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女性の高転職率の背景

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(1)

女性の高転職率の背景

石 田 好 江

The Background of the High Labor Mobility Rate of Women

Yoshie Ishida

はじめに

 転職という就業行動は,仕事のやりがい,適職についての考え方,労働条件や職場の人間関 係についての感じ方など個人の仕事についての価値観や意識と強く結びついている。しかし転 職希望と実際転職するかどうかとは必ずしも一致しない。例えばオイルショック以後の10年間 ほどをみると,それ以前より転職希望者は増加しているにもかかわらず,実際の転職した者の 比率は伸びておらず,むしろ減っている1)つまり,いくら転職希望があっても,それを実現す る良好な雇用機会が豊富になければ転職者は増加しないのであり,転職という就業行動は,大 枠では景気の変動や企業の雇用政策などの社会的,経済的な環境に制約されているのである。

そこで,ここでは転職を個人の価値観や意識の問題に解消させず,その背後にある環境の変化 に注目するという視点に立って,今日のとりわけ女性の転職について考えてみたい。

 さて,近年 第二新卒 という言葉が誕生するように,若年層の転職率が大幅に上昇してい

る。転職は一般的には景気の変動と強く結びついており,好景気で労働市場が逼迫すると上昇

する。その意味では近年の高転職率も1987年以後の景気拡大によるものであり,これまでの変

化と同じ延長上にあるものといえる。しかしその一方で,景気の変動による従来の短期的な動

きとは異なった新たな動きも見られはじめている。そこでまず,近年の高い転職率がどういう

意味をもつのか,高転職率の背景には何があるのかを,これまでの転職についての議論をふま

えながら確認してみたい。次にその上にたって,同じ要因が,女性の転職率の背景にもあるの

かどうかを見てみたい。これまで男性の転職については,企業への定着率の問題として多くの

すぐれた研究があるが,女性については,同じ就業行動でも労働市場への離入がもっぱら関心

の中心であることから,転職についての研究はほとんど行なわれていない。しかし近年女性の

勤続年数も伸び,仕事を一生のものとして考える女性も増えている中では,転職は重大な関心

事となりつつあり,その意味では女性の転職についての研究も重要性を増してきている。ここ

(2)

では主に,官庁統計資料を利用して,数量的に把握できる近年の転職行動から,その背景にど のような男女の違いがあるのか,また違いがあるとしたら女性の転職にはどのような意味があ るのかについて考えてみたい。

1.転職の理論

賃金と転職率

 近年の変化を検討する前に,まず景気の変動や産業構造の変化といった時系列的な要因を一 定とした時,転職という就業行動を理論的にどう捉えたらよいのかを整理しておく必要がある。

転職を規定する要因としては,賃金,労働条件,人間関係,教育訓練,適職性等様々であるが,

そのうち数量的に把握できるのは賃金である。この場合の賃金とは,賃金水準そのものと賃金 プロファイル2)の勾配である。つまりある就業者が転職行動をとる時考えることは,ひとつに は現在の企業における賃金水準に対し,移ろうとしている企業の賃金水準が高いかどうかとい う点であり,いまひとつはこのまま現在の企業に留まった時の生涯賃金と,移ろうとしている 企業で可能な生涯賃金とを比較することである。後者つまり賃金プロファイルは勤続年数に対 する賃金評価であるが,これの端的な例がいうまでもなく日本の年功賃金制度である。日本に おいては労働市場が企業ごとに内部化されており,そのなかでは長期勤続の経済的メリットが 大きくなるような賃金体系が採られているため,転職率はおのずと低くなる。それに対し欧米 では労働市場が企業ごとに分断されてはおらず,他企業での経験も賃金に評価されるため,転 職率は高くなる。

図1 転職のための留保賃金分布と提示賃金

    Wm      Wm

(出所}樋口美雄「日本経済と就業行動」(東洋経済新報社   1991勾り. 60頁

 賃金と転職の確率を図式化したものが図一1である:㌦rは転職するか現在の企業に留まる かの境界線上の賃金=留保賃金で,f(W,)はその分布である。ωmは他企業から提示される賃金 を示している。高学歴で,熟練度の高い労働者ほど留保賃金は高いため右側に寄った分布にな り,転職コストも高くなるため転職の確率は低くなる。それに対して外部労働力に近い低学歴,

低熟練の労働者の転職確率は高くなる。また大企業ほど賃金プロファイルが急勾配になるため

w,は高く,右に寄った分布になり転職率は低くなる。同様に年功制をとる企業(社会)では年

(3)

齢の低い者ほど転職コストが低いため転職率は高くなる。

教育訓練と転職率

 人的資本論の立場から教育訓練が転職率や定着率に影響を与えることはいわれていたが,こ れまで統計資料の不足から実証分析で確かめられてはいなかった。ところが近年アメリカでは 教育訓練の種類,回数,時間等が調べられはじめ,それらの資料を利用しての実証分析も登場 してきている。たとえばMincer4)の男子雇用者についての分析では,教育訓練が1年間追加 されることによって転職率を1ポイント低下させることができるといわれている。

表一1 年齢階層別転職理由

(%)

区 分 男   性 女   性

理 由 年齢計 15−24 25−34 年齢計 15−24 25−34 人員整理・倒産など 14.9 6.6 ll.3 10.8 4.7 8.1

不安定な仕事だったから 8.8 12.6 8.8 8.8 8.4 8.9

収入が少なかったから 12.3 13.9 15.2 10.2

8.1

10.1

労働条件が悪かったから 16.5 22.4

20.7

17.3 21.1 15.3

自分に向かない仕事だったから 12.9

21.0

14.6 13.0 16.8 10.9

家族の転勤,事務所の移転 2.6

1.9

2.7 4.0 2.2 4.0

定年・病気・老齢 10.2

1.1

2.2 5.0

3.1

3.2

結婚・育児 0.3 0.3 0.3 5.9

7.1

13.3

その他 21.5

20.2 24.2 25.0 28.5 26.2

100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

(資料)「就業構造基本調査報告」1987年

男女の転職行動の違い

 女性についても一般的には先に述べた転職の理論が成立する。しかしその一方で,たとえ需

要側の条件が男女同一だとしても,明らかに異なった就業行動をとる場合もある。表一1は『就

業構造基本調査』(1987年)から年齢階層別の転職理由をみたものであるが,結婚・育児という

転職理由は女性特有のものであることがわかる。つまり女性の場合,家事・育児負担を負いな

がら仕事を継続するために,より条件の良い職場に転勤しているのである。女性のこのような

転職パターンは,性別役割分業構造を内包する社会で,女性は家事・育児を負うことが前提と

されており,男性と同じ(フラットな)労働力として位置付けられてはいないことを意味してい

る。しかしその一方で,そうした女性の転職は,結婚・出産を理由に離職することが一般的で

あるような社会にあっては,むしろ,離職しないでつまり非労働力化しないで継続して就業す

るためのポジティブな行為とみることもできるのである。むろんすべての転職がそういう意味

のものであるわけではないが,女性の仕事に対する意識が変化する中で,より長く働き続ける

ために転職という手段を選ぶ者が増えつつあることはまちがいない。

(4)

2.近年の高転職率の背景

 転職の理論においては,景気変動による労働市場の需給変化や産業構造の変化など外部環境 は所与のものとして扱われていた。しかしここ数年の転職率の急上昇を見てみると,外部環境 の変化が大きく影響しているものと思われる。そこでここでは,転職率や転職の背景になって いる要因を時系列的にみることによって,近年の高転職率が,単に短期的な景気拡大によるも のであるか,または日本の内部化された労働市場を流動化させるような何らかの長期的,構造 的な要因を含むものであるのかについて検討してみたい。

表一2 年齢階層別,転職率・有効求人倍率 (%)

年齢 男   性 女   性 有効求

年齢計 15−24 25−34 年齢計 15−24 25−34 人倍率 1962 4.8 7.0 4.7 5.2

6.1

4.2

0.68

1965 4.5 6.8 4.3

5.1 6.1

4.6

0.64

1968 4.8 7.4 4.9 5.2 6.8 5.0 1.12

1971 4.6 6.9 4.8

5.4 7.1

5.6 1.12

1974 4.9 7.8 5.6 5.8 8.2 6.8

120

1977 3.3

6.1

3.9 4.0

6.1

5.0

0.56

1979 3.7 8.0 5.0 4.3 6.6 6.8 0.71

1982 2.9 6.0 3.5 3.5 5.3 4.3 0.61

1987 4.6 10.2 5.3 5.9 9.0 7.4

0.70

(注)・転職率:過去1年間に転職を経験した者の雇用者に占める割合

 ・非常用的雇用者を含む非農林雇用者(自営業者,家族従業者は除く)

(資料)「就業構造基本調査報告」各年

表一3 年齢階層別,転職入職率・有効求人倍率 (%)

男   性 女   性

  年齢

N 19歳以下

20−24 25−29 30−34

19歳以下

20−24 25−29 30−34

有効求 l倍率 1987

P988 P989

11.7 P1.7 P0.7

11.5 P3.9 P4.1

8.9 X.5 P0.5

6.7 V.4 V.8

7.0 V.3 U.6

10.1 P1.6 P1.1

8.1

P0.2 X.2

5.0 U.9 V.3

0.70

P.02 P.26

(注)・転職入職率:過去1年間の転職によって入職した者の常用労働者に占める割合

 ・日雇,臨時雇を除く

(資料)「雇用動向調査」各年

 表一2は『就業構造基本調査』から転職率を算出し,あわせて労働需給と景気の動向をあら

わす有効求人倍率を並べて示したものである。『就業構造基本調査』は1987年が最新のデータ

であるため,87年以後は『雇用動向調査』で見てみた(表一3)。これによると急激な転職率の

上昇はここ数年のことであることがわかる。一般に,景気の拡大に伴う雇用機会の増大によっ

(5)

て転職率は上昇するが,近年の転職率は高度成長期の1960年代を上回っており,景気拡大以上 の何らかの影響を受けていることが予測できる。まず,転職率を上昇させる条件を整理してみ たい。第一は,景気の拡大によって雇用機会が増加すること。つまり,いくら転職希望があっ ても良好な雇用機会が開かれていなければ転職は不可能なわけで,そのためには好景気でなけ ればならない9)第二は,勤続にともなって昇進し,賃金が上がる年功的雇用管理に何らかの困 難が生じることである。つまり昇進や昇格が頭打ちになり,長期勤続の経済的メリットが少な

くなれば転職者は増加するということである。第三は,中途採用者を積極的に採用する政策を 企業がとるようになること。この場合,ある種の人材を中途採用者として採用せざるをえない 何らかの事情が生じていることになる。このうち,第一の景気拡大による雇用機会の増加は,

今回の転職率上昇の要因であるが,短期的な要因でもあることから,ここではとりあえずこれ を除き,他の二つの条件について検討してみたい。

 まず,年功的な雇用管理に変更があったかどうかであるが,時系列的に賃金プロファイルを 比較すると,近年,その勾配が緩やかになっている。だからといって,このことが直ちに日本 の年功賃金体系の変更を意味するわけではない,一般に景気が拡大し労働市場が逼退してくる と,若年労働者の確保のために初任給を上げるため,賃金プロファイルの勾配は緩やかになる。

大方の見方も日本の年功賃金体系に変更がないというものであるが,その一方で年功賃金体系 を見なおさざるを得ない状況が生まれていることも事実である。それは将来にわたって続く若 年労働者の不足である。就業者の年齢構成をみると,1960年代には30歳未満の者は全体の51.6%

であったが,オイルショック後の1975年には36.6%に,1990年には27.0%と大幅に減少してい る。このことは逆に高年齢者の比率が高まっていることを示しているわけで,年功的な賃金体 系を見直さない限り,企業はきわめて重い給与負担を負うことになる。実際,すでに年齢,学 歴,勤続などの属人的要素にもとついて決められる単純な年功賃金はほとんど採用されておら ず,職務給,職能給などの仕事給と年功賃金を併用した賃金体系を採るものが大半である。長 期的には年功制,労働市場の内部化を維持しつつも,賃金プロファイルの勾配は緩やかになっ ていくものと思われる。そしてそれにともなって生じる昇格の頭打ち,昇給のスピードの低下 などが,転職の増加を促していることは十分推測できる。

 次は中途採用者を積極的に採用する動きや,中途採用者が不利にならない条件がつくられて いるかどうかについてであるが,これについては,中途採用者の賃金のところにあらわれてい る。表一4は平均的就業者と中途採用者(勤続0年の就業者)の賃金格差を見たものであるが,

どの層も1990年に格差が縮小していることがわかる。とりわけ男子高卒の24歳以下と,男子大

卒の25〜34歳のところではほとんど格差が見られない。また個人つまり転職者自身の転職前後

の賃金変動をみても,けして転職が不利になっていない。リクルートサーチが首都圏の男子ビ

ジネスマンー万人を対象に行った調査でも,転職者(全体の1/4)の53.2%は「転職前よりも給

与がよくなった」と答えており,「悪くなった」という者は15.2%であった。しかも良くなっ

たと答えた者は平均約100万円の年収増になっている。

(6)

表一4 平均的就業者と中途採用者の賃金格差(年齢別,学歴別) (%)

区分 男子 高卒 男子 大卒 女子 高卒 女子短大卒 女子 大卒 年齢 1985 1990 1985 1990 1985 1990 1985 1990 1985 1990

18−19

97.7 98.3 97.9 98.3

20−24

99.2 99.4 95.6 95.6 91.2 96.2 94.2

95.1

96.9 96.6

25−29

92.2

94.1 98.1

98.2 81.3 86.4 82.9 93.3 101.2 96.5

30−34

85.2 87.8 104.0 106.0 73.7 80.7

75.1

80.2 83.5 95.6

35−39

78.9 80.7 90.6 92.9 73.3 74.8 72.4 71.8 79.6 72.3

40−44

65.3 75.3 73.6 92.2

71.1

73.8 68.2 71.9 69.9 54.0

45−49

58.7 68.5 84.5 76.2 71.7

71.9

64.9 67.8 98.3 70.9

50−54

6L9

67.1

63.9 78.7

68.1

72.6

67.1

59.0 70.3

55.9

55−59 70.9

72.4 70.4

76.4

62.9 70.0 76.0 65.7 59.3 90.0

(注)・平均的就業者の所定内給与を100とした時の中途採用者の所定内給与の割合

(資料)「賃金構造基本調査報告」1985年,1990年

 しかし,このような中途採用者に対する良好な雇用条件がすべての層に開かれているわけで はない。では開かれているのはどういう層かというと,一方は若年層であり,もう一方は専門 的・技術的職業従事者のところである。前者は「第二新卒」という言葉が示すように,将来的 にも続く若年労働者不足を念頭においた企業の若年労働者確保のための雇用政策によるもので ある。それに対して後者は,1980年代に進んだME技術革新やリストラクチュアリングによる 新規の事業展開が,他企業で経験を積んだ即戦力となる技術者や専門職の需要を高めたことに よるものである。『就業構造基本調査』で1982年と87年の職業別の転職者数を比較すると,男 子の場合,専門的・技術的職業の転職者は2倍に増加しており最も高い伸びを示している(第 二位は労務作業従事者で1.9倍,第三位はサービス職で1.8倍)。もともと専門的・技術的職業 の場合は,企業を越えた横断的な労働市場が形成される傾向にあり,賃金なども職業別に成立

している。しかもME化は,技術の質を,これまでの個別企業に特殊的なものから標準的,平 均的なものへと変化させ,その傾向にさらに拍車をかけることになった。このような専門的・

技術的職業への需要の高まりと技術や専門的知識による企業間の壁が薄れたことが,この職業 での転職者を増加させた。しかしその一方で,横断的な市場がつくられやすい,つまり内部化 する必要のない専門職や技術職は,企業内部で育成するには大きなコスト負担になるため,各 企業はこの部分を派遣業や事業所サービス会社などに外注する動きも強まっている。

 これまでのところを見てくると,近年の高転職率の背景には,若年労働者の不足や技術革新

といったこれまでとは異なる要因があることがわかった。しかもこれは長期的な変化であるだ

けに今後も日本の労働市場や就業行動に影響を与えることはまちがいない。しかしだからと

いって,日本の労働市場の内部化が大きく変更されるというわけではなく,基幹的,戦略的な

人材については定着性を強める一方で,そうでない部分については流動化を進めていくものと

思われる。

(7)

3.女子転職率の背景

 女性の転職率6)は年齢平均でも,1982年の3.5%から1987年の5.9%へと近年大幅に上昇して いる(前掲表一2及び表一3)。1987年の学歴別の転職者の割合をみても,高卒8.3%,短大卒 9.1%,大卒7.4%(男性は5.4,5.5,3.5%)とどの層も男子の転職率を上回る高さである。こ の間の景気の拡大は,女性の転職に対しても促進させる方向で働いた。しかしそれ以外の要因 はどうであっただろうか。女性はこれまで,勤続年数が短いことから,基幹労働力になり得な い外部労働市場に近い労働力として位置付けられてきたため,転職コストも低く男性に比べ転 職率は高くなる傾向にあった。近年の高い女子転職率は,そうしたこれまでの延長線上のもの にすぎないのか,それとも若年労働力の不足や技術革新といった長期的な外部環境の変化が,

男性と同様に,女性の雇用政策にも何らかの変更をもたらした結果でてきたものなのか,ここ では前節での検討をふまえてその点を考えてみたい。

表一5 転職による賃金変動 (%)

男   性 女   性

    年齢

マ動率 年齢計 19歳以下 20−29 年齢計 19歳以下 20−29 30%以上増

P0〜30%増 P0%未満増減 P0〜30%減 R0%以上減

7.4 R0.0 S6.4

P0.2 T.7

14.1

R4.6 S0.8

W.4

k9

13.3

R1.2 S2.8

X.7 Q.8

4.8

Q6.8 T1.5

P2.5 R.9

5.4 R1.8 T1.7

P0.3 O.8

4.0

Q9.8

S9.1 P3.1 R.2

(資料)「雇用動向 調査」1989年

 まず,男性の場合にみられた,転職者に有利な状況が女性にもつくられているかどうかであ るが,賃金についてみてみよう。中途採用者と平均的就業者の賃金格差については,前掲表一 4で見たように,男女による時系列的な格差はみられず,男女とも1990年は格差が縮小してい る。しかし,転職による賃金の変動について『雇用動向調査』でみてみると(表一5),転職率 の最も高い20〜29歳で,転職によって賃金が上昇した者は,男性45%に対して女性は34%で,

とくに30%以上増加した者は,男性13%に対して女性は4%と女性がかなり低い。賃金につい て見るかぎり,転職者に有利な状況は男性に強く現われているといえる。

 次に企業規模間の移動をみてみたい。表一6は『雇用動向調査』を利用して前職より規模が

大きい企業に転職した場合を「上向移動」,同規模の移動の場合を「平行移動」,前職より規模

の小さい企業へ転職した場合を「下向移動」として作成したものである。これによると20〜29

歳では男性の方が「上向移動」者の占める割合が高い。もともと女性の方が小規模・零細企業

の従業者の割合が高いため,一般的には女性の方が「上向移動」の数字が高くなるが,若年層

(8)

では逆転しており,賃金と同様企業規模間移動でも,転職者に有利な状況は男性に強く現われ ているといえる。

表一6 転職者の企業規模間移動 (%)

  年齢

N

男   性 女   性

上向移動 平行移動 下向移動 上向移動 平行移動 下向移動

年齢計

P9歳以下

Q0−24 Q5−29 R0−34

43.9 S5.2 S8.5 S2.3

S2.1

33.1

R5.2 Q8.3 R1.7 R8.2

22.9

P9.6 Q3.2 Q6.O

撃X.7

45.4 T7.9 S0.7 R8.8 S6.7

34.1

Q5.3 R4.9 R4.8 R2.3

20.5 P6.8

Q4.4 Q6.6 Q1.0

(注)・企業規模区分は①10∞人以上,②300−999,③100〜299,④3e〜99t⑤5〜29人の5区分で,この区分間をより大きい

  規模の方へ移動した者を上向移動.同一区分内の移動を平行移動,より小さい規模の方へ移動した者を下向移動とした。

 ・官公営業を除く

(資科)「雇用動向調査」1989年

    図2 中途採用者の年齢階層別賃金

(千1コ1)       産業 ・学:歴言十

300

200

100

O

  l8  20  25  30  35  40  45  50   1  1  1  1  1  1  1  1   19  24  29  34  39  44  49  54

(資科)「賃金構造基本綱査報告」1985年.1990年

一1985年男子

…1985年女子  1990年男子

一一一P990年女子

  (年齢)

55 s 59

 若年労働者確保のためにつくられた転職者に有利な状況は,男性に強く現われていることは

確かめられたが,だからといって,女性に対する雇用政策に変更がなかったかどうかを確認す

るのはこれだけでは不十分である。その点も数字で確かめる必要がある。図一2は1985年と

1990年の中途採用者の年齢別賃金である。これをみると,男性の中途採用者の賃金は継続勤務

者よりは不利とはいえ,年齢が上がるにしたがって賃金は上昇している。つまり,男性の場合

はそれまでの職業経歴がまがりなりにも評価されていることを示している。それに対して女性

の方は,30歳を越えると賃金は上昇しないばかりか,下降している。また上昇している29歳以

下のところでも男性と比べると上昇率はきわめて低い。これは女性の場合,それ以前の職業経

(9)

歴はまったく評価されないことを示しているわけで,女性は男性とは違う,単なる一次凌ぎの 労働力として扱われていることがわかる。また近年男性と同じ様に女性に対しても,若年の中 途採用者を積極的に採用しようという政策がとられているならば,1990年の29歳以下の中途採 用者の賃金が男性並みに上がっていなければならないはずであるが,それ以前のものと比較し てもまったく変化はみられない。つまり,この間に女性の雇用政策には何の変更もなかったわ けで,近年の女性の高転職率には,企業の雇用政策の影響はなかったということができる。

 これまでのところ,近年の女性の高転職率は,もっぱら1987年以後の景気の拡大によって雇 用機会が増加したことによるものとみることができる。しかし,その雇用機会も,客観的にみ ると必ずしも転職希望の女性すべてに良好なものであったとはいいがたい。今回の好景気は労 働市場全体で需給が逼迫していたのではなく,職種や産業でミスマッチがおこっていたことは しばしば指摘されていることであるが,不足していたのは専門的・技術的職業,販売職技能 工,労務作業者などであって,女性の集中する事務職はむしろ過剰ぎみであった。事務職は女 子転職者の30.9%(男子の場合は,9.5%)と約三分の一を占めているが,この層がより良好な 条件で転職したとは予測しがたい。

表一7 学歴別・年齢階層別転職率 (%)

男   性 女   性

   年 齢

諱@分 年齢計 15−19 20−24 25−29 年齢計 15−19 20−24 25−29 高    卒

Z大・高専卒

蜉w・大学院卒

5.4

T.5

R.5

5.6 12.4

W.1

S.5

7.9 V.2 S.4

8.3

X.1

V.4

5.9 13.3 X.2 W.0

15.5 P3.0 P1.3

(注)・転職率:過去1年間に転職を経験した者の有業者に占める割合

 ・非農林雇用者がとれないためここでは有業者

(資料)「就業構造基本調査報告」玉987年

 転職条件の良し悪しは別として,近年の女性の高転職率は,景気の拡大という短期的な要因 によるものであって,男性の場合にみられた長期的,構造的な雇用の変化を伴うものではなかっ たことは確かである。しかし;女性の転職をすべて単に,景気拡大による転職ムードに乗った ものであると言ってしまっては,問題を見落とすことになる。転職の理論のところで,転職は 賃金や教育訓練などの企業の雇用管理と結びついていることを述べたが,女性の転職も企業の 雇用管理と強く結びついているとみることができる。つまり,勤続年数に応じた昇進,昇格,

昇給が日本の男性の企業定着率を高めたとするならば,女性の高い転職率は女性に対してその ような雇用管理がとられていないからだとはいえないだろう。1987年『就業構造基本調査』か ら学歴別の転職率をだすと,男子大卒の比率が際立って低いのに対して女子の転職率は高・短 大・大卒とも非常に高いことがわかる(表一7)。外部労働市場に近いほど転職率は高くなるこ

とを考えると,この数字はまさに,日本的雇用慣行の及ぶ範囲と及ばない範囲とを端的に表し

(10)

ているといえる。つまり,女性の大半は企業の重要な戦力でありながら,女性ということで一 括りにされ,昇進・昇格の道を閉ざされた補助的労働として位置付けられているのである。

 そしてまた,こうした企業側の変らない女性への雇用管理や姿勢に対する女性の側の不満が,

さらに女性の転職を促しているとみることができる。労働省の『平成2年度女子雇用管理基本 調査一女子労働者労働実態調査』7)には,職場における男女の均等取り扱いについて,約4割 の女性が苦情や不満をもっていることが報告されている。もし女性たちが,より女性活用度が 高く働きやすい職場を求めて転職していることが,高い転職率のひとつの要因だとするならば,

そのことは,女性の継続的就業への高いインセンティブを意味しているわけで,女性のこのよ うな転職は,きわめてポジティブな就業行動とみることができるのである。 、

おわりに

 女性の転職について考えることで,改めて日本における性別職務分離が,労働市場の内部化 という日本的雇用管理と強く結びついていること,またそれが平等化の大きな障害になってい ることを確認することになった§)しかし日本における労働市場の内部化は一定の経済の合理性 にもとついたものである以上i)形は多少変化しても内部化の方向は大きく変わるとは考えられ ない。だとすると,女性の側が内部労働市場に入っていくこと,つまり結婚,出産,育児で仕 事を中断せずに継続的に就業する以外に,平等化への道は開けないということになる。もちろ んそのためには継続就業を可能にするような環境の整備が先決であるが,現在のように女性に とって働きがいのある,働きやすい職場がまだ少ない状況の中では,転職というかたちで仕切 り直しをすることは,女性が継続就業するためのひとつの有効な方法だといえる。

      注

1)『就業構造基本調査』から転職希望率を計算すると,男子の場合,高度成長期の4%台から,オイ   ルショック後は7〜8%台へと上昇しているが,実際の転職率は4−−5%台から3%台へと逆に下  がっている。

2)横軸に年齢,縦軸に賃金額をとり,ライフサイクルによる賃金変化をみたもの。

3)樋口美雄『日本経済と就業行動』(東洋経済新報社,1991年)「第二章 技能蓄積と転職率・賃金構  造」を参照。

4)Jacob Mincer, Labor Mobility, Wages and Training , DOL Report,1984.

5)樋口美雄は,前掲書「第三章 転職行動の時系列変化」で,労働市場の需給逼迫度と離職率との関  連を計量分析している。

6)「就業構造基本調査』の転職者数には非常用的雇用者が含まれるが,非常用的雇用者の少ない若年  層で男女を比較する場合には,ほとんど影響ない。

7)「男女雇用機会均等法」施行から5年を経過した時点での,民間企業における常用女子労働者1万  2000人を対象に,その処遇等を調べたものである。それによると「均等法」施行後,雇用管理に変  化があったとする者は31.4%,結婚や出産等を理由とした退職慣行があるとする者も46.4%あり,

 容易には変らない職場の実態を示している。

8)日本の性別職務分離の構造と現状についての筆者の見解は,拙稿「男女平等と雇用問題」永山武夫

(11)

 著『労働経済一「日本的経営」と労働問題一J(ミネルヴァ書房 1992年5月)を参照。

9)日本的雇用管理と市場の内部化(内部労働市場)については,日本に特殊的なものであるかどうかを

  めぐって多くの議論があるが,実態としては日本的特殊性と国際的共通性の両方をもっているので

  はないかと考える立場から,ここでは日本企業にとってきわめてメリットの大きい制度であるとい

  う程度の意味に留めておきたい。

参照

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