長野工業高等専門学校紀要第36号(2002) 125
常時微動から推定される伝統的木造建築物の振動特性
― 真 楽 寺 三 重 塔 修 理 前 後 の 特 性 比 較 ―
服部秀人 小林清 菊地敏男 荏本孝久 和田勝
吉澤政己 大沼万孫 奥田暁 岩楯敞広 島坦
Vibration Characteristics of Traditional Wooden Three‑storied Pagoda Estimated from Microtremors
Hideto HATTORI Kiyoshi KOBAYASHI Toshio KIKUTI Takahisa ENOMOTO
Masaru WADA Masami YOSHIZAWA Kazuhiko OONUMA
Satoshi OKUDA Takahiro IWATATE Hiromu SHIMA
Inordertoclarifythevibrationcharacteristicsofthetraditionalwoodenpagodawith three‑storiedofShinraku‑jitemple,themicrotremorsandthevibrationtestsI)yman
‑poweredexcitationswerecarriedoutbeforeandafterrepairs.
Frommicr‑otremOrS,threepredominantfrequenciesandmodeswereobtained,asl.5Hz,2.3Hz and3.7Hz,respectively. Fromvibrationtests,thedampingcoefficientoflらtmode frequencyofthepagodawasobtainedasabout0.03.
Conparingthevibrationcharacteristicsofthepagodabeforeandafterrepairs,thenatural periodwasslightlyincreased(7%).
辛一ワ‑ ド:三重塔,常時微動,振動特性,伝統的木造建築物
1.は じめに
我が国の伝統的木造建築物は比較的地震に強いと いわれている.筆者 らはこれ まで,善光寺地震(1847) におけるお寺の被害をもとに,お寺本堂の振動特性 や本堂の被害と地震動強度について調べてきた1)2)
それら一連の研究を通 して,確かに木造のお寺の古 い本堂は強震動に対 して強いとの印象を抱いている.
五重塔については,山辺 ・金井(1988)が耐震性につ
I2001年土木 学会第56回年次学術講演会 で一部発表
暮1環境都 市工学科教授 I2環境都 市工学科技官 Ia大林 組技術研 究所 日神奈川大 学工学部 IS信濃伝統建築研 究所 16信 濃建築 史研 究室
I7トランスコスモス 暮8東 京都立大 学工学部
暮9信 州大 学名誉教授
原稿 受付 2002年5月17日
いて考察 してお り,五重塔が地震で倒壊 したという 資料が無いことや,関東地震(1923,M=7.9)の際, 下町の多 くの木造家屋が倒頓 したにもかかわらず浅 草寺の五重塔には被害がな く,今でも語 り草になっ ていると述べている3).また,内田ら(1996)が法隆 寺五重塔について微動観測を行っている4).ここに 述べる真楽寺三重塔は長野県御代田町の有形文化財 で,2000年に修理工事が行われた.その際,修理の 前と後 に常時微動測定 と人力加振による共振実験を 行い,三重塔の振動特性を調べた.以下に振動測定
とその結果について報告する.
2.真楽寺三 重塔 および修理 の概 要 2‑1.真楽寺三重塔
126 月艮部 ・小林 ・菊地 ・荏本 ・和 田 ・吉浮 ・大沼 ・奥田 ・岩楯 ・島
其楽寺は浅間山麓にある真言宗の古寺で,山号を 浅間山と称 し,浅間山鏡静の寺とされている.1万 余坪の境内に本堂,庫裏,香院,三重塔,仁王門, 観音堂などがある.三重塔は観音堂の東に南を正面
として立っている.建築年代は,露盤銘に寛延4年 (1751)と有 り,18世紀 中期 と推定 されている.塔の 叔模は,高 さが相輪を含めて約 22.6m,初重の1辺 が12.5尺(3.787m)の計画寸法で,三重塔 としては 中規模である.各重の逓減率は少なく,縁 (えん)が 高く屋根の勾配 も急で,江戸時代の三重塔の特徴を 有 している.
2‑ 2 位理の概要
一今回 (2000‑2001年)の修理は1961年に行われ て以来のものである.その概要を以下に記す.一重 (いち じゆ う)の外回 りについて,縁の下部の石を据 え直 し,縁の板 を張 り直 した.外周に雨落溝 (あま おちみぞ)と,地面から縁‑の石の階段を設置 した.
,二,三重の屋根 を銅板で葺き替えた.屋根の葺 き替えに先立ち,裏 甲(うらこ う)と軒付 (のきづけ) を外‑移動 して屋根の鞄郭を広げ,元来の大きさに 屋根 を復元 した.三重の屋根の野地板 (の じいた)杏 取 り替えた.相輪 (そ うりん)下部の露盤 (ろばん)が 割れて心撞 くしんば しら)に水が入 り,心柱を支える 盤木 (ぽんぎ)の一部が腐 っていたので補修 し,露 盤 も修理 した.露盤 を支える左義長柱 くさぎちょう ば しら)を修理 し,その内1本 を取 り替 えた.相輪 に修理 と塗装を施 した.
3.振動測定
三重塔の固有振動数 と振動モー ドを推定するため に,常時微動の速度波形を約30分間測定 した.ま た,減衰定数を推定す るために人力加坂を行い,減 衰 自由振動の速度波形を収録 した.常時微動のスペ ク トルから1次卓越振動数が1.5H2;であることが確 認 された.メ トロノームを1.5Hzにセ ッ トし,その
リズムに合わせて人力加坂を行った.
3‑ 1 捗理Wr後における振動計の配置
修理前の軌定は2000年7月5),修理後は2001年 7月に実施 した.修理後の速度計配置を図1に示す.
速度計は各々のF(階)ごとに水平2成分(HS,HE)上下 2成分 (北側に VN,西側に VV)を配置 した.また,修 理後では,心柱(P)の上部(U)に水平2成分,低部(L) に同 じく水平2成分の振動計を配置 し,塔の本体 と 心柱が互いにどのように振動 しているか調べること に した.心柱の測定は修理後にのみ実施 した.
Gl
図1 修理後の速度計配置
(OBSもu!P)unL198dsJO!JnoL 8680「いいHL(OaSもu!
P )
uJnJ19adsJ○!Jn
oL 4人b‑8021(9aSもu!P)uJnJ1OBdsLO!JnOL1 10Hz 4FHS
‑ 哩節 lltl■tIJーllt
‑ ニ 修 理 郵 ‑‑‑‑‑
117
‑L●1▲■‑●I.̲ー ●l■■.■
l
‑ L ▲ ▲ 1 ● ー ●
̲+.J.JNSrlI ●1■r■▼一lーT1‑l lf ド ■一一一1「l
◆ 1‑ー.‑‑‑‑IJ.捕▲▲▲一⊥l̲t J‑‑ ;̲ Jし■‑▲ L‑1J̲Hiし⊥‑JJHJJ‑JJ:
◆一一一‑11●■
●ー●ー̲J●̲ー
̲‑̲一̲一‑一JJ■●‑‑̲̲‑Jふ一:‑HL41日J‑■ ー▲7I‑̲̲一.‑TしL‑■ー
1 10Hz
函2 フー リエスペ ク トル
常時微動か ら推定 される伝統的木造建築物の振動特性
4.測定結果 と考察
4‑ 1 卓越捷動数
図2に修理前後の常時微動波形のフー リエスペク トルを示す.4階 (4F)の正面一兵行き方向く4FHS) において,低次か ら順に1.46(1.46)H2;,2.25(2.25) H乞,3.81(3.71)肋 に3つの卓越授動数が存在する.
()内は修理後の数値 である.左右方向(4FHE)で は 1.46 (1.46)H2:, (1.86Hz),2.05 (2.25)H之, 3.71(3.61)Hzとなっている.修理後における4FHE の2番 目の卓越振動数 1.86H2:は,心柱上部 (PU) の卓越振動数 (I.86HB)と一致 している.これら2 Hz付近の卓越債は心柱の固有振動と関連 したもので あろ うと思われ る.上記の卓越振動数 (1.46(1.46) H石,2.25 (2.25)H乞,3.81 (3.71)Hz)は三重塔の 固有振動数 と対応 した借 と考えられる.これ ら3つ の卓越振動数を‑1次,2次,3次 と呼ぶことにする.
この度の修理によって剛性 ・質丑 ともに少 し増大 し たと考えられ るが,微動による1次 と2次の卓越振 動数には修理の前後における差異が見 られず,わず かなが ら3次の固有凍動数が 3%ほど小 さくなって いる.
4i‑2 鞍動モー ド
図3に修理前後の振動モー ドを示す.1‑ 3次の 卓越振動数について,各階 (2F, 3F, 4F)のI『
に対する各スペ ク トル比から倍率 と位相差 を読み取 り, lFの動きを1とした振動モー ドを示 したもの である.各振動モー ドは1次が片持ち構造の曲げ変 形的であ り, 2次がせん断変形的である.3次は片 持ち姿の2次モー ド的である.
4‑ 8 溝助モー ド
lFに対する心柱のスペク トル比から,心柱の振 動モー ドを調べてみたが,塔本体 と同位相で振動 し てお り,逆位相による免振性は見 られなかった.
4‑ 4 減衰定数
人力加嬢による共振実験で測定 された自由振動波 形を図4に示す.これ らの波形か ら対数減衰率と減 衰固有振動数を読み取 り,減衰定数 を求めた結果, 減衰定数はおおよそ 0.03であった.修理前後にお ける減衰定数はほとんど同程度の借であった.1次 固有振動数は修理前で平均1.51Hz,修理後で1.40Hz
とな り7%ほど低下 している.
5.まとめ
本測定を実施 して,其楽寺三重塔について以下の
1.5Hz(NS,EW)
■■t■ ●●■.●
ヽ 一
It}
■ヽ ●■■●′′●一■■■■l■■′′∫′
▲
■i I
‑
127
ー5 0
5
倍 率 10 15 202
. 3 H z ( N S ,EW)
∫
■■‑
●ヽ I
■■‑∫ ●∫′■■′′′′ i
■
′′.ノー‑5 0 5倍率10 15 20
.
3.7Hz(NS,EW)一▲ヽ ヽ‑‑ヽー ヽ■一ヽ I一一 i■ i ‑
1 .V
‑5 0 5倍率10 15 20
‑ ‑‑修理 N6‑ ‑‑修理後NS
包 3 三重塔の振動モー ド
ような貴重な知見が得 られた.
①1次,2次,3次の卓越振動数はそれぞれ1.5Hz, 2.3Hz,3.7Hz付近の借である.
②振動モー ドは1次が片持ち構造の曲げ変形的で
128
600
.300 :亡⊇ 0
もoo
‑600
600
0300 1=
' i‑3000
‑600 600
o300
j o
≡‑300
‑600
・600 0300 j o
≡‑300
‑600
服部 ・小林 ・菊地 ・荏本 ・和田・富津 ・大沼 ・奥田・岩楯 ・島
l l l I
ll ll r ll llIIIl ll 3l l 山FVl 直前修I I I l I l J
0 10 soo 20 30
I
I I「lー ll l
0 10 scc 20 30
l 一 l
l ll l l t. ; 3lFVWl捗理前l
l「 l
l l ll
l ll 一 l
0 10 sec 20 30
I Il ‑1 3FVW修理後
l l
丁l l 「Ilー l「ーl l l
0 10 soc 20 30
図4 減衰自由振動
あ り, 2次がせん断変形的である.3次モー ドは片 持ち梁の2次モー ド的である.
③修理後の固有振動数がわずかに低下 した.
④100‑200皿kine程度の自由振動における減衰定数 は0.03程度である.
心柱の挙動については,今後,免振性 について解 析的な考察 を加 えたい と考えてい る.
謝辞
貴重な文化財の振動測定 をお許 しいただいた真楽 寺 ご住職向井深道師は じめ総代の皆様な らびに御代 田町教育委員会 に心 よ り御礼 申 し上 げます.
参 考 文 献
1)服部秀人 : 「善光寺地震 (1847)におけるお寺 の被害 と地盤 ・本堂の振動特性」 ,地盤工学会 中 部支部 信州地域地盤研究会第1回信州ジオテ ク セ ミナー, pp5‑1Ⅰ(2000.1)
2)服部秀人,小林清 他 : 「善光寺地震 (1847)に おけるお寺の被害‑ 山崩れによる本堂の倒壊 と 地震動強度‑ 」,第 17回歴史地責研究発表会 講演要 旨集,pp53‑54(2000.9)
3)山辺克好,金井清 : 「五重塔の耐震性 に関す る研 究」, 日本大学生産工学部報告,第 21巻 ,第 2 号,pp91‑110(1988.2)
4)内田昭人 「常時微動測定 による古建築の構造安定 性 に関する研究」平成6年度〜平成8年度科学研 究費補助金(基盤研究B)研究成果報告書,(1997.
4)
5)服部秀人,小林清 他 :「伝統的木造建築物(三重 塔 )の振動特性‑ 真楽寺三重塔の修理前 におけ る微動観測‑ 」土木学会第 56回年次学術講演 会講演概要集, Ⅰ‑AO74,(2001.10)