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鞘翅目昆虫における前翅基構造の比較形態学的研究 環境資源学専攻

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Academic year: 2021

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北海道大学 大学院農学院 修士論文発表会,2018 年 2 月 8 日

鞘翅目昆虫における前翅基構造の比較形態学的研究

環境資源学専攻 生物生態・体系学講座 昆虫体系学 杉本美和

1.はじめに

翅基構造は,胸部と翅との関節部分に位置する骨片群の総称で,翅の羽ばたきや折りたたみの際 に欠かせない器官である。そのためこの構造には強い制約がかかっており,形質状態は新翅類を通 して安定している。一方,鞘翅目昆虫の前翅は硬化した鞘状に変形しており,飛翔機能を失い,身体 の保護という異なる機能を獲得している。鞘翅目昆虫の翅基構造は,飛翔機能を保持した後翅につ いては幅広い種で研究がなされているが,前翅についての研究は極めて少なく,目全体や他の新翅 類との比較に基づく相同性の議論が欠如している。そこで本研究では,鞘翅目昆虫の前翅基構造の 相同性を解明し,機能の変化が形態にもたらす影響について理解することを目的に,観察を行った。

2.方法

鞘翅目 3 亜目 17 上科 18 種を選び,右前翅の背面側の基部構造について記載した。標本は

10%KOH 水溶液による処理後に 80%エタノール下で解剖・保存し,実体顕微鏡を用いて観察を行

った。

3.結果と考察

鞘翅目昆虫の前翅基構造は多様な進化を遂げており,基本的構成要素である骨片の縮退や消失,あ るいはそれを補うかのような別の骨片の発達,また,骨片どうしの融合等が頻繁に生じていることが 確認された。特に目全体の傾向として,胸部で生じた飛翔エネルギーを翅に伝達する役割を持つfirst axillary sclerite (1Ax) という骨片の縮退が挙げられる。1Axが異なる分類の上科間で近似した形 質状態を示していることから,この変異は独立に生じていると考えられる。また1Axの縮退は,鞘翅 目の前翅の他にもアワフキムシ上科 (Cercopoidea) の後翅においても観察されている。両者の共通 点は飛翔機能を失っていることであり,このことから1Ax の縮退は,飛翔機能の消失によって機能 的制約が緩んだことで生じたと推察される。一方,観察したすべての種において third axillary

sclerite (3Ax) が新翅類における翅基構造の特徴をよく保持していた。3Axは腹面側に筋肉が付着

し,翅の折りたたみに関与する骨片である。鞘翅目昆虫の前翅は,身体の保護機能を獲得したため,翅 を羽ばたかせる機構は失っても折りたたむ機構の維持は重要であったと考えられる。

4.まとめ

鞘翅目昆虫の前翅基構造が後翅基構造と異なる進化を遂げたのは,飛翔機能の消失による機能的 制約が緩和した一方,折りたたみ機構に対する制約が維持されたためと考えられる。また,目全体を 比較してみると鞘翅目の前翅基構造は変異の蓄積が速いことがわかった。よってこの形質は鞘翅目 における種間,属間などの系統推定に有用となり得る可能性が示唆された。しかしながら本研究で は各上科から1種あるいは2種のみしか観察を行っていないため,系統推定の形質として利用する ためにはより幅広い種について検証していく必要があると言える。

参照

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