現在のアメリカでは,約1兆円ともいわれるこの巨額な 損害賠償措置があり,そのほとんどが事故発生後に事後的に拠出されること

27) 日本経済新聞,2011年5月12日。

28) 佐藤大介 原子力損害賠償制度に対する原子力損害賠償支援機構の影響 損 害保険研究第74巻第2号,2012年8月,pp87〜89。

力損害賠償責任保険の課題 関する原子

救済に 被害者

ます。

を入れてい 脚注を送るため,1行アキ

(17)

が特徴となっている 。

このような二重構造のシステムはアメリカで苦労して辿り着いた手法であ ることから,今後導入への研究を重ねて行きたい。

⑶ 国際条約への対応

原子力損害賠償に関する条約は,パリ条約(発効),改正ウィーン条約

(発効),CSC (未発行)の3種がある(表2参照)が,未だわが国は検討 段階にある。このような多国間条約の存在意義は,参加国間の越境損害 の調整や損害賠償額の相互補完が目的ということができる。パリ条約とその 関連のブラッセル補足条約(発効)は締結国がヨーロッパの主要国であり,

また改正ウィーン条約は東欧や中東などが締結国であり,わが国とは地理的 にも遠くメリットは少ないと考えられる。

その一方,CSCも現在締結をしている国は,アルゼンチン,モロッコ,

ルーマニア,アメリカと地理的には遠い国が多いが,今後わが国に加え,新 たに中国や韓国が加入することが想定され,そうすれば越境損害については 意味のあるものとなってくると思われる。また,この場合全体の拠出金額は 最大で2億ドル となり,拠出金額としては評価できる額となると思われ る。この

CSC

はパリ条約,改正ウィーン条約の締結国であることにかかわ りなく,すべての国に対して開かれている独立した条約 で,国内法制が 一般基本原則を満たしておれば認められるとしているので,わが国が加盟す

29) 前掲注28)佐藤大介

p88。

30) 原子力 損 害 の 補 完 的 補 償 に 関 す る 条 約(Convention on Supplementary

Compensation for Nuclear Damage

 

31) 事故発生国と被害者発生国が異なる原子力災害。

32) 文部科学省 原子力損害賠償制度の在り方に関する検討会(第1次報告書) 平成20年12月15日,pp32〜33。

33) 飯塚浩敏 第1章国際原子力責任法制,1,原子力責任条約概観 原子力 損害賠償に係る法的枠組研究班報告書 2007年3月,日本エネルギー法研究所,

pp13〜14。

(18)

る場合は一番現実的であるとされている。なお,CSCの原子力損害の定義 とわが国の原賠法の定義の不一致 については,今後整理する必要があろう。

除斥期間 補完基金 (拠出金)

適用範囲 締 約 国

・死亡又は身体の障害は,原 子力事故の日から10年(改正 パリ条約では30年に延長)

・その他の損害は,原子力事 故の日から10年

・1.25億SDR(約187.5億 円)【ブラッセル補足条約】

・1,500万SDR(約22.5億 円)【パリ条約】

・1.75億SDR(約262.5億 円)【ブラッセル補足条約】

・7億ユーロ(約750億円)

【改正パリ条約(未発効)】

・戦 闘 行 為,敵 対 行 為,内 戦・反乱

・異常に巨大な天災地変(改 正パリ条約では,この事由は 削除)

・事業者へ責任集中

・ただし,国内法により一定 の条件の下で輸送業者が賠償 責任を負うことも規定できる。

・無過失責任

・締約国の領域内で生じた原 子力損害に適用(国際輸送中 のものも含む)

・非締約国の領域内で生じた 原子力損害には不適用

・ 仏,独,伊,英 等OECD 加盟国を中心に15カ国(パリ 条約)

・ 仏,独,伊,英 等OECD 加盟国を中心に12カ国【ブラ ッセル補足条約】

・死亡又は身体の障害は,

原子力事故の日から30年

・その他の損害は,原子力 事故の日から10年

・3億SDR(約450億円)

・戦闘行為,敵対行為,内 戦・反乱

・事業者へ責任集中

・ただし,国内法により一 定の条件の下で輸送業者が 賠償責任を負うことも規定 できる。

・無過失責任

・締約国の領域内で生じた 原子力損害に適用(国際輸 送中のものも含む)

・非締約国の領域内で生じ た原子力損害にも適用

・アルゼンチン,ベラルー シ,カザフスタン,ラトビ ア,モンテネグロ,モロッ コ,ポーランド,ルーマニ ア,サウジアラビアの9カ

・原子力事故の日から10年

(賠償措置・国の補償が10年 より長い期間あれば,その 期間でも可)

・大規模な原子力損害が発 生 し た 場 合,3 億SDR

(又は締約国がIAEAに登 録したそれ以上の額)を越 える部分には,全締約国の 拠出による補完基金が準備 される。

・3億SDR(約450億円)

・戦闘行為,敵対行為,内 戦・反乱

・異常に巨大な天災地変

・事業者へ責任集中

・ただし,国内法により一 定の条件の下で輸送業者が 賠償責任を負うことも規定 できる。

・無過失責任

・締約国の領域内で生じた 原子力損害に適用(国際輸 送中のものも含む)

・非締約国の領域内で生じ た原子力損害には不適用

・アルゼンチン,モロッコ,

ルーマニア,アメリカの4 カ国

※発効要件:5カ国以上の 締約国の原子炉の熱出力の 合計が4億 以上。

責任限度額 (賠償措置額)

免責事由 責任集中 責任の性質

CSC

【1997年採択,未発効】

改正ウイーン条約

【1997年採択,2003年発効】

パリ条約

【1960年採択,1968年発効】

ブラッセル補足条約

【1963年採択,1974年発効】

円換算は平成23年10月28日時点の為替レートによる。

(平成23年11月15日,第45回原子力委員会資料より抜粋して作成)

表2 原子力損害賠償に関する国際条約

34) 前掲,文部科学省 原子力損害賠償制度の在り方に関する検討会(第1次報 告書) 平成20年12月15日,pp32〜33。

被害者救済に関する原子力損害賠償責任保険の課題

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近隣諸国も原子力発電を強化すると聞いているところから,越境損害のた めにも

CSC

の加入を推進していくべきと考えている。

5.終わりに

東京電力は2011年4月17日に 事故の収束に向けた道筋 を公表している。

この中で,原子炉と使用済燃料プールの安定的冷却状態を確立し,放射性物 質の放出を抑制することを通じ,避難住民の方々の帰宅の実現を取り組むこ ととし,ステップ1(放射線量が着実に減少)を3ヵ月程度,ステップ2

(放射線量の放出が管理され,放射線量が大幅に減少)を3〜6ヵ月程度,

で達成する目標を設定していたが,2011年12月16日に達成が確認されてい る 。しかしながら,完全に安定的な状況になるためには道が遠い感がする ことは否めない。

チェルノブイリ原子力発電所の大惨事(1986年)は,ゴルバチョフによる と 途方もない重さでわれわれが始めた改革(ペレストロイカ)にはね返り 文字通り国を軌道からはじき出してしまったのである 。 とソビエト連邦 の崩壊(1991年)にも影響を与える大きな出来事だったと述懐している。わ が国も早く放射線量を安定化させると同時に,損害賠償の解決を迅速に処理 していかなければ国の存亡にもつながることとなってしまうだろう。

ウルリッヒ・ベックは 地震が起こる地域に原発を建設するのは,自然現 象ではなく政治的決断であって,決断として経営者と政府によって正当化さ れているはずである と述べている。これから考えれば,原子力事業者は 原子力損害について損害賠償が可能でなければならないし,万一損害賠償が 不能となれば,当然に政府は原子力事業者に対し相応の援助をしなければな らないということになるだろう。

35) 東京電力・原子力損害賠償支援機構 総合特別事業計画 2012年4月27日。

36) ミハイル・ゴルバチョフ ゴルバチョフ回想録上巻 工藤精一郎・鈴木康雄 訳,新潮社,1996年1月,p377。

37) 福島,あるいは世界リスク社会における日本の未来 鈴木宗徳訳,世界,

2011年7月,p70。

(20)

これからも原子力損害に関し保険制度も利用した,よりよい被害者救済策 の検討について一層研究を進めたいと考えている。

(筆者は尚絅大学学長兼文化言語学部教授) 被害者救済に関する原子力損害賠償責任保険の課題

参照

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