博 士 ( 医 学 ) 入 江 徹
学位論文題名
Effect of Selective Estrogen Receptor Modulator/Raloxifene Analogue on Proliferation and Collagen Metabolism of Tendon Fibroblast
(選択的エストロゲン受容体調節薬が腱由来線維芽細胞の 器質 産生能 およ び増 殖活性に及ぼす影響に関する研究)
学位論文内容の要旨
【 背 景 と 目 的 】 閉 経 後 骨 粗 鬆 症 に 対 す る 治 療 薬 であ る 選択 的エ スト ロゲ ン 受容 体調 節薬 (SERM)は 、 ホ ル モ ン 補 充 療 法 に て 問 題 と な る エ ス トロ ゲ ンが もつ 発が ん性 を 解決 する ため に 開 発さ れた 薬剤 であ り 、組 織特 異性 と いう 特徴 を有 する 。 乳腺 等に 対し ては 抗 エス トロ ゲ ン 様 作用 を有 する のに 対 し、 骨や 皮膚 、 心血 管に 対し ては エ スト ロゲ ン様 作用 を 有し 、骨 量 増 加 作 用 、 抗 動 脈 硬 化 作 用 等 を 示 す こ と が 知 ら れ て い る 。 し か し 腱 線 維 芽 細 胞 へ のSERM の 影 響は 不明 であ る。 閉 経に よる エス ト ロゲ ン欠 乏は 、全 身 の結 合組 織の 代謝 や 組成 に影 響 し 、 退行 変性 を引 き起 こ す。 腱や 靭帯 に 対する影響については 、議論のあるところである が、
腱 ・ 靭帯 由来 線維 芽細 胞 には エス トロ ゲ ン受 容体 が発 現し て おり 、エ スト ロゲ ン が腱 ・靭 帯 に 対 しな んら かの 作用 を 有す ると する 意 見も 多い 。
本 研究 の目 的は 、SERM/ raloxifeneの 腱・ 靭帯 に対 する 作 用を 明ら かに する た めに 、腱 由 来 線 維芽 細胞 をエ スト ロ ゲン 、ラ ロキ シ フェ ン存 在下 で培 養 し、 細胞 増殖 性な ら びに コラ ー ゲ ン 代謝 に与 える 影響 を 評価 する こと で ある 。
【 材 料 と 方 法 】SDラ ッ ト 雌 の ア キ レ ス 腱 よ り 線 維 芽 細 胞 を 単 離し これ を性 ホル モ ンを 除去 し た 血清 存在 下で 培養 し 、各種濃度のEstradiol、raloxifene analogue (LY117018)の影響を 調 査 した。短 期間での細胞増殖性の評価 として、Estradiol (10‑13,10‑11,10‥,10‑7 M)また は LY117018 (10‑11,10‑9,100 M)存 在下 で24時間 腱由 来 線維 芽細 胞を 培 養し 、ELISA kitを用 い たDNA合 成 量 評 価 で あ るBrdU incorporation assayを 行 っ た 。 長 期 で の 細 胞 増 殖 性 は Estradiol (10‑ll,10‑10,10‑9 M)またはLY117018 (10‥,10‥,10‑7 M)存在下で2日間または6日 間 培 養 し 、Tetrazolium塩 を 用 い た 生 細 胞 数 の 評 価 で あ るWST8 colorimetricas8ayを 行い 評 価 し た 。 そ れ ぞ れestrogenreceptoralphab10ckerで あ るICn82,780を 添 加 し 培 養 し た も のでも細胞増殖性の評価を行 った。細胞外基質代謝は、Estradi01(1011,10110,10.9M)また はIY117018(10‥ ,10― ,10.7M)存 在 下で 線維 芽細胞を16時間 培養し、腱の主要な細胞外 基 質 で あ るI型conagen、m型c011agen、 ま た そ の 分 解 を っ か さ ど るMMP‐13のm心 乢 へ の 発現 をquantitativeRr−PCR法 で 評 価 し た 。 ま た 腱 の 弾 性 に 影 響を 与え るElaStinのmRNAの 発現 もquantitativeR.T‐PCR法で 同 様に 評価 した 。さ ら に48時間 でI型collagen、m型c011agen、 tropoelastinに対 する 免 疫細 胞染 色を 行 った 。ES廿adiolまたはI汀117018存在下またはさら に ICn82,780を 添 加 し た 状 態 で 線 維 芽 細 胞 を 培 養 し 、 培 養 上 清 中に 分泌 され た総 コ ラー ゲン 量 の 定 量 化 をSircolcouagenassayに て48、72時 間 に て 行 っ た 。 さ ら に 培 養 上 清 中I型 c011agen、m型 conagen、MMP‐13の 半 定 量 評 価 をwesthernb10ttin醫 に て 行 っ た 。
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【結果】WST8colorimetric assay、BrdU incorporation assayともにEstradiol、raloxifene
analogueは濃度によらず、細胞増殖性に有意な影響を与えなかった。細胞外基質代謝に関し
てはEstradiol、raloxifene analogueはともにI型collagenのmRNA発現に有意な差を与えな かったが 、m型collagen、MMP‑13、Elastinの 発現を有 意に上昇させた。またその影響は ICI182,780にて減弱される傾向を認めた。免疫細胞染色ではEstr.adiol、raloxifene analogue はI型collagenの染色性に影響を与えなかったのに対し、m型collagen、tropoelastinの染色 性を亢進させる傾向を認めた。培養上清中の総コラーグン量はEstradiol、raloxifene analogue の影響を受けなかった。培養上清中I型collagen量はEstradiol、raloxifene analogueにて有意 な変化を示さなかったが、m型collagen、MMP‑13はEstradiol、raloxifene analogueにて上昇 し、ICI182,780にてその効果カ§減弱される傾向を認めた。
【考察】これまで腱・靭帯に対するエストロゲンの作用に関しては様々な報告があり一定の 見 解はいま だ得ら れていな い。また 、組織 特異性という特徴を有するSERMの腱・靭帯に 対する作用は不明であった。腱・靭帯の構造やカ学的特性はコラーゲンの合成と分解のバラ ンスによって保たれている。本研究においてラロキシフェンは、腱由来線維芽細胞の増殖性 に 影響を与 えなか ったが、 ラット腱 におけ る主要なコラゲナーゼであるMMP‑13産生や腱 の弾性に関与するni型コラーゲン、エラスチンの合成をエストロゲン存在下と同程度まで 増加させた。またその効果はestrogen receptor alpha blockerであるICI182,780で減弱さ れ た。この ことか らSERMラロキ シフェ ンは腱由来線維芽細胞に対しエストロゲン様作用 を有し、その効果はestrogen receptor alphaを介して作用すると考えられた。本研究の結 果から、腱におけるコラーゲン代謝回転や弾性線維の産生は閉経によるエストロゲン欠乏に よ り低下し 、SERMラロ キシフェ ンの投 与によって閉経前に近い状態へと回復する可能性 が示唆された。
【結論】本研究においてラロキシフェンは、腱由来線維芽細胞の増殖性に影響を与えなかっ たが、MMPー13、ni型コラーゲン、エラスチンの合成をエストロゲン存在下と同程度まで 増加させた。腱におけるコラーゲン代謝回転や弾性線維の産生は閉経によるエストロゲン欠 乏により 低下し、SERMラロキ シフェ ンの投与によって閉経前に近い状態へと回復する可 能性が示唆された。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
Effect of Selective Estrogen Receptor Modulator/Raloxifene Analogue on Proliferation and Collagen Metabolism of Tendon Fibroblast
(選択的エストロゲン受容体調節薬が腱由来線維芽細胞の 器 質産 生能 および 増殖活性に及ぼす影響に関する研究)
本 研究の目 的は、組 織特異 性という 特徴を有する選択的エスト口ゲン受容体調節薬(SERM)の 腱・靭帯に対する作用を明らかにするために、腱由来線維芽細胞をエスト口ゲン、ラ口キシフェ ン存在下にて培養し、細胞増殖性ならびにコラーゲン代謝に与える影響を評価することである。
SDラット雌のアキレス腱由来線維芽細胞を性ホルモンを除去した血清存在下で培養し、各種濃度 のEstradiol (E2)、raloxifene analogue (Rlx)の 影響を調 査した 。細胞増 殖性試 験はBrdU mcorporation assayを24時間で 、WST‑8 colorimetric assayを6日 間で行い 、E2、Rlxはとも に線 維芽細 胞の増殖 性に有 意な影響 を与え ないこと が示され た。I型collagenのmRNA発現量は 各群 間で有 意差を認 めなか ったが、 皿型collagen、MMP‑13、ElastinはE2、Rlx存在下 で有意 に増 加し、ICIによ りこの 効果が減 弱され ることがReal‑time RT‑PCRによって示された。培養 上清中に分泌された総コラーゲン量の定量化をSircol collagen assayにて48、72時間にて行い、
各群 間で有 意差を認 めなか った。ま た、免疫細胞染色ではE2、RlxはI型collagenの染色性に影 響を与えなかったのに対し、m型collagen、tropoelastinの染色性を亢進させる傾向を認めた。培養 上 清 中のI型collagen量 は変化 を認め なかった が、III型collagen、MMP‑13はE2、Rlxにより 増 加 し 、ICIに よ り そ の 効 果 が 減 弱 す る 傾 向 がwesthern blottingに て 認 め ら れ た 。 本研究においてラロキシフェンは、腱由来線維芽細胞の増殖性に影響を与えなかったが、ラッ ト腱 におけ る主要な コラゲ ナーゼで あるMMP‑13産 生や腱の 弾性に関与するIII型コラーゲン、
エラ スチン の合成を ェスト ロゲン存 在下と 同程度ま で増加さ せた。 またその 効果はestrogen receptor alpha blockerで減弱さ れた。このことからSERMラ口キシフェンは腱由来線維芽細胞 に対しエスト口ゲン様作用を有し、その効果はestrogen receptor alphaを介して作用すると考え られた。本研究の結果から、腱におけるコラーゲン代謝回転や弾性線維の産生は閉経によるエス ト口 ゲン欠 乏により 低下し 、SERMラ口キシフェンの投与によって閉経前に近い状態へと回復す ―334―
則 平
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有 明
田
本 浪
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授 授
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教 教
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査 査
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主 副
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る可能性が示唆された。
審査にあたり副査山本教授から皮膚の線維芽細胞に対する影響、外傷治療に対する有効性の可 能性についての質問があった。申請者は皮膚線維芽細胞への影響を文献的報告を引用して回答し、
SERMの組 織特異性 より本研究の結果と矛盾しないことを回答した。また、本薬品の性質上、外 傷治療目的の使用は考えにくいが腱の退行性変化の進行予防効果は期待しうることを回答した。
次しゝで主査安田教授から、健常人への影響、高齢動物等の使用の可能性に関する質問があった。
申請者はラ口キシフェンが腱のコラーゲン代謝に与える影響はェストロゲンとほぼ同様のもので あり、閉経後女性の腱の状態を閉経前の状態に近づける可能性があることを回答し、卵巣摘出老 齢ラッ トにて 予備実験 を行っ ているこ とを報 告した。最後に副査三浪教授よりE2とRlxでほぼ 同様な 影響で あったことに対する質問があった。申請者はRlxが腱線維芽細胞に対しagonistic に作用するのかantagonsticに作用するのかが不明であったのに対し、agonisticに作用すること を 明 ら か に で き た こ と に 本 研 究 の 新 規 性 が あ り 意 義 が あ る こ と を 回 答 し た 。 審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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