経済成長と経済厚生に関する一試論
その他のタイトル An Essay on Economic Growth and Welfare
著者 高本 昇
雑誌名 關西大學經済論集
巻 6
号 3
ページ 200‑236
発行年 1956‑06‑01
URL http://hdl.handle.net/10112/15717
200•
E•D•
D o m a r
は今日理論経済学上最も注目すべき分野の一っとなるに至った°その特微はケインズ流の有妓需要の経済学に対し︑
産出物供給の側の諸要因︑即ち古典派的な生産力という概念を復活し︑その恒常成長を強調すると共にこれを
﹁新しい経済学﹂と調和せしめて︑動学的分析に一つのエポックを劃したことであろう︒
は︑それが生産力の成長と有奴需要の循環との綜合という意味で優れた理論であった反面︑尚考慮さるべき少なか
らぬ問題をも残している︒そのようなものとして︑第一に全ての単位が物理的に測られ︑価値的な面は顧慮されな かったということがあり︑第二には所得循環の過程が無視され︑焦点は主として生産国民所得にのみ集中されてき
たということがある︒勿論このような局面の無視によって成長理論の意義が薄れるとは考えられないが︑
考慮することによって成長理論に新しい局面の拓けてくることは否めぬところであろう︒
本稿の試みはこのような意図の下に経済成長の過程を別の角度から描き出そうとするものに他ならない︒従って その筋書は次のようなものとなろう︒先づ出発点は通常の経済成長の理論における成長過程乃至成長率の素描であ
り︑そこでの諸経済量を価値タームで︑即ち経済厚生の面で捉えるときに如何なる結果が出るかをみる︒ 弦で対象
とされる経済成長が主として長期趨勢的なものであることは注意されねばならない︒ところで経済厚生の面からみ
ハロッド
R .
F•
H a r r o d
とドマール
これらを しかし乍ら︑成長の理論 (1) の先駆者的業績に始まる一連の研究によって︑経済成長の理論 経清成長と純清厚生に闊する一
高 試論
本
ニ 八
昇
201
経 済
成 長
と 経
済 厚
生 に
関 す
る 一
試 論
︵ 高
本 ︶
. .
̀ ‑ ・
この特殊な成長のモデルを展開してみる︒ ととなろう︒
二 九
るとき︑われわれは通常﹁恒常成長﹂と考えられているものが最も基本的な場合において何らの成長をも示さない
ことを知るであろう︒従って次には経済厚生の面における恒常成長が如何なる形態をとるかをみなければならない︒
そのために﹁一人当り所得成長﹂という概念が持込まれる︒斯くて一人当り所得成長の過程を検討すると共に︑
の動因を求めることが必要になる︒経済厚生の恒常成長を可能ならしめるものは︑筆者の考えでは極めて広義の
そ
技術的革新﹂以外にないというのがそこでの結論である︒絃までは国民所得循環の面のみからみると︑それは生産
面で把握されたものに過ぎなかった︒そこで次にそれが有妓需要となって生産過程に還るまでの間に介在する分配
並びに支出の過程における国民所得の行動を検討する︒葱でも長期趨勢的には変化が生じている︒勿論物理的ター
ムではこれは殆ど問題とならないが︑価値ターム︑即ち経済厚生面での観察は長期的にやはりそれが成長している
ことを示す︒絃で主要な役割を果しているのはデューゼンベリーJ.
s•
D u
e s
e n
b e
r r
y の
名 と
結 び
つ く
﹁ デ
モ ン
ス ト
レ
ーション奴果﹂である︒斯くて︑これらの成果が綜合されて︑最後に﹁経済厚生成長率﹂なるものが設定されるこ
これが大雑把な本稿のプログラムである︒以下われわれは私経済のみからなる封鎖的な経済社会を舞台として︑
註 (1)R•F•
H a r r
o d , '
A ^
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n i
D y
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c
T h
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r y
"
E c
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h
1 9 3 9
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T o w a
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c
E c o n
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L o n d
o n ,
1 9 4 8
;
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^ ' N o
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C y c
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y , "
E c o n
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1
9 5
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1 9 5 2
;
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D o m a
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1 9 4 6
;
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1 9 4 7
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1
9 4 8 ; d i
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A c c u
m u l a
t i o n
a n 4
t h e
E n
q ‑ ‑ ‑ ,
202
なると思われるからである︒ 念︑即ち﹁自然成長﹂
n a t u r a l g r o w t h
一︑恒常成長のシェーマ
o f P r o s p e r i t y , "
E c o n o m e t r i c a , S u p p l e m e n t
, J
u l y
1 9 4 9
;
W . B a u m o l , E c o n o m i c D y n a m i c s , e N w Y o r k , 1 9 5 1 ;
W
. F e l l n e r ,
︱ '
T h e C a p i t a l
│
O u t p u t R a t i o i n D y n a m i c E c o n o m i c s , "
n i M o n e y , T r a d e a n d E c o n o m i c G r o w t h , i n H o n o r o f J•
H ・ W ・ / l i a m s N• , Y . ,
1 9 5 1
;
M . A b r a m o v i t z , "
E c o n o m i c s o f G r o w t h ,
"
i n
A
S u r v e y o f C o n t e m p o r a r y E c o n o m i c s , V o l . 2
,
( e d ) b y . B F•
H a l e y , H o m e w o o d , 1 9 5 2 ;
W
. W . R o s t
o w , P r o c e s s o f c E o n o m i c G r o w t h , N•Y. 、 1952;
R . E i s n e r ,
"
U n d e r e m ‑ p l o y m e n t E q u i l i b r i u m R a t e o f G r o w t h , "
A m e r i c a n E c o n o m i c R e v i e w . M a r c h
1
9 5 2 ; J . R o b i n s o n , T h e R a t e o f I n t e r e s t a n d O t 苓 r
E s s a y s , L o n d o n ,
1 9 5 2
; H
. P i l v i n
̀ ^
' F u l l C a p a c i t y v s . F u l l E m p l o y m e n t G r o w t h , ; , Q u
a r t e r l y j o u r n a l o f E C o
ミ o m
i c s , N o v .
1~53
;
N•
K a l d o r ,
"
T h e R e l a t i o n o f E c o n o m i c G r o w t h a n d C y c l i c a l F l u c t u a t i o n s , "
E c o n o m i c J o u r n a l M , a r c h
1
9 5 4 ;
W
. A•
L e w i
︑ s
T h e T h e o r y o f E C o
ミ o
m i c G r o w t h , L o n d o n ,
1 9
5 5
.
等がその主要なもの
である︒日本での文献にも擾れたものがある︒例えば︑高田保馬編﹃経済成長の研究﹄昭和二十九年︑に含まれた諸論文
その他数多いが去では省略する︒
最初に経済成長︑就中恒常成長のシェーマを概観してみよう︒成長概念はハロッドとドマールにおいて最も典型 的な定式化をみたが︑それらの間には著しい類似性と同時に少なからぬ差異も又存在する︒前者には三つの成長概
なく﹁循環的成長﹂
c y c l i c a l g r o w t h
﹁保証された成長﹂
w a r r a n t e d g r o w t h
及び﹁現実の成長﹂
a c t u a l g r o w t h
が
あ るのに対し︑後者ではこのうち第三の成長が明確に成長という形をとつていない︒弦で現実の成長とはいうまでも
に他ならないが︑本稿の議論を通じて﹁循環的成長﹂の現象はこれを無視する
ことにしたい︒蓋し r
そうすることによって恒常成長の過程に焦点を合せようとするわれわれの論旨はより閾明に
経済成長と経済厚生に関する一試論︵高本︶
0
···-·•· ー . . '
203
く と
︑ a d そこでハロッドとドマールの二つの恒常成長概念を採上げてみる︒ ハロッドば﹁自然成長﹂を次の如きものと考
( 1 )
える︒即ち
人口の増加と技術的進歩によって可能となり⁝⁝非自発的失業の生ずる可能性を含まない°斯くて I J
自然成長の条件は次式で示される︒
G ̀
, C
, =
s
( o r =
¥ = s )
. . .
G n
は所得の﹁自然成長率﹂であり︑
C r
は﹁中立的技術的進歩﹂と歩調を一にし︑
るに必要な﹁限界資本係数﹂
L I K ‑ L I Y
︑そして S
は 貯 蓄 率
S ‑
Y
定の比率があり、且つそれらの増加率が等しい(迭~11令ー)と仮定するならば、 GH
なる労佑人口の増分を全て産業に吸収するに充分な所得の増加率と考えられる︒
ところでドマールの自然成長率はどうか︒いま完全雇傭を継続的に維持するに必要な潜在的産出高の増分を P と 4 AP
し︑それに必要な社会的総資本の増分との比率を
6 で表わすと
? I
I J 日"が成立する︒一方︑ケインズの﹁乗
数 理 論 ﹂ か ら A I I I R
AYを考えると︑完全屈傭と両立する恒常的な産出高の成長を維持するための均衡条件AY
( 2 )
﹁基本方程式﹂はミAK IIAPを満たす方程式は︑これら両式を組合わすことによって得られよう︒即ちドマールの
1
I I
A P
と
A I
ー ー
1 1
JYから a
1
d A
K .
I I
A I
I
a
は﹁完全雇傭投資成長率﹂であるが︑
A I I
a I
I I
ー ー
11ーとなるから︑
A Y
Y
経済成長と経済厚生に関する一試論︵高本︶
は人口増加によって可能と ﹁完全雇傭﹂を継続的に維持す
である︒若し総人口 Q と労佑人口 L と の 間 に 一
A I A I
a0""11
A K I
. .
弦でその均衡成長の条件として限界貯蓄性向と平均貯蓄性向を等しくお
1 こ の 式 と 4 p 1 1 1 4 K I I I と か ら 次 式 が 得 ら れ る ︒ d
204
ての経済をとると︑企業利潤極大の保証される点は︑労仇需要が完全に満たされる限り︑
全部稼動することによって齋らされると想定することによって︑ 企業者がその蓄積資本を
われわれはロビンソンと共に
G w
・ ・
・ ・
・ ・
・ ・
・ ・
( 4 )
とおかれるが︑この場合ハロッドによれば︑ a は企業の均衡と両立する成長率とされている︒
を資本の完全利 しかるに全体とし G
﹃
. c ,
1 1 s
次にハロッドの﹁保証された成長率﹂rrw.を考える︒それは 弦に
G q
は人口増加によって可能となる所得成長率であって︑本来の意味の完全雇傭所得成長率と考えられるべき ものであり
( G
Q 11hk)•Gt は技術的進歩によって可能となる所得成長率である。そして Gn はこれら二つの成 q
長率の合計に等しい︒勿論このことから
G q
と
G t をそれぞれ独立に成立し得ると考えることも可能であるが︑そ
れらが何れも資本ストックの場合とは異つて自然的に成長するものであり︑
においてその成果が一括されたのである︒
G n
をこのように二分したのは経済厚生の観点からは
G q
別個の結果を示すからであって︑そのことは後段明らかにされる筈である︒
不可逆的性格をもつているという意味
と G
汽
l 1 1
G q
+
c ,
咋︶が二つの成長率の合成によって得られるものであることを明
( 3 )
確に記憶しておく必要がある︒そのために次のような一式を挙げておこう︒
荻でわれわれはハロッドの定義から
5
︵ 或
は
t 1
P =
t 1
Y
であるから︑
a a
は結局
n ‑ Y
と等しく︑従って又ハロッドの
G n
とも等しいことがわかる︒ 1 aY
1 1
A P
│
d 経 済 成 長 と 締 済 厚 生 に 関 す る 一 試 論 ︵ 高 本 ︶
AP
1 1 a 0
‑
Y
G t
が全く
‑
—・・--ヽ一ー・・・—____, ̲ ‑‑‑‑‑‑' ' . . . . , ̲ ̲ ̲ '
205
された経済では失業者が生れる︒ る
︒ 0
1 1
O s ・
が 一
OO*
に な
る と
き に
の み
︑ r
1 1
s と
な る
︒
. .
先進資本主 こうしてわれわれは必ずしもドマールに忠実 る︒資本蓄積の進むに従って必要投資量も次第に大となり︑
( 6 )
これをハロッドは遠心力の作用する領域と表現している︒
このような a と対照的な概念をドマールは その成長径路が発散的膨脹を示すことが考えられる︒
しく︑労仇の完全雇傭と両立する潜在的産出高の増分と投資の比率を d としたのに対し︑資本の完全利用と両立
( 7 )
する潜在的産出高ー資本比率を
S とおくことによって得られたものである︒ 6 と S
と の 間 に は 次 の 関 係 が あ
0 は﹁能力利用係数﹂と呼ばれるが︑絃ではそれを﹁資本利用係数﹂と解したい︒
︵ 特
殊 な
場 合
と し
て ︶
0
で は
な い
が ︑
G w
に比すべき
a s
を得ることが出来た︒
G n
と
G w
経 済
成 長
と 経
済 厚
生 に
関 す
る 一
試 論
︵ 高
本 ︶
を比較するとき︑われわれは純粋な意味の恒常成
長が自然成長を指すものであることを知り得よう︒
ところで G が G と一致する必然性は勿論ない︒︵このことは
G ̀
, C , =
! , : s
或 は ?
={JS
か ら
明 ら
で あ
る ︶
︒
( 8 )
義国では一般に
G g >
G n
であるが︑後進資本主義国では殆どが
G v
> G w
である︒しかし乍ら︑人口増加と技術的
進歩の進行する限り︑如何なる経済も
G n
と
G W
との相互関連から決定した有炊径路に従って恒常的に成長する
ことには変りはない︒そしてこの場合
G n
によって天井を劃された経済では過剰遊休資本が生じ︑
G U J
によって劃
このことから
G n
と
G U J が一致するときには︑最大の投資及び所得の成長が可
能となることは自明であろう︒
註
( 1 )
H a
r r
o d
︑ T
o s a
r d
s a
D y
n a
m i
c E
c o
n 0
m i c s
P . ,
87
( 邦
訳 ・
一 ︱
七 頁
︶ ︒
a S
で以て示している︒それはやはり
A l ‑ I
( 5 )
...•...
用と両立する成長率と看倣す︒従ってこの場合の
C r
は資本の完全利用を維持するに必要な
ドマールによると 若しくは `
I ‑
K
に等
﹁ 限
界 資
本 係
数 ﹂
と な
206
綽済成長と綽済厚生に関する一試論︵高本︶
( 2
)
D o m a r . " C a p i t a l
E x p a n s i o n , a R t e o f G r o w t h a n d E m p l o y m e n t "
, o p . c i t . , P P . 1 4
ー
0
‑ 4 1 .
( 3
)
高田保馬﹁自然成長李に関する覚書﹂︑﹃経済研究﹄︑第六巻第二号︑一九五五年四月︑九 0
頁 ︒
(4)
H a r r o d , i b i d . , P P . 8 1 . 8 7 (邦訳•
1 0
九︑一︱七頁︶︒
( 5
)
J . R o b i n s o n ,
"Mr•
H a r r o d ' s D y n a m i c s
"
, i n C o l l e c t e d E c o n o m i c P a p e r s ,
O x f o r d . 1 9 5 1 P . , 1 6 8 .
( 6
)
H a r r o d , i b i d . , P . 8 6 ( 邦 訳 .
l
‑
五 し 六 頁 ︶ 0
d i t t o ,
"
N o t e o n r T a d e C y c l e
h T e o r y
"
, E c o n o m i c J o u r n a l J , u n e 1 9 5 1 , P . 2 6 2 . ( 7 ) D o m a r ,
0
p . c i t
` .
P P . 1 4 2 │ 4 3
• •
( 8
)
一艘的には
G s >Gn
になると考えるのはドマールであり︑その逆を考えるのはロピンソンである︒
D o m a r , o p . c i t
` .
P P . 1 4 2
│
4 3
; d i t t o ,
"
C a p i t a l A c c u m u l a t i o n a n d t h e E n d o f P r o s p e r i t y " ,
E c o n o m e t r i c a , S u p p l e m e n t
, J
u l y 1 9 4 9 P , P . 3 1 0 │
1 1 ;
R o b i n s o n , R a t e o f
I
二︑恒常成長と経済厚生
ハロッドードマールの議論では︑恒常成長は物理的タームで考えられてきた︒従って︑例えば貯蓄率が一 0
% で
︑
完全雇傭を維持するに必要な限界資本係数が四であれば、自然成長率は二•五彩となり、
る年の国民所得が一︑ 000 億弗の産出物で表示されるとすれば︑
議論の本筋に入る前に︑ その翌年の国民所得は前年よりも二五億弗の産
出高の増加となろう︒そして通常の経済成長とは斯かる物理的経済量を前提して始めて可能な現象なのである︒確
かにこの場合社会の総産出高は成長している︒がしかしそれが成長とみられない場合もなくはない︒即ち︑
ームで国民所得を表示する場合︑これである︒この点を立入って考察してみよう︒
価 値 夕 われわれは絃で準備として厚生経済学的な若干の考察を行うことが必要である︒何故な
このような経済社会の或
四
‑ ‑ ‑‑ ・ ・ ・ ‑ ‑ ‑ ‑ . 一·•aC—J~:
207
以前の状態を実現して尚余剰が
生ずるから︑経済厚生の増加は勿論明白なことと思われる︒がしかし国民所得の増加したと同じ率の人口増加があ
ったとすればどうであろうか︒明らかに結果は同一ではない︒若し国民所得の増加に対応した率で経済厚生が増加
しないものとすれば︑結果は更に複雑となる︒斯くてわれわれは国民所得の恒常的増加即ち恒常成長の現象を人口
成長との関連において観察する必要がある︒
得の成長を人口成長に対する比率として算出したもので︑ このような観察に便宜を与えるのは﹁一人当り所得成長率﹂の概念である︒即ち一人当り所得成長率とは国民所
シュペングラー J . J . Spengler とクーA•
Y.C•
K o
0
に よ
経 済
成 長
と 経
済 厚
生 に
関 す
る 一
試 論
︵ 高
本 ︶
の変化もないのである︒ 一定の人員に帰属する所得がより大となれば︑この場合︑
五
つまりそこには人口の変化も資本ストック ただわれわれが ら︑厚生経済学こそ経済現象を価値︑或はー同じことであるがーーんぷ用の面で把握し︑その社会的な量を極大な らしめる条件を討究する経済学の一分野であるからである︒ところで︑厚生経済学では社会の総経済妓用或は厚生 を如何にして決定するのであろうか︒厚生経済学上最高の名誉を担う A.C ・ビグ!によれば︑ それは次の二つの
国民分配分のうち貧者に帰属する絶対的分前がより大となればなる程︑大になるということ︑ ばなる程︑②
( 1 )
である︒このような主張には異論もあるが︑それは主として致用理論上の問題であって︑命題②に係わるものであ
( 2 )
るから︑この点の吟味を後に譲るとして︑少くとも命題①には異論の余地がなかろう︒即ち︑国民総生産物が増加
するときは︑他の事情に変化なき限り︑その社会の総厚生は増加するというのがその主張である︒勿論国民総生産
( 3 )
物と総経済厚生との間に或る一定の比率が存在すると想定する理由はないし︑又その必要もない︒
絃で注意すべきは他の事情に変化なき限りという制限条件である︒
こ れ
命題によって示される︒即ち︑他の事情に変化なき限り︑
一国の経済厚生は︑①国民分配分の量がより大となれ
208
で示される︒
ー
G q
ー 含
1 + q 1
‑ G ‑ l
”•"
ベi
1
1 + G q
+ G
,
C h
1 1
ー
1 + q n
.
.
‑
G q + G , ー 念 1 + q ̀
‑
c , ,
であるか資本であるかに依存してーーー決まる︒いま若し有妓なる式が前者であるとするとその結果はどうであるう
か︒前節においてわれわれは
G n
を
G q
と
G t
の合計と定義したが︑
あ る
︒ は
ところで
G !
> G , .
なる場合の一人当り所得成長率
G は正確には
人口増加による労仇人口の増分を吸収するに充分な本来の意味にお で表わされよう︒ 5 が如何なる値をとるかを知るためには︑
G n
をその二つの構成部分に分つて考えることが便宜
で あ
る ︒
即 .
ち G , ,
1 1
G
q
の場合と
G n
1 1
G
,
の場合がそれである︒前者は明らかに︑ G を資本の完全利用を維持する
に必要な所得成長率と考えたことと対照的に︑
ける完全雇傭所得成長率と考うべきものである︒そこで第一に
G ︑
, = G q
の場合を考えると︑ 二式のうち何れが有奴であるかは︑ ー G
﹁ ー q ̀ i
1 十含
G , ,
ー
1
ー1 + G n
1 十含
C h
o r o r
ー
1
1 + G
さ
1 + q n G , ,
その意義が問われるのはこの段階においてで
経済成長と経済厚生に関する一試論︵高本︶
( 4 )
れば︑それは次の如く定式化することが出来る︒いま人口成長率瓜
0 を
q , 、
と す
る と
︑
一人当り所得成長率
l l i f g ,
1 +
合
G 1 ,
G n
と G w
の値によってーー即ち社会的により稀少なる要索が労仇
六
c , ,
‑ ‑ ----―----~--ヘ-心
209
経済成長と経済厚生に関する一試論︵高本︶
G q
若しくは
G t
の何れかに一致することはなく︑常に G ユ
‑ G
, =
G n
七
が
た元の状態と何ら異るところがない︒ なかろうか︒問題をこの面に限定するならば︑
一 人
当 ば ︑
q n
が 0 で
q f f に等しいから︑らは
0 ︑従つて一人当り所得には何らの成長もないことが知られる︒
•••••••••
この場合の所得増加は人口増加の二重妓果︑即ち一方生産力への附加としての労佑人口の供給増加による産出物の 増加と︑他方消費及び投資需要の増加という二つの炊果を均衡せしめるが如きものなのであって︑若し
あれば
G q
も又 0 になるといったものである︒斯くて
G ̀ 8 1
1 G
q
の場合には︑社会の総所得が物理的絶対量において
如何なる成長を示すとしても︑経済厚生には全く成長がないということが出来よう︒通常完全雇傭所得成長率と考
えられているものは︑厳密には
G q
以外の何ものでもないから︑若し産出物の各要素間への分配率に変化がなけれ
それが経済厚生の視角からすれば定常状態に等しい安定均衡の一線を辿るということは注目に値する現象では
一国の経済厚生はその国民所得の絶対額によってではなく︑
り所得にそれを還元することによって測られねばならぬというのが絃での主張である︒所得増分と厚生増分との間
の微妙な差異を無視すれば︑所得成長と人口成長の等しいときには︑経済厚生の状態はその何れにも変化のなかつ
次に第二の場合︑即ち
G , .
1 1 G ,
に関して G
を観察しよう︒この場合
二つの妓果を綜括して
G h
の行動がどうなるかをみなければならない︒
釦 は
0 であるから︑当然
G h
は
G t
に等
しく︑従つて経済厚生も又
G t
に近似的に等しい値で成長するであろう︒その考察は後に譲るが︑経済厚生の面で
純粋な恒常成長がみられるのは技術的進歩によって可能とされる成長率を以て一人当り所得に成長の起る場合だけ
である︒ところで実際には人口増加がなく技術的進歩のみの進行する社会はなく︑又その逆も成立つから︑
G f f
の形で進行するであろう︒従って次には以上
と な
っ て
︑
G は っま炒
210
に還つてみよう︒先の二つの結果を合計した上に附加すべきものは何もない︒ただ葱では
G g
ー
q f
1 1
0
としても
八
G , G ,
1 + •
q n G h
. . .
となるから︑自然的に成長しつつある経済の一人当り所得は技術的進歩のみによって恒常的に成長する経済におけ
次は
G t>
G w
の場合である︒弦でも
G n
が
G q
に等しい場合と︑
G t
に等しい場合とで異り︑更に
>Gw となるに至ってその結果はより複雑なものとなろう︒
先 づ
G n
が
G q
に等しければ︑
G n
= "
G ?
>
G w
であるから
は恒常的に減退の一途を辿ることとなろう︒
て物理的絶対量においては所得の成長があり乍ら︑ 社会経済厚生の面では不断に衰退してゆく経済を示すものであ
る︒このような成長をなす経済では非自発的失業の発生は避け難いであろう︒
虐 る が 若 し ら が
G t
に等しければどうであろうか︒この場合には
, G ̀
= G 1 >
G , , ,
で
あ る
か ら
︑
G h
は
G U J
に等
と な
っ て
︑
5 ︐
= G
S
I l
q n
A 0
1 + q n G h
より小となるであろう︒ る一人当り所得よりも成長率が低いということが出来る︒
ー ー ー
G 1 ' G , J
ド q
G n q n 1 + q n
1 +
q n G h
斯くてわれわれはいま一度
絲済成長と経済厚生に関する一試論︵高本︶
これは所得成長率が人口成長率より小なることによっ それ故に又前者における経済厚生の成長率も後者のそれ
一 八
G 1 ' G , = G n
ー ・ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑‑ ‑ ‑‑ ‑‑ ‑ , , ̲ ̲ ,
‑‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ . —-- ---—- ‑ ‑ ‑―‑‑‑一――・‑・
2 1 1
経 済
成 長
と 経
済 厚
生 に
関 す
る 一
試 論
︵ 高
本 ︶
し く
な り
資本の完全利用と両立するような成長率に等しい率で継続的に成長することが可能となる︒ ︑
発的失業は不可避の存在となろう︒
最後に
G q
+ G
, 1
1 G v
>Cw における 5 をみる︒この場合にも =
G w
‑ q n 1 + q n G , ,
が成立つが︑弦での
G h
は極めて伸縮的なものとなろう︒
G W
は
G n
より小であるから︑
G h
I I
C e
ー
q n ,
{ .
§ .
L
G w
A
G q ) をもつことになるが︑実際にはそれ以上に定常均衡状態
( G h 1 + q n
て恒常減退の状態
( G h
=
G ,
ー
q n 1 1
O )
1 + q n
る︒その値は︑利潤極大を保証し︑資本の完全利用を継続的に維持せんとする企業者の行動が︑労仇をどの程度雇
傭し︑又進歩しつつある技術をどの程度利用するかにかかつている︒この場合
G i
が定常均衡の状態にあるとして
り所得成長率或は更に経済厚生成長率としてみるときには︑全く成長の名に値しないことは興味ある結果といえよ
さ て
︑
う ︒ も︑労佑と資本は共に完全雇用の状態にあり得るから︑ て
︶ ︑
九
通常の生産要素の完全雇用と両立する恒常成長率が一人当 一人当り所得は技術的進歩の可能とする成長率よりは小であるが︵進歩しつつある技術の不充分な利用によっ
無論絃でも非自
は可能なる最低限とし
Gsl_q 唸 G1•
G ,
‑ q ; 1 9 )
までの間の或る値をとるものと思われ 1 十字 1 十合
1 + q n
を超えて最高限界 (G 「 II~
これだけの観察によって︑ 一人当り所得の恒常成長を絶対的に可能ならしめる社会所得の成長を推進する
ものは技術的進歩を措いて他にないということが知られよう︒技術的進歩は人口増加と同様︑自然的且つ不可逆的
進燃怪略心磁燃風叫且匿 ‑¥‑‑t0 I 拭瀧(帷*) 因〇 N‑c
紺淀廷.,,@ 0 ¥J ,S. ,Q 茶 '1 f 回<口咲 '61¥JQ 寄呉 .1J ;t:4!1v 悉科 1!' 忍⑯碇紺泉握揺廷 t(~Q* 撼 Q;ll/!J 幽且学 0\J!a'
器 AJ~,Q 眺図 A)...) \J 裂燃 Q.,,._-R!l'K-41!.~ 画 +‑IQ ゜ギ兵廷栄お揺廷嶽怜 Q 西旺幽述 Q 呉犀足据ふ t"' 1 --<莉.!;:\~~
~, ~0 \J 区訳暉茫螢赳初器垢 ~1!. 聟 K 如,...) o;Q IQ i 」心や玲 ,(I l("I ゜述振や辻リ Q~l("I~~ 面 ~..@0 梃装孟痔聡如稲
し科 t‑,(0 \J~ 芸,...) \Jt:f;,~1("10
世 (.‑1) A. C. Plgou, The Economics of Welfare,̲ 4th ed., London; 1952, Preface V.
(べ)麟謳燃朴茶囲瀧應燃 ti‑ -'-1 挙企梱晦 Q 記~~~ 嗅;,‑, か J .1J 匹知際 0 匹冦’匹辻揆 ~Q]it' 粟起心睾内 cardinalist .1J ordinalist Q 縄 ~.jlJ 進杜令皿疇拙配虹叫王噂匹叩廷恥四 l(lo' 」 0 知る硲暉譴燃
;ti, 1l 竪+‑. l(l•lli 鰍 ~,j;,( 振 il ;!;! 彩 Q 令 Q 茶玲 IQ0 L. Robbins, An Essay on the Nature and Significance of Economic Science, 2nd ed., London, 1935; R. F. Harrod, "Scope and Method of Economics", Economic Journal, Sept. 1938; A. Bergson, "A Reformulation of Certain Aspects of Welfare Economics," Quarterly Journal of Economics, Feb. 1938;
N. Kaldor, "Welfare~roposition of Economics and Interpersonal Comparison of Utility," Economic Journal, Sept.
1939; J. R. Hicks, "The Foundation of Welfare Economics", Economic Journal, Dec. 1939; 0. Lange, "The
Foundations of Welfare Economics", Econo~1etrica, July‑Oct. 1942; P. A. Samuelson, Foundations of Ecoi ヽ omic Analysis, Cambridge, 1948, Chap. VIII; M. Reder, Studies in the Theory of Welfare Economics, N. Y., 1947; Hla
Myint, Theories of Welfare Economics, London, 1948; I. M. D. Little, "The Foundations of Welfare Economics,"
Oxford Economic Papers. June 1949; ditto, A Critique of Welfare Economics, London, 1951; A. C. Pigou, "Some Aspects of Welfare Economics", American Economic Review, June 1951; ̲K. E. Boulding, "Welfare Economics", in A Survey of Contemporary Economics, vol. 2, (ed) by B. F. Haley. 1952; W. Baumol. Welfare Economics and
the Theory of the State, Cambridge, 1952; T. Scitovsky, Welfare and Competition, London, 1952; D. H.
Robertson, "Utility and All That", in Utility and All That, London, 1952; ditto, "Utility and All What?",
Economic Journal, Dec. 1954.
遮哀 Q 螺縄 11.i!''<-ll>-~1\-,-'l-i\ 、 0 辰 v' 進燃風赳 Q~ 憾 .1J,..) \J 辻 ll!ll!II!~ 圏~~ 辻 ll!ll 成起寒心縦垢+‑. l(l 吋 s:,.,.i' 絹心嶽
Fii,il,1
ー 'l:
199:~, '、
9
213
本ストックをとる方が優れているといった主張もある︒
S t u d i e s , V o l .
17 ( 2 ) , 1 9 4 9
ー5 0
P ,
P .
77 1
8 6
.
( 3
) 効用の比較可能性に関して︑本稿を通じてとられる立場は
c a r d
i n a
l i s t のそれではなく︑寧ろ
o r d i n a l i s t i c
なもので
あ る
︒
( 4
)
J . J
.
S p e n g l e r , "
T h
︑ e
P o p u l a t i o n O b s t a c l e t o E c o n o m i c B e t t e r m e n t
"
, A m e r i c a n E c o n o m i c R e v i e w , M a y
1 9
5 1
,
P .
3 5 2 ; A n t h o n y
Y .
C•
K o o ,
"
P e r C a p i t a
R a t e o f E c o n o m i c G r o w t h
"
, W e l t w i r t s c h a f t l i c h e s A r c h i v , B d . 7
4 ,
H
e f t
1 ,
1
9 5
5 ,
e s
p . C h a p t e r s
I I
&
I V .
技術的進歩が経済発展に貢献する仕方は幾つかある︒例えばシュムペーターの﹁新結合﹂
n e u e K o m b i n a t i o n
と し
て知られる五つの範疇に含まれた新生産物の創造︑新生産方法の導入︑新販路の開拓︑新資源の獲得及び新組織の
( 1 )
形成といったものは全て生産係数の上昇を伴った新しい﹁生産函数﹂の成立を意味しているが︑
的進歩以外の何ものでもない︒技術的進歩が科学・知識の発達と密接な関係にあることは明白であるが︑更にそれ
にも況して有力な推進者となるのは企業者の独創性 11 開拓者精神である︒
釈 す
る ︒
シュムペーターの﹁新結合﹂も広く経済の﹁革新者﹂
i n n o v a t o r
即ち不断により大なる利潤追求を目標とし
て生産計画を樹立し︑ 三︑抜術的進歩と経済成長
遂行する企業者の立場から採用されたものである︒従ってより大なる利潤獲得に役立つ方法
は全て技術的進歩と看倣される︒葱でわれわれは技術的進歩という語の示唆する範囲に制約されないために︑
( 2 )
ムペーターに倣つてこれを﹁革新﹂
i n n o v a t i o n
と改めておこう︒
ところで通常の生産函数は産出高を生産要素たる資本及び労佑の函数として示すものであるが︑
経済成長と経済厚生に関する一試論︵高本︶
四
k .
E . B o u l c i i n g , ^ ︵
I n c o m e o r W e l f a r e ,
"
R e v i e w o f E c o n o m i c
これは広義の技術
絃ではそれを極めて拡張された意味で解
シ ュ
この資本と労仇
214
る ︒ 新の妓果をこのような見地から再吟味してみたい︒
紐済成長と経済厚生に関する一試論︵高本︶
と
Gw
の組合せを決定するものは技術的条件である︒そして﹁革新﹂が導入されると︑
る︒若しその導入以前よりも一定産出高を生産するに必要な資本量の労佑量に対する比率
( K
‑ L
)
が上昇するなら
ば︑その﹁革新﹂は
労仇節約的と呼ばれ︑この比率が低下するならば︑ I J
し要素組合せの仕方に変化なく︑単に生産係数のみの上昇となる﹁革新﹂は
中立的 I J
I I
といわれる︒第一節の自然
成長率においてはこの
中立的 I I
I I 革新が仮定されていた︒絃では一人当り所得成長の基本的要因としての技術的革
先 づ
中立的 I I
f l 革新が進行する場合の
G n
の径路及びその
G w
との関連から
G h
た︒そこでは﹁革新﹂は G に含まれる概念であったが︑それが a にも影響を与えることは勿論であって︑革新
が中立的なる以上︑労仇の生産性と資本のそれとは平行して上昇するから︑
資本節約的 I I
I I と呼ばれる︒これに対
の行動をみる試みは既になされ
企業者が資本の完全利用を維持しつつ
極大利潤を確保するに必要な所得成長率は自然成長率と比例したものとなろう︒ 又この成長過程を通じて労仇と資
本の相対的分前も不変に維持されるであろう︒ところが基本的に資本ー労仇比率が技術的条件と喰違う場合︑即ち
恒常的に生産要素の一方に相対的余剰がある場合はどうであろうか︒中立的革新を仮定すれば︑ このような恒常的
な相対的過剰要素の存在は解消することがなかろう︒そして現実の成長は常に相対的過少要素の完全雇用と両立す
る成長の一線によって天井を劃されるであろう︒このような状態を救済するのは技術的条件の変化以外にない︒即
は接近した発展の線を辿ること ち相対的過剰要素の使用を増大させるような﹁革新﹂の導入によって︑
G n
( 3 )
が可能になる︒斯くて労仇節約的
f l 革新と資本節約的革新の致果もさしたる困難なしに考察することが出来 この組合せの仕方の変ることがあ
四
---今• 一--―• 一‑」
21S
G s C
r 1 1
s
ー
d そこで労仇節約的
I I 革新についてみる︒先づこの種の﹁革新﹂
う︒何故なら︑この革新は産出物単位当り必要労佑量の低下ーー労佑の相対的分前の減少ーーを意味し︑従って継
上 昇
し ︑
続的に労佑の完全雇傭を維持するためには︑即ち
G n
の値を不変に維持するためには︑必要資本係数
C r
が急激に
しかもそれを満たす貯蓄の供給がなければならない︒
しないから︑貯蓄供給の不足が生じる︒蕊に長期的失業ーー'所謂技術的失業ーー!の発生する可能性が生れる︒
企業者はこの革新の導入によって︑産出物単位当り労佑投入量の節約に基づく費用低下
1 1
利潤増大ーー←或はケイン
( 4 )
ズーハンセン流の表現を用いれば︑資本の限界炊率表の上方シフトー│'を期待し得るから︑極大利潤を実現する
には更に資本資産の投下を増大ーー'資本の﹁深化﹂ー│'する必要を認めるであろう︒こうして
C r
方︑成長する資本ストックの完全利用を保証すべき G
も又増加する︒これは貯蓄供給の増加に役立つから︑
a
の径路は漸進的な均衡成長のそれとなろう︒
( 5 )
を加えて次のように示している︒
四
ハロッドはこの状態を資本の深化を示す一項 d
︵ こ
の 場
合 正
の 値
を と
る ︶
斯くて
労仇節約的革新の導入によって︑ a は G よりもより大なる成長を遂げる︒ところで若し︑この経済が技 1 1
術的条件から従来資本過剰の状態にあったとすると︑結果は異つてくる︒そこでは遊休資本の復活操業が可能であ
り ︑
C r
の上昇も︑従って又 a の上昇もみられないであろう︒この場合の有炊な恒常成長径路は G によって決定さ
れているからである︒しかるに若し存在する過剰遊休資本が比較的少く︑
労仇節約的 1 1
f l 革新の期間が充分長引くな
らば︑早晩 G が G を超えることとなろう︒このような特異な状態は︑過剰要素が労佑であるときには︑又異った
経 済
成 長
と 諾
済 厚
生 に
関 す
る 一
試 論
︵ 高
本 ︶
の上昇が起る
一 方
︑
しかるに所得成長はそれと一致する程急速には進行 が導入されると︑
Gn
の値は小さくなるであろ
216
証 済
成 長
と 経
済 厚
生 に
関 す
る 一
試 論
︵ 高
本 ︶
( 6 )
様相を呈する︒この経済では G が a を上廻つている筈であって︑労仇節約的
I I 革新の導入はこの差を縮めるの
には役立つが︑他方慢性的失業︵技術的失業者を含む産業予備軍︶というこの経済の根本的疾患を一層悪化せしめる結
果 と な ろ う ︒ この経済では労佑の生産性が低く︑産出高従って又国民所得も低額であり︑加えて貯蓄性向も低いので
的失業者である︒そしてこの傾向は漸次激化してくる︒ 貯蓄の供給が少く︑このため資本の蓄積が遅れているから︑
労佑節約的 I J
f l 革新の導入によって先づ生ずるのは附加
つまりこの経済では革新による
C r
の上昇に対して a は
一方人口増加率はやはり資本蓄積率を上廻るので失業
者の生産過程への吸収以上に労佑人口が増加し︑ これが過剰労佑人口の累積となる︒ しかし資本蓄積の速度が従来
より早くなることはこの経済にとつては好ましく︑他の型の革新への切替えによって将来急速な成長を遂げる可能
性を残し得よう︒
次いでわれわれは
資本節約的 I I
I I 革新の炊果をみなければならない︒この場合には労仇節約的革新と略々対
照的な結果が得られる︒即ち
C r
増加によって産出高を増加し︑ が一時急激に低下し︑以後かなり低い率を維持するのに伍して︑ a
下しよう︒そして
G n
も一定に止つているという保証はないように思われる︒企業者は革新の結果︑
より大なる利潤の獲得を期待するが︑労仇供給は限られているから︑
分満たされず︑従ってその資本資産の一部を遊休せしめることとなろう︒ 充分増加せず︑従って貯蓄供給の増加も急速には進まない︒
も恐らく低
労佑扉傭量の
この必要は充
この遊休資本の出現による産出高の減少
は附加的労佑によって可能となる産出高への追加を以て補償されるが︑通常前者は後者より遥かに大であって︑こ
のため補償されぬ部分が生ずるから︑企業者に利潤極大を保証する均衡成長率は寧ろ引下げられざるを得ないであ
ろう︒そして他の一つの結果として労仇の相対的分前の増加がみられよう︒労佑需要が資本需要に比してより充足
四 四
---—-—--——- ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ̲
--ゞ-·~217
経済成長と経済厚生に関する一試論︵高本︶
第一表はこの問題への端緒となろう︒それによると︑
本の額は一九世紀後半以降最近まで特殊な時期を除くと上昇の一途を辿つている︒
的であったことの証明に他ならない︒しかし労仇節約の程度がこの表の数字に現われた通りの単純なものであっ いたかという問題に立向わねばならない︒ 既に述べた通りである︒しかるにこれまでの﹁技術的革新﹂ が︑程度の差を別とすれば概してこの経過が辿られるであろう︒ただ何れの場合にも︑
G n
の優位は動かないから労
佑供給の恒常性が発展の速度に大きく作用することは否めない︒
斯くして概略乍ら﹁技術的革新﹂が経済の自然成長及び保証された成長の上に与える炊果を検討し終えた︒
てそれぞれの場合における G の行動は︑絃で得られた結果から有炊な
G n
又 は
G w
を︑前節で検討した
G h
の 有
妓な方程式に適用することによって明らかにされよう︒
G h の行動が直ちに経済厚生成長の図式に反映されることも
進められてきた︒しかしいまや技術及び経済の歴史に徴して︑如何なる型の﹁革新﹂が経済発展の基礎に支配して 本の出現することを阻止する理由は全くない︒
四 五
これは技術的革新が
労佑節約 I I 困難なことがこの革新の放果を少しく異ったものにしていることは注意さるべきであろう︒ つ ま り
労佑節約的 I I
革新におけると●資本節約的革新におけるとで︑ G は全く対照的とはならないのである︒ところでこの場合にも︑
労佑と資本の何れかが体系にとつて過剰となっていれば︑結果は異つてくる︒若しこの経済が労佑過剰型であれば︑
G は従来より高率で上昇し得るし︑ G も或は低下せず寧ろ上昇を示すかも知れないが︑資本過剰型であれば︑逆
に G の低下を一層急速にし︑遊休資本の更により大なる発生を招くであろう︒尤も前者の場合と雖も早晩遊休資
これらの結果は資本節約の程度に依存しているから断定は出来ない
そ し
の考察はその一般的可能性の範囲内で焦点を定めずに
日 本
︑
アメリカ及びイギリスにおける労仇人ロ一人当り資
218
第 1 表 労仇人口 1 人当り国際単位
(I U) による資本
(都市及び農村の土地を除く)
│
日 本 I ア メ リ カ I イギリス
1 8 6 5 3 , 6 8 0
1 8 7 5 4 , 2 8 5
1 8 7 9 2 , 1 5 5
1 8 8 5 5 , 3 8 0
1 8 8 9 2 , 7 4 5
1 8 9 5 6 , 0 1 0
1 8 9 9 3 , 6 6 2
1 9 0 5 6 , 7 5 0
1 9 0 9 4 , 2 0 0 6 , 6 3 0
1 9 1 3 6 4 0 6 , 7 1 0
、 1 9 1 9 1 , 1 5 0 5 , 0 6 0 1 ! } 2 4 1 , 6 6 0
1 9 2 9 5 , 6 6 0
1 9 3 0 2 , 3 8 0
1932‑34 6 , 6 6 0
1 9 3 9 5 , 8 2 0
経済成長と経済淳生に関する一試論︵高本︶
( 註 ) C o l i n C l a r k , C o n d i t i o n s of Econo ―
m i c P r o g r e s s , 2nd e d . , P P . 486‑89 ( 邦
訳、下巻、 P P .462‑65) より。
そして第三次産業において過剰労
ける科学と文化の発達を反映して極めて顕 著なものであったことは衆目の等しく認め るところである︒そうとすれば︑総人口従
つて又労仇人口は殆ど例外なしに各経済で
成長し続けてきているから︑技術的乃至潜 在的失業者を含む遠大な産業予備軍が成長
してきていなければならない︒しかるにこ
の種の失業の長期的慢性的傾向を示すデータは全くみられない︒その理由はいうまでもない︒
労仇節約的 I I
f l 革新
( 7 )
に対する相殺要因が作用していたのである︒これを具体的にいえば︑第三次産業即ち主としてサービス産業が今世
( 8 )
紀に入って特に急速な発展を遂げてきたということになる︒第三次産業は運輸産業の如き例外はあるが︑一般に第 二次産業に比して資本必要量が少く︑逆に労佑必要盪が大であり︑その発展自体が支配的革新の齋らす不幸な結果 を救済する方向に作用する︒斯くておおまかにいえば︑経済成長の過程は
労仇節約的 I J
f l
i革新によって 第一次産業
から過剰労仇をボイコットし︑第二次産業の資本ストックを著しく増大せしめ︑
佑を吸収しつつ進行することになる︒この過程は第三次産業の発展のない場合よりも寧ろ円滑且つ急速な発展を示 すであろう︒即ち︑慢性的失業の発生は可詣なる生産力を部分的に潜在化せしめることに他ならず︑
これは掏衡所
後半以来の産業技術の進歩が︑その間にお たと速断することは許されない︒十八世紀
四 六
• 一 ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ .、-―一―-~•
219
第 2 表
経 済
成 長
と 経
済 厚
生 に
関 す
る 一
試 論
︵ 高
本 ︶
労 1 カ人口 1 人当り賃銀・俸
給額
A = 農業以外の賃銀・俸給額 ( 1 0 0 万 IU)
B = 求職人口 ( 1 0 0 万人)
C=A/B ( I U )
にすれば技術的失業のない場合よりも遥かに低額のものとなろう︒
下 層 所 得 階
級 の 主 要 構 成 員 た る 賃 銀 労 仇 者 の 経 済 厚 生 の 動 向 を 知 る の に 有 用 で あ ろ う 。
2 . イ ギ リ ス
I 1 8 8 0 I 1 9 1 1 I 1 9 3 0
A C B l 4 , 1 9 5 6 . 7 6 9 , 2 9 0 3 . 2 5 1 4 , 2 6 1 4 . 4 4 3 1 8 . 4 4 8 4 . 5 6 8 4 . 3 I
3 . フ ラ ン ス
I 1 8 8 6 I 1 9 1 1 I 1 9 3 0 I 1 9 3 8 A 1 , 9 8 0 . 5 3 , 1 9 6 . 9 I 5 , 8 0 8 . 7 5 , 1 2 9 . 6 B 1 5 . 2 1 7 . 7 1 8 . 3 1 7 . 7 C 1 3 0 . 3 I 1 8 0 . 6 3 1 7 . 4 2 8 9 . 8
( 註 ) C . C l a r k , C o n d i t i o n s of E c o n o ‑ m i c P r o g r e s s , PP.46‑47 (邦訳、上 巻 、 P P .40‑41) P . 6 3 (邦訳、上巻、
P . 5 6 ) P . 5 2 3 ( 邦訳、下巻、 P .4 9 5 )
の各表より作成。
四 七
得成長率を潜在的なそれより乖離せしめることとなって︑極大成長の実現を不可能ならしめる︒第三次産業の発展
はこの社会的損失を防止する役割を果してきたわけである︒しかもそれだけに止まらない︒長期失業の存在は労仇
の相対的分前の趨勢的減少を不可避とするから︑所得分布の様式をも変化させてきたとみるぺきであろう︒即ち第
三次産業の発展によって︑低下すべき筈の労佑人ロ一人当り賃銀所得は低下せずして寧ろ上昇さえしてきた︒第二
発展せず技術的失業が生
れれば︑被傭労佑者の実
質賃銀水準はその生産性
の増大にも拘らず殆ど上
それは一人当り所得が社会
全体の生産所得が壼らす経済厚生の変動傾向を示したのに対し︑所得分布の様式の変化によって決定される経済厚
生の修正方向を明らかにする︒ ﹁労佑人ロ一人当り賃銀所得成長率﹂
の
概 念 は
1 . ア メ リ 力
I 1 9 1 9 I 1 9 2 9 I 1 9 3 8
A 3 1 , 9 8 6 1
1 5 , 匹 1 蛤 , 1 釘
,,I , ,
15 3 , 5 8 0 B 4 1 . 8 I 5 3 . 5
C 7 6 5 . 2 1 . 0 1 s . o l
も被傭者数は減少してい
るから︑これを一人当り 昇しないであろう︒しか 表は略々その傾向を示唆
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