修士論文要旨
「正
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面体クラスター上の量子スピンの磁気的性質」Magnetic property of quantum spins on an icosahedral cluster
中央大学大学院 理工学研究科 物理学専攻学籍番号:
09N2100019C
春原 和浩1. 準結晶・近似結晶について
準結晶は、1980 年代に発見された新しい相に属する固体である。従来より知られていた 固体結晶と異なり、周期性を持たずに秩序だった原子配列をしていることが特徴である。
準結晶のもつ原子配列は、物理的空間の次元(d)よりも高次元(D>d)において周期配列した高 次元周期系の一部分を d 次元に射影したものとして理解できることが知られており、原子 の座標は D 個の指数によって表される。D 次元空間から d 次元空間へ射影する際に、無理 数の傾きと、有限の大きさを持った窓を用いて原子を選択すれば d 次元空間に準周期格子 を作ることができる。窓の傾きを有理数近似した場合、準周期系と局所的に同じ構造を持 つが、周期的な格子系が作り出せる。このような原子配列をした結晶を近似結晶と呼ぶ。
こうして作られた 3 次元の準結晶とその近似結晶は、いずれも正二十面体の対称性を有し たクラスターを構成要素に持つことが知られている。
2. Cd-RE 系近似結晶について
2000 年に Tsai 等が Cd-Yb の二元系準結晶及び、その近似結晶を発見した[1]。この準
結晶、近似結晶はその構成要素に正二十面体の対称性を有した、特徴的なクラスターを持 ち、Tsai 型クラスターと呼ばれている。Tsai 型クラスターを構成する第一シェルは正四面 体の頂点位置に Cd 4 、第二シェルは正十二面体の頂点位置に Cd 20 、第三シェルは正二十面 体の頂点位置に Yb 12 があり、それらを覆うように切頭二十面体と呼ばれる、正二十面体の 対称性を保持した多角形上に Cd 30 が並んでいる。(図1を参照)
近似結晶は準結晶からの近似の度合いに応じて 1/1 近似結晶(図 1 の a)と 2/1 近似結晶(図
1 の b)が存在する。1/1 近似結晶は Tsai 型クラスタを体心立方格子の頂点座標に配置した
ものとなっている。この Cd-Yb 系準結晶及び近似結晶は、他に見つかっている三元系の 3
次元準結晶と異なり、各サイトに入る原子の種類が完全に決まっているために、原子位置
を占有する原子種に関するディスオーダー等の影響を除いた準周期系固有の物性が観測さ
れるとの期待から、盛んに研究されている。 Cd-Yb 近似結晶の Yb サイトを全て同一の他の
希土類元素に置き換えた物質群 Cd 6 RE も発見され、 Cd-Yb 系と同一の構造を持つことが知
られており、これらの物性測定も進んでいる。
図
1:Cd-Yb
系近似結晶の単位胞とTsai
型クラスタ。この図は[2]より引用したもの。3. Cd 6 Tb に関する先行研究とモチベーション
Cd 6 Tb 系近似結晶等の系について田村らは低温の磁化測定を実施した[3]。その中で、従 来より知られていた高温側における秩序-無秩序の構造相転移の他に、低温(10-20[K])にお ける磁気相転移を観測した。 (図 2 参照)この相転移の原因に関する手がかりを得ることが本 研究の目的の一つである。また正二十面体上のスピン系はフラストレートしているため、
その特徴を見たいと思っている。
図
2:Cd
6Tb
系近似結晶の磁化率測定の結果。このグラフは[3]より引用したもの。4.数値計算法
本研究では計算を簡単にするため、Tsai 型クラスタ一つに含まれる磁性元素である RE 原子のサイトからくるスピン間相互作用を次のような有効相互作用で表し、その行列を対 角化することで磁化率などを物理量を計算した。
このハミルトニアンは 12 個の RE 原子の座標が正二十面体の頂点となっていることを反映 し、正二十面体の対称性を有している。
行列を各々のスピンの z 成分で表せば、その次元は(2s+1)
12次元となり、s=1/2 の場合を 除けば、厳密に対角化することは困難である。そこで行列の要素をすべて保存せずとも行 列の固有値と固有ベクトルを計算することができる Lanczos 法というアルゴリズムを利用 したプログラムパッケージ ARPACK を利用して、 s=1 のハミルトニアンの固有値、固有ベ クトルを基底状態に近い部分のみ求めることにした。
5. 磁化過程の計算結果
計算の結果、磁気異方性を導入することにより実験から得られている Cd 6 Tb の低温にお ける磁化率のグラフとよく似た振る舞いをするグラフを得ることができた。(図 3 を参照) 低温において、反強磁性的ハイゼンベルグ模型の磁性は消えるが、磁気異方性の導入によ り、有限の常磁性成分が残ることが原因として考えられる。
図
3:s=1
の系に関する磁化過程の計算結果。赤色がハイゼンベルグ模型で、緑色は磁気異方性を導入した系。6. 磁化過程の計算結果
同様に s=1 の系について磁化過程の計算を行った結果、磁気異方性や D-M 相互作用の導 入により、高磁場側に特に大きな変化が生じた(図4参照)。これは、磁気異方性や、D-M 相 互作用を導入したことで、ハイゼンベルグ模型におけるスピンの大きな状態が分裂したた めである。低磁場側ではハイゼンベルグ模型の基底状態が縮重していないためにあまり大 きな変化はないが、高磁場側では準位が分裂したもの同士が頻繁に交差するため、階段状 の磁化過程が崩れたものと考えられる。
図