フランス語の「動詞 +副詞的形容詞」表現と強意の副詞
serrer fort、parler fort、aller fort
の場 合Les expressions « verbe + adjectif adverbial » et l’adverbe intensifieur en français
le cas de « serrer fort », « parler fort » et « aller fort »
関 敦 彦
SEKI Atsuhiko
東 京 外 国 語 大 学 博 士 後 期 課 程Doctoral Program, TUFS
ふらんぼー(Flambeau) vol.46 2020, p.77-96.
原 稿 受 理 2020-11-29 ; 最 終 版 2021-02-10
抄 録
フランス語 における副 詞 的 形 容 詞 には、いくつかの統 語 的 制 約(Abeillé et Godard 2004)や語 彙 的 制 約 が見 られるが、この点 を踏 まえると、これらの語 を含 む表 現 は程 度 の差 こそあれ慣 用 句 的 表 現 で あると考 えられる。本 論 文 では、G.Gross(1996)等 が提 唱 する凝 結 の概 念 を援 用 し、「動 詞+副 詞 的 形 容 詞 」表 現 で出 現 する強 意 等 を示 す副 詞 の頻 度 と表 現 の凝 結 度 との関 連 性 を分 析 する。調 査 対 象 語 彙 として、フランス語 で最 も出 現 頻 度 の高 い形 容 詞 の一 つであるfortを選 択 した。
Summary (Résumé)
On peut considérer que les expressions « verbe + adjectif adverbial » sont figées en tenant compte d’une part des restrictions syntaxiques qu’ont relevées Abeillé et Godard (2004) et d’autres part des restrictions lexiques. Cet article a pour objectif d’analyser la relation entre la fréquence d’un adverbe intensifieur qui apparaît dans l’expression « verbe + adjectif adverbial » et son degré de figement. Pour réaliser l’analyse, nous avons choisi l’adjectif « fort ».
キ ー ワ ー ド : フ ラ ン ス 語 、 副 詞 、 形 容 詞 、 凝 結 表 現
© ふらんぼー Flambeau 46 (2020) pp.77–96.
183-8534 東 京 都 府 中 市 朝 日 町3-11-1 東 京 外 国 語 大 学 フランス語 研 究 室 183-8534 French Section, Tokyo University of Foreign Studies, 3-11-1 Asahi-cho Fuchu City, Tokyo
本 稿 の著 作 権 は著 者 が保 持 し、クリエイティブ・コモンズ表 示 4.0 国 際 ライセンス (CC-BY)下 に提 供 します。
https://creativecommons.org/ licenses/by/4.0/deed.ja
はじめに
現 代 フランス語 では、付 加 形 容 詞 から副 詞 を派 生 する場 合 は、形 容 詞 の女 性 形 に 接 尾 辞
-ment
を付 加 することが一 般 的 である。しかしながら、一 部 の形 容 詞 は接 尾 辞 を伴 わず副 詞 的 に使 用 することが可 能 である。例 文(1)
ではfort
はligne
を後 置 修 飾 し「直 線 」 という意 味 を表 している一 方 で、例 文(2)
ではdroit
は主 語 である代 名 詞je
や斜 格 目 的 語である
le frigo
を修 飾 しているわけではなく、aller
の経 路 が「まっすぐ」であるという意 味 を表 しており、いわゆる副 詞 的 な用 法 で出 現 していると考 えられる。本 研 究 では、形 容 詞 の 形 態 を保 ちつつも副 詞 的 な用 法 で使 用 される語 彙 を副 詞 的 形 容 詞 と呼 ぶ。動 詞 に副 詞 的 形 容 詞 が後 置 される表 現
(
以 下 『「動 詞 +副 詞 的 形 容 詞 」表 現 』と呼 ぶ)
は、以 下 で説 明 するように、表 現 によって程 度 の差 があるものの慣 用 句 的 表 現 であると考 えられる。(1) C'est la ligne droite ou tout au moins c'est le chemin le plus direct, le plus logique pour aller, venant du sud, très vite en Suisse sans se montrer et sans se faire prendre.
「これは一 直 線 の道 、いや少 なくとも南 から来 てスイスまで目 立 たず、襲 撃 もされずに素 早 く行 ける最 短 で最 も理 にかなった道 である。」
(GIONO Jean, Le Déserteur, 1966, p.195)
(2) Je suis allé tout droit vers le frigo et j’ai sorti quelques trucs sur la table.
「私 は冷 蔵 庫 にまっすぐ向 かい、いくつかの食 べ物 をテーブルに出 した。」
(DJIAN Philippe, 37°2 le matin, 1985, p.257)
1.副 詞 的 形 容 詞 について 1.1.副 詞 的 形 容 詞 の定 義
本 研 究 では「副 詞 的 形 容 詞 」と呼 ばれる要 素 を扱 うが、まずはこれを定 義 する必 要 が ある。本 研 究 では副 詞 的 形 容 詞 を以 下 のように定 義 する。
動 詞 句 内 で使 用 される形 容 詞 のうち、他 動 詞 が必 要 とする目 的 語 として、ま たは属 詞 として用 いられないものを副 詞 的 形 容 詞 と呼 ぶ。
上 の定 義 は消 去 法 的 な定 義 ではあるが、この定 義 をさらに詳 しく説 明 してゆく。まず、
動 詞 句 内 で使 用 される形 容 詞 の用 法 を概 観 する。フランス語 において動 詞 句 内 で使 用 さ れる形 容 詞 の用 法 を
Abeillé et Mouret(2010)
をもとに以 下 のように整 理 した。
主 語 属 詞(attribut du sujet)
目 的 語 属 詞(attribut de l’objet)
直 接 目 的 語(objet direct)
斜 格 補 語(complément oblique)
付 加 語(ajout)
1
番 目 の用 法 は例 文(3)
で見 られるような主 語 の属 詞 を表 す用 法 である。この用 法 で は形 容 詞 は主 語 の性 数 に一 致 し、主 語 の性 質 や属 性 を示 す。2
番 目 の用 法 は例 文(4a)
で見 られるような目 的 語 の属 詞 を表 す用 法 である。この用 法 でも、形 容 詞 は目 的 語 の名 詞 の性 数 に一 致 するほか、例 文(4b)
のような言 い換 えが可 能 である。3
番 目 の用 法 は例 文(5a)
で見 られるような他 動 詞 が必 要 とする直 接 目 的 語 として機 能 する用 法 である。このよう な用 法 では、形 容 詞 は一 般 的 に例 文(5b)
のように疑 問 代 名 詞que
で置 き換 えることが可 能 である。4
番 目 の用 法 は例 文(6)
で見 られるような斜 格 補 語 を表 す用 法 である。この用 法 では形 容 詞 は動 詞 が表 す動 作 の様 態 や数 量 表 現 、位 置 などを表 しているが、動 詞 が必 要 とする要 素 であると考 えられ、これを削 除 すると文 が容 認 されなくなるものである。5
番 目 の用 法 は例 文(7)
で見 られるような付 加 語 的 用 法 である。この用 法 では形 容 詞 は上 の斜 格 補 語 と同 様 に動 作 の様 態 や数 量 表 現 、位 置 などを表 すが、あくまでも付 加 的 な要 素 であ り、仮 に削 除 されたとしても文 を容 認 することが可 能 である。(3) Puisque les Inscriptions sont gratuites, je vais m'inscrire à la fois au Droit et aux Lettres.
「登 録 は無 料 なのだから、私 は法 学 部 と文 学 部 両 方 に登 録 します。」
(BAZIN Hervé, La Mort du petit cheval, 1950, p.74) (4a) Firmin ne surveillait pas Thérèse. Il la croyait bête.
「フィルマンはテレーズを警 戒 していなかった。彼 は彼 女 を馬 鹿 だと思 っていた。」
(GIONO Jean, Les Âmes fortes, 1950, p.347) (4b) Il croyait qu’elle était bête.
(5a) Chez nous, on mange français. Le soir, c'est pas la minestre, chez nous, c'est la soupe poireaux-pommes de terre.
「我 が家 ではフランス料 理 を食 べる。夜 は我 が家 ではイタリア風 スープではなくポロネ ギとじゃがいものスープだ。」(
CAVANNA François, Les Ritals, 1978, p.246
)(5b) Qu’est ce qu’on mange ?
「何 を食 べますか?」(6a) Il est allé très haut pour éviter le ravin.
「彼 は渓 谷 を避 けるべくかなり上 の方 に行 った。」
(GIONO Jean, L'Iris de Suse, 1970, p.404)
はじめに
現 代 フランス語 では、付 加 形 容 詞 から副 詞 を派 生 する場 合 は、形 容 詞 の女 性 形 に 接 尾 辞
-ment
を付 加 することが一 般 的 である。しかしながら、一 部 の形 容 詞 は接 尾 辞 を伴 わず副 詞 的 に使 用 することが可 能 である。例 文(1)
ではfort
はligne
を後 置 修 飾 し「直 線 」 という意 味 を表 している一 方 で、例 文(2)
ではdroit
は主 語 である代 名 詞je
や斜 格 目 的 語である
le frigo
を修 飾 しているわけではなく、aller
の経 路 が「まっすぐ」であるという意 味 を表 しており、いわゆる副 詞 的 な用 法 で出 現 していると考 えられる。本 研 究 では、形 容 詞 の 形 態 を保 ちつつも副 詞 的 な用 法 で使 用 される語 彙 を副 詞 的 形 容 詞 と呼 ぶ。動 詞 に副 詞 的 形 容 詞 が後 置 される表 現
(
以 下 『「動 詞 +副 詞 的 形 容 詞 」表 現 』と呼 ぶ)
は、以 下 で説 明 するように、表 現 によって程 度 の差 があるものの慣 用 句 的 表 現 であると考 えられる。(1) C'est la ligne droite ou tout au moins c'est le chemin le plus direct, le plus logique pour aller, venant du sud, très vite en Suisse sans se montrer et sans se faire prendre.
「これは一 直 線 の道 、いや少 なくとも南 から来 てスイスまで目 立 たず、襲 撃 もされずに素 早 く行 ける最 短 で最 も理 にかなった道 である。」
(GIONO Jean, Le Déserteur, 1966, p.195)
(2) Je suis allé tout droit vers le frigo et j’ai sorti quelques trucs sur la table.
「私 は冷 蔵 庫 にまっすぐ向 かい、いくつかの食 べ物 をテーブルに出 した。」
(DJIAN Philippe, 37°2 le matin, 1985, p.257)
1.副 詞 的 形 容 詞 について 1.1.副 詞 的 形 容 詞 の定 義
本 研 究 では「副 詞 的 形 容 詞 」と呼 ばれる要 素 を扱 うが、まずはこれを定 義 する必 要 が ある。本 研 究 では副 詞 的 形 容 詞 を以 下 のように定 義 する。
動 詞 句 内 で使 用 される形 容 詞 のうち、他 動 詞 が必 要 とする目 的 語 として、ま たは属 詞 として用 いられないものを副 詞 的 形 容 詞 と呼 ぶ。
上 の定 義 は消 去 法 的 な定 義 ではあるが、この定 義 をさらに詳 しく説 明 してゆく。まず、
動 詞 句 内 で使 用 される形 容 詞 の用 法 を概 観 する。フランス語 において動 詞 句 内 で使 用 さ れる形 容 詞 の用 法 を
Abeillé et Mouret(2010)
をもとに以 下 のように整 理 した。
主 語 属 詞(attribut du sujet)
目 的 語 属 詞(attribut de l’objet)
直 接 目 的 語(objet direct)
斜 格 補 語(complément oblique)
付 加 語(ajout)
1
番 目 の用 法 は例 文(3)
で見 られるような主 語 の属 詞 を表 す用 法 である。この用 法 で は形 容 詞 は主 語 の性 数 に一 致 し、主 語 の性 質 や属 性 を示 す。2
番 目 の用 法 は例 文(4a)
で見 られるような目 的 語 の属 詞 を表 す用 法 である。この用 法 でも、形 容 詞 は目 的 語 の名 詞 の性 数 に一 致 するほか、例 文(4b)
のような言 い換 えが可 能 である。3
番 目 の用 法 は例 文(5a)
で見 られるような他 動 詞 が必 要 とする直 接 目 的 語 として機 能 する用 法 である。このよう な用 法 では、形 容 詞 は一 般 的 に例 文(5b)
のように疑 問 代 名 詞que
で置 き換 えることが可 能 である。4
番 目 の用 法 は例 文(6)
で見 られるような斜 格 補 語 を表 す用 法 である。この用 法 では形 容 詞 は動 詞 が表 す動 作 の様 態 や数 量 表 現 、位 置 などを表 しているが、動 詞 が必 要 とする要 素 であると考 えられ、これを削 除 すると文 が容 認 されなくなるものである。5
番 目 の用 法 は例 文(7)
で見 られるような付 加 語 的 用 法 である。この用 法 では形 容 詞 は上 の斜 格 補 語 と同 様 に動 作 の様 態 や数 量 表 現 、位 置 などを表 すが、あくまでも付 加 的 な要 素 であ り、仮 に削 除 されたとしても文 を容 認 することが可 能 である。(3) Puisque les Inscriptions sont gratuites, je vais m'inscrire à la fois au Droit et aux Lettres.
「登 録 は無 料 なのだから、私 は法 学 部 と文 学 部 両 方 に登 録 します。」
(BAZIN Hervé, La Mort du petit cheval, 1950, p.74) (4a) Firmin ne surveillait pas Thérèse. Il la croyait bête.
「フィルマンはテレーズを警 戒 していなかった。彼 は彼 女 を馬 鹿 だと思 っていた。」
(GIONO Jean, Les Âmes fortes, 1950, p.347) (4b) Il croyait qu’elle était bête.
(5a) Chez nous, on mange français. Le soir, c'est pas la minestre, chez nous, c'est la soupe poireaux-pommes de terre.
「我 が家 ではフランス料 理 を食 べる。夜 は我 が家 ではイタリア風 スープではなくポロネ ギとじゃがいものスープだ。」(
CAVANNA François, Les Ritals, 1978, p.246
)(5b) Qu’est ce qu’on mange ?
「何 を食 べますか?」(6a) Il est allé très haut pour éviter le ravin.
「彼 は渓 谷 を避 けるべくかなり上 の方 に行 った。」
(GIONO Jean, L'Iris de Suse, 1970, p.404)
(6b) *Il est allé pour éviter le ravin.
(7) Et Nathan parla bas et clair sur un ton où ne perçait nulle ironie : (...).
「そしてナタンは小 さな声 ではっきりと、皮 肉 ではない調 子 で話 した(中 略
)
。」(LANZMANN Jacques, La Horde d'or, 1994, p.135)
本 研 究 では上 で取 り上 げた
5
つの用 法 のうち、他 動 詞 が必 要 とする目 的 語 でも属 詞 でもない用 法 、つまり例 文(6)
、(7)
のような斜 格 補 語 と付 加 語 にあたる用 法 の形 容 詞 を扱 う。なお、副 詞 という概 念 は「品 詞 のごみ箱 」と呼 ばれることもあるように、非 常 に多 くの要 素 を寄 せ集 めたものであるが、本 研 究 で対 象 とする語 彙 は動 詞 の様 態 や数 量 表 現 を示 す ものが多 い。そのことから、本 研 究 で取 り扱 う形 容 詞 は一 般 的 に例 文
(8)
や(9)
のように代 名 詞comment
やcombien
で置 き換 えることが可 能 である。しかしながら例 文(10)
のような慣 用 句 的 に使 用 されると考 えられる表 現 の一 部 ではこのような置 き換 えは不 可 能 である。(8) A : Elle parle comment ?
「彼 女 はどのように話 しますか?」
B : Elle parle si bas que souvent on ne l’entend pas.
「彼 女 はとても小 さい声 で話 すので、時 々聞 こえないことがあります。」
(
筆 者 作 例) (9) A : Tu as payé combien ?
「いくら払 いましたか?」
B : J’ai payé cher. 60 euros.
「高 かったです。
60
ユーロでした。」(
筆 者 作 例)
(10) A : *Quand Paul est en difficulté, il n'en mène pas comment ?
「*
ポールは困 難 な状 況 だと、どう付 く?」B : Il n’en mène pas large.
「彼 は怖 気 付 いちゃうね。」
(
筆 者 作 例)
このように、表 現 によって代 名 詞 化 が不 可 能 なものが見 られるものの、副 詞 的 形 容 詞 は動 詞 の様 態 や数 量 表 現 を示 す要 素 として機 能 するものが多 いと考 えられる。
1.2.副 詞 的 形 容 詞 という呼 称 および統 語 的 制 約
ここでは 本 研 究 で扱 う 語 彙 を「 形 容 詞 」 と呼 ぶ理 由 に ついて説 明 したい。本 研 究 で
「形 容 詞 」という呼 称 を採 用 する理 由 は
3
点 挙 げられる。1
点 目 は形 態 的 に形 容 詞 と同 じ形 態 であることである。上 でも取 り上 げたように、一 般 的 に形 容 詞 から副 詞 的 語 彙 を派 生 させる場 合 は、形 容 詞 の女 性 形 に接 尾 辞-ment
を付 加 して派 生 されるが、本 研 究 で扱 う語 彙 はそのような形 態 をとらない。2
点 目 は多 くの副 詞 と比 べ、文 中 で出 現 できる位 置 に制 約 が見 られることである。例 えば、Abeillé et Godard(2004)
によると、副 詞 的 形 容 詞 は例 文(11)
のように、完 了 時 制 に おける副 詞 の一 般 的 な出 現 位 置 である、助 動 詞 と過 去 分 詞 の間 に出 現 することができな い。(11) *Paul a cher payé cette erreur.
「ポールはその失 敗 に大 きなつけを払 った。」
(Abeillé et Godard 2004 : 211)
さらに、副 詞 の中 でもとりわけ音 節 数 の少 ない語 彙 は不 定 詞 の左 方 に出 現 することが できるが、副 詞 的 形 容 詞 は音 節 数 が少 ないものでもこのような位 置 での出 現 が容 認 されな い。
(12) *Est-ce qu’il compte lourd peser sur sa décision ?
「彼 は決 定 に影 響 をおよぼすつもりなのだろうか?」
(Abeillé et Godard 2004 : 212)
また、副 詞 的 形 容 詞 は他 の何 らかの副 詞 的 要 素 によって修 飾 されていない限 り、分
裂 構 文 に よ っ て 左 方 転 移 が で き な い と い う 点 も 挙 げ ら れ る 。 分 裂 構 文 はBlanche- Benveniste(2002)
、Sabio(2014)
でも動 詞 と文 中 の要 素 の間 の関 係 を確 認 するための統 語 テストとして使 用 されており、分 裂 構 文 によって左 方 転 移 できない副 詞 的 形 容 詞 は、接 尾 辞-ment
を伴 う副 詞 など一 般 的 な副 詞 的 要 素 とは文 中 における統 語 的 ステータスが異 な る可 能 性 が考 えられる。(13) *C’est cher que Paul a payé cette erreur.
「ポールがその失 敗 に払 ったのは大 きなつけだ。」
(Abeillé et Godard 2004 : 214)
以 上 の形 態 、統 語 的 な差 異 に加 え、これまでの先 行 研 究 が一 貫 して、本 研 究 が対 象 とする語 を「形 容 詞 」と呼 んでいる点 も挙 げられる。
Adjectif adverbial(Noailly 1994)
、Adjectif-adverbe(Hummel et Gazdik 2014)
、Adjectif invariable(Abeillé et Godard 2004)
、Adjectif invarié(Grundt 1972
、Guimier et Oueslati 2006)
と、これまでの研 究 では様 々な 呼 称 が与 えられ、研 究 によって対 象 範 囲 が部 分 的 に異 なるものの、一 貫 して「形 容 詞 」と 呼 ばれており、「副 詞 」として扱 われた研 究 は管 見 の限 りでは見 当 たらない。上 で説 明 した形 態 的 、統 語 的 、さらに慣 習 的 な観 点 から、本 研 究 では対 象 とする語 を形 容 詞 と呼 称 する。
1.3.副 詞 的 形 容 詞 と語 彙 的 制 約
上 の 1.2
.では、複 合 時 制 における助 動 詞 と過 去 分 詞 の間 や、不 定 詞 の左 側 に副 詞 的 形 容 詞 が出 現 できないということ、つまり副 詞 的 形 容 詞 が出 現 する表 現 には統 語 的 制 約 があることを述 べた。(6b) * Il est allé pour éviter le ravin.
(7) Et Nathan parla bas et clair sur un ton où ne perçait nulle ironie : (...).
「そしてナタンは小 さな声 ではっきりと、皮 肉 ではない調 子 で話 した(中 略
)
。」(LANZMANN Jacques, La Horde d'or, 1994, p.135)
本 研 究 では上 で取 り上 げた
5
つの用 法 のうち、他 動 詞 が必 要 とする目 的 語 でも属 詞 でもない用 法 、つまり例 文(6)
、(7)
のような斜 格 補 語 と付 加 語 にあたる用 法 の形 容 詞 を扱 う。なお、副 詞 という概 念 は「品 詞 のごみ箱 」と呼 ばれることもあるように、非 常 に多 くの要 素 を寄 せ集 めたものであるが、本 研 究 で対 象 とする語 彙 は動 詞 の様 態 や数 量 表 現 を示 す ものが多 い。そのことから、本 研 究 で取 り扱 う形 容 詞 は一 般 的 に例 文
(8)
や(9)
のように代 名 詞comment
やcombien
で置 き換 えることが可 能 である。しかしながら例 文(10)
のような慣 用 句 的 に使 用 されると考 えられる表 現 の一 部 ではこのような置 き換 えは不 可 能 である。(8) A : Elle parle comment ?
「彼 女 はどのように話 しますか?」
B : Elle parle si bas que souvent on ne l’entend pas.
「彼 女 はとても小 さい声 で話 すので、時 々聞 こえないことがあります。」
(
筆 者 作 例) (9) A : Tu as payé combien ?
「いくら払 いましたか?」
B : J’ai payé cher. 60 euros.
「高 かったです。
60
ユーロでした。」(
筆 者 作 例)
(10) A : *Quand Paul est en difficulté, il n'en mène pas comment ?
「*
ポールは困 難 な状 況 だと、どう付 く?」B : Il n’en mène pas large.
「彼 は怖 気 付 いちゃうね。」
(
筆 者 作 例)
このように、表 現 によって代 名 詞 化 が不 可 能 なものが見 られるものの、副 詞 的 形 容 詞 は動 詞 の様 態 や数 量 表 現 を示 す要 素 として機 能 するものが多 いと考 えられる。
1.2.副 詞 的 形 容 詞 という呼 称 および統 語 的 制 約
ここでは 本 研 究 で扱 う 語 彙 を「 形 容 詞 」 と呼 ぶ理 由 に ついて説 明 したい。本 研 究 で
「形 容 詞 」という呼 称 を採 用 する理 由 は
3
点 挙 げられる。1
点 目 は形 態 的 に形 容 詞 と同 じ形 態 であることである。上 でも取 り上 げたように、一 般 的 に形 容 詞 から副 詞 的 語 彙 を派 生 させる場 合 は、形 容 詞 の女 性 形 に接 尾 辞-ment
を付 加 して派 生 されるが、本 研 究 で扱 う語 彙 はそのような形 態 をとらない。2
点 目 は多 くの副 詞 と比 べ、文 中 で出 現 できる位 置 に制 約 が見 られることである。例 えば、Abeillé et Godard(2004)
によると、副 詞 的 形 容 詞 は例 文(11)
のように、完 了 時 制 に おける副 詞 の一 般 的 な出 現 位 置 である、助 動 詞 と過 去 分 詞 の間 に出 現 することができな い。(11) *Paul a cher payé cette erreur.
「ポールはその失 敗 に大 きなつけを払 った。」
(Abeillé et Godard 2004 : 211)
さらに、副 詞 の中 でもとりわけ音 節 数 の少 ない語 彙 は不 定 詞 の左 方 に出 現 することが できるが、副 詞 的 形 容 詞 は音 節 数 が少 ないものでもこのような位 置 での出 現 が容 認 されな い。
(12) *Est-ce qu’il compte lourd peser sur sa décision ?
「彼 は決 定 に影 響 をおよぼすつもりなのだろうか?」
(Abeillé et Godard 2004 : 212)
また、副 詞 的 形 容 詞 は他 の何 らかの副 詞 的 要 素 によって修 飾 されていない限 り、分
裂 構 文 に よ っ て 左 方 転 移 が で き な い と い う 点 も 挙 げ ら れ る 。 分 裂 構 文 はBlanche- Benveniste(2002)
、Sabio(2014)
でも動 詞 と文 中 の要 素 の間 の関 係 を確 認 するための統 語 テストとして使 用 されており、分 裂 構 文 によって左 方 転 移 できない副 詞 的 形 容 詞 は、接 尾 辞-ment
を伴 う副 詞 など一 般 的 な副 詞 的 要 素 とは文 中 における統 語 的 ステータスが異 な る可 能 性 が考 えられる。(13) *C’est cher que Paul a payé cette erreur.
「ポールがその失 敗 に払 ったのは大 きなつけだ。」
(Abeillé et Godard 2004 : 214)
以 上 の形 態 、統 語 的 な差 異 に加 え、これまでの先 行 研 究 が一 貫 して、本 研 究 が対 象 とする語 を「形 容 詞 」と呼 んでいる点 も挙 げられる。
Adjectif adverbial(Noailly 1994)
、Adjectif-adverbe(Hummel et Gazdik 2014)
、Adjectif invariable(Abeillé et Godard 2004)
、Adjectif invarié(Grundt 1972
、Guimier et Oueslati 2006)
と、これまでの研 究 では様 々な 呼 称 が与 えられ、研 究 によって対 象 範 囲 が部 分 的 に異 なるものの、一 貫 して「形 容 詞 」と 呼 ばれており、「副 詞 」として扱 われた研 究 は管 見 の限 りでは見 当 たらない。上 で説 明 した形 態 的 、統 語 的 、さらに慣 習 的 な観 点 から、本 研 究 では対 象 とする語 を形 容 詞 と呼 称 する。
1.3.副 詞 的 形 容 詞 と語 彙 的 制 約
上 の 1.2
.では、複 合 時 制 における助 動 詞 と過 去 分 詞 の間 や、不 定 詞 の左 側 に副 詞 的 形 容 詞 が出 現 できないということ、つまり副 詞 的 形 容 詞 が出 現 する表 現 には統 語 的 制 約 があることを述 べた。ここでは、副 詞 的 形 容 詞 には統 語 的 な制 約 に加 え語 彙 的 制 約 も課 されることを示 し てゆく。例 えば、例 文
(14a)
では動 詞payer
に形 容 詞cher
を後 置 させることで「高 い金 額 を 支 払 う」という意 味 が見 られるが、ここで現 れる形 容 詞cher
を例 文(14b)
のように同 義 語 で あると考 えられる形 容 詞coûteux
で置 き換 えると容 認 することができなくなる。このように副 詞 的 形 容 詞 は同 義 語 による範 列 を構 成 することが困 難 であるという特 徴 を指 摘 できる。(14a) (…) rendre service au personnel, c’est en particulier le payer cher pour un travail réduit.
「従 業 員 に貢 献 すること、それはとりわけ少 ない仕 事 に対 して高 い給 料 を支 払 うこと である。」(
WILBOIS Joseph, Comment fonctionne une entreprise, 1941, p.5
)(14b) *(…) c'est en particulier le payer coûteux pour un travail réduit.
従 来 の言 語 学 では、一 般 的 に言 語 表 現 は語 彙 を文 法 規 則 にのっとり構 成 することで
生 み出 されると考 えられている。このような表 現 を「自 由 な連 辞 」1と呼 ぶが、副 詞 的 形 容 詞 が出 現 する表 現 は統 語 的 な制 約 が見 られるほか、同 義 語 による範 列 を構 成 することが困 難 であるという特 徴 が見 られる。そのことから、冒 頭 でも述 べたように、本 研 究 で取 り扱 う表 現 は自 由 な連 辞 ではなく、むしろ慣 用 句 的 な表 現 であると考 えることができる。2.凝 結 表 現 について 2.1.凝 結 とは
上 で述 べたように、本 研 究 は「動 詞
+
副 詞 的 形 容 詞 」表 現 が慣 用 句 的 な表 現 であると い う 前 提 に 基 づ き 議 論 を 進 め て ゆ く が 、 分 析 に 際 し て 凝 結 と い う 概 念 を 援 用 す る 。G.Gross(1996)
によれば、凝 結 表 現 と呼 ばれる表 現 は以 下 の基 準 によって判 断 することが できる。A) L’opacité sémantique (
意 味 の不 透 明 性)
B) Le blocage des propriétés transformationnelles (
変 形 の非 容 認) C) Non-actualisaiton des éléments (
構 成 要 素 の非 現 働 化)
D) Blocage des paradigmes synonimiques (
同 義 語 範 列 の非 容 認) E) Non-insertion (
挿 入 の非 容 認)
以 上 のように凝 結 の概 念 は統 語 的 側 面 のみならず意 味 的 、語 彙 的 な側 面 も含 めた 複 合 的 な要 素 が関 連 している現 象 であることが分 かる。
また
Lamiroy(2008)
が指 摘 するように、上 記 の制 約 は全 ての凝 結 表 現 に適 用 される わ け で は な い こ と に 留 意 し な く て は な ら な い 。 そ の 結 果 と し て 、G. Gross(1996)
や1 本 研 究 では M.Gross(1982)が指 摘 するように、意 味 的 な観 点 からしか制 限 されず、主 語 と補 語 が自 由 な分 布 を示 す文 を自 由 な連 辞 と定 義 する。
Mejri(2005)
など凝 結 を扱 う研 究 者 の多 くが 認 めるように、自 由 な連 辞 と完 全 に凝 結 した 表 現 の間 には凝 結 の度 合 いに応 じた連 続 体 が存 在 するということが言 える。2.2.副 詞 的 形 容 詞 と凝 結 表 現
上 記 の
G.Gross(1996)
による基 準 を副 詞 的 形 容 詞 が使 用 される用 例 に当 てはめて検 討 する。例 えば、例 文(7)
ではparler
にbas
が後 置 され、これらの動 詞 と形 容 詞 の組 み合 わせで「小 さい声 で話 す」という意 味 になる。形 容 詞bas
は一 般 的 に位 置 的 、質 的 に「低 い」という意 味 を表 し、声 など音 の強 さを表 す場 合 はごく少 数 の語 彙 と共 起 した時 のみであ る2。しかしながら、例 文(7)
ではparler
と共 起 することで「小 さい声 で」という意 味 が生 じてい ると考 えられる。このように副 詞 的 形 容 詞 の中 には、表 現 全 体 の意 味 が構 成 要 素 の元 の 意 味 から離 れ意 味 的 に不 透 明 になっていると考 えられるものがある。(7) Et Nathan parla bas et clair sur un ton où ne perçait nulle ironie : (...).
「そしてナタンは小 さな声 ではっきりと、皮 肉 ではない調 子 で話 した(中 略
)
。」(LANZMANN Jacques, La Horde d'or, 1994, p.135)
また、例 文
(12)
や(13)
で見 られるように、副 詞 的 形 容 詞 は多 くの 場 合 で動 詞 の右 方 以 外 での出 現 が容 認 されない、つまり変 形 が容 認 されていないことが分 かる。さらに例 文(12)
のように形 容 詞 が指 示 する対 象 が現 実 世 界 に存 在 せず、要 素 が非 現 働 化 していると 考 えられる表 現 も存 在 する。(12) *Est-ce qu’il compte lourd peser sur sa décision ?
「彼 は決 定 に影 響 をおよぼすつもりなのだろうか?」
(Abeillé et Godard 2004 : 212) (13) *C’est cher que Paul a payé cette erreur.
「ポールがその失 敗 に払 ったのは大 きなつけだ。」
(Abeillé et Godard 2004 : 214)
さらに、例 文
(14b)
のように形 容 詞cher
を同 義 語 であるcoûteux
で置 き換 えると文 を 容 認 することができなくなることから、同 義 語 範 列 が容 認 されないことが分 かる。(14b) *(…) c'est en particulier le payer coûteux pour un travail réduit.
このように、全 ての基 準 が全 ての表 現 に等 しく適 用 されるわけではないものの、副 詞
的 形 容 詞 が用 いられる表 現 は自 由 な連 辞 ではなく凝 結 表 現 であることが言 える。また、表 現 によって凝 結 の度 合 いに違 いが見 られるということが分 かる。フランス語 の副 詞 的 形 容 詞 を凝 結 表 現 の観 点 から分 析 した研 究 としては
Guimier et
2 例 えばà voix basseという表 現 では「小 さい声 で」という意 味 になる。
ここでは、副 詞 的 形 容 詞 には統 語 的 な制 約 に加 え語 彙 的 制 約 も課 されることを示 し てゆく。例 えば、例 文
(14a)
では動 詞payer
に形 容 詞cher
を後 置 させることで「高 い金 額 を 支 払 う」という意 味 が見 られるが、ここで現 れる形 容 詞cher
を例 文(14b)
のように同 義 語 で あると考 えられる形 容 詞coûteux
で置 き換 えると容 認 することができなくなる。このように副 詞 的 形 容 詞 は同 義 語 による範 列 を構 成 することが困 難 であるという特 徴 を指 摘 できる。(14a) (…) rendre service au personnel, c’est en particulier le payer cher pour un travail réduit.
「従 業 員 に貢 献 すること、それはとりわけ少 ない仕 事 に対 して高 い給 料 を支 払 うこと である。」(
WILBOIS Joseph, Comment fonctionne une entreprise, 1941, p.5
)(14b) *(…) c'est en particulier le payer coûteux pour un travail réduit.
従 来 の言 語 学 では、一 般 的 に言 語 表 現 は語 彙 を文 法 規 則 にのっとり構 成 することで
生 み出 されると考 えられている。このような表 現 を「自 由 な連 辞 」1と呼 ぶが、副 詞 的 形 容 詞 が出 現 する表 現 は統 語 的 な制 約 が見 られるほか、同 義 語 による範 列 を構 成 することが困 難 であるという特 徴 が見 られる。そのことから、冒 頭 でも述 べたように、本 研 究 で取 り扱 う表 現 は自 由 な連 辞 ではなく、むしろ慣 用 句 的 な表 現 であると考 えることができる。2.凝 結 表 現 について 2.1.凝 結 とは
上 で述 べたように、本 研 究 は「動 詞
+
副 詞 的 形 容 詞 」表 現 が慣 用 句 的 な表 現 であると い う 前 提 に 基 づ き 議 論 を 進 め て ゆ く が 、 分 析 に 際 し て 凝 結 と い う 概 念 を 援 用 す る 。G.Gross(1996)
によれば、凝 結 表 現 と呼 ばれる表 現 は以 下 の基 準 によって判 断 することが できる。A) L’opacité sémantique (
意 味 の不 透 明 性)
B) Le blocage des propriétés transformationnelles (
変 形 の非 容 認) C) Non-actualisaiton des éléments (
構 成 要 素 の非 現 働 化)
D) Blocage des paradigmes synonimiques (
同 義 語 範 列 の非 容 認) E) Non-insertion (
挿 入 の非 容 認)
以 上 のように凝 結 の概 念 は統 語 的 側 面 のみならず意 味 的 、語 彙 的 な側 面 も含 めた 複 合 的 な要 素 が関 連 している現 象 であることが分 かる。
また
Lamiroy(2008)
が指 摘 するように、上 記 の制 約 は全 ての凝 結 表 現 に適 用 される わ け で は な い こ と に 留 意 し な く て は な ら な い 。 そ の 結 果 と し て 、G. Gross(1996)
や1 本 研 究 では M.Gross(1982)が指 摘 するように、意 味 的 な観 点 からしか制 限 されず、主 語 と補 語 が自 由 な分 布 を示 す文 を自 由 な連 辞 と定 義 する。
Mejri(2005)
など凝 結 を扱 う研 究 者 の多 くが 認 めるように、自 由 な連 辞 と完 全 に凝 結 した 表 現 の間 には凝 結 の度 合 いに応 じた連 続 体 が存 在 するということが言 える。2.2.副 詞 的 形 容 詞 と凝 結 表 現
上 記 の
G.Gross(1996)
による基 準 を副 詞 的 形 容 詞 が使 用 される用 例 に当 てはめて検 討 する。例 えば、例 文(7)
ではparler
にbas
が後 置 され、これらの動 詞 と形 容 詞 の組 み合 わせで「小 さい声 で話 す」という意 味 になる。形 容 詞bas
は一 般 的 に位 置 的 、質 的 に「低 い」という意 味 を表 し、声 など音 の強 さを表 す場 合 はごく少 数 の語 彙 と共 起 した時 のみであ る2。しかしながら、例 文(7)
ではparler
と共 起 することで「小 さい声 で」という意 味 が生 じてい ると考 えられる。このように副 詞 的 形 容 詞 の中 には、表 現 全 体 の意 味 が構 成 要 素 の元 の 意 味 から離 れ意 味 的 に不 透 明 になっていると考 えられるものがある。(7) Et Nathan parla bas et clair sur un ton où ne perçait nulle ironie : (...).
「そしてナタンは小 さな声 ではっきりと、皮 肉 ではない調 子 で話 した(中 略
)
。」(LANZMANN Jacques, La Horde d'or, 1994, p.135)
また、例 文
(12)
や(13)
で見 られるように、副 詞 的 形 容 詞 は多 くの 場 合 で動 詞 の右 方 以 外 での出 現 が容 認 されない、つまり変 形 が容 認 されていないことが分 かる。さらに例 文(12)
のように形 容 詞 が指 示 する対 象 が現 実 世 界 に存 在 せず、要 素 が非 現 働 化 していると 考 えられる表 現 も存 在 する。(12) *Est-ce qu’il compte lourd peser sur sa décision ?
「彼 は決 定 に影 響 をおよぼすつもりなのだろうか?」
(Abeillé et Godard 2004 : 212) (13) *C’est cher que Paul a payé cette erreur.
「ポールがその失 敗 に払 ったのは大 きなつけだ。」
(Abeillé et Godard 2004 : 214)
さらに、例 文
(14b)
のように形 容 詞cher
を同 義 語 であるcoûteux
で置 き換 えると文 を 容 認 することができなくなることから、同 義 語 範 列 が容 認 されないことが分 かる。(14b) *(…) c'est en particulier le payer coûteux pour un travail réduit.
このように、全 ての基 準 が全 ての表 現 に等 しく適 用 されるわけではないものの、副 詞
的 形 容 詞 が用 いられる表 現 は自 由 な連 辞 ではなく凝 結 表 現 であることが言 える。また、表 現 によって凝 結 の度 合 いに違 いが見 られるということが分 かる。フランス語 の副 詞 的 形 容 詞 を凝 結 表 現 の観 点 から分 析 した研 究 としては
Guimier et
2 例 えばà voix basseという表 現 では「小 さい声 で」という意 味 になる。
Oueslati(2006)
が挙 げられる。この研 究 では、本 研 究 と同 様 に副 詞 的 形 容 詞 が出 現 する 表 現 を自 由 な連 辞 ではなく慣 用 句 的 なものであると仮 定 し、複 数 の統 語 テストを基 にして これらの凝 結 度 を分 析 している。しかしながら、この研 究 では、統 語 テストを基 に各 表 現 の凝 結 度 を分 析 したにとどまっ ており、実 際 の用 例 に基 づいた分 析 はなされていない。そのことから本 研 究 では「動 詞 + 副 詞 的 形 容 詞 」表 現 は凝 結 表 現 であると捉 え、実 際 の用 例 を基 に分 析 してゆく。
2.3.副 詞 的 形 容 詞 と強 意 の要 素
関
(2017)
は動 詞 と副 詞 的 形 容 詞 の間 には強 意 等 を示 し意 味 が動 詞 にかかる副 詞 が 高 い頻 度 で出 現 することを指 摘 している。例 えば、
coûter cher
という表 現 はこの研 究 の調 査 範 囲 では320
例 出 現 しているが、下 記 の表
1
のとおり、そのうち約4
割 にあたる140
例 において動 詞 と形 容 詞 の間 に強 意 や比 較 級 を示 す副 詞 的 要 素 が出 現 している。表
1 coûter cher
における強 意 や比 較 級 の要 素(
関2017
:10)
3 強 意 や比 較 級 を表 す要 素 頻 度très 33 (10.31%)
plus 26 (8.12%)
moins 24 (7.50%)
trop 21 (6.56%)
si 13 (4.06%)
assez 8 (2.50%)
fort 5 (1.56%)
aussi 3 (0.93%)
de plus en plus 3 (0.93%)
extrêmement 1 (0.31%)
particulièrement 1 (0.31%)
terriblement 1 (0.31%)
sûrement 1 (0.31%)
合 計
140 (43.75%)
また副 詞 的 形 容 詞 が用 いられる表 現 の中 には、例
(15)
のaller tout droit(
まっすぐ行3 百 分 率 による頻 度 の表 記 は本 論 文 の執 筆 にあたって追 記 した。
く
)
のように副 詞tout
を動 詞 と形 容 詞 の間 から取 り除 くと容 認 されない、もしくは意 味 が変 わ ってしまう表 現 も存 在 している。そのことから、強 意 等 を表 す副 詞 は単 に文 字 通 り強 意 の意 味 を表 すにとどまらず、副 詞 的 形 容 詞 を導 入 する要 素 として機 能 していると仮 定 できる。本 研 究 では、強 意 を示 す要 素 がどのような条 件 下 でより頻 繁 に出 現 する傾 向 があるかとい う点 に注 目 して分 析 する。
(15) Je suis allé tout droit dans la cuisine, j'ai sorti les trucs sur la table et je me suis activé.
「私 は台 所 にまっすぐ向 かい、テーブルに道 具 を取 り出 し、準 備 を始 めた。」
(DJIAN Philippe, 37°2 le matin, 1985, p.160)
3.研 究 の方 向 性 3.1.研 究 目 的
上 では副 詞 的 形 容 詞 の特 徴 を概 観 し、「動 詞 +副 詞 的 形 容 詞 」表 現 が凝 結 表 現 と
呼 ぶべきものであることを指 摘 した。さらに、動 詞 と副 詞 的 形 容 詞 の間 には高 い頻 度 で強 意 の副 詞 が出 現 することも述 べた。これらの点 を踏 まえた本 研 究 の目 的 は以 下 のとおりで ある。本 研 究 では、コーパスを用 いて特 に頻 度 の高 い「動 詞 +形 容 詞 」表 現 を調 査 し、凝 結 の度 合 いと動 詞 と副 詞 的 形 容 詞 の間 に出 現 する強 意 の要 素 の 頻 度 に関 連 があるかを分 析 する。
本 研 究 では複 数 の「動 詞 +副 詞 的 形 容 詞 」表 現 の凝 結 度 を検 討 するが、まず 意 味 的 な側 面 に注 目 し、その上 で統 語 的 、語 彙 的 面 で特 徴 的 な制 約 がある表 現 はその点 に関 しても検 討 する。
3.2.対 象 表 現 (形 容 詞 )
副 詞 的 に使 用 できる形 容 詞 の語 彙 は少 なくないが、本 研 究 ではその中 でも形 容 詞 fort
に絞 って調 査 および分 析 を行 う。形 容 詞fort
を選 んだ要 因 は以 下 の2
点 である。(ⅰ)
形 容 詞fort
のトークン頻 度4が高 い。(ⅱ)
形 容 詞fort
と共 起 することができる動 詞 のタイプ頻 度5が高 い。第 一 に、副 詞 的 形 容 詞 fort
のトークン頻 度 が高 いという点 が挙 げられる。本 研 究 に際4 トークン頻 度 とは、表 現 自 体 の頻 度 を表 す。
5 タイプ頻 度 とは、ある形 式 の中 で置 き換 え可 能 な部 分(ここではある形 容 詞 と共 起 できる動 詞)の種 類 の数 を表 す。
Oueslati(2006)
が挙 げられる。この研 究 では、本 研 究 と同 様 に副 詞 的 形 容 詞 が出 現 する 表 現 を自 由 な連 辞 ではなく慣 用 句 的 なものであると仮 定 し、複 数 の統 語 テストを基 にして これらの凝 結 度 を分 析 している。しかしながら、この研 究 では、統 語 テストを基 に各 表 現 の凝 結 度 を分 析 したにとどまっ ており、実 際 の用 例 に基 づいた分 析 はなされていない。そのことから本 研 究 では「動 詞 + 副 詞 的 形 容 詞 」表 現 は凝 結 表 現 であると捉 え、実 際 の用 例 を基 に分 析 してゆく。
2.3.副 詞 的 形 容 詞 と強 意 の要 素
関
(2017)
は動 詞 と副 詞 的 形 容 詞 の間 には強 意 等 を示 し意 味 が動 詞 にかかる副 詞 が 高 い頻 度 で出 現 することを指 摘 している。例 えば、
coûter cher
という表 現 はこの研 究 の調 査 範 囲 では320
例 出 現 しているが、下 記 の表
1
のとおり、そのうち約4
割 にあたる140
例 において動 詞 と形 容 詞 の間 に強 意 や比 較 級 を示 す副 詞 的 要 素 が出 現 している。表
1 coûter cher
における強 意 や比 較 級 の要 素(
関2017
:10)
3 強 意 や比 較 級 を表 す要 素 頻 度très 33 (10.31%)
plus 26 (8.12%)
moins 24 (7.50%)
trop 21 (6.56%)
si 13 (4.06%)
assez 8 (2.50%)
fort 5 (1.56%)
aussi 3 (0.93%)
de plus en plus 3 (0.93%)
extrêmement 1 (0.31%)
particulièrement 1 (0.31%)
terriblement 1 (0.31%)
sûrement 1 (0.31%)
合 計
140 (43.75%)
また副 詞 的 形 容 詞 が用 いられる表 現 の中 には、例
(15)
のaller tout droit(
まっすぐ行3 百 分 率 による頻 度 の表 記 は本 論 文 の執 筆 にあたって追 記 した。
く
)
のように副 詞tout
を動 詞 と形 容 詞 の間 から取 り除 くと容 認 されない、もしくは意 味 が変 わ ってしまう表 現 も存 在 している。そのことから、強 意 等 を表 す副 詞 は単 に文 字 通 り強 意 の意 味 を表 すにとどまらず、副 詞 的 形 容 詞 を導 入 する要 素 として機 能 していると仮 定 できる。本 研 究 では、強 意 を示 す要 素 がどのような条 件 下 でより頻 繁 に出 現 する傾 向 があるかとい う点 に注 目 して分 析 する。
(15) Je suis allé tout droit dans la cuisine, j'ai sorti les trucs sur la table et je me suis activé.
「私 は台 所 にまっすぐ向 かい、テーブルに道 具 を取 り出 し、準 備 を始 めた。」
(DJIAN Philippe, 37°2 le matin, 1985, p.160)
3.研 究 の方 向 性 3.1.研 究 目 的
上 では副 詞 的 形 容 詞 の特 徴 を概 観 し、「動 詞 +副 詞 的 形 容 詞 」表 現 が凝 結 表 現 と
呼 ぶべきものであることを指 摘 した。さらに、動 詞 と副 詞 的 形 容 詞 の間 には高 い頻 度 で強 意 の副 詞 が出 現 することも述 べた。これらの点 を踏 まえた本 研 究 の目 的 は以 下 のとおりで ある。本 研 究 では、コーパスを用 いて特 に頻 度 の高 い「動 詞 +形 容 詞 」表 現 を調 査 し、凝 結 の度 合 いと動 詞 と副 詞 的 形 容 詞 の間 に出 現 する強 意 の要 素 の 頻 度 に関 連 があるかを分 析 する。
本 研 究 では複 数 の「動 詞 +副 詞 的 形 容 詞 」表 現 の凝 結 度 を検 討 するが、まず 意 味 的 な側 面 に注 目 し、その上 で統 語 的 、語 彙 的 面 で特 徴 的 な制 約 がある表 現 はその点 に関 しても検 討 する。
3.2.対 象 表 現 (形 容 詞 )
副 詞 的 に使 用 できる形 容 詞 の語 彙 は少 なくないが、本 研 究 ではその中 でも形 容 詞 fort
に絞 って調 査 および分 析 を行 う。形 容 詞fort
を選 んだ要 因 は以 下 の2
点 である。(ⅰ)
形 容 詞fort
のトークン頻 度4が高 い。(ⅱ)
形 容 詞fort
と共 起 することができる動 詞 のタイプ頻 度5が高 い。第 一 に、副 詞 的 形 容 詞 fort
のトークン頻 度 が高 いという点 が挙 げられる。本 研 究 に際4 トークン頻 度 とは、表 現 自 体 の頻 度 を表 す。
5 タイプ頻 度 とは、ある形 式 の中 で置 き換 え可 能 な部 分(ここではある形 容 詞 と共 起 できる動 詞)の種 類 の数 を表 す。
して、筆 者 はフランス語 の書 き言 葉 のコーパスである
Frantext
6で形 容 詞fort
の出 現 頻 度 を確 認 したが、形 容 詞fort
のトークン頻 度 は11226
例 であった7。形 容 詞fort
の出 現 頻 度 は副 詞 的 形 容 詞 として出 現 する語 彙 の中 で最 も高 いものの一 つであると考 えられる。さら に、副 詞 的 形 容 詞fort
は共 起 する動 詞 のタイプ頻 度 も高 いということが言 える。筆 者 がFrantext
で調 査 した限 りでは、375
の動 詞 と共 起 していた。副 詞 的 形 容 詞 は共 起 できる動 詞 のタイプ頻 度 が少 ない、つまり範 列 が狭 い場 合 が多 いが、形 容 詞fort
に関 しては例 外 的 であるということができる8。まず、形 容 詞
fort
の意 味 がどのようなものであるかを確 認 する。この形 容 詞 は多 義 的 な語 彙 であると言 えるが、TLFi
によれば、以 下 のように大 きく分 類 することができる。① 物 理 的 な力 を示 す(
un homme fort
、cheval fort
、muscule fort
など)② 人 間 世 界 における行 為 の力 を示 す(
Le Dieu fort
、gouvernement fort
など)③ 知 的 ・道 義 的 な秩 序 の力 を示 す(
un homme très fort
、esprit fort
など)④ ある要 素 の程 度 が高 いことを示 す(
chaleur forte
、fromage fort
、prix fort
など)上 の分 類 を基 に考 えると、最 も上 に記 述 されており、かつ共 起 可 能 な名 詞 の数 が多 いと考 えられる①の「物 理 的 な力 」がこの形 容 詞 の中 心 的 意 味 であり、そこから他 の意 味 が 派 生 していると考 えられる。一 方 で、④の「要 素 の程 度 の高 さ」を示 す用 法 は、生 物 を示 す 名 詞 が共 起 できないなど共 起 制 限 が見 られるほか、 「高 い金 額 」を示 す
prix fort
や「強 い 意 味 の言 葉 」を示 すparole forte
の場 合 が顕 著 であるが、「物 理 的 な力 」という中 心 的 な意 味 から離 れていると考 えられる。3.3.対 象 表 現 (動 詞 )
上 で見 たように形 容 詞
fort
は非 常 に多 くの動 詞 と共 起 することが可 能 であり、共 起 す る動 詞 のトークン頻 度 は375
である。当 然 ながら、ここで全 ての動 詞 を扱 うことは不 可 能 で ある。そのため、本 研 究 ではFrantext
上 での頻 度 を基 に、とりわけfort
と共 起 する頻 度 の 高 い動 詞 に特 に注 目 して調 査 を行 ってゆく。今 回 調 査 した限 りで最 も頻 度 が高 い動 詞 は 以 下 の表2
のとおりである。6 本 研 究 では 1950 年 から2013 年 までの小 説(Roman)に該 当 する用 例 のみを検 索 対 象 としている。
7 「動 詞 +副 詞 的 形 容 詞 」表 現 として動 詞 の様 態 等 を示 す用 法 だけではなく、名 詞 句 における用 法 など全 ての用 法 における出 現 数 である。
8 例 えば形 容 詞 cher はpayer やcoûter、形 容 詞 bonは sentirやtenirなど少 数 の動 詞 とのみ共 起 する。
表
2 fort
と共 起 する頻 度 が最 も高 い動 詞動 詞 用 例 数
動 詞 用 例 数
1 serrer 246 11 souffler 49
2 parler 193 12 aimer 40
3 aller 139 13 taper 36
4 crier 132 14 cogner 33
5 rire 94 15 dire 31
6 battre 82 16 penser 31
7 respirer 70 17 appuyer 30
8 embrasser 68 18 tirer 28
9 sentir 66 19 gueuler 27
10 frapper 58 20 tenir 27
上 の表
2
では形 容 詞fort
と共 起 する頻 度 が最 も高 い20
の動 詞 を示 した。本 研 究 で はその中 でも特 に頻 度 が高 い動 詞serrer
とparler
、aller
と形 容 詞fort
との組 み合 わせに 注 目 して分 析 を行 う。3.4.分 析 方 法
本 研 究 では、コーパスを用 いた分 析 を行 うが、分 析 資 料 として
Frantext
を使 用 する。このコーパスは主 に文 学 作 品 の用 例 を収 録 していることから、本 研 究 が対 象 とする領 域 は 書 きことばのフランス語 である。さらに、
Frantext
はジャンルや、著 者 、年 代 によって検 索 対 象 を細 かく限 定 することができる。本 研 究 では、1950
年 から2013
年(
調 査 時 点 での最 新 データ)
の間 に出 版 された作 品 、かつ比 較 的 用 例 数 の多 い小 説(Roman)
のジャンルに当 てはまる用 例 に対 象 を絞 って調 査 を行 った。4.分 析
4.1.serrer fort
の場 合まず最 も頻 度 の高 い
serrer fort
であるが、この表 現 は例 文(16)
のように「強 くつかむ」という意 味 、また人 を表 す目 的 語 をとる場 合 は「強 く抱 きしめる」という意 味 になる。また用 例 数 は
fort
と比 べると極 めて少 ないものの、接 尾 辞-ment
を伴 うfortement
によって置 き換 えが可 能 であり同 様 の意 味 をもたらすことができる。こ の 表 現 の 凝 結 度 を 意 味 の 観 点 か ら 見 た い 。 こ の 表 現 に お い て 使 用 さ れ る 動 詞
serrer
は中 心 的 な意 味 で使 用 されていると考 えられる。また形 容 詞fort
も3.2
.で見 た意して、筆 者 はフランス語 の書 き言 葉 のコーパスである
Frantext
6で形 容 詞fort
の出 現 頻 度 を確 認 したが、形 容 詞fort
のトークン頻 度 は11226
例 であった7。形 容 詞fort
の出 現 頻 度 は副 詞 的 形 容 詞 として出 現 する語 彙 の中 で最 も高 いものの一 つであると考 えられる。さら に、副 詞 的 形 容 詞fort
は共 起 する動 詞 のタイプ頻 度 も高 いということが言 える。筆 者 がFrantext
で調 査 した限 りでは、375
の動 詞 と共 起 していた。副 詞 的 形 容 詞 は共 起 できる動 詞 のタイプ頻 度 が少 ない、つまり範 列 が狭 い場 合 が多 いが、形 容 詞fort
に関 しては例 外 的 であるということができる8。まず、形 容 詞
fort
の意 味 がどのようなものであるかを確 認 する。この形 容 詞 は多 義 的 な語 彙 であると言 えるが、TLFi
によれば、以 下 のように大 きく分 類 することができる。① 物 理 的 な力 を示 す(
un homme fort
、cheval fort
、muscule fort
など)② 人 間 世 界 における行 為 の力 を示 す(
Le Dieu fort
、gouvernement fort
など)③ 知 的 ・道 義 的 な秩 序 の力 を示 す(
un homme très fort
、esprit fort
など)④ ある要 素 の程 度 が高 いことを示 す(
chaleur forte
、fromage fort
、prix fort
など)上 の分 類 を基 に考 えると、最 も上 に記 述 されており、かつ共 起 可 能 な名 詞 の数 が多 いと考 えられる①の「物 理 的 な力 」がこの形 容 詞 の中 心 的 意 味 であり、そこから他 の意 味 が 派 生 していると考 えられる。一 方 で、④の「要 素 の程 度 の高 さ」を示 す用 法 は、生 物 を示 す 名 詞 が共 起 できないなど共 起 制 限 が見 られるほか、 「高 い金 額 」を示 す
prix fort
や「強 い 意 味 の言 葉 」を示 すparole forte
の場 合 が顕 著 であるが、「物 理 的 な力 」という中 心 的 な意 味 から離 れていると考 えられる。3.3.対 象 表 現 (動 詞 )
上 で見 たように形 容 詞
fort
は非 常 に多 くの動 詞 と共 起 することが可 能 であり、共 起 す る動 詞 のトークン頻 度 は375
である。当 然 ながら、ここで全 ての動 詞 を扱 うことは不 可 能 で ある。そのため、本 研 究 ではFrantext
上 での頻 度 を基 に、とりわけfort
と共 起 する頻 度 の 高 い動 詞 に特 に注 目 して調 査 を行 ってゆく。今 回 調 査 した限 りで最 も頻 度 が高 い動 詞 は 以 下 の表2
のとおりである。6 本 研 究 では 1950 年 から2013 年 までの小 説(Roman)に該 当 する用 例 のみを検 索 対 象 としている。
7 「動 詞 +副 詞 的 形 容 詞 」表 現 として動 詞 の様 態 等 を示 す用 法 だけではなく、名 詞 句 における用 法 など全 ての用 法 における出 現 数 である。
8 例 えば形 容 詞 cher は payerやcoûter、形 容 詞 bonは sentirやtenir など少 数 の動 詞 とのみ共 起 する。
表
2 fort
と共 起 する頻 度 が最 も高 い動 詞動 詞 用 例 数
動 詞 用 例 数
1 serrer 246 11 souffler 49
2 parler 193 12 aimer 40
3 aller 139 13 taper 36
4 crier 132 14 cogner 33
5 rire 94 15 dire 31
6 battre 82 16 penser 31
7 respirer 70 17 appuyer 30
8 embrasser 68 18 tirer 28
9 sentir 66 19 gueuler 27
10 frapper 58 20 tenir 27
上 の表
2
では形 容 詞fort
と共 起 する頻 度 が最 も高 い20
の動 詞 を示 した。本 研 究 で はその中 でも特 に頻 度 が高 い動 詞serrer
とparler
、aller
と形 容 詞fort
との組 み合 わせに 注 目 して分 析 を行 う。3.4.分 析 方 法
本 研 究 では、コーパスを用 いた分 析 を行 うが、分 析 資 料 として
Frantext
を使 用 する。このコーパスは主 に文 学 作 品 の用 例 を収 録 していることから、本 研 究 が対 象 とする領 域 は 書 きことばのフランス語 である。さらに、
Frantext
はジャンルや、著 者 、年 代 によって検 索 対 象 を細 かく限 定 することができる。本 研 究 では、1950
年 から2013
年(
調 査 時 点 での最 新 データ)
の間 に出 版 された作 品 、かつ比 較 的 用 例 数 の多 い小 説(Roman)
のジャンルに当 てはまる用 例 に対 象 を絞 って調 査 を行 った。4.分 析
4.1.serrer fort
の場 合まず最 も頻 度 の高 い
serrer fort
であるが、この表 現 は例 文(16)
のように「強 くつかむ」という意 味 、また人 を表 す目 的 語 をとる場 合 は「強 く抱 きしめる」という意 味 になる。また用 例 数 は
fort
と比 べると極 めて少 ないものの、接 尾 辞-ment
を伴 うfortement
によって置 き換 えが可 能 であり同 様 の意 味 をもたらすことができる。こ の 表 現 の 凝 結 度 を 意 味 の 観 点 か ら 見 た い 。 こ の 表 現 に お い て 使 用 さ れ る 動 詞
serrer
は中 心 的 な意 味 で使 用 されていると考 えられる。また形 容 詞fort
も3.2
.で見 た意味 のうち最 も中 心 的 であると考 えられる①の「物 理 的 な力 を示 す」意 味 で使 用 されていると 言 える。以 上 の点 を踏 まえると、この表 現 は全 体 の意 味 が構 成 要 素 の意 味 から推 測 しや すく、構 成 的 であると言 える。
(16) Elle serrait fort son sac à main et manquait de tomber à chaque tournant.
「彼 女 はハンドバッグを強 く握 りしめていて、曲 がり角 ごとに転 びそうになっていた。」
(GAVALDA Anna, Ensemble, c'est tout, 2004, p.15)
強 意 の要 素 の頻 度 について見 てゆく。
serrer fort
という表 現 は今 回 調 査 した中 では246
例 出 現 しているが、そのうち201
例 で何 らかの強 意 の副 詞 や比 較 級 の副 詞 が出 現 し ている。語 彙 ごとの頻 度 は表3
のとおりであるが、最 も頻 度 の高 い副 詞 はtrès
であり、つづ いて比 較 級 の副 詞 であるplus
、そして再 び強 意 の副 詞 であるsi
の順 に続 いている。表
3 serrer fort
における強 意 や比 較 級 の要 素 強 意 や比 較 級 を表 す要 素 頻 度très 104 (42.28%)
plus 54 (21.95%)
si 21 (8.53%)
trop 11 (4.47%)
bien 4 (1.62%)
moins 2 (0.81%)
tellement 2 (0.81%)
un peu 1 (0.40%)
exagérément 1 (0.40%)
assez 1 (0.40%)
合 計
201 (81.70%)
この表 現 では、 246
例 中201
例 と全 出 現 数 の約8
割 の頻 度 で強 意 等 の副 詞 が出 現 している。しかしながら、これだけでは副 詞 的 形 容 詞 が強 意 等 を示 す副 詞 を求 めていると は言 い切 れない。「強 くつかむ」という表 現 の意 味 自 体 が強 意 の要 素 を必 要 としている可 能 性 も否 定 しきれないからだ。そこで fort
と意 味 的 に競 合 し、接 尾 辞-ment
が付 加 されたfortement
が出 現 するserrer fortement
という表 現 の場 合 、どれくらいの頻 度 で強 意 等 の要 素 が出 現 するかを確 認 したい。表
4 serrer fortement
における強 意 や比 較 級 の要 素 強 意 や比 較 級 を表 す要 素 頻 度plus 2 (10.52%)
assez 1 (5.26%)
si 1 (5.26%)
合 計
4 (21.05%)
serrer fortement
はserrer fort
と比 較 すると頻 度 が非 常 に低 く、19
例 のみ出 現 してい た。そのうちserrer
とfortement
の間 に強 意 等 の要 素 が表 れる例 は約2
割 の4
例 であり、比 較 級 を表 す
plus
が2
例 、強 意 を表 すassez
とsi
が1
例 ずつであった。このことから接 尾 辞-ment
を伴 うfortement
が出 現 する場 合 と副 詞 的 形 容 詞 であるfort
が出 現 する場 合 で 強 意 等 の要 素 の出 現 頻 度 が大 きく異 なり、やはり副 詞 的 形 容 詞 の出 現 と強 意 等 の要 素 の出 現 には関 連 があると考 えられる。4.2.parler fort
の場 合つづいて、
parler fort
である。この表 現 は例 文(17)
のように「大 きな声 で話 す」という意 味 として使 われる。また、parler fort
におけるfort
はà voix forte
という前 置 詞 句 によって 置 き換 えることも可 能 である。さらに、接 尾 辞-ment
を伴 うparler fortement
という表 現 も存 在 しているが、この表 現 はparler fort
と完 全 な同 義 語 ではないので注 意 が必 要 である。parler fort
が声 の音 量 を示 す意 味 であったのに対 して、parler fortement
は「意 味 の強 い 言 葉 を使 って話 す」という発 話 の内 容 を示 す意 味 になる。凝 結 度 について見 てゆく。この表 現 における
fort
は物 理 的 な「強 さ」を離 れ、話 し声 の音 量 が「大 きい」ことを示 していることが特 徴 である。上 の3.2
.では形 容 詞fort
の意 味 分 類 を説 明 したが、この表 現 におけるfort
は④の「要 素 の程 度 の高 さ」を示 す意 味 に対 応 し ていると言 える。このようにfort
が音 量 を示 す用 法 は、parler
など音 声 を発 する行 為 を示 す 動 詞 に後 置 される場 合 のほか、rire
、cri
、explosion
など同 じく音 声 を発 する現 象 を示 す名 詞 を修 飾 する場 合 に限 られ、共 起 制 限 があると言 える。そのことから、parler fort
という表 現 は、上 で見 たserrer fort
と比 較 すると構 成 性 の度 合 いが弱 いと考 えられる。(17) Tout le monde parlait fort comme si chacun avait eu quelque chose d'important à dire.
「皆 何 か重 要 なことを話 そうとしているかのように大 きな声 で話 していた。」
(JARDIN Alexandre, Bille en tête, 1986, p.32)
つづいて、