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SQUID 磁束 計を用いたヒト聴覚機能の計測と解析

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 竹 内 文 也

学 位 論 文 題 名

SQUID 磁束 計を用いたヒト聴覚機能の計測と解析

学位論文内容の要旨

  ヒト の脳の 働き を調べ ,その 仕組み を明 らかに するこ とは, 脳機能 の解 明を目的とする基礎科 学の みなら ず,そ の機 能を模 擬した ハード 及びソ フト ウェア を実現 する工 学的応用面においても 非常 に重要 な課題 であ る。

  本論 文では ,こ のよう なヒト の脳機 能の うち大 脳皮質 におけ る聴覚 機能 を明らかにすることを 主た る目的 として いる 。ヒト の脳の 音処理 機能に は不 明な点 が多く ,これ を明らかにすることに より 生理学 的ある いは 心理学 的に有 用な知 見を得 るこ とがで きると 共に, 工学的側面からはヒト の音 声認識 過程を モデ リング するた めに必 要不可 欠な 情報が 得られ るもの と期待される。本論文 では 特に, 音を与 える 耳(左 耳か右 耳)や 音の種 類を 変えな がら大 脳の活 動を計測し,音源の位 置や 音の構 造に対 応す る皮質 聴覚神 経の活 動にっ いて 検討す る。

  本研 究の目 的を 遂行す るため の問題 点は ,ヒト の脳機 能を無 侵襲的 に計 測する手段にある。特 に, 音の動 的処理 過程 を調べ るため にtま,時 空間分 解能の高い計測が要求される。これまでヒト の脳 機能は 主に脳 波計 測によ り調べ られて きた。 脳波 は,活 動する 神経細 胞から流れ出た細胞外 電流 が作る 頭皮上 の電 位差で ある。 細胞外 電流は 分布 電流と して脳 組織の 導電率によって大きく 変化 を受け ナょが ら頭 部全体 に広が る。特に,脳と頭皮の間には高インピーダンスの頭骸骨がある ため ,ここ で分布 電流 は滅衰 しさら に拡散される。そのため脳波は脳全体の活動を反映する反面,

局所 的な神 経活動 を調 べるこ とには 向いていナょい。このように,脳波計測には時間分解能は高い が空 間分解 能が低 いと いう欠 点があ る。  .

  これ に対し 脳磁 界は, 活動す る神経 細胞 内を流 れる電 流が作 る磁界 であ るため,脳組織の導電 率の 影響を 受けず 空間 分解能 の高い 測定が 可能と なる 。さら に,局 在化し た多数の活動神経を電 流 双 極子と 仮定す ること で, 測定さ れた脳 磁界分 布か ら逆に その3次元 的位置 と電流 の大き さ,

向き を推定 するこ とが できる 。ここ で,脳 磁界の よう な微小 な磁界 を計測 するためには,超伝導 現 象 を 利 用 し たSQUID (Superconducting QUantum Interference Device)磁 束 計を 用 い る 必 要 がある 。近年 になりSQUID磁束計 の多チ ャネ ル化が 急速に 進み, 高精度 の脳 機能損IJ定が可

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能 に なり つっ あ る。 多チ ャ ネル計測では頭皮上 の多くの点におい て時間的にコヒー レントな脳磁 界 デ 一夕 が得 ら れる 。そ の 反面,多点同時記録 に適した測定方法 やコヒーレントな 時空間情報の 解 析 方 法 が 十 分 に 検 討 さ れ て お ら ず , そ れ ら の 確 立 が 早 急 に 求 め ら れ て い る 。   こ の よ う な 経 緯 か ら 本論 文 では ヒト 聴 覚機 能の 測 定に 脳磁 界 計測 によ る 方法 を選 び ,1 ch

( チ ャ ネ ル ) と37chのSQUID磁 束 計 を 用 い て 研 究 を 行 っ た 。 な お 本 研 究 で は , 多 チ ャ ネ ル SQUID磁 束 計に よる 測 定方 法と 多 チャ ネル デ ータ の解 析 方法 を確 立 する こと を もう ーっ の 目的 とし ている。

  本 論 文 は 全 体 が8章 よ り 構 成 さ れ て お り , 以 下 に 各 章 の 内 容 を 概 説 す る 。   第1章 で は, ヒト の 脳研 究と 聴 覚機 能研 究 の重 要性と,これま でに大脳皮質神経 群の電気的活 動 に っい て行 わ れた 脳機 能 計測 に関 す る報 告を ま とめ ,SQUID磁 束 計を 用い て 計測 を行 う 本研 究の 目的を述べる。

  第2章 で は, 脳波 と 脳磁 界に 関 する 基礎 的 な知 見とこれまでに 行われた聴覚刺激 による脳磁界 計測 に関する知見をま とめ,本研究が出発点とする生理学的あるいは心理,゛芦的研究の背景を明ら かに している。

  第3章 で は , 脳 磁 界 の 測定 に用 い たSQUID磁 束計 と 音刺 激の 呈 示装 置に っ いて 説明 し ,脳 磁 界の 信号源(電流双極 子)の推定方法にっ いて概説する。

  第4章 と 第5章 はl ch SQUID磁 束 計 に よ る 計 測 に 関 す る も の で あ り, 音 に対 する 被 験者 の 意 識 の違 いや , 音を 呈示 す る耳の違いによる脳 神経活動の差異を 調べている。この 研究には脳機 能 を 調べ ると 共 に, 後の 章 で述 べる 多 チャ ネルSQUID磁 束計 によ る 脳磁 界の 測 定方 法を 確 立す るた めの基礎データを 得るという目的があ る。

  ま ず第4章で は, 連 続し て呈 示 され るバ ー スト 音に誘発される 脳磁界応答を計測 し,刺激音に 対 す る被 験者 の 意識 の違 い による応答の変化を 調べている。また ,異なる刺激音を 左右の耳に与 え な がら 左右 の 脳半 球か ら の脳磁界を独立に計 測することで,刺 激音を呈示する耳 と測定脳半球 の 関 係に っい て も調 べて い る。その結果,被験 者が意識的に聴い た刺激音による脳 波応答とそう で な い刺 激音 に よる 脳波 応 答との間に明瞭な差 異があることを示 し,一方,脳磁界 応答において は 有 意な 差が な いこ とを 明 らかにしている。ま た,刺激音を与え る耳に対して反対 側の脳半球の 脳磁 界応答では,連続 した刺激音による振 幅の減衰を観測し ている。

  第5章 で は, 第4章 にお い て観 測さ れ た, 連続 刺 激に よる 脳 磁界 応答 の変化を詳 細に調べるた め , 同一 の刺 激 音を 左右 の 耳に与え,被験者に は刺激音を意識さ せないようにして 脳磁界の測定

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り刺 激音の 連続に よる応 答振 幅の滅 衰に有 意な差 異が あるこ とを見 いだし ている。さらに,この よう な振幅 減衰の 原因と して ,・両脳半球にある聴覚皮質問の神経路を介した音情報の伝達と,聴 覚 皮 質 に お け る 両 側 性 の 神 経 群 の 活 動 に よ る 可 能 性 に っ い て 検 討 し て い る 。   第6章 と 第7章 で は ,3 ch SQUID磁 束計 を 用 い , 多 チャ ネ ル 計 潰IJデ一 夕に適 した信 号解 析 法の 提案 を行い ,さら に3種類の バース ト音 による 脳磁界 信号源 の推定 を行 って, 音響構 造によ る聴 覚神経 活動の 時空間 的な 変化を 明らか にして いる 。

  ま ず第6章お いて, 多チャ ネル測 定で 予想さ れる, 空間的 な規 則性を もっノ イズ磁 界が重 畳し た 脳 磁界 か ら の 信 号源 推 定 の 精 度に っ い て , ノ イズ 磁 界 と し て37ch SQUID磁束計 によ り測定 し た 脳磁 界 デ ー タ を用 い 検討し ている 。そ の結果 ,S/Nが 小さ い場合 にはラ ンダム 雑音に 比べ て大 きな推 定誤差 を生じ る可 能性を 指摘し ている 。

  第7章 で は ,37ch SQUID磁 束 計 を 用 い て純 音 ・ 母 音 ・単 音 節 音 声 を刺 激 音 と す る脳 磁 界 応 答を 計測し ,聴覚 皮質内 の神 経活動 の動的 変化を 磁界 信号源 の位置 変化と して調べている。その 結果 ,純音 刺激に よる脳 磁界 応答の 信号源 位置は 潜時 にっれ 前方に 変化す る傾向がみられること と並 んで, 刺激音 の周波 数に より信 号源位 置の変 化が 異なる ことを 見いだ し,かつ,その再現性 を確 認して いる。 また, 母音 刺激において脳磁界信号源位置の大きな動的変化を観測している。さ らに ,4回分の 脳磁 界測定 デ―夕 を用い て信 号源の 推定を 行いそ の信頼 性の 向上を 図り, 刺激音 や 被 験 者 に 依 存 す る 時 空 間 特 性 を 得 て い る 。 一 方 , 単 音 節 音 声 刺 激 ( /a/ , /ka/, / ha/,/na/)に お い て は ,5回 分 の 脳 磁 界 測 定 デ ー タ か ら 推 定 を 行 い , /a/ 刺 激 と/na/

刺激 に対す る脳磁 界信号 源に おいて 前方・ 内側・ 下方 への動 的変化 がある ことを明らかにしてい る。

第 8章 は 結 論 で あ り , 本 論 文 で 述 べ た 内 容 を 総 括 す る 。   本 論 文 で は,1 ch SQUID磁 束 計 を 用い た 脳 磁 界 計測 に よ り 得 られ た応答 振幅の 変化 から両 脳半球 を結ぷ 聴覚神 経路 や両側 性の聴 覚神経 の存 在を検 討する ことで ,脳磁界応答から詳細な神 経活 動 を 予 測 する こ と ができ る可能 性を示 丶して いる 。また ,37ch SQUID磁束計 を用い た計測 では, 刺激音 の種類 によ り脳磁 界信号 源の動 的ぬ 変化に 差異が みられ ,聴覚神経の活動が音響的 に異な る音に 対して 明ら かに異 なって いるこ とが 分かっ た。こ のこと はヒトの脳では音響構造が 神経活 動の時 空間変 化と して再 現され ている 可能 性を示 すもの であり ,ヒトの聴覚機能を明らか にする 上で新 たな解 釈を 与える もので ある。

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学位論文審査の要旨

    主査  教授  栗城眞 也     副査  教授  山本克 之     副査  教授. 下澤楯 夫     副査  教授  伊福部  達

  ヒトの 脳の 機能を 明らか にし,それに基づいて,゛ヒトと同等の知覚や認識の能カをもつハード ウェア 及びソ フトウ ェア を実現することは生体工学における重要な研究課題である。本論文では,

ヒトの 脳機能 のうち 大脳 皮質に おける 聴覚機 能を 明らか にする ことを 主たる目的として,音源の 位 置 や 音 の 構 造 に 特 異 的 に 反 応 す る 皮 質 聴 覚 神 経 の 活 動 に っ い て 調 べ て い る 。   本研究 では ヒトの 脳機能 を無侵 襲的に 計測 する手 段とし て,時 空間 分解能に優れた脳磁界計測 を選 択 し て い る。 脳 磁 界 は 非 常に 微 弱 で あ るた め 計 測 す るに は 超 伝 導 現象 を 利 用 し たSQUID (Superconducting QUantum Interference Device)磁 束 計 を 用 い る必 嬰 が あ り ,本 研 究 に お い て はlch( チ ャ ネ ル )SQUID磁 束 計 と37chの 多 チ ャ ネ ルSQUID磁 束 計 を 用 い て い る 。 特に , 多 チ ャ ネルSQUID磁 束 計 に よ る脳 磁 界の 多点同 時計 測では 高精度 の脳機 能測 定が期 待さ れてい る反面 ,多点 同時 記録さ れたデ ータの 時空 間情報 の解析 方法は 十分に検討されていない。

本 論 文 で は , こ の よ う な 脳 磁 界 デ ー タ の 解 析 方 法 の 確 立 を も う ー っの 目 的 と し て いる 。   本 論 文 は 全 体 が8章 よ り 構 成 さ れ て お り , 以 下 に 各 章 の 内 容 を 概 説 す る 。   第1章では ,ヒト の脳 研究と 聴覚機 能研究 の重要 性を 明らか にする と共に ,こ れまで に行われ た脳 機 能 計 測 に関 す る 報 告 を まと め ,SQUID磁 束計を 用い て聴覚 機能計 測を行 う本 研究の 目的 を述べ ている 。

  第2章では ,これ まで に脳波 や脳磁 界の計 測によ って 得られ た,ヒ ト聴覚 機能 に関す る生理学 的 あ る い は 心 理 学 的 知 見 を ま と め , 本 研 究 の 背 景 を 明 ら か に し て い る 。   第3章 で は, 脳 磁 界 計 測に 用 い たSQUID磁 束計 と 音 刺 激 装置 に っ いて説 明し, さらに 脳磁界 信号源 の推定 方法に っい て概説 してい る。

  第4章 と 第5章 で はl ch SQUID磁束 計 を 用 い て脳 磁 界 計 測 を行 う こ と で ,聴 覚 機 能 を 調 べ ると 共 に , 多 チャ ネ ルSQUID磁 束 計 によ る 脳磁 界の測 定方 法を確 立する ための 基礎 データ を得 ている 。

  まず第4章 におい ては ,異な る刺激 音(純 音と音 声) を左右 の耳に 与えな がら 左右の 脳半球か

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らの脳磁界を独立に計測することで,刺激音を与える耳の違いによる脳磁界応答の差異にっいて 調べている。その結果,刺激音を与える耳に対して反対側の脳半球の脳磁界応答では,同一の刺 激音が連続して与えられた場合に振幅の滅衰を観測している。

  第5章では,第4章において観測された脳磁界応答の滅衰を詳細に調べるため,同じ刺激音を 左右の耳に与え脳磁界の測定を行っている。その結果,刺激音を与えた耳と,脳磁界を測定した 脳半球が同側か反対側かにより刺激音の連続による応答振幅の減衰に有意な差異があることを見 出している。さらに,このような振幅減衰の原因として,両脳半球にある聴覚皮質問の神経路を 介した音情報の伝達と,聴覚皮質における両側性の神経群の活動による可能性にっいて検討して いる。

  第6章と第7章では,37ch SQUID磁束計を用いて計測された脳磁界デ一夕においてf言号解 析法を確立し,それに基づいた脳磁界信号源の推定を行うことで音響構造による聴覚神経活動の 時空間的な変化を明らかにしている。

  まず第6章において,多チャネル計測で予想されるノイズ磁界の空間的な規則性を調べ,その ノイズ磁界が重畳した脳磁界における信号源推定の精度にっいて検討している。ノイズ磁界とし ては37ch SQUID磁束計 により測定した脳磁界データ を用いている。その結県,S/Nが小さ い 場 合 に は ラ ン ダ ム 雑 音 に 比 べ て 大 き な 推 定 誤差 を生 じ る可 能性 を指 摘 して いる 。   第7章では,37ch SQUID磁束計を用いて純音,母音;単音節音声を刺激音とする脳磁界応 答を計測し,聴覚皮質内の神経活動の動的変化を磁界信号源の位置変化として調べている。その 結果,純音刺激による脳磁界応答の信号源位置には潜時にっれ前方に変化する傾向とともに,刺 激音の周波数に依存した変化を見出している。また,母音刺激による脳磁界信号源位置には刺激 音や被験者に依存する 時空間特性があり,単音節音声刺激においては/a/刺激と/na/刺激 に対する脳磁界信号源位置に前方・内側・下方への動的な変化があることを明らかにしている。

これらのことはヒトの脳では音響構造が神経活動の時空間変化として表現されている可能性を示 すも ので あ り, ヒト の聴 覚機 能 を明 らか にす る上 で 新た な解 釈を 与 える もの である。

  第8章は結論であり,本研究で得られた成果を総括している6

  以上のように本論文は,脳磁界の無侵襲計測によルヒトの聴覚中枢の情報処理に関して新たな 知見を提供するとともに,多チャネル脳磁界デ一夕の解析方法を確立しており,生体工学および 医用電子工学の進歩に寄与するところが大きい。

  よ っ て , 著 者 は , 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。

参照

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