• 検索結果がありません。

ジェロントロジーにおける地域金融機関の役割

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ジェロントロジーにおける地域金融機関の役割"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

ジェロントロジーにおける地域金融機関の役割

The role of regional financial institutions in gerontology

長 島   剛 *

Tsuyoshi NAGASHIMA

要旨 : 第一次ベビーブームによる「団塊の世代」が 65 歳以上になった 2015 年、

日本の高齢者人口は 3,387 万人となった。その後も高齢化率は上昇を続け、団塊 の世代が 75 歳以上の後期高齢者となる 2025 年には、高齢者人口は約 3,677 万人 に達すると予想されている(内閣府『令和元年版高齢社会白書』https://www8.

cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/zenbun/index.html)。超高齢社会の 就労や経済活動における課題解決に、地域金融機関はいかに取り組むべきであろ うか。本稿では地域金融機関の取り組みや現状を足がかりに、高齢社会において 地域金融機関が担うべき役割とアプローチの仕方を紐解く。

 昨今、地域金融機関の預金額は増加傾向にあるが、一方でシニア層に向けたサー ビスについてはあまり比重が置かれなくなっているという現状があり、コロナ禍 においてその状況に拍車がかかっている。地域金融機関の事業の比重は中小企業 への融資対応や課題解決に集中しているが、そうしている間にも日本の高齢化は 進行していく。高齢化の進行度合いには地域差が激しくあるが、生産年齢人口の 高い大都市郊外では、今後リタイアしたシニア層の人口増加が加速し、その対応 が社会的負担となり大きくのしかかってくるだろう。地域金融機関は顧客の高齢 化に対し、融資の利息収入だけではなく手数料収入などの新しいビジネスモデル を作り出す必要がある。これまでも行われてきた相続やシニア向け保険などもそ の例として挙げられるが、まだまだ軌道に乗っているとは言い難い。地域金融機 関にはシニア層への煩雑な対応をいかに効率的に行うかという課題が目下として あり、現状の改善に注力せざるを得ないというのが現場の実情だ。そこで視点を 変えて、中小企業を軸にして地域金融機関のシニアビジネスを考えるのが効果的 ではないか。そこには人材確保や技術継承、また、事業承継という課題解決の切 り口がある。すでに一部の中小企業では、シニアの技術や知識の活用を重要視し た人材登用の実践事例も見られる。また、社会貢献という側面からも、地域のシ ニア層の再戦力化は意義深いといえるだろう。

Keywords:gerontology, regional financial institutions, super-ageing society, suburb, pension, financial inclusion, SME, M&A

* 多摩大学経営情報学部 School of Management and Information Sciences, Tama University

(2)

1.はじめに

1.1 金融機関の預金業務

1.1.1 地域金融機関を支える年金振込

 金融機関には、顧客のお金を預かる「預金業務」と、預かったお金を貸し出す「貸付業務」

という基本的な業務がある。一般の個人や企業から預金を集めるという預金業務は、金融機関 の特徴的な機能といえる。金融機関は貸付業務などの資金調達を預金業務で行っており、預金 という原資がなければ貸付ができない。金融機関にとって最も重要といえる預金業務の柱とな るものが、定期的に行われる給与振込や年金振込である。メガバンクでは取引企業の給与振込 がメインとなるが、企業の給与振込を獲得しにくい地域金融機関においては、第 2 の給与振込 ともいわれる年金振込が預金業務を支えている。そこには、地域のシニア層から預かったお金 を地域の企業に貸付するというビジネスモデルが成り立っているのである。

1.1.2 年金振込顧客獲得

 多摩信用金庫(東京都立川市)は 1990 年頃より年金顧客獲得に力を入れ始め、2020 年 2 月 の年金振込は 232,572 件と、全国の信用金庫のトップクラスに位置する実績をもつ。これは多 摩エリアという都心に近接する地域性が大いに関係しており、多摩エリアをベッドタウンに都 心に通勤していた多くのサラリーマン層が、定年後は生活圏である地域に留まることが要因の 一つとして挙げられる。都心に頻繁に出かけることもなくなり、地域によってはメガバンクよ りも支店が多く利用しやすい地域金融機関を選ぶのは理に適ったことだ。同様に、サラリーマ ン層が多いということは厚生年金比率が高いということでもあり、国民年金よりも金額の高い 厚生年金の顧客を多く獲得できるということである。農業を含む自営業層の多い地域に比べる と、年金口座獲得の一件あたりのコストパフォーマンスには大きく差が出ているだろう。

 地域金融機関にとって年金振込は原資の大幹である。多摩信用金庫に限らず全国の地域金融 機関は従来様々なサービスを提供し、年金受給者の獲得競争を繰り広げてきた。58 歳以上の 年金受給予備軍の年金相談や手続き代行などによる囲い込み、年金口座顧客への地場野菜、生 活雑貨などの景品贈呈、一部費用負担による年金旅行など、それぞれに付加価値をつけて顧客 の獲得にあたっている。全国の年金支給日である偶数月の 15 日は、地域金融機関の窓口では 景品受け渡しの光景が見られ、日程を合わせてキャンペーンを行う商店街などもあるほどだ。

 こうして預金業務の柱となる年金顧客を獲得、維持してきた地域金融機関であるが、ここへ きて年金受給者向けサービスを見直す動きが広がっている。贈呈品の廃止や年金旅行の参加費 値上げや回数削減などの事例が見られ、その背景には地域金融機関側の負担軽減や顧客のニー ズの変化がうかがえる。さらにいえば、都市型の地域金融機関の中には、中小企業支援に重き を置き人材配置をしているため、年金顧客獲得部門を縮小しているところもあるのではないだ ろうか。

1.2 金融ジェロントロジー

1.2.1 金融ジェロントロジーと地域金融機関

 世界中全ての人が通常の金融サービスを利用できるようにする「金融包摂」という概念があ るが、高齢化や貧困、差別などの課題解決をすべく 2000 年頃より国際的に取り組みが始まっ

(3)

ている。特に高齢化の問題は日本だけではなく今や世界的に広がっており、金融ジェロントロ ジーはその課題解決に向けたアプローチの一つである。加齢による様々な課題を、医学や心理 学、経済学など学問領域を越えて多面的に扱い研究するジェロントロジーにおいて、認知能力 や身体能力の変化などが経済活動に与える影響を研究するのが金融ジェロントロジーの領域 だ。地域金融機関ではシニアビジネスに取り組むにあたり、金融ジェロントロジーの概念を理 解し、知識や情報を持ったうえでシニア顧客に対応することが必要だ。一般社団法人日本金融 ジェロントロジー協会では、「『金融ジェロントロジー』の知識を普及させ、社会全体の利益に 貢献していく」とし、金融機関向けの研修やよりよい金融サービス、制度実施に向けたディス カッションなどを行っている。

 2020 年 8 月に同協会に入会した七十七銀行(宮城県仙台市)では「シニアサービス・サポー ト検討委員会」を設置し、1 人暮らしの高齢者の見守りや空き家対策に外部と連携して対応し ていくとしている。また全国で最も高齢化率が高いとされる秋田県の秋田銀行(秋田県秋田市)

でも、同協会への入会をはじめ「あきぎん長活き学校」を開校するなど、地域の健康増進への 貢献に努めている。さらに常陽銀行(茨城県水戸市)では、高齢者施設への入居や入院時の身 元保証や、認知症などにより判断能力が低下した際の任意後見に対応するなど、シニア顧客に 対するフォロー強化に取り組んでいる。こうした取り組みは金融ジェロントロジーにおける先 進事例といえ、次第に都市近郊でも進んでいくであろうが、社会貢献的要素が強いという側面 は否めない。

1.2.2 「知の再武装」ジェロントロジー研究協議会

 ジェロントロジーに関わる体系的研究会であるジェロントロジー研究協議会は、「ジェロン トロジー=高齢化社会工学」の考え方に基づき、高齢者の社会参画に向けた多様なプラット フォームづくりと、法制度などを含めた新たな社会システムの構築を基幹テーマとして研究を 実施している。2020 年 8 月 31 日に開催された「第 6 回ジェロントロジー研究協議会」では、

高齢者が「社会に支えられる側」でなく「社会を支える側」として、健康かつ主体的に参画で きる社会に向けた 2 年間の研究フェーズの総括が行われた。

 同研究協議会では宗教・こころ、医療・健康、美容、金融、農業、観光という 6 つの分野か ら、高齢者だけでなく若者も含めた全世代を視野に入れた講義や研修プログラムを開発。また 都市郊外型の高齢化を課題として掲げ、多摩ニュータウンをはじめとする東京都の郊外や埼玉 県、千葉県など国道 16 号線沿いにフォーカスした調査研究を行なってきた。それらの地域で は高度経済成長期に流入してきたサラリーマン世帯が人口の柱となっている背景があり、2020 年現在、後期高齢者世帯が激増している。産業別に見ると 1950 年には 50% 近くあった一次産 業の就業者人口が 2017 年にはわずか 3.4% にまで縮小し、70% 以上が三次産業就業者となっ ている。企業をリタイア後、地域に戻ったサラリーマン層がその後の時間をいかに使うべきか が社会問題となってきており、100 歳人生に堪える「知の再武装」の必要性が叫ばれている。

さらにはコロナ禍を踏まえ、オンライン講座と対面演習を組み合わせた「ハイブリッド型」教 育プログラムや、「第 2 層」と位置付けられた 30 ~ 40 歳の現役世代に向けたジェロントロジー 教育プログラムの開発も検討されている。

(4)

2.地域金融機関とシニア

2.1 シニアジビネスの現状

2.1.1 金融ニーズの多様化とデメリット

 金融機関に対する多様化したニーズの 1 つに、老後の医療費や介護費などとしての資産形成 が挙げられる。平均寿命の高まりとともにこうした資産運用のための金融サービスへのニーズ が増え、認知能力や判断能力の衰えたシニアの資産管理に対する課題解決なども求められてい る。また、相続に関するサービス提供や、詐欺などの犯罪被害防止の役割も期待されている。

 高齢者が多く集まるという地域特性をもつ東京都豊島区の巣鴨信用金庫では、とげぬき地蔵 尊の縁日の日に本店ホールを休憩所『おもてなし処』として一般開放したり、無料の『お楽し み演芸会』の公演を企画したりと、積極的にシニアサービスを行っている。『おもてなし処』

では地元企業のお菓子やお茶を配布し、交通安全や振込詐欺撲滅を PR するなど、地元密着型 の地域金融機関として地域貢献に徹底し、毎月 3,000 人以上もの来場があるという。

 このように金融機関におけるシニアサービス需要は高まっているが、一方でシニア顧客の増 加は、店舗のバリアフリー化や面談時間の長期化による高コスト化、金融商品販売に際しての 制約発生などの課題も生み出しており、シニアサービス全体が金融機関のコストセンターとし て位置付けられている。

2.1.2 事業分類で見出す中核事業としてのシニアビジネス

 地域金融機関ではシニアサービスにおける業務のコストパフォーマンスの悪さが課題となっ ているが、シニア顧客は今後ますます増えるはずであり、シニアビジネスを中核業務としてい かに収益化するのかは考えていかなくてはならない。高橋(2020)は、「3 つの仕分け」が有 効であろうと考える。まずは金融機関としてできることとできないことを見極める。医療や社 会福祉などについては医療機関や行政機関との連携が必要であろう。そのほか、金融機関が「で きない」領域については専門家に委託するなどが考えられる。

 2 つ目が、提供している商品やサービスが、直接的には利益を生まないコストセンターなの か、利益を生み出すプロフィットセンターなのかという仕分けだ。地元密着型の地域金融機関 では公益性の高い事業を多数行っている可能性が高い。それは地域金融機関にとって大事な事 業であることはもちろんだが、それ以前に民間企業として収益は欠かせない。そのためには個々 の商品やサービスを仕分けし、プロフィットセンターを増やしていかなければならない。

 そして 3 つ目の仕分けとして、事業を収益事業と公益事業に分類するということが挙げられ ている。前述のとおり、現状の地域金融機関にはシニアマーケット全体をコストセンターであ る公益事業とし、収益事業として捉えていないという傾向がある。しかし本来、シニア層向け の資産運用などは、プロフィットセンターであり収益事業として成り立つはずのものである。

ここではまず収益事業と公益事業を分類することが重要である。この時、ターゲットを明確に するということが必要になってくる。同書ではシニアビジネスを広域的に捉え 40 代から 75 歳 までをプレシニアとし、プレシニアは収益事業になり得る層であり、75 歳以上を公益事業と 位置付けマーケティングをすべきと説いている。40 代以降というのは自身のリタイアや老後 を視野に入れ始めると同時に、親の介護を担っていたり公益事業とした 75 歳以上の顧客の資

(5)

産を管理しているケースもある。少なくとも現状ではシニアビジネスというと 75 歳以上に焦 点を当てているところを、ターゲット層を区分するだけでも収益事業を伸ばす可能性が見えて くるだろう。

2.1.3 地域の中の橋渡し役である地域金融機関

 具体的に地域金融機関で課題となっている顧客対応に認知症患者への対応が挙げられる。

2012 年に高齢者の約 7 人に 1 人とされていた認知症患者は 2025 年には約 5 人に 1 人になると 推計され、より一層シニア対応に困難が生じることが予想される。認知・判断能力に問題のあ る顧客対応により窓口業務全体が非効率的になるということなども、シニアビジネス全体がコ ストセンターとみなされる一因である。対策としてはシニア層対応に特化した窓口を作るなど も考えられるが、先に述べたとおり、シニアビジネス自体をコストセンターと捉えてしまうの は、事業内容の仕分けができていないが故でもある。シニア対応においては、金融機関のでき ることとできないことを見極めるということが重要だ。できないことについては市民のセーフ ティーネットである行政などと連携し、地域金融機関の役割を見直すべきである。

 厚生労働省が推進する地域包括ケアシステムとは住まい、医療、介護、予防、生活支援が一 体的に提供される地域の仕組みである。地域金融機関は窓口業務などを通じて支援を必要とす る高齢者を把握し、地域の包括ケアシステムを紹介したり、行政に高齢者情報を提供すること ができる。すなわち、地域包括ケアシステムの入り口機能として働くことができるのだ。ここ での金融機関の役割はあくまでもパイプ役であり、その先の専門機関に橋渡しをすることだ。

これこそ、地域金融機関がコストセンターとしてすべきシニアサービスの一環であり、地域金 融機関だからこそできることである。

2.2 シニア向けの商品、サービス

2.2.1 認知症施策推進大綱とコロナ禍による課題

 2019 年に厚生労働省がとりまとめた「認知症施策推進大綱」では、認知症になっても住み 慣れた地域で日常生活を続けられる社会を目指した、「共生」と「予防」を両輪とする施策の 方針が発表された。この基本的考え方に基づいて 5 つのカテゴリーで施策を推進していくこと になるが、そのうち「認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援」

に、認知症バリアフリーな金融商品やサービスの開発などを促す金融関連事項が含まれる。後 見制度支援預金の導入やリバースモーゲージの普及などがそれにあたり、それぞれの地域の実 情に応じた「地域共生社会」に向けての産学官民連携の支援策についても検討されている。

 一方でコロナ禍を受け、金融機関の対面営業は大幅に縮小されたが、その対象には感染症の 重症化リスクの高いシニア層も当然含まれている。オンライン面談などのデジタル化には、ス ムーズに対応できる企業などに比べ、端末の入手や接続設定など高齢者にはより一層のサポー トが必要となる。また、対面だからこそ把握できていた高齢者の生活面や健康面での変化など も、オンライン上でのコミュニケーションのみでは掴みきれなくなるだろう。2020 年 7 月頃 からはタブレット端末やウェブ会議システムを利用した相続相談をスタートさせる金融機関も 現れ、需要は今後も伸びると予想される。特に地域金融機関はセキュリティの観点から、外部 との接続ができる端末が少ないなどの現状があり、早急に諸々の対応策を講じながら体勢を整 えていかなければならない。

(6)

3.中小企業支援とシニア

3.1 中小企業支援

3.1.1 中小企業支援の延長線上にあるシニアビジネス

 地域金融機関の業務全体を見たときに、シニアビジネスをいかに中核業務としていくか。金 融機関は現状コストセンターとされているシニア対応の効率化に取り組むと同時に、中小企業 を軸にシニアビジネスを考えることが突破口となるだろう。そこには人材確保、マッチング、

事業承継という、金融機関が能動的に関われるであろう切り口が多数ある。大都市郊外地域に は、ニッチ分野で活躍する中小企業が多数存在する。その中には防災や暮らしの安全、安心に 関わる企業など、地域のニーズや課題から生まれてきたものも多い。地域金融機関はそういっ た中小企業を継続的に支援し、地域の中の 100 年企業にしていくことがまず重要である。また、

定年制度のない会社を応援することや、定年退職後のシニアが地域の中小企業と出会えるよう な職のプラットフォームを作ることも、地域金融機関としては取り組む余地があると思われる。

 

3.2 大手企業 OB と中小企業のマッチング 3.2.1 マッチングの仕組みづくり

 各地の信用金庫が開催する「新現役交流会」は、大手企業の OB など専門知識や豊富な実務 経験を有する人材である「新現役」と、信用金庫の取引先企業とのマッチングを目的としている。

2020 年 6 月に開催された亀有信用金庫(東京都葛飾区)のウェブでの個別面談会には、企業 40 社に対し 56 名の新現役の参加があった。また、東京都八王子市では 2001 年に市と商工会 議所、多摩信用金庫が連携し「サイバーシルクロード八王子」を発足。大手企業 OB などが地 元中小企業の技術や経営を支援する「ビジネスお助け隊」を組織し、経営相談や創業セミナー、

リーダー育成塾の運営などを続けてきた。2019 年には中小企業から 65 件の相談があり、ビジ ネスお助け隊が無償で経営相談を引き受けている。ビジネスお助け隊には公認会計士、社会保 険労務士、弁護士などの専門家も多数在籍しており、有償契約や顧問契約につながるケースも ある。自治体や商工団体と地域金融機関との連携は注目すべき点であり、地元密着型である地 域金融機関はそれらの機関といかに連携をとれるかが、この先のシニアビジネスにおいてのポ イントとなるだろう。

 そのほかにも静清信用金庫(静岡県静岡市)は静岡ガス子会社と提携協定を結び、リタイア 後も働く意欲のあるシニアと人材不足に悩む中小企業とのマッチングを推進。マイナビやパソ ナ顧問ネットワークなど人材サービスの大手企業でも、ベテランやシニア人材を顧問として企 業に紹介するサービスを実施するなど、事例は増え続けている。こうした経験と実績を持った 大手企業 OB と地元企業とのマッチングは今後も盛んになっていくことが予想され、ジェロン トロジーという視点から見ても非常に重要な流れであると考える。

 一方で旭化成やパナソニックなど大手企業からは、シニア社員が出向や研修というかたちで 地方の中小企業に赴任するという事例が出てきている。新現役予備軍ともいえる経験や専門性 を兼ね備えたシニアと、大企業での長年のキャリアをもった人材を獲得したい地方企業との マッチングである。これは定年後のセカンドキャリアを視野に入れたシニア社員にとっても、

受け入れる中小企業にとっても、次なるステージへのお試し期間となり、将来的な発展が期待 される制度だ。こういった社会の仕組みづくりに、地域金融機関は大いに貢献できるだろう。

(7)

3.2.2 大手企業の事業部を M & A

 2019 年、多摩市のニッチトップ企業である京西テクノスが、NEC 子会社の計測機器校正サー ビス事業を買収し話題となった。このケースでは NEC 子会社の従業員約 70 名が京西テクノ スに移籍している。また同社では医療機器などの修理・メンテナンス事業を軸としており、メー カーの生産やサポートが終了した機器なども多く扱っているため、かつての製造メーカーの経 験と実績をもったリタイア人材なども登用している。こうした中小企業が地域にあればあるほ ど、大企業 OB がリタイア後に地域に戻ってきた際にセカンドキャリアをスタートさせること が容易になる。

 顧客の多くが大手企業の下請けである浜松いわた信用金庫(静岡県浜松市)では、事業承継 の承継方法の決定から計画の立案、実行までを伴走支援している。また、業務提携している事 業引継ぎマッチングプラットフォーム「事業引継ぎ .net」を活用し、地域内での譲受側企業の 確保を強化するなど、中小企業の事業承継サポートに力を入れ全面的に取り組んでいる。リタ イア人材が急増している都市郊外地域では、地域での受け入れ先を増やすということが重要だ。

ここに地域金融機関がより積極的に関わり地域の中小企業を支援し、かつリタイア人材との橋 渡しをしていくというスキームを作っていくことが急務であると考える。

4.まとめ

 シニアビジネスは高齢者人口が増え続ける限り、その市場を拡大していく。その時に地域金 融機関がとるべき姿勢は、金融機関としての自分たちの仕事を見極めることである。そして中 小企業の課題解決という、従来の地域金融機関としての事業の文脈をもってシニアビジネスを 構築していけば、そこには収益事業として成り立つビジネスモデルが見えてくるだろう。現在 地域の中には長年企業で専門知識や技術、経験を培ったシニア層が増えている。その中にはま だまだ社会で活躍する意欲のあるシニアや地域社会に貢献したいと考えるシニアも多い。地域 の企業の仕事や地域の魅力を知る機会があれば、リタイア後のシニアの地域活動への参画も増 えるだろう。その入り口や橋渡しをする仕組みを作るのが地域金融機関の役割だ。

 前章までに挙げたいくつかの事例のように、大企業 OB と地域の中小企業の人材マッチング は大変理に適っているが、さらにそのスキームの確立とそこに何らかの補助制度を設けるなど は、短期的かつ即効性を図る仕組みとして有効であろう。そしてシニアの受け入れ先確保のた めに、地域金融機関はまずはその母体となる中小企業支援に今一度本腰を入れ直すべきではな いか。地域の中小企業の経営を盤石なものとし、シニア人材の受け入れ母体を増やしていくと いうことが都市郊外地域では特に重要であり、その支援はジェロントロジーにおける地域金融 機関の果たすべき役割であるはずだ。

(8)

参考文献

高橋克英「人生 100 年時代の銀行シニアビジネス事例」近代セールス社 (2020)

大和総研「地銀の次世代ビジネスモデル」日経 BP マーケティング(2020)

日本金融新聞(2020)「七十七銀行、頭取トップの委員会設置」2020 年 8 月 14 日号 6 面

日本金融新聞(2020)「秋田銀行、長活き県の実現へ、金融老年学にも取り組み」2020 年 7 月 31 日号 17 面 日本金融新聞(2020)「常陽銀行、高齢社会の対応強化、ブロックごとに専担者」2020 年 2 月 21 日号 7 面 日本金融新聞(2020)「亀有信金、新現役交流会開く、ウエブ面談も活用」2020 年 6 月 26 日号 8 面 日経産業新聞(2020)「企業に「プロ顧問」橋渡し」2020 年 4 月 10 日

日本経済新聞(2019)「シニア人材派遣で連携」2019 年 5 月 28 日 日本経済新聞(2018)「大企業シニア、地方に活路」2018 年 6 月 17 日 多摩信用金庫ホームページ https://www.tamashin.jp/

巣鴨信用金庫ホームページ https://www.sugamo.co.jp/

浜松いわた信用金庫ホームページ https://hamamatsu-iwata.jp/

参照

関連したドキュメント

「金融商晶のうち現金及び他の企業の持分金融商晶以外は,一方の契約当事

[r]

8月上旬から下旬へのより大きな二つの山を見 るととが出來たが,大体1日直心気温癬氏2一度

広域機関の広域系統整備委員会では、ノンファーム適用系統における空容量

のうちいずれかに加入している世帯の平均加入金額であるため、平均金額の低い機関の世帯加入金額にひ

入学願書✔票に記載のある金融機関の本・支店から振り込む場合は手数料は不要です。その他の金融機

 本資料は、宮城県に所在する税関官署で輸出通関又は輸入通関された貨物を、品目別・地域(国)別に、数量・金額等を集計して作成したもので

本資料は、宮城県に所在する税関官署で輸出通関又は輸入通関された貨物を、品目別・地域(国)別に、数量・金額等を集計して作成したもので