1.は じ め に
わが国の法人税法における欠損金(Net operating loss, Deficit, Net loss)の 規定には,欠損金の繰越制度(carryover of deficit)と繰戻し制度(carryback of deficit)がある。赤字の法人が7割近くに達しているわが国では,法人に とっても,国家にとっても,これらの制度は重要な制度だといえる。なぜな らば,欠損金の繰越しは法人の資本蓄積を促し財務力を強化するし,一方,
国家の,歳入の縮小に繋がるからである。
わが国の税法における欠損金の繰越制度の誕生は明治32年であり,当時,
欠損金の繰越控除は繰越期間が無制限に認められていた。一方,欠損金の繰 戻し制度は,昭和24年のシャウプ勧告において初めて述べられ,その翌年の 昭和25年からわが国に導入されたものである。
その後,税制は改正が繰り返された。現在では,欠損金の繰越控除の規定 は繰越期間に制限が加えられ,繰越しは7年間のみ認められている。しかも 欠損金の繰戻しの規定は,特定の場合を除いては停止された状態となってい る。また平成23年改正大綱(平成22年12月16日)では,7年間の繰越は9年
わが国の税法における
欠損金の繰越制度に関する一考察
―― ハイブリッド税法及び国際比較の視点から ――
山 内 進
上 田 真 士
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( 1 )
間に延長されたものの,繰越控除額は繰越控除をする事業年度の控除前の所 得金額の100分80相当額という所得制限が設けられた。これらの状態は,税 法上,欠損金の規定が創設された当時とは大きく乖離しているといえよう。
そればかりでなく,わが国の欠損金の課税制度は,諸外国の取り扱いとも 大きく異なっている。欠損金の繰越制度は現在まで,世界に大きく浸透した。
そのなかで諸外国の多くは,欠損金の繰越制度に対して繰越期間を無制限な いしは長期間に規定している。つまり世界の多くの国々では欠損金の繰越制 度を,当然必要な制度とみなしているといっても過言ではない。同様に欠損 金の繰戻し制度も世界的広がりをみせている。
わが国は欠損金の繰越制度に期間制限(平成23年の税制改正大綱では9年 に延長)を設けている。さらに平成23年度税制改正大綱では,欠損金の繰越 に所得制限を加えているのである。この二点をみても,わが国の欠損金課税 制度が世界の税制の動きとは異なっているという現状が窺えるであろう。欠 損金課税制度における税制改正の方向性には疑問をもたざるを得ない。欠損 金課税制度の趣旨,つまり原点が看過されているものと考える。
このような動きに着目して,本小論の研究目的は,現在のわが国の税法に おける欠損金課税の問題点について,その創設の趣旨,沿革を踏まえ,欠損 金課税の本質という原点に回帰して考察するものである。さらには,諸外国 の税制と比較をしながら,わが国の欠損金課税に潜む課税の問題点を明確に する。そこに本研究の意義がある。
わが国の課税制度は,諸外国から導入され,それをわが国の経済,文化に 合わせ修正を施してきた。これを筆者はハイブリッド税法と名付けている。
税法のハイブリッドといってもハイブリッドの仕方は,税法の項目により大 きく異なっている。このハイブリッド及び国際比較からみると,税法上の欠 損金の繰越,繰戻し制度はどうであろうか。また欧米諸国やアジア諸国と比 較し,わが国の欠損金課税に関する問題点を抽出し論究を試みる。
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( 2 )
本小論は,わが国の欠損金課税の問題点を,ハイブリッド税法及び国際比 較の視点並びに,創設の趣旨,欠損金課税の本質という原点に回帰しながら 検討するものである。また本研究は,筆者が続けているハイブリッド税法研 究の一つである1)。
以上の研究目的を達成するため,本小論は次のように構成している。第二 章では,欠損金課税の現行規定について説明し,現在の欠損金の繰越,繰戻 し規定に潜む課税の問題点を抽出する。第三章では,欠損金課税の沿革を概 観し,税制上の問題点を検討する。第四章では欠損金に対する会計と税法の 考え方について検証する。第五章では諸外国における欠損金課税を比較し,
わが国の欠損金課税の特徴について論及する。第六章では,わが国の欠損金 課税のハイブリッド化について論究し,欠損金課税の問題点につき考察する。
第七章では,欠損金の繰越し制度の本質へ原点回帰し,欠損金課税のあり方 について言及する。第八章では,わが国の欠損金課税の問題点について論究 を試みる。
2.わが国の欠損金の繰越制度と繰戻し制度に対する税法の取扱い
欠損金に関する制度は,欠損金の繰越制度と欠損金の繰戻し制度に分けら れる。前者の欠損金の繰越制度には,青色申告書を提出した事業年度の欠損 金の繰越控除と災害損失金の繰越控除,民事再生等に伴う債務免除等があっ た場合の欠損金の損金算入の規定がある。後者の繰戻し制度には,通常の繰 戻し制度と,解散等の場合の特例と,欠損金の繰戻し制度の停止と中小法人 等への適用がある。
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1 欠損金の繰越制度2)
① 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
確定申告書を提出する法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始した事 業年度で,かつ,青色申告書を提出した事業年度において生じた欠損金額が わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −353−
( 3 )
ある場合に,その欠損金額に相当する金額は,その各事業年度の所得の金額 の計算上,損金の額に算入される。ただし,損金の額に算入される金額は,
この規定を適用する前における各事業年度の所得の金額を限度とする。この 場合の欠損金額とは,各事業年度の損金の額が当該事業年度の益金の額を超 える場合における超える金額をいう。欠損金の繰越控除は青色申告法人に限 り,特典として認められている。
② 災害損失金の繰越控除
確定申告書を提出する法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始した青 色申告書を提出しなかった事業年度において生じた欠損金額であっても,そ のうち棚卸資産,固定資産又は固定資産に準ずる繰延資産について震災,風 水害,火災等の災害により生じた損失に係るものがあるときは,その災害損 失に係る欠損金額に相当する金額は,各事業年度の所得の金額の計算上,損 金の額に算入される。ただし,損金の額に算入される金額は,この規定を適 用する前における各事業年度の所得の金額を限度とする。
③ 民事再生等に伴う債務免除等があった場合の欠損金の損金算入 民事再生法等による再生手続開始の決定があり,役員・株主により金銭そ の他の資産の贈与を受け,債権者より債務が免除された場合には,それらの 金額は益金に算入される。しかし,この場合において,青色申告年度の欠損 金の7年間の繰越控除が適用される時は問題がない。ところが7年間経過後 の青色申告年度の欠損金や,青色申告でない年度の欠損金については損金に 算入されず,私財提供益や債務免除益が課税されると,企業再建の目的の達 成が困難となる。そこで,会社による特別清算開始命令,破産法による破産 手続開始決定,民事再生法による再生手続の開始決定,これらに準ずる事実 があった場合には,私財提供益,債務免除益に達するまでの金額について,
これらの事実に該当する事業年度前の事業年度で生じた欠損金は損金に算入 される。
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( 4 )
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2 欠損金の繰戻し制度
① 欠損金の繰戻し制度
法人が青色申告書である確定申告書を提出する事業年度において生じた欠 損金がある場合には,その法人は,欠損事業年度開始の日前1年以内に開始 した還付所得事業年度の法人税額を還付請求することができる。その申告書 の提出と同時に,納税地の所轄税務署長に対し,この規定は,還付所得事業 年度から欠損事業年度の前事業年度までに連続して青色申告書である確定申 告書を提出し,欠損事業年度の青色申告書である確定申告書をその提出期限 までに提出した場合に限り適用する。
還付所得事業年度の法人税額 × 欠損事業年度の欠損金 還付所得事業年度の所得金額
この欠損金の還付の規定は,次の法人以外の法人の平成4年4月1日から 平成24年3月31日までの期間に終了する各事業年度において生じた欠損金に ついては適用しない。ただし,以下の解散等の場合の還付請求の特例におけ る欠損金についてはこの限りではない。
ア 普通法人のうち,事業年度終了時において資本金の額が1億円以下で あるもの又は資本を有しないもの。その他一定の法人
イ 解散等の場合の特例
ウ 欠損金の繰戻し制度の停止と中小法人等への適用
② 解散等の場合の特例
解散(適格合併による解散を除く),営業譲渡,会社更生法又は金融機関 等の更生手続の特例等に関する法律規定による更生手続の開始,営業の全部 の相当期間の休止又は重要な部分の譲渡で,これらの事実が生じたことによ り欠損金額の繰越控除の規定の適用を受けることが困難となると認められる もの並びに民事再生法の規定による再生手続開始の決定及び商法の規定によ わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −355−
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る整理開始命令があった場合には,その事実が生じた日前1年以内に終了し た事業年度及びその日を含む事業年度の欠損金額については,その日以後1 年以内に還付請求が認められる。
③ 欠損金の繰戻し制度の停止と中小法人等への適用
欠損金の繰戻しの不適用措置は,中小法人並びに公益法人等,協同組合等 及び人格のない社団等一定のものには不適用となった。つまり中小法人等に ついては,平成21年2月1日以後に終了する事業年度において生じた欠損金 額については,欠損金の繰戻しによる還付ができることとなった。大法人に は相変わらず適用されない。中小法人は,景気や金融に影響を強く受けるた め,その保護として欠損金の繰戻し制度が適用されることとなったのである。
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3 組織再編税制と欠損金の繰越
合併,分割,現物出資,株式交換,株式移転等の組織再編にかかわる税制 が平成13年度の税制改正で創設された。合併には適格合併,非適格合併等が あるが,適格合併等(適格合併又は合併類似適格分割型分割)に対しては資 産,負債の帳簿価額による引継ぎが認められ,しかも一定金額の繰越欠損金 の引継も認められた。
合併類似適格分割型分割とは,適格分割型分割のうち,分割法人の分割型 分割前に営む主要な事業が分割承継法人において分割型分割後に引き続き営 まれることが見込まれていることなどの要件に該当するものである。
この場合の引継ぐ欠損金額は,非合併法人の未処理欠損金額から,次の欠 損金額を控除した金額である。
ア 被合併法人等の特定資本関係事業年度前の事業年度に係る未処理欠損 金額
イ 被合併法人等の特定資本関係事業年度以後の事業年度に係る未処理欠 損金額のうち特定資産譲渡等損失相当額からなる部分の金額
つまり,特定資本関係になった以後の欠損金額を引継ぐことができるとい
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( 6 )
う規定である。この特定資本関係とは,合併法人と被合併法人との間におい て合併法人が,既にその被合併法人の持分の50%を超える保有をしている関 係,二つの法人が同一の者によって,それぞれの法人の持分の50%を超える 保有をしている関係をいう(法57②③)。
しかしこの合併類似型適格分割型分割による繰越欠損金の引継制度は,活 用例がなく廃止された3)。
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4 連結納税制度と欠損金の繰越
平成14年度税制改正において連結納税制度がとられ,欠損金についての規 定がある。連結親法人の連結確定申告書を提出する連結事業年度開始の日前 7年以内に開始した各連結事業年度において生じた連結欠損金額がある場合 には,その連結欠損金額に相当する金額は,その連結事業年度の連結所得の 金額の計算上,損金の額に算入する。また連結欠損金額の繰越控除による損 金算入限度額は,この繰越控除を適用する前の連結所得の金額となる(法81 の9①但し書き)。
しかし当時,連結納税開始前又は加入前の子法人の欠損金の引き継ぎが認 められず,連結納税の進行を妨げていた。
ただ株式移転によって持株会社となる親会社を設立した場合には,既存の 会社は子会社となり,持株会社を連結親法人,持株会社を設立した既存の会 社を連結子法人とする連結納税を開始した場合には,連結親法人は連結子法 人との間でもともとは同一の組織体を形成していたことを考慮に入れて,株 式移転の場合の連結子法人の欠損金額は,連結納税では,一定の要件の下で 引き継ぐことができた。
これに対して株式交換の場合は,株式を交換する会社同士は,直接又は間 接に同一の組織体を形成していたわけではないので,一体性に欠けるという ことから,株式交換によって完全親会社と完全子会社が完全親会社を連結親 法人とし,完全子会社を連結子法人とする連結納税を開始した場合には,連 わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −357−
( 7 )
結子法人の欠損金の引継ぎは認められなかった4)。
平成22年の改正では,連結納税開始前又は加入前の子法人の欠損金につい て持込制限が緩和された。特定連結子法人に該当する連結子法人の欠損金の 連結納税への持込が可能となり,その連結子法人の個別所得の範囲内で繰越 控除ができるようになった。つまりこの改正で,100%グループ内における 連結納税採用による欠損金の有効利用が可能となった5)。
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5 特定株主等によって支配された法人と欠損金の繰越
特定支配関係(他の者との間に50%超の株式を直接又は間接に保有される 関係)を有することとなった法人で,その特定支配関係を有することとなっ た日の属する事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額又は評価損資 産を有する法人(欠損等法人)が,その特定支配日以後5年以内に以下の一 定の事由に該当することとなった場合には,その該当することとなった日の 属する事業年度以後の各事業年度において,青色欠損金の繰越控除制度が適 用されない。
ア 欠損等法人が特定支配日直前に事業を営んでいない場合に,特定支配 日以後に事業を開始すること。
イ 欠損等法人が特定支配日直前に事業を廃止又は廃止見込みの場合にお いて,従前の事業規模のおおむね5倍超の資金の借入れ又は出資によ る金銭等を受け入れること等。
(法57の2①)。
また資産につき,含み損を有する法人の譲渡損失についても一定の条件の 下で,損金の額に算入されない。
ある法人が欠損金や資産の含み損を抱えているとき,別法人がこの法人
(欠損法人)の株を取得し,この会社を支配し,その欠損金や資産の含み損 を利用して租税回避が行われる可能性がある。そこで,この租税回避を防止 するための規定である6)。
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( 8 )
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6 グループ法人単体課税導入による完全支配関係にある内国法人の残余 財産確定に伴う繰越欠損金の引継ぎ
平成22年の改正前においては他社の繰越欠損金を引き継げるケースは一定 要件を満たす適格合併等であったが,平成22年の改正でグループ法人単体課 税制度の導入に伴い,内国法人との間で完全支配関係にある他の内国法人で 当該内国法人が発行済株式等の全部もしくは一部を有するものが解散し,残 余財産が確定した場合において,残余財産の確定の日の翌日前7年前以内に 開始した各事業年度において生じた繰越欠損金があるときは,一定要件を満 たす場合に限り引き継ぐことができるようになった(法58②)7)。
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7 期限切れ欠損金の損金算入
平成22年の清算所得課税の廃止に伴い,債務免除益等の課税を防ぐために,
内国法人が解散した場合において,残余財産がないと見込まれるときは,そ の清算中に終了する事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額(期限 切れ欠損金額)に相当する金額は,その事業年度の所得の金額を限度として,
損金の額に算入される(法59②)。
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8 平成23度税制改正大綱
平成23年税制改正大綱では欠損金に対して,以下のように発表がなされた。
イ 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度及び青色申告 書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越控除制度にお ける控除限度額について,その繰越控除をする事業年度のその繰越控 除前の所得の金額の100分の80相当額とし,連結欠損金の繰越控除制 度における控除限度額について,その繰越控除する連結事業年度のそ の繰越控除前の連結所得の金額の100分の80相当額とする。なお中小 法人は現行通り100分100である。これに伴ない以下の措置を講じる。
この改正は平成23年4月1日以後に開始する事業年度について適用す る。
わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −359−
( 9 )
(イ)中小法人等については,現行の控除限度額を存置する。
(ロ)特定目的会社,投資法人,特定目的信託に係る受託法人及び特定 投資信託に係る受託法人で,支払配当等の損金算入制度の適用対 象となるものについては,現行の控除限度額を存置する。
(ハ)会社更生等による債務免除等があった場合について現行どおり欠 損金の損金算入ができるようにする。
平成23年4月1日に前に更生手続開始の決定,再生手続開始決定を受 けたこと等の事実が生じた法人(連結納税の場合には,連結親法人)に ついては,その決定等の日から更生計画認可の決定,再生計画認可の決 定等の日以後7年を経過する日まで期間内の日の属する各事業年度につ いては,経過措置として,現行の控除限度額を存置する。
ロ 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越期間,青色申告書を提 出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越期間及び連結欠損金 の繰越期間を現行7年から9年に延長する。これに伴ない,以下の措 置を講じる。
(イ)青色申告書を提出事業年度の欠損金の繰越控除制度,青色申告書 を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越控除制度及 び連結欠損金の繰越控除制度について,その欠損金が生じた事業 年度の帳簿書類の保存の適用要件とする。
(ロ)法人税の欠損金額に係る更正の期間制限を現行7年から9年に延 長する。
(ハ)法人税の欠損金額に係る更正の請求期間は9年とする。
上記(イ)及び(ロ)の改正は,平成20年4月1日以後に終了した事 業年度において生じた欠損金額について適用し,上記(ハ)の改正は平 成23年4月1日以後に法定申告期限が到来する法人税について適用する。
改正の大綱における法人税の改正の趣旨は,税率の引下げに併せた課
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( 10 )
税ベースの拡大である。具体的には租税特別措置である特別償却や準備 金の廃止や縮減を行うほか,減価償却制度の償却速度を主要国並みに見 直すことや,大法人について欠損金の繰越控除を一定制限する等の措置 を講じられる。欠損金に控除限度を設けたのは,欠損金繰越制度の沿革 からみると画期的な改正である。これは課税ベース拡大の一つとして実 施されるものである。
現行の欠損金の繰越制度は単体課税から,連結納税,組織再編税制,
グループ法人税制という複合体課税へと適用範囲が拡大してきた。組織 再編等を利用した租税回避を防止するための課税強化と,組織再編を円 滑に進めるため,再編等に対する中立性を害しないことという課税の公 平性の維持と中立性維持とのバランスをどのようにとるかが今後の重要 課題となるであろう。
3.わが国の欠損金の繰越と繰戻し課税に関する税法の沿革
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1 欠損金の繰越制度の沿革
まず法人課税における欠損金の繰越制度の沿革について考察する。
法人課税が最初に行われた明治32年には,欠損金の繰越しは無制限とされ 所得金額から控除されていた。
欠損金の繰越控除については,当初は特段の立法措置は講じられてはいな かった。当時の商法の規定に合わせて,税法上も欠損金の繰越控除が認めら れていたのである。したがって,無制限の繰越控除が認められていた。当時,
商法において損失の補填を行った残余があれば,これを配当できると規定さ れていたことに合わせ,法人が損金に算入できる欠損金は,決算においてそ の事業年度の利益によって補填した金額を限度としていた8)。というように,
そもそも欠損金の繰越は,商法の影響を税法が受けたという。所得金額の計 算上,益金の額に算入すべき金額,損金の額に算入すべき原価,費用,損失 わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −361−
( 11 )
に関しては,別段の定めがあるものを除き,一般に公正妥当と認められる会 計処理の基準によるという規定からは理解ができなくはない。法人税法が,
欠損金の繰越を導入した当初は,税法として欠損金繰越の本質を検討せず導 入したことがわかる。税法の視点から課税の公平性や,中立性等から欠損金 の繰越の意義を検討すべきだったように思える。
大正15年には個人所得には欠損金の繰越制度が認められていなかったため,
個人課税とのつり合い等から欠損金の繰越しが認められなくなった。欠損金 の繰越控除が認められなくなった理由として,以下の理由が挙げられていた。
ア繰越控除が認められていなかった所得税との均衡を図ること。イ事業年度 単位課税の厳格な適用。ウ同族会社と非同族会社との均衡を図ること9)。
設立当初は無制限に,欠損金の繰越を認めていたものが,一気に全面的に 廃止となるから,驚きである。
欠損金が認められなくなった要因として事業年度単位課税の原則の厳格な 適用が挙げられている。欠損金の繰越制度の導入から,欠損金の本質を顧み なかった結果,事業年度課税原則の適用を持ち出し,全面的に廃止されたこ とは問題であるといえよう。
昭和15年に法人税が創設され,欠損金の繰越制度が復活し,期間制限が設 けられ3年間とされた。当初の政府原案では前1年以内の欠損に限るとされ ていた。なぜならば,戦時の増徴税に対応し,当期の通例となっていた半年 決算制度のもとでの上期と下期の損益不均衡を是正することにあったからで ある。
昭和21年の法人税法改正では,この繰越期間制限は1年とされた。短縮さ れた理由は,この制度の目的が半年決算法人の損益調整であり,終戦に伴う 損失を長期にわたり控除することは望ましくないとする政策的配慮があっ た10)。
その後,昭和25年のシャウプ勧告では「欠損額」が所得で相殺されるまで
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( 12 )
繰越しを継続するべきであるとし(第7章C節),欠損金の控除の期限を設 けずに永久に欠損金の繰越を認めるべきであるとした。シャウプ勧告では,
所得額の変動がもたらす不合理は,ある年に損失が生じこれを相殺すべき所 得がない場合には,不合理を生じる。個人の場合でも,繰越規定が適用され ないか,又は適用されてもその規定が全損失額及び控除容認額を所得と相殺 するのに充分でなければ,同様に不合理が生じる。
それ故,法人たると否とにかかわらず,納税者がある年度欠損を生じた場 合,この欠損を翌年度以降の損益計算において繰越して控除しえるとし,欠 損額が所得で相殺されるまで繰越を継続する。しかしこの制度の濫用を防止 するために青色申告書を提出することを許されている所要帳簿具備の納税者 に限って適用すべきであるとした11)。
ある年に損失が生じ,これを相殺すべき所得がない場合の不合理を論点と してシャウプ勧告では欠損金の繰越を認めている。つまり相殺すべき所得が ある企業とない場合の課税の不公平を根拠に,欠損金の繰越を容認している。
また,1年間の欠損金の繰戻しを認めるべきこととした。しかし当時にお いては財政等の諸事情を勘案して欠損金の繰越し期間は5年間となった。今 日の繰越欠損金の繰越し,繰戻し制度は,シャウプ勧告に基づいて確立され ている12)。
この5年間の繰越期間となった根拠として,その一つは無制限に欠損金の 繰越控除を認めると多額の欠損金ある会社の全株式を買い取ることによって,
いわば欠損金の売買が行われることも考えられるところであり,5年のと なった。また当時,青色申告の場合の帳簿の保存義務は5年(現在は7年)
とされていたことによって,5年とされたと思われる13)。本来は過去の欠損 金は将来の益金から補填していくべきであるが,課税の公平性の維持と中立 的な課税所得計算をするという見地から,損金算入する額を制限している14)。
昭和34年の改正では,伊勢湾台風の影響を受けた事業法人に対しては,災 わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −363−
( 13 )
害損失につき5年間の繰越制度を設けた。昭和40年には,資産の整理に伴う 私財提供又は債務免除があった場合には,私財免除又は債務免除に対して課 税されるために,企業の再建の目的の妨げになることから,一定の条件の欠 損金について私財提供又は債務免除と相殺するこことし,欠損金が差額とし て残る場合は,5年間の繰越を認めた。
昭和42年の改正では,不況を受けた石炭産業のため,一定条件のもとで金 融機関に借入金の返済計画を出しておけば,政府元利補給金を支給すること とされた。この元利補給金は課税対象となるために,繰越控除が認められな い欠損金と相殺して,課税をしないようにした15)。
昭和58年には,特定産業構造改善臨時措置法に基づく構造改善計画に従っ て設備廃棄が行われた場合は,昭和58年から昭和62年まで特例の対象とされ,
この期間に生じた繰越欠損金は5年間の繰越しが認められた。
昭和62年には産業構造転換円滑化臨時措置法の承認事業適応計画等に基づ き,事業転換,事業提携等を行う特定の事業者が昭和62年4月1日から平成 3年3月31日までの間に行う設備廃棄により生ずる除却損に係る欠損金につ いて10年間の繰越控除の特例が認められた。
平成4年の改正では,輸入の促進及び対内投資事業の円滑化に関する臨時 措置法の特定対内投資事業者に該当する法人の特定欠損金額については,同 法の施行日から平成7年3月31日までの期間内の日を含む事業年度に限って,
繰越期間を7年とした。昭和42年には石炭産業のため,昭和58年には,特定 産業構造改善臨時措置法に基づき,昭和62年には産業構造転換円滑化臨時措 置法に基づき,欠損金の繰越が認められた。このように欠損金の繰越の沿革 をみると税法上,租税特別措置として政策的に欠損金の損金算入が認められ ていた時期があることがわかる。欠損金の繰越の本質から,そもそも,欠損 金の繰越が政策税制であるのか,疑問が残るところである。
平成13年度の税制改正では,企業組織再編税制において,適格合併等が行
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( 14 )
われた場合に,欠損金額が繰越控除できるとされた(法57②)16)。
その後,平成16年度の税制改正で,5年間の欠損金の繰越期間を7年間に 延長した。これに伴って青色申告の場合の帳簿の保存期間が7年,更正の期 間期限も7年とされた17)。
当時,諸外国に比べて,わが国の欠損金の繰越期間が,短かったというこ ともあり,延長があったと思われる。当時アメリカの繰越期間は20年,イギ リス,ドイツ,フランスは無制限であった。また『改正税法のすべて』によ れば,「近年,金融・産業の一体的再生を目指して金融機関が不良債権処理 を加速するとともに,企業が不採算部門の整理を含む事業の再構築を…多額 の欠損金が生じ…。このような状況の下,わが国企業の国際競争力強化を図 るには…企業の事業の再構築等に積極的に取り組むための環境を整備するこ ととしたものです18)。」このように企業の再構築等の手段として期間の延長 が行われたことがわかる。
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2 欠損金の繰戻し制度の沿革(図表1)
欠損金の繰戻し制度については,昭和24年のシャウプ勧告書において述べ られていたシャウプ勧告では「多くの事業は,完全に業務を廃止する直前に は,多額の欠損の時期があり,かような場合には,税を控除しようにも将来 の所得というものがないのである。さらに繰越欠損制度が納税者に与える恩 恵は後になってからでなくては,あらわれてこないのであって,欠損を生じ た時にくらべれば,この制度の必要性は遥かに減少している。それ故に,わ れわれは,欠損の2年度繰戻しを納税者に認めるように勧告する。これに よって事業を廃止しようとしている納税者は,事業の最終年度またはその前 年度において生じた欠損に対し少なくともある程度,税の恩恵を受けること となる。欠損しつつある者も,現金の必要が大きい時に,ある額の現金をた だちに貰えるという恩恵を受けることができる。また円の価値が最も低かっ た時の欠損金を,円の価値の最も高い時に繰戻すのは適当でない19)。」
わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −365−
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このシャウプ勧告からみると,欠損金の還付制度は,将来の所得が予想で きない事業を廃止する直前には,繰越控除が使用できないため,意義あるこ と。その意味では,欠損金の繰戻し制度は欠損金の繰越制度の補っている制 度といえる。また還付により現金を得ることが可能であるため,納税者の恩 恵となると述べられている。さらに欠損繰越,繰戻しの適用をうけるために は,その濫用を防止するため青色申告に基づく帳簿が必要であると既述され ていた。
この発想は,官僚的発想ではなくいわば民主的な発想であるといえる。欠 損の繰戻しという発想は従前では考えられないところであった。しかしアメ リカ税法において,既に当時において,この還付は存在していたのでシャウ プ勧告のこの点の既述は,新規なものではなかった20)。このシャウプ勧告を 受けて,わが国では昭和25年に,欠損金の繰戻し還付制度をもうけた。青色 申告書を提出する法人に,当該事業年度開始前1年以内に開始した事業年度 の所得に対する法人税額とその事業年度の所得金額から欠損金額の全部又は 一部を控除して計算した場合における法人税額との差額に相当する法人税額 を還付請求できるとした。わが国の欠損金還付制度はアメリカから導入され
図表1 わが国の欠損金の繰越・繰戻しと適用期間 明治22年
規定創設時
欠損金の繰越 無制限で認める
欠損金の繰戻し 1年
大正15年 欠損金の繰越 一切認めない
昭和15年 欠損金の繰越 3年
昭和21年 欠損金の繰越 1年
シャウプ勧告昭和25年 欠損金の繰越 基本的に認める5年 平成22年度現在 欠損金の繰越 7年
欠損金の繰戻し 1年
平成23年税制改正大綱 欠損金の繰越 9年(所得金額の80%を限度)
欠損金の繰戻し 1年
−366−
( 16 )
たといえる。ただし欠損金の繰越制度の導入が明治32年だったのと比較する と,欠損金の還付制度の規定は随分あとになったことがわかる。
昭和32年の改正では,解散,合併等の場合は,申告期限後においても繰戻 しができるようになった。昭和40年の改正では,還付事業年度の法人税額に 還付事業年度の所得金額のうちに欠損始業年度の欠損金の占める割合を乗じ て還付金額を計算することとなった21)。
昭和43年の改正では,欠損金の繰越は,発生した事業年度ではその根拠が 明確でなければならないので,青色申告のような完全な記帳が行われている のに限るが,繰越控除するその後の事業年度においては,青色申告書の提出 を要件とすることは要件が酷すぎるとして,青色申告書の提出を要しないと した22)。
ところでこの欠損金の繰戻し還付制度は特典的なものとみなされていた。
なぜならば以下のように財政難という事態に直面すると,これを停止するこ とが行われたからである。
昭和59年の改正においては,厳しい財政事情に顧み臨時措置として法人税 の引き上げが行われたが,この繰戻制度は,2年間停止された。これ以来も この制度は若干の変動はあったものの,今日まで適用が特別な場合を除いて 停止されている。なお適切な制度として発足した本制度が,いわば停止の状 況にあることは妥当なものではないと考える23)。
昭和61年の改正では,欠損金の繰戻し還付制度の停止期間が租税特別措置 法第66条の16により2年間延期された。しかし特定中小企業者事業転換対策 等臨時措置法の認定特定中小企業者に対しては,停止期間の適用はされな かった。欠損金の繰戻し還付が可能となった。昭和63年の改正で,租税特別 措置法第66条の16は削除された24)。
平成4年度の改正においても,バブル崩壊に基づく財政難のために2年間 停止することとなった。さらに平成6年度改正においても,さらに2年間停 わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −367−
( 17 )
止され,すでに6年間にわたって停止されることになった。これ以来,今日 まで適用が特別な場合を除いて停止されている。
4.欠損金に対する会社法と会計の考え方
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1 欠損金の繰越と会社法と会計の考え方
法人課税が最初に行われた明治32年には,欠損金の繰越しは期間が無制限 とされ所得金額から控除されていた。しかし,この欠損金の繰越控除につい ては,当初は特段の立法措置は講じられてはいなかった。当時の商法の規定 に合わせて,税法上も欠損金の繰越控除が認められていたのにすぎないとい う。当時,商法において損失の補填を行った残余があれば,これを配当でき ると規定されていたことに合わせ,法人が損金に算入できる欠損金は,決算に おいてその事業年度の利益によって補填した金額を限度としていた25)という。
現在,会社法において欠損金が生じた場合において,税法のように,前期 以前の欠損金を当期に繰り越して,当期の利益と通算するという問題は生じ ない。
欠損金について商法では,配当をする場合に,その欠損金を補てんした後 でなければ,これを行うことができない(旧商法290)。ここでいう欠損金額 とは,純資産額から資本の額,資本準備金,利益準備金の合計額を控除した 金額である。
また第461条の「配当等の制限」のなかで,金銭分配について統一的な財 源規制をかけている。同2項においては分配可能額の計算は欠損金を控除す る。このように商法では欠損金は資本維持を妨げることになるので,欠損金 を無視して配当することは許されないという制限が存するだけである26)。
また欠損金の取扱いは,旧商法では株主総会における資本の減少の特別決 議で欠損金は自己資本で填補することにより消滅することとしていた(旧商 法375①)。したがって株式会社に欠損金がある場合には,資本の部の剰余金
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( 18 )
で欠損金を填補することになるが,剰余金で填補しきれない場合には,平成 13年の商法改正以前では,利益準備金,資本準備金,そして資本金の順に補
填していくことと解されていた。
ところが,平成13年6月の商法改正で,株主総会の決議により資本準備金 と利益準備金の法定準備金の総額から,資本金の4分の1に相当する額を上 限として法定準備金の減少ができることとなった。欠損金の補填の順番であ る利益準備金と資本準備金の補填の順番が自由になった。
新会社法では,株主総会の決議によって,損失の処理,任意積立金の積立 てその他の剰余金の処分(剰余金減少による資本金,準備金,剰余金の配当 及び株式会社の財産の処分に伴う計数変動以外)をすることができるとして いる(会社法452)。これは,欠損金の補填には剰余金の処分をすることがで きることを明らかにしたものである27)。
一方,企業会計においても,繰越欠損金は当期の利益とは関係がない。前 期以前に生じた欠損金はそれぞれの期に生じたものであって,当期自体の利 益とは関係がないのである。ただし,配当を行う場合には,欠損金を補填さ れた後の純資産が,その基礎となる。
旧企業会計原則(昭和38年修正前)の損益計算書原則6第2項においては,
「正当な理由がなければ,資本剰余金を利益に直接又は間接に振替えてはな らない。」とし,この場合の正当な理由による振替えの例として「!1利益剰 余金をもってなお填補することができない欠損の填補に充てるため資本剰余 金を取り崩して使用する場合」が挙げられていた28)。
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2 欠損金の繰戻しと会社法と会計の考え方
欠損金の繰戻しに対する会計と会社法の対応については,まず会社法にお いても,当期における欠損金を繰り戻して,たとえば,前期における配当,
役員賞与の返還を求めるというようなことは行われない。また企業会計制度 においては,考え方として存在しないものであって「前期損益修正」という わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −369−
( 19 )
項目において処理されるだけである29)。
会計では当期の純損失が発生したときの仕訳は,借方,繰越利益剰余金が,
貸方には損益勘定が記帳され,自動的に繰り越されてきた繰越利益剰余金と,
当期の純損失が相殺されることになる。これは,欠損金の繰戻しに似ている といえよう。しかも,会社法の規定で繰越利益剰余金の借方残高は,任意積 立金,利益準備金,資本準備金を取り崩して補填できる。
逆に,繰越利益剰余金の借方(マイナス)が繰り越されて,当期は純利益 が発生した場合には,当期純利益の仕訳は,借方に損益勘定を,貸方には繰 越利益剰余金を記帳される。これらは自動的に欠損金が繰り越され当期純利 益と相殺されていることになる。これは欠損金の繰越に似ているといえる。
また,会社計算規則では,その他の利益剰余金は当期純利益が生じた場合は 増加し,当期純損失が生じた場合は減少する(会社計算規則52)。この会社 計算規則も,当期純利益と繰越利益剰余金の相殺のようにも思える。
このように,企業会計,会社法のどちらも,税法のような前期以前の欠損 金を当期に繰り越す,繰り戻すという規定はないが,結果的に当期の利益や 当期の損失と繰越利益剰余金と通算しているといえないだろうか。
5.諸外国の欠損金の繰越と繰戻しに対する税法の取扱い
欠損金の繰越控除と繰戻し規定は,以下のように世界の国々で運用されて いる。
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1 欧米諸国の欠損金課税(図表2)
① アメリカの欠損金課税
アメリカでは,1997年8月6日から開始した課税年度の欠損金は,20年間 の繰越,2年間の繰戻しが認められ,その繰戻し,繰越年度の課税所得から 控除できる。この規定により,欠損金は当期を含めて合計で23年間の所得か ら控除できる30)。
−370−
( 20 )
又アメリカでは,連結グループに属する各々の法人の当期課税所得の金額 と個別欠損金の金額は連結上通算されることになり,ここで欠損が残った場 合には,連結グループの連結欠損金(consolidated net operating loss: CNOL)
として扱われることになる。この連結欠損金は過去又は将来の連結グループ 全体の連結課税所得の計算上で控除すべく,連結グループ全体の連結課税所 得の計算上で控除すべく,連結グループとして繰戻し又は繰越しの手続きを とることになる(規則1.1502‐21(a))31)。
② イギリスの欠損金課税
イギリスでは,欠損金処理は事業損失から生じた欠損金とキャピタルロス 図表2 欧米諸国の欠損金の繰越・繰戻しと適用期間
アメリカ 欠損金の繰越 20年間
欠損金の繰戻し 2年間
イギリス 事業損失の繰越 無制限 事業損失の繰戻し 1年間 フランス 事業損失の繰越 無制限 事業損失の繰戻し 3年間
ドイツ 欠損金の繰越 無制限(100万ユーロを超える 欠損金は所得の60%を限度)
欠損金の繰戻し 1年間
スペイン 欠損金の繰越 15年間 欠損金の繰戻し 認められていない ポーランド 欠損金の繰越 5年間(欠損金の50%を限度)
欠損金の繰戻し 認められていない
オランダ 欠損金の繰越 9年間
欠損金の繰戻し 1年間
オーストラリア 欠損金の繰越 無制限 欠損金の繰戻し 認められていない
(注)アメリカについては,金児昭『アメリカ連邦税入門』税務経理協会,2010 を欧州については,Steve Moriyama『拡大欧州の投資・税制ガイド』中 央経済社,2008等を参考に作成した。
わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −371−
( 21 )
では取り扱いが異なり,事業活動から生じた事業損失は無制限の繰越が認め られるが,将来,同一の事業から生じた所得とのみ相殺できる。
同一の事業年度で事業所得と相殺できなかった事業損失については,同一 の事業が行われている限り,12ヶ月前までに生じた全ての所得(1年間)及 びキャピタルゲインに対して繰り戻すことが認められている32)。
③ フランスの欠損金課税
フランスでは,事業損失は原則として無制限に繰り越すことができる。ま た税法の改正があった場合,又は事態に大きな変更があった場合には繰越が 制限される場合もある。欠損金は他の会社に譲渡することはできない。
また一定の条件を満たすと,3年を上限に欠損金の繰戻しを行うことがで きる。過去3年間の課税所得と相殺することができる33)。
④ ドイツの欠損金課税
ドイツでは法人税と営業税に対して,以下のように欠損金が取り扱われて いる。
まず欠損金の繰越は,法人税,営業税ともに原則として無制限に繰越が可 能である。ただし100万ユーロを超える繰越欠損金は課税所得の60%を限度 として相殺できる。
法人税に対しては欠損金の繰戻しは1年間認められている。営業税に対す る繰戻しは認められてはいない34)。
⑤ スペインの欠損金課税
スペインでは,欠損金は原則として,15年間繰り越すことができるが,繰 戻しは認められない。また,組織再編の結果,清算に至った法人や一定の株 主構成の変更があった法人等の繰越欠損金の利用には一定の制限が加わる35)。
⑥ ポーランドの欠損金課税
ポーランドでは,欠損金は5年間にわたり繰り越すことができる。また,
繰越欠損金のうち1年間に損金算入できる額は当該繰越欠損金の50%を限度
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( 22 )
としている。したがって,少なくとも繰越欠損金の解消には最低2年を要す る。欠損金の繰戻しは認められない36)。
⑦ オランダの欠損金課税
オランダでは,原則として欠損金の繰越は9年間,繰戻しは1年間認めら れる。ただし,当該規定は,30%以上の株主構成の変更があった場合には適 用できない。また,株式保有又は金融活動から生じた欠損金は,同様の活動 から生じた所得とのみ相殺できる37)。
⑧ オーストラリアの欠損金課税
1989‐90年度およびそれ以降の所得年度に発生した欠損金については,無 制限に繰越が認められる。この課税所得との相殺は。株主持分の継続性,又 は事業の継続性を満たしている場合のみ可能である。しかしながら欠損金の 繰り戻しは認められていない38)。
一方,アジア諸国では,以下のような欠損金課税がみられる。
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2 アジア諸国の欠損金課税(図表3)
① 中国の欠損金課税
中国では,外商投資企業及び外国企業(支店等)が中国内で設立した生 産・経営に従事する機構,場所で年度の欠損が発生したときは,次年度以降 の所得を充当して補填することができる。但し,欠損の繰越は最長5年間ま でとされている39)。
② 台湾の欠損金課税
過年度よりの繰越欠損金は,会計帳簿及び証憑類が完備されており,青色 申告が認められている会社,又は会計士の税務監査を受けている会社で,か つ期限内に申告している場合,所轄税務署の確定を受けて認められた前5年 内の各期の欠損金を,各期の欠損金を,当期の課税所得から控除することが できる。欠損金の繰戻し還付制度はない。
わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −373−
( 23 )
③ 韓国の欠損金課税
韓国では,一般法人は,各事業年度開始前5年以内に開始した事業年度に おいて発生した欠損金であって,その後の各事業年度の所得金額又は課税標 準の計算上控除されなかった金額は,課税標準の計算に際して,各事業年度 の所得から控除される。中小企業の場合,欠損金の繰越控除のみではなく繰 戻しも認められる。直ちに欠損金を繰越して,その後5年間の各事業年度の 所得から控除する方法と,前年度の所得より控除して既に納付した税金の還 付を受ける方法がある40)。
④ 香港の欠損金課税
税務上の欠損金は将来発生する課税所得に充当するため,永久に繰越しが 可能である。ただし,会社設立後,全く営業収入がなく,費用だけ支払う状 況で発生した会計上の欠損金は営業目的のために発生したものと認められず,
税務上欠損金とはならない。パートナーシップで発生した欠損金は各パート ナーの所得と合算して申告する41)。
⑤ シンガポールの欠損金課税
シンガポールでは,税務上の過年度欠損金は,主要株主に変動がないこと を条件として,将来の所得と相殺するために永久に繰り越すことができる。
図表3 アジア諸国の欠損金の繰越・繰戻しと適用期間 中国 欠損金の繰越 5年間 台湾 欠損金の繰越 5年間
欠損金の繰戻し 認められていない 韓国 欠損金の繰越 5年間 香港 欠損金の繰越 無制限 シンガポール 欠損金の繰越 無制限
(注)アジア諸国について中国は中央青山監査法人『中国税 務・会計ハンドブック』2006年を,その他は『アジア 諸国の税法』2001,中央経済社,「世界税制事情」税経 通信,2010等を参考に作成した。
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( 24 )
具体的には,「特定日」にその会社の発行済株式の50%以上を同一の株主,
あるいは同一の株主のために保有していることを証明することが条件となる。
ここでいう「特定日」とは損失が発生した暦年最終日と,その損失を相殺し ようとする賦課年度の初日である。もしそれぞれの特定日における株主が50
%以上異動している場合には,その異動した後の特定日時点で過去の繰越欠 損金は消滅し,将来課税所得が生じた場合にも相殺できないことになる42)。
以上を総括すると(図表4)アジア諸国では,中国,台湾,韓国が欠損金 の繰越期間が5年,香港,シンガポールでは無制限となっている。わが国は 欠損金の繰越控除の期間は7年間,平成23年税制改正大綱では9年である。
一方アメリカは20年,台湾,韓国では10年,イギリス,フランス,ドイツ,
シンガポール,オーストラリア,香港等は期間が無制限で欠損金の控除がで きる。
このように欧米諸国及びアジア諸国の多くの国々では,欠損金の繰越控除 期間は無制限ないしは拡大傾向にあり,控除期間は長くなっている。またも 控除期間の拡大傾向にあるといえる。欠損金の繰戻しについては,アジアの なかで,台湾が欠損金の繰戻しを認めていない,韓国は日本同様中小企業に
図表4 諸外国の欠損金に対する課税
欠損金の繰越
無制限 イギリス,フランス,ドイツ,
オーストラリア,香港,シンガポール 10年超 アメリカ,スペイン
10年以内 オランダ,ポーランド,中国,日本,
台湾,韓国
欠損金の繰戻し
無制限 ドイツ
5年以内 アメリカ,フランス,オランダ
認めていない スペイン,ポーランド,オーストラリア,
台湾 中小企業のみ
認めている 韓国,日本
わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −375−
( 25 )
繰戻しを認めている。欧米では,ドイツのみが欠損金の繰戻し期間が無制限 であり特徴的であるが,アメリカは2年,イギリスは1年と極めて限定され た期間認められている。ポーランドやオーストラリアは認めていない。
6.欠損金の繰越と繰戻し課税の分類とハイブリッド税法
さらに欠損金の繰越控除の規定は,アメリカ,イギリス,カナダ,オース トラリア,フランスにおいては,事業損失とネットキャピタル・ロス(当年 度のキャピタル・ロスがキャピタル・ゲインを上回る部分)とに分けて,欠 損金の繰越控除と繰戻し制度が運用されている(図表5)。
まず欠損金の繰越控除期間については,イギリスとオーストラリアでは,
事業損失とネットキャピタル・ロスの両者とも期間が無制限で運用されてい る。カナダでは,事業損失に対しては,繰越控除の期間が制限され,ネット キャピタル・ロスに対しては期間が無制限で運用されている。フランスとア メリカは,事業損失とネットキャピタル・ロス(フランスでは長期ネット キャピタル・ロス)両者とも,繰越控除期間の制限がなされている。
一方,わが国とドイツ,台湾,韓国は事業損失とネットキャピタル・ロス を区別せずに,欠損金の繰越控除と繰戻し制度が運用されている。このなか で繰越控除期間が無制限の国がドイツであり,台湾,韓国,日本は期間が制 限されている。
また欠損金の繰戻しに関する規定(図表6)は,事業損失とネットキャピ タル・ロスとに分けている国のうち,アメリカとカナダは,両損失とも繰戻 しの期間を制限し,イギリスは,事業損失に関しては繰り戻しの期間を制限 し,ネットキャピタル・ロスに対しては,一切繰り戻しを認めていない。
オーストラリアでは事業損失とネットキャピタル・ロスの両損失とも繰戻し を認めていない。フランスでは,事業損失に対しては繰り戻し期間が制限さ れ,ネットキャピタル・ロスについては,リザーブの取り崩しが認められて
−376−
( 26 )
いた。
事業損失とネットキャピタル・ロスを区別せずに,規定している国のうち,
ドイツ,日本は繰戻し期間が制限され,台湾と韓国では繰戻しは認めていな い43)。
このように世界の多くの国々では,事業損失とキャピタル・ロスを分けて 繰越控除,繰戻の規定をしている。事業損失とキャピタル・ロスは所得の性
図表5 欠損金の繰越制度における事業損失とキャピタルロスの区別
事業損失とキャピタルロスを 区別している国
事業損失とキャピタルロスが ともに繰越期間無制限
イギリス オーストラリア 事業損失とキャピタルロスを
ともに繰越期間を制限
フランス アメリカ 事業損失は繰越期間を制限
キャピタルロスは繰越期間無制限 カナダ 事業損失とキャピタルロスを
区別しない国
繰越期間を無制限 ドイツ 繰越期間を制限 台湾・韓国
(注)成道秀雄「諸外国における欠損金の繰越,繰戻制度の解説」日税研論集,1994,Vol.26,
p.166の資料を元に作成した。
図表6 欠損金の繰戻し制度における事業損失とキャピタルロスの区別
事業損失とキャピタルロスを 区別している国
事業損失とキャピタルロスを ともに期間制限
アメリカ カ ナ ダ 事業損失とキャピタルロスを
ともに繰戻しを認めない オーストラリア 事業損失は繰戻し期間を制限
キャピタルロスは繰戻し認めず イギリス 事業損失は繰戻し期間を制限
キャピタルリザーブ損失は取崩し フランス 事業損失とキャピタルロスを
区別しない国
繰戻し期間を制限 ドイツ 繰戻しを認めず 台湾・韓国
(注)成道秀雄「諸外国における欠損金の繰越,繰戻制度の解説」日税研論集,1994,Vol.26,
p.166の資料を元に作成した。
わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −377−
( 27 )
図表7 欠損金課税のハイブリッド
わが国の欠損金の繰越課税ハイブリッド
明治22年 大正15年 昭和15年 平成23年度 ドイツは事業損失
とキャピタルロス を区別しない。
わが国の 欠損金の 繰越認め る。期間 無制限で 所得の区 別はない
欠損金の 繰越認め ず。
その後わが国 の欠損金の繰 越期間制限3 年で認める。
税制改正大綱 期間制限 所得制限 ドイツ・イギリス等
も繰越期間無制限
昭和21年 欠損金の繰越
期間制限1年 ドイツの所得制限 シャウプ勧告 アメリカ等の期間制限
昭和25年 欠損金の繰越 を認める。
期間制限5年
わが国の欠損金の繰戻し課税ハイブリッド
昭和25年 平成4年 平成21年 アメリカやイギリス等の
欠損金の繰戻し制度 期間制限あり
わが国の欠損金の
繰戻し制度 廃止 中小企業のみ復
活・大企業は廃 止のまま 厳しい財政
事情 繰越控除を補う
質が異なるため適用を分けるという意味は理解できる。欠損金の繰越し規定 の本質を考えた場合,事業年度は人為的に区分されたもので,当然これを無 制限に繰越すものであるとするならばこのような所得を分類する意義は少な いように思える。
筆者は欠損金課税のハイブリッド化について,以下のように推定する(図 表7)。わが国は欠損金の制度の設立時,明治32年には欠損金の繰越を全面
−378−
( 28 )
的に認めていた。したがって繰越期間も無制限となっていた。しかも当時の 日本は事業損失とキャピタル・ロスの区別もなかった。この二点が共通する のは今でいうドイツ型であった。当時のドイツが,現在と同じだったかを調 査しなければなんとも正確ではないが,当初はドイツの規定を導入したと推 定できる。
その後,わが国は大正15年に欠損金の繰越を全面的に廃止した。その後 シャウプ勧告では欠損金の繰越を復活し,繰越期間は5年に限定した。昨今 の平成23年度の税制改正大綱では欠損金の繰越期間を9年に延長すると同時 に所得制限を設けている。所得制限を設けている国は世界では珍しく,ドイ ツが規定している。今回わが国が導入した所得制限はドイツの所得制限を真 似たものと推定できる。
所得制限8割を設けた分,それに合わせて,繰越期間7年を1.25倍し9年 に延ばしたのである。まさに欠損金の繰越規定のハイブリッドである。欠損 金の繰戻し規定は,昭和25年にわが国に導入された。当時すでにアメリカで は導入されていたことと,シャウプ勧告の影響ということから推測し,欠損 金の繰戻し規定はアメリカから導入されたと思われる。
7.欠損金の繰越制度の本質(図表8)
欠損金の繰越控除44)の趣旨について,武田昌輔氏は「法人税法における事 業年度課税では,企業の当期の所得金額を,一事業年度を人為的に区切って 算定しているのであって。当該法人の絶対的な所得金額ではなく暫定的な所 得金額を求めているのである。企業会計がこの考え方を採っている。税法も これに準拠しているのに過ぎない。
当期において1,000の所得金額が生じていても,翌期に1,000の欠損金が生 ずれば二事業年度を通じてみれば,その所得金額はゼロとなる。逆に当期に おいて1,000の欠損金額が生じ,翌期に1,000の所得金額が生ずれば,二事業 わが国の税法における欠損金の繰越制度に関する一考察(山内・上田) −379−
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