1) 弘前医療福祉大学保健学部医療技術学科 〒0368102 青森県弘前市小比内3181 2) 独立行政法人労働者健康安全機構 秋田労災病院中央リハビリテーション部 〒0185604 秋田県大館市軽井沢字下岱30 連絡先 成田秀美
1. Department of Rehabilitation Sciences, School of Health Sciences, Hirosaki University of Health and Welfare
3181, Sampinai, Hirosakishi, Aomori 0368102 2. Central Department of Rehabilitation, Akita Rosai
Hospital, Japan Organization of Occupational Health and Safety
30, Shimotai, Karuizawa, Odate-shi, Akita 0185604 Corresponding author naritah@jyoto-gakuen.ac.jp
運動熟練者におけるパフォーマンス能力の違いについて
注意の向け先と運動イメージからの検討
成田 秀美1) 鈴木 健一2)
Hidemi Narita1and Kenichi Suzuki2: DiŠerences in performance ability among experienced athletes: A study on focus orientation and motor imagery of movements. Japan J. Phys. Educ. Hlth. Sport Sci. 61: 773780, December, 2016
AbstractFocusing on the eŠects of exercise (external focus) is considered more eŠective for improv-ing motor performance than focusimprov-ing on one's own physical movements(internal focus). Furthermore, it has been conˆrmed that imaging the movement being performed is eŠective for mental training. The purpose of this study was to investigate diŠerences in performance ability among experienced athletes on the basis of their focus orientation and motor imagery of movements, with the aim of using the ˆnd-ings as basic data for sports coaching. The subjects comprised 16 males who had experience playing basketball. Each subject performed 30 free throws. In addition, a questionnaire survey was conducted regarding their focus orientation and motor imagery of movements (movement imagery questionnaire-revised Japanese version). The subjects were divided into a successful group, who achieved above the mean successful free-throw score, and an unsuccessful group, who achieved below the mean score. The results indicated that many subjects in the successful group used external focus, which demonstrated a correlation with the imaging ability of observed movements. These ˆndings suggest that when coaching experienced athletes who are performing poorly, one may consider encouraging them to focus on the eŠects of each movement and motor imagery of observed movements to improve their performance. Key wordsexternal focus, free throw, observational learning
キーワードエクスターナルフォーカス,フリースロー,観察学習
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緒
言
スポーツを行う者にとってパフォーマンスの向 上は大前提である.しかし,同じトレーニングメ ニューを行っている運動熟練者でもパフォーマン ス能力には個人差があり,「上達する人」と「上 達しない人」に分かれてくることが通常である. 何故,そのような個人差が生じるのであろうか, その要因を検討することは指導方法の確立のため に重要と考える.スポーツ選手のトレーニング方 法は身体面に着目したフィジカルトレーニング, リラクゼーションなど多岐にわたるが,近年,精 神面への取り組みとされる注意の向け先からの検 討や運動イメージを利用したメンタルトレーニン グが注目され始めている.運動イメージは脳科学的にも実際のイメージ 想 起 時 の 運 動 領 域 の 関 与 が 証 明 さ れ て お り , Decety (1996), Decety and Ingvar (1990)によ れば,自分がある行為を行っているところを想像 すると,実際の運動をコントロールする脳領域の 活動が高まること,また,多くのスポーツにおい てメンタルトレーニングを行うと実際のパフォー マンスが向上するとしている.運動イメージにつ いて長谷川・星野(2002)は,鮮明性や統御性, およびイメージの見方(体験運動イメージ・観察 運動イメージ)があり,鮮明性については,鮮や かに詳細に描く(想起)ことができることであり, 統御性とはイメージを自由に動かし制御すること と述べている.メンタルトレーニングではイメー ジの見方を方法として取り入れることが多く,体 験運動イメージは一人称(筋感覚,体験),観察 運動イメージは三人称(視覚的)と相対する捉え 方になっており,体験運動イメージが運動領域の 脳活動との関連が支持されている. 注 意 の 向 け 先 か ら の 検 討 に つ い て ウ ル フ (2010)は,運動パフォーマンス時における注意 の向け先の違い,エクスターナルフォーカス(対 象物などの環境に対して自身の運動が与える効果 への注意,ボールの軌跡・器具や装置の操作な ど)やインターナルフォーカス(自分の身体運動, 身体の使い方などへの注意)の学習効果の比較 検討を行っている.Wulf et al. (2004)の実験で は,上肢で棒を水平に保ちながらバランスディス ク上にて立位を維持する課題や,上肢で把持して いる筒の中にあるボールを中心に保ち,立ってい るプラットフォームを水平に維持する課題など, 立位姿勢と対象物を同時に制御する課題を実施 し,結果,棒や筒を水平に保つ対象物の環境に対 して自身の運動が与える効果への注意(エクス ターナルフォーカス)が有意に姿勢を安定させた としている.一方,棒や筒を水平に保つための 手の操作,すなわち自分の身体運動,身体の使い 方などへの注意(インターナルフォーカス)がパ フォーマンスにおいてエクスターナルフォーカス よりも低下することが報告されている.また,注 意の向け先について,片岡ほか(2007)は,視 覚性及び聴覚性掲示による引き算を伴う同時二重 注意要求課題が,立位姿勢調節時における動揺の 制御に対して有効に作用することを報告し,その 理由として立位姿勢制御の自動処理を意識化させ ないような難易度の高い認知課題の有効性を報告 している. 以上のように注意の向け先や運動イメージ,こ の 2 つの概念については有用な報告が多いこと から共通の認知プロセスが想定され,運動熟練者 に対するメンタルトレーニング指導の効果的な方 法が検討できる可能性がある.運動イメージにつ いて Decety and Grezes (1999)は,「与えられた 運動の表象を,一切の運動出力なしで,ワーキン グメモリ内で内的にリハーサルされる時の動的状 態」と定義している.苧阪(2008)は,運動イ メージにはワーキングメモリが必要であり,それ は注意機能が反映されていることが知られてい る.運動イメージは内観的指導が主体であり競技 者および指導者にとって共有しがたくわかりにく い面があるが,注意の向け先からのアプローチは 外環境および身体への注意の向け方の違いとし て,わかりやすいと考えられる. 実際の運動パフォーマンスに対する注意の向け 先および運動イメージの検討は,熟練者と非熟 練 者 の 違 い に つ い て 報 告 さ れ る こ と が 多 い . Beilock and Carr (2001)は,ゴルフの初心者と 熟練者へのインタビューから,パットする際のそ の手順について初心者は詳細に思い出せるが,熟 練者は初心者よりも正しいテクニックについて知 っているのにも関わらず,初心者ほど詳細に答え られなかったとし,初心者は運動を意識的に制御 する身体への注意(インターナルフォーカス)が 優位であり,逆に熟練者は運動の実行に少ししか 注意を向けていない(エクスターナルフォーカ ス)可能性を述べている.運動イメージについて 長谷川・星野(2002)は,運動学習の初期(非 熟練者)では体験運動イメージが有効であると報 告し,さらに,体験運動イメージは,視覚,聴 覚,さらに筋感覚などの運動に伴う種々の感覚が 関与している複合感覚的なイメージとし,フォー ムに伴う力の入れ具合などが関与する体験運動イ
運動熟練者に対する運動パフォーマンスの違い については,特定のスポーツにおいて注意の向け 先から検討している報告がある.Al-Abood et al. (2002)は,熟練バスケットボール選手のフリー スロー動画において,運動フォームを観察(イン ターナルフォーカス)する群と,ボールの軌跡な ど外部環境(エクスターナルフォーカス)を観察 する群をフリースローパフォーマンスのプレおよ びポストテストで比較している.結果,外部環境 の観察群で有意にフリースローが改善し,さらに 観察中の追跡時間が有意に長いことを明らかにし ている.Zachry(2005)は,フリースローにお けるエクスターナルフォーカスとインターナルフ ォーカスにおける注意の向け先の違いを,運動パ フォーマンスの精度と上肢筋の筋電図(EMG) 活動を検討し,エクスターナルフォーカス群でパ フォーマンス精度が高く,また,EMG 活動で上 腕二頭筋および上腕三頭筋の活動が減少,エクス ターナルフォーカスの運動制御における経済的な 筋活動効果を報告している.この 2 つの報告を 運動イメージから解釈すると,Al-Abood et al. (2002)の報告で,運動フォームを観察(インター ナルフォーカス)する群は体験運動イメージ,ま たボールの軌跡など外部環境(エクスターナルフ ォーカス)を観察する群は観察運動イメージを想 起している可能性があり,Zachry(2005)の報 告についても,フリースロー時のエクスターナル フォーカスにおける上腕二頭筋および上腕三頭筋 の経済的な運動制御は,外部環境を注視している ことから観察運動イメージの関与が考えられる. 以上のことから,特定のスポーツ(フリース ロー)における運動熟練者のうち運動パフォーマ ンス能力の違いは熟練者と非熟練者の違いを反映 していること,すなわち,パフォーマンス能力が 高い者はエクスターナルフォーカスの傾向であり 観察運動イメージ能力が高いことが予想される. しかし,運動熟練者に対する同一の運動パフォー ンスの違いについて,注意の向け先および運動イ メージから検討しているものは見当たらない.そ こで本研究では,運動熟練者のうち運動パフォー メージの関わりについてフリースロー技能から検 討し,スポーツ指導に向けた基礎資料とすること を目的とした.
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方
法
対象 対象は25歳から39歳までの社会人バスケット ボールチーム男性選手16名(平均年齢31.9±5.3 歳),いずれもバスケットボール競技歴10年以上 の者とし,整形外科的疾患および体調不良の者は 除外した.なお,倫理的配慮として,事前に本研 究の目的および趣旨を説明し,研究参加への同意 を得た. 測定項目 ◯ フリースロー成功数 環境設定はバスケットボール競技で通常使用さ れるコートやリングを使用した.フリースローラ インからゴールまでの距離は 4.2 m であり,ボー ルは 7 号球を使用した(日本バスケットボール 協会規定に準じた).対象者には 1 人につき30本 のフリースローを投じてもらい,全対象者16名 のシュート成功数で平均値を上回った者を上位 群,下回った者を下位群とした. ◯ フリースロー時における注意の向け先の評 価 フリースロー全試行回数の終了直後に,どこに 意識や注意を向けていたか全員にアンケートを行 った.具体的な質問内容は「フリースロー時にど こに注意を向けましたか 例えば膝,肘,手, 足など自分の身体(からだ)ですか また,リ ン グ , ボ ー ル な ど の 環 境 に 注 意 を 向 け ま し た か」で,自由回答とした.また,1 試行ごとを 回想するのではなく,全試行における意識傾向を 答えてもらうよう促した.回答内容については, 自分の身体に対して注意を向けた場合はインター ナルフォーカスとし,リングやボール,シュート の成功などフリースロー時の周辺環境や運動の効 果以外に注意を向けた場合をエクスターナルフ表 Movement Imagery Questionnaire Revised Japanese Version(JMIQR)体験イメージ教示を一部抜粋 項目◯「スタートポジション足をそろえて立 ち,腕はそのまま横に垂らしておく. 動作右膝をできるだけ高く上げる,その際右脚を 膝のところで曲げて左脚だけで立つ.それか ら右脚を下ろし,また両脚で立つ.これらの 動作をゆっくりと行う.」 課題最初のポジションを思い浮かべてみる.この 動作を実際には行わず,あたかも今やってい るように体験イメージで感じてみる.このイ メージを感じるのが易しかったか,難しかっ たかを評価する.それでは始めてください.」 評 価 基 準 観察イメージ尺度 体験イメージ尺度 1―見るのはとても難しい 1―感じるのはとても難しい 2―見るのは難しい 2―感じるのは難しい 3―見るのはやや難しい 3―感じるのはやや難しい 4―どちらでもない 4―どちらでもない 5―見るのはやや易しい 5―感じるのはやや易しい 6―見るのは易しい 6―感じるのは易しい 7―見るのはとても易しい 7―感じるのはとても易しい 体験イメージと観察イメージを各 4 項目,計 8 項目の動作を実施した. ォーカスとした. ◯ 運動イメージの評価 運動イメージの個人差を測るテストとして, Hall and Marin (1997)が 作成 した Movement Imagery Question- naire-Revised (MIQ-R)があ る.視覚的運動イメージ(観察運動イメージ他 者が運動を行っているのを見ているような)と筋 感覚的イメージ(体験運動イメージあたかも自 分自身が運動を行っているかのような)の両方か ら 評 価 を 行 う こ と が で き , 日 本 語 版 の Move-ment Imagery Questionnaire Revised Japanese Version (JMIQ-R)を採用した(表 1). データ解析 統計処理は統計ソフト SPSS 17.0version を使 用した.フリースロー上位群と下位群における注 意 の 向 け 先 に つ い て は ク ロ ス 集 計 表 を 作 成 し Fisher の直接確率検定を行い,運動イメージ評 価(JMIQ-R)は,対応のない t 検定を行った. 有意水準は 5未満とした.
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結
果
フリースロー成功数と群分け フリースロー成功数については,shapiro-wilk 検定を実施し正規性の確認を行った(P=0.348, 0.05≦P).全対象者16名のフリースロー成功数 で,平均値(17.8±4.2回)を上回った者をフリー スロー上位群(9 名),下回った者をフリースロー 下位群(7 名)とし群分を行った(表 2). フリースロー上位群と下位群における注意 の向け先 注意の向け先については,上位群 9 名のうち インターナルフォーカスが 2 名,エクスターナ ルフォーカスが 7 名であった.下位群 7 名のう ちインターナルフォーカスが 5 名,エクスター ナルフォーカスが 2 名であった.「どこにも注意 を向けていない」と回答した者,また「途中で内 的から外的に注意を切り替えた」など,回答につ いての問い合わせはなかった.フリースロー上位 群と下位群の注意の向け先について Fisher の直 接確率検定を行ったところ有意水準には達しなか ったが,上位群においてエクスターナルフォーカ スが多い傾向が認められた(p=0.072).また, 連関係数は f=0.492 と中等度の関連性が認めら れた(表 3).両群における年齢および経験年数 に有意差は認められなかった(表 4). フリースロー上位群と下位群における運動 イメージ JMIQ-R による運動イメージ評価において,対 応のない t 検定を行ったところ上位群の観察運動 イメージが有意に高かった(p<0.05).体験運動 イメージは両群で有意な差は認められなかった (表 5).上位群(n=9) 被験者 年 齢 経験年数 フリースロー成功数 注意の向け先 Ext or Int A 30 21 24 リング Ext B 31 22 23 リング Ext C 35 26 22 リング Ext D 29 16 21 手首 Int E 32 23 20 肘 Int F 29 20 20 リング Ext G 37 21 19 リング Ext H 25 13 18 リング Ext I 34 10 18 リング Ext 平均±SD 31.3±3.6 19.1±5.1 20.6±2.1 下位群(n=7) 被験者 年 齢 経験年数 フリースロー成功数 注意の向け先 Ext or Int J 35 26 17 膝 Int K 31 22 17 リング Ext L 33 15 17 肘 Int M 28 15 15 膝 Int N 22 12 15 リング Ext O 45 20 10 膝 Int P 35 26 9 手首 Int 平均±SD 31.9±5.3 19.25±5.1 17.8±4.2 Int(インターナルフォーカス) Ext(エクスターナルフォーカス) 表 フリースロー上位群と下位群における注意の向 け先の比較 上位群 (N=9)(N=7)下位群 p 値 エクスターナルフォーカス 7 2 0.072 インターナルフォーカス 2 5 Fisher の直接確率検定(片側検定) 独立性の検定 q 連関係数=0.492( p<0.05) 表 年齢および経験年数における2 群間の比較 上位群 (N=9) (N=7)下位群 自由度 t 値 p 値 年齢 31.3±3.6 32.7±7.1 14 0.51 .619 経験年数 19.1±5.1 19.4±5.6 14 0.47 .907 平均値±標準偏差 p<0.05 対応のないt 検定
表 JMIQR における 2 群間の比較 上位群 (N=9) (N=7)下位群 自由度 t 値 p 値 体験運動 イメージ得点 25.7±2.5 24.1±2.2 14 1.27 .223 観察運動 イメージ得点 24.7±2.5 21.1±2.7 14 2.72 .017 平均値±標準偏差 p<0.05 対応のないt 検定
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考
察
バスケットボール熟練者の「注意の向け 先」について バスケットボール熟練者のうち,フリースロー のパフォーマンス能力が高い者(上位群)は,環 境に対して自身の運動が与える効果への注意,す なわちエクスターナルフォーカスの傾向が認めら れた.この傾向は,上位群と下位群における年齢 および経験年数の要因で説明できないことから, フリースローのパフォーマンス能力差について注 意の向け先の影響から検討できることが示唆され たと考える.運動の学習は,大脳皮質などの上位 中枢に依存したものから下位中枢に依存したもの へと移行し自動化されると考えられ,特に予測的 な姿勢制御との関連が藤原(2008)によって報 告されている.エクスターナルフォーカスの利点 は,前述したウルフ(2010)によって運動制約 仮説から説明されている.運動制約仮説とは,運 動パフォーマンス時に身体に注意を向ける(イン ターナルフォーカス)と効果的かつ効率的な運動 の無意識な“正常”制御過程に意識的に介入する ことになり自動制御過程を妨害,一方,運動の二 次的な効果に注意を向ける(エクスターナルフ ォーカス)と自動的な運動制御が促進され,運動 の効果は無意識的,反射的な過程を最大限に活用 し,その運動制御への動きをより高めるとしてい る.バスケットボールのフリースローの精度につ いて,注意の向け先と EMG の関係を検討した Zachry(2005)は前述の通り,エクスターナル フォーカスでパフォーマンス精度が高く,また, EMG 活動が上腕二頭筋および上腕三頭筋で減少 していることから,エクスターナルフォーカスの 運動制御に対する経済的な筋活動効果を報告して いる.本実験においても上位群は,エクスターナ ルフォーカス(環境に対して自身の運動が与える 効果への注意)に注意を向ける傾向であり,ウル フ(2010),Zachry(2005)の報告を支持する結 果となった.運動パフォーマンスの正確性が高い 者は,自己の身体運動よりも,目標や対象物など の環境や身体運動が与える効果に注意を向けてい ると考えられ,感覚フィードバックに依存しない 運動制御を行っている可能性がある. 一方,下位群では熟練者ではあるが,インター ナルフォーカスの傾向が示された.下位群では, フリースローの精度を上げるために自己身体の使 い方(フォーム)に注意を向けており,感覚フィー ドバックを多く利用していることが考えられる. このことは,前述したウルフ(2010)の「運動 を制御しようと試みることで,効果的かつ効率的 な運動の無意識な“正常”制御過程に意識的に介 入し,自動制御過程を妨害している」とする状況 と考えられる.すなわち,パフォーマンス時に先 行する姿勢制御の自動化が妨げられて,フリース ロー時の運動制御に影響を与えている可能性があ る. バスケットボール熟練者の「運動イメー ジ」について 体験運動イメージは,一人称運動イメージとも 言われ,自分が実際に行っているイメージであ り,上位群・下位群でイメージ能力に差はなかっ た.一方,観察運動イメージは,三人称運動イ メージとされ,第三者的に運動を観察する能力の ことであり,上位群が有意に高い結果となった. 西田(1982)は,過去にゴルフ経験のない初心 者(実験群)にイメージトレーニングを 3 週間 行い統制群と比較検討している.結果,統制群で は観察運動イメージが,実験群では体験運動イ メージが強化され,実験群で運動パフォーマンス 向上を確認している.初心者におけるパフォーマ ンス向上には体験運動イメージ(一人称運動イ メージ)が関与しているようである.本実験にお体験運動イメージに差がなかったことは,熟練者 においてはフリースローのパフォーマンスには体 験運動イメージ能力の関与が低いと考えられる. 一方,観察運動イメージは上位群が高く熟練者 のフリースローパフォーマンスには三人称運動イ メージ能力が影響している可能性がある.冒頭で 述べた Al-Abood et al.(2002)は,フリースロー 良好者は不良者と比べて,外部観察の追跡時間の 有意な延長を報告しているが,本実験ではその内 容を支持する結果であった.運動イメージの脳科 学領域について Ruby(2001)は,脳イメージン グ研究により,一人称運動イメージの運動実行領 域の活動を確認し,三人称運動イメージは,右脳 や上頭頂葉などの視空間領域の関与を報告してい る.また,Fery(2003)は,新しい運動の学習 段階においては,視覚的運動イメージが「運動フ ォーム」を強調するような課題において好ましい ことを報告している.つまり,学習の初期段階や 本実験のようなフリースロー時の姿勢を安定させ る課題においては,視空間的な運動協調が要求さ れるため,筋感覚運動イメージよりも視覚的運動 イメージの関与が大きいと考えられる.体験運動 イメージは大脳皮質レベルの運動領域が関与して いる報告がほとんどであるが,それはイメージを している時,すなわち意識に上った場合である が,熟練者はむしろ技能の自動化が促進されてい ると考えられる.Kawato et al. (1987)は内部モ デルについて,運動のはじめは,感覚フィードバ ックに頼ってぎこちない運動をしているが,フ ィードバック制御システムの出力を「誤差信号」 としてトレーングし繰り返し練習することで,内 部モデルは,意図した動作からそれを実現するた めの運動司令への変換ができるようになり,感覚 フィードバックに依存しなくても,速くて正確な 制御ができるようになると述べている.このこと から熟練者の中でも成功数の高い者は運動技能に おいて意識にのぼらない運動制御を行っている可 能性があり,体験運動イメージよりも観察運動イ メージが関与していたと考えられる.以上のこと から,上位群では観察学習能力および視空間的な 高い選手と比較し修正している可能性がある. 競技実施者および指導者に対する本研究の 有用性について 運動イメージは内観であり,競技者と指導者で 共有することができない.本研究では脳科学的視 点で運動イメージの有用性,また,注意の向け先 の再現性によるわかりやすさの両面を取り入れる ことの可能性を検討した.結果,外的注意と観察 運動イメージの傾向が示唆されたことから,運動 熟練者のパフォーマンス低迷者および技能の高い 者に指導する場合,運動パターン(手首の運動な ど)ではなく,バスケットゴールのリムなどに注 意を向けること,モデルやビデオなどの観察学習 時においてはモデルがどのようにシュートするか 注意するよう説明する必要があると考える.
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結
論
本研究では,バスケットボール熟練者のうちフ リースローの成功率が高い者では,エクスターナ ルフォーカスとされる注意の向け方,また観察運 動イメージ能力が高い傾向が示唆された.運動熟 練者でパフォーマンスが良好な者において,ま た,運動熟練者のうちパフォーマンス低迷者に対 する指導方法として,エクスターナルフォーカス による注意の向け先(環境に対して自身の運動が 与える効果への注意),および体験運動イメージ (自分が行っている感覚)よりも他者のやってい る行為を観察することを強調した観察学習に加 え,視空間認識を鍛えるエクササイズ介入が貢献 できるかもしれない. 本研究の実験データについては,Fisher 正確 確率検定で有意傾向であることから,今後データ を重ねることが必要であり,さらにはバスケット ボール熟練者のフリースロー下位群とバスケット ボール非熟練者(初心者)における注意の向け先 と運動イメージの関係を調査することで,パフ ォーマンスの低迷に対するインターナルフォーカ スおよび体験運動イメージの関与がわかり,熟練者および非熟練者における運動パフォーマンス能 力の違いについて指導方法の一貫性が得られ,一 層本研究の妥当性が高まる可能性がある.本研究 の結果は,特定の運動課題のため現段階の一般化 は慎重に対応するべきと考える. 文 献
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