大学ジャーナル
1 vol.111
2014年(平成26年)9月10日111
発行所 :くらむぽん出版 〒531-0071 大阪市北区中津1-14-2 TEL06(6372)5372 FAX06(6372)5374
E-mail [email protected]
http://www.djweb.jp/
大学ジャーナル
9 月号
(第19巻3号・通巻111号)
Daigaku Journal
vol.
C o n t e n t s
F R E E
So What?と言われないために
読者アンケートを募集していま す。左のバーコードを読み取り、
アンケートにお答えください。
とは、まさにこういうところまで深く掘り下げ、それを行動に結び付けられる人間でなければならないと考えています。世界に平和や安定がなければ、われわれは何のために働いているのかがわからないのです。
大 学 と は
大学で身につけるもの、大学で何を学ぶかについても、今見たような偏りが気になります。よく説明会に訪れた高校生から、「この大学を出ると、どこに就職できますか」と聞かれることがあります。そういう時、私は反対に問います。「あなたは大学を卒業したら何に貢献したいのですか」と。自分がしたいことをどのように社会に還元できるのかを、まず考えて大学を、学部を選んでほしいと。勉強というのは、けして自分のためだけにするものではないとわれわれは考えています。勉強するということは、他者のためでもあり、さらには社会に貢献するためでもある。それをこそ、学ぶためのモチベーションにもしなければなりません。人間というのは自己中心的な存在で、なかなかこのようには考えられませんが、自分がしたいことを支えてくれる社会構造とはいかなるものかを冷静 に考えれば、それが他者のこと、社会全体について考える人間がいなくては成り立たないことに気づくはずです。日本の諺にも《情けは人のためならず》とあります。他者のためにすることは、多少回り道になってもいつかは自分に返ってくる。こう考えることで、われわれは他者のことも考えられるようになるのです。私の専門は、教育課程論、つまりカリキュラムの目的や編成、その構成の仕方を研究する学問ですが、著名な先駆者であるジョン・デューイ(John Dewey)には《(教育は成長することと全く一体であり、)教育の課程はそれ自体を超えるどんな目的も持っていない…》(『民主主義と教育』)という言葉があります。教育の目的とはまさに学ぶことのため以外の何ものでもなく、学ぶ者が生涯学び続ける姿勢を身につけ、自らの内面的目的に向かって成長し続けるよう促すこと、大学とはその最終のステージなのです。
す べ て は 人 間 の 尊 厳 の た め に 、 南 山 教 育 の 最 重 要 モ ッ ト ー
南山大学では、こうした教育観を「人間の
大 学トップ から 高 校 生 へ の メッセ ー ジ
04 05
08
11
読者アンケート募集中
大学で身につけることを否定するわけではありません。ただ大学の最も大事な伝統的な使命は、経済活動、国際競争の前提となる平和で安心して共生できるグローバル社会を作ることであり、そのことに貢献する人材の育成と輩出に他なりません。経済活動を活発にすることで貧困を減らし、政治的な安定を求めるという考え方も理 解できないわけではありません。しかしまず平和と安心できる社会が先にあり、その上で、経済活動も成り立つと考える方が普通だと思います。カトリック教会がキリスト教の普及で世界展開を始めたのは4、5世紀から。その歴史を継承するカトリックの大学としては、宗教的な違いに基づくいざこざをいかに止められるかを考えること、そのための人材を輩出する責任を担っています。人間は、一旦「自分は絶対正しい」と信じ込むと武器まで手にするようになる。しかし冷静になれば、たとえ意見の相違があっても、共存の道はたくさんあることにも気付きます。ただ現実社会では、ユネスコや国連といった、それを保証するための機関がうまく機能しているとは言い難い。私は大学が育成すべき真のグローバル人材
03
09
10
1948年7月23日生まれ。ドイツ連邦共和国(旧西ドイツ)ヘッセン州リンブルク出身。ドイ ツの神学校、南山大学文学部神学科で神学を、アメリカで教育学を学ぶ。シカゴ大学 にてph.D.を取得(専攻は教育課程論)。1975年、司祭叙階。1984年からは南山大 学にて教鞭を執る。2008年4月より現職。カトリックの各種要職も兼任している。趣味 は、クラシック音楽鑑賞と読書。
06
12
16
真 の グ ロ ー バ ル 人 材 と は
現在の日本の大学を蔽うグローバル人材育成についての議論は、私の目には経済優先でやや実利主義、スキルを身につけることなどにやや偏しているように映ります。もちろん国際競争力を高めるための人材育成や、国際社会で活躍するために必要な資質やスキルを
南山大学 学長
ミカエル・カルマノ 先生
Michael Calmano
14 日本では数少ない男女共学のカトリック系総合大学
である南山大学。1946年設立の南山外国語専門学 校に端を発し、4代続けての外国人学長※、2割を占め る外国人教員など、今日のようにグローバル化が叫 ばれる以前から国際化を先導する国内有数の総合 大学としても知られてきました。2015年には理工 学部が、2017年には総合政策学部が瀬戸キャンパ スから名古屋キャンパスへ移転。都心の1キャンパス として、One Campus Many Skills.の標語のもと に様々な改革も予定されています。ドイツ人で神言 修道会神父、教育課程論が専門のミカエル・カルマノ 学長に、グローバル人材や大学、南山大学の目指す ものについて、また高校生へのメッセージをお聞き しました。
※第3代学長ヨハネス・ヒルシュマイヤー、第4代学長ロバート・リーマー、第 5代学長ハンス ユーゲン・マルクス、第6代学長ミカエル・カルマノ
人 間 の 尊 厳 の た め に
進路のヒント 目指せ!グローバル人材
その2英語力×論理的思考力を磨こう
国際大学副学長 加藤竜太先生社交力を身につけよう
東京大学法学部教授 高原明生先生
グローバル社会で存在感高まるイスラーム諸国
早稲田大学国際教養学部教授 桜井啓子先生グローバル時代のキャリア教育
法政大学キャリアデザイン学部准教授 田中研之輔 先生×京都産業大学法学部教授 中谷真憲先生まだ知らぬ世界へ飛び込んでみよう
佛教大学社会学部 野﨑敏郎先生グローバル人材を目指すための授業研究
京都大学国際高等教育院『Business English』を受講して
イギリスの大学進学のための資格制度
(早稲田大学 沖清豪先生)
/トピックス 大栗博司先生の「超弦理論が予言する 驚異の宇宙」
第3回どうして数学を学ぶの 合格者座談会
私たちこうして東大に合格しました!
連載 ビジネスが誕生するとき/書評 カワル!学科
追手門学院大学経済学部
『経済学』を面白く
追手門学院大学経済学部長 森島覚先生
デキル!キャンパス
立命館大学大阪いばらきキャンパス 経営学部の21世紀のグローバル・
アントレプレナーシップ教育に迫る
立命館大学経営学部長 池田伸先生連載 武川アイちゃんの東京・ジャパン・グローバル
/アドラーの教育論/君の腕時計をスルリと!
マジック×催眠術×認知科学最前線
15を低くすることで、今以上に学際性を高めたいとも考えています。
2017年のキャンパス統合にあわせて、クォーター制への移行も計画しています。夏休み等を使った短期留学などがとてもやりやすくなるとともに、教員の自己研鑽の機会も増やすことができるでしょう。また、これまで外国語科目だけだったコースのナンバリング制を他の教科へも広げ、近年言われている学部教育の質保証目指して、学修の成果をこれまで以上に目に見えるものにしていきたいと思います。
ちなみに外国語科目については、共通教育科目の英語を提供するプログラムを企画・運営する英語教育センターを作り、入学式直前にプレイスメントテストを行い、レベル別クラスに分けるなどの改革を行っています。また2017年からは、専門についての教育改革も加速させたい。特に社会科学系ではこれは重要で、たとえば法学部ではグローバル化をキーワードに、法律の国際比較などの視点を盛り込めば、一層南山らしさが出てくる。また、経済、経営はもともとグローバルな学問ですが、発展途上国の経済発展が著しい中、欧米中心の視点だけでは不十分になってきていますから、そこにラテンアメリカ うであるように、特別の科目を設けてしまうと、その時間以外には学ばなくてよい、ということになりがちだからです。
南 山 大 学 の こ れ か ら
現在、多くの大学でキャンパスの都心回帰が進んでいますが、南山大学も
20
15年
に理工学部が、
20
17
年には総合政策学部が、瀬戸キャンパスから名古屋キャンパスへ移転し、すべての学部が名古屋キャンパスに集まります。私たちはこれを、“One Campus Many Skills.”という標語で表し、多様な専門を目指す学生が混ざり合い、お互いを刺激し合うようになることで、これまで以上の教育効果が上げられることを期待しています。大学とは自分の専門だけではなく、他の専門についても学ぶ場であり、多様な専門を表す学生が多ければ多いほど、各人の身につけられるスキルは増えるからです。
現在は、名古屋と瀬戸とで別々のカリキュラムで行っている外国語をはじめ、すべての共通教育が一本化できるようになりますから、4学部の学生が、部活やサークルにおいてだけでなく、同じクラスでも学べるようになります。また専門においても、学部間の垣根 などの地域、歴史・文化の研究なども組み合わせていくべきだと思います。もちろん、このようなカリキュラム改革や学修時間の厳格な管理といった形を整えることだけで、教育の質を高められるとは思っていません。最も重要なのは、一人ひとりの学生に自ら進んで学ぼうという意欲を与えることなのです。
高 校 生 へ の メ ッ セ ー ジ
何をさておいても英語の力をつけることが大事です。大学にも英語の授業はありますが、大学の学びの基本は英語で論文を読む、ネットにアクセスして、最新のニュースや学問の動向を知る、つまり英語で学ぶことですから、そのための基礎はしっかり身につけてきてほしいと思います。また英語を覚えると、大学で学ばなければならない第二外国語、とくにヨーロッパの言語はとても習得しやすくなります。 尊厳のために」というモットーで表しています。この言葉はとても便利で、おそらく多くの人は直感的に肯くと思います。しかし、その根拠を付き詰めるには少し難しい議論が必要になるかもしれません。宗教的な観点、おもにカトリックの立場でこれを解釈すると、すべての人間は神の手によって等しく造られたという意味で平等であり、同じ権利を持ち、各自が内面的成長を果たすことが約束されている。だからわれわれはみな、その成長への導きを自分自身の中に見出す必要があり、教育とはそれに気付かせ、成長を促すものである、ということになります。そして「自分の思っている尊厳はすべて自分に返ってくる」と考えることで、個人主義に陥ることなく、お互いに協力することができるのです。もちろん今の南山大学は、必修の宗教科目はあるものの、卒業生の多くが語るように4年間の学生生活の中で、宗教性についてはあまり感じられないと思います。ただ、これは教育課程論の鉄則ですが、このような大事な考え方はすべての科目の中で、全教員が全学生に伝えてこそ意味があると考えています。「道徳の時間」がそ
よく日本の学生は、他の国の学生に比べて会 話や議論が下手だと言われます。たしかにその通 りかもしれません。夏に行われるカトリック系大学 のアジア地区の集まりには必ず日本人学生を伴 いますが、他の国の学生に混ざって英語のディス カッションに参加した彼らは、たいていフィリピンや オーストラリアの学生に圧倒されています。私も、
国民性や文化・習慣等のせいで日本人が議論を 好まないことを、長年日本にいますからよく知って います。だからこそ、議論に強い日本人を育てるの は簡単ではないと思うのです。人間の場合、全体 を変えずに、一つのパーツだけを取り出して変える のは簡単ではないからです。
とはいえ、一旦は悔しい思いをした日本人学生 が、翌年には見違えるように堂々と話すのも私 はよく見かけてきました。これは、すべてを変える ことはできなくても、慣れと必要に迫られれば、話 すこと同様、議論を戦わすことぐらい何とかなると いう証ではないでしょうか。教育学でTeachable Chanceと言うのによく似ていて、積極的に話す には、何よりも≪話したい!≫という中身や、熱い 思いを自らの中に十分貯めこむことが重要なので す。
また同じ日本人にも、様々なタイプがあることを 忘れてはなりません。もともと、話がとても上手な日 本人もいます。「日本人はみな」という捉え方自体、
長年日本人学生を見てきた、日本人学生しか見て きていない私には、とても奇異に映るのです。
外国語を学ぶもう一つの目的は、自分を変えるためのきっかけを得ることです。外国語を学ぶ過程では異なる文化にも出会いますから、自分や自分の育った国、歴史・文化を相対的に見ることができるようになります。言葉とは人の作ったただの音であり、それに慣れ親しんだ者にとっては空気のようなものであっても、一旦離れて外から見ると檻のようなものでもあることに気づけばしめたものです。事実、私は独、英、日に加えて若い頃から好きだったラテン語、ギリシャ語を人並みに身につけているつもりですが、それぞれの言語を使って「同じこと」を言い表わすのはとても難しいことを常々感じています。ところで最近は、日本の大学生、高校生はもっと聞く力や話す力を高めよという声が強くなっていますが、私はあまり心配していません。むしろ、機会も 少ない状況では、読む力、書く力をつけるだけでも十分だと考えています。私も来日当初、難解な漢字を覚えることからスタートし、日本語を1年半ほど猛勉強し南山大学へ入学しましたが、最初のうちは、食堂でも一言も通じず、しばらくは自信を失っていました。しかし3カ月ほど経った頃、突然会話ができるようになったのです。読み書きさえしっかりできるようにしておけば、会話は慣れでできるようになる。それよりも大事なのは、外国語で何かの本を読もうという場合同様、どうしても話したいことがあるということなのです。もう一つ高校生にお願いしたいのは、みなさんには世界的にみても完成度の高い教育課程が用意されているのですから、それをしっかりとこなしてきてほしいということです。受験に偏った勉強は、これまでもそうでした
日本人のコミュニケーション力
が、これからのグローバル時代、国際社会ではますますマイナスになります。今後、南山大学だけでなく、どの大学も学部では教養教育を重視するようになると予想されますから、高校時代にはそのために必要な基礎力を身につけておくことが、これまで以上に重要になるのです。今、世界ではムークス※など、講義映像の無料配信によって、教室、ひいてはこれまでの教育の枠組みそのものを不要とするような改革が始まっています。しかし私は、これからも今の教育形態がなくなってしまうことはないと思います。教育というのは有史以来これまで、その形は少しも変わっていない、人間というものは人から学ぶものだからです。
※ MOOC
Online Cours s :Massive Open
位が取得できるものもある。 したり、宿題や最終試験を課し単 トがある。オンラインで情報交換 な時に、無料で視聴できるメリッ 無料。大学に合格しなくても、好き の運営会社があるが、ほとんどは ライン授業」のこと。現在いくつか es :「大規模公開オン
大学ジャーナル
3 3 vol.111
2014年(平成26年)9月10日目 指 せ ! グ ロ ー バ ル 人 材
前 号 に 引 き 続 き、 グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 に つ い て の 特 集 を お 届 け し ま す。 英 語 圏 は も ち ろ ん 、 英 語 圏 以 外を目指 し た取り組 み やグ ロ ー バ ル な視点を持 っ て 国内 で 活躍す る ため の 取り組 み も ご 紹介 し ます。
進路の ヒント
そ の
2
P r o f i l e
1962年生まれ。86年中央大学経済学部経済学科卒 業。90年横浜国立大学大学院経済学研究科修士課 程修了。92年大阪大学大学院経済学研究科博士後 期課程単位取得退学。96年エセックス大学(英国)経 済学修士号取得。2000年エセックス大学(英国)経済 学博士号取得。滋賀大学経済学部講師、助教授、国際 大学大学院国際関係学研究科准教授などを経て2009 年より教授。国際開発学プログラム・ディレクター、学校 法人国際大学評議員、研究科長を経て、2013年より 現職。専門は公共経済学、応用理論経済学、医療経済 学など。東京都立足立高等学校出身。
国際大学 副学長 大学院国際関係学 研究科 教授
加藤 竜太
先生今日のようにグローバル化が叫ばれていなかった1982年、経 済4団体を含めて我が国の経済界などがグローバル・リーダー の育成を目的に開設した国際大学(IUJ:新潟県南魚沼市)。国 際関係学研究科と国際経営学研究科の修士課程だけの全寮制 の大学院大学で、国際的には高い評価を受けながらも、これまで 一般にはあまり知られてきませんでした。しかしグローバル人材 育成の機運が高まる中、昨年度、明治大学と系列法人化協定を 結び、お互いの強みを生かして世界トップクラスのグローバルユ ニバーシティーを目指すとしたことからにわかに注目を集めるよ うになりました。加藤竜太副学長に、国際大学の取組について、
またご自身の体験も振り返りながらグローバル人材育成につい てお話を伺うとともに、グローバル人材を目指す高校生へのメッ セージもお聞きしました。
と。逆に死に物狂いで努力すればたいていは何とかなるということです。
「卒業できない」 と、 泣き崩れる 日本人学生
国際大学は教授会からバスの時刻表まで、キャンパスはすべて英語環境という、おそらく日本で唯一の大学です。授業はすべて英語で行われるだけでなく、ほとんどが欧米並みのコースワークで、学生にはとてもハードです。教員もそのほと で、とても教え甲斐があります。日本人は
1
割。
MB
Aプログラム
が中心で企業派遣の多い国際経営学研究科とは違い、一旦社会へ出た後、学び直そうと私費で入ってくる人もいます。しかし多くの日本人にとって英語の壁は大きく、最初のうちは午前3、4時まで勉強しないと追いつけません。しかも成績はほとんどが最下位。中には「卒業できない」と泣き崩れる者もいます。日本の一流大学を出ても、何となく国際公務員に憧れて、とい んどすべてが海外で
Ph.D.※1を取った者だけで、契約制からスタートし、研究業績は査読付※2の海外論文でしか認められませんから、教育、研究の両面で常に厳しい評価に晒されています。
国際関係学研究科の場合、学生の9割は主にアジアからの留学生で、多くはIMF(国際通貨基金:International Monetary Fund※3)や世界銀行、アジア開発銀行などから奨学金をもらってきている若手官僚やエリートの卵。授業に臨む態度も貪欲
たかが英語、 されど英語
小学校英語の教科化など、学校英語教育の改革に当たって何度も耳にするのが、中学、高校の6年間、大学を入れればおよそ8から 10年も英語を学びなが
ら、日本人がこれほど英語を話せないのは、これまでの教育に欠陥があるからだというコメントです。私も正直、こんな民族は世界中探してもほとんどいないのではないかと思っています。
私の家内は主に音声が専門の言語学者で、英国の大学でも教えていましたが、彼女がよく言うのは、《言葉はリズム》だということです。外国語習得には、イントネーションも含めて、それを音楽として、リズムとして耳に入れ、真似ることが大事だと。日本の英語教育は、文法に拘りすぎ、コミュニケーションの手段であることをお疎かにしすぎています。東南アジアの人などはブロークンな英語で平気でしゃべる。確かに私自身も経験者ですが、 った程度の軽い気持ちでは、なかなか卒業できません。
20
12年からは文
部科学省の財政的支援の中、本学が明治大学、立教大学と連携して、学部、大学院を通して、国際公務員など国際的な機関で活躍できる人材を育成するための、すべて英語による「《国際協力人材》育成プログラム」がスタートしました。国際公務員は修士卒業以上というのが世界の趨勢ですが、欧米の大学院へ進まなくても国内で学べて、しかもアジアを中心に将来につながる国際ネットワークも作れるというのが大きな特徴です。来年度には、国際関係学研究科にPh.D コースの開設も予定していますから、意欲のある学生は文字通り、ホ ップ、ステップ、ジャンプで最高レベルの《国際協力人材》を目指せます。また昨年の夏からはその一環で、本学としては初めて、明治大学・立教大学の学部生対象に、海外フィールドトリップ付きのゼミ、『アクティブ・リサーチ』を開講しました。
昨年度、今年度とも両大学で開いた説明会にはそれぞれ200~1000人近くが集まるなど、学生の関心の高さがうかがえます。反面、英語の壁をどう乗り越えるかという課題も浮き彫りになってきているようです。
※1 おもに英語圏で授与されている博士(doctorate) 水準の学位(degree) 。※2 研究者仲間や同分野の専門家による評価や検証のこと。学術雑誌に投稿した論文が掲載される前に行われる。※3 通貨と為替相場の安定化を目的とした国際連合の専門機関。本部はアメリカ合衆国のワシント 文法重視の受験英語も役に立たないことはありません。ただその効用は、かけた時間に比べてそれほど大きくない。「たかが英語、されど英語」ではありませんが、国際的な舞台で活躍するには、やはり英語でコミュニケーションが取れることが第一。日本の英語教育は早急に見直す必要があると思います。 私自身は英語で二度苦い経験をしました。一度目は大学院へ進んだ初日。いきなりすべて英語による先生方の研究会へ放りこまれ面喰いました。当時、私の通っていた大学には、海外から戻ったばかりの新進気鋭の先生方が多く、このような研究会が日常的に行われていました。もう一度は留学のために降り立ったヒースロー空港(イギリス)でのこと。かなり準備もし、自信を持って乗り込んだにもかかわらず、相手の話がさっぱり聞き取れず頭の中は真っ白になりました。返す返す思うのは、語学というのは徳俵に足がかからないと上達しないというこ
英語力 ×
論理的思考力
を磨こう
ン
D.C.。
20 11年
9月現在の加盟国は
18 8ヶ国。
周到に準備を整え、 海外へ飛び出そう
英語コミュニケーション力に加えてもう一つ、日本の若者に欠けているものがあります。それは論理的な思考力と、それに基づいて議論する技術、あるいはそのための訓練です。
国内の前任校時代は、毎年夏に家内の教える英国人学生と私のゼミ生とをわが家へ招き、何日か一緒に過ごさせましたが、日本人学生の多くが帰り際に漏らすのは、英語力よりも議論する力が足りないことを痛感したという声でした。与えられたものをこなすだけで、自分の意見を持つことを育てていない受験勉強の影響も大きいのかもしれません。私は、この力を育てない限り、日本の若者が国際社会の中で大きく羽ばたいていくのは難しいのではないかと心配です。家族のいるイギリスで、小・中学校、高校のエリート教育を見るにつけ、点取り主義からは決してエリートは生まれないと痛感させられます。国も海外留学の支援に力を入れるだけでなく、高校や大学で、もっとこうした力の育成に力を入れ るべきだと思います。 アングロ・サクソン※4がわれわれともっとも違うのは論理的、戦略的である点。大学のカリキュラムやシラバス一つとっても、明確に目的と手段とが決められています。われわれも少しはこれを見習い、若者を海外へ送り出すのに単にムードを煽るだけでなく、もっと戦略的で緻密な計画を練るべきではないでしょうか。 国内の大学で教えている私が言うと自己矛盾になるかもしれませんが、最近生まれつつある、国内の高校から直接海外の大学を目指すという流れについてはとても頼もしく思っています。確かにそうなると、そのまま海外に留まる若者も出てくるかもしれません。しかし一人ぐらいは帰って来るでしょうし、客観的に見ればその方が日本の国益にはプラスになる。あるいはそこまででなくても、
16、
17
歳で、一度アメリカやイギリスの同世代のエリートに会いに行くだけでもいいでしょう。彼らとは、いずれ国際舞台で相まみえなければならないかもしれないのですから、少しでも早い内から知っておく方がいい。まずは行ってみること、行ってみれば後は何とかなるものです。しかもこの 「何とかなる」という経験自体が、みなさんにとって貴重な財産になるのです。 国際大学には語学の教員も多く、寮も完備されていますから、通年を通して国内の企業や高校の英語の先生のために、オーダーメードによる英語宿泊研修を行っています。また、夏期休暇中には、
EI
P(英語強化)
プログラム(Intensive English Program)を実施しています。このプログラムは秋から入学予定の大学院生の他、一般の受講者もいます。すでに
GS
H※
5のアソシエイトに採択された地元の新潟国際情報高校との連携でも実績があります。費用面などから、海外へ出かけるのは少しハードルが高いと考えられている高校や高校生には、ぜひ活用していただきたいと思っています。
※4 Anglo-Saxons 5世紀頃、現在のドイツ北岸、南部よりグレートブリテン島に侵入してきたアングル人、ジュート人、サクソン人のゲルマン系の3つの部族の総称である。この中でアングル人が、イングランド人としてイングランドの基礎を築いた。※5 スーパーグローバルハイスクール:Super Global High School
パーラメンタリー・ディベートのおもしろさ
文教大学 国際学部教授
塩澤 泰子
先生目 指 せ ! グ ロ ー バ ル 人 材
進路のヒント
その
2
「全球化」時代、日本の若者に求められるもの
P r o f i l e
1981年東京大学法学部卒 業。1983年サセックス大学 開発問題研究所修士課程 修了(MPhil(Development Studies))。1988年サセック ス大学開発問題研究所博士 課程修了(DPhil)。1988年 笹川平和財団研究員、1989 年在香港日本国総領事館専 門調査員、1991年桜美林大 学国際学部専任講師、1993 年桜美林大学国際学部助教 授、1995年立教大学法学部 助教授、2000年立教大学法 学部教授、2005年から現職。
東京都立西高等学校出身。
他者との交流から 始めよう
今はいわゆる「グローバル化」、中国語で言うところの「全球化」の時代です。異なる国、社会や文化を背景に育った人々との交流が当たり前になる中、スキルとしての英語や中国語などの外国語を身に付けることは元より、書物や映像などで海外についての知識や、理解を深める必要があります。
その上で、私は今のみなさんには特に、全く知らない人と上手に付き合える「社交力」を身に付けてほしいと思っています。心を開いて相手の意見を聞き、自らも意見を言う。実際に言葉を交わすことで生きた知識を得られるばかりか、心を通わすことができます。偏見や表層的な情報に惑わされず、真の相手の姿を知るためには、直接、親しく話すことが欠かせないのです。
この点、中国の若者は、強い向上心を持つばかりか、たいへん社交的です。一方で、若者に限らず多くの日本人が、知らない人にはあまり話しかけなくなっていることが気がかりです。おそらく都市化の影響によるものだと思いますが、特にここ東 京では、人と人の関係性がとても希薄になっている。スーパーやコンビニなどで一言も話さず買い物することは、世界中を見渡しても異常です。
社交力を高めるには、感性が豊かで偏見のない中学生や高校生に様々な交流プログラムを用意することが必要だと思います。外国人と交流するのが現実には難しければ、近所や隣町の学校と交流するのでもいいでしょう。また同じ日本人同士なら、異なる年代の人との交流が特に大事です。ほとんど授業のためのスペースしかない現在の校舎についても、交流施設を設けるなど、ハード面での見直しも必要かもしれません。
胸襟を開いて
幸い昨今は、多くの大学で海外との交流プログラムが用意されています。東京大学にも、東アジアの大学と提携したものに限っても、大学院対象の正規の授業である
CAMPUS Asiaプログラム※
ものがあります。 2をはじめいくつかの 私が顧問をしている『京論壇』は学生が自主的に始めた交流団体です。
20
06年
に北京大学と東京大学の学生に よって結成され、運営に当たっては企業などからも助成を得ています。毎年それぞれ
英語で行います。 同研究と報告会をすべて の様々な問題について共 間ずつ滞在し、日中両国 生が、お互いの国に1週 20名程度の学
OBや
OGも
交流会など様々な活動を行っています。これはとてもユニークで優れたプログラムだと思いますが、欲を言えばこのような交流はもっと若い時から始めた方がよいでしょう。
これからの社会を担うみなさんは、相手が中国や韓国の若者であっても、肩肘張って構える必要はないと思います。大事なのはナショナリティではなく、パーソナリティであり、人間としての魅力です。趣味を持つことも、日頃から考える訓練をして自分の意見を持っておくこともいいでしょう。若い時のそのような経験や努力は、将来、みなさんが世界で活躍するのに必ず役立つに違いありません。
※
※ 家間の開発援助政策を研究する。 発展途上国の貧困解消の方法や国 的な経済格差を是正するために、 1国際関係学の一文節。国際
る。 スアジアコース」が設けられてい の公共政策大学院には「キャンパ ル・ディグリーが取得できる。東大 学または二つ以上の大学院でダブ 学校国際大学院が連携し、交換留 北京大学国際関係学院、ソウル大 2東京大学公共政策大学院、 います。 奇心の原動力ともなって 今日に至るまでの知的好 のに役立っただけでなく、 国について理解を深める
私たちはなぜ 勉強するのか
高校生から大学生にかけては、「なぜ勉強するのか」という問いを前に悩む人も多いと思います。私もその一人でした。悩んだ末に私が辿りついた結論は、「一度しかない人生だから、それをより良く生きるために」というものです。
では自分にとってより良い生き方とは何か。それを考えるには人間を知り、社会を知り、さらには自然環境について知らなくてはいけません。現在だけでなく、その歴史的な成り立ちも含めて理解する。大学ではそのために、文学や哲学などの人文科学だけでなく、政治や経 いて学ぶことになります。ちょうど1980年代、まさに、中国の発展がこれから始まろうという時期でもありました。
植民地統治の歴史のあるイギリスの大学では、開発学を学際的に捉えます。政治学、経済学から社会学や文化人類学等に至るまでの多様な分野の様々な事実と、幾通りもの考え方を学び、最終的には自分なりに一つの考え方を組み立てる。この経験は中国研究だけでなく、知的営みの面白さに目覚めさせてくれたという意味でも、私にとってかけがえのないものとなりました。
この間、私は徐々に「政治学」に焦点を当て、中国が経済成長に限らず広い意味で「発展」していくにはどのような制度が望ましいかを考えるようになりました。日本人のための国連職員の採用試験にも通り、多国籍企業センターへの配属も決まりましたが、広い視野から中国について研究したいと、アカデミズムの道を選ぶことにしました。
帰国後、大学での講義を受け持つまでの間は、在香港日本国総領事館専門調査員や財団のプロジェクト・オフィサーの仕事にも携わりました。そこでも多数の中国の方と交流する機会がありましたが、それは中国という 済の社会科学、また科学的な根拠に基づいて地球の仕組みや現象を説明する自然科学についても学ぶようになっています。
もちろん高校までの勉強もそのためにありますが、知識、情報を集めるのみならず、それらを基に自分の考えを組み立てる能力を養うことが重要です。考えるという作業には長い時間がかかります。作文の執筆などは、早く始めた方がいい文章が書けます。真の学びとは、テスト対策や受験勉強と違って暗記ではなく、自分の言葉で考えることで身につくのです。
東京大学法学部・大学院 法学政治学研究科教授
高原 明生
先生社交力 を身につけよう
現代中国政治研究のスペシャリストとして知られ る東京大学の高原明生先生。日本と中国との政 治的軋轢が高まる中、マスコミに登場される機 会も確実に増えているようです。そんな高原先 生に、現在のご研究に至る経緯と、グローバル人 材に求められる資質についてうかがいました。
学際的な観点から、 中国という国を 見つめる
大学入学後、これといった目標を持てなかった私は、3年生の前期に約半年かけて中国やインドなどユーラシア大陸をバックパッカーとして旅しました。昨今話題のギャップタームを先取りしたというところでしょうか。その際に発展途上国の実態を目の当たりにし、その経済発展や人々の生活の向上に寄与する仕事をしたいと強く思うようになりました。
中でも関心を持ったのが当時は本当に貧しかった中国。元々、小学生の時から『三国志』が好きで、高校でも漢文が得意でしたし、当時の指導者毛沢東は、日本の若者にとっても大きな存在でした。
旅から戻った私は将来についても真剣に考えるようになり、中国語の勉強にも本腰を入れ始めました。
当初目指したのが国際開発に関わる国際公務員。同じなるなら、少なくとも修士課程、できればそれも外国の大学で修める方がいいというゼミの先生のアドバイスもあり、学部修了後、イギリスのサセックス大学へ留学しました。結局そこで、修士・博士課程を含め6年半、主に中国を対象に開発学※
1につ
ディベートとの出会い
私は英語教員になって数年後の90年頃に米 国の大学院で英語教授学を学ぶ機会を得た。
米国の大学の授業では、テキストを読んできたこ とを前提に学生が質問やコメントを言って討論し たり、定説や教授の考えにさえ異論を唱えること が期待され、毎日の授業がまさにディベート。先生 の説明を聞いてノートを取る、という伝統的な日本 の授業に慣れ親しんできた身にはショックであっ たが、今後世界のあらゆる分野で対等にやってい くにはディベートは必須だと痛感し、以来授業に ディベートを取り入れるようになった。そして90年 代後半にパーラメンタリーディベートと出会い、そ のおもしろさに学生ともども「はまり」、休み時間 や放課後、さらには長期の休みにも一緒に練習を し、指導した学生はESUJで上位の成績を収める
に至った。
まるで芝居のような当意即妙のやりとり ディベートには様々な形式があるが、事前に論 題やサイドが知らされて十分なリサーチをして臨む
アカデミック・ディベートと、直前にそれらがアナウン スされる即興性の高いパーラメンタリー・ディベート
(以後「パーラ」と略)の2種類がある。パーラはほ んの20分程度の準備時間の中で同じチームの ディベーターたち(2 ~4人)が手持ちの資料と自 分たちの知識をもとに論点を決め、相手の出方を 予測してそれに対する反論も考える。ディベートが 始まると、途中でPoint of Information(通称PI)と いう、相手チームからの即興の質問もしくは「ツッコ ミ」も入り、これに即答したり、場合によっては適当に
「いなし」たりしなければならない。広範な知識、英 語力に加えて知的な瞬発力が必要だ。PIでは、相 手から痛いところを突かれても、知らん振りして“No, thank you.”などととぼけたり、待ってましたとばかり しっかり答えて、逆にポイントを稼いだりする。当意 即妙のやりとりやユーモア溢れるやりとりがあって、
さながら芝居のようなおもしろさがある。
用語の定義と論題の解釈から始めるパーラ パーラの立論は、政府側の立論スピーカーが motion(論題:ディベートのテーマのようなもの)を 解釈・定義するところから始まる。たとえば、過去
のESUJの大学対抗ディベート大会では、This House would eradicate crows. (カラスを撲 滅すべきである)というmotion が出されたことが あった。政府側としては、どの範囲のカラスをどの ように撲滅するのか、具体的な政策を打ち出さな ければならない。時には This House believes that the female species is deadlier than the male.(メスの方がオスよりdeadlyである)といった 論題もあり、deadlyをどう解釈し、定義するかに よってその後のディベートの流れが大いに変わっ てくるようなものもある。このように、パーラは言葉 を正確に使う訓練ともなる。
ロゴス・パトス・エトスでジャッジと聴衆を説得 ディベートはジャッジや聴衆を説得するゲームで ある。つまり、自分のチームの方が述べたことの内 容や論理性などにおいて相手チームより優れてい ることをジャッジや聴衆に印象付ける。したがって、
ディベーターは聴衆の方を見て、真摯に語りかけ なければならない。アリストテレスの弁論術にある ように、ロゴス(論理性)、パトス(感情)、エトス(信 頼性)に訴えなければならない。実際にパーラの
試合でも、自分たちの主張を立て板に水の如く並 べるより、とつとつとでも心に響く言葉で訴えかけ てくるようなディベーターの方が勝つことがある。エ トスはディベートの話題への造詣の深さ、堂々とし
た、聴衆を意識した話し方などと関係があろう。
「本音」ではなく「立場」で考える訓練 パーラに限ったことではないが、ディベートでは 自分の本音を棚に上げ、与えられた立場で限られ た時間内に聴衆を説得できるような論点を考え、
わかりやすく伝える力が養われる。また、相手の話 をよく聞いて瞬時に判断し、必要に応じて軌道修 正することも必要となる。このような力は、実社会 でも大いに役に立つだろう。売り上げを伸ばすに は顧客の立場に立って考え、わかりやすく説明す る必要があるし、外交では相手の立場に立って考 えてみることで交渉の糸口が見えてくるだろう。日 常生活においても、ディベートに慣れ親しんでいる と、異なる視点から物事を見る訓練となり、悲観的 な状況に置かれても逆転の光を見出すこともでき るかもしれない。
前号、日本英語交流連盟(ESUJ)会長の沼田貞昭元駐カナダ大使の記事で紹介のあったパーラメンタ リーディべ―ト。高校や大学の現場での実践経験がある文教大学国際学部教授の塩澤泰子先生に、そ の面白さや教育的効果について寄稿していただきました。