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大学におけるジェンダー教育の可能性拡張に向けて-

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1.はじめに

本稿は、大学におけるジェンダー教育の可能性の拡大に向け、大学をあげて多彩なジェンダー 教育を実施しているポートランド州立大学の試みを分析し、今後の日本の大学におけるジェン ダー教育の実践にむけた示唆を得ようとするものである。

男女共同参画社会基本法の成立と共に、ジェンダー平等社会の実現に向けた様々な取り組みが なされるようになったが、男女共同参画推進の流れとは対照的にジェンダーを専攻できる大学や 大学院の数は極めて少ない。各大学でのジェンダー関連科目の開講も不十分なままジェンダーに 関する学びは停滞を余儀なくされているといわざるをえない。例えば、愛知淑徳大学ジェンダー・

女性学研究所の平林らが2007~2008年にかけて実施した日本の主要大学でのジェンダー関連科目 の体系化・プログラム化の分析においても未だジェンダー教育は十分にその可能性を開花させて いるとはいえないことが明らかになっている。また、愛知県を中心とする東海地方の大学におけ るジェンダー教育の現状に関する藤原の研究によれば、ジェンダー関連科目開講数の増加のス ピードが落ちてきている。2008年までのデータを見ると女性学・ジェンダー論関連科目を開講す る大学数もそれらの科目数も1990年代半ばから2000年までに急激に増加したがその後、開講大学 数は右肩上がりを維持しつつも国立大学で科目数が減少するなどの現象がみられる

こうしたジェンダー教育の停滞状況は何を意味するのか。大学におけるジェンダー教育の ニーズは少なくなり、ジェンダー教育を殊更強力に推進する必要はなくなっているのだろう か。あるいは大学におけるジェンダー教育の豊かな可能性を我々が十分に学ばず、その必要性 を認識していないだけなのであろうか。ジェンダー教育や研究を推進すべき研究領域や課題が まだ多く残っていることを鑑みると、まずはジェンダー教育を受ける機会が学生から奪われて いる状況やジェンダー研究を行う機関が減っている現状を打破する必要がある。それはいかに して可能なのか。

大学におけるジェンダー教育の可能性拡張に向けて

-ポートランド州立大学の学内機関の事例から-

Expanding the Possibility of Gender Education at University : Learning from Centers at Portland State University

渡 辺 かよ子

WATANABE Kayoko

石 河 敦 子

ISHIKAWA Atsuko

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こうした問いへの応答の端緒として、本稿ではまず、日本の大学における男女共同参画推進 とジェンダー研究・教育の現状と課題を把握し、これらの課題克服の可能性を拓く先進事例と して、米国のポートランド州立大学が提供するジェンダー関連機関のサービス活動と啓発事業 を概説したい。

2.女性学・男性学・ジェンダー学と大学教育 1)女性学・男性学・ジェンダー学へのニーズ

まず、ジェンダー研究成り立ちの経緯と女性学・男性学・ジェンダー学へのニーズについて 確認しておきたい。「民間学」と称される女性学は、一般女性の多様な経験と声の蓄積から大 学の外で発展してきた学問である。「女性学」という言葉自体は米国での女性解放運動を経て 大学で開講されるようになった Women's Studies を社会学者の井上輝子が「女性学」と訳す ことで生まれたが、女性学に付された「女性による女性のための女性の学問」の意味では、女 性がまだ大学に入ることが許されなかった時代、平塚らいてうらが『青鞜』を刊行した1911年 まで遡ることができる。日本でウーマン・リブがニュースになる時代より前から、女性たちは 自らの経験を言葉にする学習会を開いてきた。こうした草の根の活動例としては男女雇用機会 均等法の実現に尽力した赤松良子らが参加・寄稿してきた婦人問題懇話会、女性たちに「自分 の言葉で考え、わかる」ことを推奨してきた小西綾が1991年に87歳で開講した「ウーマンズス クール」などがあげられる。つまり、大学にジェンダーや女性学関連講座が創設される以前か ら女性学へのニーズは確実に存在していた

女性学は、女性たちが女性であるがゆえの生きづらさなどを言葉にした当事者学であること が学問界のとくに女性研究者の間で認知されるようになると、女性学に触れた男性も男性の生 きづらさや普遍的人間としてではなくジェンダー化された自己の存在に気がつくようになり、

男性学に興味を持つ男性も出現してきた。さらに男女二元論への批判や LGBT 等の当事者研 究もうまれ、さらに当事者視点だけでなくジェンダー関係を広く視野にいれたジェンダー研究 も増えてきた。アカデミズムにおける女性学・男性学・ジェンダー学の知見の蓄積は、もはや 看過できないほどの厚みを増している。これがジェンダー研究である。

北京女性会議が開催された1995年前後からジェンダー教育への関心が女性研究者や社会人女 性の間でも高まり、女性学、男性学、およびジェンダー関連科目が在学生のみならず社会人に 向けた公開講座として大学で提供されるようになった。同時にジェンダー研究や教育に資する ためのジェンダー関連施設が大学に設置されるようになった。その多くは1960年代終盤から70 年代にかけて盛り上がったフェミニスト運動の影響を受けた女性研究者が中心となって、ジェ ンダー教育の必要性を認めて開設へと導いたものである。1994年に開設された愛知淑徳大学 ジェンダー・女性学研究所もそのひとつである。

2)日本の大学における男女共同参画推進とジェンダー研究・教育の現状

男女共同参画社会基本法が公布・施行された1999年以降、各自治体や事業所においてジェン

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ダー平等社会を目指す取り組みがなされるようになった。教育現場での主な内容は政策・方針 決定過程に参画する女性を増やすこと、セクシュアル・ハラスメントなど性にかかわる差別や 不当な扱いをなくすこと、教職員に占める女性比率を引き上げることなどであるが、それらを 目標とした男女共同参画室をおく大学も増えている。ただ残念ながら各大学内での男女共同参 画推進への取り組みにおけるジェンダー研究・教育の優先順位は必ずしも高いとはいえない。

大学によってはジェンダー研究を充実させ、ジェンダー教育を推進することを事業方針に盛 り込んでいる男女共同参画室も見られるが、次世代育成支援事業などに重きをおく大学が多 い。国立大学協会が2000年に刊行した報告書『国立大学における男女共同参画を推進するため に』によると「国立大学における男女共同参画を推進するための提言」に「カリキュラムおよ び研究におけるジェンダー学の拡大充実」を含んでいる。国立大学協会は2001年からこの報告 書に基づいて追跡調査を行っており多くの国立大学がそれに応える形で男女共同参画を進めて いるはずであるが、大学によって取り組みに開きがある。例えば、東京大学では男女共同参 画基本計画として「女性学・ジェンダー研究の拡大充実」「人権学習、女性学・ジェンダー研 究関連授業の推進」を掲げている。一方でこうした項目を一切目標に掲げていない国立大学も あり、男女共同参画推進に含まれる具体的計画や方針は各機関によって異なることがわかる。

国公立大学内におかれた男女共同参画室と類似の機関におけるジェンダー研究および教育に関 係する方針・目標に着目すると<表1>のような例があげられる。

<表1> 大学が男女共同参画推進の一環として掲げるジェンダー研究・教育の目標など 大学名 機関名 ジェンダー研究・教育の目標など

北海道教育大学 男女共同参画 推進会議

教養科目「倫理・人権」の到達目標に「ジェンダーをめ ぐるさまざまな問題について理解できること」があげら れている。

岩手大学 男女共同参画 推進室

岩手大学男女共同参画行動計画に「男女共同参画および ジェンダーに関連する授業科目を整備し、教育・学習機 会の拡充をはかる」と記される。

東北大学 男女共同参画 推進センター

全学教育において「ジェンダー学」関連科目を積極的に 開講し、また総合図書館に関連文献を整備する。

山形大学 男女共同参画 推進室

男女共同参画基本計画に「男女共同参画推進のための教 育・研究の充実」をかかげる。

一橋大学 男女共同参画 推進室

別に社会学研究科内にジェンダー社会科学研究センター を置く。

九州大学 男女共同参画 推進室

男女共同参画やジェンダー学関連の教育・研究体制の量 的・質的充実を図ることを基本理念とする。

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上記の国公立大学に比べ私立大学では、男女共同参画推進が低調といわざるをえない。2008 年7月に日本学術会議が出したアンケート調査結果「学術分野における男女共同参画促進のた めに」にも私立大学での男女共同参画推進の指針設定率等が低いとある。男女共同参画に関す る活動も「特にしていない」と回答した大学は国立大学で35.1%、公立大学で69.5%、私立大 学で78.4%となっており、公立や私立で男女共同参画に向けた取り組みへの努力が見えない 大学の多さが際立っている。一方、男女共同参画推進へ積極的に取り組む私立大学もあるが、

そのことと当該大学でのジェンダー研究や教育の充実度とは相関しているようには思われな い。

3)日本の大学におけるジェンダー教育や関連施設の貧しい現状

男女共同参画推進の流れとは対照的に、日本においてジェンダーが専攻できる大学、大学院 の数は極めて少ない。これらの大学には以下にみるようにジェンダー関連施設がある。男女共 同参画室を置く大学が増加している一方で大学付属機関としてのジェンダーや女性学関連の研 究所は全国で現在約20機関程度しかなく関東や関西に集中している。愛知県内にあった名城大 学ジェンダー研究所が2014年3月に12年間の活動を終えるなど、その数は減ってきている。女 性のキャリアなどジェンダー問題の特定領域を取り扱う機関も含めたリストは、以下のとおり である。

東北大学ジェンダー平等と多文化共生センター、お茶の水女子大学ジェンダー研究セン ター、一橋大学大学院社会学研究科ジェンダー社会科学研究センター、国際基督教大学ジェン ダー研究センター、昭和女子大学女性文化研究所、城西国際大学ジェンダー・女性学研究所、

早稲田大学文学学術院早稲田大学ジェンダー研究所、東京家政大学女性未来研究所、東京女子 大学女性学研究所、日本女子大学現代女性キャリア研究所、白百合女子大学21世紀ジェンダー 研究会、明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター、立教大学ジェンダーフォー ラム、和光大学ジェンダーフォーラム、愛知淑徳大学ジェンダー・女性学研究所、京都橘大学 女性歴史文化研究所、神戸女学院大学女性学インスティチュート、大阪府立大学女性学研究セ ンター、天理大学おやさと研究所内天理ジェンダー・女性学研究室、奈良女子大学アジア・ジェ ンダー文化学研究センター、武庫川女子大学女性学研究会、福岡女子大学地域連携センター(女 性生涯学習研究部門)、である。

また、愛知淑徳大学ジェンダー・女性学研究所の平林らは2007-2008年時点で、日本の主要 大学には次のようなジェンダー関連科目体系化・プログラムがあることを明らかにしている。

東京女子大学「女性学・ジェンダー」副専攻、聖心女子大学「ジェンダー学」副専攻(履修登 録は2014年度まで)、同志社大学社会学部「ジェンダー」副専攻、日本女子大学人間社会学部

「キャリア女性学」副専攻、日本女子大学 目白キャンパス3学部(家政学部・文学部・理学 部)「現代女性とキャリア」連携専攻、神戸女学院大学「女性学インスティチュート インター ディシプリナリー・プログラム(IDP)、都留文科大学「ジェンダー研究プログラム」、一橋 大学「ジェンダー教育プログラム」

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これらに加えて、リベラルアーツから始めて専攻を決めていくカリキュラム方式をとる国際 基督教大学にはジェンダー研究センターがあり10、ジェンダー・セクシュアリティ研究が主専 攻のひとつとなっている11。また早稲田大学ジェンダー研究所は、全学副専攻「ジェンダー研 究」開設に貢献している12

このようにみると、日本の大学におけるジェンダー教育や関連施設は今なお大変貧しい状況 にあることは明白である。特に、①大学にジェンダーや女性学関連講座が創設される以前から 女性学へのニーズは確実に存在していること、②一般女性の多様な経験と声の蓄積から大学の 外で発展してきた「民間学」「当事者学」が投げかける問いに大学は応える使命があること、

③アカデミズムに立脚する女性学・男性学・ジェンダー学の知見の妥当性を我々の日常生活に おいて検証し、研究と実践との円環的相互作用を確立する必要があること、を鑑みると、日本 におけるジェンダー教育の実状から外国の先進事例にも視野を広げ、より普遍的なジェンダー 教育の在り方と可能性を拓いていく必要があるのではないか。

以下、本稿では、その自由な気風と持続可能な街づくり、住みたい街全米ナンバーワンとい われるオレゴン州ポートランド13のポートランド州立大学における街ぐるみの先進的なジェン ダー教育を分析し、同大学での重層的で多彩なジェンダー教育がいかに地域と連携し、多様な 学生のニーズに応じた支援を展開しながらジェンダー教育の可能性を拓いているのか検討した

い。 (石河)

3.ポートランド市とポートランド州立大学(PSU)の概要 1)ポートランド市の概要14

ポートランド州立大学のあるオレゴン州はアメリカ合衆国の北西、太平洋岸に位置する。合 衆国国勢調査局によれば2014年の推計人口約397万人で州都はセーレムである。州内最大都市 のポートランド市の人口は62万人である。2010年4月から2014年7月にかけての人口の推移は 3.6%と、合衆国全体の推移3.3%と比べても高い。2014年時推計では18歳未満人口の割合が21.6

%、65歳以上が16.0%であるが、合衆国全体ではそれぞれ23.1%、14.5%である。

ポートランド都市圏と呼ばれる地域は合衆国が統計調査のために定めたポートランド=バン クーバー大都市統計地域で、ポートランド市を中心とし、オレゴン州ヒルズボロ市、隣のワシ ントン州バンクーバー市などを含めた地域である15。面積は17,310平方キロメートル。これら の地域全体で2014年の推計人口は約235万人である。

オレゴン州の政治的気風をながめると、両上院議員と、5人中4人の下院議員も民主党から 出ており、民主党寄りである。ポートランド市はオレゴン州のリベラルな気風の土台を形成し ているといえよう。

ポートランド市の住民はネイティブ・アメリカンや移民など多様な民族的ルーツ、多様な文 化的背景を持つため、社会で置かれた立場の違いによって異なった経験を持つ。それぞれの社 会的な立場から白人男性と同等の権利を求めて闘った歴史をたどることもできる。ポートラン

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ド州立大学がマイノリティに着目した機関の設置へ至ったのも当地の社会的風土と無縁ではな いだろう。

2)ポートランド州立大学の概要:歴史、教育理念、現状 (学部、学生数、多彩な学生)

ポートランド州立大学(PSU)は拠点とする地域への貢献を重視しつつ、その強みを活か して大学の魅力とすることで地元のみならず国際的評価も得ようという野心的目標を掲げてい る。

歴史16

PSU は第二次世界大戦の戦地から戻る復員兵の教育ニーズに応えるため1946年にコロンビ ア川沿いバンポート市に設立された。この市は戦時中造船所で働いていた人々が住めるように 作られた市である。1946年夏に入学した220人の学生はそこで2年間の教育を受けた。1948年 の洪水に見舞われて以来3度目の移転で1952年にポートランド市街に移り、現在に至ってい る。1955年に4年制カレッジとなり、学科目や教員、学生数の増加と共に1969年に総合大学と なった。

教育理念17

PSU は優れた学生の学習環境、革新的な研究、地域にねざした活動で知られた都市大学と して国際的にも認知されることを目ざしている。地域にねざした活動では地元を越えて、経済 の活性化、環境の持続性、生活の質的向上に貢献しようとしている。

PSU がかかげるミッションは都市生活の質を知的、社会的、文化的に向上させていくこと である。そのために生涯にわたって良質でリベラルな大学教育や、適切な専門教育課程や大学 院プログラムにアクセスできるようにしている。質の高い教育環境を支えたり地域の重要な問 題を検討する研究や地域サービスを行っている。地域サービスのための教育機関ネットワーク づくりも積極的に進めている。

現状18

PSU は現在8つの学部から構成され、226の学位プログラムを提供している。約5,500人の大 学院生を含めて在学者数が約28,000人。学生の多様性については男女比5対6と女子が男子を 上回り、人種は白人系60%、アジア系8%、ラテン系10%、アフリカ系3%、原住民系1%等と なっている。

最も多くの学部学生が専攻するのは心理学、保健学、生物学、芸術デザイン学、会計学であ る。大学院生数の最も多い専攻はソーシャル・ワーク、教育学大学院が提供するプログラムの うち「カリキュラムと指導」「教育指導と方針」である。

外部評価

U.S.ニュース・アンド・ワールド・レポートによると PSU はサービス・ラーニングに強 い大学とされている19。サービス・ラーニングとは大学の授業に地域社会への貢献や地域との 連帯を組み込んだ教育のことであり、教育における地域にねざした活動ともいえる。そのよう な授業では、学生らに意識的に社会の一員である自覚を身に着けさせたり、ボランティア活動

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参加経験の反省や洞察を促したりすることが目標になっている。

大学が LGBTQ など性的少数者を包摂する教育環境提供に努めているかどうかについての関 連指標から大学を評価する機関、キャンパス・プライド・インデックス20によると PSU は性的 少数者に好意的な大学であると評価されている。この点は以下に述べる大学内ジェンダー関連

施設の充実と関わりが強いと考えられる。 (石河)

4.ポートランド州立大学内ジェンダー関連施設と教育・支援

本節ではポートランド州立大学内にあるジェンダー関連施設とそれらが連携する学内施設が 提供するジェンダーに関わるサービスについて述べたい。ここでは、筆者の一人(渡辺)が2015 年7月20日から24日にかけて女性リソースセンター(WRC)、クイア・リソース・センター

(QRC)、学生のための体と心の相談センター(SHAC)、子持ち学生へのリソース・センター

(RCSC)を訪問して資料収集とインタビューを行った。以下ではそこで得られた情報に当該 機関のリーフレットやウェブサイト等の情報を加えてまとめていく。

1)女性リソース・センター(Women's Resource Center, WRC)21 コミュニティとしての WRC

ポートランド大学の女性リソース・センター(WRC)が提供するのはラウンジと図書コー ナー、リソース・ハブとしての機能と貸スペースである。ラウンジは PSU の全学生が利用で きるよう暖かく、安全で、快適な空間となっている。たくさんのテーブルとカウチが置かれ、

コンピューター、電子レンジ、お茶、タンポン、コンドーム、子どものおもちゃや工作道具ま で備わっている。

図書コーナーには本、雑誌、映画が置かれており、資料は学生らがラウンジで閲覧したり、

借りることもできる。授業の資料についてもリクエストがあれば揃えてくれる。

リソース・ハブの機能をもつため設置された掲示板に来所者が情報を貼ったり見つけたりで きる。低料金の医療、避妊、支援サービス、仕事、奨学金、イベントなどについての情報交換 ができる。

WRC 内に空きがあればスペースを貸している。通常開所時間外に利用したい団体は電話か ネットのリクエストフォームで予約できる。

ミッションと理念

WRC は大学共同体に属するすべての人々が最良の教育と学校生活を経験できることを目指 している。そのために社会正義を推し進め、性自認が女性であるすべての人に個人的なエンパ ワメント支援を確かなものとし、より安全で健康的なキャンパスづくりのために尽力する。

WRC のミッションと理念として(1)社会正義、(2)リーダーシップ、(3)説明責任、(4)

協働、(5)参画の5つの柱を掲げている。

第一の社会正義については、多様性、包摂、およびアクセス可能性にコミットし、非暴力運 動によって平等を推進し社会変革を進める。第二のリーダーシップについては、学生が社会変

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革のためのリーダーシップ能力を築けるよう支援する。この目標のために「リーダーシップ開 発の社会改革モデル」を作り、個人が持つ価値、グループの価値、社会の価値を高めていくこ とを同時に行っていこうとしている。このモデルを通じて、学生たちが社会での自分の役割を 自覚していく。第三の説明責任については、理論と統合の先にあるような実践に取り組んでい く。活動の査定と評価を行い、大学共同体でのニーズや活動の指針になるような理論や価値に 敏感に反応していく。第四の協働については、大学のようなひとつの大きな団体や都市環境に 置かれた学生らにサービスを提供するにあたり、WRC はすべての利害関係者に与えるインパ クトを考慮し、意思決定にあたっては多くの視点をとりいれ、学生や同僚、そしてコミュニティ と互いに尊敬しあえるような関係性が築けるよう努力している。何か議論がおこったときは、

誠実さや信念を保ちつつ広い心で他の意見を求めながらも、その問題について共感をもって取 り組むチャンスがきたものと受けとめる。第五の参画については、コミュニティの各メンバー がすすんで活動に参加することに価値をおき、この価値を育むため、安全で、暴力のない、持 続可能な空間で、そこに集まる人々が自分にとって大事な問題について知ったり、責任を共有 したり、スキルを磨いたり、ともに喜びあったりできるようにしている。

プログラム:

WRC は上記のミッションに基づく多彩なプログラムを提供している。エンパワメント・プ ログラムはしばらく学校から離れていて復学した学生等を対象としており、特に有色人種の女 性、退役軍人の女性、高齢女性等に重きをおき、前向きでやりがいのある経験を提供しようと するものである。このプログラムでは、復学した女学生らを支援し情報を与えるためのサービ スやリソースを提供している。こうしたサービスの提供は彼女たちが繋がりをもったり、努力 したり、経験を共有できるような居心地のよい環境で行われている。

インターパーソナル・バイオレンス・プログラム(IPV プログラム)はデート DV や性暴力 の被害にあった学生の支援・擁護を目的としている。IPV プログラムはすべてのジェンダーの 学生の参加を歓迎している。「あなたが性暴力やデート DV の被害にあってしまったら(そう かもしれないと思っただけだとしても)、助けを求めにきてください。だれもが安全に過ごせ るのが当然。誰もあなたを傷つける権利なんてない」と呼びかけている。IPV プログラムのパ ンフレットの内容は後述資料参照。

(各活動における)リーダーシップ・プログラムでは WRC でボランティアを募っている。

PSU の学生であればジェンダーは不問である。WRC のボランティア活動を通じてリーダー シップや専門性を高めるための機会を幅広く提供している。学校の単位に振り替えられる場合 もある。大学の全分野の学生向けの協働・支援環境を提供している。

事業

WRC が行う事業は主に5つにまとめられる。まず、多くの学生たちのやりがい、しあわせ、

居場所づくりのために不可欠な上記の3つのプログラムを提供している。次に、キャンパス内 の連携先と組んで幅広い女性の問題に関して助言し支援活動を行っている。取り扱う問題は女

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性退役軍人支援、性暴力・DV 予防、十分な育児支援、授乳スペース、家族のための住宅支援、

性・ジェンダー平等などがある。三番目に、同僚向けや授業の中でプレゼンテーションや研修 を行っている。テーマには同意、デート DV、性暴力、復学した学生や(高齢などの理由で)

伝統的なカテゴリーに入らない女学生の学業達成などが含まれる。たとえば学際プログラム PSU キャップストーンのコース「演劇を使った性暴力についての学び」の講座の共催者になっ ている。四番目に、女性やジェンダーに関する幅広い問題への関心喚起や議論を促すため、講 師、パフォーマー、アーティストなどをキャンパスに招いている。最後に、イベントの主催ま たは共催があげられる。毎年評判がよいのはヴァギナ・モノローグ、国際女性デー、テイク・

バック・ザ・ナイト(その夜を取り戻そう)である。

2)クイア・リソース・センター(Queer Resource Center, QRC)22

ポートランド大学のクイア・リソース・センター(QRC)は次の3つのミッションをかか げている。

(1)学生たちが卒業まで学習・研究を全うできるように支援すること。

(2)個々人のセクシュアリティやジェンダーにそった学生や教職員のニーズを優先すること。

(3)大学や地域における組織間の意識的連携をはかることで複数のグループや自認を越えた 支援体制を強化すること。

同センターは、キャンパス環境を整備することで PSU が多様なセクシュアリティやジェン ダーを備えた学生や教職員から選ばれる高等教育機関となることを目標としている。

同センターはこぢんまりとして居心地のいいラウンジ、LGBTQ 関連の貸出用図書、コン ピューター端末を備え、楽しい時間と前向きになれる雰囲気で学生を迎えている。

QRC で開催されるプログラムやイベントには、毎週の学習・交流タイム、全国カミングア ウト週間への参加、プライド月間への参加、ラベンダー卒業式(LGBT やアライ学生のための セレモニーで業績や貢献を表彰する)の開催、有色のクイア学生のための年次会議、学業支援、

お楽しみ交流遠足がある。

キャンパス内の連携先として、WRC など9施設をあげている。

3)学生のための健康カウンセリングセンター(Center for Student Health and Counseling, SHAC)23

学生のための健康カウンセリングセンター(SHAC)のミッションは、学内健康医療機関と して PSU の学生のニーズに応えるサービスを提供することにある。学生は診察、カウンセリ ング、歯の治療といったサービスが受けられる。SHAC は大学のミッションを支持し、大学 教職員と協働しながら学生の学業成就を支える。また SHAC は PSU の「差別をしない」方針 を遵守している。

SHAC が提供する学生向けのプライマリ・ヘルス・ケア、健康教育、支援活動、救急医療 等の健康サービスが健全性と安全性を包括的に高めている。生涯にわたって健康的な生活態度 や行動を心がけることによって、学生は自らの学業や個人的な目標を達成でき、そうすること

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で自己や共同体に対する自らの責任を十分に感じられるようになる。

SHAC では予期せぬ妊娠について3つのオプションの紹介とリソースの提供を行ってい る。SHAC で手に入るパンフレットの「自分の選択肢を知る」という呼びかけは以下のよう な内容である。

何百万人もの女性が毎年、予期せぬ妊娠に直面します。実際、合衆国の妊娠の 半分は予期しなかったものなのです。もしあなたが妊娠したら、考えるべき3つ の選択肢があります。親になること、養子に出すこと、そして中絶です。

もしどうしたいかよくわからなければ、それぞれの選択肢について学び重要な 事実を知ることが決断の助けになるかもしれません。各選択肢の利点とリスクを はかりにかけることも役に立つでしょう。どの利点やリスクが自分にとって最も 大事なポイントになるかをよく考えることです。

あなただけが自分にとって何が正しい答かを決めることができるのですが、女 性はだれかに話すことで助けられることがよくあります。だれか自分に親身に なってくれる人を選びましょう。このとき自分の意思決定過程に入ってもらう人 を決めることにもなるということを忘れないように。

上記の呼びかけにあわせて3つの選択肢にあるのはそれぞれの選択に応じた相談先である。

親になることを選択した場合は出産前健康診断を受けるように産婦人科や助産師の連絡先が掲 載されている。養子縁組をコーディネートする団体の連絡先、中絶を選択する場合の連絡先の リストもある。中絶を選択する場合、期間が限られるため慎重に看護師等と相談する必要があ ることに注意を促している。

また上記のリスト以外にも多くの選択肢があることも付記したうえで、質問やそのほかのリ ソースについては SHAC に問い合わせられることも記載されている。そのほかのリソースに は以下がある。婦人科検診、妊娠検査、性感染症検査、避妊相談と処方、緊急避妊(モーニン グ・アフター・ピル)、即日 HIV 検査、協力的な紹介、性暴力サバイバーのための検査と支援、

今まさに危機にある場合の予約なしカウンセリング、である。

また、重要な情報としてすぐに医療検査が必要なケースとして、痛みがあるなしに関わらず 膣からの出血が大量のとき、骨盤や腹部が急に激しく痛みだして痛みがとまらないとき、熱が 高い時、2~3秒目眩が続くときをあげている。

4)子持ち学生のためのリソース・センター(Resource Center for Students with Children, RCSC)24

子持ち学生のためのリソース・センターでは子どもを持つ学生が学業・人生の目標を達成で きるよう様々な支援を行っている。このセンターが備えるファミリー・リソース部屋にはカウ チが置かれ、大人も子どももいっしょに快適に過ごすことができる。そこでコーヒーやホット チョコレートを飲んだりランチを温めたりもできるし、他の家族のいる学生と交流することも

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できる。コンピューター端末も使えて、子どもが遊んでいる間に勉強もできるようになってい る。専門知識を備えたスタッフが、学校生活や仕事、子育てのバランスがとれるよう育児支援 がキャンパス内外で得られるよう支援している。

成長していく子どものおかげで破産してしまわないよう、衣服クローゼットではいつでも必 要な服を持っていけるようにしている。きれいに洗った子供服の寄付をいつでも受け付けてい る。

授乳中の母親のために授乳室がキャンパス中に設けられ、これらの授乳室が清潔で快適に授 乳の行える場所かどうかチェックされている。RCSC に行けば授乳室がキャンパス内のどこに あるかを示したマップを手に入れることができ、ネットで見つけることもできる。また、育児 中に必要な支援が得られるよう育児・授乳の専門家に相談できるようにもなっている。

そのほかの支援として以下の紹介がある。育児にお金がかかるため主な支援は経済的なもの である。

ジムの保育補助金:PSU の学生でいる間、保育料金が最大半額まで下げられる支援を 提供している。経済的なニーズにあわせた補助金で、キャンパス内外で保育サービスを 利用する学生に与えられる。利用しているのが公認のデイケアでなくともよい。申込書 はネットまたはセンターにて年中手に入れられる。

ロン・ロナハー学生ローン:急に予算がタイトになった場合に子どもがいる学生には学 期ごとに1回、無利子で50ドルを貸し出す。このローンは4ヶ月以内に返済されなくて はならない。さもなければ次の学期に受ける奨学補助金から差し引かれる。

ファミリー・フレンドリー活動:学生たちが生活のバランスを保てるよう援助をする活 動のひとつで、学期に一度は参加料無料のイベントを開催し、ストレス発散と家族を持 つ学生同士がつながりを持てるようにする。開催するイベントはボーリング・ナイト、

ポートランド美術館への遠足、スポーツ・イベント、映画の夜など。

キッズ・ナイト・アウト(子どもたちの夜遊び):親や育児従事者が夜、育児から解放 されるように子どもたちが夜に楽しく過ごせるような環境を提供している。このキッ ズ・ナイト・アウトが開催されるのは各学期概ね学生たちが学期末課題などで「死んで いる週」。このイベントは子どもを持つ学生すべてが利用できる。次のキッズ・ナイト・

アウトについての情報はフェースブックや学内に設置されたパンフレットで確認でき る。

ファミリー・フレンドリー卒業祝賀会:卒業生ひとりひとりが表彰されたあと、ゲーム や食べ物付のファミリー・フレンドリーなお祭りの雰囲気で会が催され、音楽で締めく くられる。子どもを持つ卒業生全員が家族や友達を連れて参加できる。

さらに、以下のような親としての学びやつながりの場も提供している。

親業教室:子どもを持つ学生たちが親業にも学業にも成功できるように、そうした学生 を対象とした一連のワークショップ。キャンパス内・コミュニティ内の他団体との連

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携・協力のもとに行っている。受講中は無料の託児サービス付き。

図書館:子育てに関するあらゆる話題の本や CD を貸し出している。発達、離婚と親権、

家計のやりくり、遊び、予算内での料理などが話題として含まれている。

パパ会:パパによるパパのための会として始められた。この学生主導の会は RCSC 内で 月2回開かれている。ミーティングのスケジュールやメーリングリストの登録について は RCSC に問い合わせればよい。

フロック(Families Living On Campus with Kids, FLOCK):キャンパスから徒 歩圏内に暮らす家族の会。月例会でつながりがもてる。 (石河)

5.ポートランド州立大学内ジェンダー関連の啓発・支援活動

上記機関によるサービスに加え、PSU は学内でさかんにジェンダー関連の啓発支援活動を 行っている。例えば、避妊等の啓発支援や法律相談等がある。避妊については、オレゴン州政 府の公衆衛生部が提供するリプロダクティブ・ヘルス・プログラムが州住民で収入の少ない人 たちが受けられる避妊等の啓発・支援を行っており、学生もそうした対象となっている25

また、法律相談については、学生法律サービス(STUDENT. LEGAL. SERVICES, SLS)

がある。学生同士や大学当局を相手取る場合などは対応できないこともあるが、家族法、雇用 問題、自己破産などの問題で弁護士に相談でき、ほとんどの場合、無料で相談にのってくれる26 さらに、特筆すべき啓発活動として暴力防止に向けた具体的助言と対応がある。資料1は

「デート DV 防止のためのチェックリスト」、資料2は「暴力防止プログラム」である。大変具 体的で今後の日本の実践においても参考になると思われるので、それぞれ資料として頁や様式 を含めて紹介する。

<資料1:デート DV 抑止のためのチェックリスト>

学内の安全と秩序を守る PSU パブリック・セーフティの警護員は学内で違法行為があっ た場合は逮捕する権限も持つ。学則に違反する学生を学務担当風紀取り締まり係に届け出 る。PSU パブリック・セーフティは「安全なデート」というスライド式のパンフレットを 発行し、学内の関連施設に設置している。表面は以下のような内容でスライドしながら対応 する答えやアドバイスを窓から見られるように作られている。

(13)

安全なデートとは?

・両パートナーが互いと互いの意見を尊 重しあう。

・両パートナーが互いの目標と抱負を助 け、励ます。

・両パートナーが互いに友達を持つこと をすすめる。

・両パートナーがオープンで正直なコ ミュニケーションをとる。

・両パートナーが自分たちの違いを受け 入れる。

いま不健康な間柄にありますか?

・あなたのパートナーは悪いつきあい方 をしたり暴力をふるったことがある?

・あなたのパートナーはいつも自分の問 題を他人のせいにする?

・あなたのパートナーのふるまいで、き まりの悪い思いをする?

・性的な行為であなたがしたくないこと をしたことはある?

・友達とつきあうのをやめた?

ひどいつきあい方を避けるには

・自分がどう扱ってほしいかをはっきり 伝える。

・パートナーのことをよく知る前には二 人きりで会わない。

・でかけるときには予定をだれかに知ら せる。

・帰宅するときには自分だけの経路を使 う。交通費は自分で払う。

・アルコールやその他のドラッグを使わ ない。

・直感を信じる。何かおかしいと感じた らおそらくそうである。

感情的虐待 : あなたのパートナーは

・あなたを見下げ、あなた自身のことが だめだと思うように仕向けますか?

・なんの理由もなくデートの約束を破っ たり計画をキャンセルしたりします か?

・友達や家族の前であなたに恥ずかしい 思いをさせますか?

・別れようと切り出すと自殺をすると 言って脅しますか?

・あなたが友達や家族と話すのを禁じま すか?

性的虐待 : あなたのパートナーは

・あなたにセックスするよう圧力をかけ たり強要したりしますか?

・性的なふるまいについて他人にいいふ らしますか?

・あなたの性的なふるまいをからかいま すか?

・避妊しないセックスを強要しますか?

・セックスしないとあなたを傷つけたり 別れるといって脅しますか?

虐待関係を終わらせるには

・自分の感情を信じる。怖いと感じるの は虐待。

・信頼できる人に話す。助けを求める。

・地域の電話相談に助けを求める。

・DV 支援グループに参加するかシェル ターに行く。

・法的な措置をとる。保護命令を出して もらう。

・必需品を身近に持っておきすぐに逃げ られるようにする。

関係を終わらせたあと安全に過ごすには

・一人でどこかに行かない。どこに行く か周りの人に知らせておく。

・元カレに会いそうな場所に行くときは 友達を連れていく。

・護身術コースをとる。

・かかってくる電話は選択する。どんな ハラスメントでも日々記録しておく。

携帯電話を持ち、危険があるときは911 にすぐ電話する。

(14)

また表面のスライドをひくと最初に下からでてくるのは医者、病院、警察、ホットライン などの緊急連絡先の書き込み欄であり、裏面にはデートのための権利章典として「あなたに は以下の権利がある」として以下のリストが続く。

デートに誘う。デートを断る。何をするか提案する。デートの相手がいかに乗り気 でもしたくないことは断る。自分の気持ちをもってそれを表現する。「わたしの友達 は間違っていて彼の行動は不適切だと思う」と言う。だれかに自分のじゃまをしない でと言う。自分の限界と価値を尊重させる。愛情が欲しい時はそう言う。愛情を拒む。

耳を傾けてもらう。お金を貸すのを断る。いつでも理由なくセックスを拒否する。自 分のパートナーとは離れた友達やスペースを持つ。

このリストの下にはさらに「あなたには次のことに責任があります」と以下が続く。

限界と価値を決めること。他の人たちの限界を尊重すること。はっきりと正直に伝 えること。他の人たちの限界を侵さないこと。必要な時に助けを求めること。思慮深 くあること。自分にとって良いことか悪いことか、とった行動や決定をチェックする。

自分のために高い目標を立てること。

裏面にはこれらの他、デート・レイプに関する統計、デート・レイプに会わないための心得、

デート・レイプに使われるドラッグに関する情報が記載され、スライド式で詳細が読める。

<資料2:WRC 個人間の暴力(防止)プログラム(IPV プログラム)>

(1面、外側)

IPV プログラムをすすめる私たちは学生たちの安全な学習を妨げることのないよう活動して います。そのために私たちは、大学での対応体制の調整をおこなったり、組織的な支援活動お よび活動への参加機会を提供したり、直接的な学生支援を行ったりしています。

参加推進:WRC が年間を通じて主催するイベントの目的は性暴力やデート DV に取り組 む学内の連携を強化していくことです。協同のワークショップや年に1度の「テイクバッ ク・ザ・ナイト」会や性暴力予防啓発月間イベント、教職員と学生向け研修やワークショッ プを行っています。

直接支援:IPV プログラムではデート DV やセクシュアル・ハラスメント、性暴力、ストー カーなどの被害にあった学生を支援しています。すべてのジェンダーの人たちが対象で す。

大学対応:WRC は学内外の団体と協力しあい多分野の専門領域からの支援を得る形で、

キャンパスでの性暴力やデート DV の問題に取り組んでいます。活動の一環として IPV 対 策委員会の共同主宰、マルトノマ郡性暴力対応チーム、オレゴン州性暴力対策委員会のキャ ンパス部会に参加しています。

(15)

(2面-3面、内側)

性暴力・デート DV に関する資料

ポートランド州立大学(PSU)は学生の安全な学習環境提供に専念しています。性暴力、

性別やジェンダーにもとづくハラスメント、デート DV、DV やストーキングすべてが PSU で は禁じられています。学生はキャンパス内外で支援にアクセスするための多くの選択肢が与え られています。

オンライン情報

PSU ウェブサイト:間違った性行動について。(pdx.edu/sexual-assault):PSU で提供す るすべてのサービス、方針、通報オプションについて集められた資料。ここには「学生行動規 範」だけでなく「PSU 差別と(セクシュアル・ハラスメントを含む)ハラスメント禁止につ いての方針」も含まれています。

オレゴン性暴力対策委員会キャンパス部会:(campus.oregonsatf.org)

通報オプションのウェブサイト:外部のウェブサイト。タイトル927と通報オプションにつ いての概要が書かれています。

通報なしのサービスとリソース

キャンパス内で支援を受ける際、学生は情報を与えられた上での選択が可能になるよう秘密 にできることと犯罪として罰せられなければならないような場合の通報のことも認識する必要 があります。部署によってはあなたが希望しなければ口外しないとの義務を負って完全にあな たの秘密を守ります。また部署によってはあなたのために犯罪や方針違反を速やかに報告し、

報告がなされるとなんらかの対応をしてくれます。質問があれば私たちにご連絡ください。

秘密厳守のキャンパス支援サービス

学生のための健康カウンセリングセンター(SHAC)

SHAC では秘密厳守でカウンセリングや医療が受けられます。性暴力に起因するトラウマに ついて理解している看護師によるサービスや犯罪科学捜査のための証拠収集も含まれます。

通報する場合のオプション

(キャンパス内外の通報機関の連絡先のリスト以下略)

(4面は WRC の案内:サービス提供時間、場所、ウェブサイト) (石河)

6.おわりに

以上、本稿では日本の大学におけるジェンダー関連教育の現状を踏まえ、ジェンダー教育の 先進事例として、米国のポートランド州立大学のジェンダー関連機関が提供するサービス活動 と啓発事業についてその概要をまとめた。ここでは、日本の大学では殆ど行われていないジェ ンダーやセクシュアリティに関連する実際的な支援が学内の複数の機関で実施されており、各 機関の機能は重なり合いながら連携し補完し合っていることが判明した。特にこれらのジェン ダー関連機関を訪問して印象的であったのは、それぞれの機関で学生と思しき幅広い年齢層の

(16)

スタッフが、多様な異なるニーズをもつ学生に温かく親身に相談に乗っており、各機関がそれ ぞれの特徴をいかしてインフォーマルなメンタリング空間28として機能していることであっ た。

ポートランド州立大学は第二次世界大戦の戦地から戻る退役兵たちの教育ニーズに応えるた め1946年に設立され、今日、オレゴン州を代表する総合大学の一つとなった。地域コミュニティ と連携しつつ良質のサービス・ラーニングを提供し、LGBTQ 等性的少数者の学生を包摂する 教育環境提供に向けた努力でも高評価を得ている同大学が、いかにジェンダー関連科目の体系 化を行い、どのような内容のジェンダー教育を提供しているのか、今後、ポートランド州立大 学におけるジェンダー関連科目の体系化とカリキュラムについて検討したい。

平林美都子編(2009)『平成19・20年度 研究助成費(特別教育研究)・研究成果ジェンダー 教育の体系的プログラムの提案』(愛知淑徳大学ジェンダー・女性学研究所)

藤原直子(2010)「データにみる高等教育におけるジェンダー教育の推移」東海ジェンダー 研究所記念論集編集委員会編『越境するジェンダー研究』pp. 356-369.

国立女性教育会館編(2004)『平成13年度~平成16年度女性の学習関心と学習行動に関する 国際比較調査研究報告書』pp. 52-53.

国立大学協会 国立大学における男女共同参画について(http://www.janu.jp/post.html)

東京大学男女共同参画基本計画

(http://kyodo-sankaku.u-tokyo.ac.jp/about/history/documents/BasicPlanJP.pdf)

国立大学協会、前掲。(http://www.janu.jp/post.html)

日本学術会議科学者委員会男女共同参画分科会(2008)「提言学術分野における男女共同参 画促進のために」(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/) pp.2-8.

各施設の URL にて確認。

平林編、前掲報告書。

10 国際基督教大学ジェンダー研究センター(http://web.icu.ac.jp/cgs/)

11 国際基督教大学メジャー(https://www.icu.ac.jp/liberalarts/major/)

12 早稲田大学総合研究機構プロジェクト研究所ジェンダー研究所

(http://www.kikou.waseda.ac.jp/WSD322_open.php?KenkyujoId=AY&kbn=0&KikoId=01)

13 Portland named best American city in 2013, Oregon Live, December 21, 2013.

(http://blog.oregonlive.com/portland_impact/print.html?entry=/2013)

14 United States Census Bureau State & County QuickFacts Portland(city),Oregon

(http://quickfacts.census.gov/qfd/states/41/4159000.html)

15“ Revised Delineations of Metropolitan Statistical Areas, Micropolitan Statistical Areas, and Combined Statistical Areas, and Guidance on Uses of the Delineations of These Areas”

(17)

(https://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/bulletins/2015/15-01.pdf)

16 ポートランド州立大学の歴史(http://www.pdx.edu/portland-state-university-history)

17 ポートランド州立大学のミッション

(http://www.pdx.edu/portland-state-university-mission)

18“pdx.edu/aboutPSU Quick FACTS”

(http://www.pdx.edu/syndication/sites/www.pdx.edu.syndication/files/QuickFactInsert 3-15_8.5x11rev.pdf)

19 U.S. News & World Report, Portland State University (http:/ / colleges.usnews.

rankingsandreviews.com/best-colleges/portland-state-3216/rankings)

20 Campus Pride Index(http://campusprideindex.org/)

21 女性リソース・センター発行のリーフレットと以下を参照。Portland State University Enrollment Management & Student Affairs, Women's Resource Center( https://

www.pdx.edu/wrc/)

22 ク イ ア・リ ソ ー ス・セ ン タ ー 発 行 の リ ー フ レ ッ ト と 以 下 を 参 照。Portland State University Enrollment Management & Student Affairs, Queer Resource Center

(http://www.pdx.edu/queer/)

23 学生のための体と心の相談センター発行のリーフレットと以下を参照。Portland State University Enrollment Management & Student Affairs, Center for Student Health and Counseling (SHAC)(http: //www.pdx.edu/shac/)

24 子持ち学生のためのリソース・センター発行のリーフレットと以下を参照。Portland State University Enrollment Management & Student Affairs, Resource Center for Students with Children (http://www.pdx.edu/students-with-children/)

25 オレゴン州公衆衛生部発行のリーフレットと以下を参 照。Oregon Contraceptive Care

(CCare)(http://public.health.oregon.gov/HealthyPeopleFamilies/Reproductive Sexual Health/OregonContraceptiveCare/Pages/index.aspx)

26 学生法律サービスのリーフレットと以下を参照。 Portland State University Enrollment Management & Student Affairs, Student Legal Services

(http://www.pdx.edu/sls/)

27 改正教育法のタイトル9とは、公立の教育機関において性にかかわる差別を禁止した包括的 な連邦法。

28 インフォーマルなメンタリングについては、渡辺かよ子(2009)『メンタリング・プログラ ム』川島書店 p.1を参照。

(尚、本研究は愛知淑徳大学研究助成平成27年度特定課題研究「青少年向けメンタリング運動 における理論と実践の連関に関する研究」の派生的成果の一部である。

参照

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