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ドイツ語の「状態受動」
在間 進
1986/3
東京外国語大学語学研究所語研資料5所収 p1-29
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ドイツ語の「状態受動」
在間 進
1.問題提起
本稿の目的は,ドイツ語の『状態受動(=Zustandspassiv)』に関する考察を述べ ることである。『状態受動』は,次のような表現形式を指す。(注1,2)
(1) Die Tür ist geöffnet.
考察における個々の問題提起は次の通りである。
イ)『状態受動』における過去分詞は形容詞的述語とみなすべきか
ロ)『状態受動』の表現形式は一種の語い素(=Lexem)とみなすことができるか ハ)『状態受動』を形成する動詞には一定の意味特徴がみとめられるか
ニ)『状態受動』はなぜ「結果中心」の動詞によって形成されるのか ホ)『状態受動』の「省略的」表現様式はドイツ語特有のものか ヘ)『状態受動』と対立を成す表現にどのようなものがあるか
イ)からホ)までの問題提起は,『状態受動』の形態的統語的意味的側面に関するも のであり,ヘ)の問題提起は,『状態受動』を伝達機能において他の表現形式と比較 しようとする試みである。
2.『状態受動』における「過去分詞」は形容詞的述語とみなすべきか
2.1. ドイツ語の『状態受動』は,上例(1)に見られるように,本動詞の「過去分
詞」と動詞 sein の結合形式によって表される。この結合形式は,次のようなパラディ グマを形成することから,多くの文法書において本動詞の活用形,すなわち派生形と みなされる(参照:Brinker 1971, S.70; Heidolph u.a. 1981, S. 558)。
(2)a. Man schließt die Tür.
b. Die Tür ist geschlossen worden.
c. Die Tür ist geschlossen.
2.2. それに対し,『状態受動』における「過去分詞」を「形容詞的述語」として捉え,
「形容詞的述語」とコプラ動詞 sein との結合形式と見ることも可能である。このよう な解釈(すなわち『状態受動』における「過去分詞」を自立的意味単位とみなすこ
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と)を支持する論拠として次のような現象が挙げられる。
(イ)『状態受動』の「過去分詞」は,ほとんど同義で,形容詞によって置き換える ことが可能である。
(3) Die Tür ist geöffnet.
→ Die Tür ist offen.
(ロ)『状態受動』の「過去分詞」は,時間的拡がりを示す副詞類(たとえば seit gestern)との結合性において形容詞と共通性を示す。(Helbig/Buscha 1977)
(4)a. Das Fenster ist seit gestern geöffnet.
b. Das Fenster ist seit gestern offen.
c.*Er hat das Fenster seit gestern geöffnet.
(ハ)接頭辞 un- を用いた「否定的状態受動」が語い的現象として存在している。
(5)a. Der Film ist ungekürzt.
b. der Film ist gekürzt.
もし(5a)と(5b)の類似性を体系的に説明しようとするならば,(5b)の「過去分 詞」も(5a)の「否定」形式と同一の方法で,すなわち「形容詞的述語」として説明 しなければならない。
(ニ)『状態受動』には,動詞語幹とは異なる結合価が見られる。この現象に注目し て, Schoenthal(1976, S. 104-105 )は次のように述べている。
Sein-Passivkonstruktionen lassen teilweise zwei Präpositionen zu, wobei die Wahl der einen den adjektivischen Charakter des Partizips zu betonen scheint, indem der Konversenbezug zu einem Aktivsatz weniger naheliegend ist : Er ist enttäuscht über die Situation.
gegenüber:
Er ist von allen enttäuscht.
これらの4つの現象は,『状態受動』における個々の構成要素,すなわち「過去分 詞」と「sein」のそれぞれに意味的自立性が認められ,派生の元とされる動詞(特に動 作受動)から独立した表現形式になっていることを示していると言えよう(参照:
Heidolph u.a. 1981, S. 558)。
2.3. 理論的に可能なこれら2つの解釈(動詞の活用形と見るか,「形容詞的述語」と
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sein という2つの自立的意味単位の結合と見るか)に関する問題は,簡単に言うと,
(6)と(7a)の間の構造的意味的共通性の方をより重要と見るか,(6)と(7b)
(7c)の間の派生関係の方をより重要と見るかという問題に還元できよう。
(6)Die Tür ist geöffnet.
(7)a. Die Tür ist offen.
b. Die Tür ist geöffnet worden.
c. Er hat die Tür geöffnet.
2.4. これは,それぞれの解釈の説明的「妥当性」に関連する問題であろう。上に見た
ように,『状態受動』における「過去分詞」には意味的に自立的な側面もあるが,こ れを「形容詞的述語」とする解釈にも問題がある。これを2つ挙げることにする。
(イ)第1の短所は,(6)および(7b)(7c)の3文に認められる密接な統語的意 味的関係が無視されてしまうことである。Schoenthal(1976)も次のように述べてい る。
Admoni sieht .... das sein-Passiv demgegenüber als synthetische Form, für die die Gesamtsemantik nur eine Summe der Eigenbedeutung von finiter und infiniter Form sei. Das Partizip steht dieser Auffassung nach wie ein Adjektiv in prädikativer Stellung. ... Bei einer solchen Darstellungsweise kommen jedoch eine Reihe struktureller wie inhaltlicher Zusammenhänge nicht zum Ausdruck.
(S.102)
後にも述べるが(7.3.を参照),動作受動と『状態受動』とは意味的にも,後者が前者 をふつう前提とするという点で,密接な関係にある。
(ロ)第2の短所は辞書部門における語い項目の数が増えるということである。すな わち,『状態受動』の文(8)の「過去分詞」に認められる意味は,動作受動文
(9)および完了文(10)の「過去分詞」には認められない。
(8)Die Reifen sind abgefahren.
(9)Die Reifen sind abgefahren worden/wurden abgefahren.
(10)Er hat die Reifen abgefahren.
したがって,「過去分詞」を「形容詞的述語」とみなすことは,(8)と(9)
(10)の「過去分詞」を二つの異なった語い項目として扱うことを意味する。
2.5. それに対して,『状態受動』を活用形とみなすことは,『状態受動』の表現形式
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を規則によって生成することを意味し,したがってたとえば『状態受動』を形成する 動詞の統語的特徴の記述において,『状態受動』形成の可能性を指摘し,また一般的 な形で『状態受動』の持つ意味,すなわち結果的状態を表すということを記述してお けばよいことになる。また,それによって動作受動との関連づけも可能になる。
しかし『状態受動』を活用形とみなす解釈も,(イ)『状態受動』の形成が高度に規 則的生産的であり,(ロ)『状態受動』を形成する動詞の意味が一定の意味的タイプ にまとめることができる場合にのみ意味を持つものであろう。
『状態受動』がどれ程の生成的規則性を持つのかという問題は,結局のところ経験的 な研究によってのみ解くことができるものであり,現在の研究状況では確定的な答を 出すことはできない。しかし『状態受動』を活用形ととらえる仮説も十分な論拠があ り,またかならずしも決定的に否定されえない現状では,それがドイツ語動詞の意味 記述の簡潔な処理を可能にしうる可能性を持つ限り,『状態受動』を活用形と捉える 立場に立ち,経験的研究を続けることには意義があると言えるであろう。
Heidolph u.a.(1981)も同一の考えを次のように述べている。
Die überwiegende verbale Charakteristik der Formen vom Typ ist befreit sowie deren charakteristische Relation zu den Formen vom Typ wird befreit läßt es geraten erscheinen, beide als Glieder eines Paradigmas aufzufassen und als Vorgangspassiv und Zustandspassiv einander gegenüberzustellen. (S.559 )
3.『状態受動』の表現形式は一種の「語い素」とみなすことができるか
2.において『状態受動』の表現形式は,動詞の活用形と捉えるべきであることを 述べた。次に,『状態受動』の表現形式が一種の「語い素」(=Lexem ),すなわち 一種の動詞語幹とみなすことができることを述べる。
3.1. 一般に動詞の形態は,次の5つのカテゴリーによって構成される。
(イ)人称,(ロ)数,(ハ)時制,(ニ)態,(ホ)法
これらのうちで,『状態受動』がその一下位範ちゅうである「態」は,次のような統 語的特徴を持つ。
(イ)語幹にもっとも近いところに配置される。
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ge- schliess -t worden sei- e st 本動詞語幹 . .
態 .
時制 法 人称 数
この図から見てとれるように,「態」は,動詞語幹に他のどの範ちゅうよりも近いと ころに位置している。
(ロ)他の範ちゅうと異なり,不定形で表示できる。
a)能動態 : schliess- b)動作受動: geschlossen werd- c)状態受動: geschlossen sei-
すなわち,「態」を表す形態は,他の4つの形態範ちゅうとは無関係に定めることが でき,したがってこれらの4つの形態範ちゅうを担いうる基本的単位とみなせるので ある。
3.2. ここで興味深いことは,形態的に見た場合,『状態受動』の表現形式は動詞語幹
からの派生とみなすべきであると述べたが,上記の現象(すなわち『状態受動』の表 現形式が,動詞語幹と同様に,他の4つの範ちゅうを担いうること)から見てとれる ように,動詞の文法範ちゅうの結合に関して,『状態受動』の表現形式が,「態」の 範ちゅうにおいて動詞語幹と対等の統語的特性を持ちえていることである。このこと は,『状態受動』の派生が他の文法範ちゅうの派生とは根本的に異なることを意味し ている。すなわち,たとえば時制形式の,動詞語幹からの派生は,「時制」というカ テゴリーの,動詞語幹(=「能動態」)への付加によって行われるが,『状態受動』
の派生は,動詞語幹(=「能動態」)に対する質的変換,すなわち「態」というカテ ゴリー内における内部的変化なのである。(注3)
したがって,『状態受動』の派生は,表現対象の事柄を動作主中心でながめることか ら,被動作者中心でながめることへの,表現の視点の転換であり,同時に,『状態受
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動』が,事柄の捉え方,すなわち「態」において動詞語幹に対応する意味単位を形成 していることになる。動詞語幹が「態」における一つの意味的基本単位(→能動態)
であるように,『状態受動』の表現形式も「態」における一つの意味的基本単位(→ 状態受動)を構成していると言えるであろう。したがって意味的に見た場合,動詞語 幹と『状態受動』の表現形式とは事柄の捉え方,すなわち動作主中心か被動作者中心 か,および行為中心か状態中心かにおいて異なる2つの「語い素」(=Lexem)なの である。
3.3. このことは,『状態受動』の表現形式を動詞語幹の単なる形態的派生としてでは
なく,動詞語幹と対等な,「態」における一つの基本的意味単位と認めることを意味 するわけであるが,この仮定は恣意的なものではない。
『状態受動』の表現形式と動詞語幹とを2つの異なった,別個の「語い素」とみなす ことを支持する論拠として,『状態受動』に対応する意味単位が「語い素」語い項目 として存在していることを挙げることができよう。すなわち,本来の動詞語幹が動作 主の視点から眺めること,あるいは/および被動作者への動作主の他動的行為を表す のに対して,『状態受動』の表現形式は,結果的状態を表すとされるが,この意味的 対立は,形態の異なる別個の動詞的「語い素」によって実現されている場合があるの である。
(11) haben ---- gehören
〔所有者の視点から〕 :a )Er hat ein Buch.
〔被所有物の視点から〕:b )Das Buch gehört meinem Onkel.
(12)erschrecken
a. Ich erschrak über sein Aussehen.
b. Sein Aussehen erschreckte mich.
(13) hängen
〔他動的行為〕:a. Er hängt das Bild an die Wand.
〔結果的状態〕:b. Das Bild hängt an der Wand.
(14) legen ---- liegen
a. Er legt ein Buch auf den Tisch.
b. Auf dem Tisch liegt ein Buch.
例文(11)の場合, haben と gehören は,同一の事柄(所有関係)を表しているが,
所有関係を所有者の視点から眺めるのか,被所有物の視点から眺めるかにおいてのみ 異なっている。両「語い素」は,視点の向く対象物において対立しているのである。
例文(12)の erschrecken の場合にも,自動詞的異態(12a)と他動詞的異態(12b)
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との間に同一の対立が見られる (この種の動詞は自動詞的異態の場合と他動詞的異態 の場合とでは活用形が異なる)。
例文(13)の動詞 hängen の場合,他動詞的異態と自動詞的異態は動作主の視点から
他動的行為を表すか,被動作者の視点から当該行為による結果的状態を表すかにおい て対立している。この相違は,形態の異なる(14)の動詞 legen と liegen の間にも 見られる。
動詞語幹と『状態受動』の表現形式の間に見られる相違は,上例において異なった
「語い素」ないし動詞異態によって実現されている。『状態受動』の表現形式が一種 の「語い素」であるという仮説はしたがって,決して恣意的でないことは明らかであ ろう。なお(12)から(19)のような語い的「転換」(=Konverse)の現象は Pape- Müller(1980)に詳しく扱われている。Heringer(1967)もまた,文法的な「転換」
(すなわち受動形式)の他に,語い的な「転換」,すなわち上例(11)―(14))も有 るのであるから,受動態を「転換」という一般的な現象の枠組みの中で扱うべきであ ると述べている。
以上のことより,『状態受動』の表現形式は,形態的には動詞語幹からの派生である が,意味的に見た場合,形態の異なる別個の,能動態語幹に対立する「語い素」と見 ることができると言えよう。
4.『状態受動』を形成する動詞には一定の意味特徴が認められるか
3.において『状態受動』の表現形式が形態的には動詞語幹からの派生ではあるが,
意味的には動詞語幹と同一のレベルの意味単位とみなせるということを述べた。した がって派生的側面も考慮に入れると,『状態受動』の表現形式は,派生の元になる動 詞の意味に応じて,その意味が異なってくる可変的語い素と特徴づけることができる であろう。しかしすべての動詞から『状態受動』の表現形式が形成されうるわけでは ない。次に,どのような動詞が『状態受動』を形成するのかを眺めることにする。
4.1. 『状態受動』の形成に関し仮定できる第1の点は,この形成が意味的に制御され
ているということである。上で,『状態受動』の表現形式が一種の「語い素」と仮定 できることを述べた。一般的にある語いの存在はその意味内容が有意義であるか否か に依存している。この原理に基づくならば,形態的には可能な『状態受動』の表現形 式が容認可能か否かは,対応する意味単位が有意義か否かに基づくことになる。した がって,『状態受動』の形成の可能性は意味的な要因に戻すことができると考えられ る。
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4.2. 第2点は,『状態受動』が一義的な意味内容を持つと仮定できるということであ
る。久野(1980)によれば,複雑な構造の伝達表現機能は,それらが二次的な構造で あるため,強い動機を持つ,別の言葉で言えば,一義的な意味内容を持つと仮定され うるのである。複合的構造はその形成により多くのエネルギーを必要とするのであり,
その形成には明確な表現内容の存在が前提とされるとするのであり,これは言語経済 の原理から見て自然な論理である。
この仮説も,『状態受動』の表現内容が能動態と比べて均質であることを示唆してい る。すなわち,『状態受動』は,「過去分詞プラス sein」という複合的構造である。
したがって複合的な表現手段として強く動機づけられた,一義的な伝達機能を持つと 考えられるのである。
4.3. 実際,『状態受動』の形成は,能動態はもちろんのこと,動作受動のそれと比べ
ても,極めて限定されたものである。状態受動の形成が制限されたものであることを 示すために,動詞の統語的意味的下位分類に基づく能動態,動作受動,状態受動の形 成可能性を示したリストを以下に示す。なお,他動詞の意味的下位分類に関しては
Wotjak(1982, S.103)を参照した(ただし,一部修正してある)。
(Ⅰ)補足成分を持たない自動詞
(イ)非人称動詞 Es regnet.
*Es wird geregnet.
*Es ist geregnet.
(ロ)状態相動詞 Er schläft.
*Es wird geschlafen.
*Es ist geschlafen.
(ハ)完了相動詞 Er ertrinkt.
*Es wird ertrunken.
*Es ist ertrunken.
(ニ)行為動詞 Er tanzt.
Es wird getanzt.
*Es ist getanzt.
(Ⅱ)補足成分を持つ自動詞
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(ホ)状態相動詞
(A)関係表示
Er ähnelt dem Vater.
*Dem Vater wird geähnelt.
*Dem Vater ist geähnelt.
(B)位置表示
Das Buch liegt auf dem Tisch.
*Auf dem Tisch wird gelegen.
*Auf dem Tisch ist gelegen.
(ヘ)完了相動詞
Er entkommt der Polizei.
*Der Polizei ist entkommen.
*Der Polizei ist entkommen.
(ト)行為動詞 (A)3格目的語 Er hilft dem Vater.
Dem Vater wird geholfen.
Dem Vater ist geholfen.
(B)前置詞句
Er wartet auf seinen Freund.
Auf seinen Freund wird gewartet.
*Auf seinen Freund ist gewartet.
(Ⅲ)他動詞
(チ)Resultatobjekt(結果目的語=動詞の行為によって生じる結果を目的語にする場
合)
Er malt ein Porträt.
Das Porträt wird gemalt.
Das Porträt ist gemalt.
(リ)Adressat-Objekt(動詞の行為が向けられる対象を目的語にする場合)
(A)精神活動の対象 Er betrachtet das Bild.
Das Bild wird betrachtet.
*Das Bild ist betrachtet.
(B)記述対象
85 Er malt das Reh.
Das Reh wird gemalt.
Das Reh ist gemalt.
(ヌ)Source-Objekt(出発点目的語=移動における出発点を目的語にする場合)
Er säubert das Zimmer.
Das Zimmer wird gesäubert.
Das Zimmer ist gesäubert.
(ル)Goal-Objekt(到達点目的語=移動における到達点を目的語にする場合)
Er signiert das Bild.
Das Bild wird signiert.
Das Bild ist signiert.
(オ)Patient-Objekt(被動作者目的語=移動するものを目的語にする場合)
Er hängt das Bild an die Wand.
Das Bild wird an die Wand gehängt.
*Das Bild ist an die Wand gehängt.
(ワ)Co-Patient-Objekt(無生物の主語の作用対象を目的語にする場合)
Der Nagel hält das Bild.
Das Bild wird vom Nagel gehalten.
*Das Bild ist vom Nagel gehalten.
これは文のタイプを網羅的体系的に調査し,分析したものではないが,『状態受動』
の表現領域が能動態のそれよりも限定されていることは十分に知ることが出来るであ ろう。「有標」「無標」の理論で言うならば,『状態受動』の表現は,「有標」のも のと言えるであろう。(注4)
4.4. 上では,(イ)『状態受動』の形成が意味的要因によって統御されていること,
および(ロ)『状態受動』の意味内容が均質であると想定されることを述べた。この ことは,『状態受動』の形成に用いられる動詞も,その一構成素として意味的に均質,
あるいは少なくともある種の意味タイプに分けることのできるものであることを示唆 している。
どのような意味特徴の動詞が『状態受動』を形成するのかという問題の最終的結論は,
理論上,すべての動詞に関して『状態受動』の形成の可能性を経験的に調査してはじ めて得られるものである。しかし,それは実際問題として不可能である。現実にでき ることは,『状態受動』の形成を支配していると考えられる要因を仮説として提示す ることのみであろう。
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しかしこのことも,十分に意味あることと考えられる。すなわち言語形式は決して個 別的恣意的に形成されるのではなく,一定の規則に基づいて生成的に作られていくと 考えられるからである。この点に関し, Brinker(1971)も,次のように述べ,『状 態受動』の形成を条件づけている要因を見つけ出すべきである主張する。
Es stellt sich nun auch beim sein-Passiv die Frage, ob sich nicht ─ anstelle einer doch recht mühsamen und in absehbarer Zeit nicht zu erreichenden listenmäßigen Erfassung aller Verben, die ein sein-Passiv zulassen ─ allgemeinere Bestimmungen finden lassen, mit deren Hilfe die Verben mit der Möglichkeit zum sein-Passiv von denen, die kein sein-Passiv haben können, zu unterscheiden sind.(S. 104)(注5)
4.5. 以上の考えに基づき,解釈が恣意的にならないことも考慮に入れ,人間の動作主
が考えられ,かつ具体的な事物に対して具体的な働きかけを行う動詞に考察を限定し た場合,『状態受動』を形成しうる他動詞として次のような3つの意味タイプを挙げ ることができる。
(A)質的状態変化を表す動詞
a. abfahr- : Die Reifen sind abgefahren.
b. abschliess- : Die Tür ist abgeschlossen.
c. änder- : Der Rock ist geändert.
d. aufmach- : Die Tür ist aufgemacht.
e. auszieh- : Der Tisch ist ausgezogen.
f. beschädig- : Die Häuser sind beschädigt.
g. bestell- : Das Land ist bestellt.
(B)物の付着による状態変化を表す動詞
a. anzieh- : Das Kind ist angezogen.
b. ausfüll- : Das Formular ist ausgefüllt.
c. ausstatt- : Der Raum ist mit einer Klimaanlage ausgestattet.
d. behang- : Der Baum ist dicht behangen.
e. bekleid- : Er war nur leicht bekleidet.
f. auszieh- : Das Kind ist ausgezogen.
g. abtrock- : Das Geschirr ist abgetrocknet.
h. aufräum- : Das Zimmer ist aufgeräumt.
i. auspack- : Der Koffer ist ausgepackt.
j. bad- : Das Kind ist gebadet.
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(C)物の付着取り外しを表す動詞
a. abhäng- : Der Wagen ist abgehängt.
b. abhol- : Das Gepäck ist abgeholt.
c. abmach- : Das Preisschild ist abgemacht.
d. abnehm- : Das eine Bein ist abgenommen.
e. anbind- : Der Hund ist angebunden.
f. anbring- : Das Plakat ist angebracht.
g. ankleb- : Der Zettel ist angeklebt.
h. befestig- : Das Plakat ist befestigt.
タイプAは,統語的主語になっている被動作者の状態の変化が,タイプBは,統語的 主語になっている被動作者から物が付けられたり,取り外されたりすることが,タイ プCは,統語的主語になっている被動作者が取り付けられたり,取り外されたりする ことが表現されている。
4.6. 『状態受動』を形成するこれらの動詞はすべて「結果中心」である。ただし,状
態受動を形成する上に挙げた動詞タイプの間には「自然さ」の程度に差があり,タイ プCの使用はもっとも強くコンテクストに依存している。Helbig(1968)も,『状態 受動』の表現形式の容認性は程度問題でもあるとし,次のように述べている。
Damit wird freilich die Entscheidung über die Möglichkeit des Zustandspassivs eine Frage des Grades, nicht von binären grammatischen Regeln....
他方,現在までの分析によると,『状態受動』を形成できない動詞の典型的なタイプ として,(イ)行為のみを表す動詞と(ロ)継続相動詞の2つの動詞群で挙げられる。
(15)anfahr- :*Das Kind ist angefahren.
(16)behalt- :*Der Hut ist auf dem Kopf behalten.
状態相の動詞は,被動作者になんらの作用をも及ぼすことができないのであるから,
それが『状態受動』を形成できないのも当然のことである。
5.『状態受動』はなぜ「結果中心」の動詞によって形成されるのか
4.では,『状態受動』を形成する動詞が「結果中心」の動詞であることを述べた。
次に,『状態受動』がなぜ「行為中心」の動詞によってではなく,「結果中心」の動 詞から形成されうるのかを分析する。
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5.1. はじめに『状態受動』の意味内容と表現形式の間の対応関係を眺める。
『状態受動』は,先行する他動詞的行為によって生じる結果的状態を表す。その際,
「過去分詞」と「sein」という組み合わせは,『ある行為によって(被動作者が)ある 状態になっている』という意味構造を,そして過去分詞として用いられている本動詞 がその際の具体的な行為を表していると考えられる。
したがって,『状態受動』が実際に表す意味内容と,その表現形式の表しうる意味内 容とを対比するならば,被動作者がどのような状態であるかを直接的に表示する言語 形態がない,すなわち過去分詞として用いられている他動詞は先行する動作主の行為 を表すに過ぎず,したがって被動作者が具体的にどのような状態であるかを直接的に 指示する言語形式はないことに気付く。いわば,これら2つの間には意味的対応に関 して一種の「ずれ」が認められるのである。
ドイツ語の『状態受動』は,意味内容を忠実に一つ一つ言語化しているのではなく,
むしろその形態的統語的構造全体で当該の意味内容を総合的間接的に,すなわち「過 去分詞プラス sein 」という形態的統語的構造と他動詞の語義を手掛りにした推論に任 されているのである。
この種の表現様式は Askedal(1982)によれば,Periphraseと呼ばれる。
Die Bedeutung der Periphrase ist nicht mehr aus der der einzelnen Elemente ableitbar.
5.2. 次に,「行為中心」の動詞と「結果中心」の動詞との相違である。この相違の説
明のために,Ballmer/Brennenstuhl(1981)の actionsart モデルを用いる。このモ デルの概要は次のようである(一部,修正を加えてある)。
被動作者が動作主の行為を受ける場合,事象はrest state,accelation,progressive state,decelation,ending,rest state という6つの連続相に基づいて展開する。
その際,動作主の intensity(=activity の度合)はそれぞれの相において異なり,
次のような曲線を描く。
progressive state
acceleration deceleration
rest state ending rest state
Intensity
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このモデルに基づいて,「行為中心」の動詞と「結果中心」の動詞の相違を説明する ならば,前者は図1のように,後者は図2のように図示できる。
図1
図2
すなわち,「行為中心」の動詞の動作受動は progress phase のみを,それに対し「結 果中心」の動詞の動作受動はprogress phaseのみならず,endingをも表すのである。
5.3. 『状態受動』はこのモデルの中の,いわば ending の後の rest state を表示する ものである。5.1.で見たように,『状態受動』の意味内容が「過去分詞プラス sein」と いう結合形式と本動詞の意味内容を手掛りにした推論に任されているとするならば,
上のモデルにおける「動作中心」の動詞と「結果中心」の動詞の比較より『状態受 動』を形成する動詞が「結果中心」でなければならないことは明らかであろう。
すなわち,「結果中心」の動詞の場合,『状態受動』の表現領域である ending も意味 内容に含まれており,したがって,「過去分詞プラス sein」の組み合わせだけによっ ても十分に言語内で「結果的状態」を特定できるのである。
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それに対して,上の図1における progress phase のみを表す「行為中心」の動詞,た
とえばanfahren の場合,当該の行為によって被動作者がどのような状態に存在するよ
うになったかを言語内的に知る手立てはないのである。現実の世界における出来事と
してanfahren という行為を眺めた場合,当然,この行為によって様々な結果が生じう
るわけであるが,それは *angefahren seinという言語形式の意味には含まれないもの である。現実にanfahren という行為によって引き起こされる結果は状況に応じて多様 であり,それを言語内で特定することはできない。すなわち「行為中心」の動詞の場 合,その結果的状態は言語表現に含みえないのである。
『状態受動』を形成する動詞は,その「結果的状態」が具体的にどのような状態であ るかを言語内的に特定できるものでなければならないのであり,したがってそれは,
行為のみならず,それによって生じる結果をも表す,すなわち ending の動作相までも 語義に含む「結果中心」のものでなければならないのである。(注6)
6.『状態受動』の「省略的」表現様式はドイツ語特有ものか
5.においては『状態受動』を形成する動詞が「結果中心的」のものであるのは,
その意味内容が「過去分詞」と「sein」との組み合わせによって間接的に表現されてい るためであることを述べた。次に,この『状態受動』の表現形式における「構造的省 略性」が,日本語と比べて場合,ドイツ語に特徴的なものであり,この対立は他の表 現タイプにも広く見られることを述べる。
6.1. 日本語の対応表現は,ドイツ語より『状態受動』の意味構造に忠実に,一つひと
つの意味要素を直接的に言語化していると言える。たとえば,日本語の対応表現の構 造は次のようである。
(17)(戸は) schimer- are- te- iru
動詞語幹-
受動 接辞 状態
このように日本語では少なくても,『状態受動』の「ある他動的動作の作用を受け た」ことを表す表現部分と「ある状態である」ことを表す表現部分とが明確に区分さ れ,形態上,ドイツ語よりも「直接的」に表現されていると言えるであろう。『状態 受動』の表現に関して,ドイツ語は間接的総合的表現様式を用いるのに対して,日本 語は直接的分析的表現様式を用いているのである。
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6.2. 次に,動詞的意味がドイツ語では「間接的」に,日本語では「直接的」に表示さ
れるという現象はかならずしも『状態受動』に限られたことではないことを示すため に,同一の対立が認められる複合的動作表現を挙げる。
(イ)結果表現
A)「4格目的語+結果規定+動詞」という統語構造による結果表現 (18)Er schleift das Messer scharf.
(19)彼はナイフを研いで,鋭利にする。
この表現タイプにおいても,『状態受動』の場合と同様に,結果を引き起こすことを 表す部分,すなわち「‥にする」に対応する部分はドイツ語の場合,形態によってで はなく,統語構造によって表現されており,日本語の場合,この部分は語い的に表現 されている。
B)「再帰代名詞4+結果規定+自動詞」という統語構造による結果表現 (20)Er trinkt sich krank.
(21)彼は飲み過ぎて,病気になる。
この表現タイプは,日本人には理解しにくいものであるが,ここにおいても,結果を 引き起こすことを表す部分,すなわち「‥にする」に対応する部分はドイツ語の場合,
語い的ではなく,統語構造によって,日本語の場合,語い的に,すなわち2つの異な った語形によって表現されている。
C)「4格目的語+方向規定+動詞」という統語構造による結果表現
(22)Er singt das Baby in den Schlaf.
(23)彼は歌って,子供を寝かしつける。
これは,搬動語法と呼ばれるものである。この表現タイプにおいても,結果を引き起 こすことを表す部分,すなわち「‥にする」に対応する部分はドイツ語の場合,語い 的ではなく,統語構造によって,日本語の場合,語い的に,すなわち2つの異なった 語形によって表現されている。
(ロ)移動表現
これは,方向規定との結合によって「移動する」という意味特徴が付加される表現タ イプである。ドイツ語の例文(24b)(25b)では,(24a)(25a)と比べて場合,
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「跳びはねる」ないし「よろける」という行為のみならず,「移動する」という意味 も含まれ,意味的に拡大されている。それに対して,日本語ではこの拡大した意味部 分は語い的に表現される。
(24)a. Der Hase hüpft.
b. Die Kinder hüpfen zur Tür.
(25)a. Er stolpert über die Schwelle.
b. Er stolpert zum Ausgang.
(26)子供たちは,跳びながら,戸口へ行く。
(27)彼はつまずきながら,出口に行く。
ここでも日本語がひとつの動作的内容には一つの動作的表現という分析的表現様式を とっているのに対して,ドイツ語は方向規定としての前置詞句と動作の仕方を表す動 詞との結合によって「移動」という意味を間接的に表すという総合的表現様式をとっ ている。
(ハ)複合的行為
ドイツ語の,接頭辞を用いた複合動詞は多く,接頭辞が動詞的意味を表していない
(したがって,個々の動詞的意味は具体的な形態によっては表されていない)のにも かかわらず,複合的行為を表現するが,日本語では当該の複合的行為は異なった動詞 形態によって表現される。
(28)a. abfahren : 乗って―使い―古す b. abschleppen : 引っ張って―行く c. anbinden : 結び―付ける d. ankleben : 貼り―付ける e. behängen : ぶら下げて―飾る
ここでも,日本語が「一つの動作的内容にはひとつの動詞表現」というように分析的 に表現しているのに対して,ドイツ語では接頭辞と動詞語幹との結合によって間接的 総合的に表現している。
(ニ)動作相
動作相の相違はドイツ語でも原則的に語い的に表現されるが(29)(30),語い的に 中立化している場合もある(31)(32)。
(29)Er setzt sich auf die Bank. (完了相)
(30)Er sitzt auf der Bank. (状態相)
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(31)Das Auto hält plötzlich. (完了相)
(32)Das Auto hält schon eine Stunde. (状態相)
(31)および(32)の間の動作相の相違は,日本語において語い的,ないしは形態的 に分析的に表現される。
(33)車が突然停まる。
(34)車がもう一時間も停まっている。
次のドイツ文(35)(36)の間の相違も((35)では当該の行為が前面に出ているの に対して,(36)ではそれによって求められた状態が表現されている),日本語にお いては語い的形態的に表現される。
(35)Er hat versucht, ein Bild zu verstecken.
(36)Er hat das Bild bis zum Ende der Party versteckt.
(37)彼は絵を隠そうとした。
(38)彼は絵をパーティーの終わりまで隠していた。
また,次のドイツ語の例では,使役性の相違が(幹母音の変音を含むこともあるが)
自動詞的結合価と他動詞的結合価の相違によって,すなわち統語構造によって表現さ れているが,日本語においては語い的形態的に表現される。
(39)Er hängt das Bild an die Wand.
(40)Das Bild hängt an der Wand.
(41)彼は絵を壁に掛ける。
(42)絵が壁に掛かっている。
6.3. 以上の観察から,ドイツ語の動詞的表現の多くの部分が間接的総合的に表現され,
それに対応する日本語の動詞的表現が直接的分析的という特徴は,『状態受動』の表 現に限らず,動作表現一般にかなり広く見られる傾向ということが分かるであろう。
『状態受動』における表現様式はしたがって,ドイツ語における動作表現一般の傾向 に準ずるものなのである。
7.『状態受動』と対立を成す表現タイプにどのようなものがあるか
6.ではドイツ語の『状態受動』の「省略的」表現様式がドイツ語の他の表現にも 見ることができることを述べた。最後に,『状態受動』が表現機能において他のどの ような表現タイプと対立しているかを見ることにする。
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7.1. 『状態受動』の表現視点意味内容は次のように特徴づけられる。
(イ)被動作者を統語的主語にし,その視点から事柄を表現する
(ロ)被動作者に関する状態を表す
(ハ)それを引き起こす動作が前提とされている
以上の3点で『状態受動』と対立する表現タイプとして次のものがある。
7.2. 表現の視点
表現の視点において,動作主行為の受け手(Adressat)道具格中心の表現タイプが 被動作者中心の『状態受動』と対立する。
(43)Mein Freund kauft ein Buch. (動作主中心)
(44)Mein Freund bekommt ein Buch geschenkt. (行為の受け手中心)
(45)Das Messer schneidet gut. (道具格中心)
能動文の大半は動作主中心であり,行為の受け手(Adressat)中心道具格中心の表現 は 少 な い 。 行 為 の 受 け 手 中 心 の 表 現 , す な わ ち 過 去 分 詞 プ ラ ス bekommen を
bekommen受動と呼ぶこともある。
また,道具格中心の表現の場合,常に属性表示が義務的であり,道具格自身も前置詞 句の形で現れることが多い。
(46)Aus diesem Glas trinkt es sich gut.
7.3. 被動作者に視点を置く表現タイプではあるが,状態表現ではなく,動作の逆行性
を表す点において,動作受動が『状態受動』と対立する。
(47) Er wird geschlagen.
動作受動に準じ,被動作者に視点を置く表現タイプと言えるが,ただし,動作の逆行 性が明示的に表現されていないものとして,次の3つのものを挙げることができよう。
(48)Der Ast bricht. (自動詞)
(49)Die Augen öffneten sich ein wenig. (再帰表現)
(50)Der Plan geht in Erfüllung. (機能動詞構造)
7.4. 上例(48)(49)(50)と極めて似ている(すなわち動作受動のように被動作者
に視点を置く表現タイプと言えるが,ただし,動作の逆行性が非明示的である)が,
その行為によって喚起される被動作者の状態表現ではなく,その行為との関連におけ る被動作者の属性を表す点において,次の表現タイプが『状態受動』と対立する。こ
95
れら3つのうちで再帰表現のものがもっとも生産性がある。
(51) Die Tür schließt gut. (自動詞)
(52) Das Buch verkauft sich gut. (再帰表現)
(53) Das Fleisch ist eßbar. (-barに終わる形容詞)
7.5. 表現視点および意味内容において『状態受動』に対応するが,形態上自動詞であ
るため,その結果状態を引き起こす行為が明示的に表現されていない表現タイプとし て次の2つのタイプがある。なお,これは被動作者の位置的変化を表すものに限られ る。
(54)他動詞的表現が同形のもの Das Bild hängt an der Wand.
→ Er hängt das Bild an die Wand.
(55)他動詞的表現と変音関係が成り立つもの Das Buch liegt auf dem Tisch.
→ Er legt das Buch auf den Tisch.
7.6. 表現視点および意味内容において『状態受動』に完全に対応するが,再帰表現か
らの派生である状態再帰(Zustandsreflexiv, Helbig/Buscha1976)がある。
(56)Er ist verletzt. (← Er hat sich verletzt.)
(57)Er ist erholt. (← Er hat sich erholt.)
7.7. これらすべての関係を図示すると,次ページのようになる。なお,カッコ内の数
字は例文の番号を示す。
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97 8.まとめ
8.1. 以上,ドイツ語の『状態受動』に関する6つの問題提起に対して考察を述べてき た。それらの結果はおおざっぱに次のようにまとめることができよう。
(イ)『状態受動』の形成は,当該の行為によって生じる結果的状態への指示をその 語義構造に含む「結果中心」の他動詞から原則的に規則的に形成される。
(ロ)『状態受動』の表現形式は「間接的省略的」である。しかしこの「間接的省略 的」の程度は, 『状態受動』の意味内容を言語内的に特定するのにさしつかえないも のである。またこの「間接的省略的」という現象はドイツ語の他の表現形式にも見ら れ,ドイツ語特有のものと考えられる。したがってこの「間接的省略的」という現象 はむしろ,言語の合理性を示すものと考えられる。
(ハ)『状態受動』は,他動的行為の行われる状況において,被動作者の視点から出 来事の連続性における rest state という動作相の表現のために存在しており,その意 味特徴における対立に基づき,他の様々な表現形式と体系を形成している。
8.2. これらの考察の基になっている考え方は,「言語形式は人間の伝達欲求を充たす
手段として発達してきた。したがってすべての言語形式は,その伝達機能に存在意義 があり,またその伝達機能の遂行に『言語経済性』という合理性が認められる」とい うものである。したがって本稿の分析は,文法現象の記述というよりも,(イ)それ らの規則性および規則性における合理性」,および(ロ)言語形式の伝達機能の2点 に向けられたのである。(注7)
ドイツ語を母語としない日本人学習者にとって文法規則を学ぶのは,あくまでもそ の伝達機能を知るためである。なぜならば,言語行為の目的は,ただ単に文法的に正 しい文を作ることではなく,伝達表現のためなのである。言語分析の目的もしたがっ て,意味内容と表現形式との間の関連を分析し,それらを結ぶ生成的規則を立てるこ とにあるのである。
また,この考察には日本語との比較も考慮した。それは,言語の特徴づけが他の言語 との比較によってもっとも良く出来るということもあるが,私たち日本人にとってド イツ語の分析は日本語と関連づけられて(はじめてあるいはもっとも良く)意味を持 つと考えられるからである。
注
1:Helbig(1981)によれば,状態受動には次のような3つの部類に分かれるが,本
稿で扱うのは(イ)のタイプである。
(イ)動作受動(werden形式)が対立形式として存在する場合
98 a. Das Fenster ist geschlossen.
b. Das Fenster ist geschlossen worden.
(ロ) sein 形式も werden 形式も意味的に区別がつかない場合 Die Stadt wird/ist von 2 Millionen Menschen bewohnt.
(ハ)対応する werden 形式が存在しない場合 a. In der Flasche sind 2 Liter enthalten.
b.*In der Flasche werden 2 Liter enthalten.
2:「本動詞の過去分詞プラス sein」という形式は状態受動だけのものではなく,た とえば,能動態完了形および状態再帰(reflexivischer Zustand)も同一の形式を取る。
(1)Der Zug ist abgefahren. (<Der Zug fährt ab.)
(2)Er ist erholt. (<Er hat sich erholt. )
状態受動と(1)(2)との相違は,主語と本動詞の動作との意味関係である。すな わち,状態受動では主語が本動詞との意味関係において,(1)と異なり,本動詞の 本来の(能動文における)目的語であり,かつ(2)と異なり,非再帰的な目的語で ある。なお,状態受動と能動態完了形の区別が明示的でない場合もある。
(3)Die Wunde ist geheilt.(参照:Die Wäsche ist getrocknet. )
3:Heidolph u.a.(1981, S.549)は「態」と「時制法」との相違について以下のよう に述べている。
Während die Elemente der Tmpus- und Moduskategorien mit dem Verb als Pradikat obligatorisch verbunden werden und jedes Verb über ein relativ vollständiges Tempus-Paradigma verfügt --- mit einigen Abstrichen gilt das auch für das Modus-Paradigma ---, ist das Genusparadigma nicht bei allen Verben gleichmäßig ausgebildet.”
4:「有標」理論(たとえば Koster 1978)では「有標」表現の特徴として,次の4 点を挙げている。
(イ)「有標」表現は,その習得に「無標」の表現の習得よりもより多くのエネルギ ーを必要とするために,子供によって比較的遅い時期に習得される。
(ロ)「有標」表現は個別言語的に,また方言ごとに異なる。
(ハ)「有標」表現の文法性は個々の語いの特性に基づく。
(ニ)「有標」表現の文法性に関するインフォーマントテストにおいてネイティヴ・
スピーカーの間でも意見が大きく割れる。
以上の定義に従えば,状態受動は,少なくても(ロ)(ハ)(ニ)において,明らか に「有標」表現である。状態受動は(イ)一定の動詞からしか形成できず,(ロ)状 態受動形の文法性はインフォーマントの間でもしばしば異なる意見を見るのであり,
また(ハ)ドイツ語の状態受動は,日本語や英語において異なった形式で表現化され
99 ている。
5:次の言葉も参照。
Die Liste (der Verben, die ein werden-Passiv bilden)würde zu umfangreich werden. Hinzu kommt, daß man auch bei einer Erweiterung immer nur einen Bruchteil der Verben vor sich hätte, die im deutschen Gegenwartsschriftum
(oder gar in der deutschen Gegenwartssprache überhaupt)im werden-Passiv auftreten können. Die Aufgabe, eine einigermaßen vollständige listenmäßige Zusammenstellung der betreffenden Verben zu erarbeiten, erscheint in absehbarer Zeit kaum realisierbar. Es stellt sich somit die Frage, ob es nicht einfacher ist, den umgekehrten Weg zu wählen, indem man die Verben zu erfassen versucht, die kein werden-Passiv bilden bzw. bilden können.
6:しかしこれは,単なる必要条件の一つであり,ending の動作相をその語義構造に 含む動詞がすべて状態受動を構成しうるのではない。それにはなおいくつかの要因が 関係している。
(イ)第1点は,状態受動の意味内容が人間の表現対象になるか否かである。
(1)a. Die Fliege ist gefangen.
b.*Der Ball ist gefangen.
(ロ)第2点は,状態受動の意味内容が表現対象にはなりうるものでも,それが言語 習慣的に許容されているか否かである。
(2)*Er ist getötet.
以上の他にもさらにいくつかの要因が絡んでいる。たとえば,次の例のペアーは極め て類似した,ないしは同一の事例を表していると考えられるが,一方のみが容認可能 であり,他方は容認不可能である。
(3)a.*Er ist geärgert.
b. Er ist verärgert.
(4)a.*Das Heu ist auf den Wagen geladen.
b. Das Heu ist aufgeladen.
接頭辞の付いている表現が容認されるのは,(4)の場合は,接頭辞 ver- によって状 態変化がより強く前面に出ているから,(5)の場合は,接頭辞 auf- によって「対象 物」の移動よりも,「対象物」の位置的状態変化に表現様式が移行しているからであ ると思われる。
7:Dik (1982)のfunctional grammarの定義も参照。
In the functional view a language is regarded as an instrument which human beings use in order to achieve certain goals and purposes... From the functional point of view one whishes, wherever this is possible, to understand why
100
languages are organized as they are, in the light of the uses to which they are put : it is the functional, i.e. purpose-related properties of a language which tell us most about its essential.”(下線は筆者)
文献
Askedal, J. Ole (1982) : Zur semantischen Analyse deutscher Ausxiliar- konstruktionen unter dem Aspekt der Unterscheidung von summativer und nicht-summativer Bedeutung, in:Deutsch als Fremdsprache, Leipzig, 3/1982 Balmmer, T. /W. Brennenstuhl(1981) :An Empirical Approach to Frame- theory : Verb Thesaurus Organization, in :Eikmezer, H.-J./Rieser, H.
(Hrsg.):Words, Worlds, and Contexts, Walter de Gruyter, 1981 Brinker, Klaus(1971):Das Passiv im Heutigen Deutsch, Schwann
Dik, Simon C.(1982) :Some Basic Principles of Functional Grammar, in: Reprints of the Plenary Session Papers, The XIIIth International Congress of Linguists, 1982
Heidolph, Karl E. u.a. ( Hrsg. ) ( 1981 ) : Grundzüge einer deutschen Grammatik, Akedemie-Verlag
Helbig, Gerhald(1968):Zum Problem der Genera des Verbs in der deutschen Gegenwartssprache, in:Deutsch als Fremdsprache 3/1968
- - - - - (1982) :Bemerkungen zum Zustandspassiv, in:Deutsch als Fremdsprache, 2 /1982
Helbig, G./J. Buscha(1977):Deutsche Grammatik, Leipzig
Heringer, Hans J. (1967): Wertigkeit und nullwertige Verben im Deutschen, in:Zeitschrift für deutsche Sprache 23, Hueber
Koster, Jan(1978):Conditions, empty nodes, and markedness, in:Linguistic Inquary 9. 4
久野 暲(1978):談話の文法,東京
Pape-Müller, Gisela(1976) :Das Passiv in der deutschen Standardsprache, Heutiges Deutsch I/7, Hueber
Wotjak, Barbara(1982):Zur Darstellung der Zuordnungsbeziehungen zwischen formalgrammatischer Ausdrucksstruktur und propositional-semantischer Inhaltsstruktur, in:Deutsch als Fremdsprache, 2 /1982