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A Case Comment on CIvil Procedure

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

A Case Comment on CIvil Procedure

福岡民事訴訟判例研究会

広島大学大学院社会科学研究科 : 准教授 : 民事訴訟法

園田, 賢治

広島大学大学院社会科学研究科 : 准教授 : 民事訴訟法

https://doi.org/10.15017/13157

出版情報:法政研究. 75 (3), pp.115-127, 2008-12-19. Hosei Gakkai (Institute for Law and Politics) Kyushu University

バージョン:

権利関係:

(2)

判例研二究

民事手続判例研究

福岡民事訴訟判例研究会

 婚姻費用の分担に関する処分の審覇に対する抗告審が抗

告の相手方に対し抗告状及び抗告理曲霧の副本を送達せず︑

反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことと憲

法蕊二条最高裁判所平成二〇年五月八日第三小法廷決定︑平成一

九年︵ク︶第一=一八号︑婚姻費用分担審判に対する抗

告審の変更決定に対する特別抗告事件︑裁判所時報一四

五九号一頁︑判例時報二〇一一号一一六頁︑判例タイム

ズ一二七三号=一五頁︑家庭裁判月報六〇三八号五一頁

園 田 賢 治

     ユ 四事実の概要︼

 家事審判手続において︑XはYに対し婚姻費用の分担金

の支払を求めた︒

 寛々審︵横浜家裁小田原支部︶は︑Yに対し︑過去の未 払い分九五万円と一ヶ月=一万円の割合による金員の支払いを命ずる決定をした︒これに対してXが即時抗告︵家事審判規則五一条による同五〇条の準用︶をしたが︑抗告審である原審︵東京高裁︶は︑抗告の相手方Yに対し︑抗告状および抗告理由書の副本を送達しなかった︒そして︑Yの負担すべき分担金として︑過去の未払分一六七万円と

一ヶ月一六万円の割合による金員の支払いを命ずる決定を

した︒ これに対しYは︑原審が右送達を行わず︑Yに反論の機

会を与えることなく不利益な判断をしたことが憲法三二条

の裁判を受ける権利を侵害したものであるなどとして︑特

別抗告︵民事訴訟法三三六条︶を申し立てた︒

四決定要旨瀕抗告棄却

 本決定は次のように述べて抗告を棄却した︒

 ﹁憲法三二条所定の裁判を受ける権利が性質上固有の司

法作用の対象となるべき純然たる訴訟事件につき裁判所の

判断を求めることができる権利をいうものであることは︑

当裁判所の判例の趣旨とするところである︵最高裁昭和二

六年︵ク︶第一〇九号同三五年七月六日大法廷決定・民集

一四巻九号一六五七頁︑最高裁昭和三七年︵ク︶第二四三

657 (75−3−115)

(3)

判例研究

号同齢〇年六月三〇日大法廷決定・民集一九巻四号一二

四頁参照︶︒したがって︑上記判例の趣旨に照らせば︑本

質的に非訟事件である婚姻費用の分担に関する処分の審判

に対する抗告審において手続にかかわる機会を失う不利益

は︑同条所定の﹃裁判を受ける権利﹄とは直接の関係がな

いというべきであるから︑原審が︑Y︵原審における相手

方︶に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず︑反論

の機会を与えることなく不利益な判断をしたことが同条所

定の﹃裁判を受ける権利﹄を侵害したものであるというこ

とはできず︑本件抗告理由のうち憲法三二条違反の主張に

は理由がない︒また︑本件抗告理由のその余の部分につい

ては︑原審の手続が憲法三一条に違反する旨をいう点を含

めて︑その実質は原決定の単なる法令違反を主張するもの

であって︑民訴法三三六条一項に規定する事由に該当しな

い︒﹂ 右のように本決定は︑憲法違反に当たらないという理由

で特別抗告は却下したが︑その一方で︑いわゆる﹁なお

書﹂として﹁⁝本件記録によれば︑原審においては︑Yに

対してXから即時抗告があったことを知らせる措置が何ら

執られていないことがうかがわれ︑Yは原審において上記

主張をする機会を逸していたものと考えられる︒そうであ るとすると︑原審においては十分な審理が尽くされていない疑いが強いし︑そもそも本件において原々審の審判を即時抗告の相手方であるYに不利益なものに変更するのであれぼ︑家事審判手続の特質を損なわない範囲でできる限りYにも攻撃防御の機会を与えるべきであり︑少なくとも実務上一般に行われているように即時抗告の抗告状及び抗告理由書の写しをYに送付するという配慮が必要であったというべきである︒﹂として︑原審の手続には問題があった旨の指摘をしている︒ また︑田原睦夫裁判官の補足意見︑那須弘平裁判官の反対意見が付せられている︒

四評釈︼本決定に反対

一 はじめに

 本件は︑抗告状および抗告理由書の副本を抗告の相手方

に送達せず︑反論の機会を与えることなく不利益な判断を

した抗告審の措置︵以下︑﹁本件抗告審の措置﹂とする︶

が問題となった事例であるが︑右送達につき︑これを要す

るものとする直接の規定は︑家事審判法・家事審判規則の

中にはない︒送達をなすべきということにつき条文上の根

拠を求めるならば︑本件反対意見の中でも述べられている

(75−3−116) 658

(4)

判例研究

通り︑民事訴訟法二八九条一項の﹁控訴状は︑被控訴人に

送達しなければならない︒﹂という規定が︑民事訴訟法三

三一条本文︑非訟事件手続法二五条︑家事審判法七条本文

の準用を介して︑家事審判規則一八条によって準用される

という構成をとることとなる︒しかし︑非訟事件手続法二

五条を除いていずれも﹁その性質に反しない限り﹂という

限定が付されていることから︑条文の形式的な文言のみか

ら準用の有無を導くことは難しい︒それゆえ︑実質的な検

討が必要となる︒

 本決定が結論を導くにあたっての論理構造は︑憲法三二

条所定の裁判を受ける権利とは﹁純然たる訴訟事件﹂に関

するものであって︑非訟事件には直接関係しないというこ

とを大前提とし︑婚姻費用の分担に関する処分の審判は

﹁本質的に非訟事件﹂であることを小前提とする三段論法

によって︑婚姻費用の分担に関する処分の審判の抗告審に

おいて手続にかかわる機会を失う不利益は︑憲法三二条所

定の裁判を受ける権利とは直接の関係がないとするもので

ある︒ 以下︑本稿では︑まず︑婚姻費用の分担に関する処分の

審判の非訟事件該当性について検討し︵二︶︑次に︑仮に

非訟事件に該当するとしても︑本件抗告審の措置が憲法三 二条違反と解される余地がないかを検討し︵三︶︑最後に︑仮に憲法三二条違反と解することはできないとした場合でも︑本件反対意見が説くような例外的措置︵職権による原決定の破棄︶の可能性について検討する︵四︶︒二 婚姻費用の分担に関する審判の非訟事件該当性 婚姻費用の分担に関する審判が訴訟事件であるのか︑非訟事件であるのかについては︑︵そのことから導かれる結論はともかくとして︶非訟事件であることに恐らく争いがないであろう︒婚姻費用の分担に関する審判が非訟事件である旨を示した判例としては︑まず︑最決昭和三七∴○・三一︵家月一五巻二号八七頁︶が挙げられるが︑そこでは結論のみが端的に述べられ︑﹁家事審判手続は非訟事件であって︑非訟事件の裁判は公開の法廷における対審及び判決によってなされる必要はなく︑従って原審が︑所論婚姻費用の分担に関する審判に対する即時抗告事件において︑口頭弁論を経ないで審理︑裁判をしたことが違憲でないことは︑当裁判所の判例︵昭和二四年︵オ︶第一八二号︑同三三年三月五臼大法廷判決︑民集一二巻三号三八一頁︶の趣旨に照らして明らかである⁝﹂とされる︒

 婚姻費用の分担に関する審判が非訟事件であり︑公開・

659 (75−3−117)

(5)

判例研究

対審・判決の保障は不要であるとする点につき︑詳細に論

じた判例が︑本決定でも引用されている最決昭和四〇・

六・三〇︵民集一九巻四号一一一四頁︶である︒すなわち︑

﹁憲法は三二条において︑何人も裁判所において裁判を受

ける権利を奪われないと規定し︑八二条において︑裁判の

対審及び判決は︑公開の法廷でこれを行う旨を定めている︒

すなわち︑憲法は基本的人権として裁判要求権を認めると

同時に法律上の実体的権利義務自体を確定する純然たる訴

訟事件の裁判については公開の原則の下における対審及び

判決によるべき旨を定めたものであって︑これにより近代

民主社会における人権の保障が全うされるのである︒従っ

て︑性質上純然たる訴訟事件につき当事者の意思いかんに

拘らず︑終局的に事実を確定し︑当事者の主張する実体的

権利義務の存否を確定するような裁判が︑憲法所定の例外

の場合を除き︑公開の法廷における対審及び判決によって

なされないとするならぼ︑それは憲法八二条に違反すると

共に同三二条が基本的人権として裁判請求権を認めた趣旨

をも没却するものといわねぼならない﹂と︑本決定でも引

用されている最決昭三五・七・六︵猫型一四巻九号=ハ五

七頁︶において示された原則を述べた上で︑﹁家事審判法

九条一項乙類三号に規定する婚姻費用分担に関する処分は︑ 民法七六〇条を承けて︑婚姻から生ずる費用の分担額を具体的に形成決定し︑その給付を命ずる裁判であって︑家庭裁判所は夫婦の資産︑収入その他一切の事情を考慮して︑後見的立場から︑合目的の見地に立って︑裁量権を行使して︑その具体的分担額を決定するもので︑その性質は非訟事件の裁判であり︑純然たる訴訟事件の裁判ではない︒従って︑公開の法廷における対審及び判決によってなされる必要はなく︑右家事審判法の規定に従ってした本件審判は何ら右憲法の規定に反するものではない︒﹂とし︑﹁⁝婚姻費用の分担に関する審判は︑夫婦の一方が婚姻から生ずる費用を負担すべき義務あることを前提として︑その分担額を形成決定するものであるが︑右審判はその前提たる費用負担義務の存否を終局的に確定する趣旨のものではない︒これを終局的に確定することは正に純然たる訴訟事件であって︑憲法八二条による公開法廷における対審及び判決によって裁判さるべきものである︒本件においても︑かかる費用負担義務そのものに関する争であるかぎり︑別に通常訴訟による途が閉ざされているわけではない︒これを要するに︑前記家事審判法の審判は︑かかる純然たる訴訟事件に属すべき事項を終局的に確定するものではないから︑憲

法八二条︑三二条に反するものではない︒﹂とする︒

(75−3−118) 660

(6)

判例研究

 右判例は︑同日に下された︑夫婦同居審判に関する最決

昭四〇・六・三〇︵民集一九巻四号一〇八九頁︶とともに︑

訴訟事件と非訟事件の区別についての判例理論を示したも

のである︒すなわち︑訴訟事件とは権利義務の存否の確定

であり︑公開・対審・判決等の保障が必要であるのに対し︑

非訟事件とは権利義務の翼体的内容︵履行の時期・場所・

態様など︶の形成であり︑公開・対審・判決等の保障は要

求されないとするものである︒

 他方︑学説においては︑訴訟事件と非訟事件の区別一般       についての見解は多岐にわたり一致を見ないものの︑少な

くとも右の判例理論に対しては︑①一つの権利の存在と内

容とを常に切り離すことができるか︑②非訟事件が確定し

ても︑権利の存否自体は常に訴訟事件として争うことがで

きるとするのは︑紛争解決という観点から問題がないか︑

③非訟事件であれぼ︑公開・対審・判決を保障しなくても

よいと二分論で割り切ってよいか︑という問題点が指摘さ      ヨ れているところである︒特に③の点に関して言えば︑本件

反対意見が︑﹁本件は︑即時抗告により不利益変更を受け

た当審抗告人に即時抗告の抗告状等の送付・送達がなく反

論の機会も与えられなかったことが問題とされている案件

であって︑真の争点は憲法八二条の公開原則の問題とは直 接の関係を有しない︒憲法八二条が要求する公開の対象となる事件の範囲を区切る基準︵同条二項では︑裁判官の全員一致で非公開とする例外的処理の途も認められている︶と憲法三二条が要求する審問請求権ないし手続保障の適用範囲を区切る基準とは同一とは限らない︒﹂と述べる通り︑本決定が︑従来の判例理論を形式的に当てはめ︑非訟事件であることからアプリオリに︑憲法三二条の﹁裁判を受ける権利しの保障が不要であるという結論を導いたことには︑問題がある︒前掲最寄昭四〇・六・三〇は︑許可抗告制度が存在しない旧法の下︑最高裁へ抗告をするために公開という憲法上の問題に名を借りて特別抗告がなされたと推測される事例であるのに対し︑本件は︑抗告審で手続に関与する機会を与えられないまま審判を不利益なものに変更さ        ハ      ゑれたという︑弁論権ないし審問請求権︵審尋請求権︶の保障のあり方が直接に問題となった事例である点で︑抗告人の利害状況が異なり得るということも考慮すべきであったと思われる︒

661 (75−3−119)

(7)

半暮例研究

三 本件抗告審の措置と憲法三二条違反

︵1︶ 非訟手続︵家事審判手続︶における弁論権・審問請

求権の保障

 学説においては︑非訟手続においても当事者に弁論権・

審問請求権が保障されるべきであるとする見解が古くから      ハ  主張されてきた︵そもそも︑当事者権概念それ自体が非訟

手続におけるその承認を企図して提唱されたものであっ

た︶︒例えば︑本件で問題となった抗告審における審問請

求権の保障についても︑﹁抗告人の相手方は自己に不利な

裁判を受ける場合には︑抗告審に於いて新たな事実又は証

拠資料の提出が有ったと否とに関係なく︑審問の機会を与        ハァ えられるべきである︒﹂とする見解が見られる︒

 これに対し︑これまでの裁判例は︑非訟事件における審

問請求権の保障については概して消極的である︒本件のよ

うに抗告審における送達が直接閥題となった事例は見受け

られないが︑例えば︑抗告審における審問に関する大審院

判例として︑大決大一〇・六・二五︵織豊二七輯一二七九

頁︶は︑非訟事件の抗告裁判所は︑必ず抗告人と反対の利

害関係を有する者を審問しなければならないものではない

とする︒また︑大決昭二・九・六︵民集六巻四九五頁︶は︑

非訟事件の抗告審において裁判所が口頭弁論を命じた場合︑ 裁判所は︑必ずしも反対の利害関係を有する全員を呼び出さなければならないものではないとする︒さらに︑下級審裁判例においても︑抗告審手続に関するものではないが︑当事者を審問しなかったことの違法性を否定するものが散見される︒例えば︑大阪高華墨五八・五・二︵判タ五〇二号一八四頁︶は︑戸籍訂正の審判につき︑﹁審問をするか否か︑審問する場合の被審人の採否は家庭裁判所の裁量に委ねられており︑また︑審問期日に事件関係人を立会わすべき規定も存しない﹂とし︑東京零墨昭六〇・六・=二︵家勢三七巻一一号五一頁︶は︑遺産の分割禁止の審判につき︑

﹁家庭裁判所が後見的立場から紛争の状況に応じて適宜こ

れをなすことができるものであって︑事前に当事者の意見

を聴取しなかったからといって︑右審判が違法となるもの

ではなしいとする︒近時のものとしては︑東京高峯平一

五・七・一五︵判タ一=二一号二二八頁︶が︑子の監護者

指定・引渡しの審判につき︑﹁双方の審問が望ましい﹂とし

ながらも︑﹁調査経緯に照らせば︑審問の機会が与えられ

ず︑審判官が調査官の調査報告書に依拠して判断したとし

ても︑それだけで原審判を取消し︑差戻しをすべきものと

までは認められない︒﹂としている︒

 このように︑従来の裁判例の傾向としては︑審問請求権

(75−3−120) 662

(8)

判例研究

の保障につき消極的であったが︑その中で本決定は︑蘇州

ではあるものの︑﹁原審の手続には問題があるといわざる

を得ない﹂と判示することにより︑家事審判手続における

手続保障の重要性を最高裁が指摘した点で意義があるもの

と言えよう︒もっとも本決定は︑本件抗告審の措置を憲法

違反と評価することはできないとしたことは明らかである

が︑違法と評価し得るのかについては必ずしも明言してお

らず︑単に運用上の指針を示したに過ぎないとの見方も一

応可能である︒よって次に︑本件抗告審の措置が不適切で

あったということが︑法的にどのように評価され得るのか

について検討する︒

︵2︶ 弁論権∵審問請求権の侵害と憲法三二条違反

 一般に︑弁論権・審問請求権の根拠は憲法三二条等に求

められる︒すなわち︑憲法三二条は単なる裁判を受ける権

利ではなく︑公正かつ適正な手続による裁判を受ける権利       ハ  を保障したものであるとされる︒そして︑そのように解す

るならば︑その侵害は憲法違反として上告または特別上       ハ  告・特別抗告の理由になるとの解釈も十分に可能となる︒

 しかし︑弁論権・審問請求権の侵害が僅かでもあれぼ常

に憲法違反として︑上告・特別上告・特別抗告の理由に該

当するとしてしまうと︑釈明義務違反や審理不尽が主張さ れるような数多くの事件が最高裁へ上訴可能となってしまい︑現行民訴法が上告を制限して最高裁の負担軽減を図った趣旨にそぐわない結果となる恐れがある︒したがって︑上訴可能な範囲の画定に当たっては︑不服申立制度全体における最高裁の役割︑すなわち当事者救済⁝機能と法令解釈統一機能︑さらには憲法審としての役割といったもののバランスを考慮する必要がある︒また︑不服申立制度のあり方という観点だけでなく︑より根本的には︑弁論権・審問請求権と憲法ならびに民事訴訟法との関係につき︑理論的な検討を深めることも必要となろう︒これらの点については簡単に解答が出せる問題ではないので︑今後の課題とせざるを得ないが︑差し当たり本稿では︑弁論権・審問請求権の侵害の程度が大きいものについては憲法違反と解する       ハ  余地があるとしておきたい︒ そして︑本件抗告審の措置については︑憲法違反か否かはともかく︑少なくとも違法と評価され得ると解すべきである︒その場合の構成としては︑本件補足意見において述べられているような﹁審理不尽﹂という構成を用いることも考えられるが︑そうすると︑事案の解明の程度︑すなわち破棄しても結論は変わらないか否かといったことに判断

が強く影響される恐れがあり︑実体的判断の当否の問題と

663 (75−3−121)

(9)

判例研究

は区別されるべき当事者権の保障のあり方として︑十分と

は言えないと思われる︒したがって︑本件反対意見におい

て述べられているように︑憲法三二条の理念が家事審判規

則︑家事審判法︑非訟事件手続法に基づく手続に及ぶ場合

があることを前提に︑右法律及び規則の解釈︵一で述べた

準用関係が成立するということであろう︶として送達の必

要があると解し︑送達をしなかったことそれ自体を捉えて

違法と評価すべきである︒

︵3︶ 請求異議の訴えの可能性

 本件抗告審の措置を法的にどのように評価するかという

点に関連するものとして︑本決定の中で︑﹁仮に抗告人の

主張するような仮払金支払の事実があったとすれば︑抗告

人は︑原決定の執行力を排除するために︑その事実を異議

の事由として請求異議の訴えを提起できるものと考えられ

る﹂とされている点についても触れておきたい︒仮に後で

争う⁝機会が保障されているのであれば︑弁論権・審問請求

権の侵害の程度は小さく︑憲法違反か否か︑違法か否かの

判断に影響を与え得るとも考えられるからである︵もっと

も︑請求異議の訴えが可能であるとしても︑当事者に訴訟

の提起という手続的負担を課すことになる点には留意すべ

きである︶︒  しかしながら︑本決定が述べる通りに請求異議の訴えが可能であるかについては議論の余地がある︒例えばこの点につき︑東京高決昭五八・九・二八︵家月三六巻一一号一〇九頁︑判時一〇九五号一一二頁︶は︑﹁⁝︹婚姻費用分担の︺審判は形成的効力を有するが︑既判力を生ずるものではないと解すべきであるから︑その確定後はもはやその形成的効力を争うことは許されないが︑婚姻費用分担義務の存否に関しては︑これに争いがある限り︑その点について別に訴訟による解決の途が残されているものと解すべきである︒そして︑右審判は︑執行力ある債務名義と同一の効力を有するものであるから︵家事審判法一五条︶︑先に述べたところがら明らかなように︑その執行力の排除を求めるために請求異議の訴を提起することができ︑この場合における異議の事由については︑同審判が既判力を有するものでない以上その確定の前後を問わず︑婚姻費用分担義務の存否に関する異議の事由を主張できるものと解するのが相当である︒ただ︑婚姻費用分担義務の存在を前提とし︑その分担の範囲︑豊前のみについての異議事由は︑右審判の確定時︵本件についていえぼ︑本件抗告審決定の成立時︶以後に生じたものに限られると解するのが︑右審判の

前記した性質︑効力に鑑み相当である︵民事執行法三五条

(75−3−122) 664

(10)

判例研究

二項は︑確定判決及び仮執行宣言付支払命令についてのみ︑

異議の事由の時的制限を定めているが︑右審判の前記のと

おりの性質及び効力からみて︑同条項の規定にもかかわら

ず︑同審判に対する異議の事由は叙上の範囲で時的制隈に

服するものと解する︒︶︒﹂とする︒この見解のもとでは︑

本件仮払金支払の有無の事実が右に示された基準時以前の

範囲・数額についての異議事由であるとするならば︑もは

やそれを請求異議の訴えでは争えないことになる︒

 さらに︑右裁判例が基準蒔後の事由であれば範囲・同額

につき請求異議の訴えを提起できるとしたことに対しては

批判がある︒すなわち︑婚姻費用分担の範囲・数額は訴訟

における判断事項でないとして︑家事審判以降の事由に基

づいて婚姻費用分担の範囲・半額を変更する場合には︑民

法八八○条︑家事審判法九条一項乙類八号の類推適用に      け よって︑事情変更による変更取消審判を行うべきとされる︒

この立場によれば︑範囲・万宝の問題は︑基準時の前後を

問わず請求異議の訴えで争えないことになる︒

 これらの議論が示すように︑本件において請求異議の訴

えが可能であると判示された部分にはなお検討の余地があ

るが︑請求異議の可否は結論を導くにあたって決定的な要

素ではないと考えられるため︑ここではその指摘のみにと どめておきたい︒四 最高裁による職権破棄の可否 本決定は︑特別抗告事由に当たらないとして抗告を棄却しながらも︑いわゆる﹁なお書﹂において︑抗告審は送達を行うべきであるという今後の指針を示した点にも特徴がある︒特別抗告を棄却する一方で﹁なお書﹂により原決定の法令の解釈の誤りを指摘した事例としては︑最決平一

一・三・九︵男時一六七三号八七頁︑判タ一〇一三号一一

九頁︶︑最決平一一・三・一二︵民集五三巻三号五〇五頁︶

   む がある︒

 しかしながら︑このような﹁なお書﹂による判示は︑最

高裁が判断を示したことにより今後同一の問題が生じ難く

なるという効果は期待できるものの︑当該事件における抗

告人には救済が与えられない結果となる︒前述の通り︑本

件抗告審の取り扱いが少なくとも︵違憲でなくとも︶違法

と評価され得るならば︑本件反対意見が説くように︑例外

的に職権で法令違反を理由として原決定を破棄すべきでは

なかったかと考えられる︒このような取扱いに条文上の根

拠を求めるならば︑民事訴訟法三三六条三項によって︑三

二七条二項前段︑三二五条二項が準用されるという形式を

665 (75−3−123)

(11)

判例研究

      ハむ 採ることになる︒

 右の例外的取扱いを認めた判例はいくつかあり︑最決平

=二・六二四︵判自二一七号二〇頁︶は︑﹁⁝所論の憲法

違反があるかどうかについて判断するまでもなく︑原決定

は裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるもの

として破棄を免れしないとする︒華表平一四・一〇・三〇

︵立時一三二七号一頁︶は︑﹁民事事件について特別抗告を

することが許されるのは︑同法三三六条一項所定の場合に

限られるところ︑本件抗告理由は︑違憲をいうが︑その実

質は原決定の単なる法令違反を主張するものであって︑同

項に規定する事由に該当しない︒﹂としつつも︑﹁職権で検

討すると︑⁝原審の前記判断には︑裁判に影響を及ぼすこ

とが明らかな法令の違反があり︑原決定は破棄を免れな

い︒﹂とする︒最決心一六・九・七︵判時一八八○団七〇

頁︑判タ一一六九号一六九頁︑金法一七三八号一一六頁︶

も︑﹁職権で検討すると︑⁝原決定は︑その余の点につい

て判断するまでもなく︑裁判に影響を及ぼすことが明らか

な違法があり︑破棄を免れない︒﹂とする︒

 このように︑最高裁自身︑例外的取扱いを認めている先

例もあることから︑本件においても同様に︑法令違反とし

て職権により原決定を破棄するという取扱いをなすべき         む だったと思われる︒る︒ この点︑本件反対意見の説く通りであ

五 おわりに

 本決定は︑傍論ではあるものの︑抗告状および抗告理由

書の副本を抗告の相手方に送達すべきであるという︑家事

審判手続における=疋の手続保障の必要性を最高裁が示し

た点で︑実務上︑理論上の意義は小さくない︒しかし︑結

論においては︑前掲最決昭四〇・六・三〇の論理を形式的

に適用して特別抗告を棄却しており︑この点については問

題がある︒本件は︑公開の有無が主に問題とされた過去の

事例とは当事者の利害状況が異なるので︑非訟事件におけ

る審問請求権の保障と憲法三二条の関係について︑より踏

み込んだ理由づけが必要であったように思われる︒そして︑

本件抗告審の措置が︑憲法違反に当たらなくとも違法と評

価されるのであれば︑最高裁は当事者を救済するために︑

職権で原決定を破棄すべきであった︒

 本件は︑家事審判手続における当事者権の保障の意義に

ついてはもちろんのこと︑その侵害に対する救済のあり方︑

とりわけ不服申立制度のあり方についても問題を提起した

ものであると言える︒今後︑審問請求権と憲法・民事訴訟

(75−3−12荏) 666

(12)

判例研究

法との関係や︑不服申立制度全体の中で最高裁の果たすべ

き役割などをめぐる議論をより深めていくことが求められ

るであろう︒

︵1︶ 本稿執筆時は︑最高裁ホームページに掲載の決定文

  ︵簿登\\≦名≦8霞叶ω・αqoな\ぎ葭働\R︷\80︒︒8H黛◎灘零噸

℃亀︶のみしか参照しえなかったため︑事実関係について の情報が不十分な段階での判例研究であることをお断りし

 ておきたい︒

︵2︶ 例えば︑兼子一﹃新修民事訴訟法体系﹇増訂版ご

 ︵一九六五年︶四〇頁は︑訴訟とは法規に抽象的に予定さ

 れたところを適用して紛争を解決する民事司法であるのに

 対し︑非訟とは国家が端的に私人間の生活関係に介入する

 ために命令処分をする民事行政であるとする︒また︑三ヶ

 月章﹃民事訴訟法﹇第三版ご︵一九九二年︶一五頁は︑両

 者の理論的区別を断念し︑いずれに属させるかは実定法に

 よる︵立法者の任意である︶とする︒

︵3︶ 伊藤翼一高橋宏志⊥愚田紅鶴編﹃民事訴訟法判例百選

 ﹇第三版﹈﹄︵二〇〇三年︶四頁﹇青山善充﹈︒

︵4︶ ﹁弁論権とは︑裁判前に︑裁判を受ける者が︑事件に

 ついて弁記することができる地位︑すなわち裁判の資料を

 提出する⁝機会を法律上保障されていることである﹂︵山木

 戸克己﹁訴訟における当事者権﹂同﹃民事訴訟理論の基礎 的研究﹄︵一九六一年︶五九︑六一頁︶︒︵5︶ 当事者が裁判所に対して自己の見解を表明し︑かつ︑ 聴取される⁝磯会を与えられることを要求することができる

権利であり︑ドイツ連邦共和国基本法一〇三条一項︵﹁裁

判所においては︑何人も︑法律上の審問を請求する権利を

 有する︒﹂︶に由来する︒なお︑本稿では︑弁論権と審問請

 求権を厳密に区別することなく︑同じ意味で用いる︒

︵6︶ 山門木一戸・晶別掲注︵4︶六五頁︑鈴木忠一 ﹁非訟事・件にお

 ける正当な手続の保障﹂岡﹃非訟・家事事件の研究﹄︵一九

 七一年︶二五九頁︑紺谷浩司﹁審問講求権︵︾眸ω鷲琴ぴp︒鶏

 噌Φo客翻︒ぴ①ωの①びα噌︶の保障とその問題点﹂民訴雑誌一八号

 ︵一九七二年︶一四三頁︑吉村徳重﹁民事事件の非訟化傾

 向と当事者権の保障﹂﹃日弁連昭和四一年度特別研修叢書

 ︵下︶臨︵一九六七年︶=二五頁︑石川明﹁家事調停及び家

 事審判︵特に乙類審判事件︶の非訟性と当事者権の保障﹂

 家月三一巻六号︵一九七九年︶ 頁など︒これに対し︑家

 事審判手続が職権主義︑裁量主義を採っていることから︑

 事件関係人を審問するか否かは家庭裁判所の裁量に委ねら

 れているとし︑審問請求権を権利として認めることは困難

 であるとするものとして︑井上哲男﹁乙類審判事件におけ

 る職権探知と適正手続の具体的運用﹂岡垣學一野田愛子編

 ﹃講座・実務家事審判法−鵬︵一九八九年︶一二七︑=一九

 頁︵ただし︑合理的な理由なく当事者の審問を行わないと

 きは︑裁量権の行使を誤ったものとして︑抗告審で審理不

667 (75−3−125)

(13)

判例研究

 尽の評価を受ける可能性があるとする︶︒なお︑家事審判

 手続における弁論権・審問請求権の意義についての近時の

文献としては︑高田裕成﹁家事審判手続における手続保障

論の輪郭﹂判例タイムズ一二三七号︵二〇〇七年︶三三頁

が詳細である︒

︵7︶鈴木・前掲注︵6︶ご=○頁︒

︵8︶ 山本克己﹁審理の方式に関する諸原則とその変容﹂法

学教室二〇〇号︵一九九七年︶三四頁︒中野貞一郎﹁民事

 裁判と憲法﹂同﹃民事手続の現在問題﹄︵一九八九年︶一

 三頁も参照︒

︵9︶ 加藤新太郎ほか編﹃基本法コンメンタール民事訴訟法

 3﹇第三版﹈﹄︵二〇〇八年︶九四頁︹上北武男︺︑紺谷・前

 掲注︵6︶〜六;貝など︒

︵10︶ 紺谷・前掲注︵6と六一頁は︑﹁審問講求権の違背は︑

 それが重大で憲法上容認し難いときにはじめて法律違背が

 同時に憲法違反とな﹂るとする︒

︵11︶ 奈良次郎・民事執行法判例百選︵一九九四年︶四一頁︑

 佐藤陽一・家月三七巻五号︵一九八五年︶=二九頁︹いず

 れも前掲東京高決昭五八・九・二八の判例評釈︺︒

︵12︶ なお︑前者の判例は︑原決定の違法によっても結論が

 変わらない事例であった︒本件も︑抗告理由が明らかでな

 いので推測の域を出ないが︑最高裁は︑提出されている資

 料から見て結論は変わらないと考え︑原決定を維持したの

 かもしれない︒しかし︑仮にそうであったとしても︑当事  者の審問講求権は実体的判断とは区別して保障すべきであ ろう︒審問請求権の性質につき︑山本克己﹁当事者権﹂鈴

木古稀﹃民事訴訟法の史的展開﹄︵二〇〇二年︶六一︑七

 一頁参照︒

︵13︶ 後掲最判平一六・九・一七のコメント︵判例時報一八八

○号七二頁︶において︑このような例外的取扱いが判例で

 認められた事案とは︑﹁憲法判断に論理的に先行する関係

 にある原決定の法律判断が是認できないため︑それだけで

 原決定を維持することができないことが明らかである事案︑

 あるいは︑原決定に裁判制度の根幹に関わる璽大な手続的

 違法があり︑これを看過し難いという事案﹂であるとまと

 められている︒

︵14︶ これに対し︑加波薦〜・私法判例リマークス三二号

 ︵二〇〇六年︶=六頁︹前掲最判平一六・九・一七の判例

 評釈︺は︑特別破棄規定をそのまま特別抗告手続に準用す

 れば︑再審で救済すべき事案までもが憲法違反の名を借り

 て特別抗告される余地を認めることになり︑最高裁独自の

 ⁝機能︵法令統一・憲法審︶の向上を妨げることになるとし

 て︑このような取扱いに原則として反対する︵ただし︑再

審に回すと救済が不可能ないし困難となる︑という特別な

 事情がある場合に限り例外的な取扱いを認める︶︒最終的

 には︑最高裁の当事者救済機能をどの程度まで認めるのか

 という不服申立制度全体の設計の問題となるが︑差し当た

 り︑仮に職権による破棄を許容しても︑それがあくまでも

(75−3−126> 668

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