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急性骨髄性白血病に対する化学療法中に合併した

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急性骨髄性白血病に対する化学療法中に合併した Stenotrophomonas maltophilia 肺炎による致死性肺出血

社会保険小倉記念病院血液内科

森 美奈子 北川 智也 佐々木裕哉 山本 和代 大中 貴史 米澤 昭仁 今田 和典

(平成 23 年 10 月 29 日受付)

(平成 24 年 2 月 22 日受理)

Key words : Stenotrophomonas maltophilia, pneumonia, pulmonary hemorrhage, neutropenia

造血器悪性腫瘍は化学療法に対する感受性の高い疾 患であるが,治療後の好中球減少期に合併する感染症 はしばしば重篤化し致死的経過をたどることもまれで はない.発熱性好中球減少症(FN)ガイドラインに 則った速やかな広域抗菌薬の投与開始により死亡率は 以前より低下しているが1),その一方で広域抗菌薬の 使用による多剤耐性菌の出現,菌交代症の合併が問題 となっている.後者のひとつにStenotrophomonas mal-

tophilia感染症がある.本菌は高度免疫不全者に主に

肺炎や菌血症を引き起こし,広域セフェム,カルバペ ネム,アミノグリコシドなどに自然耐性を示すため治 療に難渋することが少なくない2).今回我々は,急性 骨髄性白血病の再寛解導入療法中にS. maltophiliaに よる出血性肺炎を合併し,24 時間以内に低酸素血症,

出血性ショックで死に至った症例を経験した.文献的 考察を含めて報告する.

症例:63 歳男性.

主訴:汎血球減少.既往歴:40 歳時に C 型慢性肝 炎指摘.

現病歴:2011 年 3 月下旬,近医で汎血球減少を指 摘され,4 月上旬,当科入院となった.

入院時身体所見:意識清明,眼瞼結膜貧血様,眼球 結膜黄疸なし,口腔内異常なし,表在リンパ節触知せ ず,心音整で収縮期駆出性雑音あり,呼吸音清で左右 差なし,腹部平坦で軟,肝脾触知せず,皮疹なし,下 腿浮腫なし.

入院時検査所見:WBC 1,100!μL,Hb 6.0g!dL,Plt

11.9 万!μL で WBC 分画中に芽球を 23% 認め,好中 球は 9% であった(Table 1).生化学検査では肝,腎 機能に異常を認めず,CRP 陰性,LDH348IU!L(正 常:102〜204IU!L)と上昇していた.骨髄検査では 一部 Auer 小体を有する芽球を 21.2% 認め,芽球はミ エロペルオキシダーゼ染色陽性,染色体は正常核型で あった.また腹部エコー検査上,肝は慢性炎症パター ンであり腫瘤性病変を認めず,胸部 CT 検査上,肺野 に異常を認めなかった.

臨床経過(Fig. 1):急性骨髄性白血病(AML-M2)

と診断 し,第 7 病 日 よ り cytarabine と daunorubicin 併用療法による寛解導入療法を開始した.真菌感染予 防として fluconazole(FLCZ)100mg!日の内服は行っ たが,その他の感染予防は行っていない.

第 16 病日,好中球数 50!μL まで低下 し,第 17 病 日 38.0 度の発熱を認めた.感染症を示唆する明らか な熱源を認めず,発熱性好中球減少症に対し tazobac- tam!piperacillin(TAZ!PIPC)1 回 4.5g,1 日 3 回 を 開始した.このとき採取した血液培養は陰性であった.

発熱が持続し,第 23 病日に CT,腹部エコー検査を 行った結果,肝 S6 に境界不明瞭な腫瘤性病変を認め 肝膿瘍合併と診断した.血小板数が 1 万!μL 前後であ り膿瘍穿刺による菌同定は断念した.好中球減少期は 遷延し,肝膿瘍の原因菌も不明であり,抗菌薬はより 広 域 な meropenem(MEPM)に 変 更 し,1 回 1g,1 日 3 回投与した.寛解導入療法開始後,一旦末梢血中 の芽球は消失していたが,第 32 病日の血液検査で再 度芽球を 14% 認めた.同時期の骨髄検査で骨髄芽球 は約 7 割であり AML は非寛解であった.

第 36 病 日 よ り 再 寛 解 導 入 療 法 と し て MEC 療 法

(mitoxantrone,etoposide,cytarabine)を開始した.

別刷請求先:(〒802―8555)北九州市小倉北区浅野 3―2―1

小倉記念病院血液内科 森 美奈子

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Table 1 Laboratory data on admission

Blood cell counts Chemistry

WBC  1,100 /μL TP 6.8 g/dL

blast 23 % Alb 3.6 g/dL

promyelo 1 % T.Bil 0.8 mg/dL

seg 9 % AST 18 IU/L

eosin 7 % ALT 10 IU/L

lympho 60 % ALP 166 IU/L

Hb 6.0 g/dL LDH 348 IU/L

Hct 17.6 % CK 48 IU/L

Plt 11.9×104/μL BUN 13.8 mg/dL Cr 1.07 mg/dL CRP 0.1 mg/dL Glu 114 mg/dL

微熱が続き,エコー検査で肝膿瘍のサイズは不変であ り,好中球減少が遷延しておりCandida性肝膿瘍の可 能性が考えられた.FLCZ 内服中であったが,第 36 病日,non-albicans Candidaに対しより有効性が期待 できる voriconazole(VRCZ)内服に変更した.VRCZ は初日のみ 300mg,2 回,翌日より 150mg,1 日 2 回 とした.第 37 病日以降発熱を認めず,第 39 病日 CRP は陰性化していた.しかし肝膿瘍が残存し,好中球数 は 50 個!μL 未満と高度好中球減少が遷延しており抗 菌薬は必要と考えられた.MEPM 投与期間が 2 週間 を超えており,化学療法後の血球回復までにまだ少な くとも 2 週間は要すると予測された.これまで施行し た血液培養検査よりカルバペネム系抗菌薬を要する根 拠も得られておらず,カルバペネム系抗菌薬の長期使 用を避けるため,同日 MEPM を再度 TAZ!PIPC(投 与量は初回同様)に変更した.第 49 病日,好中球 0! μL の状態で 38.5 度の発熱を認めた.肝膿瘍のサイズ は不変であり,外痔核の発赤,腫脹,疼痛と出血を認 めた.皮膚からの二次感染の可能性もあり,表皮常在 菌であるグラム陽性球菌も広範にカバーするため tei- coplanin(TEIC)を併用開始した.TEIC はトラフ 15〜

20μg!mL となるよう投与量を調節した.この時点で も血液培養検査は陰性であった.連日発熱が続き,第 52 病日は 39.6 度の発熱を認め,一時的な左胸部痛の 訴えを認めたが,咳嗽や酸素化の低下なく呼吸音は清 で左右差を認めなかった.左胸部に圧痛も認めなかっ た.口腔粘膜障害なく経口摂取良好であり,腹痛,下 痢を認めず,末梢静脈点滴穿刺部の発赤,腫脹も認め なかった.外痔核の疼痛,腫脹は持続していた.

第 53 病日朝より咳嗽,血痰,左胸部違和感を認め,

この時点では酸素化の低下は認めなかった.胸部 CT 検査を施行したところ,左肺舌区と下葉に広範な浸潤 影を認め肺炎と診断した(Fig. 2).血液検査では WBC 100!μL(芽球 0%,好中球 11%),Hb7.4g!dL,Plt1.8 万!μL,CRP21mg!dL.無顆粒球症の状態にも関わら

ず広範な浸潤影を認め重症肺炎であり,器質特異性拡 張型β―ラクタマーゼ(ESBL)産生菌を含め,より広 域な抗菌薬として MEPM を選択し TAZ!PIPC は中 止,TEIC は継続とした.

同日 15 時頃より低酸素血症が急激に進行し(Fig.

3a),気管内挿管し人工呼吸管理を開始した.このと き入院後初めて中心静脈カテーテルを右内頸静脈に挿 入した.17 時の胸部レントゲン検査では,左全肺野 の透過性低下を認めた(Fig. 3b).また挿管直後に気 管支鏡検査を施行したところ,左舌区から多量の持続 的出血を認め(Fig. 4a),その他の気管支からもびま ん性出血を認めた(Fig. 4b).この時点で,血清 D―

ダイマー 2.1μg!mL,FDP7.4μg!mL であり播種性血 管内凝固の合併は否定的であった.軽度の凝固系遷延 を認めたため血小板に加え新鮮凍結血漿の輸血を行っ たが止血困難であった.挿管時,Hb5.7g!dL に低下 しており赤血球濃厚液 4 単位輸血したが,輸血後も Hb6.6g!dL であり収縮期血圧は 60〜70mmHg を推移 した.挿管チューブより噴出する出血が持続し,低酸 素血症に出血性ショックを合併していた.その後も輸 血,補液,昇圧剤投与を行うも無効であり,第 54 病 日早朝に永眠した.

第 53 病日に採取した喀痰と気管支肺胞洗浄液のグ ラム染色ではグラム陰性桿菌を多数認めていた.死後,

第 53 病日に採取した血液,喀痰,気管支肺胞洗浄液 の培養すべてからS. maltophiliaの検出が報告された.

薬剤感受 性 試 験 の 結 果 で は,levofloxacin,minocy- cline,ST 合剤にのみ感受性を有していた(Table 2).

いずれの培養検査からも真菌は検出されず,血漿中の β-D グルカンの上昇はなく,血清中にサイトメガロウ イルス抗原やアスペルギルス抗原も認めなかった.剖 検は施行しえなかった.

S. maltophiliaはもともと病原性は低いが,バイオ

フィルム形成能を有し,多種抗菌薬に自然耐性も有し ており,高度免疫不全患者において菌血症や肺炎など 重篤な感染症の原因菌となる2)3).血液悪性疾患を有す る患者で菌血症や肺炎を合併した場合,致死率は 3〜

5 割4)〜6),本菌による肺炎に菌血症を合併した場合の

致死率は 8 割以上と報告されている6).さらに化学療 法後の高度好中球減少期に本症例のような致死性の

S. maltophilia出血性肺炎を合併することがある.われ

われの知る範囲では,これまで 9 例誌上報告されてい るがすべて血液悪性疾患に合併している7)〜11).7 例が 急性白血病7)〜9),1 例が骨髄異形成症候群10),1 例が再 発非ホジキンリンパ腫11)であり,いずれも化学療法後,

好中球 200!μL 未満,血小板 1 万!μL 台に低下してい る時期に出血性肺炎を合併し,3 日以内に死亡してお

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Fig. 1 Clinical course

Fig. 2 Chest computed tomography (CT) scan in  the  morning  of  the  53rd  hospital  day  showing  consolidation containing air bronchogram in the  lingula and left lower lobe.

り極めて予後不良であった.また 9 例中 8 例が初回化 学療法後の血球減少期にS. maltophilia出血性肺炎を 合併しており,治療開始早期から念頭におく必要があ る.本菌による致死的肺出血の発症機序は判明してい ないが,高度の血小板減少に加え,本菌が産生するプ ロテアーゼの関与が示唆されている.Windhorst らは,

in vitroで同プロテアーゼによるヒト結合組織中のコ

ラーゲンやフィブロネクチン,血清中のフィブリノー ゲンの分解,さらには線維芽細胞の破壊を証明してい る12)

S. maltophilia出血性肺炎は発症後の経過が極めて早

く,感染予防が重要と考えられる.本菌は病院内で浴 室,洗面台,吸入器,人工呼吸器などの湿潤環境由来 のアウトブレイクを引き起こすことがあり13)14),水回 りの環境整備が非常に重要である.また,菌交代症に

よるS. maltophilia感染症罹患リスクを上げないよう

広域抗菌薬の適正使用も必要と考えられる.本患者に

おけるS. maltophilia肺炎発症の原因としては,菌交

代症による内因性感染症の可能性が高いと考えられ る.本患者が入院する 4 カ月前に当院は新病院に移転 しており,本患者と同じ病棟の入院患者の喀痰や血液

培養からS. maltophiliaの検出は認められていない.ま

た本患者は気管挿管や吸入器使用歴もない.高度好中 球減少期が遷延し TAZ!PIPC や MEPM などの広域 抗菌薬使用が長期化し菌交代症を起こしたものと考え られる.

本菌に感受性を有するフルオロキノロンあるいは ST 合剤の予防内服に関しては,報告された 9 例の出 血性肺炎合併例のうち予防量の ST 合剤内服例が 38)11)

例,フルオロ キ ノ ロ ン 内 服 例 が 2 例(levofloxacin,

ofloxacin)であり9)10),これまでのところその有用性 は明らかではない.本症例ではこれらの薬剤の予防内 服は行っていなかった.治療については,本症例も含 めこれまで報告されている症例ではいずれも発熱性好 中球減少症のガイドラインに則り15),第 3,4 世代セ フェム,カルバペネムあるいはアミノグリコシド系抗 菌薬などで肺炎治療が開始されているが,今回の分離 菌と同様に本菌はこれらの抗菌薬に対し自然耐性を有 し,原因菌がS. maltophiliaと判明し有効な抗菌薬が

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Fig. 3 Chest  radiography  on  the  53rd  hospital  day  revealing  extensive  and  rapidly  pro- gressive infiltration in the left lung.

a b

Fig. 4 Bronchofiber scope examination on the 53rd hospital day showing uncontrolled ac- tive bleeding from the left upper lobe bronchus (a) and the intermediate bronchus (b)

a b

Table 2 Antimicrobial susceptibility of S.

maltophilia  isolates  tested  by  BD  phoe- nix automated microbiology system

Antimicrobial agents MIC (μg/mL)

ceftazidime >32 R

minocycline <=  1 S

levofloxacin <=  1 S

sulfamethoxazole /trimethoprim

<=19 (sulfamethoxazole)

S

開始される前に死亡している.血液悪性疾患でとくに 急性白血病の治療後,高度血球減少期に出血性肺炎を 合併した場合,S. maltophilia出血性肺炎の可能性を考 慮し,高用量の ST 合剤(trimethoprim 換算で 15mg

!kg 相当量あるいはそれ以上)や高用量の ST 合剤と フルオロキノロンの併用投与を検討すべきである2).た

だし,ST 合剤やフルオロキノロンに対する耐性化も 報告されており2)16),今後,各施設でのS. maltophilia に対する薬剤感受性の把握も重要である.また本症例 において,監視培養検査を施行していなかったが,高 度好中球減少期が遷延し広域抗菌薬の使用が長期化し ている場合,定期的に喀痰監視培養検査を施行し,S.

maltophilia定着の有無や菌量の推移を把握しておくこ

とは,重症肺炎合併時により有効な抗菌薬選択決定の 一助になるのかもしれない.この点に関しては今後の 検討課題のひとつと考えられる.

利益相反自己申告:申告すべきものなし 文 献

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Lethal Pulmonary Hemorrhage Caused byStenotrophomonas maltophiliaPneumonia in a Patient with Acute Myeloid Leukemia

Minako MORI, Tomoya KITAGAWA, Yuya SASAKI, Kazuyo YAMAMOTO, Takashi ONAKA, Akihito YONEZAWA & Kazunori IMADA

Department of Hematology, Kokura Memorial Hospital

A 63-year-old man had been treated with intensive chemotherapy for acute myeloid leukemia. On the 49th hospital day, he had febrile neutropenia after the second course of induction chemotherapy. On the 53 rd hospital day, he presented with hemoptysis and developed acute respiratory failure requiring ventilator support within several hours. On the 54th hospital day, the patient died with hemorrhagic respiratory infec- tion.Stenotrophomonas maltophiliawas detected in bacterial cultures of his blood, bronchoalveolar lavage, and sputum. To our knowledge, nine cases of fatal hemorrhagic pneumonia caused by S. maltophilia have been reported in the literature. All the patients had hematological neoplasms and were severely neutropenic after one or two intensive chemotherapy regimens. They died shortly (within 3 days) after the onset of the hem- orrhagic pneumonia. Management of the infection caused byS. maltophiliais hampered by high-level intrin- sic resistance to multiple antibiotics and the increasing occurrence of acquired resistance to co-trimoxazole and fluoroquinolones. It would be important to keep in mind that hemorrhagic respiratory infection caused byS. maltophiliamay lead to a fulminant and lethal course in severely neutropenic patients with hematologi- cal neoplasms and to recognize which antibiotic agents are more sensitive to S. maltophilia in each institu- tion.

〔J.J.A. Inf. D. 86:300〜305, 2012〕

Table 1 Laboratory data on admission
Fig. 1 Clinical course
Fig. 3 Chest  radiography  on  the  53 rd   hospital  day  revealing  extensive  and  rapidly  pro- pro-gressive infiltration in the left lung

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