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特集 Folia Pharmacol. Jpn. 142 PI3K/mTOR 新規がん治療薬の研究開発2 要約 PI K phosphatidyl inositol -kinase /mtor mammalian target of rapamycin PI K Akt mtor mtorc mto

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特集

新規がん治療薬の研究開発

がん治療における

PI3K/mTOR 同時阻害薬の開発現状と展望

塩瀬 能伸 キーワード:PI3K,mTOR,キナーゼ阻害薬,抗がん薬,バイオマーカー 第一三共株式会社 研究開発本部 癌研究所(〒140-8710 東京都品川区広町 1-2-58) E-mail: [email protected] 原稿受領日:2013 年 7 月 2 日,依頼原稿 Title: Current development status and prospect of dual PI3K/mTOR inhibitors for cancer therapy Author: Yoshinobu Shiose

要 約:PI3K(phosphatidyl inositol 3-kinase)/mTOR (mammalian target of rapamycin)経路は,細胞の生存 プロセスの中心的な役割を担っており,がんにおいて は様々な遺伝子変異の結果,この経路が恒常的に活性 化し,がんの生存,分化,増殖に深く関わっていると される.近年,この経路の阻害薬として PI3K 阻害薬, Akt阻害薬,mTOR 阻害薬(mTORC1 阻害薬および mTORC1/2 阻害薬),PI3K/mTOR 同時阻害薬が開発 され,大きな注目を集めている.この中で,すでに承 認されている薬剤はラパマイシン誘導体テムシロリム スやエベロリムスといった,いわゆる mTORC1 阻害 薬のみであり,その他の標的薬剤は現在臨床試験中で その資質が検証されている段階である.本稿では, PI3K/mTOR 同時阻害薬に焦点を当て,臨床試験状況, 注目される併用試験,バイオマーカー研究について紹 介する. 1. はじめに バイオサイエンス研究の進展に基づき,細胞の機能 を明確にし,疾患に関与する遺伝子,遺伝子産物を標 的として,特異性をもって作用する分子標的薬は, 2001 年に Bcr-Abl kinase を標的としたイマチニブ(慢 性骨髄性白血病,消化管間質腫瘍等に適応)の登場か ら始まり,次々と異なる分子を標的とした新薬が開発 され,過去には治療効果が期待できなかった様々なが ん患者さんに対する治療の機会が増えている.最近で は,レゴラフェニブ(multi kinase 阻害薬,大腸がん, 消 化 管 間 質 腫 瘍 に 適 応), ベ ム ラ フ ェ ニ ブ (mutantBRAF kinase 阻害薬,メラノーマに適応),ク リゾチニブ(EML4-ALK 阻害薬,ALK 陽性非小細胞 肺がんに適応)が承認され,大きな注目を浴びており, イマチニブが登場して 10 年以上経過するが,まだ分 子標的薬開発の勢いは衰えていない.これらの薬剤は, 標的分子がメジャードライバーになっているがん細胞 に対して特異的に治療効果を示すことから,患者さん のがんの遺伝子状態(変異,遺伝子増幅,染色体転座 など)を調べることで,効くことが想定される患者さ んには高い治療効果を得てもらい,効かないと想定さ れる患者さんには別の治療機会を得てもらうことがで きる.そのため,最近では新規薬剤と治療効果が期待 できる患者さんを選定するためのコンパニオン診断薬 の同時開発の重要性が高まっており,クリゾチニブ, ベムラフェニブはそれぞれ,Vysis ALK Break Apart FISH Probe Kit(ア ボ ッ ト),cobas 4800 BRAF V600 Mutation Test(ロッシュダイアグノシス)が診断薬と して承認されている.また,がん治療においては単剤 で治療されることよりも他の作用機作を示す抗がん薬 との併用療法が施されることが多く,非臨床研究でこ れらの薬剤との相互作用を分子レベルで明らかにして, 臨床試験でその機作を確認しつつ,治療効果を確認し ていくことは,治療方法の確立を早め,患者さんによ り良いベネフィットを提供できるものである.このよ うな流れの中で,今回 PI3K/mTOR 同時阻害薬にフォ ーカスし,開発品動向,臨床試験状況,バイオマーカ ーへのアプローチついて紹介する. 2. がんにおける PI3K/mTOR 経路と同時阻害 薬の意義 がん細胞では,細胞死シグナルの機能喪失とともに 生存シグナルの亢進が認められ,その中心的なシグナ ル伝達経路として RAS/RAF/MEK/ERK 経路と並び PI3K/mTOR 経路ががんの生存,分化,増殖に重要な

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役割を担う(1).図 1 にこの経路の概略図と表 1 にが んにおけるこの経路の遺伝子変異情報を示す.PI3K は p85 制御サブユニットと p110 活性サブユニットか らなる複合体であり,イノシトールリン脂質のイノシ トール環 3 位の水酸基をリン酸化し,イノシトール 2 リン酸 PI(4,5)P2(or PIP2)をイノシトール 3 リン酸 PI(3,4,5)P3(or PIP3)に変換する.EGFR,IGFR 等の 受容体が活性化されると,受容体自身あるいはアダプ タータンパク質を介して PI3K が結合することで PI3K は活性化され PIP3 が増加し,その結果,セリン/ス レオニンキナーゼである PDK1 や Akt を細胞膜上にリ クルートし,これらが活性化される.活性化された Aktは,その後,細胞の生存,増殖,糖代謝,タンパ ク合成などに関わりのある様々な分子を活性化する. がん抑制遺伝子 PTEN は,PI3K で増加した PIP3 の脱 リン酸化酵素であり,PI3K 経路を負に調節する因子 である.mTOR は,Akt の下流に位置するセリン/ス レオニンキナーゼであり,細胞の成長,代謝制御,タ ンパク合成などに関与するシグナル伝達経路を司り, 結 合 す る サ ブ ユ ニ ッ ト の 違 い に よ り mTORC1 と mTORC2 の二種の複合体として機能する.ラパマイ シ ン 誘 導 体 テ ム シ ロ リ ム ス や エ ベ ロ リ ム ス は mTORC1 のみを阻害することで抗腫瘍効果を示すと されているが,この抑制は negative feedback の解除を 引き起こし,PI3K を介した Akt の活性化を引き起こし, そのことが抗腫瘍効果を弱めていると考えられている (2).一方,mTORC2 の機能は,未だ完全には明らか となっていないが,Akt の S473 をリン酸化する働きを もつ.このように PI3K/mTOR 経路に登場するいずれ の分子も抗がん薬の標的となりうるものであるが, PI3K の p110 活性サブユニットと mTOR は類似構造を 示すことから,PI3K/mTOR同時阻害薬は,p110

α

,β, およびδアイソフォーム,mTORC1,mTORC2 を阻害 することができ(3),このカスケードを効果的にブロ ックすることができる.さらに,この抑制効果は, mTORC1 阻害薬で生じる Akt の活性化を抑制するこ とも明らかにされており(4),mTORC1 阻害薬よりも 強い抗腫瘍効果を示すことが期待される. 3. PI3K/mTOR 同時阻害薬の研究開発状況 一般的な医薬品の phase I 試験は,健常人を対象に 薬物動態の情報を得るが,抗がん薬の臨床試験では, 有効な標準治療が存在しない少数の進行がん患者を対 象に,薬物動態の解析,安全性の評価を実施するとと もに最大耐量(maximum tolerated dose:MTD)を決 定することである.最近では,効果を予測するバイオ 表 1 Pl3K/mTOR 経路を活性化する遺伝子変異 PI3K/mTOR 経路の変異 がんの種類 PIK CA(p110α)mutation 乳がん,大腸がん,子宮体がん,卵巣がん,胃がん,食道がん,中枢神経系腫瘍 PIK CA(p110α)amplification 頭頸部がん,肺扁平上皮がん,胃がん,食道がん PIK R (p85α)mutation 神経膠腫,卵巣がん AKT mutation 乳がん,子宮体がん,甲状腺がん AKT amplification 胃がん PTEN mutation 乳がん,大腸がん,子宮体がん,卵巣がん,胃がん,食道がん,中枢神経系腫瘍,前立腺がん,メラノーマ,肝がん,肺がん 1 MAPK pathway

Receptor tyrosine kinase

Grb/SOS IRS-1 p85 PIP3 PIP2 PTEN AKT PDK1 mTOR-rictor (mTORC2) mTOR-raptor (mTORC1) p110 4E-BP1 eIF4E S6K S6 MDM2 p53 FOXO GSK3 Cell proliferation differentiation PI3K/mTOR pathway Protein synthesis Cell growth Control of apoptosis Cell survival Metabolism 図1 PI3K/mTOR経路と細胞機能への関わり PI3K Ras Raf MEK ERK PI3K/mTOR同時阻害薬 図 1 PI3K/mTOR 経路と細胞機能への関わり

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マーカー探索も行われ,治療効果の確認に FDG-PET 等も使用されている.Phase II 試験では,phase I で明 らかにされた推奨用量を基に,特定のがんを対象に有 効性,安全性が検討されるが,多くの開発品の臨床試 験では既存薬との併用効果で評価される.最近では, 作用機作に基づいて強い治療効果が期待できる場合に は,未承認薬剤どうしの併用臨床試験も実施されてい る.Phase III では,大規模な症例数で phase II の結果 を検証することが主目的であるが,まだ PI3K/mTOR 同時阻害薬が phase III 試験を開始した報告はない. 現 在 臨 床 試 験 中 の PI3K/mTOR 同 時 阻 害 薬 は, BEZ235(Novartis),GDC 0980(Genentech),XL - 765/SAR245409(Exelixis/Sanofi),PF-05212384/PKI-587(Pfizer),PF -04691502(Pfizer),GSK -2126458 (Glaxo Smith Kline),PWT33597(Pathway

Therapeutics),DS-7423(第一三共)の 8 種が報告さ れている.BEZ-235 は,PI3K/mTOR 同時阻害薬とし て初めて臨床試験に供された化合物である.この化合 物が登場する以前には LY294002 や wartmanin が PI3K 阻害薬の代表としてがんにおける本経路の重要性検証 に大きく貢献したものの,医薬品としての開発にはい たらなかった.BEZ235 は 2010 年の ASCO にて phase I試験結果が報告された(5).Gelatin capsule 封入下, 一日一回(qd)の経口投与で,10∼1,100 mg の範囲で 59 例(乳がん 13 例,大腸がん 10 例含む)に投与され た.主な有害事象は吐き気,嘔吐,下痢,疲労/無力 症,貧血,および食欲不振であったが,いずれも中程 度であり,休薬により回復するものであった.評価可 能な 51 例のうち,partial response(PR)は 2 例確認 さ れ,germline PTEN mutation を 有 す る Cowden syndromeと,エストロゲン受容体陽性,Her2 陰性の 乳がんであった.さらに,minor response(MR)は 16 例,14 例が 4 ヵ月以上の stable disease(SD)を示し た.この 14 例のうち 6 例は PI3K 経路の異常活性化が 確認され,4 例が乳がんであった.そして,35 例のう ち 18 例に18F-FDGの取り込み減少が確認された.こ の結果を受け,投与基材を変更して臨床試験が進めら れ,300 mg の一日二回(bid)の経口投与を開始投与 量とし,他薬剤との併用による phase I/II 試験が進め られている. GDC-0980 の phase I 試験は,qd の経口投与で,2∼ 70 mg の範囲で 33 例に投与された(6).おもな有害事 象は疲労,下痢,食欲減退,吐き気,発疹,粘膜炎,高 血糖症,嘔吐,および便秘であった.3,32,および 50 mg の投与量において 3 例の中皮腫に対し腫瘍の縮 小が確認された.7 例に18F-FDGの取り込み減少が確 認され,1 例の副腎がんでは 1 年以上の投与が続いた. 70 mg で Grade(Gr)3 の斑点状丘疹,高血糖症を認 め MTD 以上の用量と判定され,phase II 推奨用量を 40 mg として臨床試験が実施中である. XL-765 の phase I 試験は,bid あるいは qd の経口投 与,28 日間を 1 cycle として,bid 投与(30∼240 mg) は 52 例,qd 投与(70∼100 mg)は 27 例が評価された (7).bid 投与群,qd 投与群の MTD はそれぞれ 50 mg, 90 mg であった.おもな有害事象は吐き気,下痢,拒 食症,AST/ALT 上昇,皮膚障害,および嘔吐であった. Gr 3 以上の AST/ALT の上昇は,4 例(bid 投与群の 120 mg の 3 例,50 mg の 1 例)に認められた.Qd,bid のいずれの投与スケジュールにおいても XL-765 の血 中濃度は投与量の上昇とともに上昇した.Median Tmaxは 1∼3 h,定常状態での平均血中半減期は 3∼9 h であった.11 例で 16 週以上,7 例で 24 週以上の治療 が継続した. PF-05212384 の phase I 試験は 1 週間毎の静脈内投 与 で 10∼319 mg の 範 囲 で 53 例 に 投 与 さ れ た(8). PI3K/mTOR 同時阻害薬として静脈内投与されている 唯一の化合物である.MTD は 154 mg,半減期は 46 h. おもな有害事象は粘膜炎症,吐き気,食欲不振,疲労, 発疹,高血糖症,嘔吐,味覚障害,口内炎,無気力,下 痢,貧血,トランスアミナーゼ上昇,痒み等の症状が 認められ,Gr3 以上は粘膜炎症(5 例),発疹(2 例), 高血糖症(2 例),下痢(1 例),トランスアミナーゼ上 昇(4 例)であった.2 例(卵巣がん,EGFR 変異非小 細胞肺がん)に PR が認められ,11 例に 16 週以上の SDが認められた. PF-04691502 の phase I 試験は qd 経口投与の 21 日 間サイクルで 2∼11 mg の範囲で,33 例に投与された (9).MTD は 8 mg,半減期は 10∼14 h.おもな有害 事象は疲労,吐き気,食欲不振,発疹,嘔吐,高血糖 症,下痢,粘膜炎症,頭痛等の症状が認められ,Gr3 以上は疲労(2 例),食欲不振(1 例),発疹(4 例),高 血糖症(4 例),下痢,粘膜炎症,頭痛がそれぞれ 1 例 認められた.卵巣がん,Her2 陽性乳がん,メラノーマ, 非小細胞肺がん,大腸がんの 5 例に 16 週以上の SD が 認められた. GSK2126458 の phase I 試験は qd 経口投与で 0.1∼3 mgの他薬剤と比較して低用量で 78 例に投与された (10).MTD は 2.5 mg,Tmaxは 2 h,半 減 期 は 10 h. DLTは Gr 3 の下痢であり,1.5 mg で 7%(1/14),3 mg で 44%(4/9)に観察された.おもな有害事象は疲労 (15%;G3/4,1%),吐き気(15%;G3/4,1%),下 痢 (12%;G3/4,6%)であった.腎細胞がん(0.4 mg

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投与群),膀胱がん(2 mg 投与群)の 2 例に PR が認 められた.

PWT33597,DS-7423 については,まだ phase I 試験 が進行中であり,その結果が期待されるところである.

4. PI3K/mTOR 同時阻害薬の併用療法

National Institutes of Healthが 提 供 し て い る ClinicalTrials.govの臨床試験登録情報を調査すること で,どの薬剤がどのような臨床試験を計画,実施して いるかを確認することができる.2013 年 5 月時点で 登録されている臨床試験を表 2 に示した(単剤の用量 漸増試験,安全性を確認する併用 1b 試験,および一 部の他薬剤との相互作用を目的とした臨床試験は除 く).最 も 多 く の 臨 床 試 験 が 行 わ れ て い る も の は BEZ235 であり,GDC-0980,XL-765 が続いている. BEZ235 の治療効果は,乳がん,腎がん,前立腺がん, 急性白血病,膵内分泌腫瘍,血管周囲類上皮細胞腫瘍 など幅広いがん種に対して検討され,特に乳がんに対 する臨床試験数は多い.Her2 陽性乳がんに対するト ラスツズマブは第一選択薬ではあるが,その耐性機序 の 一 つ に PI3K の 活 性 化 が 報 告 さ れ て お り(11), PIK CA変 異 の 多 い が ん で あ る こ と か ら(表 1), PI3K/mTOR 阻害薬の併用によって耐性を克服できる 可能性が考えられ,作用機作の点から理に適っている といえる.さらに,カペシタビン,トラスツズマブと の併用試験等,乳がんに対する治療戦略が充実してい る.その他に,最近注目されている未承認薬同士の併 用 試 験 と し て,自 社 で 開 発 し て い る MEK 阻 害 薬 MEK162 との併用試験が行われている.また,同一臨 床試験内で同じ経路上の阻害薬を比較する試験として pan-PI3K 阻害薬 BKM120 との比較や,mTORC1 阻害 薬エベロリムスとの併用試験(University of Cincinnati がスポンサー)が計画されている. BEZ235 は Her2 陽性および陰性の両方に対して臨 床試験が実施されているのに対し,GDC-0980 は, Her2 陰性かつエストロゲン受容体陽性の乳がんのみ であり,それ以外に非ホジキンリンパ腫,子宮体がん, 大腸がん,肺がん,腎がんなど幅広いがん種に対して 臨床試験が計画されている.これらのがん種の多くは, 遺伝子変異が報告されるがん種(表 1)と対応してい る.非ホジキンリンパ腫についても,PI3K/mTOR 経 路の亢進が高頻度に認められており,テムシロリムス やエベロリムスも適応拡大に向けて治験が進められて いるがん種である(12).さらに腎がんにおいてエベロ リムスと比較する試験が計画されていることから, GDC-0980 については mTORC1 阻害薬に対する優位 性を示していく戦略と考えられる.GDC-0980 におい ても同一試験内で自社の pan-PI3K 阻害薬 GDC-0941 との比較が計画されている. XL-765 も乳がん,肺がんに対する臨床試験,同一試 験 内 で の pan-PI3K 阻 害 薬 XL-147 と の 比 較 試 験, MEK阻害薬 MSC1936369B との併用試験等,BEZ235, GDC-0980 と同様の戦略が伺える.他薬剤と異なる点 としては,脳腫瘍(膠芽腫や神経膠腫)に対する試験 が行われていることである.脳腫瘍は脳という重要な 器官にできるため,摘出も困難で治療には大きな制約 を受ける.血液脳関門があるため薬剤の送達が困難と 考えられ,医療満足度は低く,PI3K/mTOR 阻害薬に 関わらず,多くの薬剤が治験に臨んでいるが,未だ十 分な治療法は確立されていない.XL-765 で有意な結 果を示すことができれば,大きなベネフィットを得る ことになる. また,同じ阻害様式を示す阻害薬であっても,構造, 剤 形 が 異 な る 04691502(経 口 投 与 型)と PF-05212384(静脈内投与型)を同一試験で実施している 点も興味深い. 遺伝子変異による PI3K/mTOR 経路の亢進したがん への適応は,各薬剤に共通点もありながら,それぞれ 異 な る が ん 種 も あ り 各 社 の 戦 略 が 伺 え る.PI3K/ mTOR同時阻害により PI3K 単独阻害よりも高活性化 が期待できるにも関わらず,同じ試験内に pan-PI3K 阻害薬を比較する試験を組み込んでいることは,この 経路の阻害薬の特徴を各社が見極めようとしていると 考えられる.また,バイパス経路となる RAF/MEK/ ERK経路の亢進に対し,MEK 阻害薬による同時抑制 は,非常に理論的な戦略と考えられるが,これは PI3K/mTOR 同時阻害薬と MEK 阻害薬との組み合わ せだけに限ったものでなく,Akt 阻害薬,mTOR 阻害 薬についても同様の試験が行われている.いずれの経 路も細胞の生存,増殖には必須の経路であることから, 抗腫瘍効果の増強を期待できる一方で,毒性増強も懸 念される(13). 5. PI3K/mTOR 同時阻害薬のバイオマーカー 今や分子標的薬の開発においてバイオマーカー研究 は必要不可欠であり,予後や治療効果,副作用を予測 できることを可能にする predictive マーカー,薬剤の 有効性,安全性との関連性を示す pharmacodynamic (PD)マーカーに分類でき,治療前,治療の途中等に 測定され,適切な治療法の確立,医薬品開発の迅速化 に大きく寄与する.表 3 に BEZ235,GDC-0980,およ び XL-765 の phase I 試験において検討されたバイオマ

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ーカー評価結果を示した(14).BEZ235 や XL-765 で は PI3K/mTOR 経路に関わる分子のリン酸化の抑制が, 腫瘍や皮膚,髪の毛で確認されている.GDC-0980 で は多血小板血漿を用いて Akt のリン酸化抑制を確認し 表 2 PI3K/mTOR 同時阻害薬の臨床試験 Compound

(Company) Study Clinicalphase ClinicalTrials.govIdentifier

BEZ235

(Novartis)

A Multicenter Phase I/II Trial of Abiraterone Acetate + BEZ235 in Metastatic, Castration-Resistant

Prostate Cancer I/II NCT01717898

A Phase I/II Study of BEZ235 in Patients With Advanced Solid Malignancies Enriched by Patients

With Advanced Breast Cancer I/II NCT00620594 BEZ235 in Patients With Advanced Renal Cell Carcinoma (RCC) I/II NCT01453595 Dose Finding Study of RAD001 (Everolimus, Afinitor®) in Combination With BEZ235 in Patients With

Advanced Solid Tumors I NCT01482156

A Phase Ib/II Study of BEZ235 and Trastuzumab in Patients With HER2-positive Breast Cancer Who

Failed Prior to Trastuzumab Ib/II NCT01471847 A Trial of Oral BEZ235 and BKM120 in Combination With Paclitaxel With or Without Trastuzumab I NCT01285466 A Phase I, Dose-finding Study of BEZ235 in Adult Patients With Relapsed or Refractory Acute

Leukemia I NCT01756118

Study of BKM120 or BEZ235 and Capecitabine in Patients With Metastatic Breast Cancer I NCT01300962 Safety, Pharmacokinetics and Pharmacodynamics of BEZ235 Plus MEK162 in Selected Advanced

Solid Tumor Patients I NCT01337765

A Phase II Study of Orally Administered BEZ235 Monotherapy in Patients With Metastatic or

Unresectable Malignant PEComa II NCT01690871 Efficacy and Safety of BEZ235 Compared to Everolimus in Patients With Advanced Pancreatic

Neuroendocrine Tumors(MACS1938) II NCT01628913 Phase Ib/II Trial of BEZ235 With Paclitaxel in Patients With HER2 Negative, Locally Advanced or

Metastatic Breast Cancer Ib/II NCT01495247 Safety Study of BEZ235 With Everolimus in Subjects With Advanced Solid Tumors Ib/II NCT01508104 PhIb BKM120 or BEZ235+Endocrine Treatment in Post-Menopausal Patients With Hormone

Receptor + Metastatic Breast Cancer Ib NCT01248494 BEZ235 Phase II Trial in Patients With Advanced Pancreatic Neuroendocrine Tumors (pNET) After

Failure of mTOR Inhibitor Therapy II NCT01658436

GDC-0980

(Genentech)

A Study Evaluating GDC-0980 Administered Once Weekly in Patients With Refractory Solid Tumors

or Non-Hodgkin s Lymphoma I NCT00854126 A Study Evaluating GDC-0980 Administered Once Daily in Patients With Refractory Solid Tumors or

Non-Hodgkin s Lymphoma I NCT00854152

A Study of GDC-0980 in the Treatment of Recurrent or Persistent Endometrial Carcinoma II NCT01455493 Study of GDC-0941 or GDC-0980 With Fulvestrant Versus Fulvestrant in Advanced or Metastatic

Breast Cancer in Patients Resistant to Aromatase Inhibitor Therapy II NCT01437566 Study of the Safety and Pharmacology of GDC-0980 in Combination With Paclitaxel With or Without

Bevacizumab in Patients With Locally Recurrent or Metastatic Breast Cancer I NCT01254526 GDC-0980 in Combination With a Fluoropyrimidine, Oxaliplatin, and Bevacizumab in Patients With

Advanced Solid Tumors I NCT01332604

A Study of the Safety and Pharmacology of GDC-0980 in Combination With Either Paclitaxel and Carboplatin (With or Without Bevacizumab) or Pemetrexed and Cisplatin in Patients With Solid

Tumors I NCT01301716

Study of GDC-0980 Versus Everolimus in Patients With Metastatic Renal Cell Carcinoma Who Have

Progressed on or Following Vascular Endothelial Growth Factor-(VEGF) Targeted Therapy II NCT01442090

XL-765 (Sanofi)

Exploratory Study of XL765 (SAR245409) or XL147 (SAR245408) in Subjects With Recurrent

Glioblastoma Who Are Candidates for Surgical Resection I NCT01240460 Study of XL147 (SAR245408) or XL765 (SAR245409) in Combination With Letrozole in Subjects With

Breast Cancer I/II NCT01082068

Safety Study of XL765 (SAR245409) in Combination With Erlotinib in Adults With Solid Tumors I NCT00777699 Trial of MEK Inhibitor and PI3K/mTOR Inhibitor in Subjects With Locally Advanced or Metastatic

Solid Tumors Ib NCT01390818

A Study of XL765 (SAR245409) in Combination With Temozolomide With and Without Radiation in

Adults With Malignant Gliomas I NCT00704080 PF-05212384

PF-04691502 (Pfizer)

Study Of PI3K/mTOR Inhibitors In Combination With A MEK Inhibitor Or Irinotecan In Patients With

Advanced Cancer I NCT01347866

A Study Of Two Dual PI3K/mTOR Inhibitors, PF-04691502 And PF-05212384 In Patients With

Recurrent Endometrial Cancer II NCT01420081 GSK-2126458

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ている.腫瘍での PD マーカーを投与前後で比較し, その抗腫瘍効果との相関を早期に確認できれば,より 確実に薬剤を開発することができると考えられるが, 腫瘍部位の組織生検の難度,その摘出のタイミングな ど解決しなければならない点は多く,より簡便かつ患 者さんへの負担が少なく採取できる組織で検討される のが通例である.血液,髪の毛,皮膚は比較的簡便に 採取できることから,抗腫瘍効果との相関性が確認で きれば,非常に有用なツールになると考えられる.ま た,PI3K/mTOR 経路は糖代謝にも影響を与えること から,その阻害薬は高血糖や高インスリン血症を引き 起こす可能性があるが,逆にこれを利用して,インス リンやその前駆体である c-peptide を測定することは, 毒性予測のマーカーとしての役割と,その薬物の PI3K/mTOR 経路に対する阻害活性を示す PD マーカ ーとしての役割を持つ.そして,その糖代謝への影響 は,がんの診断に用いられている FDG-PET 測定時の 腫瘍の18F-FDGの取り込み抑制をより強く反映させ ることができるため,有用なバイオマーカーとなる可 能性がある. より薬剤が効く可能性の高い患者さんをエンリッチ し,薬剤承認の可能性を高めるために,薬効に対する 有力な predictive マーカーを早期に見出すことは非常 に重要である.特に,この経路では,PIK CA,PTEN, ERBB などの遺伝子変異による PI3K/mTOR 経路の 活性化と,この経路の阻害薬による治療効果の可能性 が多数報告されていることから(15),遺伝子変異情報 は,より治療効果が期待できる患者さんに効果的な治 療を受けてもらうことができる有用な predictive マー カーになり得る. 6. おわりに 数多くの薬剤が登場し,非常に競合が激しい状況で ある PI3K/mTOR 経路阻害薬の中から,PI3K/mTOR 同時阻害薬に焦点を当てた開発状況と,それを通じて 臨床試験での併用療法やバイオマーカー研究について 概説した.この経路の阻害薬には pan-PI3K 阻害薬, Akt阻害薬,mTOR 阻害薬など非常に多くの薬剤が臨 床試験中であるが,今のところ承認されている薬剤は mTORC1 阻害薬のテムシロリムス,エベロリムス等 のラパマイシン誘導体のみである.今後発表される 様々な臨床試験の結果から,この経路の阻害薬の資質, 有用性が明らかにされることが期待される.そして, 今後もさらに進化した分子標的薬が創製され,治療法 の確立に繋がり,多くの患者さんが救われることを切 に願う. 謝辞:第一三共株式会社 癌研究所 廣田泰秀博士,開発計画 部 慈幸貴洋氏の御校閲に深謝致します. 著者の利益相反:塩瀬能伸(第一三共株式会社).

1) Engelman JA. Nature Rev. 2009;9:550-562. 2) O’Reilly KE, et al. Cancer Res. 2006;6:1500-1508. 3) Garcia-Echeverria C, et al. Oncogene. 2008;27:5511-5526. 4) Figlin RA, et al. Int J Cancer. 2013 Jan 15. doi:10.1002/ijc.28023. 5) Burris H, et al. J Clin Oncol. 2010;28 Suppl:abstr 3005.

6) Wagner AJ, et al. J Clin Oncol. 2011;29 Suppl:abstr 3020. 7) Brana I, et al. J Clin Oncol. 2010;28 Suppl:abstr 3030. 8) Tabernero J, et al. Mol Cancer Ther. 2011;10 Suppl:A167. 9) LoRusso PM, et al. Mol Cancer Ther. 2011;10 Suppl:B163. 10) Munster PN, et al. J Clin Oncol. 2011;29 Suppl:abstr 3018. 11) Andrea LA, et al. Int J Breast Cancer. 2012. doi:10.1155/2012/41570. 12) Schatz JH. Curr Oncol Rep. 2011;13:398-406.

13) Shimizu T, et al. Clin Cancer Res. 2012;18:2316-2325. 14) Markman B, et al. Oncotarget. 2010;1:530-543. 15) Weigelt B, et al. Front Oncol. 2012;2:1-16. 表 3 PI3K/mTOR 同時阻害薬の臨床試験時のバイオマーカー(14)

Drug Acquired PD biomarker Comments/findings

Skin Hair PBMC/plasma Tumor FDG-PET

BEZ235 ✓ ✓ ✓ dose-dependent↓ pS6, ↑ Ki67 in tumor biopsies(selected cases)↑ in plasma C-peptide ↓ in FDG-PET uptake in 18 of 37 (49%) pts

GDC-0980 ✓ ✓ ↓ pAkt in platelet rich plasma

XL-765 ✓ ✓ ✓ ✓ ✓

Modest↑ in plasma insulin

PI3K pathway inhibition in hair & skin across doses including MTD Robust PI3K pathway inhibition across diverse tumor types: ↓ pAktS473(50∼90%), ↓ pAktT308(50∼80%), ↓ p4EBP1(60 ∼90%)

参照

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