学位申請鍬
イヌの僧帽弁置換術に関する実験的研究
[ 要 旨 ]
1988
西 田 耕 一 郎
外科学第一講座
(主任 高 橋 貢 教授)
心臓内における各弁膜の機能は、単に血液の逆流を防牛するだけの ものではなく、心臓の収縮性にも大きく関与している.したがって
』その機能障害は、前負荷の増大のみならず、すべての心機能に直接的な 影響を与えるものと考えられ 驕D多くの心疾患のうち僧帽弁閉鎖不全症 (MI)は、ヒトおよびイヌの弁疾患としては最も発生頻度が高い疾患
であり、この意味から獣医臨床領域におし ても極めて重要時下占め ている。MIの治療は、従来より強心利尿薬を中心とした内科的療法が 行わ五ているが、弁膜の心機能に果たしている役割を考慮した場合、
このような内科的療法よりも、外科的に弁の機能を回復させる方法が㌧
より理論的な治療法であうと考えられる。医学領域においては、MIに 対する舜科的療法として弁そのものを修復する弁再建術および人工弁で 代償させる僧帽弁置換術(MVR)が行われている.一方、獣医学領域
.においては、MIの症例が多いにもかかわらずこのような外科的療法は 全く確立されておらず、ごく一部で大型犬に対して、ヒト用の人工弁を 応用して実験的にMVRが行われているに過.さない.しかしながら、
実際の臨床で多く認められるMIは小型犬がほとんどであることから 考えれ犀、小型犬に応用できるMVRの確立が強く望まれる.以上の背 景を.もとに、著者は、小型犬に対するMVRの確立を目的として、僧帽 弁の基本的形態を再検討すると≒もに、得られたデーターから
MVRに必要な人工弁を作製してその機能を確陣すると同時に、作製し
た同種人工弁を用いて実際にMVRを実施した結果・少時犬に可能な
血VRの方法を確立することができた。
1.イヌの正常僧帽弁の形態学的検索
イヌ用人工弁の開発、あるいは実際にMVRを実施する場倉に必要な イゴの僧帽弁に関する正常形態め把握を目的として、正常心に対して 形態学的な検索を実施した。この場合、実際のMIにおける僧帽弁の形 態学的特徴から、僧帽弁輪周囲長(闘Vaclと体重{B嚇の関係およびM I の車町病変を形成すると思われる腱索ならびに町回の形態について検討 を行った。その結果、MVacとBWには正の相関関係(r・0.76)が認めら れ、MVacはBWの増加にともない増加する傾向が認められた。しかしなが ら、MVac/BWとB珊は逆に負の相関〔r=一〇.83)が認められ、単位体重あた
りのWacは体重の増加にともない減少することが判明した。そこで、
114例のイヌを各体重群に分類し、MVacおよび弁二部の直径(MVad)
の平均値を算出した結果、体重ち〜10kgのイヌでは、 MVadはおおむね
15〜22m皿の範囲にあった.この成績は、実際に人工弁の移植を行う際に
必要な患畜の弁二部の直径を知るための指標となるとともに、人工弁作
製上の資料として有用であるものと考 えられた。腱索および弁尖の形態
学的観察では、イヌの僧帽弁の弁巧に付着する腱索の乳頭筋からの起始
数はヒトとi比較して少なく、前尖(中隔尖)で平均 2本、後尖(壁側
尖)で平均9本の腱索が起始していた.交連部の形態はかなり特徴的で
あったが、Lamら(1970》、 Ranganathanら(1970}の 闍̀に準じた場
合、前後の交連部でその定義を満たした例は12%、前交連部のみ満たし
た例45%、後三連部のみ満たした珂は5%に過ぎず玉イヌの交連部の形
態は画一的ではないことが判明した。また、交連部門索た注目した場
合、その主軸が前尖方向に転移している例が前回二部で51%、後交連三
で29%認められ、このような例では、本来の交連部が比較的細い腱索で 支持されていた。したぶってこの部位は、物理的な負荷に対して比較的 脆弱であることが推察され、実際のMIが交連部に多発することから考
えあわせた場合、興味深い所見であるど考えられた.以上の成績は、
イヌのMIが、形態学的にも交連部に限局する可能性があるとすれば、
外科手術としては弁の再建術よりもむし・ろMVRが有効であると推察さ
れた。
2.イヌ同種人工弁の作製ならびにin vitroにおける弁機能評価 MVRに必要な人工弁り作製を目的として、イヌの僧帽弁の形態学的 検索より得られたデーターに基づき、イヌ用同種人工弁の作製を試みる
とともに、その開閉機能をin vitroにおける実験で確認した。同種人 工弁作製の材料は、機能的な柔軟性および抗血栓性を重視し、イヌ大動 脈弁を用いた。大動脈弁は、4℃ハンクス液に約2時間浸漬し、さらに
40℃メタ過ヨウ素酸ナトリウ今溶液に24時間浸漬した.次いで
1%エチレングリコールで約1』 條ヤにわたりメタ過ヨウ素酸ナトリウム の中和を行ったのち、0.05%グルタールアルデヒドで1 週間以上固
定を行った。