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モデルポテンシャルによるビクスバイト型酸化物と転位芯の分子動力学シミュレーション

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(1)

卒業論文

モデルポテンシャルによるビクスバイト型酸化物と

転位芯の分子動力学シミュレーション

平成

24

2

神戸大学工学部機械工学科

0894563T

冨平 昌吾

(2)

要約

酸化物分散強化鋼 (ODS 鋼) は,原子炉被覆管材の有力な候補として期待されてい る.ODS 鋼中には酸化物が微細なナノクラスターとして存在し,転位の自由な運動を 妨げることで強度が高められていると考えられているが,試験観察が困難であるため その詳細は不明である.本研究では bixbyte 型酸化物と,らせん転位または刃状転位を 導入した bcc-Fe に,せん断を与えることで転位を酸化物に接近させるシミュレーショ ンを分子動力学法により行った.ここで,異なる酸化物を模擬するため Johnson ポテ ンシャルと Morse ポテンシャルの 2 つを用いて bixbyte の原子間力を評価し,また解 析モデルの大きさと酸化物の大きさもそれぞれ 3 種類変えて検討した.らせん転位と Johnsonポテンシャルの酸化物での検討では,動き出すせん断ひずみは系による差が なく,この bixbyte は遠方の転位に影響しないことが示された.転位は酸化物から大 きな抵抗を受けずに通過し,また転位通過後に酸化物周辺に欠陥を残さないこともわ かった.先行の研究では hcp 球体の不整合析出物やボイドとの切り合いでは交差すべ りによって原子空孔を残すことが報告されており,bixbyte は bcc の界面の整合性がよ く,整合析出と同様の挙動を示したものと考えられる.Morse ポテンシャルの酸化物 とらせん転位の検討では,転位は Johnson ポテンシャルの倍のひずみでも動かず,そ の後転位芯が拡張し [¯1¯12]面に双晶変形を生じた.刃状転位と Johnson ポテンシャル酸 化物の検討では,せん断を与えると,転位はせん断応力に変化を生じることなく接近 した.bixbyte 酸化物が大きい (2× 2 × 2 以上) 場合,転位の通過後ジョグが形成され, 特に 3× 3 × 3 の bixbyte では転位と酸化物表面の間にループを形成して転位がトラッ プされた.らせん転位は接近できなかった Morse ポテンシャルの酸化物でも,刃状転 位はせん断応力に変化を生じずに接近した.いずれも酸化物通過後には転位後方に欠 陥を形成し,特に 2× 2 × 2,3 × 3 × 3 の bixbyte 酸化物では転位と酸化物の間の欠陥 が拡大した.また,この欠陥断面の観察により,欠陥が [¯110]面から [¯1¯12]面にシフト する双晶変形であることを確認した.

(3)

目 次

1 緒 言 . . . . 1 2 解析手法 . . . . 2 2.1 分子動力学法 . . . . 2 2.2 Johnson ポテンシャル . . . . 2 2.3 Morse ポテンシャル . . . . 4 2.4 速度スケーリング法 . . . . 5 2.5 高速化手法 . . . . 6 3 らせん転位と酸化物の相互作用 . . . . 8 3.1 シミュレーション条件 . . . . 8 3.2 シミュレーション結果 . . . . 10 4 刃状転位と酸化物の相互作用 . . . . 15 4.1 シミュレーション条件 . . . . 15 4.2 シミュレーション結果 . . . . 16 5 結 言 . . . . 25 参考文献 . . . . 27

(4)

1

緒 言

原子炉におけるエネルギー効率の向上,限られた資源の有効利用,放射性物質の放 出防止等の観点から,軽水炉の高燃焼度化及び高速増殖炉の実用化が求められている. 現在,原子炉燃料被覆管には,オーステナイト系ステンレス鋼及びジルコニウム合金 が主に使用されている.オーステナイト系ステンレス鋼は水に対する耐食性に優れた 材料であり[1],高燃焼度化に向けた研究開発が進められているが,高温水下で応力腐 食割れを起こすことがある.さらには使用時間とともに照射損傷により材料のスエリ ングを生じ,体積が膨張し延性が低下するという問題をかかえている.またジルコニ ウム合金は,中性子吸収能が小さい上に,応力腐食割れを起こさないことから優れた 材料であるが,新型炉のさらなる高燃焼度化を実現するためには,高温強度,耐食性, 耐照射性に課題が残されている.そこで,これらの従来のステンレス鋼に不足する,高 温強度と耐中性子照射性を向上させた酸化型分散型強化鋼(ODS 鋼)が,原子炉燃料 被覆管の有力候補材として期待されている[2][3].ODS 鋼は機械的混合によって鉄中に ナノサイズの酸化物を分散させた複合材料であり,この酸化物は高温においても粗大 化することなく安定であることが示されている[4].酸化物が転位の自由な運動を妨げ るため高温強度が高められていると考えられ,酸化物の大きさや粒子間距離に応じて 抵抗の大きさも変化すると報告されている[5].しかし実際に試験観察を行うことが困 難であるためその詳細は未だ不明であり,計算シミュレーションによる固溶形態や役 割解明が期待されている. 本研究では,転位と酸化物との相互作用を解明する一連の研究[6] として,Johnson ポテンシャルと Morse ポテンシャル[7]の 2 種類のポテンシャルを用い,鉄中における bixbyte型酸化イットリウム (Y2O3)の大きさ,粒子間距離をそれぞれ 3 種類のパター ンを用意し,分子動力学によりシミュレートし比較することで,らせん転位,刃状転 位との相互作用を検討した.

(5)

2

解析手法

2.1

分子動力学法

分子動力学法 (Molecular Dynamics Method ; MD) は, 系を構成する個々の原子につ いてニュートンの運動方程式 mαd 2rα dt2 = F α (2.1) をたて, これを数値積分することによって全原子の運動を追跡する手法である.ここ で t は時間, rα, mαはそれぞれ原子 α の位置ベクトル及び質量である.原子 α に作用 する力 Fαは系全体のポテンシャルエネルギー Etotの空間座標についての勾配ベクト ルから次式のように求められる. Fα =−∂Etot ∂rα (2.2) 式 (2.1) の数値積分には, Verlet の方法が簡便で高精度が得られるため MD 法ではよ く用いられる.時刻 t±∆t での原子 α の座標 rα(t± ∆t) をテーラー展開すると rα(t± ∆t) = rα(t)± ∆tdr α dt + (∆t)2 2 d2rα dt2 ± (∆t)3 3! d3rα dt3 + O((∆t) 4) (2.3) となる.両式の和をとり式 (2.1) を代入すると rα(t + ∆t) = 2rα(t)− rα(t− ∆t) + (∆t)2F α(t) m + O((∆t) 4) (2.4) を得る.これより, 時刻 t− ∆t と t における全原子の位置を既知として, 時刻 t + ∆t に おける任意の原子 α の位置を求めることができる.

2.2

Johnson

ポテンシャル

純鉄のポテンシャル関数として提案された 2 体間ポテンシャルである. 系のポテン シャルエネルギー Etotは原子間の 2 体間相互作用の和として次式のように与えられる.

(6)

ここで, rαβ は粒子 α, β 間の距離, C1から C4はポテンシャルパラメータである.bcc 構

造で体積変化させたときのエネルギー変化を図 2.1 に示す.Y2O3粒子同士の相互作用

における式 (2.5) の ポテンシャルパラメーターは,hcp 構造に配置した Y2O3の第一原

理計算結果にフィッティングして得られた,C1=0.523[ev], C2=3.09[ev], C3=0.194[ev],

C4=1.56[ev]を用いた.図 2.2 に hcp 構造での体積変化に対するエネルギー変化を示す. Feと Y2O3粒子間の相互作用は平均で評価した.本ポテンシャルによって,Y2O3の 格子長さ,体積弾性率は正しく再現されるが相互作用のカットオフは鉄の Johnson ポ テンシャルと同じにしている. Atomic distance [nm] P o te n ti a l e n e rg y [ e V ] 2 3 -0.5 0 0.5 1

(7)

Atomic distance [nm] P o te n ti a l e n e rg y [ e V ] 2 3 -1 -0.5 0

Fig.2.2 Energy-lattice parameter curve of pseudo-monatomic Y2O3 in hcp structure

2.3

Morse

 ポテンシャル

同種の平均粒子 i, j に対してのポテンシャルエネルギー関数として次式の Morse ポ テンシャルを用いる.

ϕij = De[exp{−2A(rij − r0)} − 2 exp {−A(rij − r0)}] (2.6)

ここで,rijを粒子間距離,De, A, r0はそれぞれエネルギー,長さの逆数,長さの次元 を持つパラメータである. 本研究では,格子長さは Y2O3と同程度であるが,凝集エネルギーが極めて小さいモデ ル材料としてポテンシャルパラメータを De=0.0162638[ev],A=1.62933[ev],r0=3.097104[ev] とした.図 2.3 に hcp 構造でのエネルギー曲線を示す.Y2O3粒子と Fe 間のポテンシャ ル計算には,Johnson ポテンシャルと Morse ポテンシャルのそれぞれで力を平均した.

(8)

Atomic distance [nm] P o te n ti a l e n e rg y [ e V ] 2 3 0 0.5 1

Fig.2.3 Energy-lattice parameter curve for oxide of in hcp structure

2.4

速度スケーリング法

分子動力学法で温度制御する場合, もっとも簡単で直接的な方法として速度スケー リング法がよく用いられる.熱統計力学より系の運動エネルギー K は次のように表さ れる. K = 1 2 Nα=1 vα·vα = 3 2N kBT (2.7) ここで, mαは原子 α の質量, vαは原子 α の速度, N は系の全原子数, kBはボルツマン 定数, T は系の温度である.式 (2.7) より, 系の温度 T は原子速度を用いて, 次のように 求められる. T =vα·vα 3N kB (2.8) 設定温度が TC, 式 (2.8) より求めたある時刻の温度が T のとき, 速度スケーリング法 では, 各原子の速度 vαを √ TC/T 倍し設定温度 TCに近づける.ベルレ法では, ∆rα(t + ∆t) = rα(t + ∆t)− rα(t) = rα(t)− rα(t− ∆t) + (∆t)2F α(t) m (2.9)

(9)

を √ TC/T ∆rα(t + ∆t)で置き換えることに相当する.平衡状態では, 能勢の方法[8]な ど外部との熱のやりとりをする変数を考慮した拡張系の分子動力学法によって得られ るカノニカルアンサンブルに一致することが示されている.

2.5

高速化手法

式 (2.5) からわかるように, N 個の原子からなる系では, Etotの評価に N× (N − 1) 回 の原子対の計算が必要となる.一方, 実際の結晶中では近接原子による遮蔽 (screening) 効果により第二近接距離程度より離れた原子はほとんど作用を及ぼさないことが知ら れている.このため, 分子動力学計算では相互作用打ち切り (カットオフ) 半径 rcを導 入し (図 2.4), その半径内の原子からの寄与のみを考慮する. しかしながら, 相互作用する原子対の検索に N× (N − 1) 回の試行を要するため, 系 が大きくなるにつれ計算負荷が飛躍的に増加する.これを避けるために rcよりひとま わり大きい半径 rfc(図 2.4) 内の原子をメモリーに記憶し, rfc内での原子対の探索とす ることによりオーダー N の計算に近づける方法 (粒子登録法[9])がこれまでよく用い られてきた.しかしながら, 粒子登録法では rfc半径より外の原子が rc内に達すると力 の評価が適切でなくなるので, 一定のステップ毎に登録粒子の更新 (N × (N − 1) 回の 探査) を行わなければならない.このため, 系がある程度の規模以上に大きくなると, 粒子登録による高速化は登録更新の負荷により打ち消される.

r

c

r

fc

(10)

領域分割法では, まず図 2.5 に模式的に示すようにシミュレートする系をカットオフ 距離程度の格子状に分割する.ある原子に作用する力を評価する際には, その原子が 属する領域(図 2.5 の着色部)と隣接領域内 (図 2.5 の斜線部) の原子からカットオフ距 離内の原子を探索する.原子が属する領域は, 位置座標を領域ブロックの辺長 bx, byで 除した際の整数により判断できるので, 領域分割そのものの計算負荷は小さい.領域 分割法は, 粒子登録法において登録更新の負荷が大きくなるような大規模な系の高速 化に適している. x y 0

bx

by

(11)

3

らせん転位と酸化物の相互作用

3.1

シミュレーション条件

図 3.1 に模式的に示すように,x, y, z 軸をそれぞれ [111], [¯110], [¯1¯12]とする座標系で, 中央すべり面に bixbyte 型酸化物を有し,セル端面から y 方向に 1/10 の位置に転位を 導入した薄板状周期セルを用いて解析を行った.転位線方向の x 軸方向には周期境界 を適用し,y,z 方向は端面から 3 原子層を固定する条件としている.y,z 方向のセル長 さはそれぞれ 24.26 [nm], 21.01 [nm] で一定としたまま,転位線方向のセル長さ Lx4.95[nm],9.90[nm],19.81[nm] の 3 種類に変えてシミュレーションを行った.bixbyte は図 3.2 に示すような構造をしており,この基本単位の 80 原子に端面の 31 原子を加え た 1 辺の長さ Lbixが 1.14[nm] の立方体 (111 原子) を基本として,倍の 2.29[nm],3 倍 の 3.43[nm] の 3 種類を解析対象とした.bixbyte を Fe 中に置換する際はいずれも bcc 格子において相当する大きさの Fe 格子を抜き出して,そこに立方体 bixbyte を入れて いる.温度 0.1[K] で初期緩和を 20000[fs] 行った後,zx 方向にせん断ひずみを毎ステッ プ 1.0× 1.0−6与え,転位を y 方向に進展させた.

(12)

dislocation

1.14 nm

4.95

nm

(112)slip plane 2.42 nm

x[111]

z[112]

y[110]

21.01 nm

24.26 nm

Fig.3.1 Simulation cell for screw dislocation

a b

c

: Y

: O

(13)

3.2

シミュレーション結果

3.2.1 Johnson ポテンシャルでの結果 図 3.3 は,Lbix=1.14 [nm],2.29 [nm],3.43 [nm] のそれぞれに対して x 方向の幅を変 えたときのせん断応力ーひずみ線図である.各グラフをみるといずれもひずみ γzx=0か ら γzx=0.033近傍までは線形に応力上昇しており,勾配に差はない.その直後に勾配が 緩やかになり折れ曲がり点を生じるが,この点で転位が動き始める.セル辺長による転 位の移動開始点の変化はなく,遠方の転位に対して bixbyte は抵抗を与えていないこと がわかる.一方,最も小さい bixbyte の場合 (図 (a) の応力ーひずみ曲線) は γzx=0.046 近傍からセル長さによってわずかに差を生じているが,この点は転位が bixbyte を通過 し終える点であり,bixbyte 密度・転位線張力による差が生じている.Lbix=2.29 [nm], 3.43 [nm]の図 (b),(c) では応力ーひずみ曲線が最初の折れ曲がり点からわずかにず れており,セル辺長の違いによる転位線張力の違いで転位の移動開始点に差を生じて いる.図 3.4 は Lbix=2.29 [nm],Lx=9.90[nm]のシミュレーションにおける転位の運動

の様子を示す.図は可視化ソフト Atomeye の central symmetry parameter によって,

bccや hcp 以外の乱れた「欠陥」のみを表示している.γzx=0.042の図をみると,転 位の前縁がわずかに bixbyte 酸化物に引き寄せられており,また転位が通過し終える γzx=0.048ではわずかに湾曲しており,酸化物が引力を生じていることが推測される. ただし,転位は大きな抵抗を受けず,また欠陥を残すことなく通過している.球体酸 化物での検討では,酸化物のないボイドや,YO を hcp 構造で不整合析出させた場合 は,らせん転位は酸化物周辺に原子空孔を残したのに対し,bcc で整合析出させた場合 は図 3.4 と同じように「きれいに」通過することが報告されている[6].bixbyte は bcc と異なるが,界面の整合性がよいため整合析出の場合と似た挙動を示したものと推測 される.

(14)

9.90 nm Shear strain, rzx S h e a r st re ss , σzx , G P a 0 1 2 3 4 4.95 nm 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 1 2 3 4 19.81 nm 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 1 2 3 4 (a)Lbix=1.14 [nm] 19.81 nm Shear strain, rzx S h e a r st re ss , σzx , G P a 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 1 2 3 4 9.90nm 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 1 2 3 4 (b)Lbix=2.29[nm] 19.81 nm Shear strain, rzx S h e a r st re ss , σzx , G P a 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 1 2 3 4 9.90 nm 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 1 2 3 4 (c)Lbix=3.43[nm]

(15)

(a)γzx= 0 (b)γzx= 0.042 (c)γzx= 0.046

(d)γzx = 0.048 (e)γzx= 0.051

Fig.3.4 Snapshots of dislocation motion(Lbix=2.29[nm],Lx

(16)

3.2.2 Morse ポテンシャルでの結果

図 3.5 に Morse ポテンシャルでのせん断応力ーひずみ線図を示す.先の Johnson ポテン

シャルの場合と比べ,折れ曲がり点が著しく高ひずみ側にシフトし,いずれも γzx= 0.06

近傍となっている.bixbyte の割合が最も大きい Lbix = 3.43[nm],Lx = 9.90[nm]の系

が最も低ひずみで折れ曲がりを生じている.図 3.6 は Lbix = 2.29[nm],Lx = 9.90[nm]

における内部変化を Atomeye の central symmetry parameter によってみたものである.

Morse ポテンシャルでは転位は γzx = 0.06でも動くことなく,転位芯が拡張し,その 後転位芯から上下に面状欠陥が発生し,セル全体を横断した.結晶方位等の観察から, これは [¯1¯12]面をすべり面とする双晶変形であることを確認している.本 Morse ポテ ンシャルで表される仮想酸化物は遠方のらせん転位の運動を妨げ,転位芯からの双晶 変形を誘起した. 19.81 nm Shear strain, rzx S h e a r st re ss , σzx , G P a 0 1 2 3 4 5 4.95 nm 0 0.02 0.04 0.06 0.08 1 2 3 4 5 9.90 nm 0 0.02 0.04 0.06 0.08 1 2 3 4 5 (a)Lbix=1.14 [nm] 19.81 nm Shear strain, rzx S h e a r st re ss , σzx , G P a 0 1 2 3 4 5 9.90 nm 0 0.02 0.04 0.06 0.08 1 2 3 4 5 (b)Lbix=2.29[nm]

(17)

19.81 nm Shear strain, rzx S h e a r st re ss , σzx , G P a 0 1 2 3 4 5 9.90 nm 0 0.02 0.04 0.06 0.08 1 2 3 4 5 (c)Lbix=3.43[nm]

Fig.3.5 Stress-strain curves (Screw dislocation,Morse potential)

(a)γzx= 0 (b)γzx= 0.06 (c)γzx= 0.073

(18)

4

刃状転位と酸化物の相互作用

4.1

シミュレーション条件

図 4.1 に示すように x,y,z 軸をそれぞれ [¯1¯12],[111],[¯110]とする座標系で刃状転 位のシミュレーションを行った.y,z 方向のセル長さをそれぞれ 29.71[nm],33.9[nm] に固定し,転位線方向 (x 軸方向) のセル長さ Lxを 5.60[nm],11.12[nm],24.26[nm] の 3種類に変化させた.前章同様,x 方向は周期境界,y,z 軸方向は端面固定としてい る.前章同様 3 種類の大きさの bixbyte を導入し,刃状転位はセル端面から y 軸方向に 2.97[nm]の位置に導入している.温度 0.1[K] で一定とし,初期緩和を 20000[fs] 行った 後,zy 方向にせん断ひずみを毎ステップ 1.0× 1.0−6与え,転位を y 方向に進展させた. (110)slip plane 1.14 nm 29.71 nm 33.9 nm y[111] z[110] x[112] 5.60 nm 2.97 nm dislocation

(19)

4.2

シミュレーション結果

4.2.1 Johnsonポテンシャルでの結果 図 4.2 に刃状転位の Johnson ポテンシャルで得られた応力ーひずみ線図の一例として Lx=5.6[nm],Lbix=1.14[nm]のものを示す.せん断を与え始めてから通過しきるまで直 線的に上昇している.3 章のらせん転位の応力ーひずみ線図のように折れ曲がり点をも たないのは,刃状転位がらせん転位よりも小さいせん断応力で運動しているためと考え る.Atomeye で転位の動きをみると,ひずみを与え始めてすぐに転位が動き出してい ることが確認できた.他の系でも同様の傾向を示し,応力ーひずみ線図はほとんど変わ らないため省略する.図 4.3 は,せん断ひずみ γzy=0.06における各モデル中で転位の様

子を Atomeye の central symmetry parameter によって可視化して示している.いずれ

も転位は酸化物より右側にあり,通過後の状態である.γzy=0.06の様子を示しているの は酸化物を通過した後の転位の様子と転位の移動距離の違いがわかりやすいためであ る.酸化物の一辺が 1.14[nm] の左の列の図を比べると,下のセル辺長が大きい方がよ り右側に進んでいる.これはセル辺長が小さい上のモデルほど酸化物間距離が短くなっ て転位の抵抗となっているためである.特に,酸化物の一辺 Lbix=2.29[nm],3.43[nm] の場合,転位がピンニングされ,Lbix=2.29[nm]ではジョグを形成して転位が通過して いる.一方,Lbix=3.43[nm]の大きな酸化物では,ループを形成し γzy=0.06でも酸化 物から外れていない.図 4.4 に,Lx=11.2[nm]で Lbix=1.14[nm],2.29[nm],3.43[nm] のそれぞれの系で転位貫通前後の酸化物の変形の様子を示す.図は酸化物を転位線方 向,すなわち横からみたもので,刃状転位は γzy=0.06の状態には通過しきっている. Lbix=1.14[nm],2.29[nm] の系では酸化物がすべり面上でずれていることから,前報の 不整合析出の球体 hcp の場合[6]と異なり,転位が bixbyte 構造をカッティングしてい ることがわかる.しかし,Lbix=2.29[nm],3.43[nm] の大きな酸化物では,酸化物が立 方体から直方体形状に変化していることからカッティングを生じているものと推測さ れるが,図で右側 (転位運動に対して後縁) の頂点形状はあまり変わっていない.これ は先の図 4.3 でループを形成した転位が酸化物にトラップされているためである.

(20)

Shear strain, rzy Sh ea r st re ss, σzy , GP a 0 0.02 0.04 0.06 0 1 2 3 4

Fig.4.2 Stress-strain curves(edge dislocation,Lx=5.6[nm],Lbix=1.14[nm],

(21)

Lx=5.60[nm] Lbix=1.14[nm] Lx=11.2[nm] Lbix=1.14[nm] Lx=11.2[nm] Lbix=2.29[nm] Lx=11.2[nm] Lbix=3.43[nm] Lx=22.4[nm] Lbix=1.14[nm] Lx=22.4[nm] Lbix=2.29[nm] Lx=22.4[nm] Lbix=3.43[nm]

(22)

γzy=0 γzy=0.06

(a)Lbix=1.14[nm],Lx=11.2[nm]

γzy=0 γzy=0.06

(23)

γzy=0 γzy=0.06

(c)Lbix=3.43[nm],Lx=11.2[nm]

Fig.4.4 Side view of bixbyte during the passage of edge dislocation (Lbix=3.43[nm],Lx=11.2[nm],Johnson potential)

(24)

4.2.2 Morseポテンシャルでの結果

図 4.5 に Morse ポテンシャルで得られた応力ーひずみ線図の一例として Lx=5.6[nm],

Lbix=1.14[nm]のものを示す.先の Johnson ポテンシャルと同様に直線的に上昇して

いる.Lx,Lbixを変化させた他の応力ーひずみ線図もほぼ同じ曲線だったので省略し

た.γzy=0.086における Atomeye の central symmetry parameter の可視化結果を図

4.6に示す.らせん転位の場合と異なり,刃状転位は Morse ポテンシャルの bixbyte に 接近し貫通した.いずれも,通過後転位の後縁に欠陥を生じており,Lbix=2.29[nm], Lbix=3.43[nm]の場合は,酸化物と転位の間で拡大している.図 4.7 に Lx=11.2[nm], Lbix=2.29[nm]のシミュレーションにおける酸化物の変形の様子を示す.刃状転位は γzy=0.04の状態で酸化物を通過中であり,γzy=0.09の状態には通過しきった後である. 進行方向にステップを生じていないことから,すべり面で完全に滑りきっていないの が確認できる.Lbix=1.14[nm]では酸化物がカッティングされたが,酸化物が大きい他 の系では転位前縁と bixbyte の間で欠陥が拡大するため完全にはカッティングされな い.図 4.8 は Lx=22.4[nm],Lbix=3.43[nm](図 4.6 の右下の系) で生じた欠陥を含む xz 断面を,y 軸方向から 20[nm] の位置で見たものである.曲線で示しているのが変形を 起こしている面であり,変形の始まり時には [¯110]面に近いが,徐々に [¯1¯12]面にシフ トしている様子がわかる.結晶学的には,双晶変形が起こる面は [¯1¯12]面であるが,モ デルの刃状転位のすべり面が [¯110]面となっているゆえに [¯110]面から徐々に [¯1¯12]面に シフトするような双晶変形を生じていると考えられる.したがって,刃状転位の通過 によって後方に生じた欠陥はやはり双晶変形によるものである.

(25)

Shear strain, rzy Sh ea r st re ss, σzy , GP a 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0 2 4 6 8

Fig.4.5 Stress-strain curves (edge dislocation,Lx=5.6[nm],Lbix=1.14[nm],

(26)

Lx=5.60[nm] Lbix=1.14[nm] Lx=11.2[nm] Lbix=1.14[nm] Lx=11.2[nm] Lbix=2.29[nm] Lx=11.2[nm] Lbix=3.43[nm] Lx=22.4[nm] Lbix=1.14[nm] Lx=22.4[nm] Lbix=2.29[nm] Lx=22.4[nm] Lbix=3.43[nm]

(27)

γzy=0 γzy=0.04 γzy=0.09

Fig.4.7 Side view of bixbyte during the passage of edge

dislocation(Lbix=2.29[nm],Lx=11.2[nm],Morse potential)

z

[110]

x

[112]

twin plane

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5

結 言

bixbyte型酸化物とらせん転位または刃状転位を導入した bcc-Fe に対し,せん断を 与え転位を酸化物に酸化物に接近させるシミュレーションをを Johnson ポテンシャ ルと Morse ポテンシャルの 2 つのポテンシャルで行った.bixbyte の大きさは一辺が Lbix=1.19[nm],2.29[nm],3.43[nm] の 3 種類とし,周期セル辺長による転位線張力の 効果について検討した. . らせん転位についての検討では, (1) Johnsonポテンシャルの酸化物では,いずれのシミュレーションにおいても転位 は大きな抵抗を受けずに通過した.転位が動き出すせん断ひずみも系による差は 小さく,遠方の転位に影響を与えていない. (2) 同じポテンシャルで,球体 hcp やボイドとの相互作用では交差すべりによるリン グ状欠陥生成が報告されているが,今回のシミュレーションではそのような欠陥 は生じなかった.これは bixbyte と bcc の界面の整合性がよいためと考えられる. (3) Morseポテンシャルの酸化物では,いずれのシミュレーションでも,転位は γzx=0.06 まで動くことなく,その後に転位芯が拡張し [¯1¯12]面に双晶変形を生じた. . 刃状転位についての検討では, (1) Johnsonポテンシャルで,せん断応力に変化を生じずに転位が接近した.酸化物 が大きいほど転位をピンニングする作用が大きくなり,酸化物の一辺が 2.29[nm] の酸化物を通過した後には刃状転位にはジョグが形成された.酸化物が 3.43[nm] の場合,通過した転位と酸化物の間にループが形成され,そのループは酸化物表 面にトラップされたままとなった. (2) らせん転位の場合とは異なり,刃状転位は Morse ポテンシャルの酸化物でもせん 断応力に変化を生じずに接近した.いずれも酸化物通過後に転位後方に欠陥を形 成し,特に 2.29[nm],3.43[nm] の大きな酸化物では転位と酸化物の間で欠陥が拡

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大した.欠陥断面の観察により,この欠陥は双晶変形が [¯110]面から [¯1¯12]面にシ フトしていくことでもたらされていることを明らかにした.

(30)

参 考 文 献

(1) Derek O. Northwood,Materials& Design, Vol 6, issue 2(1985) 58-70

(2) D.K. Mukhopadhyay, F.H. Froes, D.S. Gelles, Journal of Nuclear Materials, 258-263 (1998), 1209-1215.

(3) P. Pareige, M.K. Miller, R.E.Stoller, D.T.Hoelzer, E.Cadel, B.Radigueta, Jour-nal of Nuclear Materials, 360 (2007), 136-142.

(4) M.K.Miller,D.T. Hoelzer,E.A. Kenik,K.F. Russell Intermetallics,Vol. 13,

issumes3-4 (2005),387-392.

(5) Shigeharu Ukai, Takanari Okuda, Masayuki Fujikawa, Toshimi Kobayashi, Syunji Mizuta and Hideharu Nakashima,Journal of NU- CLEAR SCIENCE and TECH-NOLOGY, Vol. 39, No. 8 (2002),872-879.

(6) K. Yashiro et al.,Mater. Trans., 53(2),pp.401-406 (2012) (7) Morse,P.M., Physical Review, 34 (1929), 57

(8) 北川浩, 渋谷陽二, 北村隆行, 中谷彰宏, 初心者のための分子動力学方, (1997), 養

賢堂.

図 3.5 に Morse ポテンシャルでのせん断応力ーひずみ線図を示す.先の Johnson ポテン シャルの場合と比べ,折れ曲がり点が著しく高ひずみ側にシフトし,いずれも γ zx = 0.06

参照

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