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第 1 話行動とは さん これから行動を分析するためのレッスンを始めます まずは 行動 とは何ですか? 唐突ですね 歩いたり 走ったりジャンプする 動いている様子の事です そうですね その通りです ただ応用行動分析学の中では 実は 地蔵さん には出来ないことを行動と言う と考えます 随分 おもしろい

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Academic year: 2021

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2 ヒロシ先生 「さくらさん、これから行動を分析するためのレッスンを始めます。まずは、 『行動』とは何ですか?」 さくら 「唐突ですね。歩いたり、走ったりジャンプする。動いている様子の事です」 ヒロシ先生 「そうですね。その通りです。ただ応用行動分析学の中では、実は『地蔵さん には出来ないことを行動と言う』と考えます」 さくら 「随分、おもしろい考え方ですね! お地蔵さんに出来るか、出来ないかで行動と して取り扱えるか、取り扱えないかが決まると言う事ですか?」 ヒロシ先生 「その通りです。早速、いくつか問題を出すので解いてみてください」 第1 話 行動とは

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3 さくら 「『車に轢かれる』・・・、そういえば昨日、事故で車にお地蔵さん轢かれてい ました。かわいそうに首が転がっていたわ。と言う事は、『車に轢かれる』は、 お地蔵さんにもできるってことですよね。だから、行動とは言えないってこ とですか?」 ヒロシ先生 「素晴らしいですね、さくらさん。その調子で、続けましょう」 さくら 「『ご飯を食べる』は、これは行動です。お地蔵さんは、お供え物のご飯食べら れないですもん」 ヒロシ先生 「いいですね。コツをつかんだようですね」 さくら 「『勉強しない』は・・・お地蔵さんにもできます。だから『勉強しない』は、 行動ではない・・・でも、なんか変です。もし、これが『勉強する』だった ら、お地蔵さんにはできません。そうすると、これは行動になるし・・・」 ヒロシ先生 「さくらさんが言う通り、『勉強する』だと、これは行動になります。でも『勉 強しない』だと、これは行動ではありません。つまり、行動の記述が『お地 蔵さんにはできない』ものになっているかが問題になっているのです」 さくら 「子どもが『勉強しない』ことを、なんとか変えたいと考える学校の先生もい 練 習 1 問題 1) 車に轢かれる 2) ご飯を食べる 3) 勉強をしない

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4 ます。こういう時にはどうしたらいいんですか?」 ヒロシ先生 「その場合は、『勉強すると言う行動が、現在生じていない』と記述をします」 「お地蔵さんテスト」(つまり行動とは言いにくい)、 1)「~される」という“受け身”で記述されていないか。 2)「~しない」という“否定”で記述されていないか。

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5

あなたが、これから分析したい行動を一つだけ、記述してみましょう。

その行動を「お地蔵さんテスト」してみましょう。

もし、「お地蔵さんにもできる」記述になっている場合は、修正しましょう。 実 践 1

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6 さくら 「タロウさんの行動で私が気になっているのは、集団活動中にフラフラした り、迷惑行為をしたりすることです・・・」 ヒロシ先生 「・・・・私には、さくらさんがどんな行動に困っているのか、さっぱりわか らないのですが?」 さくら 「先生、私の話、聞いてました? ちゃんとお地蔵テストしましたよ。『フラフラ する』もお地蔵さんには出来ないし、『迷惑行為をする』なんて昔話に出てく るお地蔵さんだってできないことですよ。先生の言う通り完璧に地蔵テスト は通過しています!」 ヒロシ先生 「確かに、お地蔵テストは完璧ですね。私が分かっていなかっただけですね。 フラフラするは・・・ダンスでもするのですかね。迷惑行為は、布団叩きで 布団を叩きながら大声で怒鳴っているとか・・・」 さくら 「違います!もう、真面目に聞いてください。フラフラするは、部屋から出て行 くです。そして、迷惑行為は制作活動になると大声で叫ぶです」 ヒロシ先生 「はじめから、そう言ってください。曖昧な表現は、誤解を生みます。さくら さんの仕事のパートナーにだって、誤解する人がいるかもしれませんよ。誰 にでも誤解のない表現にすれば問題にはならないのです」 さくら 「以後、気をつけます。特に先生と話すときは!」 2 話 誤解のない表現にしよう

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一人で支援や指導をするときには必要のない事でも、パートナーがいる場合 には「行動」の解釈に誤解を生まないようにしなければなりません。「曖昧」

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8 次の下線部分を、行動として記述しました。これでは何のことを示しているの か分かりません。書き直してみましょう。 1)ちょっかいを出します 2)パニック行動をします 練 習 2 1)サキさんは、集会の時間になると、周囲にいる友達にちょっかいを出します。 ちょっかいを出された友達は、「サキさん、髪を引っ張るのやめてよ!」と口々 に文句を言います。 2)サキさんは、思うようにならない事があると、パニック行動をします。あま りに混乱したときは、普段よりもさらに強く机を叩きます。

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9 【練習1】であなたが記述した行動は、誤解を生まないような具体的な記述に なっていますか? まずは【練習1】で記述した行動をもう一度記述してみましょう。 上の記述は、誰もが誤解を生まない具体的な記述になっていますか。周囲の 人に読んでもらいましょう。もし誤解を生むような記述になっている場合は、 修正してみましょう。 実 践 2

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10 さくら 「ヒロシ先生、タロウさんの大声で叫ぶ行動のことなんですけど・・・」 ヒロシ先生 「どうして、タロウさんは大きな声で叫んでいるのでしょう?」 さくら 「う~ん??・・・制作が嫌なんですかね・・・それとも、ストレス発散で大きな 声をだしてるのかな・・・他にはなんだか急に叫びたくなったとか・・・」 ヒロシ先生 「さくらさん、随分といろんな理由を考えましたね・・・本人の気持ちになっ ていろいろと考えてみることは大事ですね。でも、残念ながら本当のところ、 タロウさんの気持ちはわからない」 さくら 「そうなんですよ・・・それがわかれば、何か対応も考えられるのですが・・・」 ヒロシ先生 「わかりました。それでは、タロウさんの大声で叫ぶ行動の理由を明らかにし てみましょう。まず、人の様々な行動を考える時には、行動を中心に、その 前後の様子を書き出してみます」 タロウさんは制作をする場面で、大声で叫ぶことが続いています。制作の工 程は予め図で伝えていますが、大抵は一つの作業が終わると手を止めて、そし て大声で叫び出します。 あまりに大きな声で叫ぶので、サクラさんはタロウさんの元へ駆け寄り、「シ ーっ」と大声を出さないよう注意します。そして「次は~するんでしょ」と声 をかけるようにしています。声をかけると、タロウさんは、その後はさくらさ んの指示に従って活動をします。 第3 話 行動の理由を探ろう

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11 さくら 「こうですか?」 ヒロシ先生 「じょうずに整理できていますね。特に、行動の直近で起こった「前」と「後」 の様子が書かれているところが素晴らしい」 さくら 「それで、ヒロシ先生。なぜ、これでタロウさんが大きな声で叫ぶのかわかる のですか・・・整理しても、私にはさっぱり彼の心の中を正確に推測はでき ません」 ヒロシ先生 「推測はしなくて結構です。その代わり、「行動の後」のところには何と記述さ れていますか?」 さくら先生 「えっと・・・『私が駆け寄り、次の作業を伝える』・・・・あっ、タロウさん が大声で叫ぶのは、私が駆け寄り、次の作業を教えているから・・・と言う ことですか?」 ヒロシ先生 「そのとおりです。実は、行動の後に記述したその内容こそが、その行動を起 こした理由になります」 行動の前 「一つの作業工 程を終えると」 行動 「大声で叫ぶ」 行動の後 「わたしが駆け 寄り、次の作業を 伝える」

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12 【行動の理由を探るには】 「行動」を中心にして、「行動の前」と「行動の後」を記述して整理しま す。「行動の前」と「行動の後」の様子は、出来る限り「行動」が起きた 時から、近い時の様子を記述した方がよいでしょう。 そして「行動の後」の様子の記述の中に、その行動を起こした理由が隠 れています。 ただし、行動が起こってしまったとき、その「行動の前」の状況を見て いなければその様子は書けません。その場合は、無理に書き出す必要はあ りません。

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13 サキさんの行動の理由について、説明してみましょう。

行動の理由は

練 習 3 サキさんは、独りで作業する時間が長くなると、頻繁に立ち歩きを行います。 作業時間が30 分を超えると大抵は立歩きます。 サキさんが立ち歩くと、さくらさんは「サキさん、椅子にすわってください」 と自分の席に戻るように言います。サキさんはすぐに椅子に座りますが、3 分 も続かずにまた立歩きます。立ち上がるたびにさくらさんは「サキさん、椅子 にすわってください」と言い続けています。不思議な事に、サキさんは、さく らさんが近くにいないときには、この行動をしません。 行動の前 行動 行動の後

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14 1)あなたが解決したい・改善したいお子さんや利用者さんの行動について整理し てみましょう。

( )

さんの

(

行動:

)

について 注意 「行動」に記述された内容は、第一話、第二話で練習、実践したポイン トの通り書かれていますか? 書かれていなければ赤色のペンで横に書き直すこと! 2)以下に、「行動」の前後の様子について整理して記述しましょう。特に、「行動 の後」の様子については、あなたやその周辺の人達(他の子ども達や利用者さん) が、具体的に何をした、あるいはしてあげたのかについて整理して記述すると よいでしょう。 3)「行動の後」の様子から、行動の理由を整理して記述しましょう。 実 践 3 行動の前 行動 行動の後

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15 さくら 「タロウさんが制作の時に『大きな声で叫ぶ』のは、『私が駆け寄り次の作業を 伝えるから』ということはわかりました。それでは、次に私はどうすればよ いのでしょう?」 ヒロシ先生 「一つ、教えて欲しいのですが、タロウさんは、制作の時に頻繁にその行動を 起こしていると言うのは確かですか? 」 さくら 「・・・えっと・・・制作以外の時のことは、なんとも言えないんですけど・・・ でも、制作のときに多いと思います・・・」 ヒロシ先生 「なんとも歯切れが悪いですね。さくらさんの感覚はともかくとして、実際の ところどうなのかを明らかにしなければ、対応の戦略を練る事ができません。 やはり記録が必要です。」 さくら 「タロウさんの様子については、丁寧に日誌に書いています。それじゃダメで すか?」 ヒロシ先生 「ダメではありませんが、実態を客観的に把握できる記録があるとよいですね。 次のページの表を見てください。これは、30 分の間に一度でもその行動が起 きたら、一つチェックを入れると言う記録法です」 さくら 「これを見ると、行動が生起している時間帯、生起していない時間帯がよくわ かりますね。私の感覚では、制作の時だけよく起こしているという感覚でし た・・・。そうだ、これを日課表と合わせてみたら、どんな活動時間に『大 きな声で叫ぶ』行動が起こっているか分かるかもしれませんね」 第4 話 記録をとろう 1

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16 ヒロシ先生 「それはとてもよいアイデアです。並べてみることで、活動の内容や時間など がよくわかります。日誌も合わせて照合してみると、他にもいろいろな事が わかるかもしれませんね。さっそく調べてみましょう」 【記録の重要性】 日誌などの記録も大事なのですが、客観的に記録をすることも重要で す。信じられないかもしれませんが、実際に記録をとるまで、特定の行動 が、特定の場面や時間に起こっていたことに気づいていないことがほとん どです。中には、行動が消失していたことに気づいていなかったこともあ ります。 記録をとってはじめて、その行動が起きている場面が絞られ、その後の対 応策もたてることが出来るのです。

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17 「大声で叫ぶ」行動は、どんな活動をしている時によく出ていますか? また、どんな活動をしている時にあまり出ないのでしょうか? 曜日 時間 火 10 日 水 11 日 木 12 日 金 13 日 月 16 日 火 17 日 水 18 日 木 19 日 金 20 日 9:00 9:30 ✔ 10:00 ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ 10:30 ✔ 11:00 ✔ ✔ 11:30 ✔ 12:00 ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ 日課表 曜日 時間 火 10 日 水 11 日 木 12 日 金 13 日 月 16 日 火 17 日 水 18 日 木 19 日 金 20 日 9:00 朝会 朝会 朝会 朝会 朝会 朝会 朝会 朝会 朝会 9:30 外出 作業 作業 作業 作業 外出 作業 作業 作業 10:00 外出 作業 作業 作業 作業 外出 作業 作業 作業 10:30 休憩 休憩 休憩 休憩 休憩 休憩 休憩 休憩 休憩 11:00 個別 指導 個別 指導 個別 指導 自由 時間 個別 指導 個別 指導 個別 指導 個別 指導 自由 時間 11:30 食事の 準備 食事の 準備 食事の 準備 食事の 準備 食事の 準備 食事の 準備 食事の 準備 食事の 準備 食事の 準備 12:00 食事 食事 食事 食事 食事 食事 食事 食事 食事

( )活動のときに、よくしている。

( )活動の時には、あまりしない。

練 習 4

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18 【記録をする】 実践3 で記述した「行動」について、巻末の「行動観察シート」を使って、 実際に記録してみましょう。 記録は、「傾向」がつかめるまで採る方が好ましいです。また、記録を採って いる期間は、特に新しい取り組みを始めず、これまで通りの関わり方で実態を 把握しましょう。 【全体像をつかむ】 「行動観察シート」と日課表を照合してみよう。 その行動は、どんな活動の時によくしているか、また、どんな活動のときに はあまりしていないのかを整理しましょう。 また全体的な傾向を見て、起きやすい曜日がないか、週明け、週末に集中し ているなど、何か発見できる傾向はないか見てみよう。 気づいた事をまとめて、下の欄に書き出してみよう。 実 践 4

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19 ヒロシ先生 「これで、行動の全体像は把握できましたね」 さくら 「はい。でも、先生。『作業』の時の『大声で叫ぶ』と、『食事』の時の『大声 で叫ぶ』は果たして、同じ理由で起きている行動でしょうか。どちらも『大 声で叫ぶ』ですけれど、行動の後の事象は異なっていると思うんですけど・・・」 ヒロシ先生 「それでは、『大声で叫ぶ』行動が頻繁に生起していた『作業』の時と、『食事』 の時の記録を少し丁寧に記述してみましょう。第3 話(p11 )で、行動とその前 後の様子を整理する方法を学びました。以下に行動の前後を記録する『行動 整理シート』があります。ここでは『行動の後の事象が起こった後に、その 行動はどうなったのか』まで書かれているとよいかと思います。」 時間 行動の前の事象 行動 行動の後事象 10:00 作業がはじまっても何も せずにすわっており、誰も 関わっていない時。 大声を出す 何も対応せず、しばらく 放っておいた。 10:05 作業をせずに座ったまま こちらを見ながら・・・ 大声を出し続けている 近寄って、何の作業をす るのか伝えた。すると大 声を出す事をやめて、作 業に取りかかった。 12:05 食事は配膳されているが 手を付けずに、こちらを見 ている。 大声を出す 他の支援を必要としてい る人に関わっていた、対 応できなかった。 12:10 食事は配膳されているが 手を付けずに、こちらを見 ている。 大声を出し続けている 近寄って、「どうぞ召し 上がれ」と伝えると、大 声を出す事をやめて、食 べ始めた。 第5 話 記録をとろう 2

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20 さくら 「放っておくと、しばらく大声を出している。そして『作業の内容を言っても らう』『どうぞ召し上がれと言ってもらう』と、大声は出さなくなり次の活 動へ向かっていますね」 【仕事の効率を考える】 第4 話の中で使用した記録法で、行動の起こりやすい時間や活動が明ら かになってきたら、その時間や活動の様子を集中的に観察します。1 人で は難しい時は、この時間や活動の時だけヘルプを頼むことをお勧めしま す。 いつ起こるかわからない中で観察のヘルプを頼むことは、効率の点から 言ってもあまり感心できませんが、ある程度の確率で起こる場面が特定で きていれば、効率的です。 これで行動の理由まで特定できるのであれば、長期的にみれば少ない負 担で大きな成果をあげることが可能となります。

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21 咲さんの事例を読んで、行動観察シートを書き直してみましょう。 サキさんの事例について、丁寧に整理しましょう。特に『行動の後の事象が起 こった後に、その行動はどうなったのか』については、情報を付け加えて以下 のシートに整理し直してみましょう。 時間 事前の事象 行動 事後の事象 練 習 5 サキさんは、独りで作業する時間が長くなると、頻繁に立ち歩きます。 サキさんが立ち歩くと、さくらさんは「サキさん、椅子にすわってください」 と自分の席に戻るように言います。サキさんはすぐに椅子に座りますが、3 分 も続かずにまた立歩きます。立ち上がる頻度は日に日に増加しています。その たびに、さくらさんは「サキさん、椅子にすわってください」と言い続けてい ます。不思議な事に、サキさんは、さくらさんが近くにいないときには、この 行動をしませんサキさんは、独りで作業する時間が長くなると、頻繁に立ち歩 きを行います。 時間 事前の事象 行動 事後の事象 10:30 独りで作業をしている 立ち歩く サキさん、椅子に座っ てくださいと言う 10:32 作業をせずにいる 立ち歩く サキさん、椅子に座っ てくださいと言う

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22 「行動整理シート」を使って行動の丁寧な整理をしてみましょう。ただし、一 日中記録する事は大変です。まずは、行動観察シートで概要をおさえ、ある程 度行動が集中的におきている時間帯や、活動を中心に整理してみましょう。 時間 どんな時に 行動 どう対処したか 利用者はどうなったか 実 践 5

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23 ヒロシ先生 「行動観察シートを使って、行動の概要を把握する事は出来ましたね」 さくら 「はい。概要の把握は出来ました。外出中には見られない事や、逆に昼食時に は欠かさず生起していた事など、よく分かりました。また、どちらも私がタ ロウさんに個別に関わらないことで起こっているという仮説もたてられまし た」 ヒロシ先生 「素晴らしいですね。それでは、今度はその記録をグラフにしてみましょう」 さくら 「グラフ!? どうしてグラフにするんですか?」 ヒロシ先生 「グラフ化してあると、実際に指導なり支援なりが有効であったか検証ができ るからです」 さくら先生 「どうやって作ればいいですか?」 ヒロシ先生 「行動観察シートの各日ごとの頻度の合計の値のところに点を打てばよいので す」 1 2 2 4 3 1 3 2 3 0 1 2 3 4 5 5月10日 11日 12日 13日 16日 17日 18日 19日 20日 タロウさん(大声で叫ぶ) 第6 話 グラフを作ろう

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24 【視覚化する】 グラフにすることで、その行動が安定して維持しているのか、増加して いるのか、あるいは減少傾向にあるのかが見て分かります。 右肩上がりであれば、増加しており、行動は強まっています。右肩下がり であれば減少しており行動は弱まっているといえるでしょう。 中には、乱高下していることもありますが、その状態でも長期の記録を していくと、増加傾向にあるのか、減少傾向にあるのかが分かる場合があ ります。 いずれにしても緊急性を伴う場合を除いて、グラフの傾向が把握できる までは、引き続き記録を続けることをお勧めします。

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25 次の行動観察シートは、サキさんが「友達の髪を触る」行動の様子を示したものです。こ の行動観察シートをもとに、グラフを作成しましょう。 <観察する行動> 友達の髪を触る 曜日 時間 火 5 月 27 日 水 28 日 木 29 日 金 30 日 月 6 月 2 日 火 3 日 水 4 日 木 5 日 金 6 日 8 時 ✔ ✔ ✔ ✔ 9 時 ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ 10 時 ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ 11 時 ✔ ✔ 12 時 ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ 0 1 2 3 4 5 5月27日 5月28日 5月29日 5月30日 6月2日 6月3日 6月4日 6月5日 6月6日 練 習 6

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26 あなたの記録した「行動観察シート」をもとに、グラフを作ってみましょ 年 月 日 対象者: 観察者: 実 践 6

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27 さくら 「タロウさんが制作の時間や、給食の時間に『大声で叫ぶ』行動を強めていた のは、『私が駆け寄り次の指示をだしたり』『どうぞ召し上がれと言う』から でした。しかも、その行動の前は、制作や食事のときに、私が何も関わらず にいた時に起きていました」 ヒロシ先生 「タロウさんにとって、『さくらさんに来てもらって、何をするのか指示をくれ る、あるいは食べてよいかの承認がもらえる』から、その行動をしていたの ですね。このように、行動を強くしている、「行動の後の事象」を『強化事象』 と言います」 さくら 「『強化事象』ですか・・・。私が駆け寄って指示を出したり、承認することで 行動が強くなる。あれ、でもこの前、他の班で『時間内に10 個の作業が終わ らなかった人は、居残り』にするようにしていたら、みんな作業が早くなり、 誰も居残りをせずに作業をするようになりました。これ、作業をすると言う 行動が強くなっていますよね。となると『作業をする』行動の後の事象の『居 残りをしなくてすむ』は強化事象ですか?」 ヒロシ先生 「その通りです。行動が強まる理由は、『行動の後の事象が自分に加わるから』 か、もしくはその行動を起こすと『行動の後の事象が起こらないから』のい ずれかなのです。そして、どちらも強化事象です。 ちなみに『加わる(足し算の正とイメージしてみましょう)』強化事象を、正の 強化と言います。また『起こらない(引き算の負とイメージしてみましょう)』 強化事象を負の強化と言います。」 7 話 行動を強くしている理由を探ろう 1

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28 大きな声で叫 ぶ さくらさんが駆け寄る (タロウさんに加わる。す なわち足し算。これを正の 強化事象と言う) 作業の時 たくさん作る 居残り作業をしなくてす む(タロウさんに起こらな い。すなわち引き算。これ を負の強化事象と言う) 作業の時 【強化事象の考え方】 行動が増えている、あるいは高い水準で維持していれば、その行動の後の 事象は、その行動を起こしている人にとっては、「正の強化」であろうと「負 の強化」であろうと、望んでいた結果になっています。 その行動を起こせば、何かが得られたり、嫌な事がなくなると言う明確 な理由があるのです。 この、いずれか一方が行動の理由なのです。

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29 サキさんの事例を読んで、以下の問いに答えましょう。 さくらさんは、下の図の様にサキさんの「立ち歩く」と言う行動を整理しまし た。 問い1 「立ち歩く行動」の強化事象は、何ですか? 問い2 その強化事象は、サキさんに『加わる』、あるいは『起こらない』のど ちらですか? 問い3 その強化事象は、「正の強化」ですか、「負の強化」ですか? 練 習 7 立ち歩く さくらさんが、サキさん椅子に座ってくださいと言う。 作業時間が 長引くと サキさんは、独りで作業する時間が長くなると、頻繁に立ち歩きます。 サキさんが立ち歩くと、さくらさんは「サキさん、椅子にすわってください」 と自分の席に戻るように言います。サキさんはすぐに椅子に座りますが、3 分 も続かずにまた立歩きます。立ち上がる頻度は日に日に増加しています。その たびに、さくらさんは「サキさん、椅子にすわってください」と言い続けてい ます。不思議な事に、サキさんは、さくらさんが近くにいないときには、この 行動をしません。

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30 「行動の整理の仕方について学びます(p 14)で、整理したものを下記に写してみ ます。 問い1 その行動の強化事象は、何ですか? 問い2 その強化事象は、行動を起こしている人に「加わっています」か、それ とも「起こらない」ですか? 問い3 その強化事象は、「正の強化」ですか、「負の強化」ですか? 実 践 7 行動の前の事象 行動 行動の後の事象

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31 さくら 「先生、『正の強化』『負の強化』というのは、分かりました。でも、行動の後 に『加わるか』『起こらないか』なんて、いちいち分けて考える必要があるの ですか?現場は結構忙しいのですよ」 ヒロシ先生 「う〜ん確かに、そうかも知れませんね。でも、これが理解できるともっと人 の行動が理解できます。正の強化は、行動を起こした当人にとっては、なに かが加わっています。つまり、何かを要求しているのです。そして、その要 求している『モノやことば』『活動』『人の注目・関わり』あるいは『好きな 感覚』が得られるまで、その行動を続けていると考えられます。」 さくら 「・・・・ということは負の強化は、何かが自分に『起こらない』ようにする ためにしている行動だから、『モノやことば』『活動』『人の関わり』『嫌いな 感覚』から逃げたり、遠ざけられるまでその行動を続けていると言う事です か」 ヒロシ先生 「その通りです。つまり、逃避や回避の手段として起こしている行動となりま す」 さくら 「そっか。『正の強化』か『負の強化』かがわかれば、後は具体的にどんなモノ やことば、活動、人を要求しているか、あるいは逃避・回避しようとしてい るのか特定すればいいのか。そうすれば、さらに行動の理由を詳しく説明で きるのか!」 ヒロシ先生 「そうです。モノ、活動、人を具体的に特定できれば、ここから具体的な戦略 をたてられます」 8 話 行動を強くしている理由を探ろう 2

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32 【得る、除去する】 正の強化、すなわち「要求」ならば、「モノや活動の要求」「特定の人の注 目、関わり要求」「好きな感覚要求」のいずれかになります。 負の強化、すなわち「逃避、回避」であれば「モノや活動からの逃避、回 避」「特定の人からの逃避、回避」「嫌いな感覚からの逃避、回避」のいず れかです。 人の行動は、この6 つに分類することが可能です。

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33 問い 1 椅子から立ち上がる頻度は、強くなっています。そして「サキさん、 椅子に座ってください」は、サキさんに『加わっています』。つまり「サキさん、 椅子に座ってください」と言うことは、サキさんにとって正の強化です。サキ さんは、『モノやことば』『活動』『人の注目・関わり』『好きな感覚』のどれを 要求しているのでしょうか? 問い2 サキさんが、課題を毎日するようになったのはなぜですか? 『強化事象は何か』『それは正の強化か、それとも負の強化か』『要求、あるい は逃避・回避しているのであれば、具体的なモノやことば、活動、人、感覚の いずれか』というポイントを一つずつ整理して、説明しなさい。 サキさんは、家庭ではいつものんびり過ごしています。いつものことですがテ レビを見始めたり、ゲームを始めると時間を忘れて没頭してしまいます。そう なると毎日やらなければならない課題は手つかずになり、それをやらずに次の 日を迎えることも一度や二度ではありません。 そんなサキさんに耐え続けていた母の堪忍袋の緒が昨日ついに切れました。一 度、母のお説教が始まると長く苦しい時間が始まります。今日も、ついテレビ を見ていて課題をしていなかったところ、また母のお説教が始まりました。そ して 3 日目。サキさんは、今日は課題をしました。母の説教はありませんで した。それからと言うもの、サキさんは毎日課題をするようになりました。 サキさんは、独りで作業する時間が長くなると、頻繁に立ち歩きます。 サキさんが立ち歩くと、さくらさんは「サキさん、椅子にすわってください」 と自分の席に戻るように言います。サキさんはすぐに椅子に座りますが、3 分 も続かずにまた立歩きます。立ち上がる頻度は日に日に増加しています。その たびに、さくらさんは「サキさん、椅子にすわってください」と言い続けてい ます。不思議な事に、サキさんは、さくらさんが近くにいないときには、この 行動をしません。

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34 実践 3 で整理した行動( )について以下の手順で整 理せよ。 『強化事象を具体的に記述せよ』 『それは正の強化、負の強化のいずれで維持しているか』 『正の強化』で維持しているのであれば、『モノやことば』『活動』『人の注目・ 関わり』『好きな感覚』のいずれを要求しているのか、あるいは『負の強化』で 維持しているのであれば『モノやことば』『活動』『人の関わり』『嫌いな感覚』 のいずれから逃避・回避しているのかを明らかにせよ。 上記で整理した内容をもとに、その行動が生起している理由を具体的に説明し てみよう。 実 践 8

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35 さくら 「タロウさんの『大声で叫ぶ』行動の起きる理由がこれで整理できましたね」 ヒロシ先生 「さぁ、戦略を立てましょう。まず、『駆け寄り次の指示をだしてもらう』ため に『大声で叫ぶ』と言う行動について考えましょう。 これは正の強化で維持している。つまり要求をしていました。この場合は、 形のあるモノではありませんが『指示をもらう』ために起こしている行動で した。そして、さくらさんはこの要求に、応じていました。行動はどんどん と強まっていきました」 さくら 「・・・はい、おそらくそうなります。面目ないです」 ヒロシ先生 「気づく事が大切です。そして大切な事は、これからどうして行くかです。そ れでは下の図に書き込みながら戦略をたてようと思います。 が、その前に一つ聞いておきたいことがあります。タロウさんにとって、大 声で叫ぶ行動は本当にない方がよいのですか?」 さくら 「・・・そうですね、私たちも困っているので、できれば減って欲しいと思い ます。でも、先生が聞いているのは、タロウさんにとってない方が良いかと いうことですよね・・・」 ヒロシ先生 「とても大切な事です。タロウさんは、さくらさんに何かを伝えたくて起こし ている行動です。それが使えなくなると言う事は、タロウさんからことばを 奪う事にもなります」 9 話 戦略を立てる 1

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36 さくら 「そんなこと考えた事もありませんでした・・・でも、大事な事ですね。タロ ウさんの立場に立って考えてみます。・・・・やっぱり『大きな声で叫ぶ』と、 どうしても周囲にいる人は叱ったり、無視したりとネガティブな対応をして しまうことが多くなります。それはやっぱり彼にとって、つらい事になるの ではと思います」 ヒロシ先生 「わかりました。タロウさんのためにも、この行動は減った方が良いのですね。 それでは下のような図で検討しましょう」 さくら 「先生。こんな図はこれまでなかったですよね。『代わりの行動』ってなんです か」 ヒロシ先生 「さくらさんはタロウさんにとって『大声で叫ぶ』と言う行動はない方がよい と言いました。ですので、これからこの行動を減らすための戦略を立てよう と思います。でも、ただなくしてしまったら、それはタロウさんのことばを 奪う事になります。そこで、『大声で叫ぶ』行動の代わりとなる行動を考えま 現在の行動 大声で叫ぶ 行動の後の事象 さくらさんが次の 活動の指示を出す 行動の前の事象 制作の時間、一人 で作業をしてい る時 代わりの行動

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37 しょう。さくらさんは、タロウさんがどのような伝え方をしていれば、『指示 をだしてもよい』と思いますか?」 さくら 「う〜ん、やっぱり手を挙げてもらうと、きっとどんな人が関わっても気づい てあげられるかなと思います」 ヒロシ先生 「とてもよい考え方です。タロウさんの身になって考える事が一番です。それ では『代わりの行動』は『手を挙げる』にしましょう」 ヒロシ先生 「まだこの代わりの行動は、行動の前の事象、行動の後の事象と何の関係もも っていません。なので、この行動は残念ながらすぐには生起しません。これ から、この行動を行動の前後とつなぐ方法を考えていきます」 現在の行動 大声で叫ぶ 行動の後の事象 さくらさんが次の 活動の指示を出す 行動の前の事象 制作の時間、一人で 作業をしている時 代わりの行動 手を挙げる 【代わりの行動】 「代わりの行動」を考えることが難しいと言う話がよく出ます。その場合 は、子どもや利用者さんに身に着けてほしい行動について検討してくださ い。ただし、身に着けてほしい行動は、現在の発達の状況や活動の実態に あった内容にしてください。現実離れした内容で戦略を立てるとあなたに とっても負担が大きくうまくいきません。

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38 問い1 サキさんの「立ち歩く」と言う行動は、サキさんにとってなくなった方 がよい行動ですか? もしなくなった方がよいとすれば、それはなぜですか。また、なくすことで サキさんの生活は豊かなものになりますか? 問い2 「立ち歩く」行動の代わりとなる行動を検討したいと思います。あなた はサキさんが、どのような伝え方をしていれば、サキさんに『椅子にすわって ください』と言ってもよいと思いますか? 問い3 下の図を完成させましょう。 練 習 9 行動 行動の後の事象 行動の前の事象 代わりの行動 サキさんは、独りで作業する時間が長くなると、頻繁に立ち歩きます。 サキさんが立ち歩くと、さくらさんは「サキさん、椅子にすわってください」 と自分の席に戻るように言います。サキさんはすぐに椅子に座りますが、3 分 も続かずにまた立歩きます。立ち上がる頻度は日に日に増加しています。その たびに、さくらさんは「サキさん、椅子にすわってください」と言い続けてい ます。不思議な事に、サキさんは、さくらさんが近くにいないときには、この 行動をしません。

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39 実践3 で整理した行動( )について考えよう。 問い1 その行動はなくなった方がよい行動ですか? もしなくなった方がよいとすれば、それはなぜですか。また、なくすことで その行動を起こしている人の生活は豊かなものになりますか? 問い2 その行動の代わりとなる行動を検討したいと思います。あなたは、どの ような行動をしていれば、行動の後の事象(強化事象)が提示されても良いと思い ますか? 問い3 下の図を完成させましょう。 実 践 9 行動 行動の後の事象 行動の前の事象 代わりの行動

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40 さくら 「先生、タロウさんが代わりの行動で早く伝えられるようにしましょうよ!」 ヒロシ先生 「わかりました。さくらさん、まずタロウさんの『大声で叫ぶ』と言う行動が 最も起こりやすいのは、どんな状況のときですか?これまで整理してきた、『行 動の前の事象』をもう一度確認してください」 さくら 「えっと『行動の前の事象』は・・・『作業がはじまっても何もせずにすわって いて、そこに誰も関わっていない時』や、『食事は配膳されているが手を付 けずに、こちらを見ている時』です」 ヒロシ先生 「つまり、その状況になったときが『手を挙げる』行動を教えるチャンスです」 さくら 「でも、どうやってですか?」 ヒロシ先生 「行動の前の事象で記述されている条件が揃うと、タロウさんは『大声で叫ぶ』 可能性が高くなります。すなわち制作のときに一人で放っておかれている、 あるいは食事の時間に食べてよい事を承認しなければ、タロウさんはさくら さんに指示や承認を求めるために『大きな声で叫ぶ』はずです」 さくら 「そうか、この『大きな声で叫ぶ』行動が出そうな、ちょっと前の瞬間に『手 を挙げる』ように促せばいいんだ」 ヒロシ先生 「その通りです。そして、さくらさんが『指示を出す』『承認する』と、タロウ さんの要求は、ちゃんと叶えられます。これを繰り返していれば、『手を挙げ 10 話 戦略を立てる 2

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41 る』行動はどんどんと強くなっていくはずです」 さくら 「でも、この指導、私一人では出来ません。それに、タイミングを間違えたら 『大声で叫ぶ』行動が出てしまう事を許しちゃう事もありますよ」 ヒロシ先生 「そうですね。さすがにこれは一人では教えられません。どうしても指導の初 めには誰かに手伝ってもらわなければなりません。それと、時には『大声で 叫ぶ』行動が起きてしまって対応が後手に回ることも否定できません。 でも、そんな事もあると思ってそういう場合は、『手を挙げる』ことを改め て促してください」 さくら 「えっ、いいんですか。そうなると結果的には、『大声で叫ぶ』行動と『手を挙 げる』の両方の行動をするようになりますよね」 ヒロシ先生 「そうなりますね。『手を挙げる』行動が安定して出てくるまでは、それも仕方 ありません。でも、支援や指導をしない中で、ある程度自発的に『手を挙げ る』行動が出てくるようになったら、今度は『大声で叫ぶ』行動をした場合 に、さくらさんは『指示を出す』『承認する』という対応をしないようにしま す。以下の図のようになります」 現在の行動 大声で叫ぶ 行動の後の事象 さくらさんが次の 活動の指示を出す 行動の前の事象 制作の時間、一人 で作業をしてい る時 代わりの行動 手を挙げる

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42 さくら 「そっか!タロウさんからすれば、『大声を出しても指示や承認はもらえない。け れど、手を挙げれば指示や承認がもらえる。だから大声の代わりに手を挙げ れば良い』となるわけか。これならタロウさんのことばを奪う事なしに、『手 を挙げる』行動にすり替えられるのか・・・。これ、すごいですね!!」 ヒロシ先生 「『手を挙げる』行動が安定するまでは、指導のタイミングを間違えて『大声で 叫ぶ』行動が出てしまっても仕方ありません。タロウさんにとって重要なの は、その都度どうすれば良いかを伝えて、それを援助しながらやらせてみて、 『指示』や『承認』と言う要求が叶えばよいのです」 さくら 「なんだか、やれそうな気がしてきました。でも指導ってどうすれば・・・」 ヒロシ先生 「どう指導すればタロウさんは『手を挙げる』行動を起こしやすいと思います か?モデルを示す事ですか。それとも言って聞かせる事ですか。あるいは、実 際に手をとって、手を挙げさせてみるとか・・・」 現在の行動 大声で叫ぶ 行動の後の事象 さくらさんが次の 活動の指示を出す 行動の前の事象 制作の時間、一人 で作業をしてい る時 代わりの行動 手を挙げる

弱くなっていく

強くなっていく

×

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43 さくら 「タロウさんは、ことばだけではなかなか理解が難しいので、初めはサポート してもらう人にお願いして、手をとって、一緒に挙げる方がよいかと思いま す」 ヒロシ先生 「人それぞれどのような指導がよいかは異なります。そして必ず初めは何らか のサポートは必要です。でも、そのサポートは、可能な限り早い段階で、少 しずつ減らしていく事が望ましい。手をとって教えるのであれば、初めは全 部サポートして教えてあげても良いです。でも、少しずつ時間を短くする、 支援のタイミングを遅くする、初めのきっかけのところだけにするなど段階 的に減らすことがよいでしょう」 【サポート】 「行動の前の事象」に関わる「記録」を整理することで、行動の起こりや すい状況や、場面を特定できることがあります。 サポートは、その状況や場面で積極的にサポートをします。ただし、サポ ートの量は徐々に減らして行く事も必要です。

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44 問い1 練習 9 の検討内容を参考に代わりの行動を記入し、下の図全体を完成さ せなさい。 問い2 戦略を具体的にたてよう(どのような時に、誰が、どのような行動を、 どのような方法で指導するのか。指導に必要なサポートは何か。どのような状 態になったら、そのサポートをどのように減らすのか。その際、現在の行動に 対して、どのように対応するのかなど具体的に記述してみよう) サキさんは、独りで作業する時間が長くなると、頻繁に立ち歩きます。 サキさんが立ち歩くと、さくらさんは「サキさん、椅子にすわってください」 と自分の席に戻るように言います。サキさんはすぐに椅子に座りますが、3 分 も続かずにまた立歩きます。立ち上がる頻度は日に日に増加しています。その たびに、さくらさんは「サキさん、椅子にすわってください」と言い続けてい ます。不思議な事に、サキさんは、さくらさんが近くにいないときには、この 行動をしません。 練 習 10 現在の行動 行動の後の事象 行動の前の事象 代わりの行動

×

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45 実践9 で整理した図をもとに、次の図を完成させましょう。 問い2 戦略を具体的にたてよう(どのような時に、誰が、どのような行動を、 どのような方法で指導するのか。指導に必要なサポートは何か。どのような状 態になったら、そのサポートをどのように減らすのか。その際、現在の行動に 対して、どのように対応するのかなど具体的に記述してみよう) 実 践 10 現在の行動 行動の後の事象 行動の前の事象 代わりの行動

×

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46 ヒロシ先生 「さぁ、いよいよ実行です。具体的にたてた戦略に基づきミッションを進めて いきます。ここで注意が必要なことは、人の行動はそれほど急激に変わらな いということです。徐々に改善が見られていたにもかかわらず、感覚的には あまり変化がないように感じ、途中であきらめてしまうことも少なからずあ るのです」 さくら 「えっ、改善していたのにですか。なぜ、そんな事になるのですか?」 ヒロシ先生 「やはり、一人をじっくり観察するゆとりがなかったり、変化の度合いが本当 に少しずつであったりするからではないかと思います」 さくら 「変化に気づかないか・・・どうすればいいのかしら。そうだ、実態を把握し たときに記録して、グラフを作りましたよね。戦略を実行してからも行動観 察シートにチェックを入れて、それをグラフにしていけば、少しずつの変化 でも把握していけるかもしれませんよね」 ヒロシ先生 「素晴らしいところに気づきましたね。私も、記録をつけ続けていかない限り たてた戦略が正しかったのかどうかは分からないと思います。変化がなかっ たり、気づかないうちに悪化していたと言う事もあります。この場合は、ま た改めて実態を把握し直し、戦略を立て直さなければならない。でも、その 必要性があるかどうかも、やはり変化を絶えず把握しているからこそ可能な のです」 さくら 「グラフの書き方に何か、アドバイスはありますか」 ヒロシ先生 「次のグラフのように、戦略をたてる前のグラフを前半部分にし、後半部分に 11 話 実行する

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47 は、戦略を実行してからの記録の部分がきます。このとき注意が必要なのは、 前半部分と、後半部分のグラフの間に点線を入れ、前半と後半の て区切ってしまうことです。そして、前半部分の終わりと後半部分の初めの 部分は、点線部分をまたいでつながないようにします」 さくら 「前半部分の終わりと後半部分の初めの部分は、点線部分を跨(また)いでつなが ないのはなぜですか?」 ヒロシ先生 「どこまでが戦略を立てる前であり、どこからが戦略を実行してからの記録な のかを一目で分かるようにするためで」 さくら 「確かに、これだと一目見てその違いが把握できますね」 ヒロシ先生 「グラフは、分かりにくい変化を目で見て分かるようにするためのものです。 この分かりやすさが、効果を見極めていくときに必要なのです」 1 2 2 4 3 1 3 2 3 1 2 1 1 2 0 1 0 0 0 1 2 3 4 5 タロウさん(大声で叫ぶ) 戦略を立てる前の記 録の部分 戦略を立てて実行してか らの記録の部分

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48 【有効性の確認】 人間の行動の変化は、ただちに現れないことの方が多い。対応に効果があ ったかどうかは、しばらくの期間みていくことも必要です。 ただは、有効性が確認できない場合は、対応方法を再検討の必要がありま す。

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49 次のグラフの前半部分は、練習6 で作成したものです。また観察シートは、戦略に基づき 実行した時の記録です。下のグラフの後半部分に、行動観察シートの結果をもとにグラフ を作成しましょう。 曜日 時間 火 6 月 10 日 水 11 日 木 12 日 金 13 日 月 16 日 火 17 日 水 18 日 木 19 日 金 20 日 8 時 ✔ 9 時 ✔ ✔ ✔ 10 時 ✔ ✔ ✔ 11 時 ✔ 1 2 2 4 3 1 3 2 3 0 1 2 3 4 5 タロウさん(大声で叫ぶ) 練 習 11

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50 戦略を実行し、「行動観察シート」に記録しましょう。効果を確認するため、グラフを作成しながら進めていきましょう。 年 月 日 対象者: 観察者: 実 践 11

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51 ヒロシ先生 「さくらさん、どうでしたか効果の方は」 さくら 「先生の言う通り、徐々にですが大声で叫ぶ事が減ってきました。最近では、 すぐ手をあげるようになりました。ただ、私がすぐに対応できないと大声に なる事もあるのですが、それはこちらの問題でもあるんですよね」 ヒロシ先生 「それはよかったですね」 さくら 「先生、そこで私も少し考えたのですが、今回は今ある行動を、代わりの行動 に変えていく事が出来ました。でも、『正の強化』『負の強化』の原理を使え ば、全く新しい行動も教えられませんか」 ヒロシ先生 「例えば、どういう事ですか」 さくら 「私たちが、関わっている人たちでもう少しこういう事が出来れば、きっとお 互いがハッピーになるような行動です。例えば『人の手伝いをする』と言う 行動。そうすると、手伝ってもらった人は御礼を言ったり、褒めると思うの です・・・でも、御礼を言われたり、褒めても、これが『正の強化』となる かはわかりませんね」 ヒロシ先生 「確かにさくらさんの言う通り、強化として機能するかは分かりません。でも、 本人にとって『好ましい事象』が、その行動の直後に提示されれば、その行 動は強くなっていきます。要は、当人にとって『好ましい事象』が人それぞ れ違うので、それを日々の生活の中で把握しておく事も必要なのですね」 12 話 あたらしい行動を教える

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52 さくら 「好ましい事象・・・私だったらケーキとか、人に褒められるとか、お金をも らうとかかな」 ヒロシ先生 「なるほど。となると、さくらさんが私の研究の手伝いをしたときには、これ からはケーキを出す事にしましょう」 さくら 「う〜ん、先生のお手伝いって、ケーキ一個でするには大変っていうか、出来 れば遠慮させていただきたいかな」 ヒロシ先生 「そうですね。そこは重要なポイントになりますね。大変なことをしなければ ならないのにケーキ一個では割に合わない。じゃ、お給料として 5 千円では どうですか」 さくら 「それなら、考えます・・・そっか、強化事象って『好ましい』っていうだけ ではダメなんだ。実際の行動にかかる負担との間でも変化してくるのですね」 ヒロシ先生 「そのとおりです。なので、行動を教えるときには、その行動の負荷が少ない ところから段階的に進めていくと良いのです。またどんなに好きなケーキも、 ずっと食べ続けていたら飽きます。指導の初期は一つの行動に一回の強化事 象の提示が望ましいのですが、安定してきたら数回に一回、あるいはランダ ムな提示など工夫が必要です」 さくら 「負荷の少ない行動を教えて、その行動が出たら『正の強化』を提示する。行 動が安定したら、『正の強化』の提示の頻度を変更して飽きないようにする。 強化事象が一つならすぐ飽きそうだけど、『正の強化』がいくつかあって選べ るといいかも。私も飴やケーキやチョコレートから選べる方がいいし」 ヒロシ先生 「よいアイデアかと思いますよ」

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53 【強化の価値】 強化の価値は、行動にかかる負担との間でも変化します。いくら「好まし い」事象といえども、それに見合った以上の負担がある行動であれば、強 化事象としては機能しません。 また、行動が安定して出現するまでは強化事象も、頻繁に提示されている 方が望ましいのですが、それもいずれ飽きがくることを頭に入れておく必 要があります。

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54 問い1 サキさんにとって、『正の強化』として機能しそうな事柄は何ですか。 問い2 サキさんに『新しい行動』を教えたいと考えています。 問い1 の『正の強化』をどのように提示していこうと考えますか。また「飽き」 の問題をどのように克服しようと考えますか。 練 習 12 サキさんは、チョコレートが大好きです。また、マンガを読む事や、ゲームも 好きです。でも、ゲームは一度始めると何時間もしてしまうことがあるのでよ く注意されてしまいます。他にも、お母さんと料理を作る事も好きです。人に 褒められると、何度も褒められた事をしようとする姿もあります。 最近、サキさんに『新しい行動』を教えたいと考えています。

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55 問い 1 あなたが支援や指導を担当している人に、その人の生活を豊かにするで あろう「新しい行動」を一つ教えていきたいと考えます。そこで、その人にと って『正の強化』になる『好ましい事象』を出来るだけたくさん、あげてみま しょぅ。 問い2 問い 1 であげた『好ましい事象』を『正の強化』として提示し、「新し い行動」を指導します。下の図を使いながら、実践指導計画をたてます。また 実践10 で学んだ戦略の立て方 (どのような時に、誰が、どのような行動を、ど のような方法で指導するのか。指導に必要なサポートは何か。どのような状態 になったら、そのサポートをどのように減らすのか。その際、現在の行動に対 して、どのように対応するのか)を参考に戦略をたてましょう。 実 践 12 行動の前の事象 行動 行動の後の事象

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56

(57)

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ABC チャート

年 月 日

対象者: 観察者:

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58

(59)

59 行動観察シート

月 日 ( ) No

対象者名 観察者名

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60

(61)

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(62)

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発行 新潟大学 教育学部 有川研究室

ダウンロード元 ホームページ「ありちゃんねる」 http://arichannel.jp/

本ワークブックは、ダウンロードを許可した研修受講者のみに

限定して配布しています。

参照

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