博 士 ( 工 学 ) 執 行 和 浩 学位論文題名
ポーラスシリコンの構造と発光制御 に 関 す る 電 気 化 学 的 研 究
学位論文内容の要旨
シIノコン(Si)をHF溶液中で電解エッチングして作製したポ―ラスシリコン層(PSL) から可視光発光が発見されて以来、Siを用いた可視光発光デバイスが有望視されている。
高強度のフォトルミネッセンス(PL)やエレクトロルミネッセンス(EL)が観察される PSLは,割れや下地Siからの剥離が生じやすく、これらの問題を解決することが重要な 課題となっている。また、可視光発光特性の向上および制御も重要な課題である。PSL の機械的性質および可視光発光特性には、その微細構造および組成が関係してぃると考 えられる。しかし、これらの点については断片的な研究が多く、系統的な研究がなされ ていなし、。PSLのアノ―ド酸化によるパッシベ―ションはPSLを構成するSi微粒子表面 にSi〇:皮膜を形成させ、Si微粒子表面を安定化するとともに,Si微粒子のサイズを電気 化学的に制御することが可能であると考えられる。PSLの可視光発光のメカニズムとし て有カである量子サイズ効果説によれば.Si微粒子サイズの減少は発光スペクトルの短 波長側へのシフトに対応する。したがって、PSLをアノード酸化することにより.PSL の化学的安定性の向上と可視光発光特性の電気化学的制御が期待できる。しカ`し,PSL のアノ―ド酸化に関する研究は少なく‐アノ―ド酸化による可視光発光特性の変化およ びァノード酸化のメカニズムについては不明な点が多い。
上述の観点カ`ら、本論文ではp型Siを用いて、異なる電解エッチング条件でPSLを作 製し、その微細構造.組成および可視光発光特性を系統的に調べた。これらの結果を総 合的に考察することにより、電解エッチングによるPSL形成メカニズムおよび可視光発 光メカニズムの説明を試みた。また,下地Siと密着性がよ〈、可視光発光強度の高い PSLを 作製するた めの最適電 解エッチング条件を探った。さらに,PSLを500V(SHE) の高い電位までアノード酸化し、各電位におけるELの強度・スペクトル変化とPSLの構 造・組成変化との対応から.PSLのアノード酸化とELのメカニズムを調べるとともに、
アノード酸化処理によるPLスペクトル特性向上の要因を明らかにすることを試みた。
本論文は以上の内容を含む全5章から構成されてぃる。各章の概要は以下の通りである。
第1章は序論であり.本研究の基礎となる知見、PSL研究の現状と問題点を記述した。
また、本研究の背景と目的を明らかにした。
第2章では比抵抗の異なる2種類のp型Siを種々の濃度のHF水溶液で電解エッチングし てPSLを作製し、PSLの微細構造、組成、発光特性とHF濃度、下地Siの比抵抗との関 係を系統的に調べた。PSLの微細構造は下地Siの比抵抗に依存し、比抵抗10QcmのSi に作製 したPSLは 直径2nm〜5 nmの微粒子か ら構成され るが.比抵抗0.001QcmのSi
に 作 製 し たPSLは 荒 い 筋 状 の 構 造 を と る 。PSLの 下 地Siに 対 す る 密 着性 は 、比 抵 抗 0.001 QcmのSiに作 製 し たPSLお よ び高 いHF濃 度 で作 製 したPSLで 良好 で あ るこ と が わ かった。 下地Siの比 抵抗によ るPSLの微細 構造の違い を電解エッチング時に下地Sルこ 形 成される 空間電荷 層の厚さ の違いか ら説明した 。また、PSLの下地Siか らの剥離 は、
電 解エッチ ング時に ポーラス 層/下地Si界面で発生 する水素の気泡による応カが重要な 因 子である ことを指 摘した。FT‐IRにより測定されるPSL中のSi水素化物(SiHエ)濃度は HF濃 度の 増 加 とと も に増 加 す るこ と 、一 方 ,PSLの 可 視光 発光強 度は逆に 、HF濃度の 増加とともに減少する結果が得られた。
第3章 では 電 解エ ッ チ ング 時 の 電流 密 度を 変 え てPSLを 作製し,PSLの微細構 造,組 成 、 発 光 特 性 と 電 流 密 度 と の 関 係 を 調 べ た 。 比 抵 抗10QcmのSi上に 作 製し たPSLは 直 径2 nm〜5 nmのSi微粒 子 から構 成されて ぃるが, 微粒子サイ ズは電解 エッチン グ電 流 密度によ らなぃ。 しかし, その断面 構造は電解 エッチング電流密度の増加とともにス ポ ンジ 状 か ら層 状 へと 変 化 した 。 ―方 , 比 抵抗0.001QcmのSi上に 作 製 したPSLは筋 状 の荒い構 造を持っ が.筋状 構造は電 流密度の増 加とともに微粒子化した。電解エッチ ン グ 電 流密 度 の増 加 に よるPSLの微 細構造変 化は、物質 移動が律 速となる ことでPSL孔 底 の垂直方 向への電 解エッチ ングの進 行が妨げら れることに起因すると考えられる。電 流 密度はPSLの 下地Siとの 密着性に 大きな影 響を及ぼし 、電流密 度を減少 させるこ とで 密 着性が向 上するこ とがわか った。また、電解エッチング電流密度の増加とともにSiHエ 濃度が減少し、PL強度は増加する結果が得られた。
第2章 、第3章 の 結果 を 総 合的に考 察するこ とにより、 比抵抗の 大きぃSiを 低濃度の HF水 溶液中、 低電流密 度で電解 エッチン グすること により、下地Siとの密着性が良く、
可 視光発光 強度の高 いPSLを作製 できるこ とがわかっ た。さら に、可視 光発光強 度の高 いPSLは 量 子 サイ ズ 効果 に 対 応す る 直径2nm〜5 nmの徴 粒 子か ら 構 成さ れ てお り . 発 光 強度はPSL中 のSiHエ濃度 の増加と ともに減 少すること が明らかとなった。このことか ら 、PSLの可視 光発光はSi粒子の微 細化によ る量子サイ ズ効果が 支配的で あるが. 可視 光 発光強度 はPSL中のSiHエ 濃度に依存する新しぃ知見が得られた。SiHエ濃度の増加にと も なう発光 強度の減 少は、Si微粒子表面のSiHエ層が表面準位を形成し、主に表面準位を 介 しての電 子遷移が 起こるた め、Si微粒 子の伝導帯 から価電子帯への電子の直接遷移が 妨げられることにより説明した。
第4章 ではKN〇ヨ を 含む エ チレングIノコ―ル 溶液中、PSLを500V(SHE)の高い電 位ま で ア ノ ード 酸 化し 、 ア ノ― ド 酸 化時 の 電位 お よ びELの挙 動、 アノード 酸化によ るPSL の 構 造 ・組 成 およ びPL特 性 変化を 調べた6PSLの アノード酸 化は、酸 化初期にSi微粒子 表面のSiHーがSi(こ酸化される電位停滞領域と、その後、Si微粒子がSi○2に酸化され、電 位 が時間に 対して直 線的に増 加する領 域からなっ ていることがわかった。アノード酸化 初 期の 電 位 停滞 領 域で は 、800 nm〜710 nmに ピ ーク 波 長を 持 つELが 観 察さ れ 、電 位 が 直 線 的に 増 加す る 領 域で は 、650 nmと530 nmの2つ の ピーク波 長を持つELが観察さ れ た。電位 停滞領域 では、SiHエ の酸化に よりSi微粒子 の伝導帯 に注入さ れた電子 がEL に関与すること、電位が直線的に増加する領域では、溶液の酸イヒ/還元系からSi〇:皮膜 の 伝導帯に 注入され た電子がSi微粒子の 伝導帯ヘ遷 移し.さらにSi微粒子の価電子帯ヘ 遷 移するた めELスペク トルに2つのピークが現れることをバンドモデルにより説明した。
ま た 、 未酸 化 のPSLで は 、660 nmに ビー ク 波長 を 有 するPLが観 察される が.アノ ード 酸 化 電 位の 上 昇と と も にPSLのPL強 度 は増 加 し .PLス ペク トルは短 波長側ヘ シフ卜し た 。PL強 度 の 増加 は アノ ー ド酸化 によるSi微 粒子の表面 準位密度 の減少に よること .
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
ポーラスシリコンの構造と発光制御 に関する電気化学的研究
HF溶液 中で シリ コン(Si)を電 解エ ッチ ング するこ とに より作製したポ―ラス シリコン層(PSL)力`ら可視光領域のホトルミネッセンス(PL)が発見されて以来、
Siを 用い た可 視光 発光 デノ ヾイスが注目されてぃる。PSLの可視光PL特性の向上 と制 御は 可視 光発 光デ バイ スを実用化するための重要な課題である。また、PSL は割れや下地Si力`らの剥離が生じやすく,これらの問題を解決することも重要な 課 題 と な って いる 。PSLの可 視光PL特 性お よび 機械 的性 質に は、 その微 細構 造 および組成が関係レていると考えられる。しかし、これらの点については断片的 な研究が多く,系統的な研究は行われてぃなぃ。
上述の観点より、著者はp型Si上に異なる電解工ッチング条件でPSLを作製し、
そ の 微 細 構造 、組 成お よび 可視 光PL特性を 系統 的に 調べ ると とも に、PSLの ア ノ― ド酸 化に より 可視 光PL特性 を制 御す る試 みを行 った ものであり.その主要 な成果は次の点に要約される。
O比 抵 抗 の 異な る2種類 のp型Siを 種々 の濃 度のHF水 溶液 中、 種々 の電流 密度 で 電 解 エ ッ チ ン グ し てPSLを 作 製 し .PSLの 微細 構造 ,組 成、PL特 性とHF濃度 , 電流 密度 ,下 地Siの比 抵抗 との関係を系統的に調べた。PSLの微細構造は下地Si の 比 抵 抗 に 依 存 し 、 比 抵 抗10QcmのSiに 作 製 レ たPSLは 直 径2nm〜5 nmの 微 粒 子 か ら 構 成 さ れ る が ,比 抵 抗O.001QcmのSiに作 製し たPSLは 荒い筋 状の 構 造を とる こと を明 らか にし た。 さら に, 比抵 抗の大 きぃSiを低濃度のHF水溶液 中, 低電 流密 度で 電解 エッ チン グす るこ とが 下地Siとの 密着性が良く,可視光 PL強 度 の 高 いPSLを 作 製 す る た め の 最 適 条 件 で あ る こ と を 見 い だ し た 。
◎FT‑IRによる測定結果からPSL中にSi水素化物(SiHエ)が存在することを明らか に す る と とも に、Si水 素化 物濃 度が 増加す ると 、PSLの 可視 光PL強度が 減少 す る新 しぃ 知見 を得 た‥Si水 素化 物に よる 可視 光PL強 度の 減少を.Si微粒子表面 のSiHエが表面準位を形成し、電子遷移が主に表面準位を介して起こることにより 説明した。
浩
雄
樹
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明
眞 達
恒 敏
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川 田
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瀬 石
市 成
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授 授
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査 査
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主 副
副 副
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◎KN○3を含むエチ レングリコ ール溶液中 、PSLを500V(SHE)の高い電位まで アノード酸化し、アノード酸化時の電位変化、エレクトロルミネッセンス(EL)挙 動,アノ―ド酸化によるPSLの微細構造・組成およびPL特性変化を調べた。PSL のアノード酸化は、酸化初期にSi微粒子表面のSiHエがSiに酸化される電位停滞領 域と、その後、Si微粒子がSi02に酸化され、電位が時間に対して直線的に増加す る領域からなることを明らかにした。アノード酸化初期の電位停滞領域では、
800 nm〜710 nmにピーク波長を持つELを、電位が直線的に増加する領域では、
650 nmと530 nmの2つのピーク波長を持つELを観測した。電位停滞領域では、
SiHエの酸化によりSi徴粒子の伝導帯に注入された電子がELに関与すること,電 位が直線的に増加する領域では、溶液の酸化/還元系からSi02皮膜の伝導帯に注 入された電子がSi微粒子の伝導帯ヘ遷移し,さらにSi微粒子の価電子帯ヘ遷移す るためELスペクトルに2つのピークが現れることをバンドモデルにより説明した。
@未酸化のPSLでは、660 nmにピ―ク波長を有するPLが観測されるが、アノー ド酸化電位の上昇とともにPSLのPL強度は増加し,PLスペク卜ルは短波長側ヘ シフトすることをっきとめた。PL強度の増加はアノード酸化によるSi微粒子の 表面準位密度の減少によること.およびPLスペクトルの短波長側へのシフ卜は Si〇:皮膜の形成によるSi微粒子サイズの減少によることをPSLのアノード酸化メ カニズムを考慮し、バンドモデルにより説明した。
これを要するに、著者はPSLの微細構造,組成と可視光PL特性に関する新し い重要な知見を得るとともに、可視光PL特性を電気化学的に制御できることを 示したものであり,表面処理工学および界面電気化学の発展に貢献するところ大 なるものがある。
よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと詔 めるヵ