氏 名 ・(本籍) 太田 翔三(新潟県)
専 攻 分 野 の 名 称 博士(医学)
学 位 記 番 号 医博甲第 1012 号 学 位 授 与 の 日 付 令和 2 年 3 月 24 日
学 位 授 与 の 要 件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研 究 科 ・ 専 攻 医学系研究科医学専攻 学 位 論 文 題 名
論 文 審 査 委 員 (主査) 寺田 幸弘 教授
論 文 審 査 委 員 (副査) 飯島 克則 教授 中山 勝敏 教授
An Early Onset Neuronopathic Form of Acid Sphingomyelinase Deficiency:A SMPD1 p.C133Y Mutation in the Saposin Domain of Acid
Sphingomyelinase (早期発症神経型酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損
症:酸性スフィンゴミエリナーゼサポシンドメインにおける
SMPD1
遺伝子 の新規変異p.C133Y
についての検討)Akita University
学
位 論 文
内容 要 旨
An Early-Onset Neuronopathic Form of Acid Sphingomyelinase Deficiency:
A SMPD1 p.C133Y Mutation in the Saposin Domain of Acid Sphingomyelinase
(早 期 発 症 神 経 型 酸 性 ス フ ィ ン ゴ ミ エ リ ナ ー ゼ 欠 損 症 : 酸 性 ス フ ィ ン ゴ ミ エ リ ナ ー
ゼサ ポ シ ン ド メ イ ン に お け る SMPD1
遺 伝 子 の 新 規 変 異p.C133Y
に つ い て の 検 討)
申 請 者 氏 名
太 田 翔 三
研
究
目
的
酸 性 ス フ ィ ン ゴ ミ エ リ ナ ー ゼ (a c i d s p h i n g o m y e l i n a s e : A S M) の 欠 損 で 生 じ る 酸 性 ス フ ィ ン ゴ ミ エ リ ナ ー ゼ 欠 損 症 (A S M d e f i c i e n c y : A S M D) は 、A S M を コ ー ド す る S M P D 1 遺 伝 子 の 変 異 に よ り 発 症 す る 常 染 色 体 異 常 劣 性 遺 伝 性 疾 患 で あ る 。 重 症 度 に よ り 、 早 期 発 症 神 経 型 (N i e m a n n - P i c k 病 A 型 )、 遅 発 性 非 神 経 型 ( 同 B 型 )、 そ の 中 間 型 が あ り 、 こ れ ら の 違 い は A S M の 残 存 酵 素 活 性 の 程 度 に よ る と 考 え ら れ て い る 。
近 年 、A S M の 結 晶 解 析 に よ り 、 そ の 3 次 構 造 や N 末 端 に 存 在 す る サ ポ シ ン ド メ イ ン の 機 能 上 の 役 割 が 明 ら か に さ れ た 。サ ポ シ ン ド メ イ ン は 4 つ の α ヘ リ ッ ク ス(H1、H2、
H3、H4)か ら な る 構 造 で 、H1と H4 の 間 に 2 本 、H2 と H3の 間 に 1 本 の ジ ス ル フ ィ ド 結 合(S- S 結 合 )が 存 在 す る 。S M P D 1 遺 伝 子 変 異 を 示 す 患 者 に お け る 遺 伝 子 型 と 表 現 型 、特 に 臨 床 上 の 重 症 度 と の 検 討 は 、A S M の 結 晶 解 析 に よ る 知 見 を 用 い る こ と に よ り 、A S M の 構 造 と 機 能 の 関 係 を 理 解 す る 上 で 非 常 に 有 益 た り う る 。
今 回 、N i e m a n n - P i c k 病 A 型 を 呈 し た 日 本 人 幼 児 に て 同 定 し た 、S M P D 1 遺 伝 子 に お け る 新 規 変 異 p . C 1 3 3 Y に つ い て 、A S M 酵 素 活 性 低 下 の 程 度 と A S M 蛋 白 サ ポ シ ン ド メ イ ン 領 域 に お け る 3 次 元 構 造 へ の 影 響 に つ い て 検 討 ・ 考 察 を 行 っ た 。
研
究
方
法
症 例 は 日 本 人 の 両 親 を も つ 4 か 月 の 女 児 で 、 ほ ぼ 満 期 産 で あ っ た が 出 生 体 重 2052g、 身 長 43.5cm と 小 柄 で あ り 、 発 達 遅 滞 、 肝 脾 腫 、 耳 介 低 位 な ど の 臨 床 症 状 を 呈 し た 。 精 査 に て 肝 不 全 、 低 HDL 血 症 、 眼 底 所 見 と し て の チ ェ リ ー レ ッ ド ス ポ ッ ト 、 骨 髄 中 泡 沫 細 胞 を 認 め 、 最 終 的 に 線 維 芽 細 胞 に お い て ASM残 存 酵 素 活 性 を 認 め ず ASMDと 確 定 診 断 し た .そ の 後 の 経 過 は 肺
炎 を 繰 り 返 し 、 急 激 な 神 経 機 能 の 低 下 を 呈 し 、3 歳 1 か 月 で 肝 不 全 お よ び 呼 吸 不 全 の た め 死 亡 し た 。
ASM の 酵 素 活 性 は 1 4C-ス フ ィ ン ゴ ミ エ リ ン を 用 い て 測 定 し た 。 培 養 皮 膚 線 維 芽 細 胞 に お け る ASM 蛋 白 発 現 量 は 免 疫 ブ ロ ッ テ ィ ン グ を 用 い て 評 価 し た . 患 児 、 母 親 、 コ ン ト ロ ー ル 1 名 を 対 象 に PCRダ イ レ ク ト シ ー ク エ ン ス に よ っ て SMPD1 遺 伝 子 解 析 を 行 っ た 。さ ら に 正 常 SMPD1 遺 伝 子 お よ び 同 定 し た 変 異 を 含 む SMPD1 遺 伝 子 の 両 者 cDNA 遺 伝 子 を 部 位 特 異 的 変 異 誘 導 法 に て 作 成 し 発 現 ベ ク タ ー へ サ ブ ク ロ ー ニ ン グ し 、COS-7細 胞 に 導 入 発 現 し た 条 件 で 、1)ASM酵 素 活 性 、2)細 胞 内 局 在 の 変 化 、 2 つ の 評 価 を 行 っ た 。
本 研 究 は 秋 田 大 学 医 学 部 附 属 病 院 倫 理 委 員 会 の 承 認 を 受 け 施 行 し た 。
研
究
成
績
患 児 の ASM 酵 素 活 性 は コ ン ト ロ ー ル に 比 し て 著 し い 低 下 を 示 し た が 、ASM 蛋 白 発 現 量 は 患 児 と コ ン ト ロ ー ル に お い て 同 程 度 で あ っ た 。 患 児 か ら SMPD1 遺 伝 子 に お け る c.398G>A
(p.C133Y) 変 異 を 同 定 し た 。 部 位 特 異 的 変 異 誘 導 法 に て 作 成 し た p.C133Y 変 異 を 導 入 し た COS-7 細 胞 の ASM 酵 素 活 性 は ほ ぼ 失 わ れ て い た 。 ま た COS-7 細 胞 で の 遺 伝 子 変 異 に よ る 細 胞 内 局 在 の 観 察 で は 患 児 と コ ン ト ロ ー ル 間 で の 違 い を 認 め な か っ た 。
SMPD1 遺 伝 子 内 の サ ポ シ ン ド メ イ ン を コ ー ド す る 領 域 に お け る 既 報 の 変 異 は 9 種 類 あ り 、 そ の 表 現 型 は 遅 発 性 非 神 経 型 も し く は 中 間 型 の み で 、 本 例 の よ う に 早 期 発 症 神 経 型 の 表 現 型 を 呈 し た 例 の 報 告 は な か っ た 。 さ ら に そ の う ち 3 種 類 の 変 異 で は 、 本 例 と 同 じ く サ ポ シ ン ド メ イ ン 内 の SS結 合 を 形 成 す る シ ス テ イ ン を 他 の ア ミ ノ 酸 へ 置 換 す る も の で あ っ た が 、こ れ ら は い ず れ も H1 と H4 間 の S-S 結 合 に つ い て で あ り 、H2 と H3 間 の S-S 結 合 に 関 す る も の は 本 変 異 の み で あ っ た 。
結
論
SMPD1遺 伝 子 の 新 規 変 異 p.C133Y は 、ASMの 酵 素 活 性 を 著 し く 低 下 さ せ る こ と に よ り 、早 期 発 症 神 経 型 ASMDを 呈 す る 遺 伝 子 型 で あ る 。同 変 異 は ASMの サ ポ シ ン ド メ イ ン 内 の H2 と H3の 間 に 存 在 す る 唯 一 の S-S 結 合 の 形 成 を 阻 害 す る こ と で 、 サ ポ シ ン ド メ イ ン の 3 次 構 造 に 影 響 を 与 え た と 推 測 さ れ る 。こ れ ら の 結 果 か ら 、ASMが 正 常 な 蛋 白 発 現 量 お よ び 細 胞 内 局 在 を 保 っ て い て も 、 サ ポ シ ン ド メ イ ン の 3 次 構 造 の 異 常 が ASM の 酵 素 活 性 を 著 し く 低 下 さ せ う る こ と か ら 、 そ の 酵 素 機 能 上 の 重 要 性 が 示 唆 さ れ た 。
Akita University
学位(博士-甲)論文審査結果の要旨
主 査: 寺田 幸弘
申請者: 太田 翔三
論文題名:An Early-Onset Neuronopathic Form of Acid Sphingomyelinase Deficiency:
A SMPD1 p.C133Y Mutation in the Saposin Domain of Acid Sphingomyelinase
(早期発症神経型酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症:酸性スフィンゴミエリナー ゼ サポシンドメインにおけるSMPD1 遺伝子の新規変異 p.C133Y についての検討)
要旨
著者の研究は、論文内容要旨に示すように、最重症型である酸性スフィンゴミエリナーゼ 欠損症(ASM 欠損症)早期発症神経型を呈した日本人幼児症例の遺伝子解析から SMPD1 遺伝 子における新規変異 p.C133Y を同定し、酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)蛋白の結晶解 析の結果をもとに、遺伝子レベルの変異とその 3 次元構造への影響の解釈を行っている。そ のために,皮膚線維芽細胞における ASM 酵素活性を 14C-スフィンゴミエリンにて、また ASM 蛋白発現量を免疫ブロッティングにて測定している。さらに正常SMPD1 遺伝子および同定し た変異を含むSMPD1 遺伝子の両者 cDNA 遺伝子を部位特異的変異誘導法にて作成し発現ベクタ ーへサブクローニングし、COS-7 細胞に導入発現した条件で、ASM 酵素活性および細胞内局在 の変化を評価している。
本論文の斬新さ、重要性、実験方法の正確性、表現の明瞭さは以下の通りである。
1) 斬新さ
本例におけて同定された変異は、SMPD1 遺伝子における新規のミスセンス変異である。既 報 7 例の類似の変異(ASM サポシンドメインをコードする領域のミスセンス変異)の表現型 がいずれも遅発性非神経型もしくは中間型のみであったのに対し、本例は最重症の早期発症
神経型を呈したことが示されている。その理由がサポシンドメインの構造上の変化、すなわ ちヘリックス 2 とヘリックス 3 の間にある唯一のジスルフィド結合の崩壊、にある可能性を 指摘しており、近年進んでいる ASM 蛋白の結晶解析の結果をふまえて考察している点に斬新 さがあると考えられる。
2)重要性
ASM 欠損症の新規変異の発見に加えて、研究結果から ASM におけるサポシンドメインの重 要性を示したことは、ASM 酵素活性のメカニズムのさらなる究明において有用であると考え られる。また ASM 欠損症に対して,ASM の酵素補充療法の可能性が検討されている昨今にお いて、ASM 蛋白についての新たな知見を得ることは臨床的な意義も有している。
3)研究方法の正確性
患児の父の遺伝子解析が行えず不明なままであったことは、本研究におけて理論的脆弱性 を生じさせえた。これに対し、SMPD1 遺伝子の今回の変異を含む Exon に関して、児の DNA を 用いた MLPA(Multiplex ligation-probe amplification)法にて、少なくとも父由来のアレ ルの欠失はないことを間接的に示すことで患児の遺伝子変異がホモであることの間接的証明 とした点は、研究の正確性の面で評価できる工夫と考える。
4)表現の明瞭さ
ASM 欠損症 早期発症神経型を呈した日本人幼児症例から新規変異を同定したこと、この 変異をもつ ASM は wild type の ASM と比べて、蛋白発現量や細胞内局在に違いはないにも関 わらず、酵素活性が欠損しているということ、またサポシンドメインの構造異常と ASM の酵 素機能についての考察、以上を簡潔かつ明瞭に記載していると考える。
以上述べたように、本論文は学位を授与するに十分値する研究と判定された。