理科教育機器の開発 I −マイクロバランス(1
)−
著者 池尾 和子, 水口 和野
雑誌名 奈良教育大学教育工学センター研究報告
巻 5
ページ 9‑15
発行年 1982‑03‑10
その他のタイトル Development of Science Educational Equipment (I) −Micro balances (I)−
URL http://hdl.handle.net/10105/4635
‑ マイクロバランス(1) ‑ 池 尾 和 子(奈良教育大学・理科教育教室) 水 口 和 野(大阪産業大学、教養部)
Development of Science Educational Equipment (I)
‑ Micro balances (I) ‑
Kazuko Ikeo {Department of Science Education) Kazuno Mizuguchi (Department of Liberal Arts,
Osaka Sangyo University)
Abstract
The balance scale is one of the most important science equipments for science education and it has a long history of more than 5000 years. In elementary science text books, there is a balance scale which has a history of about 300 years; but the principal of this scale is very difficult to understand, therefore it is very hard to make it with manual labor. We have been trying to improve the straw‑balance which R. Okazaki made and making type I of it using daily household utensils. Type II of the straw‑balance is a further developed version of type I of it.
Type II of the straw‑balance can weigh 0.25へ′ 60 mg/cm and it can be used in educational
experiments from the elementary school through the university.
Key words:
Micro balances Science Education
1.は じめに
小学校(実施1980)、中学校1981)、高校(1982)を通して、教育課程が「自然を探究する能力 及び態度の育成や自然科学の基礎的な概念の形成が無理なく行なわれるようにするため特に児 童生徒の心身の発達を考慮して内容を基礎的、基本的な事項に精選する」1:lと改訂された。
幼稚Eaから小学校、中学校及び高等学校を通じて自然を探究する能力の最初の経験は機械器 具を使わず人間の五感を活用して自然を認識することに始まる。その次の段階が機器を使って
自然の中の物の量や長さや色々のものを測定することにより認識することになる。その「は かる」ための最初に使われたと考えられる器具が天秤で、その歴史は古く5000年以上前にさか のぼる。この天秤を身近かな材料を使って自作させることにより理科が学校教育の中だけのも のでなく理科を身近かなものとして体験させ考えさせる効果があり天秤の原理の理解も促進さ せられる。なお自作の器具の製作及び調整の技術を修得させ理論の実践の場を経験させ、さら にその天秤の利用法を考えさせることを目的とした。 ((小学校の教科書にでてくる上皿天秤は
歴史はせいぜい300鉦(1669年、ローベルバル発明)でその原理は大変難しく自作の対象とはで きない。))
一般に、学生実験教具の開発は、手に入れやすく、しかも安価な材料を利用し容易に作るこ とのできるものでなければならない。資源の節約と省エネルギーの時代を迎え、実験のスケー ルも実験課題によってはミクロ化の方向をたどっている。この時期に手作りの天秤を活用して 微量の試料により実験を行なえば、試料の節約、実験に要する時間の短縮、実験後の廃棄量の 減少等の利点が得られる。
また、学生実験で学生数と同数の天秤を整えることは不可能だが、自作の天秤によって各自 能力に応じて実験を進めることが可能になる。
なお、材料がどこでも手に入るので学校外(家庭など)でも手軽に実験ができる利点もある。
ここに小中高を通じて使える、岡崎良吉の試作によるマイクロバラン詔こ改良を加え、物理、
化学実験への活用法を開発したので、その一部を紹介する。
2 マイクロバランスの製作法
′安全ピン
a I型ストローバランス く材料〉
ストロー(長さ21cm)、ぬい針(もめんえり しめ等長いもの)2本、妻揚子、石けん空箱、
細い針金(荷札についている)、安全ピン2本、
糸ハンダ(又はゴム糸、ゴム輪)ベニヤ板、方 眼紙、セロテープ
く作り方〉
(1)石けん空箱は支点の部分とストローがゆ れる部分をくりぬいて、適当な台に固定する。
(2)支点の軸受けの位置には小さな安全ピン の輪の部分を使うと、すべりがよく、輪が小さ いので左右へのずれも少ない。
(3)ストローの端から3.諌mのところにスト ローに直角にぬい針を刺す。葉書を3.5cm幅に 切って筒形に巻いてセロハンテープで止め、そ
図11型スト亡】一一バランス
の上にさらに糸ハンダ10cm(又はゴム糸かゴム 図2 I型ストローバランス本体 輪)を巻く。この紙筒は軽く移動できどの場所にもずれないで止まるように内側にしわを作るか その他の工夫をする。ストローの長い方の先は斜めに切り取り、細い針金の鈎をつけ、これに 試料や、紙分銅((6)に説明)を掛ける。この細い針金はフラフラゆれるように、先端の孔は大
きくあけ、図2のように組立てる。
(4)糸ハンダ付紙筒を前後させてストローの先が約20度上の方を向くように調節する。
あらかじめ、回転軸に直角にぬい針又は妻揚子を刺しておくと調節しやすい。棒(ストロー)
全体の垂心が支点直下で支点に近いほどバランスは鋭敏だが不安定で調節が難しくなる。重心 を調節するため、糸ハンダ付妻揚子(図2)を使用することもできる。
10
(5)ストローの先端付近には方眼紙を目盛りとして貼りつけたベニヤ板を置くか、または菓 子箱等を利用して、、ものさし′′を垂直に立てる。
(6)紙分銅:被測定物に応じ、そのバランスの感度*(単位目盛り当りの荷重)を調節するた め、その場合の感威則定用の紙分銅を作っ
ておく。コクヨ(250×180)トレーシングペーパー
の方眼紙を使用すれば、40g/mZと表示されているので、1cmZで4mgの分銅ができる。方眼紙 の面積で質量が決まるので、いろいろな形の分銅が作られる。
(7)このバランスでは、回転軸(受 け軸)の針は棒の中央に刺し、軸に 鐙 直角にぬい針(または妻揚子)を刺 し、その上下によって、支点の下の 8 重心の高さを変えられるようにする。呈6 これによってバランスの感兢ps り。
SC型のようにいちいち軸を刺し変 2 えることなく容易にしかも広範囲に 0 変化させることができる。(図3参照)
C
グ
C:支点 G:重点
[三コ:竺トロ∵竺支点と 重心の位置
⑤
l一一一・一・・・・・・・・一.・.. 一
・一一一− ⑤
10 20
荷重
30 40m9
図3の直線(丑と②はPSSC型の 図3II型ストローバランス
ストローバランスで支点と重心の位置を変えた場合の変化を示す。(丑では1mgの荷重で目盛の 読みが5cm降下する(0.20mg/cm)。②では1.16mg/cmで測定範囲は広くない。I型ストローバ ランスは直線③と④に示す。③の場合、0.125mg/cm降下する。また④は③のぬい針を下げて垂 心を下げた場合で3.45mg/cm、⑤は下端に0.5gの糸ハンダを付けた妻揚子を刺したときで、
* *
40.0mg/cmの感度を示す。I型ストローバランスでは垂心の位置の調整で、0.125−40mgの感度 が得られ、広範囲の荷重の測定実験ができる。
b II型ストローバランス
(1)図4と図5はこのII型の構造を示す。こ のストローバランスは、長期間使用できる。
石けん箱の代わりに木製の枠を使い、また軸 として針の代わりに糸を使用する。糸を使うと ストローの位置が常に固定されるので使い易い。
糸は、シャソペスパン30番のような細くて丈夫 でねじれ応力と弾性余効の少ないものがよい(細 いナイロン撚糸でもよい)。うでを支える糸は6 cmにする。この糸は約6cmの良さに切った祝箸 の先端から2cmのところに浅い溝を彫ってそこ
に結びつけ、図4のように糸の両端は縦板に通 してピンと張った状態で1、2回巻きっけ、ビ ニール用セメダインで固定する。
(2)I型の重心、調整用ぬい針の代わりに30cm の錫引線の両端に妻揚子を取りつけるために、
図5のようにらせんをつくりこれを糸と祝箸に 直角に取り付け、糸と錫引線共々ビニール用セ
芸 ‡笠 5 号 ≠ − 25 } 了 トロー
.1増
i祝箸 ノ  ̄†=‥・\ビニール用 荷札針金  ̄ ̄ ̄ブ セメダイ ンで
糸 固定する 十・一一妻揚 子
く−一糸ハ ンダ
図5 II型ストローバランス本体
メダインで祝箸に固定する。
(3)ストローは祝箸の先端にはめこむ。
(4)上向きの錫引きらせんに妻揚子をはめ、場合によっては、これに糸ハンダを巻きつけて 重心を上げるとバランスは鋭敏になる。図3の直線⑥はこのときの感度¥、ある。また下方の錫
着
引らせんに0.8gの糸ハンダをつけた妻揚子をはめたときの感度は⑦に示す。したがって、この
★
ストローバランスを使用すると、0.25−60mg/cmの感度で測定ができる。
3 応用例
i)シャボン玉の膜の厚さの測定
く準備〉 I型を使用する。ただしストローの先を斜めに切断せず、鈎のついていないものを 用意する。数種類シャボン玉溶液を用意する。
く操作〉
(1)ストローバランスの調整
(イ)ストローの先にシャボン玉溶液をつけ た時の目盛りの読みa.シャボン玉をふくらま せそれが破れた後の目盛りの読みbが図6のよ
ぅになるように感度を調整する。
*
(ロ)紙分銅を用いて感度を求める。
(2)ストローの先に液をつけ先端の目盛りa を読む。(注意:液の量が多いとシャボン玉を ふくらませたときに余分の液が下方に溜るので 実際の膜の厚さより測定値が大きくなる。)
ものさし
(3)机上に方眼紙または尺度をおき、ストロ ーをバランスから外して 口にくわえ、口と目 を図7に示すように机上一定の高さに保って静 かにシャボン玉をふくらませる。このとき、ス トローは机面に垂直で、シャボン玉は机に触れな いように注意し、玉が破れる直前の半径Rを読 む。また、そのシャボン玉の最後の色も観測する。
(4)すばやくストローを台にもどし、シャボ ン玉がこわれた後のストローの示す目盛りbを 読む。
(5)図7に示すように読み取った半径Rは真 の半径rと異なるので別の方眼紙に図を描いて
このrを読む。
(6)シャボン玉の表面積は4万γ2、膜の厚さ dとすれば、
47rr2dp=椚
ただし、βは溶液の密度で1.0とする。
12
ここここ二二二l二ミ、・
をつけたときシャボン玉溶液a
図6 シャボン玉の膜の厚みの測定
10 8 6 4 2 0
図7 ジャポン玉の半径
また
椚=(a−b)×感度*
これから
となり、シャボン玉の厚さが求められる。(ストローを台からはずさずに実験する方法として は図8のように、ストローの一部が曲げられるものにするとよい。シャボン玉溶液をつけるこ ともふくらませることも台に付けたままできる。)
実験例
溶液 :中性粉洗剤(モノゲン)
みかけの半径R: 9.おm 補正後の半径r: 5.1cm
シャボン玉を作る前の目盛りa:7.1cm シャボン玉のこわれた後の目盛りb:10.1cm ストローバランスの感度*:3.1×10 ̄昌/cm シャボン玉の重さ
−3
(10.1−7.1)×3.1×10=22×10、3(g)
したがって膜の厚さは
d=
となる。
刑 22×10 ̄3 4汀r2 4汀×5.12
= 6.7×1015(cm)
くシャボン玉溶液の種類と膜の厚さの関係〉
溶液の種類によって、できる膜の 厚さとその膜の厚さの範囲は異なる。
また、どのシャボン玉溶液でも最も 薄い膜の厚さはほぼ3.0×10 ̄もm前後 である。(注意:衛生上の見地から、
いろいろの液でシャボン玉はできる が界面活性剤等の中には毒性の強い 溶液もあるので注意する必要がある)
シャボン玉溶液の種類と膜の厚さの関係
種 類
君 1。−5。㌘ ひ ろ が り
× 10 1 m 風 呂 用 石 け ん (牛 乳 石 け ん ) 1 0 .7 3 .0 〜 2 0 .7
中 性 洗 剤 (粉 モ ノ ゲ ン ) 7 .0 2 .9 〜 14 .1 洗 顔 料 (練 マ ッ ク ス フ ァ ク タ ー ) 5 .3 3 .9 − 1 0 .5 シ ャ ボ ン 玉 溶 液 (市 販 ) 4 .5 1 .9 〜 8 .7
く薄膜の色と厚さの関係〉
シャボン玉を作ると様々な色が流れるように 模様を描くが薄くなりこわれる前一瞬に一色に みえることがある。薄膜の上面と下面で反射す
る光のうち、光路差
2ndcosγ=(2m+1)l/弓の条件に合う波 長の光が強め合って膜が色付くと考えられる。
(ただし、n:屈折率、γ:屈折角、m:整数)
この色と膜の厚さとの関係について、Reinolds
表2 膜の厚さとその色調
R e in o ld s と R u c k e r 測 定 値
× 1 0 { m × 1 0  ̄5 c m 紫 3 .0 5 紫 育 3 .2 黄 4 .5 4 黄 4 .5 縁 6 .4 5 黄 緑 6 .1 赤 1 0 .2 5 赤 1 0 緑 1 1 .8 8 穣 1 2
とRdckerの研究による吏3)の一部と筆者らの測定値の結果を表2に示す。
ii)牛乳中の固形分の含有率の測定
(水の蒸発時間の測定にも応用できる)
く操作〉
(1)図9のように10mmX15mmのろ紙の乾燥時と牛乳でぬれているときのろ紙の測定ができる
*
ようにストロー/ヾランスの調整を行なう。感度を求めておく。
(2)同じ大きさのろ紙を用いストローの先の鈎につるしたときの目盛りaを読み、次にこの ろ紙に牛乳をっけ、その目盛りbを読む。(図9参照)
(3)自然に乾燥させ、一定になったところで目盛りCを読む。
(4)固形分の含有量は
(乾燥後の紙の目盛)…(紙だけの目盛)
×100 =
(牛乳をつけた紙の目盛)−(紙だけの目盛り)
から求められる。
実験例
森永牛乳(乳脂肪分3.0%以上、無脂乳固形分8.0%以上)
表3 牛乳の固形分含有率
C−a(固形分)
b−a(牛 乳)
室 温 ℃ 2 0 .5 1 9 .0 2 1 .0 1 7 .0
湿 度 % 6 6 6 9 6 2 7 8
紙 の 目 盛 a C m 紙 + 牛 乳 b c m 紙 十 固 形 分 C C m
1 1 .7
4 .8 0
1 0 .7 5
1 1 ,1 5
3 、6 0
10 .0 0
1 1 .2 5
3 .6 5
10 .1 5
1 1 .0
3 .4 5
9 .9 5
含 有 率 % 0 、9 5 1 .1 5 1 .1 0 1 .0 5
− × 1 0 0 − × 1 0 0 − × 1 0 0 − × 1 0 0
6 .9 0 7 .5 5 7 .6 0 7 .5 5
こ= 14 こ= 15 = 14 = 14
14
図10には牛乳をつけたろ紙の乾燥状態を示す。湿度が高いと乾燥が遅れる。
水の蒸発速度は湿度の他に温度、風、日向と日陰、布や紙など水をしませた材質によっても 異なる。
ストローバランスを利用し、毛髪の密 度、アボガドロ数、溶解度、表面張力の 測定およびクーロン法則の検証実験等
も行なっているが紙面の都合で次回に報 告する。
4 ま と め
以上の実験例に示すようにストローバ ランスは簡単な装置にかかわらず、微量 の質量の測定に大いに役立っ。
8 7 6 5 4 3 2 1 0
︵紙
+牛 乳︶ の 目盛 りc m
測定量がミリグラム単位で、小学生に 図10 牛乳をつけたろ紙の乾燥曲線
はオーダーとしては小さすぎるが、例えば、牛乳の固形分の含有率の測定実験結果にある図10 の蒸発曲線は、次のことを説明するのに利用できる。具体的には「洗濯物が晴れた[=こは早 く乾くが雨の日には乾きが遅いのはどうしてか」というような児童の質問に対して、湿度の高 い(78%を雨の日と仮定し)ときは水分が蒸発して一定の値を示すのに1時間半かかるのに対
し、湿度の低い(62%を晴れの日と仮定し)ときは約1時間で乾燥することから定性的に質問 に答えることができる。また、小学生対象としては、グラム単位の測定の行なえる天秤5)が同
じ原理で作れる。
測定単位がミリオーダーということで、中学生以上での微量定量実験には有効である。例え ば、同じ牛乳の固形分含有率測定で蒸発曲線が描けることからろ紙の大きさを変えて単位面積 当りの水の蒸発量も計算でき、定性実験から定量実験へ移行できる。
手に入れやすく安価な材料を利用し、容易に作ることのできるこれらのマイクロバランスは、
小学校のクラブ活動においても有効な実験器具であり、自作することにより、てこの原理もよ く理解でき、中学校、高校においても同様である。
なお、クーロン法則の検証や、アボガドロ数の測定等々においてもかなりの精度を得ている ので、それらの結果ならびにマイクロバランスの改良等についても次回に報告する。本実験に 醸し、終始、御指導、御助言いただいた岡崎良吾先生に感謝の意を表します。
引用文献
1)文部省 中学校指導書 理科編 大日本図書 Pl1978 2)岡崎良書 理科教育1977.5月 東洋出版 P9
3)渡辺信淳,渡辺 昌,玉井康勝 表面および界面 共立出版 P421977 4)岡崎良吉編 探究の理科 明治図書1974
5)横田和実 理科教育1977.10月 東洋出版 P63