学位論文要約(博士(理学))
論文著者名
高橋 美由紀論文題名:The role of Cdk5 in the mental activity: Behavior and biochemical analyses of mouse
(邦題):精神活動におけるCdk5の役割 ―マウスの行動及び生化学的解析―(英文)
本文
うつ病など精神疾患の増加は大きな社会問題の一つである。精神疾患は神経活動の 制 御 異常 によ ると 考えら れ てい るが 、発 症の分 子 機構 は殆 んど 判って い ない 。 Cyclin-dependent kinase 5 (Cdk5)は、哺乳動物脳に発現する多機能性プロテインキナーゼ である。シナプスにも存在し、シナプス伝達の閾値を決めている因子と考えられている。
精神疾患に用いられている薬の多くはシナプス伝達効率を制御している。このことから、
Cdk5が精神活動に関わる可能性が考えられるが、Cdk5と精神疾患との関与を示す報告 は少ない。Cdk5及びCdk5関連因子のいくつかに注目して、Cdk5が精神活動にどの ように関わるかを解析した。具体的には、(1)バルプロ酸(VPA:valproic acid)処理 マウス、(2) Cdk5活性化サブユニットp39KOマウス、(3)Cdk5の基質であるLemur Kinase I (LMTK1)のKOマウスなどの行動解析及び、(4)精神活動に関わるセロトニン 受容体のCdk5によるリン酸化である。
(1) 気分障害の治療薬として用いられているVPAはp35の分解を促進してCdk5 活性を低下させた。VPA投与マウスを用いてCdk5活性と行動の関連を調べた。VPA 投与群ではコントロール群と比べて有意にうつ・不安様行動が増加しており、Cdk5 活性がうつ・不安様行動に関与する可能性が示唆された。(2)Cdk5にはp35とp39の 2つの活性化サブユニットが存在する。p35KOマウスは脳構造に異常があるが、p39KO
マウスは明確な異常を示さない。p39KOマウスはVPAに対して、野生型マウスより 高い感受性を示したが、VPA の慢性投与で野生型マウスに比べてうつ・不安様行動が 軽減されるという予想に反する結果が得られた。(3) Cdk5 の基質の一つ LMTK1 は、
神経突起伸長を制御する。神経突起の形成や伸長異常は、回路形成を介して、精神活動 にも影響する可能性が高い。LMTK1 KO マウスの精神活動を行動実験により調べた。
LMTK1 KO マウスでは野生型マウスに比べ、高い多動性と攻撃性を示した。運動協調
性も亢進しており、うつ・不安用行動が減少していた。(4)Cdk5セロトニン1A受容体 の314番目のThrをリン酸化していた。以上の結果から、Cdk5活性は不安・うつ様 行動、多動、攻撃性、運動協調などの精神活動に関与することが示唆された。但し、
その関連性はそれ程単純ではなく、今後のさらなる研究が必要と考えられる。