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Vol.33 , No.1(1984)084小林 守「『中観荘厳論』にみられる形象真実説」

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(1)

『中観荘厳論 』にみ られ る形象真 実説

santaraksita(寂 護)はMadhyamakalamkara kk. 46-51に お い て 形 象 真 実 唯 識 派 を 対 論 者 と し て 知 識 の 一 性 を 批 判 す る 際 に 特 色 あ る 形 象 真 実 説 を 提 示 す る。 そ の 一 部 は 既 に 梶 山 博 士 に よ っ て 研 究 さ れ て い る が1), こ こ で は 特 に チ ベ ッ ト資 料 を 用 い てMAに み ら れ る 形 象 真 実 説 を 検 討 し て み た い。 1最 初 に. MAの 形 象 真 実 説 批 判 の 範 囲 を 明 確 に し て お く。MAの 真 実 説 批 判 がkk. 46-49で は な くkk. 46-51で あ る こ と は2), チ ベ ッ ト資 料 で はDarma rinchenのBJ(5896-906)とMiphamのBN(1871-951)に よ っ て 確 認 で き,

ま たJG(5715-21)もMyadk. 50(D. 66a7)とMPadk. 50(D. 105a6)を 引 用 し, そ れ ら の 文 が 形 象 真 実(多 様 不 二)を 説 い て い る こ と を 明 言 す る。 一 方 イ ン ド資 料 で はMPはk. 52に 提 示 さ れ る 対 論 者(喩 伽 行 派)の 見 解 を 次 の 様 に 要 約 す る。 も し これ らの 形 象 が 真 実 な る 自性 を もつ もの に ほ か な らな い とす れ ば, 以 上 の よ うな全 て の 矛 盾 に陥 い るで あ ろ う。 しか し(そ れ らの 形象 が)虚 偽 な る も の で あ る と す れ ば (何 ら)矛 盾 す る こ と は ない。……(D. 106a3. cf. AAA62910-11, 14-15) こ の 記 述 は, kk. 46-51に 指 摘 さ れ た 矛 盾 が 真 実 説 に 向 け ら れ た も の で あ る こ と, そ の 矛 盾 回 避 の た め にk. 52に お い て 形 象 虚 偽 の 立 場 か ら喩 伽 行 派 の 回 答 が 示 さ れ た こ と を 物 語 っ て い る。 ゆ え に イ ン ド ・チ ベ ッ ト両 資 料 か らkk. 46-51を 真 実 説 批 判 と 決 定 し 得 る。 II ゲ ー ル ク 派 の 宗 義 文 献 で は 形 象 真 実 説 の 内 部 区 分 と し て 多 様 不 二(sna tshogs ghis med), 一 卵 半 塊(sgo ha phyed tshal), 主 客 同 数(gzuh hdsin(or rnam Ses)grahs mnam)の 三 説 を 挙 げ る3)。 そ の 三 説 の 規 定 の 仕 方 は チ ベ ッ ト人 の 間 で も一 致 し な い が4), CG(ka87a3-5)は 形 象 と知 識 の 対 応 関 係 か ら 上 記 三 説 の 条 件 を 順 次 に<多 形 象=一 知 識 〉<一 形 象=一 知 識 〉<多 形 象=多 知 識 〉 と 規 定 す る5)。 こ のCGの 規 定 はBN(1493-4, 1874)に も 踏 襲 さ れ て い る か ら, 暫 くCGの 示 す 条 件 を 基 準 と し て 三 説 を 考 え て お く。 さ て, BJ(5896-903), BN(1871-912)は. MAkk. 46-48を 一 卵 半 塊 説 批 判 に あ て る か ら, は じ め にkk. 46, 47の 内 容 を 検 討 し て み る6)。k. 46は 「形 象 と 知 識

(2)

-344-(73)『 申観 荘 厳 論 』 に み られ る形 象 真 実 説(小 林)

が 一体 で あ るな ら, [A]知

識 は形 象 と同 様 に多 と な るか, [B]形

象 は知 識 と同

様 に 一 とな る。 も し この 必然 性 を認 め な け れ ば, 知 識 の一 性 と形 象 の多 性 は矛 盾

す る ゆ え両 者 は別 体 と な り, 形 象 真 実 論 は破 られ る。」 とい う内 容 の も の で, こ

れ は, 特 定 の真 実論 を予 想 して お らず, 真 実 論 一 般 にお け る必 然 性 の提 示 とい え

る。 二 つ の選 択 支 の うちAは 知 識 の一 性 の否 定 を意 味 す るか ら問 題 ない が, 知識

の一 性 を擁 護 す る た め に, しか しBの 立 場 を採 る可 能 性 が 残 され てい る。 ゆ えに

k. 47は 形 象 の 一 性 を仮 定 し帰 謬 に よ って 形象 の 多性 を証 明 し, Bの

不 合 理 性 を

証 明 す る。 こ こ でk. 47に 注 目す る な ら, 確 か に この偶 は 「

一 つ の 形 象 が 一 つ の

知 識 に よ って認 識 され る と主 張 す る見解 」(別>1894)に

対 して 形 象 の 多 性 を証 明

す る と も考 え られ よ うか ら, BJ, BNがkk.

46-48を

一 卵 半 塊 批 判 と規 定 す る

の も理 由 な き こ と で は ない。 だが, 寂護 が 形 象 の 一性 を 主 張 す る, 実 在 す る形象

真 実 論 者 を念 頭 に置 きつ つk. 47を 述 べ た と は思 え ない。 後 述 す る二 説 の 場 合 と

異 り, MVとMPが<知

識 の一 性 ・形 象 の一 性>を 或 る人 物 の 説 と して提 示 し

てい ない 事 実 は, 寂 護 が単 な る可 能 性 と し て形 象 の 一 性 を 否 定 した こ とを意 味 す

る だ ろ う7)。だか らkk. 46, 47の 寂 護 の意 図 は, む しろ, 形 象 と知識 の 一 体 性 を

主 張 す る真 実 論 一 般 に付 随 す る デ ィ レ ンマ を指 摘 して, <形象 の 多性 →知 識 の 一

性 の否 定>を 証 明 す る こ とに あ る と考 え られ るか ら, kk. 46, 47を

ま とめ て, 真

実 論 に立 て ば必 ず 知 識 の一 性 は否 定 され る とい う, 真 実 論 に対 す る一般 的 批 判 と

規 定 し て よい と思 わ れ る。

IIIkk.

46-48を

基 点 と し, 以 下, 回 答 ・反 駁 が 続 く。 ま ずk.

49を. BJ

(5903-4), BN(1912-31)は

主 客 同数 説 批 判 と規 定 す る。 対 論 者 の説 はMVに

次 の

様 に 提 示 され て い る。

或 る人 々は 「

楽等 と同様 に青等の形象 も知覚 を自性 としてい る。それ らの知識 は多であ

り, またそれ らは同種類の ものばか りであ り, 異種類 の 知識 の よ うに 〔

同時〕に生 ず

る。

」 と言 う。(D. 65b5-6.

cf. AAA6272-4)

この 文 はJG(5675-6)に

主 客 同数 説 の典 拠 ど して引 用 され てお り, 内 容 的 に も,

形 象 に応 じて 多 数 の知 識 を認 め る主 客 同 数 を 説 い て い るの は 明 らか で あ る8)。こ

の主 客 同 数論 者 は, MP(D.

105a6)が

「前 者(或 る…喩

伽行 派=主 客 同数論者)は……

八識 を 主 張 す る。

」 と説 明 してい る様 に, 八識 を 説 く。 これ をMyは

明言 しない

が, MPの

説 明 は, Myの

聖 典 解 釈 を廻 る一 節(D. 65b6-6a3)に お け る, 対 論 者

の アー ラヤ識 を 認 め る発 言 に依 るの だ ろ う9)。そ し てJG(4003-4),

KG(9030-11)

が 八識 を説 く主 客 同数 説 を挙 げ るの も10), お そ ら くそ の典 拠 はMV,

MPに

あ る

(3)

-343-『中観 荘 厳 論 』 に み られ る形 象 真 実 説(小 林)(74) の だ と 思 わ れ る。

で は そ の 論 師 は 誰 な の か, MVの<或 る 人 々>をMP(D. 104a2)は<或 る 喩 伽 行 派>(rnal hbyor spyod pa kha cig), BN(1913-4)はshon gyi rnam rig smra babislobdponkhacigと 説 明 す る だ け だ が, 岩 田 孝 氏 はMVの い くつ か の 文 を. PVTに ト レ ー ス さ れ, 寂 護 の 対 論 者(主 客 同 数 論 者)が5akya(mati)で あ る

こ と を 指 摘 さ れ た11)。 そ の 指 摘 が 蔵 外 資 料 か ら も支 持 さ れ る こ と を 付 記 し て お く。 JG(5611)は 主 客 同 数 論 者 と し てsakyaを 挙 げ, 彼 の 言 と し て 「白 ・赤 等 の 形 象 の 数 と 同 じ だ け 知 識 の 数 も あ る と 認 め ら れ る。」 を 引 用 す る(5674-5)。 調 べ 方 が 悪 い の か, 筆 者 は 未 だ こ の 文 をPVT(Sakya blohi hgrel pa)に 見 出 せ な い で い る が12), こ の 文 は 主 客 同 数 を 端 的 に 表 わ し て お り, Sakyaに 主 客 同 数 論 的 傾 向 の あ る こ と を, と も か く我'々 に 教 示 す る。 IVBJ(5904-6), BN(1931-51)はkk. 50, 51を 多 様 不 二 説 批 判 と 規 定 す る。 対 論 者 の 説 はM7に 次 の 様 に 提 示 さ れ て い る。 或 る人 々は 「宝 石 の 礪 璃 の様 に 唯 一(ekam eva)の 知識 が 多様 な形 相 を と る。」 と言 う。 (D. 66a7. cf. AAA6287-8)13) JGが こ の 文 を 多 様 不 二 説 と し て 引 用 す る こ と は 前 に 述 べ た。 内 容 的 に は, し か し こ の 説 を そ の ま ま 多 様 不 二 説 と み な す こ と は で き な い。 多 様 不 二 の 根 拠 を 知 識 の も つ 独 自性 に 求 め る 多 様 不 二 論 者 自 身 が14), 多 様 な 形 象 を も つ 知 識 を, 知 識 と は 異 質 の 羽馬璃 に 響 え る は ず な い か ら で あ る。 お そ ら く, 勝 義 の 立 場 か ら批 判 を 加

え る寂 護 が, 多様 な形 象 を もつ知 識 と羽

馬璃 を勝 義 の立 場 か ら同一 視 し15), 対 論 者

説 と し て 提 示 し た の だ ろ う。 ま たMP(D. 105a5-6)は こ の 多 様 不 二 論 者 が 一 識 を 説 く こ と を, 前 述 し た 主 客 同 数 論 者 の 八 識 説 と 対 比 的 に 示 す。 こ れ を 承 けJG (5712-6)はMVの 多 様 不 二 説 を 特 に 「一 切 時 に 一 意 識 が 多 様 な 形 象 を も つ も の と

し て 生 ず る と主 張 す る 」<一 識 説>(rnam ses gcig Pur smra ba)と 規 定 す る16)。 そ れ が 誰 の 説 で あ る の か, MP(D. 105a5)は<他 の 喩 伽 行 派>(rnal bbyor spyod pa pagshan)17)と 注 す る の み だ が, い ず れ に せ よM玩. MPの 記 述 がJG(4004), KG (912-3)の 一 識 を 説 く多 様 不 二 説 の 典 拠 と な っ た と 思 わ れ る。 尚, AAA(62822-99) に はM砿MPadkk. 50, 51を 補 う形 で 比 較 的 詳 し く 多 様 不 二 説 が 提 示, 批 判 さ れ て い る(補 註)。 そ の 説 の 比 定 は 別 の 検 討 を 必 要 と す る だ ろ う。 以 上, MAに はkk. 46-48の 批 判 に 対 し形 象 真 実 の 立 場 か ら 主 客 同 数(k. 49), 多 様 不 二(kk. 50, 51)の 二 つ の 回 答 が 示 さ れ て い る こ と が わ か る。

略 号 AAA: Abhisamayalamkaralokd, Wogihara ed.. BJ: dBu ma rgyan gyi brjed

(4)

-342-(75)『 中観 荘 厳 論 』 に み られ る形 象 真 実 説 (小 林)

byan『Tsoh kha pa全 集 タ シ ル ン ポ 版 』24. BN: dBu ma rgyan gyi rnam bsad

『Mi pham全 集 』12. CG: Grub mthahi rnam far bshag pa (東 大 蔵 外Nos, 86-88). JG: Grub mthahi rnam brad. 『hJam dbyans bshad pa全 集 』14. KG: Grub mtha'

rnam bag rin chen phren ba, Mimaki ed., Zinbun 14. MA: Madhyamakdlamkara

(KarikdとVrttiの 総 称). MP: Madhyamakalamkarapanjika, D. No. 3886. MV:

Madhyamakalamkaravrtti,

D. No. 3885. PV: Pramanavarttika.

PV T:

Pramanava-rttikatika (Sakyamati).

1)梶 山雄: 」r仏 教 に お け る存 在 と 知 識 』PP. 71-73にkk. 46-49を 取 り上 げ る。2)

一 郷 正 道 氏 はkk. 46-49を 真 実 説(Sakavavada)批 判 と す る。A Synopsis of the

Madhyamakalalpkara of Samtaraksita (1)『 印 仏 研 』20-2, PP. 995-989. 岩 田 孝 「6a・ kyamatiの 知 識 論 」『 フ ィ ロ ソ フ ィ ア 』69, p. 163, n. 53も 同 意 見 か。 梶 山 博 士 はk. 52 以 下 を 虚 偽 説 批 判 と 考 え て お ら れ る よ う で あ る。 註1, p. 73。3)袴 谷 憲 昭 「唯 識 の 学 系 に 関 す る チ ベ ッ ト撰 述 文 献 」『駒 大 仏 論 集 』7, pp. 253, 247。 三 説 の 訳 語 は 氏 に 従 う。4)例 え ばKG(8930-9029)は 三 つ の 異 説 を 提 示。 松 本 史 朗 「書 評 」『東 洋 学 術 研 究 』22-1, p. 242は 一 卵 半 塊 の-一 つ の 理 解 を 示 す。5)袴 谷 論 文, p. 2471, n. 466 6)k. 48はk. 47の 帰 謬 が 経 量部 の 有 形 象 知 識 論 に も適 用 し得 る こ と を 述 べ る の 参。 尚, CG(kha 105a5)も. MVが 一 卵 半 塊 等 の 三 説 を 批 判 す る こ と を 一 言 す る が, 詳 細 は 不 明。7)因 み にJG(5611)はMAと 無 関 係 に 一 卵 半 塊 論 者 と レ て6ahkarananda を 挙 げ, Apohasiddhi (D. No. 4256, 290b3-4)を 典 拠 と す る が(5634), そ め 文 が 形 象 の 一 性 を 説 い て い る と は 思 え な い。 尤 も こ の 場 合 溜 の 一 卵 半 塊 の 捉 え 方 に 注 意 す る 必 要 あ り。 註4参 照。8)註1, 註2岩 田 論 文n. 53参 照。9)こ の 一 節 に つ い て は, 註1と, 岩 用 論 文pp. 156(「Prajnakaragupta(PVBh)に 於 け る 有 形 相 知 識 説 に 関 す る 一 考 察 」『SAMBHASA』5, p. 65, n. 80に 訂 正 訳 あ り), 162-3, n. 52参 照。 10)袴 谷 論 文pp. 253, 24n。11)岩 田 論 文pp. 156, 162-3, nn. 52-53。12)Sakya

のD. Nos. 3992, 3999に も見 出 せ な い。13)gah duをgah dag(MP, D. 105a5)

に 訂 正。14)cf. PV, III, kk. 220-2. 研 究 と し て, 戸 崎 宏 正r仏 教 認 識 論 の 研 究 上 巻 』pp. 317-9の み を 挙 げ て お く。15)PV, III, kk. 208-11は, 対 象 と 同 様 に 勝 義 に は 知 識 の<多 様=一>の 不 可 な る こ と を 示 す。 戸 崎, pp. 308-12。16)一 識 説 を JGは,『 摂 大 乗 論 』 の 一 意 識 説 を 扱 うTsohkhapaのP. No. 6149(205b2-6)を 引 い て 説 明 す る。17)<他>(gshan)は<或 る>(khacig)に 対 す る<他>で あ っ て, 形 象 真 実 に 対 す る<他>形 象 虚 偽 で は な い。

(補 註)こ の 一 節 に つ い て は, Seitetsu Moriyama, The Yogacara-madhyamika Refuta-tion of the PosiRefuta-tion of the Satyakara and Alikakara-vadins of the Yogacara School

(Part1)『 仏 教 大 学 大 学 院 研 究 紀 要 』12(S-59), pp. 21-23, 36, 54-58参 照。 (東 北 大 学 大 学 院)

参照

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