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富裕層に重点を置いた観光政策への転換

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富裕層に重点を置いた観光政策への転換

Conversion to sightseeing policy with emphasis on wealthy people

戸崎 肇 Hajime TOZAKI

【要 旨】

 2018 年、日本は大きな自然災害に見舞われたにも関わらず、インバウンド観光客数は暦年ベー スで 3000 万人を突破した。政府は 2020 年に 4000 万人のインバウンド観光客の誘致を目標と している。しかし、空港といったハードウェア、労働力等ソフトウェアにおいて供給力の限界を 迎えている。日本も「数」を追う観光政策から、「質」を求める観光政策へのシフトが早急に求 められている。そのためには、どのような視点、取り組みが必要なのかを論じる。

【目 次】

1.はじめに

2.空港、港湾の受け入れ能力の限界 3.宿泊施設の問題

 3.1 総体的な供給不足  3.2 旅館の活用

4.DMO、そして「おもてなし戦略」について 5.富裕層に対するマーケティングの推進・強化  5.1 過度な「平等意識」の払拭

 5.2 プライベートジェット

 5.3 2019 年ラグビーワールドカップ開催の意味すること  5.4 MICEの振興

 5.5 ホンダ・ビジネスジェット  5.6 IR

 5.7 医療ツーリズムの展開 6.まとめ

The Journal of General Industrial Research

(2)

1.はじめに

 台風による大災害や北海道における大規模 地震など、2018 年は自然災害が多発し、こ れまで急激に増加してきたインバウンド旅行 者、つまり外国人観光客の動きが一時停滞す ることになった。それでもその後は回復傾向 を見せ、結局は、年間総数としては昨年を大 きく上回る規模での外国人観光客の増加とな り、2018 年暦年では、ついに 3000 万人を 上回る結果となった。

 その一方で、その受け入れ態勢については まだまだ改善の余地が高い。また、すでに 限界を示している領域もある。政府は 2020 年までに 4000 万人、そして 2030 年までに 6000 万人の外国人観光客の受け入れを目指 すという目標を立て、そのための施策を進め ている。しかし、そうした方向性がどこまで 現実的であるのか、あるいはそれが最善の形 で日本に対してプラスの効果を与えることに なるのかははなはだ疑問な点がある。

 そこで本稿では、今後、さらなるインバウ ンド旅行者を受け入れるにあたって、制約事 項となるのはどのような点なのかを整理して

いく。その上で、今後、観光政策を日本の成 長戦略として位置づけていく上で、より効果 的なものとするためには、受け入れ数の増加 を最優先の目的として追い求めるのではな く、富裕層を主軸に、より経済効果・収益性 の高い潜在的な観光客の発掘・取り込みに努 めるべきであるとの観点から、そのためには どのようなインフラ・環境整備が必要なのか を論じていく。

2.空港、港湾の受け入れ能力の限界  日本は島国であることから、外国人観光客 を誘致する上では、空港、そして港湾の処理 能力が問われることになる。中でも空港は、

国際化が進む中、その重要性はますます高い ものとなっており、特に首都圏・大都市圏の 空港が担う役割は極めて大きくなっている。

しかし、日本の現状としては、羽田、成田 といった主要空港における受け入れ容量にお いて限界に近づきつつある。

羽田空港については、米軍横田基地の存在 など(註1)、世界的にみても稀な制約条件を抱 えており、その発着容量の拡張余地は極めて

(図1) 世界の富のピラミッド

(3)

小さい。

ただ、そうした厳しい状況下においても、

事態の打開を図るべく、都心部の上空の飛行 を認めることで飛行空域を広げ(註2)、それ によって発着容量の拡大を図ろうとしている が、それでも劇的な発着容量の拡大にはつな がりそうもない。

成田空港については、現時点で深夜早朝帯 は運用できない状況にあるが、羽田空港が国 際化したことに伴い、成田空港の存続が問わ れるまでの危機感が現地に生じ、積極的に運 用時間の拡大に地元が先導して動いている。

こうして、運用時間の延長によって、海外の LCCなど、航空会社の誘致政策が進められ ているが、これも電車を主とする深夜時間帯 の公共交通の充実を伴わなければ、十分な利 用拡大にはつながらないだろう(現時点でも 成田空港と都心を結ぶ鉄道は早い時間帯に特 急電車の運行がなく、その不便性が強く指摘 されている)。

 首都圏以外の大都市空港の動きを見ると、

現在、沖縄の那覇空港において第2滑走路の 建設が進められており、アジアからの観光客 を迎える上で近い将来、大きな貢献を果たす ことになるだろう(註3)ただ、那覇空港の滑走 路の増設だけで今後の大幅な需要の増加に対 応できるわけではないことは自明である。

 福岡空港も同様である。2 本目の滑走路の 建設は決まっているものの、その完成はまだ まだ先のことである。

 その他、関西空港や北海道の千歳空港では コンセッション(運営権)を民間に売却する ことで空港経営の洗練化が図られているが、

その効果は未知数である。

 急増するインバウンドに対する日本の対応

能力としては、発着枠といった問題とともに 重要な問題として、入国管理官、税関職員の 不足がある。

このため、海外からクルーズ船が入港する ような場合にはその対応が難しい。空港でも 外国人観光客に対しては対応がスムーズに なっておらず、彼らは長蛇の列に並ばなけれ ばならないことが多い(註4)。国は今後、こ うした職員の数を増やすとしているが、予算 制約が厳しい中、この問題を根本的に解決で きるほどの規模での増員は不可能だと思わ れる(註5)

 その他、外国人観光客の受け入れ能力を増 大するために、地方空港を積極的に活かそう と、国は地方空港に対して、受け入れ促進の ためのアイデアを出させ、それに対して評価 し、実効性の高いものに対しては国が補助金 を与えるという政策を導入した。この効果が 期待されるところであるが、現状において、

その提案はほとんどが近隣アジア諸国をター ゲットにおいたものとなっている。それは、

こうした提案では、海外のLCCに主に期待 しているところが大きいことがある。

 2000 年代に入ってから、アジアのLCC は猛烈な勢いで成長を遂げてきている。彼ら がその市場として大きな期待をかけているも のの1つが日本であり、日本の地方空港とし ては誘致するのに最も早期に成功が期待でき る対象である。

 その一方、JALANAなどといった大手 航空会社は、LCCとの激しい競争環境やパ イロットなどの人材不足などによって限られ た経営資源を最大限収益増に生かすため、東 京を中心とした路線に経営資源を集中させて きている。地方にとって、こうした大手の航

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空会社に対して新規路線の開設や既存路線の 拡充を求めてもなかなか実現できないのが 実情である。その結果、どうしても海外の LCC頼みとなりやすく、路線もLCCの特性 である短距離運航という制約から、周辺アジ ア諸国との短距離国際線の開設を目ざすこと が、地方空港活性化を図る戦略としては主流 となる。

日本の地方空港と周辺アジア諸国との路線 の開設は、空港間の協力関係によって相乗効 果を高めようとするのであれば高い効果は期 待できるものの、個別空港間の競争となると、

どこかの空港が成功すれば、その近隣の空港 を利用する外国人観光客の数が減ることが予 想され(実際にそうなっている現状がある。

たとえば広島空港と岡山空港の関係など)、

ゼロ・サムゲームに陥り、全体的な需要創造 には効果的に結びつかないという恐れも大き い。

 また、先にも触れたことであるが、空港の 一定期間の運営権(コンセッション)を民間 に売却し、民間の経営手法を導入することで 空港運営の向上を図ろうという試みも進んで きている。ただ、これも今後の見通しは未知 数であると言わざるを得ない(註6)

3.宿泊施設の問題 3.1 総体的な供給不足

 宿泊施設の不足も指摘されている。旅館に は一部に例外があるとして、一般的なホテル、

特に大都市のホテルは週末、ピーク時の稼働 率が極めて高く、予約が非常に取りにくい状 況にある(註7)

 こうした事態を受け、2018 年 6 月 15 日 には「住宅宿泊事業法」、いわゆる「民泊新法」

が施行された。しかし、民泊もヤミ業者が多 く、安全管理など宿泊業が本来果たすべき条 件を満たしていないところが多く、根本的な 問題の解決にはなっていない。

 民泊が機能していない状況に関しては、地 方自治体のほとんどが民泊業者の稼働可能日 数について厳しい上限規制を条例で課してい ることが問題だという批判もある。しかし、

実際にやみ業者が運営する民泊において、火 災予防のための管理体制が不備であったり、

宿泊客の騒音問題に対して、施設管理者が施 設に常駐していないために適切に対処してい ないといった問題性が多く見られることか ら、地方自治体が新たな業態の登場に対して 慎重に対応しようというのは当然のことであ る。批判する側は、宿泊産業の公共性、社会 性を軽視していると思われてもしかたないだ ろう。

 その一方で、富裕層向けの宿泊施設が日本 では全く不十分であるという指摘には大いに 注目しなければならない。

 デイビット・アトキンソンの『新・観光立 国論』によると、世界のセレブが泊まるホ テルの平均室料は約 700 万円であるという。

日本でこれに該当するような料金設定をして いる宿泊施設はないだろう。アトキンソンは、

そのために海外の「本当の」富裕層は日本で 宿泊する場所を見出せず、日本に来ないのだ と主張している。

 日本でも星野リゾートなどが高給宿泊施設 の開発、運営を行っているが、国際基準から 見ればまだまだ料金設定等が「甘い」ようだ。

真の富裕層とはどのような存在であり、実際 にどのような消費行動をとっているのか。こ うした研究が産業マーケティングとしても、

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また学術研究としても、今後日本でより積極 的に推進されていくことが望まれる。

3.2 旅館の活用

 日本では宿泊施設が足りないとして、新た なホテルの建設や民泊の振興が図られてい る。しかし、これも過度に進めると、特に 2020 年の東京オリンピック後は、その需要 の反動で供給過多となり、多くの宿泊施設が

経営難に陥る危険性がある。このことは、オ リンピックのような大きなイベントが行われ る際には毎回指摘される問題である。

 その一方で、旅館は十分に稼働していると はいえない状況にある。今後は、特に外国人 観光客の受け入れを中心に、どのようにして 旅館の稼働率を高め、かつ周辺地域との連携 を高めていくかが問われている。

(図2)客室稼働率の推移(全国)

   (出所)新潟経済社会リサーチセンター

 たとえば従来、旅館は 1 人旅の観光客の 受け入れに積極的ではなかったが、個人旅行 の需要は高く、特に経済効果の高い欧米人は 個人旅行の割合が高い。すでに対応を始めて いるところも多くみられるものの、まだまだ 一般的な受け入れ態勢になっているとは考え られない。多様なニーズにどこまで柔軟に対 応できるかという、本来の意味でのホスピタ リティが旅館に求められている。

 また、従来、旅館では、夕食の提供など、

館内ですべての滞在行為を完結させようとし

てきた。その過程で、夕食もパターン化し、

観光客にとっては魅力がないにも関わらず、

強制的にそれを「食べさせられ」、その分、「余 計な」出費を強いられることになっていた。

このことがますます旅館に対する需要を減退 させてきたという経緯がある。

 これに対しては、最近の動きとして、旅館 では夕食はオプションとし、宿泊客は旅館周 辺の飲食店で自分の好きなように夕食などを とるというスタイルがとられてきている地域 がある。このようにすれば、地元の飲食店も

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栄え、共存共栄を図ることができる。特に富 裕層の味覚は鋭く、旅館だけでは満足させる ことができない場合も多く考えられる。地域 の中で各プレイヤーがしっかりと連携し、そ の総力を発揮して観光客に対することは、富 裕層に対してはもちろんのこと、一般の旅行 者についても重要である。

4.DMO、そして「おもてなし戦略」に ついて

 そしてそのための制度として、近年、DMO

Destination Management Organization の制度が導入され、官・民・地域が一体と なった取り組みを行うことができるような組 織づくりが観光庁の主導のもとに推進されて いる。2018 年度にはインバウンドを対象と したDMOを 100 件認定するという方針を たててその組織化を奨励してきた。

 しかし、実際には、その核となるものがな かなか現れてこず、その具体的な取り組みの 在り方もイメージしづらいということもあっ て進んでいない。今後、DMOを中心にどの ような取り組みがなされるべきか、その明確 なガイドラインを示し、効果的な指導がなさ れなければ、こうした現状を変えることは難 しいだろう。

 こうした一方、日本は世界一の「おもてな し」を提供できるということを観光戦略の中 で最上位に打ち出している。それなら、なぜ それに見合う様な、世界的水準において最高 級といわれるような高額の料金を提示してい るようなホテルが存在しないのだろうか。

確かに「おもてなし」を無償で供給するこ とは美徳かもしれない。しかし、国家の成長 戦略として考えるならば、観光戦略を通して

最大限の経済効果を得ることが求められるべ きであることは間違いない。無償の「おもて なし」の提供は日本の印象を高め、リピーター を増やすかもしれない。そして来日に伴う付 随的な経済効果を得ることはできるだろう。

とはいえ、観光産業自体の収益性が向上しな ければ大きな問題が残ることになる。

 現状において観光関連産業の収益性は全産 業平均と比べまだまだ低い。そのこともあっ て、産業自体の社会的評価はまだ高まってい ない。

そもそも日本では歴史的に製造業が重んじ られてきた。明治以来の殖産興業政策の中、

労働にこそその社会的価値が見出され、余暇 を扱うような産業は低位に位置づけられてき たのだ。これは学問の世界でも同様であり、

観光を含む第三次産業の研究が特に経済学の 分野において主流の一翼をなすことはなかっ たと言えよう。

 そして、収益性の低い産業に優秀な人材は 集まってこないのは当然のことである。優秀 な人材なしに、産業の革新的な発展は望めな い。産業の飛躍的発展を図っていくためには、

クリエイティブな貢献に対して十分な報酬を 支払うことができるような経営体制を整えて いかなければならない。

5.富裕層に対するマーケティングの推 進・強化

5.1 過度な「平等意識」の払拭

 そこで注目されるのが富裕層の旅行需要の 取り込みである。すでに述べたように、日本 の「数」を追う観光政策は限界に来ていると 言っても過言ではない。

 特に中国の富裕層の拡大は目を見張るもの

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がある。

  米 国 の 調 査 会 社 で あ るWealth-X社 が 2018 年 9 月に公表した調査結果によると、

2017 年に総保有資産 10 億ドル以上の「超 富裕者層」の数のランキングでは、1 位こそ 米国であったものの、2 位の日本(17,915 人)

に次いで中国は 3 位(16,875 人)になって いる。日本との差はほとんどないといってい いほどである。

日本の洗練された文化に対する人気は国際 的にも高い。東南アジアでは特に「雪」を体 験したいという需要も大きい。こうした需要 に対して、国全体の外国人観光客の受け入れ 容量が「数」的に限界にある中、富裕層を他 の観光客とは別扱いにし、より積極的に取り 入れ、より多くの消費を行わせる政策を推進 していくべきである。

 こうした政策を先行して行っているのがマ カオである。マカオは人口の 40 倍にも上る 外国人が訪れ、これ以上の受け入れを行うこ とに限界性を感じ、観光政策担当者は、「よ

り質の高い観光客を受け入れる」との見解を 示した。この政策志向には、日本は大いに学 ぶべきだろう。

 すでに国の行政レベルではこうした認識が もたれてきている。「数」を大きな目標の1 つとして掲げながらも、それとともに滞在日 数や消費額などの目標についても、その比重 を高めている。

 すでに述べたように、日本では観光におい ては過度な「平等意識」があるようにも思わ れる。ただ、近年では、空港のセキュリティ・

チェックなどにおいてマイレージ会員の高位 会員などに対して優先レーンを設けるなどし ている。国としての観光収入は最終的には国 民の利益のために還元されるものであり、そ の収益の最大化を図ることは国益にかなった ものである。したがって、観光においては、

従来の考え方のとらわれることなく、国とし てよりビジネスライクな取り扱いが推進され ることが望まれるところである。

(図3) ビジネスジェットの国別保有状況

(資料出所)BBT総研

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5.2 プライベートジェット

 このことは、航空政策上のプライベートビ ジネスジェットの取り扱いについても当ては まる。これまで、航空輸送においてはその公 共性が強調され、その結果、極めて「平等主 義的」アプローチがスロットの配分や空港内 での諸手続きの面において採用されてきた。

その結果、より多くの人々が利用する航空機 の輸送をどう効率的に行っていくかというこ とが常に最優先課題となり、プライベート ジェットのような私的財については政策的に 後回しにされてきた。

羽田空港のような混雑空港では、公共性の 高い定期路線の航空機の利用が優先され、プ ライベート機への発着枠の配分、スポットの 使用許可の優先順位は極めて低く位置づけら れてきた。

 しかし、プライベートジェット利用者の多 くは経済的に見て大きな影響力を持ってい る。その来日を歓待することは、当面の経済 効果というだけではなく、将来の日本の経済 を考える上で非常に重要である。というのは、

彼らが日本に対して好印象をもち、ここでビ ジネスを展開しようと考えれば、市場への大 いなる刺激となり、雇用効果も期待できるか らだ。

ビジネス目的でVIPが日本を訪れるとき にプライベートジェットを利用する場合に は、やはりその目的地としては東京都心に最 も近く利便性の高い羽田空港を選択するのは 当然のことである。少しでも時間効率を高め ようとすれば、今の東京ではそうするしかな い。

 現状では、混雑度の高い羽田空港でのプラ イベートジェットへの対応が不十分であるた

め、プライベートジェットの成田空港の利用 が増えている。

日本全体の政策としても、プライベート ジェットの受け入れ体制の見直しも進められ ている(たとえば、プライベートジェットの 空港利用に際しての申請期限の見直しなど)。

成田空港では、プライベートジェットの専用 ターミナルも設けられ、富裕層が強く求める プライバシー管理の問題もある程度解消され ている。経済上のキーパーソンが来日したと いうだけで、様々な憶測が飛ぶことになり、

それは株価の変動などにも大きな影響を与え かねない。もちろん、それが芸能人であれば、

プライベートな行動をマスコミなどから追い 回されるのは不快であろうし、それがかなわ ないのであれば来日を避けることになる。こ うなると、日本の文化的政策上もマイナスに なる。プライバシーの徹底を図るためには、

一般旅客との移動動線を完全に分離しなけれ ばならないが、施設面ででも、また個別的に 対応する入国管理官などソフトの面でも、現 状それを達成するのは難しい状況にあるのは 否定しがたい。本来であればヨーロッパなど にみられるようなプライベートジェット専用 の空港があればいいのだが、そもそも東京都 心から近い場所にそうした場所を見出すこと は極めて困難である。陸上自衛隊が千葉県に 駐屯地として保有する木更津基地内の滑走路 を利用するという案もあるが、羽田空港への 飛行ルート上にあるためになかなかその実現 は難しい。しかし、現状、成田空港の場合、

空港の敷地内まで私用車を乗り入れることが できないこと、そして何よりも東京都心まで の移動時間が羽田空港に比べて長い、などの 不便性は残っている。

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5.3 2019 年ラグビーワールドカップ開催の 意味すること

 富裕層の到来に関しては、2019 年のラグ ビーのワールドカップの開催も1つの転機と なりうる。そもそもラグビーは上流階級のス ポーツであり、ヨーロッパにおけるその愛好 者は経済的に恵まれた層である場合が多い。

彼らが遠路日本に観戦に来るというのであれ ば、2020 年の東京オリンピック以上の経済 効果が期待できる。さらには、オリンピック の場合と違って、ラグビーの場合、1 試合に おける選手の疲労度が他の競技と比べかなり 高くなるため、試合間隔を長くとらなければ ならない。それに伴い、わざわざ遠方からラ グビーの試合を観戦に来る人々は、1 試合だ けを見て帰るのではなく、複数の試合を観戦 しようという誘因が働くことになろう。その 結果、日本での滞在期間が長くなり、その分、

一般の観光客以上の経済効果が期待できる。

こうした層は富裕層とまでは言えないが、そ れに準じた取り扱いが検討されるべきであろ う。そして、そうした受け入れ体制の整備を 進めることこそが、将来的に富裕層を積極的 に受け入れていくための経験値を高め、その 有効性・実効性を高めることにつなげること ができる。

5.4 MICE の振興

 富裕層の誘致と関係するものとしてMICE が あ る。MICEと はMeeting, Incentive, Conference, Exhibition / Eventの頭文字 を並べたものであり、日本では一般的に「会 議観光」と訳している。

 特に国際的企業の会議や、国際的に有力な

学会が開催されると、その地には有力者が一 同に会し、数日にわたって滞在し、社交を繰 り広げるので高い経済効果が期待できる。ま た、開催地では新たなビジネスチャンスにつ なげることも考えられる。

 日本でも地方では、MICE誘致の活動が活 発に行われている。そのための会場づくりも 盛んである。

 しかし、MICEを誘致しようとすれば、会 場となる施設を充実させるだけでは不十分で ある。こうした会議の参加者、特に学会の場 合には、家族を帯同する場合が多く、会議の 開催中、家族が時間を楽しく過ごすことがで きる環境を整えることが誘致に成功するため の大きな鍵の1つとなる。これは後に述べる 医療ツーリズムについても同様である。

 また、MICEに参加する有力者は、極めて 時間価値の高い人々であり、移動手段もプラ イベートジェットを利用することが多い。そ のため開催地の近くまでプライベートジェッ トでアクセスできることも、開催地決定の際 の重要な選考基準となる。実際、この点にお いて不十分な環境であるとして、開催が見送 られているケースがあるとされている。そし て、彼らが滞在する施設も、それ相応のもの でなければならない。宿泊施設も、国際標準 にのっとって、富裕層の受け入れができるよ うなものにしていかなければならない。

 この点からも、国際化の進展の中で、日本 のホスピタリティの在り方の再検証が求めら れている。

5.5 ホンダ・ビジネスジェット

自動車メーカーであるホンダが手掛け、

アメリカで成功を収めたホンダ・ビジネス

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ジ ェ ッ ト も、2018 年 か ら 日 本 で の 発 売 が ようやく開始された。日本でプライベート ジェットをもつことのハードルは、価格の面 というよりも、その他の側面においてまだま だ高い。保有することに対する課税の大きさ の問題などである。

 しかしながら、国内においてプライベート 機の販売が推進されることは、単にホンダが 収益を挙げるということにとどまらず、ホン ダ・ビジネスジェットに様々な部品を提供す る国内部品メーカーの育成、発展にもつなが る。つまり、関連産業の活性化を通じた大き な経済効果が見込まれるということである。

 さらには、国内の空港、特に地方空港の活 性化に結び付けることができる。すでにいく つかの地方空港では、自らの活性化の手段の 1つとしてプライベートジェット、ビジネス ジェットの積極的な受け入れを掲げていると ころもあるが、まだ少数である。ただ、今後 は地方こそ、富裕者層の取り込みを図ること に活路を見出すべきである。というのは、東 京などの大都市に対しては量的追求で対抗す ることはほぼ不可能である一方、地元の特色 を鮮明化し、特色あるサービスを徹底化して 提供することができれば、富裕層の取り込み に関しては大都市と対等に渡り合うことが可 能となるからである。

5.6 IR

 2018 年、IRIntegrated Resort:統 合 リ ゾート)推進法案が可決され、いよいよ日本 でも本格的な富裕層を主たるマーケティング 対象とした政策が実行段階に入った。ただ、

それが最終的にどのような形で実現されるの か、あるいは実現できるのかについては、い

まだ見通しが立たない状況にある。なぜなら、

IRの中心にはカジノが位置づけられている からである。

 カジノの解禁に対する日本国内での警戒感 は高い。それは何よりもギャンブル依存症の 問題に対する懸念が強いからである。

 確かに、カジノをめぐるギャンブル依存症 の問題を軽視することはできないだろう。そ の代表的な例として大王子製紙の経営者がマ カオ、シンガポールのカジノに多額の会社の 資金をつぎ込み、逮捕された事例を挙げるこ とができるだろう(『熔ける』参照。彼がカ ジノにつぎ込んだお金は 108 億円超に及ぶ 巨額なものとなった。その後自己資産で弁償 したものの、背任罪で収監されることになっ た。)。韓国での依存症の問題の事例のレポー トも日本人のカジノに対するアレルギー形成 に大きな影響を与えている。

 こうした依存症の問題を軽視することは当 然ながらできないことである。しかし、その 一方で、カジノを日本で解禁したとしても、

それほど大きな問題とならないという主張も ある。

 なぜなら、日本ではパチンコがすでに広範 に普及している。パチンコはカジノよりもは るかに身近なギャンブルであり、パチンコを 行うことに対する抵抗感は低い。その結果、

より多くの人が気軽にパチンコを行い、それ に没頭していく。投入する金額はカジノに比 べれば相対的に低いとしても、パチンコを行 うことに対する中毒性は変わらないし、身近 であるがゆえにより深刻なものとなりがちで ある。実際、日本では、夏の暑い日に、赤ん 坊を自家用車の中に放置したままパチンコに 没頭し、赤ん坊を熱中症で死なせてしまった

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といったような例が散見される。

 そして、このようにすでに身近に手軽な ギャンブルが存在している場合、カジノのよ うな新たなギャンブルが利用者を限定するよ うな制約的な形で入ってきても、その依存性 が高まることはあまり考えられないというこ とである。

 一方、カジノへの依存症が懸念されている 韓国ではパチンコが禁止されており、その分、

カジノに対する依存の度合いが大きくなるも のと考えられる。

 また、カジノへの入場規制を行うための議 論として、入場料をどのくらいの水準に設定 するかということも議論されている。これに 関しては、入場料を高くすれば、入場者をあ る一定以上の経済的余裕のある層に絞ること ができ、依存症対策に効果的ではないかとい う主張もなされているが、依存症にかかるの は低所得者とは限らないという研究結果がカ ジノ業者側から出されている。そして、入場 料が高く設定されれば、その分の元は取り返 さなければならないという心理が働き、より カジノに熱中することになるという指摘もな されている。

 欧州では、カジノは上流階級の社交の場と して認識されている。こうしたカジノの位置 づけに関して、日本も理解しようと試みる必 要があるのではないだろうか。今後、富裕 者層を取り込んでいこうとするのであれば、

そのための1つの重要なインフラストラク チャーとしてカジノを位置づけることも重要 であると考える。

 また、IRは確かにカジノが中心となるも のとして当初は構想されたものであるが、そ の言葉の意味合いからすれば、あくまでカジ

ノを中心に据えたものとしてこだわる必要も ないだろう。むしろ、その重要な要素として、

医療ツーリズムなど、複数のターゲットを掲 げていくことでその政策的実効性が高くなる はずである。

5.7 医療ツーリズムの展開

 富裕層をターゲットとした長期滞在型観光 の1つの形態として、医療ツーリズムも大き な発展に向けた潜在的可能性を持っている。

 日本の医療技術の水準は高いが、諸外国の 状況と比較した場合、医療ツーリズムという 観点からは、それ以上の競争力を持っている。

海外の富裕層が日本において医療行為を望む 際には、その他の目的も併せ持っている場合 がほとんどである。このような場合、患者と なる富裕層は家族を帯同することが多く、家 族が滞在を楽しむことができる環境があるか どうかが、どこで治療を受けるかを決定する 際の重要な選択時のポイントになるのだ。つ まり、日本のホスピタリティを味わいたい、

文化を味わいたい、おいしい料理が食べたい、

といったことである。こうした欲求を満たす ことができることに日本に強みがある。ただ し、こうした需要に的確に応えていくために は、何よりも医師会などの理解が必要となる。

 日本では、地方などでの医師不足の問題が 深刻である。それゆえに、こうした国内問題 の解決に向けて十分な取り組みを行う前に、

海外からの富裕層を中心とした需要を取り込 もうとするのは、国の医療政策としては本末 転倒ではないか、という批判が出てくる。

 しかし、医療ツーリズムのような取り組み において国としての収益を挙げ、これを原資 として新たな医師を養成し、それによって地

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方における医師の数を増やし、その地での医 療政策などを充実させるという考え方にも正 当性が見いだされるのではないかと考える。

医師をもっと積極的に多く養成し、様々な政 策的可能性を広げていくべきである。そのた めには、より複線的な教育システム、法科大 学院のような形での多様な医師の育成システ ムを構築すべきである。

6.まとめ

 以上、日本が進める観光大国化の中で予見 される問題性と、その主な解決策としての富 裕層誘致の方策について論じてきた。観光政 策に関しては、日本はまだ世界の後進国に近 いとの認識をしっかりと持たなければならな い。その上で、真の観光大国と呼ばれる国々 の政策に素直に学び、それを自国の政策に早 急に取り入れていかなければならない。富裕 層の取り込みは、その最たる課題である。

 1)当該基地の上空は日本の旅客機の通過 が認められておらず、羽田空港を離発 着する航空機の飛行ルートを限定し、

空港混雑の大きな要因となっている。

2020 年の東京オリンピックを控え、

日本としては是非ともこうした制約要 因を解消すべく、米国側とこの空域の 使用ができるように交渉している。そ の成果は現われてきているが、抜本的 な解決にまでは至っていない。

 2)従来、騒音の問題や航空機からの落下 物の問題から、都心の上空を飛行ルー トにすることは避けられてきた。ただ

し、ヨーロッパでは、都心上空といえ ども、実際に多くの航空機が飛行して いる。そのことをフランスのパリ空港 公団の政策担当者に問うと、そもそも ヨーロッパでは航空機からの落下物が 問題になるという意識自体がないとの ことであった。

 3) ただし、2 本目ができたとはいえ、こ れまでの容量が 2 倍になるわけでは ない。周辺米軍基地など空域における 飛行制限の問題、また、大型フェリー が那覇港に入港する場合、フェリーが 航空機の離発着の際の障害となる問題 など、那覇空港特有の問題があり、そ の供給能力の増大はそれほど楽観的な ものとはならない。

 4) ただし、これは何も日本だけのケース でないことも確かである。アメリカの JFケネディ空港などのラッシュの時 間帯などは、かなり長い時間、入国手 続きのために待たなければならない。

シンガポール空港などの例外を除き、

その他の国の主要空港でも同様の場合 が多い。

 5) 近未来的には、AIの発達によって、

こうしたチェックは人間の手によるこ となく行われることになるだろう。す でにそうした兆しは表れている。そう なれば、空港という施設の在り方も大 きく変貌を遂げることになる。

 6) 本案件の第1号事案であった仙台空港 の場合は収益が向上し、現時点では成 功しているとみなしうる。その一方、

関西国際空港の場合、2018 年の台風 の来襲時の対応において、経営陣の対

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応のあり方をめぐり、問題性が指摘さ れている。

 7)ただ、日本の予約システムがもつ問題 性が大きな要因となっていることも確 かである。日本のホテルの予約システ ムは、予約と同時に決済する形になっ ていないものが多く、仮で予約を入れ ておき、直前にキャンセルをしても キャンセル・チャージを払わなくても いい場合が多い。そのため、海外のト ラベル・エージェントはとりあえず日 本のホテルを大量に予約し、直前に なって本当に必要な室数以外をキャン セルしてくるという行動をとる。その 結果、ホテル側は販売機会を逸し、大 きな損失を被ることになる。

参考文献

戸崎 肇『観光立国論』、現代書館、2017 年 デービット・アトキンソン『新・観光立国論』、

東洋経済新聞社、2015 年

参照

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