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水銀鉱床に対する電気探査の効果
著者 梅田 甲子郎
雑誌名 奈良学芸大学紀要
巻 5
号 2
ページ 77‑82
発行年 1955‑12‑25
その他のタイトル On the Effect of Electrical Prospecting for Mercury Deposits.
URL http://hdl.handle.net/10105/4988
(77)
水銀鉱床に対する電気探査の効果
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(昭和30年10月1日)
Koshiro UMEDA : On the Effect of Electrical Prospecting for Mercury Deposits.
ま え が き
近年,水銀鉱床に対して電気探査がしばしば利用されるようになった。それらの結果は,ある 程度探鉱の目的を果した場合もあれば殆んど効果のなかった場合もあり,それぞれの鉱床によっ てききめが異っているようであるO筆者は昭和29年2月24日より9日間,及び昭和30年4月17日 より4日間にわたり奈良県宇陀郡字大町大和水銀鉱山に於いて実施した電気探査(自然電位差法 と比抵抗法)の結果にもとづき,水銀鉱床に対する電気探査の効果についていろいろ考察を試み た。結論は甚だ酸味で意に満たないがとりまとめこiに報告する次第である。
調査及び実験に際し種々御指導賜った京都大学工学部清野武教授,同理学部鵜飼保郎助教授, 奈良学芸大学島倉己三郎教授,同服部耐吉講師,および筆者と苦楽を共にして野外の測定作業を 行って頂いた大阪通産局鉱業課矢野輝夫技官,奈良県庁商工課小西勝主事,同高野幹男技師,な らびに探査に対して絶大なる御支援を賜った大和水銀工業所井上純一所長をはじめ所員の方々に 対して深甚なる感謝の意を表する。
水銀鉱床の電気的諸性質
水銀鉱床は低温性の浅熱水鉱脈をなしている場合が多く,水銀鉱石としては辰砂が大部分で, 稀に准辰砂,自然水銀を含む。随伴鉱物として黄鉄鉱,自鉄鉱,黄銅鉱,輝安鉱等が存在し,他 に脈石として石英,方解石等がある。水銀鉱床の電気的諸性質はこれらの鉱物の集合状態,地質 環境,地下水の状況等に交配され千差万別であるO次に大和水銀鉱山で得られた鉱脈の分極電圧 及び比抵抗値について略述する。
A,分極電圧
m.V
1BM
測点一一
子「中骨10試 しー̲⊥̲̲」
9 10 11 12 13 wIJmI
第1図 九番坑西語に於ける.E!然電位差曲線 第2図 楠田露頭上に於ける自然電位差曲線 大和水銀鉱山十谷坑,九番坑の宗適押坑道で測定した自然電位差曲線を第1図に示すO その相対
:ォw 梅 田 甲 子 郎
電位差は最大120 m.V.以上を示し,測点6,及び10,及び引立の低電位と優良鉱石の露出点と がはば一致している。次に,坑外にて最も優勢な露頭である楠田露頭(仮称)上に於ける電位分 布を測定した結果,第2図の如く比較的明瞭に60m.V.の電位差が現れた。上の二例はいづれも 肉眼にて辰砂と黄鉄鉱を認め得る石英脈であって,上図の如く数十m.Ⅴ.以上の負電位が現れる ならば自然電位差法による鉱床探査は可能な筈である。この電位低下を起す鉱脈を形成する最も 重要な鉱物は辰砂と黄鉄鉱であるが辰砂の電極電位はR. Behrendの測定によれば忘N‑Na sH中に於てほ‑0.12V.忘N‑Na・2S中では‑0.28 V.であり,大和水鍛鉱山の鉱石の分極 電位も第一表に示す如く,忘N‑H2S04及び坑内水中に於て極妙て微弱であり,一般の硫化鉱 脈の自然分極電流の方向と逆の方向に電圧を加える。
第一衷 大和水銀鉱山の鉱石の電極電位
m
一方,黄鉄鉱は従来の数多くの研究が示 すようにその起電力は非常に大きく,分極 電位も志N‑H2SO4中においては800 m. V.をこえ,硫化鉱脈の分極の最も大 きな要因となっている。即ち水銀鉱脈の自 然分極は辰砂は殆んど関係がなく主として その随伴鉱物たる黄鉄鉱によってなされ, その程度は黄鉄鉱の量によって左右される ということは疑う余地がないo
B,比抵抗値
辰砂は高抵抗物質で5 × 10号ohm・cm程 度の比抵抗値を示す。乾燥せる大和水寂鉱 山の辰砂を測定してみても殆んど絶縁体に 近い。然し実際の鉱脈は辰砂以外に多くの 良導体を含み,多少とも粘土化されている
ので比較的低い抵抗を示す。
大和水銀鉱山の坑内で測定した母岩 と鉱脈の比抵抗値は第二表で示す如く 母岩である新鮮な果雲母石英閃緑岩は 可成り高い抵抗を有するのに対し,鉱 脈は鉱染状の時はその約四分の一,粘 土化された時はその十数分の一に過ぎ ないから,母岩が極めて新鮮で鉱脈が 充分粘土化され脈巾も厚いというよう な理想的な条件の下では比抵抗法によって鉱脈の状況を探り得るであろうが,母岩は風化と共に 著しく比抵抗値が小となり,逆に避化作用を受けた鉱脈は高抵抗であるという事は充分予想し得 る事実であって,比抵抗法による探査は実際には大変困難である。
水銀鉱床に対する電気探査の効果 (79)
大和水銀鉱山に於ける電気探査 A,探査の概況
大和水銀鉱山は西南日本内帯の領家帯に位置し,鉱床は花嵐岩化作用を蒙っている黒雲母石英 閃緑岩中に捌台する的北30度西, 30度乃至40度西南の走向傾斜をもつ熱水性鉱脈であって,鉱脈 は細脈状又は鉱染状となり母岩は可成り粘土化作用を受けている。
P O N M L K J I H G F E D C B A
第3図 電気探査区奴の地形図 第4図 等電位曲線図
現在稼行中の十谷坑の西北部地域は第3図のように古屋谷旧坑と,楠田露頭をはじめ二三の露 頭らしきものがあって新らしい鉱床賦存の可能性のある地帯である。この地帯を探査区域として 全区域に自然電位差法を,その結果により部分的に比抵抗法を実施した。
自然電位差法によって得られた等電位曲線は,第4図に示すように,全般的に見て地形図の等 高線と類似していて,地形の起伏に起因する自然電位分布の異常の影響が多少あるように思われ る。又,古屋谷旧坑附近には異常帯はなく,それより北方の独立小丘陵を中心として相対電位差 最大160m.V.(基点に対しては‑112m.V.の負電位)の負中心が現れ,楠田露頭の西にも‑60 m.
Ⅴ.の負電位が認められた。
(80) 梅 田 甲
第5図 N線「北)の比抵抗曲線
12 13 14 IS 16 17 18 19 20 21 22
第6図 M線(北)の比抵抗曲線
自然電位差法の結果のみより考えると,推定鉱脈は楠田露頭より独立小丘陵を通ると想像され るの‑e,負中心附近のN線(北)とM線(北)に沿って西極法による比抵抗法水平探査を行った が,第5図,第6図の如き曲線であってM線の地表面下の浅部に高抵抗物質が存在するのではな いかと推察し得る程度で鉱床脱存に対する積極的な資料を得るに至らなかった。
5
‑ 比 延 坑 値
10 0 in 20 30 40 SO 60 70m
第7図 古屋谷旧坑東の比抵抗曲線 第8図 I‑T線の比抵抗曲線
次に,木尾谷旧坑と楠田露恵の間の様子を探るために旧坑の坑口東と1‑T線の問の比抵抗を nrj足したが,木尾谷旧坑東で得られた見掛比抵抗曲線は第7図の如く3V型であって,数米の良
水銀鉱床に対する電気探査の効果 (81) 導体の存在を暗示し,木屋谷坑は非常に粘土質の鉱脈であったといわれる事実と一致しているO 逆にI 〜T線は第8図のように逆3V型の比抵抗曲線であって高抵抗物質が存在する事を示すが
この附近には露頭らしきものもあり,おそらく粘土化されていない石英脈が存在するのではない かと想像される。
B,探査結果の検討
当地域の新鉱脈は,楠田露頭と独立小丘陵を結ぶ方向と楠田露頭と古屋谷旧坑を結ぶ方向の二 つが考えられるが,独立小丘陵上の‑112.ll. V.を中心とする負異常帯は,小丘という地形条件 を割引きして考えてみてもあまりに見事な為,この負中心の実体を確める目的で第3図に示して あるように北40度西の方向に34米の探鉱坑道が切られた。探鉱坑道は負中心の直下を過ぎたが, 鉱脈は遂に出現しなかった。
380m この現象を検討するため
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第9図 独立小丘陵に於ける坑内外の自然電位差曲線
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第10図 棒状鉱体がある場合の坑内外の自然電位 於て,地衰面上の電位Vl,坑道上に於ける電位V空は
に小丘陵の坑内外の自然電 位を再測定し,これと負電 位の原因が地中の鉱体にあ る場合と地表面の形態にあ る場合のそれぞれの坑内外 の電位差曲線とを比較して みたO 第9図には実測した 坑内外の電位差曲線を,罪 10図にには頂上直下に坑道 よりdなる距離に棒状鉱体 がある場合のもの(分極の 十が無限遠にあって鉱体の 傾斜を考へなくてよいとし た)を,第11区Iには鉱体が なくて負電位が地表面頂上 にある場合のものをそれぞ れ示す。第9図,第10図に おいて地形断面を
V‑hcosx昔≧x≧ '2,
とすれば棒状鉱体の頂点, 小丘陵の頂上,坑口,坑道 上の任意点,及び地表面上
の任意点の座標はそれぞれ
(O,‑J),(O, h‑), (‑f,O)
feO)及び(x,hcosx)で 表わされるから,第10図に
(82) 梅 田 甲 子 郎
苧 O K
Vi‑‑
va‑‑
h 、, ̀)I
v/*2+ (d十hcos x) 2
但し p:母岩の比抵抗
I :分極点に於ける全電流
即ち・ Vlは一品(但しh‑蛋)
を最小値とする曲線であり, V2ほ 亮一を最小値とし, Vlより急傾斜の 曲線であるO第11図に於ては
Vi‑‑
44pT
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V/*2+ {h‑hcos x) 2
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即ち,第10図の場合とは逆に, v2はVlよりゆるやかな曲線である。別に鉱体の上端が地表面 と坑道との間にあってVlとV2が上例よりも近接する場合がいろいろ考えられるが,今はさして 必要でないから省略する。
第9図の独立小丘陵の電位差曲線Vi, V2の型は,明らかに鉱体を有せざる第11図の状態であ って負中心下に鉱脈族胎の希望は捨てざるを得ないO
結局,探査の結果として, (1)楠田露頭(2)‑60 m.V.の負異常帯, (3) I‑T線上の高抵抗体 及び近接している不明瞭な露頭, (4)古屋谷旧坑東の低抵抗体,及び(5)古屋谷旧坑がはぼ北60度 東の方向の直線上にならんでいる事より,この方向に新鉱脈が存在するであろうと判定された。
この判定にもとづいて試錐が予定されている。
む す び
水銀鉱床は随伴鉱物として黄鉄鉱を伴う場合は探査可能程度に分極するが,部分的に黄鉄鉱の 含有が乏しいような時には電位の変化を示さない所もあり,地形の影響による電位差の変化の方 が遥かに大である事もあって,必ずしも負中心と鉱体の位置が一致するとは云い得ないから亨主意 を要する。又,比抵抗法のみでも鉱脈の存否を決める事は不可能で,これも探査の補助手段に過 ぎないO要するに水銀鉱床に対する電探の自然電位差法と比抵抗法は,一般の含銅黄鉄鉱々脈に 於ける程顕著でないにしても条件によっては戎程度の反応はあるが,その測定結果のみより鉱床 の存否や形態を推定することは危険であって,地質鉱床の精査,試錐等を併用し,あらゆる角度 よりの綜合判定を行うことが望ましい。
文 献
Behrend R. (1893) ; Elektrische Analyse. Zeitschr. physikal. Chemie. vol. ll
Wells R. C. (1914) ; Electric Activity in Ore Desposits Bulletin U. S. G. S. No. 54S Takubo J. (1928) ; Effect of Various Solutions on the Potential of Pyrite 京大卒論
斎藤昌之・山口久之助(1953; ;常呂鉱山およびその附近の水銀鉱床 北海道地下資源調査資料第10号 矢野輝夫・梅田甲子郎・高野幹男(1954) ;奈良県大和水銀鉱山電気探査報告書
梅田甲子郎・小西 勝・高野幹男(1955) ;第二次大和水銀電気探査報告書